クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第020話

Last-modified: 2016-02-14 (日) 01:38:37

第二十話 『俺は変わったか?』
 
 
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「うわー、すっごいお風呂ねぇ・・・・後で使っちゃお!」
トニヤがバスルームをのぞいている

「けー、なんだよこのベッド。体が沈むぞ・・・!」
キッドがベッドに身を投げ出している

「うわ、すげぇ高級ワインとか、ウイスキーとか・・・・
  しかも勝手に開けても料金いらないのかよ!」
シンゴが冷蔵庫をあさっている

「なにやってんだよおまえらー!」
ガロードは思わず叫んだ。

休暇中の、高級ホテル内である。確かにAW世界の人間に、
この高級ホテルのスィートルームは珍しすぎる代物だろう

「だって俺たち、泊まるところねぇもん。金もねぇし」
キッドがベッドで腕枕をしながら、偉そうに言う
「いばることかよ、それ。つーか、どんだけ無計画なんだよ 
  もしオーブに俺がいなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「そりゃ、また流しのメカニックに後戻りさ。俺たちゃ戦後世界の人間だぜ?
  しぶとさにかけちゃ、この世界の人間に負けやしねぇよ」
「ったく・・・・。まぁ、みんな無事に会えたし、別にいいけどよ。これからどうするんだ?」

ガロードは、部屋で思い思いにくつろいでいる三人を見回す

「そりゃあなぁ・・・・ガロード。なんか仕事世話してくれよ」

いつの間にかウィスキーを開け、勝手に水割りを作っているシンゴが言う

「そうそう。艦の仕事とかなら、あたしたちもできるしさ」

トニヤは、勝手にバスへお湯をためている

「んなこと言われたってなぁ・・・・いや、いいかもしんねぇな
  でも、ちょっと荒っぽいことになるかもしれねぇぜ?」

ガロードの頭にひらめいたのは、新しい戦艦を調達してのロドニア行きである
『FAITH』権限でそれをやり、キッドたちをクルーにすればいいだけの話だ

「いいねー。荒っぽいこと大歓迎だぜ。ここのMSも目新しくておもしれーしな」

がしっとキッドが、自分の両手を握る

「よし、決まりだな・・・・おっと?」

ピピピピピピ、ピピピピピ・・・

軍から支給された、携帯電話にコールがかかる。ガロードはそれを取った
アスランからのようだ

「はい? なんだよ、俺は休暇中だって・・・・」
『ガロード、なにやってる! 今日は首脳会談だって言ったろう!』
「は・・・? だって俺、関係ねぇだろ。あんなの、お偉いさんが話し合うだけじゃん」
『・・・・・ハァ。ガロード、おまえは自分がその『お偉いさん』の一人だという自覚がないのか?』
「え・・・・・?」
『『FAITH』は全員出席だ! いますぐオーブ宮殿に来い!』
「げ、うそ、マジ!?」

あわてて携帯を切り、クローゼットを開けてザフトの赤服を引っ張り出す

「おい、ガロード、どうした?」
シンゴが水割りを口に運びながら聞いてくる
「急用ができたんだよ、クソッ、軍人なんてろくなもんじゃねぇや、やっぱり!」

私服を脱ぎ散らかして、ズボンをはく。それから上着に袖を通すと、
ガロードはそのままホテルの部屋を飛び出した

「大変ねぇ、英雄さんも」

トニヤがやれやれという感じで、つぶやいた

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ザフト・オーブ首脳会談における、ほとんどのメンバーはそろっていた
静粛な会議室に、ガロードが飛び込んでくる

「げ・・・・お、遅れてすいません・・・・」
「ガロード、いいから席につけ」

オーブの軍服を着て、右腕に絹を巻きつけているアスランは不機嫌そうにそれをにらみ、
テーブルの端にある空席を目で指した。小さくなりながらガロードは、そこに座る

デュランダルは微笑した
それから出席者を確認する

ザフトからは、アスラン、タリア、ハイネ、イザーク、そしてガロードが出席している
オーブは代表のユウナの他に、宰相であるユウナの父ウナト、
それからタケミカズチ艦長のトダカなどの他に数名の閣僚が、主な出席者だ

「さて、ひとまず先のオーブ防衛戦においてのザフト軍の協力に、改めて我々オーブは感謝したい」
ユウナが、それを会議の挨拶とした。デュランダルは視線をそちらに移す
「いえ、こちらとしてもオーブとの友好は願ってもないこと・・・・・。ただ、カガリ代表が暗殺された件に関しては、
  深く哀悼の意を表します。特に主犯が元ザフトのニコル・アマルフィであることは、我々にとっても遺憾であります」
「はい、デュランダル議長。我々オーブとしても、ニコル・アマルフィやキラ・ヤマトといった暗殺犯の逮捕を、
  プラントと協力して行いたいと願っております」
「それは当然のこと。ところでユウナ代表、ザフトはオーブに援軍を派遣したわけですが、どうです・・・・
  これを機に、プラントと軍事同盟を結ぶわけには参りませんか?」

デュランダルは早めに主題へ入った。結局は、今日の会議の目的はこれである
あくまでも宇宙が本拠であるプラントは、オーブという地球の国家と軍事的に協力し合うことができれば、
戦局を優位に進めることができるのだ

ただ、ユウナは少し表情を曇らせた。その理由もデュランダルは見当がついている

「軍事同盟、ですか・・・・。しかし議長・・・・」
「いえ、わかっております。オーブは他国を侵略せず、争いにも介入しないということを理念として掲げておられることは
  しかしこの混迷する世界において、それは極めて困難なことでありましょう
  時には柔軟な対応も必要かと思いますが・・・・・・」

デュランダルが言うが、かすかにユウナは首を振った

「いえ、議長。あくまでもオーブは他国と戦争をするつもりはありません」

きっぱりと、ユウナは言い切った。思ったよりもはっきりした態度だった

「ほう・・・・。しかしそれではこちらも困ります。援軍を派遣しておいて、
  なんの見返りもないというのは・・・・・」
「勘違いしないでいただきたい。あくまでもオーブ軍は、ということです」
「どういうことでしょうか、代表?」
「代案があるということです。アスラン」

ユウナがアスランをうながした。アスランはうなずき、書類を手に立ち上がる

「議長、私はザフト軍籍にありながら、今、こうしてオーブの軍服を着ております」
「うむ。アスラン、それは私も疑問に思っていたことだ」
「つまりオーブでありながら、オーブでなく、
  ザフトに協力できる軍を新たに創設するというのが、代案なのです」
「ほう・・・・?」
「皆様。こちらをご覧ください」

アスランが一枚のプリントを配布していく。デュランダルはそれに目を通した
艦船やMSの編成、それにあてがわれる人員まで書かれてある

「ふむ・・・・これは・・・・。オーブ製のMSや艦船を主体とした、軍ですか?」
「そうです。少数精鋭の新たな軍を創設し、ザフトの『FAITH』に近い形で戦場に投入します」
「では、アスラン。君がオーブの軍服を着ているのはそのためかね?」
「はい。新たに創設される軍の名は、『タカマガハラ』
  オーブにゆかりのある、旧世紀の日本に伝わる神話で、神々の住む場所のことです
  そのタカマガハラは遊軍としてザフトに協力し、独自の判断で
  連合と戦う形になります。ザフトから要請があった場合も、無論協力します」
「なるほど。その精鋭部隊、タカマガハラはあくまでもオーブから独立した軍であるため、
  タカマガハラがいくら戦闘しようとも、
  オーブは他国を攻めていないし、他国の争いにも介入していないというわけか」

デュランダルはユウナを見た。少しくだらない建前のように思えるが、
それがオーブという国の理念なら、仕方ないだろう

「オーブはまず、先行して一部隊を戦場に投入します。それの隊長は、このアスラン・ザラというわけです」
ユウナがアスランを指し示す
「なるほど・・・・・」
「現在、オーブ軍において、前大戦において活躍した高性能艦、アークエンジェル級の建造が完了しました
  それがアスラン・ザラ隊の母艦となります」

するとアスランは立ち上がり、軽く頭を下げた

「前大戦において戦争の原因となった、パトリック・ザラの息子である私ですが、
  だからこそ本名を名乗り、タカマガハラの一部隊の指揮官として、
  両国の友好を示す存在でありたいと思います
  『FAITH』権限をこういう形で使う形となりますが、議長、どうかご容赦を」
「いや、もともと『FAITH』とはそういうことを許すためのものだ
  それにオーブ軍・・・・いや、タカマガハラの参戦は、ザフトにとってもありがたい」

デュランダルが言うと、ユウナは満足そうにうなずいた

「我々オーブは戦争に動きませんが、ザフト軍の補給やMSの修理などは協力できます
  新たなオーブ軍、タカマガハラの創設も含め、
  こういう形でプラントと協力し、戦争を終わらせるというのはいかがでしょう」
「ふむ・・・・。そういうことでしたら、ザフトとしてもやぶさかではありません
  軍人としてはどう思うかね、ハイネ?」

『FAITH』のハイネに意見を求める

「悪くはないと思います、議長。なにより今は、オーブとプラントが足並みをそろえることが、
  大事かと。ただ、ザフトからもタカマガハラへ人員やMSを送るべきかと愚考します」
「ふむ・・・・・確かに、新しい軍の創設となると、オーブの負担も大きい・・・・
  我々も協力すべきかもしれないな」

ハイネの発言には裏がある。デュランダルもそれをわかっていた
もしもの時のために・・・・例えば、オーブがなんらかの形でプラントと敵対しようとした場合、
タカマガハラの中にザフトの人間がいた方がなにかとやりやすいのだ

「・・・・・・・・」

じっとユウナがこちらを見つめてくる。こちらの意向を、察しているのだろう

しかしアスランが発言したことで、その場はまとまった

「では、デュランダル議長。私の部隊にミネルバのクルーを回してもらえませんか?」
「ミネルバのクルーをか?」
「はい。ユニウスセブンの折、私は彼らと共に行動しました
  どうせならば、顔の知れた人間の方がよいものです」
「・・・・・・アスラン、それはガロードも含めてのことを言っているのかね?」

デュランダルが鋭い目つきでアスランを見た
DXは一機で国家間の軍事バランスを崩しかねない機体である
いかに友軍とはいえ、そんなものを簡単に渡すわけにもいかない

「ガロード・ランは『FAITH』です。彼に関しては、彼自身に決めてもらうのが、
  ザフトの軍法というものではないでしょうか?」
「そうだな。それは・・・正論だ」

痛いところを突かれたと、デュランダルは思った
アスランは知らないだろうが、あくまでもガロードはザフトの傭兵なのである
『FAITH』うんぬん以前に、去就の自由はあくまでガロード・ラン本人にある

「なら、ガロード・・・・」

言って、アスランはガロードを見た

「むにゃむにゃ・・・・。ティファ・・・・待ってくれ・・・・あ・・・・そこは・・・ダメ・・・・ん・・・・・アッー・・・!」

ニヤニヤしながら居眠りしてる。アスランは黙って、はいているクツを脱ぐと、思いっきり放り投げた

すぱーん

「いてぇ!?」
クツが命中し、頭を押さえてガロードが起き上がる
「大・事な会談中に居眠りするやつがあるか!! 俺の抜け毛をこれ以上増やすなッ!」
アスランが机をバンバン叩いて、怒りをあらわにしていた
「だからってクツ投げることねぇだろ! だいたい抜け毛は俺のせいじゃねぇ!」
「間違いなく、おまえが来てから、俺の頭頂部は後退してるんだよッ!」
「そりゃ、遺伝じゃねーのか? ・・・・ったく、で、なんだよ?
  俺は政治のことなんかわからねぇぞ」
「まったく・・・・部隊編成の話だ! タカマガハラに参加するか、ザフトに残るか決めろと言ってるんだ!」

アスランは顔を真っ赤にして、椅子に座る
会議室の中で、くすくすと笑い声が起こった。イザークだけが、眉間にしわを寄せている

「んなこと言われてもよ・・・・。あ、そうだ。アスラン、あんたロドニアへ行く気ねぇか?」
「ロドニア・・・・・? 連合軍の基地がある場所か?」

アスランが怪訝そうにガロードを見つめる

「いや、ステラって子がそこにいるらしくてよ。まぁ、情報元は明かせねぇんだけど・・・・。
  どうせならシンとか連れてさ、そこに行こうぜ。連合軍の基地なら、いつかいかなきゃいけねぇんだろ」
「わかった・・・・。なら、ガロード、おまえはタカマガハラに参加するんだな?」
「ん? おう、まぁ、そうなるのか?」

言って、デュランダルの方をガロードは見た。邪気のない、純粋そのものといった顔だった

(この子は・・・・)

ふっと、デュランダルは微笑む。あれほどのMSを乗り、あれほどの操縦技術を持ち、
あれほどの戦いをくぐり抜けながら、なおガロードには純粋さがある
不思議な話だった。戦争は人の心を汚すのに、まるで子供のようなまっすぐさをガロードはたもっている

心がまっすぐなまま、走り、戦ってきたのだろう。だから、こんな顔ができる
いったいコーディネイターの誰が、ナチュラルの誰が、そういう奇跡を行えるというのだろう

「おい、デュランダルのおっさん?」
「貴様、議長に向かっておっさんとは!」

イザークが怒声を放つが、デュランダルは手をあげて制した

「よいのだ、イザーク。わかった、ではガロード・ランは本日をもってタカマガハラに配属となる
  ただ、アスラン・ザラ同様ザフト軍籍のままだ。あくまでも『FAITH』権限において、
  ガロード、君はタカマガハラの配属となるのだ」
「おう。難しいことはわかんねぇけど、わかったぜ」

それから、デュランダルはユウナと簡単な外交の調整と、文書の交換を行った
後はいくらか歓談することで、首脳会談は終わりになる

最後に、暗殺されたカガリ・ユラ・アスハ国葬の日取りが、決められた

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アスランは首脳会談が終わると、デュランダルを食事に誘った

「ほう、君からお誘いとはね。いいだろう・・・・」

デュランダルが了承する。その隣には、イザークと『FAITH』のハイネがぴたりとくっついていた
公式行事中は彼ら二人が、デュランダルの警護に当たってるらしい

四人で送迎車に乗り込み、ホテルのレストランへ向かう。アスランは携帯電話であらかじめ予約をいれ、
デュランダルを迎えるにふさわしい形を整えさせた

「なにもそう気を使うことはないのだよ、アスラン」
「いえ。議長は、議長ですから」
「やれやれ、たまには下町の屋台でホットドッグをかじってみたいものだな、私も」

そんなことを言ってデュランダルは笑う。アスランはそれが冗談だったのだと、少したって気づいた

「それにしてもアスラン。貴様、議長になんの用だ」

イザークが車の後部座席から、不機嫌そうな声を投げてくる

「機嫌が悪そうだな、イザーク」
「貴様のその格好を見れば、機嫌も悪くなる。貴様はザフトだろうが、アスラン」

イザークは、アスランが着ているオーブの軍服が気に入らないらしい

「一応、所属はザフトだよ、俺は。インフィニットジャスティスもオーブで改修を受けたが、
  あくまで正式名はザフトのセイバーガンダムだ」
「まったく、ややこしい男だ!」
「俺はオーブとプラントの架け橋になれればいいと思ってるだけだよ、イザーク」

あくまでも冷静にアスランは答えていた

「おいおいイザーク、それぐらいにしておけよ。男をなじるよりも、
  オーブの綺麗な女性とお近づきになる方が、よほど楽しいぞ」
ハイネがなだめに入っていた
「・・・・・・・いえ。自分はそういうのは・・・・」
イザークの声が小さくなる
「なんだ、おまえ、女の方はダメなのか? もったいないなぁ。
  それだけ顔がよくて、ザフトの隊長なら、黙っていても女の方から寄ってくるぞ?」
「・・・・・・・・・」

ハイネがイザークをからかっている。そんなことをしていると、ホテルに着いた
さすがにプラントの議長が来るとあって、従業員などが総出で出迎えてくる。

「こういう大げさなのは、好かないんだがね」

デュランダルは苦笑しながら、ホテルに入っていった

ボーイに案内され、レストランに向かう。すでに特別席がもうけられており、
食前酒などが用意されていた

四人で席に着くと、すぐに前菜などが用意される
注文などする必要はなく、シェフが腕によりをかけて今日のオススメを作ってくれるらしい

ひとまず乾杯し、アスランは右腕に巻きつけたベールを、ポケットにしまった

「アスラン、その腕に巻きつけたものはなにかね?」
デュランダルがそれに気づき、声をかけてくる
「カガリが結婚式で、かぶっていたベールです」
「・・・・・そうか。ひどい事件だったと、私も聞いている」
「そうですね。仕方ないで済ませられる事件じゃありません
  防ごうと思えば、防げた事件のはずです。せめてフリーダムが・・・・いや、やめましょう」

アスランは深呼吸をして、気分を落ち着けた。すでに半月以上、あの事件から経過しているが、
毎晩夢に見る

カガリを殺す、ニコルの夢。

目の前でカガリが殺される。銃でカガリが殺される。ナイフでカガリが殺される。ニコルにカガリが殺される

いろんな方法でカガリが殺される

なのに自分は、牢につながれて動けず、目の前で殺されるカガリを見ていることしかできない

そんな夢を見て、夜中に目を覚ましたのは一度や二度ではない。決まって寝汗もひどかった

「ところで、君は話があるのではないか?」

デュランダルが聞いてくる

「ええ。ミーア・キャンベルのことです」
「ふむ・・・・・」

デュランダルは一つ、奇妙なことを行っていた。ラクス・クラインの影武者を作り上げたのである
それがミーア・キャンベルで、彼女は今、ラクスを名乗り、各地で慰問などを行っていた
ザフトではそれが好評で、コンサートでは兵士たちの人だかりができるらしい

「はっきり言います。あのようなことはやめるべきです」
「これは・・・・。やれやれ、君もまたはっきり言うね。だが、兵士たちがアイドルを求めているのも事実だ
  心を癒してくれる天使をね。だからこそ、私はラクス・クラインを作り上げたのだがね・・・・」

かなりきわどい話題になっているせいか、ハイネとイザークは黙りこくっている
アスランは首を振った

「アイドルが必要ならば、ミーア・キャンベルとして売り出せばいいはずです
  ラクス・クラインである必要はどこにもありません。それに、ラクス・クラインは生きているのですよ
  彼女が本物として名乗り出れば、議長はペテン師として糾弾されます」
「・・・・本当にはっきりと言うね」

かすかにデュランダルが目を細めてくる。さすがに威圧感があったが、
アスランはそれをはね返す

「議長のためでもあるのです、これは。ラクスを引っ張り続ければ、
  旧クライン派の影響がいつまでもザフトに残ります
  デュランダル議長は、新しい時代を作られる方と信じております
  ですので、いつまでもクラインなどという過去の遺物にとらわれず、
  独自の世界を切り開いていかれるべきです」

一気に言うと、デュランダルは笑みを浮かべた

「ラクス・クラインを・・・君の元婚約者を、過去の遺物とは・・・思い切ったことを言う」
「・・・・事実です。議長はラクス・クラインなど越えていくことのできるお方です」
「ふむ・・・・。そう言ってくれるのはありがたいが、どうするのかね?
  ザフトの歌姫は偽者でした。ごめんなさいと言って、私は笑われればいいのかね?」
「それに関しては提案があります」
「・・・・聞こうか」

するとアスランは、ホテルのボーイを呼び、耳打ちした
それからしばらくして、ボーイは小型の液晶テレビを持ってくる
アスランはそこに持っていたディスクを差しこみ、電源を入れた

映像が出てくる。MS戦の映像だった

「ほう・・・・これは、結婚式が襲撃されたときの映像か」
「そうです。カガリ暗殺に際して直接手を下したのは、ブリッツですが、
  その直前にフリーダムと赤いMSが乱入してきており、ブリッツはその混乱に乗じたと言えます」
「確かにな。この映像を見る限り、フリーダムとブリッツは共犯のようにしか見えない
  おそらくは無関係なのだろうが、オーブはもう、完全にフリーダムを暗殺犯の一味と断定しているようだしな」
「では、次にこれをご覧ください」

アスランはテレビを操作し、映像を切り替えた
今度はDXとフリーダムが向かい合っている映像だ
大雨の中、フリーダムのコクピットから身を乗り出し、なにかを訴えているラクスの姿がある

「これは・・・・ラクス・クラインか・・・・」
かすかにデュランダルは驚愕の表情を浮かべている
「そうです。先のオーブ防衛戦で撮影された映像です
  キラ・ヤマトとラクス・クラインは恋人同士であり、その意思は一体となっていると考えていい・・・つまり」
「この二つの映像を流せば、ラクス・クラインがカガリ・ユラ・アスハの暗殺に関わったと、
  人々は考えるだろうな」
「そうです。これによってラクス・クラインの人気は失墜し、クライン派の影響力を低下させることができます
  なにしろ前大戦で共に戦った、仲間を暗殺したという汚名を着るのですから」
「ふむ。しかしアスラン。君とて、ラクスやキラの仲間であったのだろう?
  確かにクライン派の力を削げるのはありがたいが、どういう心境の変化だね?」
「心のどこかで、うらんでいるのかもしれません。キラを、ラクスを
  彼らがいなければ、カガリは今も生きていたと・・・」
「・・・・・・・。」

デュランダルは沈黙し、腕を組んだ。デュランダルにしても、プラントに隠然たる影響力を持つ、
クライン派は邪魔なはずだ。そう踏んでアスランはこの提案をした

(俺は変わったか?)

自分に聞いてみる。アスラン・ザラらしくない謀略といえばそれまでだが、
どこかで限りなく非情になっていく自分も感じる
今でも、キラが目の前に現れれば、殺してしまいそうになるかもしれない

「このことを公表した後、ミーア・キャンベル自らが自分の正体を宣言すべきです
  これは議長は無関係であり、ミーアが独自に考え、実行した影武者計画であると」
「しかしアスラン。そんなことを彼女が納得するかね? それに、クライン派の怒りを買うことになり、
  彼女の身を危険にさらすことになりかねん」
「ミーアは私に惚れています。納得させる自信はあります。それに万が一の場合、私の部隊へ
  ミーアを帯同させましょう。それが彼女を守ることにもなります」
「・・・・・責任はすべて自分が負うというのか。わかった、君の計画を受け入れよう
  正直に言えば、私もラクス・クラインをどう扱うか、悩んでいたところなのだよ」

デュランダルが笑う。小型のテレビはDXになにかを訴えているラクスの姿を映し出している

アスランは冷徹な瞳で、その電源を落とした