クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第017話

Last-modified: 2016-02-14 (日) 01:35:33

第十七話 『俺を笑ってんのかい』
 
 
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ザー・・・・・・

雨がジャスティスの機体を打つ。大艦隊をじっと見つめた
MSの発進準備が行われようとしている

「やはり撤退などしてくれるはずもない・・・・シン、ムラサメ隊、行くぞ!
  適当に戦ったら退け!」

アスランが通信を開き、叫ぶ

『了解!』
「起動前のMSを狙え! とにかく相手の戦力を削ぐんだ!」

アスランはジャスティスを起動させた。背中のリフターが追加バーニアとなり、
かなり機動性はあがっている。機動性だけならフリーダムとてひれ伏すだろう

「おぉぉぉぉぉ!!」

両腰に二門のプラズマ収束ビーム砲を固定させ、放つ

バシュゥゥン、ドゥン! ドゥン!

発射前のMSが次々と破壊されていく

他にもムラサメ隊やフォースインパルスも同じように、パイロットがまだ乗り込んでいないMSを
次々と破壊していっている

艦隊に配備されているのはダガーLが多い。連邦の主力量産MSで、フライトユニットをつけての飛行が可能だ
ただ、新型のMSウィンダムも見える

(まったくオーブと戦うことを想定してなかったわけでもないということか・・・・!)

高エネルギービームライフルを放ち、ウィンダムを破壊する。新型だけあって、わずかながら破壊しにくい気がした

ジャスティスが20機ほど破壊したところで、初めて連合戦艦からMSが発進し始めた
潮時だろう。いくらジャスティスとはいえ、囲まれればまずい

「インパルス、ムラサメ、退くぞ!」

アスランは叫ぶと同時に、ジャスティスをMA形態へ変形させた

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戦艦ミネルバは、固唾をのんで奇襲作戦の結果を待っていた
いかにジャスティスやインパルスとはいえ、報告によれば敵はMS600機の大軍である
見破られれば、奇襲部隊は無残に海の藻屑と化す

「ジャスティスから通信! 我、奇襲に成功セリ、損害はゼロ、とのこと!」
通信士のメイリンが歓声をあげる
同じようにミネルバのブリッジでも歓声があがり、
ほっとタリアは安堵の息を吐いた

「さて、問題はこれからね。ザクとアシュタロンを発進させて、ミネルバの守りにつかせなさい
  作戦通り、うまくこう着に持ち込めればいいんだけど」

タリアが外を見る。大雨のせいで波が高く、視界は悪い
奇襲には向いているが、MS戦闘はやりにくい状況だろう

(この天候を相手がどう判断するか・・・・)

もちろん、悪天候の影響は、大軍であればあるほど大きい
波も高くなるため、船酔いの影響などもバカにできなくなる
そして補給も困難になるのだ

天はオーブに味方していると考えてもいい

タリアは視線をあげ、モニタに映っているDXを見た。オノゴロ島の高台に固定されたそれは、
雨に打たれてなお、『ユニウスの悪魔』と呼ばれた威容をたもっていた

「ルナマリア機ガナーザクウォーリア! レイ機ブレイズザクファントム!
  オルバ機ガンダムアシュタロン! 順次発進! ミネルバの甲板にて守備につきます!
  フォースインパルス帰艦しました。ミネルバ守備のため、ブラストシルエットに換装します!」

メイリンが次々と報告を入れてくる

「メイリン、ジャスティスはどうしたの?」
すでにミネルバ所属ではなくなっているが、それでもタリアはアスランが気になった
「オーブ旗艦、大型機動空母『タケミカズチ』の守備につくとのことです!」
「そう・・・・タケミカズチには、ユウナ代表も乗艦してらっしゃるものね・・・・。
  それにしてもわからないものだわ。正直、ユウナ代表の悪い評判しか聞かなかったものだから
  あっという間にオーブをまとめ、自ら前線に立って兵を鼓舞する姿見てると、
  これほど優れた指導者だったのかと思うほどよ」
「やはり、カガリ代表の死があったからでしょうか?」
副官のアーサーがつぶやく          ボウトク
「そうね。それにしても皮肉なものね。死者を冒涜する気はないけれど、カガリ代表はお世辞にも
  優れた政治家とは言えなかった。ところがその死が、ユウナという指導者を作り上げた・・・・・
  オーブにとってあの暗殺は、歴史の分かれ目だったのかしらね」

他国人ゆえの客観的な視線で、タリアは判断する

しかしいまだにブリッツを操っている黒幕はわからない
前大戦の兵士であるニコル・アマルフィがなぜあんなことをやったのか、
誰もわからない

ただ一つわかっているのは、これからわずかな兵力で大軍と向き合わねばならぬということだけだ

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旗艦JPジョーンズは、オノゴロ島近くまで来ると艦隊を停止させた
オノゴロ島を中心に、オーブ軍は防衛ラインを引いている。だが問題はそういうことではない

「おいおい、冗談きついぜ・・・・」

ネオは仮面をかぶった状態で、頭を抱えた
JPジョーンズのモニタには、オノゴロ島の高台にそびえ立つ一機のMS、DXの勇姿を映し出している

「『ユニウスの悪魔』とは・・・!」

副官のイアンも言葉を失っている。ユニウスセブンを貫いた巨光の存在を、もはや地球上で知らぬ者はいない

「ハァ・・・・オーブは敵対するわ、奇襲を受けてMSは40機壊されるわ、その上DXかよ・・・・。
  こりゃ俺たちの負けだな」
ネオがそう発言すると、イアンは顔をしかめた
「しかし奇襲を受けたとはいえ、あくまでも損害はMS40だけです
  艦隊は無事ですし、いきなり負けとは、いくらなんでも・・・・」

しかしネオは首を振った。やはり仮面のせいで表情はわからない

「DXがあっちにある以上、こっちは無理に攻め込めん。となればこう着状態になる。
  そうすればこっちの補給が続かんよ。それにこの悪天候でイカリを下ろしてみろ
  MSパイロットの連中は船酔いでノックダウンさ。ところがあっちはいつでも陸地に上がれる
  そうなりゃいくら大軍でも意味はない。こりゃ、負けだ負け
  損害ないうちに引き上げた方が無難ってもんだよ」
「はぁ・・・・しかし司令部がろくに交戦せずに引き上げること、納得しますか?」
「問題はそれだよな・・・・。これだけの軍を動かした以上、金がアホほどかかってる
  誰だって投資した金の元は取りたいもんなぁ・・・・・」

しかしネオは通信士に命じて、司令部に撤退を要請するよう告げた
無論、先ほどネオが述べた撤退理由を添えてだ

それから一時間ほどして、司令部から通信が返ってくる

「なんだと!? 司令部は本気で言ってんのか!」

ネオはまたも頭を抱えた。やってきた命令はこうだ

『撤退は不可能。オノゴロ島の攻略が不可能ならば、他の島を攻略すべし
  攻略困難ならば、切り札の使用も許可する』

「そういう問題じゃねーっつーの! DXは固定砲台じゃないぞ、MSだってこと忘れてんじゃねーのか!」
「つまりは、戦って見せろということでしょうな」
イアンが冷静に告げる。ネオはほとんどやけになってうめいた

「どうせロゴスの意向だろ・・・・。これだから商人が戦争なんてやるもんじゃない
  俺はもう知らねぇぞ・・・・。全軍、戦闘態勢を取れ! MSは空中戦装備に換装!
  空母は後方へ、戦艦前へ、砲撃体勢をとれ! 砲撃開始後、MSで敵艦隊に攻撃を開始する!
  DXの動向には気を配れ! 乱戦になっても、絶対にヤツの射線上に立つんじゃねぇぞ!」

こうなれば戦力の逐次投入や、小競り合いは愚かである
大軍の力をもって一斉攻撃するしかない

ネオはブリッジのモニタを見つめた。雨に打たれたDXが、こちらを見つめているような気がした

「俺を笑ってんのかい・・・・悪魔ちゃん・・・・」

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「さすがに壮観だな・・・・・」

ブラストインパルスへの換装を終えたコクピットで、シンはじっと艦隊を見つめた
一口に大艦隊と言うが、こうして見るとひざが震えてくる

艦がぎっしりと海を埋め尽くしている。これとどう戦えと、叫びたくなるほどだ

オーブのMSはさほど多くない。せいぜいが150ほどだった。それでも軍事力としてはかなりのものだが、
確かにアスランの言うとおり、まともにやりあえば勝ち目はないだろう

『ミネルバ所属MSへ。敵艦隊からMSの発進が確認されました。コンディションレッド発令
  全機、戦闘態勢をとってください!』

「本当に・・・・本当にやるのか・・・・こんな大軍と・・・・」

あぶら汗が頬をつたっていく。やがて次々と敵艦から飛び立つMSの姿が見えた
それはあっという間に空を埋め尽くし、雨に打たれる死神の集団となる

ドォォォォォ!
いきなり敵の戦艦から砲撃が来た。ビームでミサイルを打ち落とす
ミネルバの迎撃砲も起動し、どうにか無傷でそれは切り抜けた

砲撃後、MS群がこちらへと動き出してくる

『シン、ルナ、オルバ! 射程に入ればMSで一斉砲撃だ。敵の出鼻をくじく』
『ルナ機、了解!』
『オルバ機・・・・了解・・・・』
「わかった・・・インパルス了解!」

レイから通信が入る。シンは恐怖と迷いを吹っ切った

「死ぬわけにもいかない・・・・逃げるわけにもいかない
  帰るべき場所があって、守るべき故郷があるんだ
  そしてもう二度と、二年前のようなことを繰り返させるもんかッ!」

ブラストインパルスの両腰にある二門の高エネルギービーム砲を構える
瞬間、敵のMS群が射程に入った

「いけぇぇぇ!」

ドシュゥゥゥゥ!

ミネルバの全MSが一斉に砲撃する。敵があまりに密集していたためか、10機ほどが一気に落ちた

(それでも焼け石に水か)

ドゥン! ドゥン! ドゥン!

ミネルバの四機、ザク、アシュタロン、インパルスが各個に砲撃する
射程が遠いせいか、命中率はそれほどよくない。それでもインパルスは3機撃墜した

敵が砲撃にひるまず、ミネルバへと近づいてくる

「ミネルバ、ソードシルエット射出だ! オルバ、おまえと俺で切り込むぞ!」
『フン・・・・・わかったよ』
「いけすかないヤツだけど、俺はおまえの腕は信頼してる!」
『くだらない世辞だ!』

アシュタロンがMAに変形し、飛び立つ。インパルスもブラストシルエットを放棄すると、
ミネルバから射出されたソードシルエットと合体。対艦刀エクスカリバーを構えると、
バーニアを吹かせ、飛び立つ

「帰れよ! おまえらぁぁぁ!!」

ザシュゥゥゥ!

エクスカリバーで、真っ先にやってきたMSダガーLを撃墜する

バシュン! バシュゥン!

瞬間、凄まじいビームの雨が降り注いできた。大軍である。本当に雨だった

「うぉぉぉぉ!!」

二発、被弾する。しかし問題はないッ!

ザン! ザン、ザシュゥゥ!

ビームの雨を潜り抜け、大軍の中へとインパルスは突っ込む
群れの中に入ってしまえば、敵は同士討ちを恐れて飛び道具は使えない
そうなると接近戦に強いソードインパルスやアシュタロンに分があった

次々とダガーLを撃墜していく。しかし一向に減る気配はない

「何機いるんだよこいつら!」

群れの中、空中でインパルスとアシュタロンは背中合わせになる

『600機だ、聞いてなかったのか?』
「そういう問題じゃない、オルバ!」
『だったら余計なこと考えず、黙って戦うんだね』
「愚痴るぐらいいいだろうが・・・・てめぇぇッ!」

エクスカリバーを構え、再び斬りこむ。変幻自在に、斬り、薙ぎ、突いた
アシュタロンもクローで敵の装甲を吹き飛ばし、至近距離のクロービームで撃墜していく

それでもダメージは蓄積していく。思わず荒い息を吐き、インパルスの動きが止まった

「!!」

その隙を突かれ、MSウィンダムがサーベルを構えてやってくる

ドゥン!

しかしそれはインパルスにたどり着く前に撃墜された

『シン、戦闘中になにをボーっとしている!』

アスランのインフィニットジャスティスだった。ライフルを構え、鬼神と見まがうほどの機動で敵を撃墜している
接近すれば両手両足のビームサーベルで、あたかも流星と化したかのように動き回り、それに触れた敵は
みな落ちた

ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥン、ドゥン!

「す・・・・げぇ・・・・」

落ちていくMSの数を数えるのが追いつかないほどだ。それほどアスランの動きは凄まじかった

ジャスティスは十数機ほど撃墜すると、MAに変形し、旗艦のタケミカズチへと戻っていく

「負けてられるか・・・・オーブは俺の故郷なんだァァァ!!」

再びインパルスはエクスカリバーを構え、MSの群れへ突っ込んでいった

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ミネルバは陽電子砲タンホイザーを起動させた

タリアはブリッジでじっと敵艦隊を見据える。雨がさらに激しくなったのか、視界はおぼろげだ

「タンホイザー照準、目標敵艦隊! 撃てーッ!」

ドシュゥゥゥゥ!

陽電子砲が、敵艦隊を貫いていく。水しぶきがあがり、敵艦が一つ爆発した
それでもたいした戦果ではないと、タリアは思った

「こんな消耗戦・・・敵もなに考えてるのかしら。まったく・・・・」

思わず敵に愚痴る。やはりオーブは全体的に劣勢で、数の差はどうしようもない
ミネルバのMSも、性能差を生かしてうまく立ち回っているが、数に押されていた

「やっぱり、決め手はDXになるのかしらね・・・・」
タリアがつぶやいたその時だった
「た、大変です・・・・艦長! ガイアが起動して、カタパルトに!」
「ガイアが・・・・・? どこの誰が動かしてるの!」

思わずタリアは叫んだ。ガイアの操縦は複雑で、並のパイロットでは動かすのすら難しい
瞬間、ミネルバのブリッジに通信が入る

『ステラ、行く。開けて』
モニタに、コクピットへ座った金髪の少女が映し出された
「ちょ・・・あの子・・・・シンが連れてきた・・・・」
メイリンがぽかんと口を開けている。タリアはまた頭痛を感じた

『シン、守る。行かせないなら、ガイアでこじ開ける・・・・』
「ハァ・・・・いいわ。カタパルトを射出、行かせてあげなさい」
「艦長!? ・・・・・わかりました。ハッチオープン、ガイア発進!」

カタパルトから、ガイアが発進していく。それはブースターを吹かせ、
一気にビームサーベルを抜くと、ミネルバに迫っていたウィンダムを真っ二つにした

ザワ・・・・

ミネルバのクルーは声をあげた。かなりの機動であり、操縦技術である
タリアはやれやれと首を振った

「シンやガロードが連れてきたんだから、なにかワケありだと思っていたけど
  こういうことだったのね・・・・・。まぁ、今はありがたいわ」

するとインパルスから緊急通信が入る。無論、シンだ

『ミネルバ、なぜガイアが出てるんです! 誰が乗ってるんですか!』
「あなたの姫君よ」
タリアが冷静に告げる
『民間人を乗せるなんて正気ですか!』
「そんなことザフトがするわけないでしょう・・・! あのステラって子が勝手に乗ったのよ
  あなたを守るんですって・・・・。シン、あなたも男なら、そう言ってくれる子のこと、守ってあげなさい」
『うっ・・・・勝手なこと言って・・・・わかりましたよ!』

シンは怒ったように通信を切る。同時にインパルスはガイアと合流して、敵と戦い始めた
なかなかのコンビネーションで、敵を撃墜していく

タリアは少し、まぶしそうにその光景を見つめた

※そのころ医務室では

(んー、んんんんー、んんんんん-!)←猿ぐつわをかまされ、ベッドの上ですまきにされているテクス

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「ハァ、ハァ、ハァ・・・・!」

アスランの全身は汗にまみれていた

改良されたセイバー、インフィニットジャスティスの運動性は想像以上のものである
それを十分に生かし、次々とMSを落とすアスランだったが、体力的に限界が近づいてきた

撃墜スコアはすでに70をこえている。戦艦も2つ落とした
しかし敵の数はほとんど減っていないように思える
そして、味方の数は着実に減っているのだ

(DX・・・・!)

オノゴロ島の高台に配置された、DXにサテライトキャノンの発射を要請するかどうか
アスランは凄まじい操縦技術でジャスティスを操りながら考えていた

ドシュゥゥン!

ビームライフルを放つ。一機のダガーLを落とした。
汗が目に入る。体がもう限界だと叫んでくる。それでもカガリの声が聞こえた

「アスラン」

ぱぁぁぁん

『種』が割れる
だから動く。アスラン・ザラは戦う。生きている限り、負けはしない

「アスラン」

カガリの声が聞こえる。確かにカガリはそばにいる
そっと自分の横に立って、支えてくれている。あの少し素直になれない表情を浮かべて
無垢な理想主義者のままで
だから、自分はオーブを守る。彼女が愛した国を守る

ドォォォン! ドォォォン!

不意に、雨を切り裂いて轟音が聞こえた
アスランが見回すと、敵の艦隊がおかしな動きをしている
同時に、連合側のMSがわずかに止まっていた

カメラで敵艦隊を拡大する。後方から攻撃を受けていた

『よぉ、アスラン! 聞こえるか、来てやったぜ!!』

ディアッカの声。通信が入る

『宇宙で戦い、地球で戦い、まったく貴様のせいでこっちはとんだ便利屋だ!』

イザークの声。モニタが後方から敵艦隊に攻撃をかける、ザフトのMSを映し出している

『よくいうぜ、隊長さん! 自分からこの任務を志願したんじゃねーか』
『な・・・・ディアッカ、貴様! 余計なことを言うな!』

「ディアッカ・・・・イザーク・・・?」

『聞こえるか? こちらは、『FAITH』のハイネ・ヴェステンフルスだ。
  ザフト地上軍はこれよりオーブ軍の援護に回る! さぁ、派手に暴れてやりましょうか!』

突如艦隊の後方から出現したザフト軍により、敵は混乱状態におちいっている
押されていたオーブ軍も息を吹き返し、一気に逆転した

「・・・・・・・・すまない!」

アスランは最後の力を振り絞り、この戦場に決着をつけるべく、ジャスティスのサーベルを引き抜いた

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後方の空母は混乱し、どんどん沈んでいく

JPジョーンズのブリッジで、ネオは叫んだ

「だから言わんこっちゃない! だいたい後方からの奇襲を許すなんざ、
  空母の連中はどこに目をつけてたんだ! この時代に悪天候は言い訳にならんぞ!
  オーブはDXまで温存してるってのに・・・これで全滅の可能性まで出てきた・・・・ええい!」

ドカッ!

普段冷静な彼にしては珍しく、ネオは机を殴りつけた
イアンがやれやれとため息をつく

「切り札を使うしかありませんな・・・・ネオ大佐」
「・・・・・・あれを戦場に投入しろってか?」

ネオがじっとイアンを見つめる。仮面のせいで表情はわからない

「司令部の意向です。我々軍人は、従うしかありません」
「・・・・・ろくな職業じゃねぇな、つくづく。・・・・スティングを呼んでくれ」

ネオが告げると、しばらくしてブリッジにスティングが呼ばれた
彼は強奪したカオスのパイロットであるが、今回は出撃許可を出していない

「スティング、行けるか?」
「・・・・・・はい。アウルも、ステラも・・・・みんないない・・・。敵を殺す・・・・」

過剰な精神操作を行われたのか、スティングの目はどこかうつろだった
ネオはスティングの表情を見て、苦い気持ちになる。こういうとき仮面をかぶっているのは、つくづくありがたい

「わかった。じゃあ、頼むよスティング。敵を倒してきてくれ」
「・・・・・・・・・任せろ」

うつろな瞳のままで、しかししっかりとした足取りでスティングは外に出て行く
すでに彼からは、アーモリーワンで鮮やかに機体を強奪した面影が失われていた
いや、人間らしさすらなくなっている

ドシン・・・・ドシン・・・・

しばらくして、JPジョーンズのブリッジが揺れる。それほど巨大なものが甲板で動いていると言うことだ
ネオは雨に打たれるその巨大なものをじっと見つめた

「デストロイガンダム、か・・・・」

並のMSを圧倒する大きさを誇るその兵器は、スティングを乗せ、ゆるやかに飛び立った