クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第026話

Last-modified: 2021-06-12 (土) 18:09:58

第二十六話 『私を見て』
 
 
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『あはははは、確かに無様に生きるよりは、見事に死んだ方がいいですよねぇ
  あはははははは、珍しく僕は、共感できますよその意見』

頭上で鳴り響く、不愉快な笑い声。シンはそれをにらみつけた

「おまえ・・・・ネオをコケにする気かぁーッ!」

片腕だけで背中の収束ビーム砲を引き起こし、デスティニーと名乗ったMSへ放つ

バシュゥゥン!! ・・・・・しゅぅぅぅん・・・・

『ふー、なかなかの火力ですねぇ。デスティニーの性能チェックには、いい対戦相手かもしれません』
「な・・・直撃のはず・・・!? あの盾・・・?」

デスティニーはアカツキの収束ビームを受けきっていた。その手の甲に展開されているのは、
ビームでできたシールド。ビームシールド

『さぁて、それじゃ、みなさん・・・・今日もお仕事がんばりましょう!』

デスティニーが唐突に腕をあげると、海面からミサイルが多数放たれた
それは連合艦隊に放たれ、艦を二隻ほど沈める

「アッシュ・・・!? どうしてザフト製のMSがいるんだ!」

水中から連合艦隊を攻撃したのは、ザフトの新型水中用MS、アッシュである
少なくともザフトは、タカマガハラを襲う理由はない。友軍なのだ
危うく、シンは混乱しかけた

『下がれ! シン!』
「艦長!?」

インフィニットジャスティスがMA形態でこちらにやってくる。それは左腕をなくしたアカツキの前に立ち変形、
両腕両足、シールドに配備された五本のビームサーベルを開放すると、デスティニーに相対した

『こいつらはザフトじゃない!
  だが半壊の機体で勝てるほど甘い相手でもないぞ! こいつの相手は俺がする!
  おまえはヤタガラスに下がれ!』
「でも・・・・・・・!」
『ここでシン・アスカも、アカツキも失うわけにいかない! 撤退も勇気だ!
  戦争を終わらせるにはそういう勇気もいる!』
「・・・・・・・・ッ!」

そう言われれば、従うしかなかった。対峙する二機から背を向けて、ヤタガラスへ帰艦する

海面には、デストロイの残骸が浮かんでいた

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『やぁ、アスラン。お元気でしたか、しばらく会えなくてすみませんね?』
「ああ。俺はとてもおまえに会いたかったよ、ニコル・・・・!」

ぱぁぁぁん

アスランの頭で『種』がはじける。すでに迷いなどどこにもない
頭はクリアで、憎しみにとらえられてもいない
ただ、機械のようにニコルを殺せる

『ふふふ・・・・これはめでたく両想い、ということですね。ところで気分はどうですか、アスラン?
  キラ・ヤマトやアークエンジェルを落としたのでしょう?
  なにかあれば、『キラ』、『キラ』。そう言っていたあなたからは考えられないことです、それは』
「障害だった。だから取り除いた・・・・・・ただ、それだけだ・・・・!」

ギュォン!

一気に接近し、デスティニーに両腕のビームサーベルを叩きつける。回避された。すぐに反応し、
右足のサーベルをわき腹へ叩き込む!

ザシュッ!

斬るには斬れたが、浅い・・・!

『アスラン・・・・! いいですねぇ・・・! そういう冷徹なあなたも・・・・!』
「レイ、ルナマリア! アッシュから連合艦隊を守れ。ニコル、おまえの思惑は見え透いているな・・・?
  ガロード! ヤタガラスに戻って守備につけッ!」
『チッ!』

デスティニーが手のひらを広げた。悪寒。瞬時にジャスティスのシールドを構える

バシュン!

なんとデスティニーの手のひらからビームが放たれたのだ。それを防ぎ、アスランはにやりと笑う

「陰湿な隠し武器だな。おまえにお似合いだ、ニコル。奇襲、かく乱、挑発、おまえの手も読めてきたぞ!」
『アスラン・・・・!』
「目の引くような登場をしたのも、デストロイをわざわざ攻撃したのも、すべて俺たちを引き付けるためだろう・・・
  俺たちに降伏した、連合艦隊をアッシュで攻撃したのもな! そして別働隊が手薄になったヤタガラスを叩く
  そうそう貴様の台本どおりに動かされてたまるか!」

ザシュゥ!

シールドに内蔵したジャスティスのビームサーベルが、デスティニーの肩を切り裂く

『チィッ・・・・!』
「デスティニーかなにかは知らんが、インフィニットジャスティスに接近戦を許した時点で貴様は負けている」
『・・・・・クックック、あははははは! 勝ったつもりですか、アスラン!?』
「すでに俺には勝利などない! 貴様を討てれば十分だッ!」

右腕のサーベルを振る。デスティニーは身を沈めることでそれをかわしていた

『バカですねぇ、ほんとおバカさんですよ・・・・・! たった一機で『あれ』を防ぐつもりですか・・・・?
  あれは、僕ほど優しくないですよ!?』
「・・・・・・・・・!?」

アスランはレーダーを見て、モニタを確認する。少し遠くにあるヤタガラスへ、向かってくる一機のMS
見たことのあるシルエットだった・・・・・確か、前大戦の終盤で鬼神のような強さを見せた・・・・・!

『フフッ、懐かしいですか?』
「プロヴィデンス!? いや・・・・少し違う・・・・・」
『そう、前の戦争でラウ・ル・クルーゼが乗り、絶大な戦果をあげたMS・・・・プロヴィデンスの後継機、
  レジェンドですよ・・・・・。あれがどれだけ強いか、あなたもご存知でしょう?』
「・・・・・・・バカを言え! プロヴィデンスは、クルーゼが乗っていたから強かったんだ!
  それにあれのドラグーンシステムは、大気圏内では使えないはず!」

バチバチバチ・・・!

ジャスティスが振り下ろしたサーベルを、デスティニーがビームシールドで受け止める

『さぁて、それはどうですかねぇ。言ったはずですよ、あれは僕ほど優しくないって・・・!』
「・・・・・・・・!」

ヤタガラスの上空で、DXとレジェンドが相対している。ふと、アスランは不吉な予感に襲われた

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さっきまで敵だったインパルスと、グフが、今度は連合艦隊を守るためにアッシュと交戦を繰り広げている
それを見ていると、なぜか血が熱くなるような感じがした

「生きろ・・・・か。わかっていますよ。命令は完遂します、ネオ大佐
  ・・・・・・総員戦闘配置につけ! MSは順次発進! これより連合艦隊はヤタガラスを援護する!」

ネオの副官であったイアン・リーは、JPジョーンズで叫び声をあげた

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「ああん! 水中用MS相手に海戦だなんて、今日は厄日だわ!」

インパルスのコクピットでルナマリアは声をあげた

水中に特化したアッシュは、海でこそその真価を発揮する。反面、フォースインパルスのビームライフルなどは
海中では有効な武器とならない。結果、苦戦を強いられることになる

『ルナマリア。俺のグフならいくらか海中でも戦える・・・・。おまえは、援護を頼む・・・
  俺たちは連合艦隊を守ることに専念するぞ!」
「ええ!」

いつものレイの声。冷静なやり取り。ふと、なぜかルナマリアはそこに違和感を感じた
なにに違和感を感じたのか、レイのどこに違和感を感じたのか。それはわからない

考えている暇もなかった。海面にアッシュが顔を出したところへ、ビームライフルを放つ

バシュゥゥン、ドォン!

「よし、次!」

横を見る。レイのグフが、鞭で海中のアッシュをからめ取り、そのまま空中へ釣り上げると、
即座にビームソードでそれを真っ二つにした。まるで一本釣りをしているようだ

『ヤタガラス。私は『ファントムペイン』副官、イアン・リーである
  降伏のため、我らはオーブの所属となった。ゆえに、これより貴艦を援護する!』

「え・・・・・? やった!」

ルナマリアは思わず手を叩いた。連合艦隊から次々とダガーLが飛び出してくる
これで戦闘がかなり有利になるのは間違いなかった

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ヤタガラスへ、片腕を失ったシンのアカツキが帰艦する。そんな時だ

レジェンド。そういう名のMSがこちらにやってくる
ニコルはそれ一機でヤタガラスに奇襲をかけるつもりだったらしく、
他に機影は見えない

ガロードはもみ手をして、敵を見つめた

「ヘッ、一機でおでましとは、このガロード・ラン様もなめられたもんだぜ!」

バスターライフルを構える。どれほどの相手かは知らないが、
レジェンドに乗っているのがキラ・ヤマトでもない限り、単独で退ける自信は十分にあった

(・・・・・・・・?)

なにかふと、ガロードは違和感を感じた。全身にまとわりつくような、違和感である
レジェンドを見る。なにか、気持ちが悪くなってくる

レジェンドがそんなこっちの気持ちを知ってか知らずか、ビームライフルを放ってくる
DXは横に移動することでそれを避けた。

瞬間・・・・・!

ぴしゅん、ぴしゅんぴしゅんぴしゅんぴしゅん・・・・・バシュバシュバシュバシュバシュゥゥゥン!

「がはッ・・・・!?」」

レジェンドの背にあった小型の砲塔が次々と鳥のように飛び立ったかと思うと、
次の瞬間にはそれがDXめがけてビームの一斉攻撃をかけ、それをもろに受けたのだ

(は・・・・反応できなかった・・・・!?)

ガロードはこの手の敵と戦ったことがある。遠隔誘導が可能なビットを操る、
人工ニュータイプカリスとの戦いである。最初はビットに苦しめられたが、
最後はビットをビームライフルで撃墜し、ついにはカリスを倒したのだ

だから反応できるはずだ、この手の武器は・・・・・

バシュバシュバシュ・・・・!

またも全方向からビームの雨が降ってくる。ガロードは冷静にそれを見極めて、
回避しようとした・・・・が

ドォン! ドォンドォンドォン!

「あがっ・・・!」

回避しきれない。敵の無線誘導ビーム機動砲は、
カリスのビットなどとは比べ物にならない命中精度でやってくる
        
そう、まるで、『人の心を読んでいる』ような・・・・・

(え・・・・?)

ガロードは不意に、恐ろしいことを考えてしまった
いるのだ、一人。そういう能力を持つ少女が

「ま・・・さか・・・な・・・。あはは・・・・俺、なに考えて・・・・」

全身を嫌な汗が流れていく。DXはかなりの損傷を受けているにも関わらず、そんなことはどうでもよくなった

お願いガロード・・・・・・こっちを見て・・・・・・

私を見て・・・・

「え・・・・?」

声が聞こえる。懐かしい声。好きな声。でも今はとても悲しい声。

こんな再会など予想できるはずもない。もっと平凡でよかった
劇的な再会など必要はない。ありふれたものでよかった

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

ありえはしない。可能性などない。そんなことはおかしい
叫びたい。声が出ない。喉がはりついている。動けない

なぜだなぜだなぜだ

「ティファ・・・・・? そこに・・・・いるのか・・・?」

ガロードは呆然としたまま、レジェンドを見つめた

『ガロード・・・・助けて・・・・ガロード・・・・!』

今度ははっきりと声がした。レジェンドから通信が入る
同時にコクピットの様子もDXにモニタされた

全身に汗を浮かべ、荒い息を吐き、泣きそうな目になっているティファが、コクピットに座っている

「あ・・・・ティファ・・・・?」

まだ信じられない。やっと出会えた。でもなぜティファが攻撃してくるのか・・・・?

『ガロード、ダメ・・・・逃げて・・・・・!』

レジェンドの中のティファが叫ぶ。彼女の目からは涙がこぼれ落ちた

ザシュゥゥゥ!

そしてレジェンドは、ビームサーベルを引き抜き、DXの右腕を斬り落とした

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小さなプラントである。忘れられたプラントと言ってもいい
地図にもない場所だった

そこには小さな屋敷がある。そこで一人の男がチェスをしていた
相手もおらず、一人で黙々と駒を動かしている

「さて、そろそろ潮時かも知れんな・・・・」

男はチェスを動かす手を止め、微笑を浮かべた。
壁にかけられた大きなテレビに、演説をするデュランダルの姿があった

「留守番は退屈かね。アウル・ニーダ?」

男は振り返り、ソファで寝転んでいる少年を見た

「べっつにぃ・・・・。ただ、俺もいいMSが欲しいよ。アビスじゃぜんぜんダメだ」

アウルがそう言って、大きなあくびをする
アウルはユニウスセブンでニコルが捕獲した、強化人間だった
それを確認したとき、すぐにアウルには再洗脳をほどこし、『こちら側』に引き込んでいる
今はアビスガンダムを駆る、大事な兵士だった

「ふむ。アビスも一応、最新型なのだがね。いつまでも機体のせいにしていては、
  パイロットとして成長しないぞ? ニコルのブリッツカスタムは、アビスより能力が低いが、
  それでもニコルは君より強い」
「はっ、説教はやめてくれよ。はいはい、どうせ俺は地上でセイバーだのフリーダムだのに
  さんざんやられましたよーだ」

言って、アウルはふてくされたようにこちらへ背中を向ける。男はまた、微笑を浮かべた

「ヤタガラスを知っているかね、アウル?」
「は? カラスぅ?」
「まぁ、見てくれたまえ。少し驚くよ」

男はテレビの画面を切り替え、戦場を映した。そこでは漆黒の戦艦と、戦闘を行うMSがある
どれもこれも凄まじい性能や操縦技術で、大軍を圧倒していた

「こいつら・・・・・」
アウルが声をあげている
「インフィニットジャスティス、アカツキ、ガンダムDX。まったくよくここまでとんでもない兵器をそろえたものだよ
  ほら、フリーダムもやられた。彼らを、私は敵に回したくないな
  私のかわいいお人形が、今、ヤタガラスにいるのは幸いかな?」
「チッ・・・・あーあ、俺もこんなMSがあればな・・・・!」
「ところでアウル。君はこの世界とは別の世界の存在を信じるかね?」

不意に男がそう言って、アウルに笑いかける

「は・・・・? あんたなに言ってんの? 悪いモンでも食ったのかよ?」
「ふふ、私は正気だよ、アウル。この世界とは別の世界。いくつもの並列した世界
  パラレルワールドとでも言おうか。そういうものの存在を信じるかね?」
「そりゃ、無茶だろぉ・・・・。あるわけねーし」
「では、面白いものを見せてあげよう・・・・。ついてきたまえ」

男は立ち上がり、部屋にある本棚をなにやらまさぐった

ゴゴゴゴゴ・・・

すると本棚が動き、そこへ扉が現れる

「うわ、すげぇ古典的な隠し扉」
「アウル。こういう場合は、味があると言うのだよ」

言いつつ、男は扉を開けた。アウルもおとなしくついてくる。中は地下へ続く階段になっており、
かなり深い。しばらく歩いていくと、扉が見てきた

ぎぃぃぃぃ・・・

不愉快な音を立てて、扉が開く

「格納・・・庫・・・・?」

中に入ると、アウルが驚いて見回していた。ジンやゲイツといった、ザフトの旧式MSが立ち並んでいる

「なかなか広いだろう?」
「ケッ。でもご大層な割には、旧式ばっかじゃん」
「では、君の目にあれはどう見える?」

男は格納庫の一番奥にある、赤いMSを指差した。真紅の塗装であり、顔はジンに似ている
しかし他のものよりサイズは一回り大きかった。背中にはなにか大きなものを背負っている

「・・・・・ジンの新型? いや、やけに大きいな・・・・それに重武装で・・・・」
「あれがいつここにやってきたのか、なぜここにあるのか、誰も知らない
  ただあれは、この世界の技術とは一線を画したMSだ
  ゆえに代えもきかないし、一度破壊されれば終わりだ」
「それじゃ、あまり使えないじゃん・・・・・強いのかよ?」
「ふふっ・・・・なぜかは知らないが、私だけがこれを扱える・・・・・。本当にどういうわけかな・・・
  その性能は、あのフリーダムさえおよばない。私の切り札だよ、このMSは・・・・」

アウルはじっと赤い機体を見上げていた

「じゃあ、これがあんたの言う、別世界の証拠かよ・・・? こいつが別世界から来たって?」
「さぁな。だが、運命が私を導いているのかもしれん。さて、ではアウル。我々も行こうか
  『運命』を切り開くためにな。偽りのデュランダルには退場してもらおう」

男が笑う。格納庫の赤いMSは沈黙したまま、なにも語らない