クロスデスティニー(X運命)◆UO9SM5XUx.氏 第125話

Last-modified: 2016-02-28 (日) 00:43:49

第125話 『俺は大いに真面目だよッ!』
 
 
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「アークエンジェルとはな」

ウィラードは、つぶやいた。
立場上はザフト軍総司令である。事実、自分はザフト軍随一の軍歴を誇り、実績のみならば他の追随を許さない。
しかし事実は、プラント最高評議会議長の下に組み込まれているも同然だった。

それで良かった。ジョージ・グレンの下にいる。
それは老いたこの身にあって、なお喜びであり得る。

その正体を、告げられた時は、ウィラードの全身が震えた。
もう一度、戦おうという気になった。

人は、ウィラードをザフト最高の将軍と言うが、これといった功績があるわけでもなかった。
失敗が少ない。政治とは距離を置く。
この2つを守ったから、総司令の座に就いたようなものである。

しかしウィラードは、勝ちたかった。
ジョージ・グレンに勝たせたかった。
この世に生きるコーディネイターすべての恩人である。
パトリックとも、シーゲルとも距離を置いて生きてきたが、ジョージ・グレンであれば話は別だった。

「ふむ……相当崩されたな。
 指揮官が討ち取られてはやむを得ぬが」

第一波の、状態を確認する。陣形がかなり乱れていた。
命令系統も混乱している。

「第一波の全部隊長へ伝えよ。コロニーはすでに落下コースへ入っている。
 アークエンジェルの撃破に全力を尽くせ、と」

大型空母ゴンドワナの艦長席で、ウィラードは命令を下す。
復唱があり、すぐに命令が伝えられた。

コロニーの残骸は、まだいくつかある。
仮に、アークエンジェルが一撃目を阻止したとしても、次の残骸を使えばいいだけだ。

「まさか地球圏へすぐ帰還してくるとは思いませんでした」

いつの間にか、レイ・ザ・バレルが隣に来ていた。
その秀麗な顔を、少しゆがめている。

「1度掲げた旗は、そうそう降ろせぬのかもしれんな。
 アークエンジェルは、完膚無き敗北を喫したことで、かえって純粋になった。
 ああいうものは、なかなか手強い」
「そういうものですか、ウィラード司令?」
「追い詰められて、なお戦おうとする人間は強い。
 コロニーの阻止に動いている以上、自殺のための戦争では無いようであるしな」

第一波のコロニーを、くれてやっても良いとウィラードは思い始めていた。
アークエンジェルが破壊に夢中なうちに、叩いてしまえばいい。

「まぁ、問題はアメノミハシラだが」

先鋒を動かして、ウィラードは値踏みを行っていた。
しかし戦力を測る前に、ミーティアで蹴散らされていた。
これでは、相手の弱いところを見つけることも出来ない。

はっきりと、ウィラードにはオーブ軍の弱点が見えていた。
アスランは、経験豊富なオーブ兵を、ラクスへの裏切りを理由に予備役に回している。
それは失策だと、はっきりと思った。経験不足の新兵で、この状況をどうにか出来ると思うアスランの見通しは、甘い。

手強いのは、タカマガハラ、そして元ブルーコスモスとザフト兵だけだろう。
後は、見せかけの軍である。
その見せかけの部分を、ウィラードは早く探したかった。
そのために、斥候のような先鋒を出しているものの、ミーティアが見事に対応してくる。

「ミーティアさえどうにかできればな」

独り言。しかし、レイには聞こえただろう。

「潰してきましょうか?」
「フム、やれるか、レイ?」
「誰が操作しているのかはわかりませんが。
 的が大きい、ミーティアそのものを潰すのは難しくありません」
「よし、では出てくれ」
「はい」

レイが、直立して敬礼した。
それを見ずに見送った。
あの妖童はなにを考えているかよくわからず、どうも苦手だった。

「ラクスとユウナが手を組んだ、というのは考えがたいが」

四者同盟と、デスティニープラン。
妥協した世界と、革命を求める世界。
どちらの未来が、生き残るのか。

早期にアメノミハシラを潰さねば。
実は、持久戦になると不利なのはザフトなのである。
長引けば長引くほど、アメノミハシラに地球の国が付く可能性が出てくる。

そう、今のアメノミハシラは核なのだ。
世界を、一時的にせよ、1つにしてしまえるほどの求心力を持っている。
相手側はどこまで、それを認識しているか。

それから少ししてレイが出た、という報告を聞いた。

「前進」

ウィラードは本隊を進めた。
ジョージ・グレンは別働隊を率いている。
出来れば、ジョージの出番は作りたくなかった。

ただ、どこかでジョージは出て行くだろう。
最後は自分だけで、なにもかもやろうとする人だった。

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アスランは、手に汗を握った。

ジャミルのミーティアは、先鋒を見事になぎ払った。
キラほどでは無いものの、さすがと言える操縦技術だった。

「氷山の一角を崩したに過ぎないが……」

とりあえずほっとする。
ガロードが、コロニーを撃ち抜いてここまで。
どこまで耐えられるのか。

「アメノミハシラは、すぐにミーティアを収容しろ!
 修理は、1時間以内に仕上げろよ!」

ミーティアは、戦艦並みの大きさを持つ。
キラでも無ければ、被弾せずに戻るのは無理だった。
細かいダメージを負っているのは、遠くからでもわかった。

ヤタガラスの中で、焦れる。
サザビーネグザスが出てきた時。
それがザフトの総攻撃だろう。

もしジャミルが破られれば、オーブ軍は張り子の虎をさらすことになる。
新兵たちを、戦場に投入しなければならない。
その光景を想像すると、今からでも暗澹とした気分になる。

デスティニーにも、気をつけるべきだろう。
ニコルはどこかで暗殺を狙ってくるはずだ。

その時、自分も出撃しようと思っていた。それまでは、指揮に専念していたい。
すぐにメイリンへ言って、通信を寄越させた。

「シン、ミーティアは処置中だ!
 それまで敵を一機も近づかせるなよ!」
『はい!』
「ハイネは、シンの援護! 支援はミネルバ隊で、敵の出鼻をくじけ!」
『オーケー!』

ノワールと、アカツキが先頭に出る。
敵の本隊も近づいてくる。
遠距離砲撃の時間はわずかだけで、すぐに乱戦になった。

乱戦になれば、こちらに分がある。敵は同士討ちを恐れて、うまく大軍を使えなくなるからだ。

案の定、こちらが押しまくっていた。
シンやハイネが率いているのは、元ザフトとブルーコスモスの歴戦である。
いかにザフトの正規といえど、有利に戦えるはずだった。

そうしていても、アスランの心臓は鼓動をやめなかった。
早鐘を打つ、という表現があるが、まさに心臓をバチで直接叩かれているような気分だった。

これが、決戦に立つ司令官の苦しみか。
判断は常に一瞬を強いられ、しかも寸刻とて気が抜けない。

アメノミハシラは、地球を背にしている。
それはそのまま、地球が壁になっているということで、ザフトが攻めてくる地点は限定されている。

「イザーク! 部隊を率いてアメノミハシラ上方へ回れ!
 オーブ軍は下方を! クラウダを前面に押し出せよ!
 新兵たちは、訓練通りにやれ! 実戦と訓練はそう変わらない!」

配置を、当初想定していた位置に固定させる。
守りは、これで万全のはずだ。それでも不安しか押し寄せて来なかった。

シンたちはかなり押していたが、ザフトの本隊もかなり到着し始めていた。
すぐに後退の合図を出し、艦砲射撃で援護させる。

距離を置くと、敵からの砲撃も激しくなった。
アメノミハシラ周囲には、防壁代わりのデブリをかなり置いている。
ミハシラにはもちろん、戦艦に当たることも滅多に無いはず。
守る側の、強みだった。

しばらく艦砲射撃でやりあった。
数はやはり圧倒的で、ヤタガラスの目前にあった隕石が吹き飛ばされた時など、さすがに寿命が縮んだ。
それでもアスランは、耐えた。

「ミーティア再出撃! タカマガハラはそれを全部隊で援護!
 戦艦は、乱戦になるまでありったけの弾丸を撃て!
 どうせ激突したら、砲撃も出来ないんだからな!」

ミーティアが出撃していく。
タカマガハラのすべてを、それに追随させた。
戦力が足らないのは、最初からわかっている。
持てる力を最初からフルで使って、ようやくザフトと渡り合えるのだ。

ミーティアが突っ込む。それを、タカマガハラが援護する。
この局面だけなら、確かにこちらが押している。
しかし、1機、2機と前線を突破してくる。
すぐにイザークが、それを押しとどめるが……。

やはり、新兵たちがネックだった。想像していた通り、新兵は相手にもならず落とされている。
その場だけ、戦闘ではなく、処刑のようにも見えるほどだ。

握りしめた指が、手の平に食い込む。出て行きたい気分を押さえた。
自分が前線に行けば、ニコルの急襲に応対する人間がいなくなる。

イザークが、部隊を率いて戦線のほつれをどうにか取り繕った。
それで体勢を立て直す。
ミーティアが、全砲門を開いてフルバーストを放つ。
ザフトが、たじろぐのがわかった。

押せ。そのまま押し返してしまえ。

心の中で念じる。
タカマガハラ勢も、それがわかっているのか激烈な攻撃をかけ始めた。
しかし、ザフトはわずかに後退しただけで、すぐに体勢を立て直してきた。
猛然と、反撃をしてくる。元々数はあっちが上で、タカマガハラが逆に押され始めた。

ミーティアが、次の瞬間被弾した。

アスランは、歯を食いしばる。それでもやはり、耐えていた。

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「ジャミルさん、下がってください!」
『くっ……』

やはり無茶だったのだ。ナチュラルが、ミーティアを操るのは無理がある
それにドムは、正規のミーティア対応機ではなく、無理矢理にはめ込んだようなものだった。

シンは、ミーティアの、傷は浅いと見た。
今のうちに下がれば、また応急処置で出撃できるはずだ。

『意地を張るべきではないか……』
「そうですよ、十分です!」

ジャミルの働きを、バカにする人間はいないだろう。
ナチュラルなのに、コーディネイターでも数人しか動かすことの出来ない、ミーティアを御して見せたのだ。
彼がいなければ、戦線は崩壊していたかもしれない。少なくとも、ガロードは出撃できなかったはずだ。

マガタマで、ミーティアの周りをバリアで囲んでいた。
そうしなければ、容赦の無い攻撃が襲ってくると思われるからだ。

ゆっくりと、ツムガリを引き抜く。

「レイ……」

レジェンドが、目前で立っていた。

『シンか』
「おまえもいい加減、意地を張るのをやめたらどうだ、レイ!」
『意地など張っていないさ。俺は、俺の意志で立っている。
 おまえこそ投降しろ、シン。いつまで勝ち目のない戦いを続ける気だ』

マガタマを、解除する。
ミーティアがアメノミハシラまで退いていく。
それを確認することも出来ず、レジェンドと正対した。

「バカを言うなよ、レイ。
 なんで勝ち目のあるなしがおまえにわかる?」
『なに?』
「俺は、勝つためにここにいるんだ。
 負けるなんて微塵も思っちゃいないね!」

言うや否や、走った。
レイは、NT。深く踏み込んで切り下げたつもりだったが、かなりの余裕でかわされた。

ビームスパイクドラグーンが、そのまま後ろから襲ってくる。
後ろ蹴りを放って、2つとも軌道をそらした。
そのまま身体をひねり、回転。横なぎの斬撃を放つが、やはりかわされる。

レジェンドが、ビームシールドを構えて身体ごとぶつけてきた。
衝撃で、脳が揺れる。

『なんだシン、その攻撃は……ッ!』
「ッ……!」
『殺意がまるで無いぞッ!
 そんな無様な攻撃で、どう俺を殺すつもりだッ!』
「当たり前だ、レイ! おまえを殺そうなんて、俺はまったく考えて無いからな!」
『なにを……ッ!』
「おまえは意地張ってるただの子供だ、子供を本気で殺すバカがいるかってのッ!」

身体をひねり、レジェンドの勢いを横へ流す。
体勢を崩したそこへ、シールドを叩きつけた。

『このッ……ッ! シン、おまえになにがわかるッ!』
「ああ、わからないなッ! わからないから、捕まえて説教してやろうって思ってるんだよッ!」
『戦争だぞ、真面目にやれッ!』
「俺は大いに真面目だよッ!」

言いながら、出来るか、と自問した。

レイを、諦めていないか。

ガロードは、そう言った。
レイを殺すのも、しょうがないかと思った時だ。
それでなにか、少しだけ意地を張ろうかという気分になっていた。

レイは、仲間になりそこねただけだ。それで少しだけ、すれ違っただけだ。
すれ違いだけで殺さなければならないというのは、嫌な話だった。

そこに、大義なんて無い。
ただの、ワガママ。それでもやり抜いて見せたかった。

ツムガリを、正眼に構える。
そして、大上段に振りかぶった。