クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第012話

Last-modified: 2016-02-14 (日) 01:29:36

第十二話 『ずっと探してるんだけど』
 
 
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風が、鳴っていた
人工の風なのに、そんなことも忘れさせるほど、胸をかきむしるような、
悲しい風だった

プラントの共同墓地である。戦没者たちはそこには埋葬されている
しかし完全な遺体がそこにあるケースは少なく、埋められているのは
遺品だったり、遺体の一部だったり、遺書だったりするのがほとんどだ

アスランは墓に花を添えなかった。
墓石には、『ニコル・アマルフィ』と書かれている

「今でも、俺は悪い冗談としか思えないぜ」
スーツ姿のディアッカがつぶやく

「俺もそうだ。あれは本当にニコルだったのか?
  あんな包帯姿じゃわからんぞ」
同じようにスーツ姿のイザークが言う

ディアッカとイザークは、地球からプラントにやってきたアスランの護衛兼監視のため、
付き添っているのだ。ただ、二人とアスランが戦友であることからこの人選は、
デュランダルのはからいでもある

「俺はあのブリッツに乗っていたのは、ニコルだと思う」

アスランがじっとニコルの墓石を見つめたまま、つぶやいた

「根拠はあるのか、貴様?」
イザークが言う。かすかな不機嫌さがあった
「ない。でも、俺をあれだけ憎む資格があるのは、ニコルだけだと思う」
「まだ気にしているのか。キラ・ヤマトの攻撃から、ニコルが身代わりになったことを」
「忘れられるはずがないさ」

するとディアッカがアスランの肩を軽く叩いた
「軍人だろ、おまえも。全部忘れろと言わないが、振り返ってばかりじゃ辛いぜ?」
「いや、俺はただの裏切り者だ。最後まで軍人にはなれなかったよ、ディアッカ」

アスランは目を閉じた。そして、大きく息を吸い込み、吐き出し、そしてつぶやく

「死者がよみがえった。すべての責任は俺にある。だから、俺が、ニコルを殺す。」

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プラントと地球が開戦しても、ミネルバは目立った動きをすることができなかった
主戦場が宇宙であったことと、相次ぐ戦闘、大気圏突入による艦の損傷で、
傷を癒すことが先決だったのだ

一応は、プラントとの友好を保っているオーブで、代表であるカガリの好意もあり、
ドックでミネルバは一週間ほどその体を休めていた

マハムール基地から艦長のタリアへ、通信が来たのはそんな時だ

「やれやれ、これはさすがに驚いたわね 
  あのローエングリンゲートを二機で落とした上に、ガイアを捕獲したなんて
  ここ最近の働きを考えたら、『FAITH』任命も無理ない話ね」

もたらされた書類を見つめながら、タリアはつぶやく

MS三機を乗せた快速船がオーブに入港したという報せが来たのは、さらに三日後だった

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「おー、見えてきたぜオーブが! 島国なのかぁ・・・・。しっかしいいところだよなぁ、地球って!」

ガロードが船の甲板上ではしゃいでいる。シンはベンチに座ったまま、軽いため息をついた

「はぁ・・・・」
「なんだよ、シン。えらく落ち込んでんじゃねぇか」
「オーブは俺の生まれ故郷なんだよ」
「じゃあ、里帰りってわけか? よかったじゃねぇか」
「・・・・・・・・・。」

シンは軽く首を振って、ベンチから立ち上がった。
高速船の足は速く、気を抜くと飛ばされそうだ。
みるみるうちにオーブが近づいてくる

『まもなくオーブへ入港します。下船準備を行ってください。繰り返します、まもなくオーブへ・・・・」

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「お姉ちゃん。シンたちがオーブに着いたらしいよ」

妹のメイリンが、ミネルバの艦内にあるルナマリアの部屋を開けると同時に告げる

「本当? 船で来るって聞いたけど、ずいぶん早いわね」
ルナマリアは寝そべっていたベットから身を起こす
「うん、もうみんな港に向かってるって。オーブの人たちも見物に来てるらしいよ」
「やれやれ、もうすっかり有名人ねー。『ユニウスの悪魔』って言ったら、オーブの子供でも知ってるし」

そんなことを言いつつ姉妹二人は、ミネルバから外に出た

ミネルバはドックの中でその傷を癒している。かなり修理は進んでいて、
すでにいつでも出航できる状態だった

わぁぁぁぁぁぁ・・・・!!

「うわ、すごっ!?」

ドックの外から港に出たルナマリアは、思わず声をあげた。一般人は、
オーブ軍の施設なので港への立ち入りが禁止されているが、
周辺の柵には人々が群がっているのだ
人々の手には、『出て行け悪魔』とか、『兵器を持ち込むな』とか、
そういうプラカードが握られている

「お姉ちゃん。ずいぶんガロード、嫌われてるみたいだね」
民衆の迫力に押されたのか、メイリンがルナマリアに寄り添う
「そりゃそうでしょ。正直、私だって・・・・」

目を閉じれば今でも思い出せる。ユニウスセブンを貫いていくあの巨光
あれほど巨大なものを、たった一機で潰せるMS、ガンダムダブルエックス
あの兵器は味方のものであるとわかっていてもなお、恐ろしいものだった

あれを敵とした時、訪れる恐怖はどれほどのものだろうか
ルナマリアには想像もつかない

ガシャン、ガシャン、ガシャン

MS搬送用の快速船が、巨大な格納庫を開く。そこからDX、インパルス、そしてガイアが出てきた

「あ、ガイアだ。取り戻せたんだね」
メイリンが無邪気な声をあげる
「ま、なんにせよみんな無事でよかったわ。シンの出迎えでもしてあげますか」
ルナマリアはそう言うと、三機のMSが向かう場所へ足を向けた
当然、そこはミネルバのMSデッキだ

DX、インパルス、ガイアの順にミネルバのカタパルトからMSデッキへ入っていく
ルナマリアもそれを追いかけてミネルバの中へ入った
妹のメイリンもついてくる。なんだかんだと言っても、
ルナマリアとシンは同期でつきあいが長く、無事でほっとしているのは確かだった

インパルスがハンガーに固定される
ぷしゅうと空気が抜ける音がして、インパルスのコクピットが開いた

「おーい、シン!!」
インパルスの足元でルナマリアが手を振った
しかし・・・・・

「だから、ステラ、べたべたするなって! お、落ちる!」
「うぇい、うぇーい、シン!」
「ほら、捕まって。降りるから・・・わっ、抱きつくなって!」

「は・・・・?」
ルナマリアの顔は、かすかに引きつっていた

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「ふーん。ローエングリンゲート落として、さらに女の子も落としたわけね
  ふーん。いいご身分ですこと、シンさんは」
「なんでルナが怒ってるんだよ」
「別に怒ってないわよ。ただ、軍人としてそういう行動はどうかなーって思っただけ
  アスランさんなら絶対そんなことしないと思うけど」
「なんでその人の名前が出てくるんだよ。関係ないだろ」
「うぇい♪」

休憩室に、ミネルバの主だったクルーは集まっていた。
シンやガロードが無事に帰ってきたため、
ジュース片手にちょっとした談話会のような感じになっている

なによりクルーたちを驚かせたのは、ガロードが『FAITH』に任命されたことだった
戦功を考えれば不自然なことではないが、それでもシンがかつて言ったとおり、
『FAITH』とはザフト全軍の憧れであり、かなりの権限を有している
注目されて当然だった

そしてシンとガロードの土産話も終盤に差し掛かるころ、
ルナマリアがシンの前に座って、ジュース片手に突っかかり始めたのだった
当然、シンの腕にはステラがべったりとしがみついている

「でもかわいいよなぁ、あのステラって子・・・・。胸もすげぇし・・・ちぇ、シンがうらやましいぜ」
整備士のヨウランがつぶやいている

ガロードはかすかに苦笑した。シンとルナマリアのやり取りは見ていて面白かったし、
そんなもの構わず無邪気にシンを慕うステラも、微笑ましかった

「なぁ、ガロード。おまえは彼女とかいねーの?」
不意にヨウランが話しかけてくる
「へ? 俺?」
「そ。いや、いるわけねーか。ぜんぜんそんな感じしねーもんな」
「な、バカにするなよ・・・・!」
当然、ガロードの頭に浮かんだのはティファだった。
しかし・・・・・

(いや、でも・・・俺とティファって別に恋人同士ってわけじゃないよな・・・・・)

嫌われてはいない。むしろ好かれている方だとは思うが、恋人と胸を張って言える関係でもなかった

「ま、ガロードに彼女いようがいなかろうが関係ないか。俺にはラクス様がいるもんねー」
ヨウランが胸から写真を取り出す。
そこでは、ピンク色の髪をした、愛らしい女性がマイクを握っていた

「誰だよ、それ?」
ガロードが写真をのぞきこむ
「おい、冗談でもそれはきついぞ。俺たちザフトの心の天使、ラクス様じゃないか
  最近また歌姫として復帰したって聞いたんだ。地球にも慰問に来るらしいぜ
  あー、絶対コンサート見に行きたいよなぁ・・・・」
「ふーん・・・天使、ねぇ・・・・」
特に関心はわかなかった。ティファの方がずっとかわいくて綺麗だと、心の中でつぶやいた

「恋人とか、そういう話で思い出したが」

唐突に後ろから声がかかる

「うわ、レイ!? おまえいたのかよ!」
ガロードは驚き、あわてて振り返る。そこには金髪の、秀麗な美男子が立っていた
「『FAITH』がそんなことで驚くんじゃない。みんなに示しがつかないぞ」
「俺はそんなたいそうなもんじゃねぇっての。それよりなんだよ、レイ?」
「ああ。オーブのカガリ・ユラ・アスハ代表が結婚するらしいな」

レイのその声に、休憩室がざわついた

「へー、相手は誰だよ?」
ガロードが聞く。後ろの方でシンが険悪な顔をしているが、それには気づかない
「ユウナ・ロマ・セイラン。事実上、オーブの政治を運営していると言われている、ウナト・エマ・セイランの息子だ」
「あれ? あのアスランとかいう人じゃねぇのか?」

それほど長く観察していたわけではないが、ガロードの目にははっきりと、
アスランとカガリは恋人同士に見えた。だからそんなことを聞いた

「政略結婚だろう。正直なところ、カガリ代表は理想主義者だからな
  現実的にオーブの生き残りを考えるセイラン家は、カガリ代表の理想主義を、
  結婚で抑えるつもりなのだろうな」
「そっか・・・・。嫌な話だな」
「だが、他人事でもない。セイラン家は、プラントとの戦争に積極的な大西洋連邦と同盟の締結をもくろんでいる
  しかしカガリ・ユラ・アスハ代表は、プラントとは友好を保ったまま、
  オーブはどことも同盟せず、独立した国家の形態を取り続けることを望んでいる」
「じゃ、そのユウナってのとカガリさんが結婚すると、どうなるんだよ、レイ?」
「アスハ代表の夫として、ユウナは名実ともにこの国の主権を握るだろう
  そして大西洋連邦と同盟を締結し、プラントの敵に回る」
「マジかよ・・・・・じゃ、オーブからミネルバ追い出されちまうんじゃねぇか?

ガロードは腕を組んだ。政治はややこしい上に、嫌な話ばかりだと思った

「だが、アスハ代表も黙ってユウナ・ロマ・セイランの言いなりになるつもりもないらしい」
「へ? どういうこった、レイ?」
「俺たちに結婚式の警備を依頼してきた。特にアスハ代表は、『ユニウスの悪魔』の参加をご希望だ」
「おいおい・・・・なんでDXが結婚式に必要なんだ?」
「なぜ、デュランダル議長がオーブにおまえを回したんだと思う、ガロード?」
「へ・・・?」
「一種の恫喝だ。国土を一瞬で消し炭にするようなザフトの兵器が、オーブの港にあってみろ
  セイラン家もうかつにプラントと敵対できないぞ。あのユニウスセブンを焼いた光が、
  即座に自分たちへ向けられる可能性があるからな
  そのためのアピールだ」

「ふざけるな!」

レイが言い終えた瞬間、シンが椅子を蹴って立ち上がった。びくっと、ステラがおびえた顔になる

「シン。落ち着け」
「なんで俺たちがそんなことをやらなきゃいけないんだ! 俺たちとオーブの政治は関係ないだろ!
  だいたい・・・・なんだよ、それ・・・・・。言うこと聞かなきゃDXでオーブの民衆を殺すぞって、
  セイラン家に脅しをかけてるようなもんじゃないか、あのカガリ・ユラ・アスハは!」
「シン、命令だ。インパルスも当日、結婚式の警備に出てもらうぞ」
「お断りだね、俺は! レイでもルナでもインパルスは動かせるだろ!」

不意にルナマリアが、あーあと声をあげて、立ち上がったシンを見上げる
「やれやれ、まったく子供なんだから。そんなこと言ったって、私たちは軍人でしょ
  命令には従わなきゃ。だいたい、結婚式の警備ぐらいでなにただこねてるんだか」
「クソッ・・・・だから来たくなかったんだよ、オーブなんて!」

シンが乱暴に吐き捨てると、休憩室から出て行く
あわててステラがその後を追った

残された休憩室で、なんとなく気まずい空気がただよう

「まったく、シンも仕方ないな」
レイがやれやれといった感じでつぶやいた
「そういやさ、レイ」
ふと、ガロードが思い出したことがある
「なんだ?」
「オルバはどうしたんだ?」
「上陸許可をもらって、外のホテルに泊まっている。あれはあれで、徹底的な一匹狼だな」
「そうか・・・・・」

正直、顔をあわせたくない相手だったが、それなりに気になる存在でもあった

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前大戦の英雄、キラ・ヤマトは、その身をオーブに隠していた

しかし恋人のラクス・クラインやシャギア・フロストと住んでいた孤児院は、
ユニウスセブンの破片が落下したことにより、倒壊してしまう

そのため、前大戦の戦友であり、同じくオーブに亡命した
マリュー・ラミアス、アンドリュー・バルトフェルドらが住む館へとその居を移したのだった

数日前、ミネルバと共にオーブへやって来たアスランとも語り合った
アスランはその後、プラントへ行ったらしい
おそらくザフトに復帰するのだろうと、キラは予想した

キラはなんとなく、海岸線にあるオーブの慰霊碑に一人で足を向けた

理由はない。ただ、ユニウスセブンの落下でまた多くの人が死んだ
それを悼みたかったのかも知れない

海の近くにある慰霊碑には、一組のカップルがいた。背格好や年頃が同じ、
少年少女二人は花をささげると、じっと慰霊碑を見つめていた

「あの・・・・・・」
キラは二人へ声をかけた。理由はない。ただ、そうしたかった
「・・・・なんですか?」
少年の方が振り向く。金色の髪をした少女は、さっと少年の腕にしがみついた
「いや、ずいぶん熱心に祈ってるなって、思って」
「俺の家族は、オーブで死にましたから。あまりここにも来られないんで、今のうちにと思って・・・・・」
「ごめん。僕は悪いことを聞いたみたいだ」
「いや、別に構わないです」

それから少し、沈黙が訪れた。金髪の少女はなにも話さない

「また、戦争が始まったね」
キラが空を見上げ、つぶやく
「そうですね。あれだけ死んで、あれだけ死なせて、また戦争をやろうっていうんですから」
少年がいらだつようにつぶやく
「戦争を止める方法、ないのかな。僕はずっと探してるんだけど・・・・」

キラのつぶやきを聞いて、少年は慰霊碑にささげられた花を手にした
それは風にあおられ、花びらとなり、海へと散っていく

「こんなのはどうです? 俺がプラントで一番偉い人になって、あなたが地球で一番偉い人になる
  それなら戦争は起こらないんじゃないですか?」
「・・・・・・それは、いいね」
キラはかすかに笑った。少年も少し微笑むと、少女の手を引いて歩き出す

「それじゃ、失礼します」
「うん・・・・・」

キラはゆっくりと去って行く少年と少女を見つめ、その姿が見えなくなると、慰霊碑に目を移した
しばらくそのまま、海風に身を任す
いろいろな想いが浮かんでは消えていった。
前の大戦で散った命たち。殺した命たち。その激しい記憶からすれば、この平穏は嘘のようだ
そうしていると、日が暮れていた
キラは慰霊碑に背を向け、歩き出す。向かう先はマリュー・ラミアスが住む館だ
かなり館は大きく、孤児院の子供やキラたちが入っても生活に支障はなかった

二十分ほど歩くと、館が見えてくる。すでにすっかりあたりは暗くなり、館の明かりがまぶしく見えた

(—————!?)

不意にキラが、異常を感知した。なにかはわからないが、『なにか』がそこにいる

ドォォォン!!

いきなり館で爆発が起こった。そして不意に、なにもない空間から一機のMSが姿を見せる

「ぶ・・・・・ブリッツ!? どうして!」

黒い機体、黒いガンダム。前の戦争で、キラがパイロットと一緒にその存在を破壊した機体
それは右腕から何発もレーザーを放ち、館を破壊していく

(ラクス・・・・・!!)

キラは館に向かって走り出した。炎上する館が、夜の闇を照らしていた