クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第018話

Last-modified: 2016-02-14 (日) 01:36:21

第十八話 『ガロード・ランですね?』
 
 
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「おまえぇぇ!」

普段とはかけ離れた形相で、ステラが叫ぶ

ドゥン!

ガイアはダガーLをビームライフルで打ち落とすと、甲板の上に乗った

ゴゥンゴゥン・・・・

不意になにかがやってくる音がする。ステラは空を見上げた
ひときわ巨大なMSが、ゆったりと空を飛んでいる

『なんだ・・・・あのデカブツ。ステラ、動きを止めるな! 危ないぞ』

シンの声。同時にインパルスもミネルバの甲板に着地する

「泣いてる・・・・」
『え・・・・?』
「スティング、泣いてる・・・・・。」
『スティング・・・・誰だよ?』
「シン、あそこに行かせて?」
『あそこって・・・・まさか・・・・あのでかいMSのことか!?』
「うん。ガイア、飛べないから・・・・」

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シンは戸惑った。この状況で投入されると言うことは、あの巨大MSは敵の切り札である

(ステラの申し出はともかく・・・・)

倒さなければならない敵だろう、あれは

『解析完了。敵MSは試作名デストロイガンダム! 極めて強力な火力、防御力を誇る殲滅戦用の巨大重MSです!』
ミネルバから全MSに向けての通信が入る

「デストロイか・・・・。ミネルバ、フォースシルエット射出! あれだけでかけりゃ、空中戦がメインだ!」
『了解、ミネルバ、フォースシルエット射出! 
  空中戦可能なアシュタロン、インパルスはデストロイの迎撃に当たってください』

ミネルバからフォースシルエットが射出される。これで今日、インパルスは三度目の換装であり、
いかに激戦かを物語っていた。機体各部の損傷も小さくなく、出力は二割落ちている

ソードシルエットを放棄し、フォースインパルスに換装する。その瞬間

ゴォォォォォォォ! ドォォォォォォン!

デストロイから全方向にビーム砲が放たれた。それはあっという間に味方の艦船を撃沈していく
巻き添えになったオーブのMSも数知れない

「な・・・・・んだ・・・・今の?」

一撃で戦艦が沈み、ついでのようにMSが巻き添えとなった
海面には今の一撃でスクラップになったMSや戦艦の残骸が浮かんでいる
叩きつけられる雨が、その無残さを余計際立たせていた

『いや・・・・いやぁ・・・・スティング・・・・ダメ・・・・死ぬよ・・・・死んじゃうよ・・・・
  そんなことしたらぁぁぁぁ!!!!』
「ステラ!?」

また、耳をつんざくようなステラの声。どういうわけかステラは、時折パニックにおちいる
直接的な原因はわからないが、精神操作のせいだというのは知っていた

ガイアが犬に変形し、なにを思ったか突然ミネルバの甲板から海へと飛び込んだ
ブースターを吹かせて前へ進もうとしているが、わずかずつ海に沈んでいる

『死ぬのはいやぁ・・・・死ぬのはいやぁぁぁ!! やめぇぇぇぇぇッ!』
「マジかよ・・・・バカッ!」

ガイアにはホバー能力もなければ、水中用でもない。沈むのは当たり前だった
インパルスはあわててそれを追いかけ、沈みかけのガイアを抱きとめる

「ダメだ、ステラ! 行くな!」
『シン・・・・シン!』
「ミネルバに帰ろう? 戻ろう? あれは俺がどうにかするから・・・・・ね?」
『うん・・・・うん・・・・・うん・・・・』

どうにかおとなしくなったガイアを、ミネルバのカタパルトデッキに戻す
その時だった

バシュゥゥゥゥン!

凄まじい勢いでデストロイから放たれた巨大なエネルギー砲が、ガイアへと迫っていく
思わずシンはインパルスの盾を展開し、ガイアの前に立っていた

ドゴォォォン!

盾で受け止める。かろうじてエネルギー波はそらせた

(よかった、ステラは無事だ。守れた・・・・)

そう思った次の瞬間、光に包まれた

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インパルスが爆発する。高エネルギー波の直撃を、まともに受けた

それを目の当たりにしたステラの脳裏に、ただ一つの文字が思い浮かぶ

          死

「いやぁ・・・・・死んじゃったの・・・・シン・・・・死んじゃったの・・・・?」

目からとめどなく涙があふれる。頭を抱え、息ができなくなる
胸がつまる。生きていくことさえ、できなくなりそうになる

『勝手に殺すな、バカステラ!』

ヒュン!

ガイアの目の前を蒼い戦闘機がかすめていく。ステラにはそれに乗っている人間が誰だかすぐわかった

「シン!」
『脱出機構のおかげで、なんとか生きてるよ・・・・でも、インパルスがやられた・・・・
  ステラ、はやくミネルバに戻れ! あれは危険だ!』
「でも、あれを止めないと・・・・」
『泳げない、飛行距離も短い、ガイアでどうするんだよ!』

そんなやりとりをしていた時だ。緑色の機体が、空を飛んでやってくる

キィィィィィン・・・・

不意にステラの頭が痛みをうったえた。割れそうに痛い。耐えがたい

『やっと見つけたぜ、子猫ちゃん!』

緑色の機体、カオスに乗っている人間から通信が入る
聞き覚えのある、懐かしい声だった

「ネオ・・・・? うっ・・・・頭が・・・・」

頭が痛い。痛い。痛い。割れる

『そうだ、ネオだよ。さぁ、ステラ、いい子だ・・・・帰ろうか
  こんな怖い人たちのところにいると、殺されちゃうぞ』

自分の中に誰かが入ってくる。自分でない誰かがやってくる
つかつかと足音をたてて、そっと背中を叩く
それが自分の中に入ってくる

「ああ・・・・シン・・・・ネオ? ・・・・シン・・・ネオ・・・・守る・・・死ぬ・・・・あぐぅ・・・うぐぐ・・・・」

ステラがステラでなくなる。ステラがステラになる
わからない。頭が痛い。吐き気がする。死にそう

死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう
死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう
死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう死にそう

ステラの意識は、ぷつりと途絶えた

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ジャスティスを駆っていたアスランは、デストロイの破壊力に思わず息を呑んだ
艦船を一撃で破壊し、MSとしてはトップクラスの防御力を誇るインパルスさえ粉砕した

あれはとてもMSと呼べる代物ではない

「シン・・・・? 無事か・・・・!」

『なんとか生きてますよ! それよりガイアが・・・!』

蒼い戦闘機、コアスプレンダーから通信が入る
アスランがミネルバの方を見ると、カオスがガイアを捕獲していた
パイロットはどうしたのか、ガイアはまったく動く気配を見せない

「ガイアが・・・・・・チッ!」

ドシュゥゥン、バシュゥゥゥン!

ジャスティスめがけ、デストロイがその両腕から数本のビーム砲を放ってくる
一つ一つでも凄まじい威力で、いかにジャスティスでも直撃を受ければひとたまりもない

「今は・・・・ガイアどころじゃないか!」

巨大なMS、デストロイに近づく。大きい。全長100メートル以上はあるのではないか
諜報部からもたらされたミネルバの検索データによると、本来は56メートルだというが、
試作型なのか、とんでもない大きさだ

バシュゥゥン、バシュゥゥゥン!

ビームライフルを放つが、バリアのようなものではじかれた

「チッ!」

舌打ちをして、両腰のプラズマ収束ビーム砲を構え、放つ

ドシュゥゥゥン!

しかしそれもデストロイにはじかれた。まるで蚊に刺されたかのように、それは平然と反撃してくる

「ジャスティスの最大火力が通じないというのか・・・! ええい!」

ビームサーベルを抜き、デストロイの周りを飛び回る。しかし全周囲に放たれるビームのおかげで、
うかつに近づけない。しかもそのビームは、連合のMSも巻き添えにしていた
見境なしだ

『オーブ軍、ならびにザフトの全MSに通達! DXが起動します!
  全軍、射線上より退避!』

不意にミネルバから全MSへ向けての回線が入る。アスランが振り返ると、
確かにオノゴロ島の高台から、DXが飛び立とうとしていた

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ガロードには他に方法が思いつかなかった
ただ、今も無遠慮に破壊をまき散らすデストロイには、腹が立っている

サテライトキャノンのエネルギーは30パーセントと表示されていた

『DXのチャージ量はこれでよろしいので!? フルではありませんが・・・・』
整備班から通信が入る
「ああ。100で撃ったら、味方を巻き込んじまうかもしれねぇからな・・・・」

DXは巨大バッテリーと連結したケーブルを外し、空へと飛び立つ
それを見たオーブやザフトのMSは、次々とオノゴロ島へ退いていく
艦船も港へと避難して行った

連合のMSたちが、飛び立つDXを見ると、まるでおびえたように距離を取る
そのためかオノゴロ島に避難するオーブやザフトのMSを追撃していない

「そんなにDXが怖いかよ・・・・おまえら・・・・」

DXの飛翔をはばむものはなく、ガロードは空中に静止すると、じっとデストロイを見た

ドォォォン! バシュゥゥゥン!

デストロイだけは例外で、次々とこちらにビームを放ってくる
命中精度はあまりよくなく、軽く避けられた

「また撃つのか・・・・また撃つのかよ、俺は・・・・。俺は・・・・ッ!」

シュォォォォン・・・

リフレクターが展開し、放熱する。ツインサテライトキャノンが両肩に乗せられ、光を放つ

(・・・・・・!)

ガロードは瞬間、DXを空へと急上昇させた。そしてデストロイめがけ、引き金を引く

「ツインサテライトキャノン、いっけぇぇぇぇッ!!」

ドシュゥゥゥゥン・・・・・!!

光がデストロイを包み、そしてエネルギーは海面へと叩きつけられた

その結果、どうなるか。デストロイを破壊したエネルギーは、海をえぐり、大津波を引き起こす

ザァァァァァァ・・・・・!

それは連合艦隊を襲う、大津波だった

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サテライトキャノンが放たれ、デストロイは破壊された
大津波をかぶった連合艦隊は混乱し、やがてMSを収納すると、あわてて引き上げていく

タケミカズチのブリッジで、ユウナは息を呑んだ

「これが『ユニウスの悪魔』か・・・・・」
「・・・・我々はその悪魔という認識を改めるべきかもしれませんな」

タケミカズチの艦長、トダカも目の前の光景に驚いている

なんとDXは、海面に45度の射角でエネルギーを叩きつけることで、デストロイ以外の破壊を禁じたばかりか、
大津波というやり方で連合艦隊を撤退させたのだ。最低限の人死にを避けたやり方だった

「やれやれ、なにはともあれ勝った・・・・・」
どさりとユウナが崩れ落ちそうになる。あわててトダカがそれを支えた
「大丈夫ですか?」
「なに・・・・前線の兵士に比べたら・・・。それでも疲れたよ、さすがに・・・・。
  今回は被害も大きいだろうな・・・・カガリも含めて、人がたくさん死んだ・・・・」
「しかしオーブの理念は守られました、ユウナ様」
「いや、問題はこれからだろう。本当に難しいのは独立を宣言することじゃなくて、
  独立を保ち続けることだ・・・・」

ふらついた足取りで、しかしどうにかユウナは自分の力で立った。
ジャスティスがタケミカズチへと帰艦してくる

「オーブは、ギルバート・デュランダルと一度話し合わなければならないだろうな・・・・」

ユウナは帰艦するジャスティスを見つめながら、つぶやいた

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ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・

自分の息づかいが、まるで他人のもののように聞こえる
ガロードはまだ、勝ったという実感が持てなかった

敵艦隊は撤退していく。デストロイは跡形もなく破壊した
それでも心がすっきりしない

それは今回の戦いで、かなり味方側に被害が出たことだった

『くそぅ・・・・ガイアが・・・・ステラが・・・!』

シンの声が聞こえる。戦いのどさくさで、ガイアが敵にまたさらわれた
それも含めて、もっと上手な方法があったのではないかと思う

例えば、敵艦隊が見えた途端、威嚇でサテライトキャノンを撃って撤退するように言う
そんなやり方もあったんじゃないかと思う

「ティファ・・・・俺、俺・・・・・DXをもっとちゃんと使えてたら・・・・」

眼下に広がるオーブのMSの残骸が、自分を責め立てているような気がした

『聞こえますか、そこのパイロット・・・・聞こえますか?』

不意に声がした。女の声だ。通信元は不明。ガロードは周囲を見回す
オーブやザフトのMSはほとんどオノゴロ島に撤退していて、姿は見えない

いや、一機だけこちらへと近づいてくる白い機体がある

「なんだ・・・・あれ・・・・確か、結婚式を襲ったフリーダムとかいう・・・・!」

間違いなかった。あれはカガリの結婚式を襲った、フリーダムというMSである
それは凄まじい速さでこちらへと向かってくる

「野郎・・・・!」

ガロードは応戦すべく、DXのバスターライフルを引き抜いた

『やめなさい! こちらに交戦の意思はありません!』
「なんだと・・・・!?」

また、女の声。ガロードは戸惑った。確かにフリーダムは、ライフルもサーベルも構えていない

『わたくしはラクス・クラインと申します。ガンダムDXのパイロット、ガロード・ランですね?』
「ラクスだって・・・? 誰だよ、アンタ・・・?」
『この戦争を止めたいと願っている者ですわ』
「戦争を・・・・?」

フリーダムは、DXの目の前で静止するとコクピットハッチを開けた
人影が出てくる

DXのモニタに、雨に打たれる女性の姿と、操縦するパイロットが映し出された

「ラクス・・・クライン・・・?」
「聞いてください、ガロード・ラン。わたくしは、あなたと話をするためにやって来たのです」

雨に打たれてなお、彼女の瞳は凛として、強い意志を感じさせた