クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第047話

Last-modified: 2016-02-17 (水) 23:44:11

第四十七話 『魔女がァァァッ!!』
 
 
==========================

あてどもなく、さまよい続けた。ただ、胸にあるのは兄を奪った女に対する怨念であり、
仇に対する復讐心でしかなかった

それは、気の遠くなるような作業だった

エターナルがヤタガラスに捕われたと聞いた時、オルバはこれが最大の好機だと考えた
ラクスを殺せるのは、今しかない。なにしろ、位置の特定さえこれまでは困難だったのだ

アシュタロンを変形させ、岩のようにカモフラージュをすると、海に沈めた
そしてブースターなどを使うことなく、ヤドカリのように、シザースで這い進む
下手にレーダーにでも引っかかっては、つまらなかった

食料は十分に持ち込んだ。糞尿なども、MSの外へ排出できる
しかし問題は、コクピットに何日も閉じ込められる、ということだった
それは気が狂いそうになることで、時折、外に出て思いっきり空気を吸い込みたくなる。叫びたくなる
しかしそれにも、オルバは耐えた。好機の一瞬はただ一つ、ラクスが裁判などで外に運び出される時だった
軍やマスコミの情報をハッキングし、オルバは海底で耳をすませた

そしてある日、外が騒がしくなった。なんとオーブでクーデターが起こったのだ
首謀者はラクスとキラである

(ここか)

オルバは想いを定めた。この一瞬、天与の機である
どういう形であれクーデターの後は、ほとんどの歴史上の人物たちは、武力制圧後に民衆へ姿を見せる
ラクス・クラインとて例外ではないだろう。彼女もまた、オーブの民衆へ姿を見せ、己が正当を訴える

オルバは静かに気分を引き締めた。胸が震える。ようやく、あの魔女を八つ裂きにできるのである
そうすれば兄・シャギアもまた、ラクスという悪夢から覚めてくれるだろう

アシュタロンが海底を、ヤドカリのように這い進む。じりじり、じりじり。やがて、テレビが切り替わる
オーブの代表として、新たに立った、キラ・ヤマト。そのかたわらには、救国の歌姫、ラクス・クラインがいる
場所は、オーブの宮殿。民衆たちが、そこに集まっている

オルバはにぃっと、凶悪な笑みを浮かべた

==========================

オーブ国内の制圧は短時間で完了した。キラはストライクフリーダムでオーブ宮殿に舞い降りる
ただ、ユウナが協力をしてくれず、トダカ一佐を殺してしまったことが心残りだった

宮殿に舞い降りると、ラクスが出迎えてきた。周囲には、クラウダやムラサメなどが集まっている

「ラクス。ダメだよ、寝てなきゃ・・・・」
「皆が苦労して、必死に戦ってらっしゃるのに、わたくしだけそんなことできませんわ」
「・・・・・うまくいかないね、本当に・・・・・。ユウナさんが協力してくれれば、こんなことせずにすんだはずなのに・・・・」
「ええ・・・・・。本当に、悲しいこと・・・・・。誰も戦いなど望んでいませんわ。わたくしたちも含めて、誰も戦いたくはない・・・
  でも・・・・わたくしは、それでも人々の未来を築きたいのです」
「うん。じゃあ、行こうか、ラクス。みんなが、待ってる」

キラが歩く。ラクスも続く。その先に、仲間たちが待っている
ロアビィや、シャギア、それにドムトルーパーのパイロットに、クライン派の皆
ふと、人影が足りないことにキラは気づいた

「ラクス、アークエンジェルのみんなは?」
「ユウナさんと、アスランの説得に行ってもらいました。本当なら、わたくしが行かねばならないのですが・・・・」
「アスランか・・・・・」

キラの脳裏に、アスランの声が蘇る。自分に向けられた、憎しみの声
いつの日か、憎しみが消えて、笑える日が来るのだろうか

「ただ、どうしてもダメなら、無理にでも捕縛するようにお願いしましたわ」
「・・・・捕まるといいね。きっと、ちゃんと目と目を合わせて、話し合えば・・・・どうにかなる
  僕はそう信じているんだ」

オーブ宮殿の前では、一人の男が姿を見せていた。よく陽に焼けた、精悍な軍人である
彼らはキラの顔を見ると、こちらに歩いてきた

カガリの護衛であった、レドニル・キサカである

「長い忍耐の日々だった・・・・」
「キサカさん・・・・・。あなたも、僕に協力してくれたんだ・・・・」
「うむ。セイラン家の専横によって、オーブがプラントの属国になり、夜も眠れぬ日々が続いた・・・・
  カガリは、どれほど嘆いていることか・・・・。だが、それももう終わりだ・・・・。いや、終わりです」

キサカは、そう言うとキラの前にひざまずいた

「キサカさん?」
「新たなるオーブ首長、キラ・ヤマト・アスハ代表。あなたを主と認めたい」

ひざまずく、キサカ。そして、次々とオーブ宮殿に集結する、オーブのMS
彼らもまた、キラにひざまずき、忠誠を誓う

キラとラクスを中心にして、誓われた忠誠の儀式。主従の契約。しかし、キラはキサカの手を取り、立ち上がらせた

「キサカさん。僕たちは、主従なんかじゃない。同じ気持ちを持った、仲間だよ」
「・・・・・・・」
「僕はオーブの代表になりたいわけじゃないんだ。ただ、ギルバート・デュランダルを止めたいだけ
  そして、カガリが愛したこのオーブを守りたいだけなんだ。だから・・・・主従とかじゃなくて、
  僕らに仲間として協力して欲しい」
「キラ・・・・・」

するとラクスがやってきて、同じようにキサカの手を取る

「わたくしからもお願いしますわ。キサカさん。そして、オーブを愛する兵の皆さん・・・・
  どうかわたくしたちを仲間として受け入れてください。そして、願わくば共に戦いましょう」

するとキサカの両目から、ぶわっと涙があふれた。そして、つぶやく

「どうやら自分は、死に場所を見つけられたようです・・・・・。カガリも喜んでいるでしょう」
「え・・・・。あ、うん・・・。でも、死なないでね、キサカさん」
「オーブの民が待っています。新しい代表として、顔を見せてやってください」
「わかった。じゃあ、行こうかラクス?」
「ええ、キラ」

キラはラクスの手を取り、お姫様のように抱きかかえると、ストライクフリーダムに乗り込んだ
キラの意図を察したシャギアやロアビィらもMSに乗り込む

レオパルド、クラウダ、ドム、そしてオーブのMSを引き連れて、キラのストライクフリーダムはオーブの広場に向かった

広場に集められた市民たちは、一様に不安そうな顔をしている
キラはストライクフリーダムを市民によく見える位置に移動させた。その後ろには、レオパルドやオーブ軍が続く

コクピットハッチを開ける。ラクスと共に、キラは市民へ顔を見せた
それからストライクフリーダムのスピーカーを使い、呼びかける
キサカが手回ししたのか、テレビカメラも用意されていた

「皆さん、聞いてください。僕はキラ・ヤマト。このストライクフリーダムのパイロットであり、
  カガリ・ユラ・アスハの弟です」

ざわ・・・・。民衆がざわめく。キラがカガリの弟だということを、知らない人間が大半だったろう

同時に、ラクスもスピーカーを使って呼びかけた

「そしてわたくしは、ラクス・クライン。カガリ・ユラ・アスハ暗殺の犯人・・・・そう呼ばれています」
「でも聞いて欲しい。あの報道は、デュランダル議長が行った謀略で、濡れ衣なんだ
  僕はカガリの弟だ・・・・カガリを殺すことなんて、するはずがない」
「デュランダル議長は先日、デスティニープランを発表されました。一見、平和への手段として画期的な方法であり、
  魅力的に思えます。しかし、真実は遺伝子による絶対統制なのです
  また、プラン導入のために議長が行ったやり口は非道なもので、
  プランを拒否したスカンジナビア王国をザフトは武力制圧しました」
「遺伝子ですべてが決まる。生まれ持った才能で、人の価値を決め付ける。僕らはそんな未来を許しちゃいけない」
「その通りです。しかし悲しいことにオーブは先日まで、プラントの属国でした
  ユウナ・ロマ・セイラン代表はデスティニープランの実行を止めようともせず、
  ただデュランダル議長の意のままでありました」
「けど、もう違う。オーブは真の独立を手に入れなきゃいけない
  誰の言いなりにもならず、本当のオーブにならなきゃいけない
  そのためにはみんなの力を貸して欲しい。だから僕は・・・・このオーブの首長に就任する」
「このことに不満を持つ方もいらっしゃるでしょう。戦いたくないとお考えの方も多いと思います
  ですが、それは構いません。わたくしたちはただ、人々の未来を信じて、戦いたいだけなのです
  例え、最後の一人になろうとも、わたくしたちは戦うだけです」
「でも僕は、みんなと・・・・オーブのみんなと、手を取り合って歩んでいきたい
  だから僕に力を貸して欲しい。カガリのためにも、みんなのためにも・・・・!」
「そして、世界中の人々の未来のためにも・・・・!」

ラクスとキラが告げる。しん・・・・と、オーブの民衆は静まり返っていた
しかしやがて一人、二人とこぶしを突き出し、やがてその熱狂は広がり、最後には広場の人間すべてが、熱狂を訴える

わぁぁぁぁぁぁ・・・・・!

湧き上がる熱狂。オーブのために、カガリのために、自由な未来のために
口々に人々は叫び、キラとラクスに賛同する声をあげる

キラは少し照れくさそうに笑って、ラクスを見た

「ガラじゃないけど・・・・でも、悪くないね。みんなが力をあわせてくれるって・・・・」

ラクスも微笑みを返してくる

「ええ。わたくしたちは一人じゃありませんわ。みんなが、人の未来を信じている
  そのために、わたくしたちは戦いましょう? 戦う理由は、それだけでも十分ですわ」

世界は輝いている。どれほど辛くとも、夜明けはやってくる。キラはそれを信じることができた

その時だ。空に、一つの『しみ』が見えた。その『しみ』はどんどん大きくなっている
MA・・・・・・。気がついた時は、あっという間に接近してきていた

『魔女がァァァッ!!』

ガンダムアシュタロン。MAに変形したそれは、オーブの空を突っ切って、ストライクフリーダムまで近接してきた

「ラクス・・・・!」
「キラ・・・・!」

即座にストライクフリーダムのコクピットハッチを閉め、起動させる

ドォン・・・・! コクピットが揺れた。ビームを二発、まともに受けた・・・・が、
ルナチタニウム製の装甲は防ぎきっている

「あれは・・・・・ザフトのMS、ガンダムアシュタロンですわ・・・・」
「うん・・・・オーブ防衛戦の時、僕を襲ってきた・・・・シャギアさんの弟を名乗る・・・・」
「どうしても、ギルバート・デュランダルはわたくしが邪魔なよう・・・・
  いえ、もしかしたら、カガリさんを暗殺したのは・・・!」
「じゃあ・・・・アスランは・・・・アスランは、カガリを殺した人間に、味方している・・・・!?」
「なんてこと・・・・・ひどい・・・・・」

ラクスが口元を押さえている。キラは思わず、コクピットの中で天を仰いだ。ひどい運命の皮肉である
アスランは途方も無く、愚かなことをしているのだ。

「捕まえよう。あの、アシュタロンを・・・・!」
「ええ、キラ・・・・。真実を明らかにしましょう・・・・!! 真実が明るみになれば、アスランも・・・!」

足下にはオーブの市民がいて、逃げ回っている。キラの胸の中が苦くなった
人が集まっている場所で、無差別に攻撃をかけてくる。許せるものじゃなかった

『魔女がァァァ、死ねぇぇぇぇッ!』

「君は・・・・!」

ぱぁぁぁん

キラの頭で『種』が割れる
即座にストライクフリーダムは飛び立ち、凄まじい起動で空中に展開すると、
ビームを連続で発射してくるアシュタロンの攻撃をビームシールドで受け止めた

『魔女がぁ・・! 兄さんを返せッ!』

MAのアシュタロンが接近し、ハサミで・・・アトミックシザースでつかみかかってくる
ストライクフリーダムはそれをすれすれの位置でよけると、シザースをつかみ取った

「はぁぁぁぁ!」

人のいない場所を確認すると、背負い投げの要領で、アシュタロンを大地に叩きつける・・・!

『がっ・・・・!』
「君の負けだ!」

目にも止まらぬ早さでビームサーベルを引き抜くと、アシュタロンのハサミ、足、腕、頭を斬りおとした

そしてオーブ軍の歩兵が、集まってくる。彼らはコクピットを慎重に開け、催涙弾を放り込み
中から出てきた男を捕縛した

==========================

激戦を終えたヤタガラスのパイロットたちは、息をつく暇もなくブリッジに集まった
そこではモニタにオーブのテレビカメラの放送が流れており、
アシュタロンがストライクフリーダムに撃破された状況が映っている

「オルバ・・・・」

ガロードは呆然とつぶやいた。まさか、オルバに助けられるとは思わなかった
オルバ本人の真意は知らないが、それが事実である

「艦長!」
「なんだ、シン・・・・」
「オルバを助けに・・・・・」
「無理だ」
「・・・・・・・・」

シンの声を、アスランが一言で却下する。誰もがわかりきっていたことだった

「ガロード」
「あん? なんだ、アスラン?」
「オルバはなぜ、ラクスを襲った?」
「・・・・・・兄貴のためだろうよ」

ガロードも詳しいことがわかっているわけではない。ただ、オルバの兄、シャギアは記憶喪失だった
結婚式の直後オルバがおかしくなったり、オーブ防衛戦でいきなり軍から抜けたりしたのは、
間違いなくシャギアがからんでいる

「兄・・・・・。そうか、捕虜にした、シャギア・フロストという男だな。フロスト兄弟、か・・・・・」
「ただよ、あいつらは善人とは言えねぇ。俺もあいつらには何度も殺されかけたし、
  ティファをさらわれたりしたこともある。今回は結果として救われたけどよ・・・・・」
「・・・・しかしどういうことかな。兄を助けたいから、襲ったのか?
  しかしシャギアは、自分の意志でラクスに味方しているように思えたが・・・・」
「記憶喪失だと言ってたからよ。それが原因じゃねぇか?
  本当のシャギアは、ラクスなんかに味方するような人間じゃねぇぜ?」
「なら、記憶を取り戻せば、シャギアはラクスから離れるか?」
「離れるだけじゃねぇ。多分、ラクスの敵になると思うぜ、シャギアは」
「・・・・・・・・・・・」

アスランは考えこむように、腕を組んだ
ガロードはまた、ブリッジのモニタを見つめる。オーブの民衆は熱狂して、キラとラクスをたたえている
そして再び、ラクスはマイクを取り、民衆に呼びかけていた

『皆さん。これが、ギルバート・デュランダルのやり方なのです
  自分の意のままにならぬ人間は、武力で排除する。・・・・おそらく、カガリさんを殺したのも彼でしょう
  うっ・・・・あ・・・・』

いきなり、ラクスが苦しそうに胸を押さえた。キラがそれを支える。それからキラは、悲しそうに告げた

『ラクスは暗殺されそうになった。その時に使われた毒は、いまもラクスの体を苦しめているんだ・・・・
  今まで犯人はわからなかったけど、今日、誰が犯人かは明確になったよ
  ギルバート・デュランダルだ。間違いない・・・・・。こんなこと、許しておいていいのかな・・・・』

キラがつぶやくと、さらにオーブ民衆は熱狂する

ふと、ガロードは振り返る。ブリッジから、一人の男が肩を震わせながら出て行く

ユウナだった