第116話 『なにを驚いているのです?』
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「やっとか」
アスランはつぶやいて、通信を切った。
イザークから通信があって、ようやくクラウダの受領は完了したらしい。
ヤタガラスの艦長室だった。机の上には、作戦書が山と積まれている。
立ち上がろうとした。すると立ちくらみが起こって、作戦書を誤ってつかんでしまう。
ばさりと、なにかがはばたくような音を立てて、作戦書が部屋に散乱する。
ため息をついた。あまり寝ていない。
後でメイリンに言って、片付けさせなきゃいけないなとぼんやり感じながら、舞い落ちる紙を見ていた。
ガロードたちがアークエンジェルから帰ってくるのと、ザフトがアメノミハシラに攻撃をかけてくるのは、ほぼ同時期になるのだろう。
その決戦に勝った者だけが、世界を変える資格を手にすることが出来る。
「アスラン、入るよ」
ユウナが、艦長室に入ってきた。
「代表、散らかっていますが」
「うわ、ホントだね。どうしたんだい?」
ユウナが、片足をあげて、踏みつけるのを避けた。
彼はそのままソファに座り、軽くため息をつく。
「そのご様子では、大西洋連邦の腰は重いようですね」
「まーねー」
四者同盟と一口に言うが、大西洋連邦の賛同が無ければしょせん、絵に描いた餅である。
オーブにはタカマガハラぐらいしかまともな戦力がないし、こちらについてるザフトは数える程度で、ブルーコスモスの残党も心許ない。
大西洋連邦が無ければ、戦力的な不利は覆せないのだ。
「シンあたりは、不安でしょうがないのでしょうね。四者同盟が受け入れられないのではと」
「あの子はその点、純粋だからね。まぁ、根本のところは単純なことさ」
ユウナは、その単純なことまでは説明しなかった。
アスランにもわかっていることだ。
大西洋連邦は、コーディネイター根絶法案にも、四者同盟にも、反対というわけではない。
ただ、日和見を決め込んでいるだけのことだ。
他の諸外国もそうだろう。興味があるのは大義でも未来でもなく、どうすれば勝ち馬に乗れるか、程度のことだ。
理想で動く人間は元々そう多くない。
「理想で人を動かせ続けられたラクスは、やっぱり英雄だったね」
ぽつりと、ユウナが言った。
「さて、化け物だったとも言えますけどね。ただ、彼女が負けたのが、まだ俺には信じられません」
イザークとディアッカから、メサイアが落ちる様子を事細かに報告してもらっていた。
周到に攻め、大胆に落とした。身の毛がよだつほど、鮮やかな手並みだった。
キラのストライクフリーダムが健在ならば、ラクスは勝てたのかどうか。
なんとなく、それでも負けていたような気がする。
ただ、負けたラクスというのが想像できないのだ。
土ぼこりにまみれた歌姫の姿が、脳裏に描けない。
「死んだのかな、ラクスは」
やはりユウナは気になっているのだろう。彼にとってラクスは、仇敵である。
「どうでしょう。生死不明、らしいですが」
死んでいれば面倒が少なくて済むと思っていた。
ただ、仮に生きていても、もう彼女が戦うことはないような気がする。
どちらがこの決戦に勝っても、かつてのようにクラインの秘密工作や、MSの違法所持など許されなくなるからだ。
下手に動けば、クラインの残党狩りをされかねない。
「それよりも俺は、あの偽者と戦うことの方が、どうも」
「怖い、とか?」
「そこまでは。ただ、身震いするような気分になります。あの男は、常勝不敗ですからね」
戦術指揮も戦略も、アスラン・ザラはすべて及ばないような気がする。
ラクスを倒せと言われて、自分は倒せるのか。同じようにザフト全軍を率いていたとしても、とても無理だったような気がする。
レクイエムを破壊したときも、オーブを取り戻したときも、タカマガハラはあの男の横合いから勝利をさらってきただけだ。
正々と、勝ったわけではない。その事実は、重くのしかかっている。
「赤壁、だね」
ユウナは、こちらを見ず、散らかった作戦書に目を向けていた。
「セキヘキ、ですか?」
「ホラ、三国志だよ。君は周瑜さ、アスラン。同じ若き将軍、ハンサム同士、ぴったりじゃないか」
赤壁の戦い。
知らない人間が居ないほど、有名な話だった。天才兵略家、曹操率いる大軍を、策を用いて周瑜は破った。
それまで周瑜は、地方の一将軍だったが、この戦いで一気にその名を天下に轟かせ、曹操の天下統一を阻んだのだ。
「俺がそれほどの、名将なら、こうも苦悩しないんですが」
苦笑した。
「そこさ、アスラン。周瑜は名将だったんじゃない、勝って初めて名将と呼ばれるようになったんだ。
戦う前は、君と同じように震えていたんじゃないかな」
「……」
「とにかく、戦おうじゃないかアスラン。オーブ政府には、僕が死ねばプラントに降伏するよう言い含めてある。
負けることを恐れないでいよう。ある程度は、なるようにしかならないと思うしね」
「どうでしょうか、俺は。気楽にはなれませんよ」
「ハハハハ、そりゃそうかもね。ただ、本音を言えば、僕は自分の命が一番大切だよ。
今だって、偽者に泣きついてごめんなさいって言いたいのをこらえてるんだ」
「代表、その、それは」
「だから、君は僕が逃げ出さないように見張っておくんだね。
なに、その程度でいいのさ、総指揮官なんて。どうせ、大西洋連邦が動かなければどうしようとも負けるんだ」
時々、うらやましくなるのが、ユウナは自分の臆病さを隠さないところだ。
怖い物をはっきり怖いと言っているのを見ると、それはそれで懐の深さを感じる。
それにしてもユウナ・ロマは大きくなった。最初はただの鼻を垂らした御曹司だったのだ。
戦う力すら持たなかった男が、ここに立っている。それは奇跡と呼んでいいんじゃないだろうか。
彼は、ナチュラルの可能性を、世界に描ききったのかもしれない。
現時点では、間違いなくラクスは敗者でユウナは勝者なのだ。
「勝ちたいですね」
アスランは言っていた。
「うん?」
「勝ちたくなってきましたよ、俺は。あなたを歴史の勝者にしたい」
「ハハハ、期待してるよ、アスラン」
ユウナは笑いだけを残して、帰って行った。
気を遣われたのだと思う。
軍を預けてもらっていながら、国家元首に慰められるとは、情けないことだ。
年齢を数えた。もうすぐ19になる。
せめて30になれば、経験で補える部分もあるだろうが、若さのまま戦わなければならない。
マサムネ・ダテ、霍去病、アレクサンダー、エドワード黒太子……。
若くして将となり、大功を挙げ、その名を轟かせた史上の人物を想う。
彼らもまた、このように苦しんだのだろうか。
それらに比べると、アスラン・ザラはいかにも貧弱なように思える。
こんな人間が、世界を二分する決戦の、総指揮官でいいのか。
振り払ったはずの弱気が、首をもたげる。
作戦図を広げた。
プラントと、アメノミハシラ、宇宙要塞メサイアの距離を測る。
ザフト主力軍は今、メサイアにいる。
今のうちに密かな動きで、ヤタガラス、ミネルバを発進させる。
そしてプラントに駐留するザフト軍を撃破し、最高評議会を制圧する。
この奇襲をやるべきではないのか。
ツメを噛みながら、うめく。
これぐらいのことをあの偽者が想定していないはずがない。
やはり、無理だ。デュランダルが即座にザフトを掌握できるとは思えない。
ラクスのような魅力がなければ、この奇襲は制圧しない。
制圧が成功しても、ザフト全軍の反撃を受けて、袋だたきになるのがオチだろう
幾通りもの想定をする。オーブ本土からの核攻撃さえ、想定した。
しかし、勝利への道筋はなに一つ見えてこない。
決定的に戦力が足りないのだ。
デストロイの投入や、ネオジェネシスの発射に備えて、ダブルエックスを備えておく程度しか出来ない。
奇策も、せいぜい一つだけだった。
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鬱々と、していた。
自分がやったことの意味を考える。
やってしまったくせに、なぜかやらなければ良かったとか、考える。
シンは目を閉じた。自室で、誰もいない。
ステラも近づけていなかった。
ふとした拍子に、どこかに逃げたいと思ってしまうことがある。
しかし逃げ場など無いことに気付いて、ようやく自分の弱気を憎む余裕が出る。
「弱いな、俺は」
自分に呆れるしかなかった。
コーディネイターの存在そのものをリセットする。
始祖ジョージ・グレンが積み重ねてきた物を、そして二度の大戦が必要だった物を、すべて無くしてしまう。
そんな考えが、本当に許されるのか。
自分がやっていることは、ひどく的外れで、どうしようもないものではないのか。
苦しむ。MSで突撃する方がずっと楽だった。
しかし、信じるしかない。
ユウナが、デュランダルが、ブルーノが賛同してくれたことだ。
自分1人で戦っている気分でいるんじゃない。
皆で考え、決めたことだ。なにもかも自分の責任だと思うのは、傲慢以外のなにものでもない。
結局、勝つしかない。
もう思想の勝負ではなくなっている。
窓に触れた。静寂の宇宙が広がっている。
ここは、もうじき火と光の戦場に変わる。
戦争が消えない理由、わかる気がする。
人に、どうしようもなく譲れない物ができたら、最後は武力で決めるしかないのかも知れない。
だから、逆説で、人が限りなく譲れる生き物なら、きっと戦争なんて知らずに人類は生きて行けたんだろう。
「もしここで、俺たちがあの偽者に全面降伏したら……」
戦争は終わる。あっけなく、バカバカしいほどの幕切れで。
流血を望まないのなら、真にただ平和だけを望むのなら、そうすべきなのかもしれない。
デスティニープランが正しいのか、それとも四者同盟が正しいのか。
勝者がどちらかにしかなれない以上、どちらも試すわけにはいかない。
ラクスが、負けた。
クラインは四分五裂し、かなりの人間がザフトに寝返った。
歌姫の生死はわからず、彼女の光輝からは想像も出来ないほど哀れな最期だった。
ラクスが抱いた、夢のかけら。それはいったいなんだったのだろうか。
16から蜂起し、己が武力を信じて戦い続けた彼女は、なんだったのか。
わかるはずもなかった。依然として、ラクスは自分のはるか頭上にいる存在だ。
彼女を超えた実感など、どこにもない。
たまたま、自分は滅びていない、というだけのことだ。
夢のかけらは、シン・アスカの手にもある。
それをつかみ、輝かせられるのか。それともこの身は、チリと変わるのか。
不意に、警報が鳴った。しかも第一種戦闘配置である。
何事か。部屋を飛び出し、アメノミハシラの港に向かう。
自分はあくまでMSパイロットで、戦闘配置ならばアカツキで待機である。
「ステラ!」
MSデッキに先着していたステラに、声をかける。彼女は依然として自分の指揮下にある。
「シン……」
「ガイアで待機、すぐに出られるよう他の連中にも。
ただ俺が言うまで飛び出さないでくれよ!」
「うん……」
ステラが、とぼとぼした感じで、ガイアに歩いていく。
忙しすぎて、あまり構ってやれていない。後ろ姿に、後ろめたさを感じた。
アカツキのコクピットに乗り込む。パックを選択、オオワシ装備。
『シン、聞こえるか?』
ミナの声。彼女は、軍事担当ではない。本来ならアスランが伝達をすべきだ。
「あ、はい!」
『おまえの部隊を、外に出せ』
「敵は? それと規模は?」
『いや、ただの珍客だ。だから私が命じている』
「珍客って……」
『サザビーネグザスだよ』
ミナの言葉を、数瞬、疑った。
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「案内ご苦労、シン・アスカ」
「……」
名前も知らない男が1人、真紅の機体から降り立ち、こちらに笑みを向けた。
どうしていいかわからず、シンはただにらみつけた。
外貌は、間違いなくギルバート・デュランダルである。
しかし中身は、ただの外道だ。
「そんな怖い顔をしないでくれ。そう……あと、銃をしまってくれると嬉しいな」
歩兵が、偽者の周りを取り囲んでいる。しかし男は顔色一つ変えず、声に震え一つ見せず、悠然と見回していた。
偵察用と思われるジン以外、彼は供もつけずに単独でやってきていた。
「なにが……目的だ?」
アスランがいつの間にかやってきていた。彼の周囲を、歩兵が厳重に囲んでいる。
「そうだね……。ふむ。とりあえず最初に言っておこうか。
私やサザビーになにか危害を加えれば、ネオジェネシスはアメノミハシラを吹き飛ばす。
まずはそれを覚えていてもらおうか、アスラン・ザラ」
「ふざけるな、薄汚い偽者が!
カガリを暗殺し、ユニウスセブンを落とし、プラントを卑劣な手段で奪った……
100度処刑しても間に合わないほどの罪状を抱えた卑劣漢が!」
「ははは、覚えておきたまえよ。罰とは、逮捕されて初めて加えることができるものだ。
今のところ私には逮捕状が出ていないのでね……処刑は無理だろうな」
「からかっているのか……無事にここから出られると思っているのか?」
吠えているアスランが、位負けしている気がした。
いや、単独でアメノミハシラにやって来ている時点で、この場にいる全員が、この偽者に負けている。
「無事に帰れるさ。そうでなければ来るわけがあるないだろう?」
微笑を浮かべ、男はつかつかと歩き、囲んでいる歩兵に歩み寄った。
そして、なにを思ったのか、歩兵が構えている銃をつかみ、そっと握る。
「だから、ここは通してくれると嬉しいな?」
銃をつかまれた歩兵が、とっさに道を空けた。
囲んでいる自分たちの方が、威圧されている。なんだこの男は……。
シンの足は、凍り付いたように動かなかった。そして今のところ、氷を溶かす術を知らない。
「な、なにがしたいんだ、あんたは!」
それでもシンは、かろうじて声を絞り出した。
男が振り返る。目があった。なにか、胸の底をのぞき込むような視線だった。
「やぁ、シン・アスカ。四者同盟の演説、私は感動したよ」
「ぐっ……。目的を言えッ!」
「はっはっは、全世界に向かって大見得を切ったのはいいが、今のところ誰も賛同してはいないようだね。
ひょっとして、新生ブルーコスモスの宣言後、やってきた正式な外交使節は私が初めてなのかな?」
「……ッ」
痛いところを。
確かに、あの宣言以後、コンタクトを取ってくる国は無い。
「外交使節だと……?」
アスランが、会話に踏み込んでくる。
偽者がそちらに視線を投げた。
「ああ、そうさ。きちんと最高評議会の承認も受けている。私はアメノミハシラに、使節としてやってきたのだ」
「最高評議会は貴様の言いなりだろう……!」
「さすがはパトリックの子。それぐらいのコネは持っているか」
あれ……。
違和感を感じた。
この男は、パトリック、という人名を、まるで知り合いを言うかのように使ったのだ。
「まぁ、ここで軍人と話していても仕方ない。私は政治家と会いたい。
ユウナ・ロマかブルーノ・アズラエルと会えないか」
「ギルバート・デュランダルとは会わなくていいんですか」
精一杯の皮肉を、シンはぶつけてやった。
しかし微笑が返ってくるだけだった。
アスランが偽者をにらみつけながら、軍用回線で話を始めた。
ユウナとコンタクトを取っているのだろう。
ちょっと言い争う感じの後、アスランは回線を切った。
忌々しげに、アスランは指をくいっと示す。
歩兵が偽者を囲み、歩き出す。偽者も悠然とそれに従っていく。
シンは、最後尾で追いかけた。
アメノミハシラの会議室まで行くと、中ではアタマと呼ぶべき人間がそろっていた。
ユウナやミナはもちろん、ブルーノ、タリア、それからハイネやデュランダルが席についている。
ハイネなど凄まじい形相で、今にも飛びかかりそうな雰囲気をまといながら偽者をにらみつけていた。
意外に、デュランダルの方が落ち着いた顔をしている。
偽者は、ただ微笑を浮かべている。
「ほう、これはそうそうたる顔ぶれだ。新生ブルーコスモスと、大見得を切る理由もわかるな」
男は開口一番、そう言ってにこりと笑った。
「議長、こいつを殺していいですか……!」
ハイネが、かなり差し迫った顔でつぶやく。タリアとデュランダルが、軽くその背に手を置く。
そうしておかないと、ハイネは本当に殺してしまいそうだった。
「外交使節という名目だが……どこに対してなのか聞きたい。
オーブか、ブルーコスモスか、それともプラントか?」
ミナが、務めて冷静に、声を出していた。
「この場にいるすべての人間に。そして、この世界のすべての人間に。
できれば、カメラを回してくれると嬉しいのだがね」
偽者は大胆にも、会議室のイスへゆったりと腰をかけた。
高級イスの感触を味わうかのように、背もたれへ身体を預ける。
「あなたの要請に応えるいわれは無い!」
アスランが、いら立ちながら腰をかける。
さすがにシンは、座れない。その資格も無かった。
「そうか……とても残念だ。では使節としての役割を私は果たそうか」
手を胸元で組み、偽者が会議室を見回す。
なぜか、ブルーノが、落ち着かない感じで両手をこすりあわせていた。
「使節なら、書類の交換をしたいのですけどね。
合意するにしてもなににしても、口約束というのは受け入れられない」
意外と、ユウナも落ち着いていた。
偽者も、ふっと笑う。
「これでいいですか?」
偽者が、持ってきたバックから、書類を出す。それが会議室のテーブルに置かれる。
ユウナがそれを取ろうとした。しかし、その前に男は口を開いた。
「要求はただ一つ。あなたがたの全面降伏だ」
平然と口にしたその言葉。
会議室に居た誰もが、表情を凍らせる。
シンも、胆を奪われた。胆を奪われるという単語の意味が、わけもなく理解できた。
「なにを驚いているのです? 流血を避ける処置は、当然でしょう」
物覚えの悪い生徒を諭すかのように、男は笑っていた。
「ふっ……ふざけるなッ!」
「貴様ァッ! これまでやってきたことを忘れてのうのうとッ!」
アスランと、ハイネが激昂するのはほぼ同時だった。
「軍人に意見を求めてはいないッ!
軍人が政治に口を出すなッ!」
しかし、男はぴしゃりと言い放った。
それを受け、アスランとハイネは、今にも銃を抜きそうな体勢を取っている。
「根拠は……?」
ユウナは、黙々と書類に目を通しながら、ぽつりと言った。
「ほう」
「僕たちがただ降伏を受け入れるとは思っていないでしょう。
僕たちが降伏すると思う根拠は、いったいなんですか」
「君たちだけではない。これから、世界がプラントに降伏するのだ」
「なに……?」
男が立ち上がり、会議室のパネルを勝手に操作し始めた。
なぜか、誰もそれを止めようとしない。シンでさえも、同様だった。
なんとなく呑まれてしまっているのだ。
パネルが切り替わり、なにか、巨大な残骸が写る。どこかのカメラにつながっているようだが……。
「先のレクイエム発射で、ヤヌアリウスを初めとして合計6基のコロニーが破壊されました。
これは、そのコロニーの残骸ですよ」
「それが……なにか?」
ユウナが、かすかに生唾を飲み込んだ。その音が生々しく会議室に響いた。
「プラントに降伏しない国へ、私はこの残骸を落とすつもりです」
「なッ!?」
息を呑む声が、会議室で唱和した。誰もが、あっけにとられた。
「残骸はいくつもあります。それを適時適時、落としていきます。
まずは恫喝程度の、小規模な残骸を。そしてどうしても降伏せぬ場合は、国を滅ぼすほどの残骸を。
私は、降伏する者以外はすべて滅ぼし尽くすつもりです。
オーブとて例外ではありません」
「DXで迎撃すればいいことだ、脅しにもならない」
「舐めるな、アスラン・ザラ。作戦は多方面から、同時期に行われる。
十を超えるコロニー落とし作戦を、DX一機で防げると思っているのか?」
偽者が、アスランに笑いかけている。アスランが、言葉を失っている。
圧倒される。
なんだ、この、残酷さは。
人はここまで残酷になれるのか。
「だから私は、流血を防ぐために、降伏を呼びかけにきたわけですよ」
言って、再び偽者は席に腰掛けた。
「もういい加減にしたらどうだ」
するといきなり、質の違う声が響いた。
声の主は、ブルーノである。
彼は依然として、落ち着き無く両腕をこすっている。
「……」
「ラクスは滅ぼしたのだ。もういいだろう。
貴様はただの亡霊だ。亡霊にしては、やり過ぎだ。
時間が無いのはわかるが、強引すぎる。それでは誰もついていけんぞ」
「あなたの裏切り、咎めても良いのですよ、私は」
「敬語はやめろ、わざとらしい。
貴様から見れば、私はいつまでも『ブルーノ坊や』だろう」
ブルーノ・アズラエルと、偽者。
知り合い……なのか?
「確かに、ブルーノ君。君にとって、ラクスという息子の仇さえ討てれば、それでいいのだろう?」
「そこまでラクスを恨んではおらんわ。
ざまをみろという気持ちはあるが、息子が死んだのは、自業自得だ」
「ならば大人しく隠遁していればいい。私は、君をどうこうするつもりは無かったのだよ」
「だから、いい加減にしろと言っている………」
ブルーノが、軽く息を吸った。
少し、覚悟を決めた顔だった。
そして、次に放たれた言葉は、これまで積み重ねたどの驚愕をも上回る単語だった。