クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第062話

Last-modified: 2016-02-20 (土) 02:11:33

第六十二話 『特命親善大使、シン・アスカです』
 
 
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DXはだいぶ修復されてきていた。頭部がついていないのでカッコがつかないが、
すでに両手両足は取り付けられている

「Gファルコンはどうなってんだよ、キッド?」

整備の監督をしているキッドに、ガロードは聞いてみた
DXのパワーアップパーツだというが、どんなものかは知らない

「ああ。Gファルコンね。設計ならなんとかできたぜ。ただ、ちょっとなぁ・・・・」
「なんだよ?」
「サテライトキャノンのエネルギーをチャージしておくための、構造がちょっとわからねぇんだ
  だから・・・・その・・・・。ジャミルには悪いんだけど、GXをつぶさなきゃいけないかもしれねぇ」
「GXを?」
「おうよ。あれだけの莫大なエネルギーをためておける構造になってるのは、GXとDXだけだからな
  GXつぶしゃ、ルナチタニウムも手に入るし、一石二鳥だ
  ただなぁ・・・・・。GXつぶしてまで造る価値があるかっつーと、正直微妙だな」

キッドの言うこともわかる。DXの影に隠れがちだが、GXも高性能機なのだ
それをどれほどの能力になるかわからない、Gファルコンのためにつぶすのは、確かにもったいない

「サテライトキャノンのためなんだよなあ・・・」

結局、Gファルコンを造るのは、サテライトキャノンのためだった。現状では、巨大なバッテリーと連結して撃つという、
極めて制限された状態でしかサテライトキャノンを撃てない。しかしGファルコンがあれば、MSとして運用しつつ、
サテライトキャノンを放つことができる

ふと、携帯からコールがなった

「はい、もしもし?」
『ガロードか』
「あんだ、ジャミルかよ。なにか用か?」
『少し頼みがあってな。シンがこれから月に行く。それに同行してもらえないか』
「月ィ?」

ジャミルから説明を受けた。戦闘に行くわけではない
大西洋連邦の大統領に、デュランダルの親書を届けるのだという
それに随行して欲しいということだ。詳しいことは、ロンド・ミナの部屋で聞けという

ガロードはうなずき、電話を切った

「『ユニウスの悪魔』か・・・・」

振り返り、DXを見つめる。悪鬼のごとく恐れられたMSは、もうすぐ復活を遂げようとしていた

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「デュランダルは死なず、というところかな。さすがって感じだねぇ
  僕も負けていられないか」

ユウナはシンの説明を受けてつぶやいた
デュランダルはこの期に及んでなお、反撃の糸口を粘り強く探っている

「代表。月に行くって、本気ですか?」

シンが困惑の表情を浮かべている。その胸には、『F』の文字が光っていた

「僕もデュランダルに借りを作らなきゃいけないだろ
  それにシン。君一人で親善大使が務まると思うかい?」
「そりゃそうですけど。なにもそこまでしてもらわなくても・・・・。俺は親善大使と言っても、手紙届けるだけですし」
「ま、僕には僕の思惑があるのさ。しかし偽者とラクスの戦争、どっちが勝つのかなぁ・・・・」

ユウナはそう、つぶやいた。状況は圧倒的にラクスが劣勢である
しかし彼女は、それを簡単にくつがえす力を持っている。その証拠が、オーブのクーデターだ
病院という牢獄にいた彼女は、翌日、オーブを制圧した

「順当に行けば、ザフトでしょう。でも・・・・・」
「ラクスだもんな・・・・・。とにかく、こっちはやれるだけの手を打つか」

ユウナは、タカマガハラの増強を急いでいた
といっても、せいぜいジャンクパーツから造ったムラサメを追加するぐらいだが、なにもしないよりマシだろう
それにもうすぐ、DXという切り札が復活する

「ちゃーす。呼ばれたから来たぞー」

のんきな声がして、ガロード・ランが部屋に入ってきた。彼の胸に、すでに『F』の文字はない
それと同時に、隣の部屋の扉が開く。ロンド・ミナが出てきた

「そろったか」
「ミナ、そっちの首尾はどうだい?」
「理解はしてもらえた。100%の保障はないが、大西洋連邦が攻撃してくることはあるまい」

ミナは月との下交渉に当たっていた。予告なく向かえば、大西洋連邦軍と戦う羽目になりかねない

「そうか・・・・。で、どうやってシンとガロードを向かわせるんだい?」
「アメノミハシラから輸送船を出す。ジャンク屋ギルドのマークをつけてだ
  さすがにヤタガラスで出向くわけにもいかんからな。護衛として、ゴールドフレームと、GXを乗せる」
「待ってくださいよ。ミナ様も月に行くんですか?」

シンがあわてて口を挟む。しかしミナは否定した

「バカを言うな、シン。私はアメノミハシラから離れることはできん。ゴールドフレームはおまえに貸してやるだけだ」
「俺に・・・・ですか?」
「アカツキを持っていくわけにもいかんだろう。それにゴールドフレームはミラージュコロイドを装備している
  いざという時、役に立つはずだ。もっとも・・・・・壊したり、傷つけたりしたらどうなるか、わかってるだろうな?」

にんまりと、邪悪な笑みをミナが浮かべる。シンの顔がなんとも形容しがたいものになった
どうもミナはシンをいじめている時が、イキイキしていると、ユウナは思う
しかし昔は冷たい印象のあった彼女が、こういう面を持つようになったのは、いいことなのだろう

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アークエンジェルの作戦室。オーブ軍の主なメンバーが集まっている
バルトフェルドが、プラント行きの作戦を発表した時、キラは目を閉じた

「僕がプラントまで一緒に行くことは、できないんですか、バルトフェルドさん?」
「ああ。相手の目をくらます必要があるからな。おまえがメンデルから動いたら、プラントも警戒する」
「ラクス」

キラは隣にいるラクスを見つめた

ジャンク屋の船に偽装し、プラントへラクスを潜入させる。
その作戦におけるメンバーから、キラは外された。それもこれも、ラクスの動きを悟られぬためである
自分がメンデルにいる限り、どこかでデュランダルは油断するというのだ

「わたくしは大丈夫ですわ、キラ」
「うん・・・・。信じてるけど、怖いんだよ僕は」
「あのさ、ちょっといいか?」

不意に、声をあげた人間がいる。会議室の視線が、一斉にそこへと集中した
誰か、と思う。ムウだった。ムウが真剣な瞳で、立ち上がっていた

「ムウさん・・・・・」
「キラもラクスも、ちょっと聞いてくれ。今から俺が言うこと、バカげたことだって思わずに、真剣に考えてくれよ
  ・・・・・プラントに降伏ってわけにはいかないか?」
「え・・・・・? プラントに降伏?」

思わずキラは、ムウの言葉を繰り返していた。降伏と発言した本人は、こくりとうなずく

「よく考えたら、戦う必要なんてないんじゃないかって、俺は思う」
「でもムウさん。降伏なんかしたって、僕らがどうなるか・・・・」
「そこは手だろう。クライン派があれだけプラントにいるなら、政治工作はいくらでもできるはずだ
  うまく交渉すりゃ、ラクスだって無罪の状態でプラントに戻れるかもしれない
  そうすればしめたものだ。後はラクスが、正攻法でプラント最高評議会の議長になればいい」
「甘すぎるな。相手はジェネシスを撃つような男だぞ」

バルトフェルドが、馬鹿馬鹿しそうにつぶやいた。会議室の声が、次々とバルトフェルドに同調する
しかしムウは非難の声に動ずることなく、じっとキラを見つめてきていた

「おい、ピーピー騒いでるやつら! 俺はおまえらに聞いてないんだよ
  坊主、それと姫さん、おまえらの意見はどうだ?」
「ムウさん。いくらなんでもそれは、無茶ですよ」
「もう一度よく考えろ、キラ。本当にそうか?」
「ええ」

ムウの言いたいことがわからないわけでないが、現時点で降伏すればどうなるか、明白である
光の速さで裁判は行われ、キラもラクスも殺されるだろう
バルトフェルドの言うとおり、デュランダルがそんなに甘いはずがない

「わたくしもキラと同じですわ」
「・・・・・そうか。わかった、忘れてくれ」

ラクスの返答を聞くと、ムウは意外にあっさりと引き下がり、椅子に座った
もう一度キラはムウの意見を考えてみたが、やはり甘すぎると思う
デュランダルが自分たちを許すほど、寛大なはずがない

「とにかく、作戦は以上だ。ラクスがいない間、ミーア嬢に影武者をやってもらう
  その間、オーブ軍はコロニーメンデルで待機、できる限りの修復を行う
  作戦が成功すれば、すぐにプラントへ合流だ
  ただしネオジェネシスがいつ撃たれるかわからんので、準備だけはしておくようにな」

バルトフェルドのその声が、解散の合図だった

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出立の準備をしている。部屋に一人でいる。声が聞こえてくる

「楽しそうじゃないか。私にも協力させてくれよ・・・・なぁ、ムウ・ラ・フラガ?」
「黙れ」

背中から、ひた、ひたとクルーゼがまとわりつく。幻聴だとわかっていながら、ムウの心をそれは侵していく

「ラクスとキラは素晴らしいな。彼らは戦争を生み、さらなる憎しみを生む
  そうすれば私の復讐は終わるわけだ。つまり私の、勝ち逃げということだな」
「それは貴様の妄想だ。キラを、ラクスを、なめるな
  あいつらは憎しみをも越えていける存在だ」
「そうさ! だから始末に終えぬ! 憎しみを乗り越えてしまったがゆえに、
  憎しみのために戦う人を理解できず、ただ愚かと断ずる! ラクスにも、キラにも、愚者の苦しみはわからない
  生まれ持ったすばらしき才能ゆえにな! だからあの二人はやがて、高尚な幻想のために世界を殺すのだ!」
「死者が生者に意見する愚かさを知れ、ラウ・ル・クルーゼッ!」

ムウが一喝すると、背中にまとわりついていたクルーゼは消えた
ふと、ひたいを流れる汗に気づき、ムウは舌打ちした

(なんのために、いまさらこんな幻覚を・・・・)

本当にクルーゼが化けて出ているはずがない。これは自分の心が生み出している幻覚だとわかっている
しかしそういうものを生み出している自分の心が、ムウには納得できなかった

アークエンジェルの自室を出て、ムウは輸送船のところまで向かった
すでに発進準備は終えてあり、乗り込んでいこうとするシャギア・フロストが見えた

「よう」
「ムウ・ラ・フラガか」
「いろいろとバタついてて、おまえさんとはきちんと話したことはなかったな」
「別に話さなければ、共に戦えないということでもないだろう。それに私はいろいろと難しいからな」
「記憶のことなら聞いてるぜ」

シャギアは記憶がないという。しかしヴァサーゴを自由に操り、普通ではない戦闘能力を持っていた
それで少なくともコーディネイターではないらしいので、おそらくは連合の兵士じゃないかとムウはにらんでいる
それもおそらく、諜報関係か特務部隊だろう。ただ、ネオとして連合といた頃、そんな存在は聞いたことはない
トップシークレット的な存在だったのだろうか

「記憶か。そういえば、最近頭痛がひどくてな」
「うん? 頭痛だと?」
「ああ。弟と一度、面会してからだ」
「ふうん。弟ね」

ラクスを襲った、オルバというザフト兵がシャギアの弟なのだという
といっても、確たる証拠があるわけではないが、シャギアは無意識になにかを感じ取っているのかもしれない

「とにかく今は、ラクスをプラントに戻すことだけを私は考えている
  記憶のことは二の次だ」
「忠臣だねぇ、シャギア・フロスト」
「皮肉に聞こえるぞ、ムウ。さっきの会議で非難されたことがそれほどまでに気に入らないのか?」
「別にそんなつもりじゃないがね」

ムウは言いながら、輸送船に乗り込んだ。フリーダムの搬入はもう終わっている
できればMSなど使いたくはないが、議会の制圧、最後の最後には必要になるだろう
とにかくこの作戦を成功させなければ、オーブ軍は宇宙の藻屑になりかねない
余計なことを考えずに、集中しようと思った

—————そう言いつつ、貴様はいつも余計なことを考えているではないか

ふと、クルーゼの声が聞こえて、ムウはまた舌打ちした

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特に問題はなかった。ザフトとも連合とも鉢合わせすることはない
それにこの輸送船は、間違いなく中立の船なのだ
そんな風にガロードたちは数日の航海を続けて、月が見えてきた

「うひょー。これが月かぁ」

ガロードは窓にはりついて声をあげた。隣ではジャミルが腕を組んでいる
適当な艦長がいなかったので、ジャミルがそれを務めているのだ

「月か」
「そういやジャミル。俺たちの世界の月って、どうなってんだ?
  いっつも簡単にマイクロウェーブが降り注いでくるけどよ」
「・・・・・実を言えば、月には謎が多い。すべての真実がそこにあるとも言われているが
  とにかく、今は交渉を成功させることを考えるぞガロード」
「あー、おう。でも手紙渡してくるだけだろ?」
「そう簡単ではない。ユウナ代表には別の考えがあるのだろうしな。むっ?」

哨戒中と思われるダガーLが三機、こちらに向かってきた。発砲はせずに、艦の周囲をがっちりとかこむ
『こちらは大西洋連邦軍である。貴艦は月面アルザッヘル基地に許可なく接近している
  早急に進路を変えられたし。さもなくば撃墜する」

これにジャミルはあわてることなく、通信回線を開いて答えた

「私はこの艦のキャプテン、ジャミル・ニート。ロンド・ミナ・サハクの名代として、
  大西洋連邦大統領ジョセフ・コープランドにお会いしたく参上した
  連絡があったはずだ、確認してもらいたい」
『失礼。確認した。では案内する」

ダガーが先導し、輸送艦が続く。降下するとかすかに重力を感じた
地球よりずっと軽い重さだと、ガロードは思った。徐々に月面が大きくなってくる
アルザッヘル基地は本当に基地で、高射砲などが物々しく見えた

無事、輸送船は月のドッグに収容される
ガロードは物珍しげに周囲を見ていたが、ふと肩を抱いているシンの姿が目に入った

「おい、どうしたんだよシン」
「ガロード・・・・。いや、だって、これから会うの、大統領だぞ・・・・」
「なんだよ、緊張してんのか?」
「わからない。正直、最初はなんてことなかったけど、大統領に会うと思っただけで、震えが出てきた
  情けない・・・・・。たかだか親書を渡すだけなんだけどな」
「ふーん。そんなこと言ったら、ユウナさんやデュランダルのおっさんも同じお偉いさんじゃねぇのか?
  そん時にゃ別に緊張してなかっただろ、シン」
「議長やユウナ代表と会う時も、それなりに緊張してるよ。でも、味方だったからな
  これから会うのは敵だ。正直、どう振る舞っていいのか、わからない・・・・・」
「シン。難しいことを考えすぎるな」

ジャミルがやってきて、言葉をはさんだ。ガロードにはわからないものが、ジャミルには見えたのかもしれない

「ジャミルさん」
「無理になにかをやろうとするな。できる限りのことを、できる範囲でやればいい
  君は立場として親善大使だが、非公式なものだ。まずは親書を渡すことだけを考えればいい」
「そうですね・・・・。俺はまだ、未熟なんですから」
「そうだ。自分が未熟であることを忘れるな。デュランダル議長は、君になにかを期待してはいない
  ただこういう場を経験して欲しいだけだろう。いつか、将来のためにな」
「はい」

シンは自分の肩を抱くのをやめて、立ち上がった。まだ緊張しているようだが、いくらかましになったのかもしれない
ガロードはそれから、シンやジャミルと共に窮屈なスーツに着替えた

「うげぇ。正装って動きにくいな」
「なんだよガロード。おまえ、スーツとか初めてか?」
「ああ。軍服もきつかったけど、こりゃまた余計にきついな。しかも・・・・似合ってねぇし」

ガロードは鏡の前で顔をしかめた。スーツを着ているというより、スーツを着せられているという感じの男が、
鏡の中で立っている。それにひきかえ、ジャミルはよく似合っていた

「そろそろ出るよ」

ユウナにうながされ、ジャミル、シン、ガロードは外に出た。連邦の歩兵たちが、銃を手に警備についている
一人の軍人がやってきて、月基地の奥へと案内された

「へぇ、こりゃすげぇや」

ガロードは思わず感嘆した。MSデッキが通路から見える。数え切れないほどのMSやMAがそこにはあった
特に中央付近には、威容を誇るかのように、赤く塗装されたデストロイガンダムが二機、存在していた
本当に物量だけなら、連合は圧倒的だったのだろう

やがて月基地の中央部につく。二人の連合軍人が、扉の前に立っていた
二人はさえぎるように、ガロードたちの前に立ち、口を開く

「おい、ここから先は大統領の部屋だぞ。誰だこいつらは」
「アカイ大佐、ニレンセイ中佐、アメノミハシラからの使節です」

先導している軍人が、説明をしている

「ちょっと待て。・・・・大統領。だ、そうですが、通していいんですかい?」

かっぷくのいい、大佐の階級章をつけている男が、扉の横にある受話器を取って話している
しばらくして男はうなずき、ガロードたちに入れ、と目でうながした

中は想像以上に、落ち着いた雰囲気の部屋である
品のいい調度品が並び、中央には机が置いてある
そこにいるのは、金髪の男。こちらを威圧するような視線を送っている

するとシンが、一歩進み出た

「プラント最高評議会、特命親善大使、シン・アスカです
  大西洋連邦、ジョゼフ・コープランド大統領でありましょうか」
「そうだ。ジョゼフ・コープランドである
  驚いたな。アメノミハシラからの使節が、実はプラントのものだったとは」

男はいくらか不機嫌そうな声で答える。シンは威圧されそうだったが、どうにか耐えているようだった