第02話‐歌姫の騎士団‐
メサイア攻防戦後、ザフト軍は解体された。
プラント最高評議会議長ラクス・クラインは新たにプラント国防軍を設立。
曖昧だった命令系統の反省を生かし、階級制度を導入。
さらに『歌姫の騎士団』なるものまで作り上げた。
『歌姫の騎士団』とはプラント国防軍の中から選び抜かれたエリートパイロットたちのことを示す。
キラ・ヤマトを隊長とし、イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、
そしてあのシン・アスカもメンバーの一人だった。
「防衛……でありますか?」
C.E.79年、11月13日。
プラント、アプリリウス・ワン。
ラクス・クライン議長の執務室に呼び出されたシン・アスカは咄嗟にそう聞き返してしまった。
「はい。実は4年程前から、資源衛星を襲撃する事件が発生しているのです。
フューチャーはその名の通り、プラントの未来を担う研究施設。どうしても守っていただきたいのです」
ラクスは憂いをおびた表情でひとつひとつ説明していく。
「しかしなぜ単機任務なのですか?」
「艦隊で行けば目立ちますでしょう?
フェイトならばハイパーデュートリオンエンジンとヴォアチュール・リュミエールシステムがありますし」
フェイト―――とはかつてデスティニーと呼ばれていたシンの愛機だ。
月で回収されたデスティニーを、ファクトリーで再構築したのがフェイトだった。
武装もデスティニーの時と変わっていない。
「なるほど。了解しました。シン・アスカ、喜んでその任を承ります!」
「よろしくお願いいたします」
何の疑問も持たず、シンはラクスの執務室を出る。
「単独任務たぁすげーじゃねぇか、アスカ」
「……サリエリか」
シンと同じプラント国防軍の軍服と、胸にはNのバッチ。
このバッチは『歌姫の騎士団』を意味する。
サリエリと呼ばれた男の、コーディネイター特有の緑色の瞳がシンを睨む。
「笑っちまうぜ。5年前までデュランダルの駒だったテメェが、今やラクス様の『歌姫の騎士団』の一人。
しかも単独任務とは結構な身分だな」
「……言いたいことはそれだけか?」
チラリとサリエリを見て足を動かそうとしたシンはいきなり胸ぐらを掴まれた。
「調子こいてんじゃねぇぞって話だよ!テメェはなぁ……!」
「お、何をしてんだ?」
その声に、サリエリはバッとシンの胸ぐらから手を離した。
「エルスマン大佐……!」
その人物は『歌姫の騎士団』の一人、ディアッカ・エルスマンだった。
「サリエリ、ヤマト中将が呼んでたぞ。行ったほうがいいんじゃねぇか?」
「……ハッ」
サリエリは苦々しい顔のまま敬礼し、その場を去った。
「大丈夫か?アスカ」
「はい。慣れてますから」
ここに来てからはよくあることだった。
シンはメサイア攻防戦でデュランダル側だったのは『歌姫の騎士団』だけではなく、
プラント国防軍では周知の事実。
それをうるさく言うのは『歌姫の騎士団』然り、クライン派の老人たち然り。
「ここにはラクス様がいますから。ラクス様がいれば、俺はどんなことにも耐えられますよ」
「そうか。けど、あんま無理すんなよ?」
「はい。ありがとうございます」
ディアッカは『歌姫の騎士団』の中でもシンを気にかけてくれる人物だった。
彼の性格故なのだろうが、シンにはむしろ鬱陶しいと感じていた。
それはディアッカだけにではない。
元ミネルバクルー……特に元恋人のルナマリアもそうだった。
(今の俺にはラクス様がいる。ラクス様さえいればいい。
ラクス様は俺を正してくれた。正しい道を示してくれた。
俺はラクス様のためにラクス様の邪魔をする奴らを殺す。それだけだ)
11月14日。
シンは愛機のフェイト一機でL3宙域にある資源衛星フューチャーへ到着した。
「こちらはプラント国防軍所属、シン・アスカだ」
フェイトからフューチャーに通信を送るが、返事がない。
「こちらはプラント国防軍所属、シン・アスカだ!
プラント最高評議会議長、ラクス・クライン様の勅命でここの防衛を任された!」
もう一度通信を送るが、返事がない。
(まさか、もう襲撃されたのか……?)
「おい!誰かいるなら返事を……」
『こちら、資源衛星フューチャーです』
三度目の通信でやっと繋がった。
所長と思わしき中年の男性がフェイトのディスプレイに映る。
「こちらはプラント国防軍所属のシン・アスカだ。
ラクス・クライン様の勅命で資源衛星フューチャーの防衛を任された。まずは……」
『そのようなことは伺っておりません』
「はあ?」
思わずすっとんきょんな声がシンから出た。
混乱するシンを他所に、資源衛星フューチャーの所長はもう一度シンに同じことを告げる。
『我々はラクス様からそのようなことは一切伺っておりません。お立ち退きを』
「そんなわけあるか!俺はラクス様から直接この任務を言い渡されたんだぞ!?
そっちの手違いじゃ……いてっ!?」
『どうされました!?』
突如、シンの身体に異変が起きる。
頭を殴られたような頭痛。
しかしそれはすぐに治まった。
『大丈夫ですか?』
「あ、ああ。なんだったんだ……?ん?」
フェイトのレーダーにいきなり3つの熱源反応が現れた。
それもMSの熱源ではない。
三隻の戦艦だ。
「あいつらか!プラントのラボを襲撃してたのは!」
シンはすぐさまフットバーを踏み込み、三隻の戦艦目掛け突出する。
「ラクス様の邪魔をする奴らは……俺が消してやる!!」
To Be Continued