クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第046話

Last-modified: 2016-02-17 (水) 23:43:18

第四十六話 『守りたいの! ・・・・それだけ!』
 
 
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高速戦闘は継続されている。凄まじい速さで景色がゆらめく中の出来事だった
MSが一機、アークエンジェルから飛び出してくる。フリーダムだ
シンは衝撃を感じた。しかし、次の瞬間、思い直した
キラはストライクフリーダムに乗り換えている。誰が乗っているかは知らないが、キラほどではないはずだった

「でやぁぁッ!」

アカツキのビームライフルを連続して、クラウダに放つ。しかし装甲がへこむぐらいで、貫通できない
問題は、このクラウダという量産型だった。ヤタガラスのMSが、いまだに一機も撃墜できていないのである
ルナマリアのDインパルスが一度だけ、バルトフェルドのクラウダを撃墜寸前まで追い込んだぐらいだ

「量産機に・・・・やられるのかよ・・・・ヤタガラスが!」

ヤタガラスはすでに何度か、攻撃を受けていた。幸い、ヤタガラスの新型ラミネート装甲はビームの攻撃を軽減できるが、
接近してのビームカッターなどでダメージを受けており、右舷には大きな傷ができていた

(ヤタガラスからの攻撃しかないか・・・・・)

シンの頭にあるクラウダを倒す方法は、それである。とはいえ、ゴットフリート程度では、クラウダは耐え切りかねない
ぶつけるなら、陽電子砲ローエングリンだった
しかし、方向転換どころか照準もろくに合わせられない高速移動中に、どうやって狙えばいいのか

全体的にヤタガラスのMSは押されている。装甲さえまともなら、とっくに倒せる敵だが、硬すぎた

「フリーダム!」

フリーダムがアークエンジェルとワイヤーで接続し、ヤタガラスに襲い掛かってくる
両肩に構える、二門のプラズマ収束ビーム砲。すぐさまアカツキは反応し、その射線に立った

ヤタガラスへ放たれる、赤い光。それをアカツキは受け止め、跳ね返す・・・!

ドォォォン!

虚を突かれたフリーダムはシールドでそれを受け止めようとしたが、シールドは破砕された

『おいおい、アカツキかよ・・・・! 因縁かな!』
「え・・・・・・?」

聞き覚えのある声だった。忘れるはずもない。恩人の声であり、平和を築くと約束した男の声
シンの中で一瞬、空気が止まった。戦闘中であることを、かすかな時間、忘れた

ザッ・・・・フリーダムがビームサーベルで斬りかかってくる。アカツキは盾で受け止める

『降伏しろ! いくらヤタガラスでも、この状況に追い込まれては勝てん!』
「ネオ・・・・・? おい、ネオだろ! あんた、あんたなにやってんだよ!」
『違う! 俺は・・・・俺は、ムウ・ラ・フラガだ!』

格闘戦の中、フリーダムのレールガンが引き起こされる。悪寒を感じ、
アカツキはフリーダムに回し蹴りを放ち、間合いを取る。即座に、ビームライフル。乱射

「待てよ! 待てよ、ネオ・・・!! 嘘つけ! あんたはネオ・ロアノークだろ!」
『ツッ・・・・!』
「ステラを助けてくれて、生き恥をさらすのが嫌で、俺を勇気づけて、認めてくれて・・・!
  そんな見事な男だろ、あんたは! なのに・・・・、なのに、なにをやってるんだよ!」
『人々の自由な未来のためだ・・・・・! オーブはそのために必要だったんだよ・・・・!』
「嘘だ! 俺の知ってるネオはそんなこと言わない・・・!」
『俺は・・・・・。俺は・・・・・!』

間合いを取り、お互いにビームライフルとレールガンを撃ち合う。アカツキの特性上、
撃ち合いは圧倒的にこっちが優勢だった。アカツキには、フルバーストは使えない

「ネオ・・・・。あんた言ったじゃないか! ステラには平和な世界を見せてやりたいって!
  おかしいじゃないか! あんたは自分の意志で、こんなバカなことしないだろ!」
『・・・・・・・・・・俺は・・・・・・』
「人質でも取られてるのかよ!? なぁ、きっとなにか事情があるんだろ!? ・・・そうだって言ってくれよ!」
『いまさら・・・・いまさら道は変えられないんだよ、シン!』

撃ち合いをやめ、フリーダムは斬りかかって来る。シンはビームサーベルを連結。格闘戦に備えた

「ネオ・・・・!」
『俺は信じた! 二年前・・・・前大戦で! キラとラクスが作る未来を・・・・・!
  一度信じた以上、それを裏切ることは俺の誇りが許さないんだよ・・・・!
  俺は、おまえに、貫けって言っちまったからなぁ!』
「オーブをクーデターで乗っ取るようなやつらが、未来を作れるわけないだろ!」
『黙れ、シン! ラクスが悪いと本当に言い切れるのか!?
  彼女はただ、ギルバート・デュランダルの野望を阻止したいだけだ!
  それに戦いでは、極力人の死を出さないように心を砕いている・・・・地球連合やザフトのやつらより、ずっとマシだ!』
「クッ・・・・!」

格闘戦。ビームサーベル同士が、火花を散らす

『確かにクーデターはおまえにとって許せんことかもしれんないが・・・・・誰かがやらなきゃいけないだろう!
  ギルバート・デュランダルの独裁と、デスティニープランを阻止するためには・・・!』
「だからって!」
『なら、なにか他に有効な手立てがあるのか!? シン、あるなら教えてくれ!
  世界を平和にする手段があるなら、俺に教えてくれ・・・・・!』
「ネオ・・・・今のあんた、なんか泣いてるみたいだよ!」
『—————ッ! 黙れッ! 選ぶべき道がこれしかないなら、やるしかないだろう!』

フリーダム。叩き付け合う、ビームサーベル。衝撃で、双方のサーベルが吹き飛んだ
好機。ビームサーベルを失えば、フリーダムはアカツキに対する有効な攻撃手段を無くす
しかし、撃墜すべきかどうか。シンは迷った

瞬間、フリーダムの後方から、黒い影が姿を見せる。ガイア・・・・

『シンをいじめる・・・・やめて・・・・・! うぇぇぇぇいッ!』

ガイアが変形し、背中のビームカッターを発現させる。そのまま、体当たり
しかし、完全な奇襲であったにも関わらず、なぜかフリーダムはそれを避けた

(空間認識能力・・・・!)

シンは思い当たった。人の五感を超越して、世界を感じることのできる人間
予知能力に近いものを持ち、ドラグーンシステムを手足のように扱える
コーディネイターとは違う、ナチュラルの突然変異・・・・・

『ステラ・・・・・か?』
『誰・・・・・?』
『シン! なにをやってる!! ステラを戦わせて・・・・・!』
「それは・・・・・」
『この・・・・バカ野郎がッ!!』

フリーダムが接近。そして、右こぶしでアカツキの顔が殴られた。衝撃で、シンはコクピットに叩きつけられる

「痛ゥッ・・・・!」

なぜかシンは、ネオに殴られたのだと思った

『ステラを幸せにするんじゃなかったのか・・・! だから、俺は、おまえに・・・・ッ!』
『やめて・・・・。シンを、いじめないで!』

アカツキの前に、ガイアが立ちふさがる

「ステラ! やめろ!」
『ううん! ステラは・・・・・・』
『ステラ、よせ! 俺はおまえと戦いたくないんだよ!』
『しらない・・・! ステラは、シンを、守りたいの! ・・・・それだけ!』
『ステラ・・・・・・? ステラ・・・・・・・。・・・・・あんな、自分が傷つくことだけに・・・・おびえていた子が・・・・・
  誰かを・・・・・守る・・・・って・・・・・・』

瞬間、ヤタガラスが方向を変えた。同時に、所属MSへ通信が響き渡る

『ヤタガラス所属の全MSへ通達! 戦闘を中止し、ヤタガラスの甲板で待機せよ・・・・繰り返す・・・・』

「ステラ、甲板に行くぞ! ネオ・・・・・」
『・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・」

フリーダムは静止している
アカツキはガイアの手を引き、甲板に戻ると、ワイヤーでがっちりと固定した

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計算外、というほか、無かった。心のどこかに、どれだけ高性能だろうと、しょせんは量産機というおごりがあった
ヤタガラスのMSには勝てるはずも無いと

しかし現実には、アカツキ、Dインパルス、グフ、ガイアは押され、ヤタガラスはダメージを受けている
せめてインフィニットジャスティスが出られればと思ったが、いまさら言ってもむなしい

「母艦を沈めるしかありませんな」

アスランの隣で、マニュアルに目を通しながら、イアンは言う。冷静で、肝の据わった男だった
ヤタガラスが被弾してブリッジが揺れても、顔色一つ変えない

「どうやって沈める、イアン・リー?」
「アークエンジェルとヤタガラスを戦闘機に見立ててみれば、速度こそ互角ですが、
  攻撃力、防御力、旋回性、運動性、すべてこちらが上です。ならば、ドックファイトを挑めばよいのです」
「・・・・・・・」

大胆な意見だった。なんと戦艦同士で、撃ち合えと言うのである。しかし、それだけに有効かもしれない
まさかアークエンジェルも、ヤタガラスがドックファイトを挑んでくるとは思わないだろう

「艦長! やりましょう・・・・。それしかありません!」

シンゴが叫ぶ。アスランは一瞬の思考をすませると、うなずいた

「やれるか、シンゴ、トニヤ?」
「「はい!」」
「よし! 体をベルトで固定しろ! これより本艦は格闘戦を行う! 操舵は任せるぞ、シンゴ!
  見事にアークエンジェルの後ろを取ってみろ!」
「了解!」

ドックファイトにおいて、敵の後ろを取ることは、勝利を意味する
それにヤタガラスは、後ろを取った瞬間に、ローエングリン砲を放つという戦法が取れるのだ
逆を言えば、後ろを取られれば終わりか

メイリンが通信を出し、MSを甲板に固定させる。同時に、ヤタガラスが浮いた
なんと大空めがけて、ジェットコースターのように、急浮上をすると同時に・・・・

「くっ・・・・!」

強烈なGがかかる。そして、ブリッジから見える景色が逆になった

「トニヤ、宇宙用の重力を、ヤタガラス居住区全地域に発動だ! うぉぉぉぉぉ!!」

シンゴが叫ぶ。どういう操舵をしているのか、なんとヤタガラスはとんぼ返りをしているのだ
空中で一回転、アークエンジェルがあっけに取られたように、その下を航行する

次の瞬間、ヤタガラスはアークエンジェルの後ろを取った・・・・!

「三本足だッ! トニヤ、ローエングリン照準ッ!」
「はい! ローエングリン、起動・・・・照準よろし!」
「よし・・・・・・!」

ヤタガラスが、アークエンジェルの真後ろに回る・・・・・この位置で外すはずも無い
アスランが叫ぼうとした、その時だった

『やめて! アスラン! あたしよ・・・・!』

ブリッジのモニタが切り替わり、ピンク色の髪をした女性が映る

「み、ミーア・・・・?」

一瞬、アスランは混乱した

『アークエンジェルにはあたしがいるの! やめて・・・・ラクス様と戦うのはもうやめて・・・・!』

ミーアが叫ぶ。同時に、アークエンジェルが方向を変える

(しまった・・・・・!)

「ローエングリン、撃て—————ッ!」

ドギョォォォ!

三門のローエングリンが起動し、陽電子砲を放つも、ぎりぎりのところでアークエンジェルはそれをかわした
アークエンジェルの操舵士、アーノルド・ノイマンにとって、ミーアが作った一瞬の隙さえあれば、回避は容易だったろう

『アスラン・・・・! どうして、どうしてあたしがいるのに撃つの!?』
「やられた・・・・・! ラクスは・・・ミーアを取り込んでいたのか・・・・!」
『アスラン!』
「ミーア! 君こそやめろ! ラクスに加担するな!」
『どうして!? ラクス様は素晴らしい方なのに・・・・! あの人は、世界の自由な未来を信じて、戦ってるだけ!』
「クッ・・・・! ミーア! 君を愛してるんだ! だからやめろ、ラクスは・・・・!」
『やめて! カガリさんが好きなんでしょ、本当は! ううん、別にそれはいいの・・・・
  でも、せめてあたしに嘘をつくのはやめて、アスラン!』
「ミーア・・・・・」

すると、イアンが立ち上がり、アスランを制するように右手を水平に上げた

「艦長。痴話喧嘩をしている場合ではありません。攻撃は失敗しました、次の指示を」
「・・・・・わかった。メイリン、アークエンジェルとの通信を切れ!」
「了解・・・・」

ミーアが、ブリッジのモニタから消える。しかし、クラウダは迫ってくる
接近したビームカッターの一撃を受け、ヤタガラスの装甲がえぐられる。ブリッジが揺れる

しかし手段が思いつかない・・・・・。いや、一つだけ手がある。ザフトへの救援要請だ
だがそんなことをすれば、またザフトに借りを作る
下手をすれば、ヤタガラスはザフトに組み込まれかねない

「アスラン、ザフトの基地までは、あとどれぐらいだい?」

ユウナが聞いてくる。戦闘の恐怖で顔は青ざめていたが、口調は穏やかだった

「まだ遠いです。いや・・・・・」

とにかく、ザフトの基地まで逃げ込めば、反乱軍は追撃してこないだろう
アスランはそう考えていたが、甘いかもしれない。ここまでしつこく追いすがってきているのだ

「か・・・・艦長! つ、通信です!」

不意に、メイリンが驚いたように叫んだ

「なんだと・・・・? どこからだ、メイリン? アークエンジェルじゃないだろうな!」
「い、いえ・・・・・! 発信元は戦艦ミネルバ・・・・ギルバート・デュランダルからです!」
「・・・・・・・! つなげッ!」

ブリッジのモニタが切り替わり、ギルバート・デュランダルが顔を出す。ユウナの、生唾を飲み込む音が聞こえた

相変わらず穏やかな顔で、デュランダルは笑った

『ユウナ代表。このたびの事件、プラントとしてもまことに遺憾であります
  こちらとしても、ラクス・クライン、キラ・ヤマトに対して深い怒りを感じております』
「いや・・・・・。ありがとうございます」
『さて、戦闘中であるため、用件を手短かに申し上げますが、ザフトはすでに出撃準備を整えております
  もしもユウナ代表がお望みであれば、即刻、軍を差し向け、反乱軍を掃討しますが・・・・』
「お待ちください、デュランダル議長・・・・・。それは、どこまで戦うつもりで、おっしゃっているのですか?」
『無論。オーブ本土まで進撃するということですよ』
「なっ・・・・! それでは、市民に被害が出る・・・・!」
『しかし代表。このままでは、オーブはラクスやキラのものとなってしまいますよ
  しっかりと地盤が固まっていない、今が好機なのではありませんか?』
「・・・・・・・・」

ユウナが苦虫を噛み潰したような顔になる。デュランダルの意図は見え透いていた
もしもこの申し出を飲み、ザフトがオーブを解放すれば、事実上、オーブはプラントの属国になる
そうすればデスティニープランを実行せざるを得なくなる上、他にもあらゆる要求をオーブにしてくるだろう
オーブの独立は、なくなるのだ

『もしもキラ・ヤマトを脅威とお考えなら、ご安心ください
  こちらにはサザビーネグザスがあります。そしてなにより、兵数は圧倒的にザフトが上です
  負ける道理はありません』
「うっ・・・・・・」
『代表。どうか、賢明な判断を・・・・・。では』

それだけ言うと、デュランダルは通信を切った。残酷なことをする
アスランは腕を組んだ。ユウナは頭をかかえている。異様に、難しい状況に追い込まれた

その間も、クラウダは攻撃をしている。ヤタガラスのMSは善戦しているが、このままではMSより先に艦が沈む
ザフトの救援を受けねば、正直なところ、危ない・・・・・。だが、デュランダルの申し出を受けねば艦が沈む
あるいは、オーブはキラのものとなる

「キッド。インフィニットジャスティスはどうだ?」

アスランはMSデッキに通信をつないだ

『ああ? リフターの修理は終わってねぇよ・・・・まだ無理だ』
「出られるようにしてくれ・・・・・。リフターを外してもいい」
『おいおい・・・・それじゃ、セイバーガンダムとあんま機動性、かわんねぇぜ!?』
「MSは一機でも必要だろう・・・・頼む!」
『わ、わかったよ・・・・ったく! 整備士の苦労もちっとは考えてくれよなぁ・・・・』

キッドがふてくされたように、つぶやく
アスランは目を閉じた。ユウナがどんな判断をしようと、誰も責められないだろう
仮にオーブの独立が失われても、もうしょうがないのかもしれない

しかし、ただ、無念だった

「え・・・・・? 敵が、撤退していきます・・・・艦長!」
「なんだと!?」

思わず、アスランは叫んでいた。アークエンジェルはクラウダを収納し、引き返していく
いったい、なにが起こったのか

「・・・・・・通信を傍受してみますか、艦長?」
「イアン・・・・そうだな。メイリン、アークエンジェルの回線に割り込めるか?」
「あ、はい! 任せといてください!」

メイリンが疾風の勢いで、パネルを叩く。ハッキング。メイリンの得意技だった
パネルを叩く音だけが、しばらくブリッジに響く

やがて、その音が止まった。あっけに取られたように、メイリンは固まる

「どうだ、メイリン?」
「あ・・・・はい。その・・・・オーブ本土で、ラクス・クラインが襲撃されたそうです」
「なんだと!? どこの誰が!」
「・・・・・ガンダム・・・アシュタロンです」