クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第039話

Last-modified: 2016-02-16 (火) 00:01:54

第三十九話 『なんだ・・・・これは・・・・・?』
 
 
==========================

凶報が、飛び込んできた。アスランが食堂でワカメラーメンを食べながら、シンやガロード、
ルナマリアとMS談義に花を咲かせていた時のことだ

オーブ兵が飛び込んできて、アスランに耳打ちする
アスランの顔から血の気が引いた。即座に立ち上がり、告げる

「シン、ルナマリア、すぐにヤタガラスに戻れ
  第一種戦闘配置。おまえたちはMSで待機だ。ガロードも頼む
  俺から指令が出たら、すぐにMSを出せ。レイも呼び戻せよ」

指示すると同時に立ち上がり、アスランは椅子にかけてあった上着を羽織る
オーブ軍服だった

食堂から早足で出て、真っ先にラクスが軟禁されている施設に向かう
すでに衛生兵は集まっていて、医師の姿も見えた。テクスもいるようだ

「艦長か」
「ラクスが毒を盛られたというのは、本当ですか、ドクターテクス?」
「ああ。予定のない夕食が配膳されて、それに混入されていた
  今、水を何度も飲ませて吐かせて、胃洗浄をしている」

テクスが告げると同時に、ぐったりとした感じのラクスが手洗いから出てきた
意識は失っているようで、医師が二人がかりで運んでいる

「どれほどの毒を?」
「なかなか強烈なヤツだ。監視カメラでガチガチに監視していなければ、即死だったろう」
「ラクスの容態は?」
「わからん。これから調べてみる・・・・」

言い残し、テクスはラクスの方へ向かった。テクスは医師たちになにか指示をしている
小型の医療施設を背負ったトラックが到着し、ラクスはそこへと運ばれた

運ばれていくラクスの顔は土気色で、死人のようだ。アスランは大きく足元がぐらつくのを感じた

もしもラクスが死ねばどうなるか。正直なところ、読めなかった
しかしクライン過激派が旗印を失って混乱するのは間違いない。それで彼らの動きが沈静化すればいいが、
より過激な動きを見せることもありえた

なにより一番怖いのは、今回の事件をオーブの仕業にされることだった
はっきり言ってオーブにラクスを殺すメリットはほとんどないが、カガリ暗殺の報復と見られる可能性はある

(まわりまわってきた因果か・・・・!)

アスランは歯噛みした。カガリ暗殺の実行犯に、ラクスを祭り上げたのは自分である
その因果が、こういう形でめぐってくるとは思わなかった

「ぼんやりしてる場合じゃない・・・・」

アスランはすぐにヤタガラスへ連絡する。索敵と、アカツキとDインパルス、グフを出しての周辺警戒を命じた
ただ、こんなことで捕まってくれるほど暗殺犯も馬鹿じゃないだろう
しかしなにもしないよりマシだった。真犯人を捕まえられれば、オーブの潔白は証明される

オーブの警察も動いていて、大規模な検問が開始されるはずだ
ユウナに会いに行くべきかと思ったが、ユウナ自身それどころではないだろう
事件の対処に忙殺されるはずだ

「情報が少なすぎる・・・・」

頭を動かす。ラクス暗殺の犯人は誰なのか。考えれば考えるほど、誰もが怪しくなってくる
ひとまず思考を止めた。今は、犯人逮捕を願うばかりだった

==========================

どうにかラクスが一命を取り留めたという報告が入ったとき、ユウナは安堵で腰が抜けそうになった
正直、ここでラクスに死なれてはなにもかもが水の泡である
プラントに脅しをかけるはずの爆弾が、手元で爆発してはシャレにならない

急いでマスコミを集めて、ラクス暗殺事件を公表する。最初は事件そのものを隠蔽するかとも考えたが、
それはかえって逆効果だとユウナは判断した。そもそもオーブは暗殺事件に関与していないのだから、
堂々としていた方がいい

「やったのは、プラント・・・・いや、デュランダルかな」

父のウナトが、記者会見を終えた後、そっとつぶやく
しかしユウナは首を振った。確かにラクスが死んで一番喜ぶのはデュランダルだろうが、
ラクスを殺す理由をたくさんの人間が持っている。ユウナ自身も含めて、だ。断定は危険だった

ラクス本人が光り輝いているがゆえだった。多くの光は、また多くの影を生む
救国の歌姫と慕う人間もいれば、卑劣なテロリストと憎む人間もいるのだ

しかしラクス自身、どうにか一命を取り留めたものの、意識が戻っていない
これをどうするべきかも頭が痛かった

(しかし好都合かもしれない・・・・)

ユウナは思う。ラクスが生きているという事実が大事なのだ
死ねばクライン過激派がどんな行動に出るかはわからないが、
生きてさえいれば、そう無茶はしないだろう。そしてラクスは意識がないため、命令を下せない
つまりクライン過激派は、振り上げたこぶしをどうすればいいのかわからない状態になる

今はオーブの病院で、MSも動員されるほど厳重な警戒の下、ラクスは治療を受けている
とにかくどういう形でもいいので、ラクスを生かせとユウナは命令していた
一命を取り留めたとはいえ、危ない状態に変わりはない

プラントは奇妙だった。ラクス暗殺事件の詳細をすぐに報せたが、
ヤタガラスの参戦要求をしただけで、ラクスに関してなにも言ってこない

(わざと無視しているのか・・・・?)

いくらかわざとらしい態度だった。プラントは、捕虜としてラクスやキラ、
あるいはストライクフリーダムといったMSが欲しいはずである。にも関わらず、一向にそれを要求してこない
理由として考えられるのは、プラント本国に戻せばラクス奪還のため、
クライン派がとんでもない行動に出る可能性があるということだが・・・・

正直なところ、デュランダルがわからない。彼は戦前に比べ、大きな発言力を持つようになっている
戦争中、デュランダルが地道に戦地をまわり、またロゴス糾弾の演説を行ったことで、
一躍彼はプラント、地球も含めた双方の英雄となった。それゆえプラントでの支持は絶大で、
他のプラント代表評議会議員も、デュランダルにまともな意見さえ言えない状態になっている

それにザフトも、デュランダルの私兵に近い状態となっていた

(独裁者にでもなるつもりかな・・・・)

ユウナはラクスがいる病院からの帰り道、車に乗りこみながら考えた
周辺ではムラサメが警備に当たっていて、物々しい雰囲気がある

独裁が絶対に悪い、ということはない。それに政治家なら一度は独裁者にあこがれる
なぜなら、かなり強い権力がなければ思い切った改革などできはしないからだ
それを考え合わせてみれば、デュランダルはなにか改革をやりたがっているということになる

「ま、今はラクスで精一杯か・・・・」

病院でラクスを見てみたが、ひどい状態だった。生命維持装置をつけているラクスを見たとき、
生きている人間だとは思えなかった。死体が呼吸をしている、とさえ思った

(死ぬかもしれない)

そう考えると、頭が痛くなる。こんなことなら無理矢理にでもプラントへ引き渡した方がよかったかもしれないと、思う
しかしいまさら言っても始まらなかった

あちこちの検問でユウナの車は止められた。オーブ警察は全力で犯人を捜しているが、一向に成果はあがらない
犯人はオーブ軍服を着た金髪の美女だという話だが、影も形も見当たらなかった

やがてオーブの港が見えてくる。そのドックで、ユウナの車は止まった
作業員たちはせわしなく働いており、飛び交う声がやかましい

ユウナは護衛と共に、ドックの中へ入った.。ヤタガラスはすでに発進準備を整えている
不意に、黄金色のMSが目に入った。その足下には、一人の少年がいる

「これがアカツキか。写真では見ていたが、実物を見るの、僕は初めてだな」
「ユウナ代表」

シンがこちらを振り向き、敬礼してくる

「アカツキはどうだい、シン・アスカ?」
「いいMSだと思います。フリーダムも、こいつの装甲があったせいで落とせたようなもんですし・・・・
  でも、キラのストライクフリーダムには勝てませんでした・・・・・・」

かすかにシンがうつむく。ユウナはアカツキを見上げながら、つぶやいた

「キラの『ストライクフリーダム』、なんという意味なのかな。当たる自由? 打つ自由?
  それとも、『攻撃する自由』とでも言えばいいのかな」
「え・・・・?」
「オーブの理念に、『攻撃する自由』などない。他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない
  このアカツキはその理念を護るために造られたMSだ。ただ、最強の守り手であることを願われてね
  だからこのアカツキは勝者であることを求められていない。ただ、敗者にならなければいいんだ」
「・・・・・代表、一つ聞いていいですか?」
「なんだい?」

シンが、じっとこちらを見つめてくる。まっすぐな瞳だと、ユウナは思った
政治家には不向きだろうが、好感を持てる

「どうしてオーブは、そんな理念を掲げたんですか? 結局、その理想のため、前大戦では人が死にました
  俺の両親も、妹も・・・・・。俺、国の理念なんかより、人の命の方が大事だと思います
  そんな理念、守っていったいなにになるんですか?」
「・・・・・・やれやれ、オーブの代表に、キツイこと言うなぁ」
「すいません。バカなこと言ってるって、わかってます。でも、どうしても聞きたくて・・・・・」
「正直なところ、僕もなぜこんな理念があるのか、はっきりとはわからない
  ただ、推測は述べられる。まぁ、僕なりの答えかな」
「なんですか、その答えは?」
「知っているかい? 今、オーブには亡命者があふれている
  世界各地から、平和を求めて人々が逃げてきているんだ」

事実である。オーブ防衛戦以後、人々はオーブに安寧を求めて押し寄せてきていた
地球連合とも、プラントとも同盟を結ばなかったオーブに、平穏を求めたのだろう
そして現にオーブは、平和だった

「そうだったんですか・・・・・」
「つまり、そういうことなのさ」
「?」

ユウナが言うと、シンは首をかしげた

「オーブは『避難所』なんだよ。世界中の人々の。ここに来れば、戦火に巻き込まれない
  ここにくれば戦争がない。世界にどれだけ激しい戦争があっても、オーブだけは平穏を保っている
  そういう避難所が、世界に一つぐらいあってもいい・・・・・
  僕は、オーブの理念とはそういうものじゃないかって思ってる」
「・・・・・・でも、前の大戦じゃ」
「そうだ。君の家族を例に出すまでも無く、理念のために多くの人が死んだ
  戦争をきっかけに、オーブを出た人も多い。君は・・・・理念とはそこまでして守るべきものだと思うか?」
「思いません。俺は、人の命には代えられないと思います」

しかしユウナは首を振った。

「僕はそうは思わない。血を流してでも、守られるべき理念だと思う」
「そんな!」
「・・・・・・もう、血は流れたんだ。理念のために多くの人が死んだ
  だからこそ、貫かなきゃいけない。世界にたった一つ、平和を維持し続ける国である、ということを
  だが、二度と民の血は流すものか
  そのためのアカツキであり、ヤタガラスであり、タカマガハラだ
  僕は流した血に誓って、二度と過ちは繰り返さない。民を誰一人、戦争で死なせはしない・・・・」

軍人はともかく、戦争開始以後、オーブの一般市民が受けた戦争の被害は0である。
死者はおろか、怪我人さえでていない。建物も無事だ
それがたった一つ、ユウナが誇れることだった

「・・・・大丈夫なんですか? 本当に、もう・・・・」
「・・・・・・・・全力を尽くす」

正直なところ、オーブの足場は極めて危うい。デュランダルの圧力と、ラクスの暗殺未遂。
この二つがどう転ぶか、正直なところユウナには見極めきれない
しかし国家元首が、泣き言など言ってられなかった。すでに賽は投げられたのだ

ヤタガラスに入り、アスランと会った。アスランの顔色は悪く、少し青い
自分を責めているのだろう。彼は、ヤタガラスのクルーにラクスの居場所を公表していた
そこから情報が漏れたと考えているに違いなかった

「あまり気に病むな、アスラン。ラクスは生きているんだよ」
「いえ・・・・・」
「それよりヘブンズベース攻防戦のことが心配だな。アイスランドは遠い上に、かなりの激戦になるんだろう?」
「・・・・ザフトは勝ちます、それでも。ヘブンズベースのことは心配いりません・・・・・」
「わかった。でも正直、嫌な予感がしている。作戦が終わったら、すぐにオーブへ戻ってきてくれ」
「はい。幸い、ヘブンズベースまでは友軍の戦力圏内です。数時間で行き来ができるでしょう」

それからいくらか話をしたが、アスランの表情は冴えない
こうなったら下手な慰めなど言えなかった。それに形はどうあれ、終戦が近いのも事実だ

ヤタガラスを出て、オーブ宮殿に戻る。山のような執務が、そこに待っていた

==========================

「オーブに残るのかよ?」

少し意外そうにシンが言った。ヤタガラスの休憩室である。ラクス暗殺というトラブルとは関係なく、
荷物の搬入といった発進作業は予定通り終わっている

「ああ」

ガロードは少し気まずさを感じながらうなずいた。しかしもう決めたことだった
ヘブンズベース攻防戦には参加せず、オーブに残るつもりだ

「なんで・・・・・また・・・・」
「理由は三つだ。ザクで生き残る自信がねぇ。終戦が近いから、ティファを探しに行く準備をししてぇ
  それと、アスランに頼まれた」

ガロードは嘘をつくつもりはなく、事実だけを坦々と語った。確かにザクの操縦はだいぶ上手くなったが、
それは一般兵を少々上回るぐらいだ。それで生き延びられる、などと自信満々にはいえない
そして終戦を迎えれば、ザフトの動きは小さくなる。それでは『FAITH』権限を使用して、
ティファの探索などが行いにくくなるのだ。

「・・・・・艦長が? ガロードに残れって?」
「なんか不吉な予感がするんだってさ。まぁ、ラクスが殺されかけたせいだろうけどよ
  だから俺がオーブに残るって言ったら、頼むって」
「そっか・・・・・。だよな、ラクスは殺されかけた・・・・」

腕を組んでシンは考えているが、ガロードはなんとも言えない気分だった
正直なところ、あまりラクス・クラインに対していいイメージはない
救国の歌姫と称えられているわりには、やっていることがかなりえげつないのだ

「わりぃな。なんか戦場から逃げたみたいで」
「いや、ガロードは『FAITH』だからさ・・・・。別になにも言われないとは思うけど・・・・・
  でも、正直俺も嫌な予感がしてる・・・・・。予感なんて、あてにならないけど・・・なんだろうな、これは・・・」

シンもどことなく不安そうだった。それは戦場が怖いとかそういう不安ではなく、
なにか未知のものを恐れているような感じだった

ガロードはそれから、テクスやキッドといった元フリーデンクルーとも会った
ひとまず彼らもヤタガラスには同行するらしい。残るのは、ガロード一人だ

他のフリーデンクルーがどうしているのか気になるが、ハイネからこれといった報告は無い

(戦艦の調達とか、難しそうだけどな・・・・)

ひとまず、海上航行も可能な陸上戦艦を一隻、ザフトから借りようと思っていた
それほど大きくないものがいい。ザクは当然、手元に残した

ガロードは、ドックの片隅に積まれたDXの残骸を見上げる
いまだに修復される気配はない。早くラクスの問題を解決させて、
ヴァサーゴのルナチタニウムをはがす許可が欲しかった

「すまねぇな、ダブルエックス・・・・・・。もう少し我慢してくれよ?」

こんこんと、DXの装甲を叩く。少しだけ暖かい気がした

==========================

ヤタガラスは最大速力でヘブンズベースに向かった。戦闘さえなければ、
オーブからアイスランドまで数時間でつく

事実、オーブを離れたと思う頃には、もうザフトの大艦隊が見えてきていた
これまでは敵の大艦隊と向かい合うことが多かったが、味方だと思うと頼もしい
ザフトの艦隊中央には、ミネルバという懐かしい顔もあった。デュランダルがそこに搭乗しているようだ

(どうするかな・・・・・)

やはり、アスランは一度、デュランダルと顔をあわせるべきだと思っていた
考えてみれば、オーブ防衛戦以後、一言もしゃべっていないのだ
それに、ガイアをヤタガラスへ借用する、正式な許可が欲しい

もっとも、ガイアはともかく、カオスにパイロットはいないので、返そうと思っていた

「メイリン、ミネルバと通信を開いてくれ。シンゴ、ヤタガラスをミネルバの横につけろ」

言うと、ブリッジのメインモニターが切り替わり、ミネルバに繋がれる

「お久しぶりね、アスラン」

メインモニターに金髪の女性が映る。ミネルバ艦長、タリア・グラディウスだ

「お久しぶりです、タリア艦長」
「聞いているわ、八面六臂の大活躍。あなたのおかげで、戦争も思ったより早く終わりそうね?」
「いえ・・・・・。デュランダル議長は、おいででしょうか?」
「ええ。いらっしゃるわ。替わるわね?」

それからモニタが切り替わり、長髪の男性が映し出される

「お久しぶりです、デュランダル議長。タカマガハラ第一部隊ヤタガラス艦長、アスラン・ザラです」
「うむ。久しぶりだね」

言って、デュランダルは笑いかけてくる。いつもの、柔らかい笑みだった

「早速ですが、ヤタガラスへガイアを編入する許可をいただきたいのです
  カオスも持ってきておりますが、これはお返しします」
「ふむ・・・・・。強奪機体はこれで、アビス以外すべて取り戻したことになるのかな
  いいだろう。ガイアは、タカマガハラで運用してくれたまえ」
「ありがとうございます。レイ、カオスをミネルバへ運んでくれるか?」
『了解しました、艦長』

ヤタガラスのMSデッキから、カオスが顔を見せて、ミネルバへと飛んでいく
ミネルバにそれが収容されるのを見届けると、アスランは再びデュランダルを見つめた

「ところでアスラン。戦争が終わったら、当然ザフトに戻ってきてくれるのだろうね?」
「はい」

デュランダルの問いに対し、平然とアスランはそう言ったが、微妙なところだった
『FAITH』権限をうまく使って、ニコルを探し、追い詰めて殺す予定だが、
もしもザフトが自分の邪魔になるなら抜けるつもりでいる

「うむ。期待している。シンもルナマリアもレイも、早くザフトへ戻ってきて欲しいものだ
  ヤタガラスのパイロットといえば、もうエースの証みたいなものだからね」
「・・・・・・・・・・」

予想していたが、いくらかおかしな感じだった。ユウナの言うとおり、真っ先にすべき話題である、
ラクスやキラの話をまったくデュランダルはしてこない。知らない、ということはないはずなのだ

「ところでアスラン、ミーアを知らないかね?」
「ミーア・・・・ですか?」

少しアスランはどきりとした。オーブから出て以来、ミーアとは数度の通信をかわしたぐらいだ
なにしろ忙しすぎて、ほとんど会う機会も無い

「うむ。オーブに向かったはずなのだが、入れ違いになったのかな・・・・・
  まぁいい。今回の作戦、ヤタガラスは後方に待機しておいてくれたまえ」
「はぁ・・・・・」

奇妙な申し出だった。正確な戦力はわからないが、ヘブンズベースにはかなりの兵力が集結している
猫の手も借りたいはずだ。ましてや、三本足の神鳥の手を、借りたくないはずがない

とはいえ、後ろに下がってろと言われるのがありがたくないわけがない
言われたとおりにアスランは、ヤタガラスを下がらせた

==========================

デュランダルはロゴスに対して降伏勧告をしたが、
それに応ずる前にロゴスはこちらを攻撃してきた

激戦の火蓋が切って落とされる
ザフトや反ロゴス同盟の軍が、ヘブンズベースへ進軍していく

「ハイネ・ヴェステンフルス、グフ、出るぜ!」

『ジュール隊、イザーク・ジュール、スラッシュザクファントム! 出るぞ!』
『まぁ、張り切っちゃって・・・・・ジュール隊、ディアッカ・エルスマン、ガナーザクウォーリア、発進する!』
『ジュール隊、シホ・ハーネンフース、ブレイズザクウォーリア、行きます!』

ミネルバから発進したグフの後方に、三機のザクがついてくる
ザクに飛行能力はないため、支援戦闘機『グゥル』に乗っていた
本来ならイザークにはグフが割り当てられる予定だったが、その白いグフはヤタガラスのレイが使っている

「正直、議長のおそばを離れるのは、いい感じがしないんだけどねぇ・・・・」
『申し訳ありません』

ハイネがつぶやくと、イザークが謝ってきた

「いや、別にいいんだよ。イザーク、おまえの戦功を立てたいって気持ちも俺はわかる
  ほとんど護衛任務だったからな。まぁ、ミネルバの守りは、残りのジュール隊に任せるよ」

言いつつ、ハイネは振り返った。ミネルバのMSデッキに、サザビーネグザスの姿が見える

(まさかね・・・・)

ハイネは胸中に浮かんだ疑念を打ち消した。まさか本気でデュランダルが戦場に出る、なんてことはないと思う
一種の士気高揚だろう。指揮官みずからが戦うかもしれないということは、それだけで兵士の士気をあげる
実際に出る、なんてことはないはずだ。そうなら、長くデュランダルに付き添ってきた自分を、離れさせるわけがない

ただ、納得はできていない。功績を立てたいと、先鋒を志願したのはジュール隊である
ハイネは関係ないので、デュランダルのそばにいることを望んだが、なぜかジュール隊の指揮を任された

自分がデュランダルのそばにいると、なにか不都合なことがあるのか
ただ、最近のデュランダルが旧ザラ派の人間を取り込んでいることが、気になると言えば気になる

「クゥー! すごいお出迎えだな!」

ハイネは雑念を打ち消した。すでにヘブンズベースでは上陸地点を境に、激しい攻防戦が繰り広げられている
ウィンダムの数もすごく、ゲルズゲーやザムザザーといった防衛型MAの姿も見えた

『邪魔だ、どけぇぇぇッ!』

スラッシュザクファントムの巨大な戦斧がうなりをあげ、ザムザザーを両断する

「張り切るのはいいが、出過ぎるなよイザーク! 四機の陣形を崩すな!」
『大丈夫です、俺は冷静です!』
「そのセリフはどっかの坊やみたいで、信用できないんだよ!」

言いつつ、ハイネのグフは、ウィップでウィンダムの頭部を吹き飛ばし、ソードで斬り捨てた

戦況は、ザフト有利に見えた。ヘブンズベースにもかなりのMSが集結しているが、
数は圧倒的にザフトが上だ。それに士気も違う。ロゴスの悪行が暴露された今、
敵兵は自分たちがロゴスのために戦うことを疑問に感じている

「よし、上陸するぞ! ジュール隊、グゥルを捨てろ!」
『『『了解!』』』

ザフトのMSが、突破口を切り開いた。すぐさまハイネのグフは着水し、徒歩で上陸する
グゥルを捨てたザクたちもそれに続く

ゴゥン・・・・

なにか、地響きのような音が聞こえた。そうハイネが思った瞬間だった

ドゥン・・・・・・・・ドゥン・・・・・・・

「な・・・・・に・・・・?」

思わずハイネは目を疑った。デストロイである。オーブ防衛戦で魔物のような強さを誇った巨大MSが、
そこにいる。いや、いるだけではない。それがなんと五機、いる

『デストロイか・・・・相手に不足は・・・・!』
『バカ! イザーク、ありゃザクじゃ無理・・・・!』
『隊長!』

スラッシュザクファントムが、デストロイへと飛び出す。ハイネは叫び、グフでザクを蹴飛ばした

「バカ野郎・・・・! 相手の力量ぐらい・・・・・!」
『ハイネ・・・・?』

しゅぅぅぅん・・・・

デストロイが五機、一斉にビームを放たんと、動き出す。ハイネの全身から、血の気が引いた

「ベイルアウトだッ! ジュール隊・・・・ッ!」

叫んだ瞬間、ハイネの視界はビームに包まれた。遅れて、グフが消滅する音が聞こえた

==========================

デストロイが五機、姿を見せた。そう思った次の瞬間、凄まじい勢いのビームが、
ヘブンズベースに向かっていた第一陣を吹き飛ばしていた

「ハイネ機、撃墜されました・・・・! ジュール隊、ロスト!」

ミネルバのオペレーターが悲鳴のように叫ぶ。タリアも口元を押さえていた
まさか、の事態である。たやすくヘブンズベースを攻略できるとは思わなかったが、
デストロイを量産しているとは思わなかった

「なんてことなの・・・・・。議長、ここは一度退き、ヤタガラスにも参戦要請を・・・・」

そう思ってタリアが振り返った瞬間、そこにいるはずの人影が無かった

「議長なら・・・・MSデッキへ向かわれましたが・・・・」
副官のアーサーが、情けない声を出している
「なんですって! どうして誰も止めなかったの!」
「と、止められませんよ・・・・議長ですよ!」

タリアが舌打ちすると同時に、ミネルバのカタパルトが開いていく
サザビーネグザスが発進準備に入っていた

「ちょっと! 誰が発進許可を出したの!」
『私だよ、タリア』

ブリッジのモニタに、デュランダルの顔が映し出される。そこはサザビーのコクピットだった
彼はパイロットスーツも着ておらず、いつもの格好でMSに乗っている

「おやめください、議長! MSの操縦経験もない方が、戦場に出るなど危険すぎます!」
『無傷で平和は勝ち取れないよ。それに、デストロイを放っておくわけにはいかないからね・・・・』
「ヤタガラスに参戦要請をします・・・・・。アカツキやジャスティスなら、デストロイを破壊できますよ!」
『フッ・・・・・。ギルバート・デュランダル、サザビーネグザス、出るぞ!』
「議長・・・・ギル!」

タリアの制止を聞くまでも無く、サザビーはカタパルトから飛び出していった
それは凄まじい機動性で、みるみるうちにヘブンズベースへと近づいていく

サザビーネグザスに気づいた一機のデストロイが、方向を変えた
なにしろサザビーは並のMSより大きく、目立つ

ドシュゥゥゥン!

デストロイから大出力のビーム砲が、サザビーへと放たれる。思わず、タリアは目を閉じた

==========================

スラッシュザクファントムのコクピットである
すでに機体は半壊し、救出を待つ状態になっていた

「だから、言わんこっちゃないだろ、イザーク・・・・。アスランへの対抗意識は捨てろって!」
「黙れディアッカ! あの凸ハゲのことを俺が意識していると・・・!?」
「どうでもいいですから二人とも、狭いコクピットで喧嘩しないでください! きゃあ! ちょっとお尻!」

ハイネの頭上で、ジュール隊の三人が喧嘩している。思わずため息をついた

「どうでもいいから静かにしてくれ。1バカ(イザーク)、2バカ(ディアッカ)、3バカ(シホ)」
「「「誰がバカですか!」」」
「しかしコクピットに四人、というのは狭いな・・・・」

ふぅっと、ハイネはため息をつく。直前にグフから脱出したのでどうにか生き延びたが、
イザーク機以外は全滅だった。しかもスーツの保温機能が調子悪く、
あわててイザーク機に乗り込んだのだった

寒風吹きすさぶ、ヘブンズベースである。数時間も外にいれば、たちまち凍ってしまうだろう

(しかしいつまでもこうしているわけには・・・・・)

ハイネは自分の頬をなでた。情けない。『FAITH』がとんでもない無様である

「ん・・・・。おい、隊長さん。あれサザビーじゃないのか?」
不意に、ディアッカが言う。ザクのモニタに、赤い影が映っていた
「なんだと・・・・議長が出られるわけ・・・・なっ!?」
イザークも目を丸くしている。同時に、ハイネの体もぞくりとした悪寒を感じた
すぐにザクのパネルを叩き、映像を拡大する

「「「「サザビー!?」」」」

四人、同時に叫んだ。なんとデュランダルのサザビーネグザスが、五機のデストロイと正対している

そう思った、次の瞬間、デストロイが爆散した。目をこらすと、陽電子リフレクターを突き破って、
サザビーのファンネルが直接デストロイへビームを叩き込んでいる
他のデストロイも次々攻撃をかけているが、サザビーはその巨体に似合わず俊敏で、ビームがかすりもしていない

ドォォォン!

サザビーのビームトマホークを頭上に受け、また一機のデストロイが爆発する

「なんだ・・・・これは・・・・・?」

ハイネは自分の目を疑った。味方のはずなのに、なぜかサザビーを恐ろしく感じる
歴戦の戦士である、ハイネ・ヴェステンフルスが、である