クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第060話

Last-modified: 2016-02-18 (木) 00:01:05

第六十話 『きっと世界を変えるでしょう』
 
 
==========================

ユウナはヤタガラスのブリッジから、宇宙を見つめていた
周囲にはMSや艦船の残骸などが広がっている

「ひどいな」

口をつくのは、その一言だけだった。艦長席のアスランも、なんともやり切れない表情をしている

「生存者は見当たりませんね」
「よくやるよ、まったく。こうもあっさりと大量破壊兵器を使うとはね」

ユウナはため息をついた。オーブ軍はこれで、何人の被害が出たのか、想像がつかない
それがキラとラクスの扇動で出た死傷者だと思うと、さらにやり切れなかった
自分がクーデターを阻止できていれば。あるいは、ラクスを先に処刑していれば
死ななくても済んだ者たちである

ヤタガラスはいったんアメノミハシラに戻ると、
すぐにユウナを乗せてジェネシスによって破壊された場所まで戻った
ラクスについたとはいえ、オーブ軍である。できるものなら助けてやりたかった
しかし目の前に広がる死の光景は、生存者を許しているようには見えない

「メイリン。タカマガハラ第二部隊の馬場一尉から連絡はないか?」
「いえ、艦長。第二、第三部隊、共に生存者を確認できておりません」
「そうか。それにしても、ジェネシス、とは・・・・」

アスランがひたいにしわを寄せている。彼はジェネシスと因縁があったはずだ
ユウナとは別の、怒りを感じているだろう

「たくましいね、彼らは」

ユウナはモニタを見て、つぶやいた。GXがジャンクパーツの回収を行っている
AW世界の人間は、この世界の人間と比べて、はるかにたくましい
人類のほとんどが死滅した世界で生きるには、そう在らねばならなかったのだろうか

「あのたくましさが、いくらか腹立たしくもありますよ、俺は」
「・・・・しかし、落ち込んではいられないと、僕に教えてくれている
  あれこそ、僕がラクスを出し抜ける唯一の方法だろう」
「ラクスを?」
「ああいう泥臭さは、ラクスにはないものだ。彼女は土と汗の臭いがする人間の、
  恐ろしさを知らない。僕の勝機は、そこにある」

ユウナは資産をはたいて、保存のきく食料を集めていた。食料の値段は高騰しているが、
プラントから購入する分にはいくらか安くてすむ

セイラン家の資産は少なくない。かつてはロゴスとつながりがあり、メンバーであったこともあるのだ
オーブが前大戦から復興したのも、セイラン家の資産によるところがある
全盛期からすれば資金の量は少なくなったが、それでも普通の金持ちは及びもつかぬ金があった

(しかし・・・・・)

資産としては莫大でも、政治行動を行うにはいくらか不足だった
それにもう、資産を増やす手段はないのだ
ロード・ジブリールやアズラエル財閥ほどの金があればまた別だろうが

GXがムラサメの残骸らしきものを運びながら、ヤタガラスに帰還する
あれも手を加えれば、ムラサメに戻るだろうか。ふとユウナは、そんなことを考えた

==========================

アカツキはガイアを連れて、戦闘のあった空域を見回っていた
生存者はほとんど絶望的だろう。ヤタガラスからはなんの連絡もない

「なんだよ・・・・これは・・・・」

シンは苛立ちを感じた。ジェネシス。うわさに聞いていた大量破壊兵器の威力を、目の当たりにする

(ガロードがサテライトキャノンを撃ちたがらないわけだ・・・・)

心の中で納得した。強大な威力の兵器、その引き金を軍勢にむかって引けば、結果はこうなる
ガロードがほとんど意地のように、軍勢へサテライトキャノンを撃たなかった理由が、本当に理解できた気がする
今までは頭で理解していただけだったのだろう

「引き上げるか、ステラ」
『あ・・・・うん』

さすがにガロードのように、ジャンク拾いに出かける気にはなれなかった

考えることはいくらでもあった。オーブのこと、キラやラクスのこと、デュランダルのこと、ザフトのこと、
その他にも数え切れないほどある。頭がごちゃごちゃしてきそうだった
ネオも結局、取り逃がしてしまったままだ

世界のことを考える。それは、大変だと思う。一兵士として戦場を駆けていた自分が、懐かしかった

—————君は、政治家に、なる気かね?

本当のデュランダルに、そう聞かれた。声をかけられたわけではない
震えを薬で抑えたその男は、その文字をノートに書いた

少しだけデュランダルと話をした。それは正直なところ、終始、圧倒されただけだった
自分が考えた平和へのプランは、デュランダルに穴を指摘されると、途端に恥ずかしい妄想に変わり果てた
デュランダルの見識、能力、経験は、すべてシン・アスカよりはるか上にある

—————気にすることはない。誰もが、最初は未熟なのだから

落ち込むシンに、デュランダルはそう声をかけた。プラントの議長は、不屈だった
偽者に理不尽な形で地位を奪われ、自身は重傷を負い、体に障害を残している
自分がああなればどうだろう。ただ、絶望するだけでなにもしないのかもしれない
しかしデュランダルは、厳しい現実を理解した時、最初にやったのはウィッツを雇うことだったという
どういう精神力をしているのだと、シンは思う。絶望にあってなお、彼はすぐさま反撃ののろしを上げたのだ

ヤタガラスが見えてくる。ジェネシスの業火は、この周辺を焼き尽くした
ユウナが期待したオーブの生存者は見当たらないようだった

「ヤタガラス。シン・アスカ、アカツキ、着艦許可を!」
『了解しました。アカツキ、ガイア、着艦どうぞ』

トニヤの声が返ってくる
先にテンメイアカツキがヤタガラスに着艦する。やや遅れて、ガイアが着艦してきた
少し、ガイアがふらついている。ステラらしくないと思いながら、シンは通信を開いた

「ステラ、どうした?」
『あ・・・・・うん・・・・・・。なんでも・・・・・・』
「ほら、体調でも悪いのかよ。しっかりしろ」
『・・・・・・・』

アカツキがガイアを支える。瞬間、シンは嫌な予感に襲われた
すぐにガイアをハンガーに固定し、アカツキも固定すると、コクピットから飛び降りる

「ステラ・・・・!」

無重力空間である。床を蹴り、一気にガイアのコクピットまで飛んだ
ガイアのパネルを叩き、コクピットハッチを開ける

「シン・・・・・?」
「ステラ」

有無を言わさず、シンはステラのヘルメットを取った。彼女は汗だくである
すぐにステラのひたいへ手を当てた。熱い。しかも、かすかに震えている

「あ・・・・・」
「いつからだ?」
「ううん。ステラ、なんともないよ?」
「なんともないわけないだろ! 真っ青じゃないか!」
「へいきだよ。だいじょうぶだよ」
「・・・・・もういい!」

シンはステラをコクピットから連れ出して、背負う。そのままガイアを蹴って、MSデッキを出た
向かうは医務室である

「ドクター!」
「む・・・・・?」

シンは、テクスに事情を説明する。すぐにテクスはステラを検診して、
シンにパイロットスーツと服を脱がせ、体をふくように言った
言われたとおりにする。そんなことをしている間、ステラは熱に浮かされた表情をしていた

ステラをベッドに寝かしつけると、シンはテクスと向き合う

「ステラはどうなんですか?」
「心配するな。ただの風邪だ。だが、少しこじらせてしまったいるようだな
  ・・・・無理をさせてしまったのかもしれん。もう少し、私がちゃんと見ていられればよかったのだがな」
「いえ、ドクターのせいじゃありません・・・・」

ステラは基本的にテクスが嫌いである。それはテクス本人が嫌いというより、ただの医者嫌いなのだろう
テクスは定期的な検診を望んでいるが、シンが連れて行かない限り、ステラは医務室に足を向けることはない
ロドニアであんな体験をしたのだから、無理はないと思うが・・・・

(いや、俺のせいかもしれない)

医務室を出て、シンは頭を押さえる。いろいろなことを考えすぎて、身近なことがおろそかになっていたのだろうか
いつの間にか、ステラがそばにいるのが当たり前になっていないだろうか

敵同士だった。かつて、ガルナハンの町で、彼女が診療所から逃げようとした時のこと
あの時、振り返ってこちらを見つめた眼光を、シンはまだ忘れられないでいる
ステラを抱きしめたぬくもりも、いとしさも、悲しさも、いつかすべては消えるのか
シンは自分の肩を抱いた。絶望を感じた

==========================

成果のない救助活動を終え、ヤタガラスがアメノミハシラに入港する
ガロードは回収してきたジャンク類を運び出すと、GXから降りた

ティファが出迎えてくる

「おかえり、ガロード」
「・・・・・・・」
「ガロード?」
「いや、ティファなんだなって、思ってよ」

照れくさそうにガロードは、自分の頭をかいた
こういう時、抱きしめたりしたらカッコがつくのかもしれないが、拒絶されるのが怖い
だから少しだけ、ティファに笑いかける

「・・・・・・・」
「ただいま、ティファ」

するとティファは、少しだけ泣きそうな顔になった

「・・・・・ガロード」
「あ・・・・・まだ苦しいのか!? 洗脳・・・・えっと、催眠術に近いとか言われてたっけ?
  クソッ、あの偽者野郎! ただじゃ・・・・」
「ううん。嬉しいだけ」

そっと、顔を赤らめたティファが、ガロードの袖を握った

「あ・・・・」
「また、会えたから・・・・」
「ティファ・・・・・」
「はいはいはいはいはい、プラトニックは後でじーっくりやってちょうだい」

どかっ

その時、ガロードの足が軽く蹴られる。
ルナマリアが腕を組んで立っていた

「な、なにすんだよルナ!」
「気にしないで。ただの八つ当たりだから
  ケッ。どいつもこいつも恋の花を乱れ咲かせやがって
  恋人どころかMSすらないルナマリア姉様は大変不機嫌ですよーだ」
「おまえな・・・・・」
「それよりあのうっとおしいのをどうにかしてよ」

ルナマリアが指差す先に、両手両足を失ったエアマスターが転がっている
そのそばで、盛大に落ち込んでいるウィッツがいた

ガロードは少し責任を感じて、その場に駆け寄る

「ウィッツ」
「んあ・・・・ガロードか」
「どうしたんだよ。そんな落ち込むなんて、らしくねぇぜ?」
「ほっといてくれ。どうせオリャ、ガンダム餌マスターなんだよ・・・・・
  へヘッ。ストライクフリーダムって魚は引っ掛けたけど、エサだけ取られてにげられました〜♪ とくらぁ・・・
  聞いてるか、遠い故郷の弟たち。俺はイサキをたくさん取って帰るからな・・・・」

相手がキラであり、しかもウィッツにとって本来のフィールドではない、宇宙空間での戦闘である
正直なところ、負けるのは無理もないと思うが、いかにも負け方が悪すぎた。落ち込みがひどい
慰めなければならないだろう

「気にすんなって、ウィッツ
  俺は忘れてねぇぜ? ガンダムに乗っていながら、ザコットの部下ごときに追い詰められたり
  フォートセバーンの時、ボーダーに一方的にやられたり、
  ローレライの海で戦ったとき、水中に攻撃できないからまったく役立たずだったり・・・・ぐぇ」
「・・・・・・・ああー、そうだよ。どうせオリャ役立たずだよ。ガンダムエアマスターバーストの、バーストは
  機体が破裂するって意味のバーストだよ・・・・・」
「ウィッツ・・・・く、首しめるな・・・・。
  いや、だから、そんな状況でも生きていられるのが凄いって言いたいだけで・・・・」
「だいたいなんで・・・・なんでエアマスターとDXは同じ材質でできてるのに、こんな装甲に差があるんだ」
「そりゃ・・・・やっぱり・・・・機体コンセプトの違いが・・・・あ・・・・気持ちよくなってきた・・・・」

ウィッツに首をしめられたガロードが、あっちの世界に行きかけた時、ティファがそばにやってきた
彼女は、ウィッツの前に立つ

「・・・・んあ? ティファ・・・・?」
「・・・・・・その」  エ サマ ス タ ー
「なんだよ。   海 の 王 者 は 、もうすぐ海に帰らなきゃならねぇんだ。いいマグロ獲って帰らなきゃいけねぇんだ・・・」
「・・・・・あ」
「あ?」
「・・・・・ありが・・・・とう」
「お・・・・?」

ウィッツが目を丸くする。ガロードも驚いた
ティファがこんな風に、積極的に人へ話しかけ、かつ礼を言うなど、めったに見られるものではない
少しだけ、この世界に来て、ティファも変わったのだろうか

ガロードはティファを連れて 、アメノミハシラの医療センターに向かった
テクスいわく、ティファはステラのように薬物投与などはされていないため体はなんともないが、
洗脳操作は受けたようなので、その影響をきちんと確認したいそうだ

「お、シン?」

ガロードは医療センターから出てくるシンを見つけた
手には薬の入った袋が握られている

「ガロードか。えっと、それから・・・・・」
「ああ、こっちがティファだ。ティファ・アディール」

ガロードが紹介すると、ティファがかすかに頭を下げた

「ティファか。・・・・俺は、シン・アスカ。アカツキのパイロットやってる
  元々ザフトだったけど、今はいろいろあって死人だな」
「・・・・・・・?」
「あー。まぁ、初対面の人間にはわかんなかったか」
「その・・・・・」
「とりあえず無事でよかったよ。それと、細かいことはどうでもいい
  俺は忘れたから」

薬の袋で、シンはぽんっとティファの頭を叩いた。それから右手をあげて去って行く
妙に急いでいる感じがしたが、シンらしい仕草だった

「ああいうヤツだよ」
「・・・・・・・」
「ん、どうした、ティファ?」
「・・・小さな人です」
「あ・・・・? ん、ああ、そうだな。ぶっちゃけ、シンはあまり背が高くねぇ
  ま、俺もあんまり人のこと言えないけどよ・・・・・」
「最初、弱くて小さかったからこそ、きっと・・・・誰より大きくなります。あの人は」
「え・・・・?」
「ガロード。あの人は、きっと世界を変えるでしょう」

真剣な眼差しで、ティファが告げる

それは、予言だった。世界の誰も気にすることはない、戦死されたとしても大したニュースにもならない
ただのパイロットは・・・・いつか世界を変えるのだと、予言された

==========================

ティファを軍法会議にかけることなど、論外だろう
事情が事情だし、そんなことをすればガロードたちをまるまる敵に回しかねない
問題はオーブ軍で、正直なところアスランは、こんなに早くラクスが止まるとは思わなかった
ネオジェネシスを気軽に使用する、偽者を甘く見ていたのだろうか
敵はラクスと同じほど、手段を選ばないと考えた方がいい

メイリンの指が肌に触れた。アスランは思わず、うめき声をあげる

「ンン・・・。上手くなったな、メイリン。・・・・・ン」
「そう・・・・ですか?」
「ああ。いい気持ちだ・・・・・」
「こんなに固くなって・・・・・」
「ン・・・・!」

メイリンの汗ばんだ息遣いが聞こえる
アスランはあまりの快楽に、またうめき声をあげた

「どうですか、私のマッサージは?」
「ふぅ。いや、本当にうまいな」

背にのしかかるメイリンに体をもんでもらいながら、うつぶせになったアスランは息を吐く
まだ若いのにこういうのを気持ちよく感じるというのは情けないが、しょうがなかった

「でも艦長の体、ものすごく疲れているみたいですよ」
「やっぱり疲れているのか? あまりそういうのを感じないが」
「気力が充実しているからですよ。でも、時々休まないと、いつか体に無理が来ます
  こんなことを続けていると、早死にしちゃいますよ?」
「早死にするぐらいなら別にいいさ」

アスランは苦笑した。寿命で死ぬ自分は、想像できない
メイリンの指が、背中を押す。そのたびに血の巡りがよくなっていくようだった

「駄目ですよ。艦長は、プラントにとっても、オーブにとっても大事な方なんですから」
「俺はただの裏切者だよ、メイリン。そんなたいそうなものじゃない」
「・・・・・せめて、MSでの出撃をやめてもらえませんか?」
「そういうわけにもいかないさ。艦長の目から見ても、インフィニットジャスティスの戦力は貴重なんだ
  それに今は、イアンがいる。あれは艦を任せられる男だ。俺がいなくとも、ヤタガラスを運用してくれるさ」
「そういう意味じゃないんです・・・・。シンたちもいるし、もう少し休んで下さいって・・・そう言いたいだけで・・・・」
「・・・・・・」

アスランは、いくらか、メイリンの心配をわずらわしく感じた
自分が休んで、艦が沈められたらどうするのか。そう言いかけて、やめた
メイリンの見ているものと、自分の見ているものは、違う

「それに・・・・危ないじゃないですか。死んじゃったら終わりですよ、やっぱり・・・・・」
「メイリン。もういい」
「あ・・・・」

肩を揉む、メイリンの手を取って抱き寄せた。そのまま彼女にのしかかる
いくらか手荒く扱ったが、彼女は少し顔をゆがめただけで、アスランを受け入れた

交合はおよそ、三度におよんだ。慣れていない彼女には辛いだろうと思うが、
それがなぜか自分の欲望に火をつける。それに抱ききってしまった方が、いくらかよく眠れた

「好きなんですか、ミーアさんのこと」

うとうとしていたアスランに、メイリンが聞いてくる

「ミーア・・・・。ああ、通信を聞いていたのか?」
「すみません」
「俺のせいだからな、あれは。目の前で女が死ぬのは、もう見たくない」
「責任だから、なんですか? 好きなんじゃなくて?」
「俺はおまえが好きだよ、メイリン。それじゃダメか?」
「いえ・・・・・」

メイリンが困ったような顔をする。やはり、こういうのがわずらわしく感じた
だがシンやガロードのまっすぐさを見ていると、こういう風に女を扱う自分に、嫌悪してしまう
好きだという言葉に、偽りはないつもりだが、それがきちんとした愛情かと問われると、自信はなくなるのだった

「抱きしめてくれ、メイリン。おまえの胸で眠りたい」
「あ・・・・はい」

メイリンが、そっとアスランの頭を包んでくる。メイリンの腕の中に抱かれた
ひどく落ち着く。目を閉じるとカガリに抱かれているような気がして、少しだけ自分を嫌悪した
自分を嫌悪するということは、まだ未熟な証拠だと、アスランは思った