第五話「飛翔する自由」
「キラ君!ラクスさんを連れて早くシェルターへ!」
手に持った小銃を撃ちながら、マリュー・ラミアスはキラに向かって叫んだ。
顔を隠した襲撃者たちは、犠牲者を出しながらも彼女たちに迫ってくる。
「くそたっれ!起きてすぐに白兵戦かよ!あんたたちいったいなにをやったんだ!」
マリューの横で、襲撃者に向かって同じく小銃を撃ちこむのは、髭の濃い男。
「すまんね、バーンズさんよ。だが、こちらも狙われる理由がとんとわからなくてね」
物陰から出てきた男を撃ち倒したのは、アンドリュー・バルトフェルド。バーンズほどではないが、年季の入った髭を蓄えた男。
「ああそうかい!実は凶悪な犯罪者だったとかだったら承知しねえからな!」
文句を言いながらも、バーンズは襲撃者たちを次々と撃ち倒してゆく。
と。
「攻撃が止んだ……?」
小銃に弾をこめながら、訝しげな表情をするマリュー。
「これは、引いたと見るべきじゃないだろうな」
やれやれと言った表情で、バルトフェルドがため息をつく。
「とにかく、シェルターとやらに行くぞ!」
答えずとも、意見は一致しているのだろう。マリューもバルトフェルドも、バーンズを導くかのように走り出した。
「うわっ!?」
壁に叩きつけられそうになって、キラがうめいた。
シェルターに走る激震。屋敷が外から攻撃を受けているのは明白だった。
「くそっ!なんで僕がこんな目に!」
悔しさなのか、金髪の少年、ギリが壁を叩きつけた。
「やれやれ、どうやら敵さんはMSを持ち出してきたようだね」
追いついてきたバルトフェルドが呆れたように言う。
オーブ軍に領空侵犯や領海侵犯で追い散らされる可能性を考えれば、戦闘機や海上戦艦で襲撃してくる可能性は薄い。これはMSでの襲撃と考えるべきだろう。
「狙われたのはわたくしなのですね?」
ピンクのハロを手に、言ったのはラクス。
「そうだねえ……僕も前大戦で恨まれてはいるだろうが、こんな手のこんだことをしてまで襲撃してくる理由がない」
髭を撫でながら、バルトフェルド。
「くそっ!クァバーゼさえあればあんな連中に!」
「それを言うなら僕だって、フリーダムに乗れれば」
己の愛機を思い出し、悔しそうにギリとキラが叫ぶ。力さえあれば、決意さえあれば。
永遠と思える沈黙。
「ならば……やるべきことをやるというのなら」
沈黙を破ったのはラクス。言うが早いかピンクのハロの口を開く。
「これは……」
「なんだ……?この鍵は」
ハロの口から出てきたのは二つの鍵。
「己の身にふりかかる火の粉をはらうというのなら、やりなさい。生きるためならば、仕方ありません」
ラクスの言葉に、なにかを決意したかのようにキラがうなずき、奥の扉へ向かう。
ギリは、バルトフェルドに促されるようにもう一つの扉へと向かう。
扉は、轟音とともに開いた。
「おいおい……あんたたち、本当に何者だ?」
扉の向こうには、赤、黒、白。三体のモビルスーツが立っていた。
ギリの愛機・クァバーゼ、バーンズの愛機・トトゥガ。
そして、前大戦の英雄・フリーダム。
主を待つ鋼鉄の巨人たちが、そこにいた。
闇夜に二機のMSが浮かんでいる。
「そう、力無き者には死を」
炎上する屋敷を見ながら、男が呟いた。
「あまりやりすぎるなよ。ラクス・クラインとキラ・ヤマトが死んだら意味がない」
「ええ、わかってますよトールさん。ただ、彼らに力が無ければ……」
「その時は好きにしろ。ここで奴らが負けて死ぬのなら、それまでの人間だったということだ……ザビーネを放っておくと危険だからな。後は頼んだぞ」
そう言うと、トールはミラージュコロイド再展開し、早々と"戦場"を離脱する。
「お気をつけて。さて、来ましたか……ほう」
男は、屋敷から飛び出してくる三機のMSを見て、少し驚いた表情をする。
「ギリ君にバーンズ大佐ですか。これはこれは。行きますよ、貴方たち」
フライトユニットを装備したジンハイマニューバ2のブースターを吹かし、男は、カラスは水陸両用MS・アッシュを引き連れ、炎上する屋敷へと向かった。
頭の中で"種"が弾けた。
「くそっ!なんだってこんなことを!ラクスはただ平穏を望んでいるのに!」
急降下したフリーダムが、華麗にアッシュの手足を切り刻む。
「お願いだから撤退してくれ!」
どこか狂信者の顔つきで、ビームライフルを放つキラ。
正確な射撃がアッシュの手足をもいでいく。
「あははっ!これさえあれば凡人が僕にかなうわけがないからね!」
ちらりと横を見やると、クァバーゼの頭部から発射されたビーム砲がアッシュを貫いてゆくのが見えた。
その下ではトトゥガが、厚い装甲を生かしてクァバーゼへの攻撃のほとんどを防いでいる。
「これなら……くっ!」
安堵するキラに、ビームが飛んできた。とっさにシールドで防がねば直撃していただろう。
「くっ!僕に撃たせないでくれ!」
接近してくるジンハイマニューバ2にビームライフルを乱射するが、軽々とかわされる。
「はははははははは!そんな攻撃の仕方では当たりませんよ!」
全包囲回線を開いているのだろうか。
隙を見せたフリーダムの懐に飛び込んでくるジン。素早く手に持った刀、斬機刀を振りかぶってくる。
「なんで貴方たちはこんなことを!」
なんとか盾で受け止め、問う。
「君たちが勝てば教えてあげましょう!勝者には知る権利がある!」
さっ、と刀を引き、フリーダムの胸部に蹴りを放つジン。機体性能に差があるはずの両機だが、明らかにジンが押している。
「ぐっ!そんな理屈!」
衝撃を利用して、一気に距離をとるフリーダム。
下手に近づけば斬機刀の一撃が飛んでくる。ビームライフルで牽制しながら時間を稼ぐぐらいしかできないのだ。
流れ弾がアッシュのコックピットを直撃するが、そこまで気が回らない。ギリたちの早めの援護を待つだけで精一杯だ。
と。
突然ジンが反転した。見れば、アッシュの全てが爆散している。不利を悟ったのだろう。
「終わった……のか?」
「キラ君、大丈夫?」
一息つくキラに、間髪入れずに入る通信。マリューだ。
「こうなったらもううかうかしていられないわ。帰還して。アークエンジェルに」
言うマリューに、キラは一言、「はい」と答えた。