クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第093話

Last-modified: 2016-02-23 (火) 00:02:45

第九十三話 『よく似たやつがいるんだ』
 
 
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ハイネは、ストライクノワールの中で唇をなめた
じっとザフトの艦隊を見下ろす。声は届いたはずだ。後は、どう受け止めるか

デスティニーインパルスと、ストライクノワールが、空を飛ぶ
目線の先では、クラウダ隊とザフト、DXが戦闘を行っている

ストライクノワールが、両手からアンカーを放つ。それがクラウダの両腕をがんじがらめにした
見計らい、レールガン。腹にあるバーニアに命中し、クラウダが落ちる

「ハッ! 弱点さえわかれば、なんてことはないんだよ!
 ガロード、無事か!?」
『へっ、おせぇんだよハゲ』
ガロードの悪態が聞こえる。ハイネは微笑した
「おっと。毛根が危ないのは、アスランだけだぜ? そこのところ間違ってもらっちゃ困るな
 DXはどうだ? 外傷は多いみたいだが」
『こんなもん、屁でもねぇ』
「ミネルバに下がっとけ! 後は俺たちが引き受ける」
『いいのかよ?』
「俺を誰だと思ってるんだ?」

にやりと笑うと、GファルコンDXは下がっていった。代わりに交戦を開始する

クラウダがビームを放ってくる。右へ、回避
エターナルが動き始めていた。やはり交戦するつもりはないのだろう

ルナマリアのデスティニーインパルスが、クラウダをさらに1機落とした
ザフトも踏ん張っている。それでも、クラウダは強い。熟練のパイロットでも、腹部のバーニアを狙うのは難しいようだ

「逃げるか……?」

エターナルが遠ざかっている。徐々に後退しているのだ。あちらはキラというジョーカーが抜けている
DXという切り札を持つ、こちらとやりあうつもりはないのか

『ハイネ、どうするんですか?』
ルナマリアが声をかけてくる
「無理に追うな。俺たちはザフトの抑えが役目だ」

落としたクラウダは、3機。上等な戦果と言うべきか
それよりも問題は、一時的にとはいえ友軍となったこのザフト兵である
ハイネは通信を開いた。結局、こういうのが自分の役目だろう

「おい、おまえら。これからどうする?」
ハイネが問う
『ミネルバに投降します』
グフが1機とバビが2機、こちらについた。それはあらかじめ誘いをかけておいたザフト兵だった
残りの10機ほどが、迷ったように空中で静止していた

『やめないか! 全機、帰投しろ!』

聞き覚えのある声。海上に浮かぶザフト艦より、レジェンドがグフを5機連れてやってくる

「レイ・ザ・バレルか! ご苦労なこったな!」
『ハイネ・ヴェステンフルス……! なぜ偽者につくんです!』
レジェンドが、ビームライフルを乱射してくる。ビームライフルショーティーで呼応
「ハッ! 見くびられたもんだな? この俺が、偽者につくと本気で思うか……おまえ!」

『あれは偽者だ。そうでなければ……!』
レジェンドが、ドラグーンを展開してくる。全方位攻撃
『レイ! あんたもいい加減、ほんっと、わからずやの石頭ね!』
Dインパルスと、ストライクノワールに降り注ぐビームの雨
かわしきれず、右上腕部に被弾。舌打ちをする。わかってはいたが、デストロイなどよりよほど手ごわい

『議長は新しい世界を作られる。戦争のない、本当に平和な世界を
 俺は、そのために戦っている。邪魔をするな、ルナマリア!』
『くっだらない! 平和のために、あたしたちと戦うのがあんたの正義?
 笑わせないで! 今すぐ平和にしたいなら、こっちに来ればいいのよあんたも!』

Dインパルスがビームブーメランを引き抜き、投げつける。レジェンドはビームサーベルで真っ二つにそれを叩き割った

『黙れ! 俺は、議長を裏切らない……! おまえと戦うことになっても、それは変わらない!』

レジェンドからビームスパイクが、二つ放たれる。回避。通り過ぎ……衝撃。背中のバーニアに、スパイクが突き刺さる
空間認識能力者。それが操るドラグーンは、意志を持つと言う。聞いてはいたが、実際にやりあうととんでもない代物だ

ノワールの出力が低下する。今のでレールガンがイカレた

「チッ、俺たち2機を相手にやってくれる」

ドラグーンが厄介だ。十数機のMSを相手にしているようなものだ
投降してきたザフト兵もグフの小隊とやりあっているが、押されている

レジェンド。そして、レイ・ザ・バレル。彼の偽者に対する想いは、ほとんど信仰に近い
なにを吹き込まれているのか知らないが、いいように操られている
こういうのは厄介だった。生半可な説得では、こちらに転ばない。ならば、殺すしかないだろう

『レイ、裏切ってるのはどっちよ! この、バカぁ!』
Dインパルスがビームライフルを放つ
『議長の想い、なぜ理解しようとしないんだッ! おまえたちはァァッ!』
レジェンドがビームシールドを展開しつつ、再度ドラグーン射出

火花。火線、ビームの足跡。それらは残光となり、Dインパルスを焼く

『くぅぅ!?』
「ダメだ。下がれ、ルナ!」
ドラグーンの包囲網。ビームがDインパルスの右腕を吹き飛ばす
なんて複雑な軌跡。ショーティーを放つが、撃ち落とせない

『こうやるんだよ』

突如、ドラグーンが落ちた。ミネルバの方角から、ビームが放たれている
DX。Gファルコンをつけず、身軽になったそれが、バスターライフルを放っている

「な……に?」

DXのビームが、次々とドラグーンを撃ち落とす
複雑な軌跡を描いているそれが、まるで手慣れた猟師に狙われた獣のごとく撃ち抜かれていく

『ガロード!』
『レイ。おまえと、よく似たやつがいるんだ。そいつはニュータイプで、俺なんかよりずっと優れてた
 おまえと同じニュータイプだよ』
『俺が、ニュータイプだと……?』

ハイネも聞いたことがある。人類の革新。人工的に作られたコーディネイターとは違い、本当に進化した人類
ニュータイプ。言葉かわさずとも他人を認識し、優れたパイロット能力を持つのだという

DXが、またドラグーンを落とす

『そいつは力が欲しくて、そのために自分の命を引き換えにして、ちょっと嫌なやつだけどまっすぐで!
 けど、最後はきたねぇやつに利用されちまった。それで死ぬほど後悔して……』
『なにを言っている、ガロード!』
『でも、償うために生きていくことを選んだんだよ! 残り少ない自分の命を、精一杯使うことを約束してな!』
『……な。……くッ』
『レイ、もうよしやがれ! てめぇ、ルナを殺して、シンを殺して、本当に笑えんのかよ心の底から!』
『黙れガロード!』
『死んじまったらおしめぇなんだよ! しでかしたことは、絶対に元に戻んねぇんだ!
 後悔してからじゃ、なんもかんも遅い……レイ、わかってんだろてめぇもよ!』
『黙れ! おまえに俺のなにがわかる……!』

レジェンドのドラグーンが、全機撃ち落とされた。しかしレイはひるむことなく、ビームサーベルを構えている
DXも同じく、ハイパービームサーベルを引き抜いた

対峙。数秒だけが、永遠となるほどに長い

『全機撤退だ』

こう着を破ったのは、老人の声だった。ハイネには聞き覚えがある
確か、ザフトの将軍ウィラードの声である。地上軍総司令の声だった

『ウィラード司令、まだ勝負はついておりません!』
『よせ、バレル。我々はデストロイを失っている。無理押しするところではない
 DXについた命令違反のザフト兵も戻れ
 敵であるラクス・クラインと交戦したということで、今回に限り不問にしよう』

ウィラードの声。撤退の時期を見極めるのは、さすがだった
少なくともこのまま放っておけば、レジェンドは撃墜されたはずだ
今のガロードはどこか異様な迫力がある。まるで本物の悪魔となったかのようだ

「待ってくれ、ウィラードのオッサン」
ザフト地上軍の旗艦へ、通信を入れる。ハイネはほとんどのザフト将校とは旧知である
『ヴェステンフルスか』
「プラントに長く忠誠を捧げ、ザフトで前線に立ってきたあんたが、なぜ偽者に加担する?」
『ここで偽者かどうか議論しても仕方あるまい。水掛け論になるだけだ』
「そりゃそうだが……」
『黙れ。軍人は命令に従うが勤めよ。そして、わしはプラントにおられるあの方が、命令を下すにふさわしくない人物とは思わんな』
「そうかよ」
『どちらにしろ、こうなればどちらが死ぬかだ。行く道は違うのだからな』

レジェンドや、グフの小隊が撤退する
ザフト艦が、整然と隊列を組んで退却する。ミネルバにそれと交戦する体力は無い
ハイネはそれを見つめたが、すぐに思考を切り替える。まだ戦いが終わったわけではない

「ルナ、ガロード、ミネルバにいったん戻るぞ。応急処置して再出撃だ」
『……なぁ』

ガロードが、なにか言いたげである

「なんだ、ガロード?」
『……いや、シンは?』
「ん。ああ、もうすぐ来るさ」

なんとなくだが、ハイネはガロードがそんなことを聞きたいわけではなかったのだろうと思った
『ユニウスの悪魔』。そう呼ばれるのに、15才はちょっと繊細すぎるのではないだろうか

ハイネは少し、後ろを見た。ザフトのMSが8機、残っていた

「どうした? おまえたちも来いよ」

声をかける。するとはじかれたように、ザフトのMSたちもこちらにやって来た

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ずっと嫌な感じは続いている
キサカはそれを肌で感じていた
暴動という報告が入ったときから、胸の中が黒雲で満たされたように晴れない

レドニル・キサカは、アスハ家の軍人である。そう思い定めている
だから、いかにアスハの人間がいなくなったとはいえ、その家を奪ったユウナを許せない
どうせなら、キラの方がずっとよかった。キラは前大戦の英雄であり、カガリの弟でもある
温室育ちの甘ったれたボンボンとは違うのだ

その温室育ちのバカ息子が、オーブの主席となった
いま思い出しても、腹の立つことだった。オーブが汚されたとさえ思った

ラクスに協力したのはむしろ当然だった
ラクス・クラインは前大戦で比類なき功績を挙げている
にもかかわらず、プラント最高評議会議長の位を辞退していた
そういう潔さが、キサカは好きだ。そういう人間こそが世界の頂点にふさわしいと思う

世界がラクスの下で一つになれば、戦争はなくなるだろう
もっとすみやすい世の中になるはずだ。オーブが第一であるが、世界に目を向けたとき、キサカはそう思う

ジブリールのいない今、プラントを制圧すれば世界はクラインの旗に統一される
それまであと少しなのだ。だが、世界の平和にあと一歩というところにやってきて、邪魔をされた

なんなのだ、あれは。思い出すたびに腹が立ってくる
シン・アスカという若造が、プラントに進軍するオーブ軍を止めた
あれからなにもかもがおかしくなったと思う。プラントに攻め込むどころか、オーブの危機だった

そして今だった。難民が食糧を求めて暴動を起こしているのだという
理不尽なものに触れたような気分だった。世界を平和にせんとする時に、なぜ一時の我慢ができないのか
平和になれば、たらふく食える。それ以上に、もう人が死ぬこともなくなる
そのためにもう少し我慢すべきではないのか

「フロスト兄弟に、ヤタガラスを抑えろと伝えろ」

オーブ宮殿、地下にある作戦室で、キサカは命じた。ここがオーブの国防本部である
クーデターの折、ユウナもここにこもったのだ
工作でかなりの設備がやられており、通信も悲惨なものだがしょうがなかった

ヤタガラスが出たと聞いたとき、全身に鳥肌が立った
ユウナ・ロマが出てきたのだ。プラントとのせめぎあいに気を取られていたのか
ユウナの目的はわかりすぎている。オーブの奪還である

ヤタガラスとザフト、どちらを止めるべきなのか
そして難民をどうすべきなのか。キサカは軍を分けた。分けざるを得なかった
寡兵でありながら軍を分けなければならないのは馬鹿げたことだが、この状況、やむをえない
ザフトもヤタガラスも、オーブに到達させるわけにはいかない

作戦室の机に、紙の地図を広げた。電子地図は使い物にならなくなっている
チェスのコマを軍勢に置き換えて、配置してみる。ザフト、ヤタガラス、そして暴徒
まだどれもオーブ本島ヤラファスからは遠い。しかし、勝てるかどうかは微妙なところになっている

ラクス・クラインが地上に降りてくるらしい。その増援がくれば、どうにか。そんなところだ

「ヤタガラスだけは抜かせるな」

ヤタガラスは、タカマガハラの旗艦である
ユウナはおそらくそこにいるはずだ。そして、議会の制圧を狙っている

通信設備がやられているのが大きい。戦況がほとんどわからない

不意に、外が騒がしくなった

「何事だ」キサカは不機嫌そうにつぶやく「外を確認して来い」

警備をしていたオーブ兵に命じる。兵の一人が作戦室の外へ、駆け去って行った
通信設備がやられていると、わざわざ目視に頼らねばならない

それから、しばらく、わめき声のようなものが聞こえた
遠い声だ。難民がヤラファスへ侵入したのか

(遅い……)

状況確認の兵が、帰ってこない
さっきから続く嫌な感じが、より強くなったような気がした

『報告します!』

伝令。声。ノイズの混じった質の悪い叫び声が、国防本部に響き渡る

「レドニル・キサカだ。状況は?」
キサカがマイクに近づき、音声を拾う
『それが……その……』
「なんだ?」
『……が』

報告を受けた瞬間、キサカの全身が浮いたような感じになった
ショックを受けたのだと、数瞬してから悟った

はじかれたようにキサカは走り、オーブ宮殿より外に出る

外は思ったより静かだった。なにかうるさい音がしていたはずなのに、なぜか静かだった
オーブ軍がこちらを見下ろしている。10機ほどのムラサメ
それらがこちらを見下ろしている

なにをしているのだ。オーブ軍なら、早くオーブを守らぬか

キサカはそう声に出そうとして、出せなかった
ムラサメの中に、異質があった。なぜか連合のMSであるウインダムがいる

そしてもう一つの異質。いや、それは異質ではないはずだ
『それ』は本来、オーブの中にあってしかるべきものなのだから

「アカツキ……」

空に在るは、オーブの意志を具現化した黄金の天命
高き翼を広げ、こちらを見つめている

『もう終わりだ。終わりなんだよ。ラクス・クラインがかけた魔法は、解けた
 武器を捨てろ、オーブ軍。俺に故郷を焼かせるな』

拡声器を通して聞こえる声。思ったより静かだった
シン・アスカ。オーブで生まれ育った少年だという

「タカマガハラ、どこから……」

ならば、こちらを見下ろしているムラサメは、オーブ軍ではなくタカマガハラという事だ

『ザフトはDXが撃退した。デストロイ隊も含めてな
 そしてオーブ本島ヤラファスの防衛隊はスッカラカンだ。おとなしく投降しろ』

キサカは息を呑んだ。上空にあるこの戦力、圧倒的である
しかしいったいどこから出てきたのか。通信設備をやられているとはいえ、むざむざ上陸を許したのか

「キサカ一佐……」

部下たちが数名、こちらに走り寄ってくる。誰もが敗北感を顔に浮かべていた

「なんだその腑抜けた顔は」
キサカはつぶやき、一人ずつ殴り倒す。それなりに手加減したが、全員吹っ飛んだ

「キサカ一佐……!」

一人が、なにか言おうとした。キサカはそれをにらみつける

「おまえたちは腰抜けだ。数は問題ではない
 心が折れた瞬間、人は負ける。戦う前から負けと思うは恥だ
 前大戦、最後までウズミ・ナラ・アスハは心を折られなかった
 ゆえに、オーブに負けはなかった。オーブの不敗を信じるなら、立て
 クラインの旗を信じたのだろう。ならば、立て」

殴り倒した兵が立つ。一人、また一人

「オーブ魂を見せてやります」

一人が、うめくようにつぶやいた。キサカは満足そうにうなずいた

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隻眼の女性、ヒルダ・ハーケンが声を張り上げている

「早く! エターナルをオーブ本土までつけるんだよ! でなきゃ、ドムが出られないんだ! もっとスピードは出ないのかい!」
「ザフトと交戦した傷の処置が済んでないんです! これが目いっぱいです……!」
「チッ。こりゃ、いったいどうなってんだい……」

エターナルの艦長室で、ロアビィはそのやりとりを見るともなく見ていた
エターナルはザフトの防衛線をどうにか突破してオーブまで降下してきた
後は、オーブ本土ヤラファスまで行かねばならないのだが、状況があまり見えない

がんばりすぎだぜ、ガロード

ロアビィはつぶやいた。傷だらけのダブルエックス
支援戦闘機らしきものと合体したそれが、エターナルを阻み、ラクス親衛隊とでも言うべきクラウダ隊と交戦した
なんと、それをザフトのMSが支援したのだ。それがイヤにロアビィの心を騒がせる

「ロアビィ・ロイ、あんたも出撃準備だ」
ヒルダがこちらを見てきた
「ダメだな」
ロアビィはきっぱりと告げる
「なに?」
ヒルダが明らかに機嫌を悪くしたような顔した
「やめなよ、そんな顔。美人が台無しだよヒルダさん」
「だ、誰が美人だ! み、見え透いた世辞はよせ!」

顔を真っ赤にするヒルダを尻目に、ロアビィは自分の頬をなでた

「虎の旦那に言われてるんだよ。俺は今回、歌姫さんにぴったりついてろってね」
「それはあたしの役目だ。ロアビィ・ロイ。勝手に人の仕事を取るんじゃないよ」
「歌姫さんは、どう思う?」

ヒルダの相手をせず、ロアビィはラクスを見た
ミーアの言うとおり、やはりラクスはどこかおかしい。今もなんとなくぼんやりしている
いつもなら、こういう時は積極的に指示を出したり弁をふるったりしたはずだ
 
ちょっと夢を見ているような視線で、ラクスはこちらを見つめてきた
吸い込まれそうな彼女のひとみだけが、変わっていない

「ヒルダさん。ロアビィさんの言うとおりに」
「あ、は、はっ!」

エターナルが空を行く。雲を抜け、オーブ本島ヤラファスが見えてくる

「ヤラファスにアンノウンMS多数! 解析……報告いたします!」
通信士の叫び声。エターナルのブリッジに緊張が走る
「どうですか?」
「ムラサメ、ウインダム、総数20機……いえ、アカツキがいます!」
「アカツキ……ですか」

少し考えるような顔つきに、ラクスはなった。ブリッジがどよめいている
ヤラファスにいるのなら、オーブ本島は制圧されたということなのか
オーブの通信設備がやられているので、ほとんど状況がつかめていない

「ラクス様。いかがなさいますか? このまま我々はヤラファスへ向かってよろしいのでしょうか?」
ヒルダがラクスのそばにかけより、尋ねる
「はい。進路は変えず、ヤラファスへ」
「よし、エターナル進路はそのまま! 総員戦闘配置だ
 マーズ、ヘルベルト、あたしたちもドムで出るよ! クラウダ隊、続きな!」

ヒルダが威勢良くブリッジから飛び出していく
それとは逆に、ロアビィはブリッジクルーの一人に近寄り、オーブ本島の地図を見せてもらった

勝敗に興味は無い。自分がやるのは、ラクスの警護という仕事だけである
ならば、逃げ場所をどう確保するか。いま、興味があるのはそれだった

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海岸にたどり着いた。ただでさえにぶい地上での機動が、海中だと悲惨なものだった

ジンの左腕はなくなっており、突撃銃の弾は尽きた。重斬刀はどこかに行ってしまった
ほとんど丸腰であるが、キラは気にしなかった

ジンのコクピットハッチを開け放ち、空を見上げる。エターナルが空を行き、そこからMSが出撃している

「終わりにしよう、ラクス」

キラはつぶやき、ひげをなでた。
なれなかった無精ひげの感覚も、今はずいぶんなじんできている

ジンが、一歩、ゆっくりと歩き出した