クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第019話

Last-modified: 2016-02-14 (日) 01:37:30

第十九話 『新しく、そして恐ろしい能力だ』
 
 
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まっすぐな瞳が、じっとこちらを見つめてくる
迷いのない、信念に満ち溢れた瞳

ラクス・クライン

雨が降っていた。嵐はまだ終わらず、続いている
しかし彼女はひるむことはない

「失礼ながら、調べさせてもらいましたわ。DXのこと」

拡声器を使っているのか、コクピット越しにもよく響く声だ
ガロードもスピーカーで応対する
さすがにコクピットハッチを開けるのは危険だった

「なんだよ・・・だからなんだってんだ・・・?」
「なぜそれほどの力をお持ちにも関わらず、このようなことをなさっているのでしょうか?」
「は?」
「DXは戦争を終わらせることのできる力です。やり方次第で、平和をもたらすことができるでしょう
  あなたはなぜそうなさらないのですか?」
「はぁ・・・?」

わけがわからなかった。しかし彼女は真剣に言っているようだ

「力だけではダメなのです。それと同時に、正しい想いがなければ
  そうでなくてはまた血が流れ、悲しい想いがあふれてしまいます
  あなたのDXは、なにより強い剣です
  それをザフトに所属して戦争などに使わず、
  どうかそれを平和のために役立ててください」
「わけわかんねぇ・・・・いったいなにを言ってるんだ、あんたは!」
「わたくしたちと共に来てください。共に平和な世界を築きに・・・・」
「ふざけるな! カガリさんを殺した、あんたたちが言うことかよ、それが!」

DXがバスターライフルを引き抜く。しかしフリーダムは動かない

「撃ちたくばどうぞ。確かに、わたくしたちにはカガリさんを殺したという罪がありますわ
  それは認めます。ですが、それにいつまでもとらわれているわけにはいかないのです」
「な・・・・・! 開き直りかよ・・・!」
「カガリさんのためでもあります・・・。これ以上の血を流さぬため、どうか・・・どうかわたくしたちと共に・・・・!」
「な・・・・・・・なんだ・・・・・・・・なんなんだ・・・・・・こいつ・・・・」

ガロードの頭が、ふいにぽぉっとなった
なにか、ラクスの言っていることが体の中に流れ込んでくるような感じがする

平和のために、DXを使う

それが正しいのではないかと、心の中で誰かが言う

(ガロード・・・・ガロード・・・)

「う・・・・ティファ!?」

頭の中で声が響く。

(ちゃんと、心を強く持って・・・・。彼女には力があります)

「どういうことなんだ!? 力って・・・・!」

(ラクス・クラインは・・・私たちが知っているものとは違う、
  まったく別の新しい力・・・・ううっ・・・・ダメ・・・・)

「ティファ!?」

(早く・・・・・ロドニアへ・・・・・ステラという人も・・・・・・ガロード・・・・。私は・・・・)

ドゥン! ドゥン!

瞬間、フリーダムが攻撃を受けていた。オルバのアシュタロンが、猛スピードでやってくる

ガロードはそれで我にかえった

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「魔女め、よくもぉぉぉぉぉッ!」

オルバはアシュタロンを凄まじい勢いでフリーダムに接近させると、クローを放った
フリーダムはそれをかわす

コクピットハッチがしまる。確かにあの女は、兄シャギアをたぶらかした魔女である
いかなる手段を使っても殺すべきだと、オルバは思っていた

「死ねぇ・・・・死ねぇぇぇぇッ!」

闇雲にクローを繰り出す。フリーダム。避ける。かと思う瞬間、背を向けて逃げ出した

「逃がすか・・・・逃がすかァァァッ!」

MA形態に変形し、追撃に入る

『オルバ、どこへ行く気だよ!』

ガロードの声など耳に入るはずもない。オルバはひたすらフリーダムを追いかけた

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激戦から、十日がたった

ガロードは休暇をもらって、ホテルでごろんと寝転んでいた
あてがわれたホテルはひどく豪華で、正直なところ落ち着かない

オルバは結局、あれから帰ってこなかった
ステラも同様で、さらわれたままだ
シンはインパルスの撃墜とあわせ、ひどくそれで落ち込んでいるらしく、
元気がない

「部屋でじっとしてても仕方ねぇか・・・・」

ガロードは、荒廃したあの世界にいた
環境は苛烈で、餓えたり凍えたりしたことも一度や二度ではない
それに比べたらここは天国のはずなのだが、なにか物足りなさも感じる

(ティファ・・・ロドニアって言ってたよな・・・・)

それがなにを意味するのか。そこに行けばティファに会えるのか
ホテルの玄関を抜けながら、そんなことを考えた

ホテルのボーイが、車を用意しようかと言う
とんでもないと、それは断った
あの戦いからガロード・ランは英雄として扱われており、
それがどうにもむずがゆい感じがした

「・・・・まったく嬉しくねぇってわけじゃねぇんだけどさ・・・」

豪華なホテルから出て、街を歩く。オーブの街はほとんど被害を受けず、それは幸いだった

「あ、ガロードさん!」
「ガロードさんだ! ダブルエックスのパイロットだよ!」
「へー、あの人が連合を追っ払ってくれた人かい・・・・若いのに立派だねぇ・・・!」
「サインしてよ!」

ガロードはいつもの私服姿だったが、それでもいつの間にか顔はオーブ中に知られわたっており、
街中だと声をかけてくる人や、サインを求める人までいる

「ちょ、待ってって・・・さよなら!」

ガロードはあわてて逃げ出した。街を抜けて、人気のない公園までやってくる
ぜぇぜぇと息を吐いて、ベンチにへたりこんだ

「やれやれ・・・・おちおち散歩もできねぇや・・・・」

ため息をついて、ベンチにもたれかかる。サングラスの一つも買った方がいいかなと考えた

(なんかなぁ・・・・・・・)

英雄扱いされるのが、嬉しくないわけじゃない。しかしガロード・ランという名前が一人歩きしてるようで、
かすかな薄気味悪さも感じる。かつて、英雄と呼ばれた人間たちもそう感じたのだろうか

ごろんとベンチに寝転び、空を見る。決戦の日は嵐だったが、今日はよく晴れていた

「やりすぎたのかなぁ、俺・・・・。もっとおとなしくしてりゃよかったかも・・・・」

目を閉じて思い出す。アーモリーワンはまだよかった
しかしユニウスセブン破壊や、ローエングリンゲート制圧、それに今回のオーブ防衛戦・・・・
どれ一つとっても、かなりの戦果である。ガロードはDXのおかげだと思ってるが、人は人を英雄にしたがる

それに戦意高揚のため、今の自分はザフトのシンボルのようになっていると聞いていた
いつの間に撮られたのか、プラントではガロード・ランのポスターや映像が流されたりしてるらしい

「いっそ逃げ出しちまおっかな・・・?」

にやっと笑う。もしも自分が逃げ出したら、ミネルバの人間はもちろん、ザフトの人間も大慌てだろう
なにしろスーパーエースと祭り上げられた人間が、脱走したのだから

そんなことを考えるとなんとなく愉快な気分になった
あのデュランダルのおっさんの、慌てる顔も見られるかもしれない

「・・・・・ロドニアだな」

ガロードはベンチから起き上がった。すでに男の顔に戻っている
とにかくティファを探す。この戦争のことはどうでもいい
なによりティファが先決だった。迷ってる場合じゃない

ざっぱー

不意に、頭から水をかけられた

「ぶっ、つめた・・・・誰だよ!」
「あーら、誰だよとはご挨拶ねぇ、『ユニウスの悪魔』さん・・・・」
「へ・・・・? トニヤ・・・・?」

聞き覚えのある声。思わず目を見張った。バケツを持った、浅黒い肌の女性がいたずらっぽく笑っている

ベンチの前に人影がある。そのうちの一つが、こっちに飛び込んできて胸倉をつかんできた

「この野郎・・・・探したぜぇ! こっちは苦労してるってのに、おまえは英雄かよ!」
「キッド・・・・キッドか!? おい、マジかよ・・・!」

そばかすのある少年、キッドはガロードの胸倉をつかんだまま安堵とも怒りともつかない表情をうかべ、
ぶんぶんと揺さぶってくる

「俺も忘れんなよ!」
「シンゴ・・・! 相変わらず地味だな!」
「地味は余計だ!」

ぽかりとシンゴに頭を殴られる。そういうコミュニケーションも懐かしかった

「トニヤ、シンゴ、キッド・・・・。他のみんなは!? フリーデンのみんなは!?」

ガロードが慌てて聞く。するとキッドは、微妙な表情を浮かべた

「わかんねぇ。正直、俺らもいきなりこの世界に飛ばされて・・・どうにか俺のメカニックで
  MSの修理とかしながら食いつないできたんだ
「そ。それで、今、ガロードはこっちですっごく有名でしょ? だからオーブにいるってわかったとき、
  必死にお金稼いで、こっちにやってきたんだから。まったく、大変だったんだからね」

トニヤが肩をすくめてくる

(ということは、フリーデンのクルーは・・・)

通信士のトニヤ・マーム、操舵手のモリ・シンゴ、メカニックのキッド・サルサミル・・・・
それに医者のテクス以外は行方不明ということだ

「それにしてもどうしたんだ、ガロードが軍人なんて?」
シンゴが聞いてくる。ガロードは微妙な表情になった
確かに昔の自分を知っている人間からしたら、おかしなことに違いない

「いや・・・それは後で話すけどよ・・・・。とりあえずみんな、ミネルバに来ないか?
  テクスもいるし・・・・・」
「あら、ドクターまで来ちゃってるの? じゃあ、フリーデンのクルーはみーんな飛ばされたのかしらねぇ・・・」
「わかんねぇ。俺もティファ探してんだけど・・・・・。いつの間にかこんなことなっちまって・・・」

ガロードはふと地面を見た。少し泣きたくなる。確かに自分は、ティファを探したいだけだった
彼女を護りたいだけだった。なのに、こんなバカをやっている
英雄だのなんだのと言われて、どこかで浮かれていた自分はバカそのものだ

「ま、そう暗い顔すんなって。俺らが来たんだ。なんとかなるさ」

キッドが肩を叩いてくる

「うっせ。俺よりチビのキッドに慰められたくねぇや」
「なんだとこいつ! いつも誰がMS修理してやってると思ってるんだ!」

キッドがつかみかかってくる。トニヤとシンゴが笑い声をあげている

こういうやり取りのすべてが、懐かしかった

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トニヤ、シンゴ、キッドを連れて、港に停泊中のミネルバに入る
衛兵はガロードの顔を見ると、丁重に敬礼してきた

「へぇ、ガロードずいぶん偉いのねぇ・・・・」
トニヤが感心したように声をあげる
「俺が偉いんじゃねぇよ。DXが偉いんだ」
「フフッ、そういうのって、ガロードのいいとこよね」
「い・・・いや」
少し照れる

廊下を抜けて、医務室へ行った
中へ入ると、テクスがなにか書類のようなものに目を通している

「ガロード、なにか用・・・・む・・・」
「「「ドクター!」」」

トニヤ、シンゴ、キッドが一斉に声をあげる
同じようにテクスも、大きく目を見開いて言葉を失っていた

「これは・・・・驚いたな・・・・。こっちに来ていたのか・・・! よく無事で・・・・」
テクスが、三人の手を取る。表情は変わらないが、感激しているのは手つきでわかった

しばらく、フリーデンの五人だけで話し合った。言葉は次から次へ出てきて、懐かしい気分になる
ガロードはなぜか、帰ってきたのだと思った

「ああ、もうこんな時間か。そろそろ夕飯時だな。せっかくだから、外で食べにでも行こうか」
テクスが告げる
「よっしゃ! 当然、ガロードのおごりだよな?」
シンゴがじっと、ガロードを見た
「げ、なんでだよ?」
「おまえ、安くない給料もらってんだろ? それぐらいおごれよ」
「ちぇ、わかったよ・・・」

ガロードはしぶしぶといった表情でうなずく。確かに軍から支給される給料は、一般兵のと比べて多い

「あ、そうだ。みんな先に行っててくれよ。ドクターに相談したいことがあってよ」

ふと、思い出したことがある。ガロードの脳裏に、十日前の戦闘が思い出されたのだ
医務室を出て、シンゴ、キッド、トニヤはガロードが示したレストランへ、先に向かっていく

「どうしたんだ、ガロード。私に相談とは?」
医務室に残されたテクスは、こちらをじっと見てくる
「いや、ほら・・・・ティファの声が聞こえたって言ったろ? こないだの戦いでさ」
「ああ。ロドニアと言ったかな。なにか連合軍の基地があるらしいが」
「うん。多分、そこにティファがいると思うんだ。どうにかして行く方法はないかなと思ってさ」

するとテクスは、微笑を浮かべた

「それは簡単なことだ。ガロード、『FAITH』というのは、かなりの権限を持っている
  ザフトの戦艦を一つぐらい貸せと言って、勝手に向かえばいいだけの話だ」
「あ・・・・・そうなのか? そんなのやっていいのかよ」
「問題はないはずだ。軍にしては、おかしな制度とは思うがな。それよりも私が気になるのは・・・・」

テクスがまた書類を見つめる。なにかはよくわからないが、人物の経歴みたいなものが書かれていた

「なんだよ、テクス?」
「いや、ティファは、ラクス・クラインが、私たちの知るものとは別の力を持っていると言ったらしいな? 
  それが事実なら、ラクス・クラインはニュータイプだということになる・・・・。
  だから、私なりに彼女の経歴を調べてみたのだ」
「へぇ・・・・・。なにかわかったのか?」
「推測だ。あくまでも推測を私は述べる」

真剣な表情で、テクスはそう前置きをした

「わかった。推測でもいいよ」
「うむ。我々がニュータイプと言えば、ビットを操っての戦闘や、
  あるいはティファのような感応、予知能力を思い浮かべるな? 
  しかしティファは我々が知るものとまったく違う新しい力だと言った」
「ああ・・・・。だから、あのラクスとかいう人は、ティファやカリス、ジャミルとかとは違うってことだよな」
「そこで私が注目したのは、彼女のカリスマ性だ。前大戦では彼女は平和の歌姫として支持されている
  しかしその行動には矛盾も多く、非難される点も見受けられる
  まぁ、戦争終結のための非常手段と世間の人々が納得するのならそれもいいが・・・・
  それでも、現実に彼女がほとんど非難されていないのは、不自然だ」
「ふーん・・・・・それとニュータイプとなんの関係が?」
「うむ。ガロード、サキュバスやヴァンパイアといった想像上の怪物は、
  人を魅了する能力に優れていることを知っているか?」
「あー、なんか聞いたことあるぜ。ものすげぇ美人だったり、女の人がメロメロになったりするんだろ?」
「そうだ。しかしそもそも、容姿が優れているだけで人はその人のためにすべてを投げ出したりするかね?」

言われて、ガロードは首をかしげた
確かにそれはないと思う。どんな美人だとしても、それだけで無条件に従うほど、人は馬鹿じゃない

「いや・・・・美人だからって・・・そこまではしねぇと思う」
「そうだ。だからそういった怪物は、人を魅了する魔力を持っている
  私はラクス・クラインはこの能力を持っているのではないかと思うのだよ」
「へ・・・・?」
「魔力だよ。自分を好きにならせる力。自分のために人を働かせる力。自分のために人を戦わせる力
  テンプテーション、あるいはチャームと呼ばれるような、魔法と言ってもいい。
  彼女は、意識してか無意識かはしらないが、そういう力を持っている」
「えっと・・・・よくわかんねぇけど、ラクスっつー人を見たり話したりしたら、
  その人を無意識に好きになっちまうってことか?」
「簡単に言えばそうだな。これをニュータイプ能力と考えるなら、まったく新しく、そして恐ろしい能力だ
  なにしろほとんど無条件で人に好かれるのだからな。世界を手に入れることさえ、不可能ではない」

テクスはそこで言葉を切った。ガロードも確かに思い当たるふしがある
ラクスと話したとき、なにか彼女の言葉が胸に入ってくるようで、頭がぽぅっとなったのだ

「テクス・・・・そうかもしれねぇ。あのラクスって人、そういう能力持ってると思う・・・」
「ガロード、あくまでも推測だ。まぁ、興味深い話ではあるが・・・・」
「うーん。でもなんかニュータイプって感じのする能力じゃねぇなぁ・・・・」

ガロードは腕を組んで、天井を見つめた

「そうだな。だがニュータイプと言うものは、本来定義があいまいなものだ・・・・・・
  いや、それより夕飯にしよう。キッドたちが待ちくたびれているぞ」

テクスはぽんぽんとガロードの肩を叩き、医務室から出て行った
ガロードもその後を追って行く

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オーブの宇宙空港に、シャトルが着陸する
プラントからの船だった。この戦時中である。地球へ移動するのも一苦労だ

プラント議長ギルバート・デュランダルは、オーブとの首脳会談のため、その地に降り立った
ザフトの軍人やオーブの要人が出迎える

二人のザフト軍人が、デュランダルの前に進み出た
敬礼してくる

「ジュール隊隊長、イザーク・ジュールであります」
「『FAITH』、ハイネ・ヴェステンフルスです。地上では我々が警護にあたります」

それを見て、デュランダルはこくりとうなずく。それからすぐに歩き出した
イザークとハイネも送れずに続く

「うむ・・・・。ハイネ、オーブ防衛戦はどうだった? かなりの激戦だったと聞いているが」
「はい。幸い、と言っていいのかわかりませんが、ザフトの損害はそれほどではありません
  ただ、オーブのMSや艦隊はかなりやられました。なにしろ途方もない大軍でしたので」
「そうか。そうだな・・・・・正直、数で考えれば抵抗することなど無意味と思えるほどの大軍だ
  オーブがよく勝てたものだと、私も感心しているよ」
「それにしても議長、DXというのは凄いものです。最後はあれ一機で地球連合を退けたようなものですから」
「うむ。私もガロードの活躍は聞いている。おかげでザフトの士気もあがっているよ
  ただ・・・・この戦争、ただ勝てばいいというものでもなさそうだ」
「議長、なにかお考えで?」
「平和をもたらすための方法を、な。それも含めて、今日の会談は実のあるものにしたい
  それよりハイネ、兵たちに伝えてやってくれ。ラクス・クラインが歌うことをな」
「慰問にいらっしゃってるのですか。わかりました、兵も喜びます」

イザークやハイネをともない、迎えの車に乗り込んだ。デュランダルは、少しオーブは暑いと思ったが
車の中は冷房がよくきいていた

「イザーク・ジュール。不機嫌そうだな」

さきほどからあまりしゃべらないイザークに、デュランダルは話しかける

「いえ・・・・議長、そういうわけではありませんが」
「新型のグフが、ジュール隊に配属されていないのが不満なのかね?
  しかしあれは最初からハイネが乗る予定だったのでね・・・・」
「まさか。子供じゃありませんよ、俺は。ただ、
  いつまでもザフトはDXに頼っているわけにはいかないと 思うだけです」
「うむ。君の言う通りだ。本来ならばDXも、前大戦で使われたジェネシスも、核も、
  抑止力として使われるべきなのだよ。ところがこの世界の人間の引き金は、驚くほど軽い
  これはどういうことなのだろうね」
「・・・・・・・・・。」

イザークは押し黙った。デュランダルは構わず続ける

「もっと我々は人の命の大切さを考えるべきなのだよ
  人命を極端に重く考えるのもよくないが、今のように軽く考えすぎるのはおかしい
  勝つためならば、何人殺してもいいなどと、考えてはいけないのだ」
「しかし・・・・議長、我々は軍人です」
「そうだな、イザーク。戦争を起こした責任は、我々政治家にある
  だから政治家が平和のための努力をするべきだ
  その上で、私は人命を重くさせるためのプランを考えている」
「プランですか?」
「うむ。例えば、人の命は尊い。人を殺してはいけない。そういう風に教育するだけでは、
  人の命の重さは本当にわからない。理由がないからね
  では、どうするべきか。人を殺さない、理由があればいい」
「軍人には・・・・いささかわからぬ話です」
「うむ。簡単に言えば、ナチュラルとコーディネイターが互いに支えあえばいいのだよ
  例えばナチュラルにできないことをコーディネイターがやり、
  コーディネイターにできないことをナチュラルがやる。そうすれば、お互いが殺しあうことは、 
  お互いにとって不利益になる。そうすればそこに、人の命を奪い合うことの無意味さが発生する
  そういう利益に支えられることで、人は本当に命の大切さがわかるのだと、私は思う」
「なるほど・・・・。それは、よいお考えだと思います
  しかしうまくいくでしょうか? ナチュラルとコーディネイターの溝は深いと思いますが・・・」
「うまくいくいかぬはわからぬよ。しかしやりもせずに諦めるのは、よくないのではないかね?
  こういう形でお互いが支えあい、プラントと地球の交易や交流、留学、
  あるいは結婚などが活発になることで、平和をもたらす
  今はまだ、構想の段階だが、これを私は『ディスティニープラン』と呼んでいる
  いつかこれが、平和をもたらすと信じているよ」

デュランダルの言葉に、イザークもハイネも、こくりとうなずいた

やがてオーブの宮殿が見えてくる。

車が止まり、デュランダルはオーブの地を踏んだ
オーブの将兵たちが敬礼している。その中央から、まだ若い男が一歩進み出てくる
その隣には、アスラン・ザラがいた

「お初にお目にかかります。プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルです
  ユウナ・ロマ・セイラン代表ですね? 今回の事件において、深く哀悼の意を表すと共に、
  貴国との強い友好を感じております」

デュランダルが手を差し伸べる。ユウナはそれを握り返してきた

「お会いできて光栄です。デュランダル議長。ただ、私はユウナ・ロマ・アスハです」
「いや・・・・これは失礼した」
「いえ、今回の件に関しては、我々オーブはプラントに対し感謝の念にたえません
  願わくばこれが、平和の第一歩となることを望みます」

ユウナが微笑する。若いが、悪い男ではないと、デュランダルは思った

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小さなプラントである。忘れられたプラントと言ってもいい
地図にもない場所だった

そこには小さな屋敷がある。そこで一人の男がチェスをしていた
相手もおらず、一人で黙々と駒を動かしている

屋敷の中へ人影が入ってきた

「ニコルか・・・・・。地球はどうだった?」
「くだらないことばかりでしたよ。ブリッツはやられるし、殺せたのはカガリだけですし、
  さんざんでした」

全身を包帯で包んだ男、ニコルが苦々しく吐き捨てる
きちんと歩行できないのか、松葉杖をついていた

「しかしこれは思わぬ局面だな。カガリが死に、オーブが連合と敵対するとはな
  まぁ、それも面白い。世界が混迷すればするほど、人が死ねば死ぬほど、
  人は平和を求め始める」

チェスを見つめながら、男がつぶやく

「フン・・・・そうなればアナタの『ディスティニープラン』が、受け入れられやすくなるわけですか?
  人類に・・・・」
「そうだ。遺伝子の絶対統制によってのみ、人は幸福になれる」
「それは別に構いませんけどね。手駒が足りませんよ。もっと兵士とMSを補充してください
  アウルはまだ使える方ですけどね。旧ザラ派の連中じゃ、フリーダム相手に歯が立ちませんよ」
「それはキラ・ヤマトのパイロット能力が優れすぎているだけだ
  それよりもギルバート・デュランダルの暗殺を急げ、ニコル」
「わかりましたよ・・・・・。それでアナタがギルバート・デュランダルになるわけですね?」

ニコルがじっとチェスをしている男を見つめる

男の顔は、ギルバート・デュランダルそのものだった