クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第123話

Last-modified: 2016-02-28 (日) 00:42:07

第123話 『父の生き様を』
 
 
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なぜか、アークエンジェルにキッドがやって来た。
アメノミハシラから、高速船が一隻、ガロードたちを迎えに来ていたのだ。

「なんでおまえが来たんだ?」
「ああ、最後の仕事さ、ガロード」

キッドが乗ってきた高速船は大きなもので、クラインから受け取るMSはすべて乗せられる。
決戦が近いため、これで一刻も早く、アメノミハシラへ戻らなければならない。

「それよりキッド、エアマスターだけどよ」

後ろめたさを口にした。正直、ウィッツに合わせる顔がない

「ああ、おまえのバカさ加減もここに極まったって感じだな」

キッドが肩をすくめる、呆れきっているようだ。

「返す言葉もねぇや……」
「とりあえず。最終決戦終わるまで、ウィッツには黙ってろよ。
 終わったら、議長さんか代表さんに泣きついて、どうにかしてもらえば?
 おまえの功績、全部チャラにするつもりでさ」
「うげ、カッコ悪いな」
「自業自得だろ」

言いながらキッドは、アークエンジェルの整備士たちといろいろ話をし始めた。
荷物の積み込みが、並行して行われる。
あと1時間もすれば、出発だろう。
多分、高速船で行う睡眠が、最後の休息になると思われた。

「行くのかい?」

キラに、声をかけられた。

少し前まで悪ぶっていた印象があったが、今は落ち着いた感じがする。
なにか一つ、乗り越えたような雰囲気だった。

「おう、俺たちはまだ終わってねぇからな」
「なるほどね。うらやましいな、勝っても負けてもいないっていうのは」
「おまえとも変な縁だった気がするぜ、キラ。
 どうだ、最後に一発。仮面でもかぶって、タカマガハラの一員として戦ってみるか?」
「そこまで恥知らずになれたら、楽なんだろうけどね」

キラは、笑いながら少し寂しげだった。

「へへっ、恥をかきながら生きるのも、悪くねぇって。
 俺なんて、何回お天道さんに顔向けできねぇことやったか数え切れねぇぐらいだ」

言いながら、仕方のないことを口にしている気もした。
自分が慰めたところで、キラはキラの人生を生きるだろう。

「ガロード、サザビーネグザスのことだけど」
「?」
「あれはMSの動きを止める。僕はそれにやられた」
「……へぇ」

驚くことが多すぎて、いい加減驚くことも無くなっていた。
MSの動きを止める、か。

「君は、なにか心当たりがあるんだね?」
「あるぜ。しかしやべぇな、そりゃ。
 遠距離からサテライトキャノンぶちかますしかねぇな」

ローレライの海。すぐ頭にそれが思い浮かんだ。
しかも対処法の存在しない兵器だ。

「シンにも伝えねぇとな。それじゃあな、キラ。
 元気で……とはいわねぇが、まぁ適当に暮らせよ」
「うん」

荷物の積み込みが終わったというので、ガロードは手を挙げてキラと別れた。
もう2度と会うことも無いだろう。
紛れもなく、CEの最強だった。それは覚えておこうと思った。

「キラ・ヤマトとなに話してたの?」

タラップで、ルナマリアが話しかけてきた。

「サザビーネグザスが、超やべぇってことを教えてもらった」
「なにそれ。当たり前じゃないの」
「いや……。教えてもらって良かった、ひょっとしたら勝敗を分けるかもしれねぇ」
「ふーん」
「シンは不利だな」

「おい、早く席に着け」

イザークが、客席から顔を出してきた。

「おう。みんなそろってるのか、イザーク?」
「年上には敬語ぐらい……まぁいい。
 みんなもう席に着いた、いつでも行けるぞ」

苦虫を噛んでいるイザークの隣、静かに席についているジャミルが目についた。

「ジャミル、キッドは置いてけぼりでいいのかよ?」
「ああ。一日で終わるような戦いだ、キッドは居なくてもかわらんだろう」
「なんでわざわざキッドを? 今さら、危険にさらしたくねぇとか、そんなんじゃねぇよな?」
「……出来るだけのことは、してやりたかったからな」
「あそ」

どうせまた、キララクスがらみのことだろう。
しつこく聞くとケンカになりそうなので、放っておいた。

「ガロード……」

ティファが、前の方の座席からおそるおそる顔を出していた。
どういう意味なのか、ちょっと戸惑う。

すると、背中を派手に叩かれた。前につんのめる。

「行ってやれ、ガロード」
「ディアッカ。あれ、おめー、確かミリアリアとかいう女と……」
「またふられた。だからおまえは、行ってやれ」

薄ら笑いを浮かべて、ディアッカに軽く蹴られた。
無重力だから、すぐに前へ押し出される。
背中が、天井に当たった。

「ティファ」
「ガロード……」

目が、合う。いまだにどきどきする。
きっと、死ぬまで俺はティファにときめいているような気がする。

諦めて、ティファの横に座った。
後ろの方から、野暮な口笛があがる。無視した。

「あと1回だけ、許してくれティファ」
「え……?」
「俺はあと1回だけ、友達のために戦う。
 それが終わったら、あとは全部ティファのために生きるから。
 あと1回だけ、許してくれよティファ?」
「ええ……もちろん、です。
 ガロード……」

ティファが、笑う。それを見るだけで、生きていて良かったと思う。

「あーあ、俺もあれぐらいのこと言えりゃフラれんですんだのかね」
「いや、無理でしょ。フツーあんなの真顔で言えないって。
 ちょっと言われてみたいけど」
「くだらん……」

後ろの方から、野暮な声が聞こえる。
それももう、気にならなかった。

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「かー! ガロードもそうだけどさ、おまえら兄弟もたいがいだぜ。
 MSってのはデリケートなんだよ、もうちょっと丁寧に扱え!」

キッドは、アシュタロンとヴァサーゴを見回っていた。
ひどいダメージは無いが、過酷な動作に耐えかねて、あちこちの部品が疲労を起こしている。

「待て、キッド・サルサミル。なぜ我らがおまえの指示に従わねばならん?」

シャギアが、露骨に不満そうな顔になった。
にらみつけるような顔でもある。

「おい、シャギア。そうすりゃ人がびびるとでも思ってんのか。
 いいか、パイロットってのはメカニックの言うこと聞いてナンボなんだよ。
 ガタガタ言わず、手伝え」

シャギアに、作業用の軍手を投げつけた。

「キッド、貴様な……」
「るせぇ!
 俺だってこんな真似したくねぇ。でもジャミルの頼みだ。
 アークエンジェルのMS全部、完璧の状態に持っていくのがな」
「む……」
「別に爆薬仕込もうってんじゃねぇんだ、協力しろ。
 アークエンジェルの整備士は、もうほとんどいねぇんだろ。
 だったらおまえらも働かなきゃいけないだろうが!」
「まぁ、いいじゃないか兄さん。タダで整備してくれるんだ、やらせてあげたら?」
「おまえも働くんだよ、オルバ!」

同じように、オルバにも軍手を投げつけた。

アメノミハシラから持ってきた部品を、アークエンジェルの作業場でばらす。
ほとんど整備員は脱出していたが、唯一残っていたコジローという整備士は幸いにして腕が良く、思ったより作業ははかどった。

レオパルド、アシュタロン、ヴァサーゴを急ピッチで修復する。
やはりどれもこれも、目に見えない疲労が溜まっていた。
物資無しの状態で運用していたのだから、当たり前だろうが。

ラクスが引きこもっているとか、そういうことも耳に入ってきたが、キッドには興味無かった。
世界の行く末がどうとか、そんなことにもはなっから興味無い。
あるのは、MSをしっかり整備して、100%の力を出させてやることぐらいだった。

補修の指示を一通り終えると、本題に取りかかった。
持ってきたデータを、作業場のPCに入れる。
GXを改造した時よりは、時間がかからないですむはずだ。

「これが、ストライクルージュか」
「なにをするつもりなの?」

キッドはキラに、ルージュがある場所まで案内させた。
3年前のMSなのだから、旧式と言うのはかわいそうなMSだが、アークエンジェルではほこりを被っているガンダムだった。

「装甲を全部外す。フレームに戻すだけだから、そう時間はかからないはずだ」
「え……」
「ジンも同じようにする。キラ、おまえは合わせをやっといてくれ。
 いきなりじゃキツイだろうしさ」
「ちょっと待って、なんの話?」
「ストライクフリーダムってわけには、いかないけどな。
 おまえの力をフルに引き出せるMSを作るんだよ」

言いながら、クレーンを操作させ、むき出しのコクピットを降ろした。
GXのもの。ジャミルが使っていたものだ。

「ちょっと待って。僕はもう、戦うつもりはない」
「俺の知ったことじゃないんだよ、それは。
 ジャミルに頼まれたから俺はやってるだけだし」
「でも」
「だから、知るかっての」

キラと話すのは初めてだが、色々と難しそうな男だ。
AWなら、こんなことしていれば、死ぬ。

「くっ……」

不意に、キラが頭を押さえてうずくまった。

「おい、キラどうした!」

レオパルドの修理をしていた、ロアビィが工具を放り投げ、こちらに来る。

「命……が」

キラが、うめいた。ニュータイプ。
その単語を思い浮かべながら、キッドはそれを見下ろしていた。

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ザフトの第一波は、想定通りの動きをした。
アスランは警戒態勢のまま、全軍には自重を命じた。

「ジョージ・グレン……」

英雄の名をつぶやく。気負いも、重圧もはねのけてやる。
そういう気分で、ヤタガラスのブリッジに立っていた。
ヤタガラスの周囲には、ブルーコスモスの残党と、こちらについたわずかなザフト軍が、展開している。

アメノミハシラを無視している、というザフトの動きだった。
全体の動きを見る限り、ザフトは、いやジョージ・グレンは地球上空の確保に力を注いでいるように見える。

ジョージの、狙いは読めていた。
まだ世界のどの国も、降伏していないはずだ。
だから、降伏するまで、コロニーの残骸を落とす。
初撃は、海の上にでも落とすのだろう。それだけで十分な恫喝になるし、おかしな恨みも買わないですむ。

「アスラン、僕らは動かなくていいのかい?」

ゲストのイスに座っている、ユウナが声をかけてきた。
ユウナも腹は据えているが、やはり戸惑っているようだ。

「構いません」

コロニーをオーブに落とされない限り、動かない。
アスランはそう決めていた。それに、ただでさえ少ない戦力を分散させるわけにはいかない。

「落とすままにするってことか……」
「少なくとも、初撃を命がけで防ぐ意味はありません」

第一波の動きを見る限り、陸地に落とす意思は無い。
せいぜい、島が巻き込まれるぐらいだろう。

アスランは、いくらかのコロニー落としは見送るつもりでいた。
これで、どこか自分たちが安全だと思い込んでいる、地球諸国の目が覚めればいい。
尻に火がつけば、本気で戦う気も出るだろう。
怯えに怯えて、プラントに降伏する人間も出るだろうが、そんな腰抜けは味方してもらわなくとも良かった。

『アスラン、なんで出撃しねぇ!』

DXに乗っているウィッツが、通信してきた。

「ウィッツ、どうしたんだ?」
『なに呑気言ってンだ! 奴ら、コロニー落としマジでやるつもりだぞ!
 放っといていいのかよ!?』
「まだ脅しのレベルだ。計算してみたが、陸地には落ちない。
 相手の挑発に乗るなよ」
『おい、ふざけんな! DXで迎撃させろ!
 どんだけ臆病モンだよ!』
「なに熱くなってるんだ、ウィッツ?」
『許せねぇんだよ、コロニー落としだけは!』

口から、つい舌打ちが漏れた。
コロニー落としは、AWの住人すべてのトラウマだ。
ウィッツも、その例に漏れないということなのか。

「待機だ。もうじき、ガロードたちも帰還してくる。
 下手に動くな」

トラウマで戦略は変更できなかった。
それにクラウダが合流してくるだけでも、かなり戦力があがる。

『クソッ!』

なにかを蹴る音が、通信で聞こえた。

俺だって、戦いたい。そう言ってやりたかった。
こうやって冷徹に計算しているが、本当はあの偽者を殺したくてしょうがない。
やりたい放題やられるのは、指揮官としても、一人の男としても、業腹だった。

「メイリン、第一波の動きは逐一知らせてくれ。なにか、動きがあればすぐにだ」
「はい」

仕掛けるタイミングだけは、間違えたく無かった。

大西洋連邦は、まだか。
じらされるような気分で、ブリッジに立っている。

昔、指揮官はもっと華々しいものだと思っていた。
しかしいざ就任してみれば、耐えることの方が多かった。

より、耐えれば勝てるのか。
弱音を吐く人間もおらず、孤独だった。

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顔を、水の中につけた。
しばらくそうしている。息が出来ない世界で、このまま自分が消えたらいいのにと、思ったりする。

キラ・ヤマトとはなんだったのか。
自問する。

救いようの無い、愚か者がそうだったんじゃないのか。

戦うのか。また、愚かなことを繰り返すのか。
絶大な力を揮っても、過ちを行うことしか出来ない自分が。

息が出来なくなって、それでもしばらく我慢していたが、やはり耐えられなくなりキラは水から顔を上げた。

戦うのか。やはりそれしか出来ないのか。
洗面所の片隅で、荒い息を吐きながら、無様に腰を落とす。

戦うこと以外、救う術が無いのか。
今のところなにも、見当たらなかった。

時計を見る。アークエンジェルが全力で動けば、まだ十分間に合う時間だ。
ただしそれは、ザフト軍第一波を蹴散らす時間を、含めていない。

立ちあがる。
どうすればいいのか。
もし、戦闘で撃墜されれば、クラインの罪を一身に背負う人間が居なくなる。
だから犬死には出来ない。だが、一人で出れば、間違いなく死ぬ。

見過ごすしかないのか。

あの島が死ぬ。
キラにはそれがはっきりと見えた。
ザフト軍第一波は、コロニーを墜とす。
できるだけ人口の少ないところへ落とすのだろうが、その着弾点にはあの島が含まれていた。

NT能力が不吉な予感を捉えた時、すぐに計算を行った。
間違いのない、予知だった。

あの島が死ぬ。コロニーに押し潰される。
あの島が死ぬ。きっと誰も気にせず、世界はコロニーが落ちたという事実に戸惑うだけ。
あの島が死ぬ。誰も、その死を気にかけたなどせず、ありふれた悲劇として処理するだろう。

それを、見過ごすことが出来るのか。

泣きそうになる。決断が出来ない。
死ねない、戦えない、見過ごせない。
キラ・ヤマトをばらばらにしたくなる。

足音。

「ロアビィ?」

はっと、顔をあげた。その時、目に飛び込んできたもの。

「キラ……」

やつれ顔のラクス。死んだような、その目。
彼女は壁にもたれかかって、こちらを見つめていた。

「ラクス、もう大丈夫なの?」
「……」

ラクスが、崩れるようにこっちへやって来た。危うい足取り。
慌てて、抱きとめる。

「キラは、お強いですのね」

蚊が泣くような、彼女の声。
かつて世界を振り向かせるほど、強かった彼女の声。

「なにが?」
「まだ、悩み、苦しみ、戦おうとしてらっしゃいます。
 わたくしは、もう……そんなことすら出来そうにありませんのに」

ラクスから、魂が抜け落ちている。
絶望が、すべてをぬぐい去ってしまったのか。
ただ1度の、完全なる敗北。それは、それほどに大きかったのか。

決めた。ラクスのおかげで、なぜかすんなりと決まった。

「ラクス、君は凄いよ」

抱き留めたラクスを離す。しっかりと、彼女の目を見る。

「え……」
「君はいつだって、僕を救ってくれる」

ラクスを肩に担ぎ、歩き出した。目指すは、MSデッキ。
まだ作業は続いているはずで、アークエンジェルの人間は全員そこにいる。

MSデッキに戻ると、みんながこっちを見た。
ラクスが戻ってきたことに、驚いている顔だった。

「ラクス様、もういいのですか?」

オルバが、ゆっくりと近づく。

「ひっ」

するとラクスは、なにかに弾かれたように悲鳴をあげ、物陰に隠れた。
全身を、震わせている。

「ラクス様……」

オルバが、辛そうな顔で目を背けた。

キラは、黙って3歩、前に出た。

「みんな、聞いてください!」

大声を張り上げる。皆が、何事かと、作業を中止してこちらを見る。

キラはいきなり、土下座をした。
それ以外のやり方は思い付かなかった。

「今から、アークエンジェルを地球圏に向けてください!
 乗組員は僕だけで構いません!
 僕は、これからザフトのコロニー落としを阻止しに行きます!
 すみません! 完全な僕のワガママです!
 お願いします!」

頭を、地面に打ち付けた。

「キラ……なにを……」

ラクスが、おずおずと声をかけてくる。
キラは、ひたすら頭を地面にこすりつけた。

「僕が、お世話になった人たちがいる。
 あのコロニーはそれを全部殺すんだ。
 だから僕はそれを救いに行きたい……だけどそれは僕のわがままだから。
 こうやって、みんなに頼んでる」
「そこまでしなくとも……皆さんは……」
「僕はなにも、みんなにしてあげられない。
 でも、これが僕の想いだ。お願いします!」

頭を、もう一度地面に打ち付ける。
衝撃で、頭の中に星が舞った。

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「フィードバック、フラッシュシステム……オンライン……」

機器系統を操作する。瞬間、なにかがかちりとはまった。
MSと自分の意思が、リンクする。
これが、NTのために作られた、AWの技術なのか。

『キラ、感じはどうだ?』

キッドが、外から呼びかけてくる。

「いけそう。いや、ずっと調子はいい。フラッシュシステムが、僕の意思をダイレクトに伝えてくれる」
『あったりまえだ。基礎設計はジャミルがやった、おまえのためのシステムなんだからな。
 本来フラッシュシステムは、ビット系を動かすためのモンだが、そいつを全部MSの駆動に回した。
 おまえのすんげぇ操縦技術は、ラグ無しでMSへ行くんだ』
「ああ」
『性能は、まぁストライクルージュに毛が生えたぐらいだけどさ。
 火力も補えているはずだ、十分やれるって』
「ありがとう。このMS、名前は?」
『ああ……デルタ。ジン・デルタ』
「デルタ? 由来は?」
『ジャミルを昔、かばって死んだ、友達が乗ってた機体の名前』
「そう……」

※ジン・デルタ(キラ・ヤマト専用ジン) 描画・九翠さん

重い話だが、重さは無かった。
重すぎるものを持って、歩ききる。そう決めていた。

『よし、キラ。ちゃちゃっとやっちゃおうか!』

ロアビィが、陽気な声を張り上げてきた。

「本当にいいの、ロアビィ?
 僕に付き合って?」
『なに……これもアフターサービスってやつ?』
「死ぬかもしれないけど……」
『あいにく、俺は死なないように出来てるのさ』

レオパルドが、隣にやってきてジンの肩に手を置く。

『フン、1度だけだぞこんなことは』
『まぁまぁ、兄さん』

ヴァサーゴ、アシュタロン。
フロスト兄弟が、後に続く。

『ちゃんとやる気出して戦うのよ、2人とも。
 出なきゃ、私たち働かないからね! ムウを殺したのを、チャラにしたげるんだから!』

マリューが、後ろから声をあげる。
思わず、苦笑が漏れる。マリューなりに、ムウの死をふっきたのか。

シャギアは、キラが戦うと言いだしたとき当たり前のように傍観を決め込もうとしたが、話は意外な方へ行った。
オルバが、戦ってもいいと言いだしたのだ。
ただし交換条件があって、それがアークエンジェルの譲渡だった。
意外な話の成り行きだが、ジャミルが言うところ、2人はAWの出身である。
CEでは無理でも、AWならアークエンジェルを思う存分使える……という算段なのだろう。

『行くぞ3人とも。指揮は私が執る。一応、指示通りに動けよ』

シャギアのヴァサーゴが、後方に陣取った。

『おまえはイマイチ信用ならねぇんだけどさー』

ロアビィがぶーたれている。

『心配しなくてもいいよ。アークエンジェルは、僕らも欲しいからね。
 手は抜かないよ?』
「ああ、信用してる。ラクスを守ってね、オルバ」
『あ……わ、わかってる』

言葉を詰まらせる、オルバ。ちょっとだけ、笑う。

目を閉じる。なぜか楽しい。
出撃するとき、こんな幸福感を味わったことがあっただろうか。

ラクスが、MSデッキで気丈に立っている。
そこに、目をやった。

言いたいことは、わかってた。
少し、前あたりから、全部。

「ラクス。例え、世界のすべてを敵に回っても。
 僕は君の味方だと言った」

スピーカーで、語りかける。
ラクスが、はっと顔をあげる。

「すべての戦いは、間違っていて、そして正しい。
 だから、最後まで僕らは貫こう。これが、ラクス・クラインの戦いだと。
 世界中の人から、どれだけ罵声を浴びせられようと、貫くべきものがまだ僕らにはあった」

ラクスが、なにか言っている。聞こえない。
最後の、別れ。もう2度と合わない。
それも、わかる。僕たちは、ニュータイプだった。

「最後に、人を救いに行ける。僕は幸せだ。
 ラクス、伝えてくれ。僕らの子らに」

ラクス。なにかを叫んでいる。
言葉は、無駄だ。そう思った。

「父の生き様を」

言った。そして、1度だけ目を閉じた。

次に開けた瞬間、カタパルトが開いていた。
ガラスを叩くラクスと、必死に押しとどめているヒルダ。

「キラ・ヤマト、ジン・デルタ、行きます!」

行こう。