第3話 -おやすみ-
フェイトは母艦を守るように展開するMS隊に突っ込んでいった。
「お前らの好きにさせるもんかぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
改アロンダイトを振りかざすフェイト。
そのフェイトに接近する3つの機体があった。
旧地球連合軍のカラミティ、レイダー、フォビドゥンの改造機だ。
『させるかよ!』
『舐めんな!』
『うっぜぇ!』
パイロット3人が攻撃を仕掛ける。
先手はカラミティだった。
両肩から誘導ミサイルのようなものを数10発。
だがそれをシンはフットバーと操縦桿を巧みに操り、全て避けた。
「甘い!」
『チッ……!』
『何やってんだリョウ!』
そう叫んだのはレイダーのパイロット。
レイダーはMA形態のままフェイトに突撃してきた。
「特攻……?っ、じゃない!」
武器も展開せず突撃してきたレイダーにシンは改アロンダイトで対抗しようとしたが、
レイダーはその機動力の高さで自分からフェイトを避けた。
そしてフェイトはレイダーのほうへ振り返るが、敵のほうが速かった。
レイダーはフェイトの後方へ回ったかと思うと、すぐさまMA形態からMSへと変形した。
その手にはレイダー特有の武器、ミョルニルが。
その反対側の腕は高速戦闘に対応した専用シールドとなっている。
『もらいっ!』
その専用シールドがシンの反応より速く射出された。
本体とワイヤーロープで繋がってるそれは先端を爪のようにしてフェイトの左腕に噛みついた。
直後、フェイトの全身が青白いスパークに包まれる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
レイダーから流れる電撃がシンを襲う。
エレクトリック・ウィップ―――シールドとしても機能するが、その本性は電撃の鞭となる。
殺傷能力は低いが、パイロットの動きを数秒停止させるのには十分な武器だ。
またこの攻撃でVPS装甲はその存在意義を無くす。
『シュン!』
『はぁっ!』
レイダーのパイロットはフェイトの左腕からエレクトリック・ウィップを離すと、
先程まで黙って見ていたフォビドゥンのパイロットに合図を送った。
否、ただ黙って見ていたわけではない。
ゆっくり、ゆっくりと彼はまるで死神のようにフェイトのパイロットが弱るのを待っていたのだ。
「くっ……!」
一方シンは焼け焦げた匂いが充満するコックピットの中でなんとか意識を保っていた。
先程の電撃攻撃で気絶しなかったのは奇跡だが、
それでも彼にフォビドゥンの攻撃をかわす余裕はなかった。
『もらった!』
フォビドゥンの持つ大鎌―――ニーズヘグがフェイトの頭部を切断した。
「っ!!」
衝撃に耐えるシン。
さらにフォビドゥンはフェイトの右腕を奪う。
メインとサブ、両方のカメラが潰され、フェイトは丸裸にされたも同然の姿となる。
(俺……死ぬのかな……)
死を感じ、シンはらしくなく自嘲的な笑みを浮かべた。
(ラクス様の役にも立てないまま……死ぬのかな……?)
『死なないよ……』
(……?)
不思議な声が聞こえた。
懐かしいような、哀しいような声が。
『だってお兄ちゃんは……』
シンの目の前に悪の3兵器が迫る。
『MAYUが護るもん』
「――――――っ!!」
絶体絶命のその刹那、シンの頭の中で種子が弾けた。
『んだと!?』
『なっ!?』
『ぐあああああ!』
カラミティ、レイダー、フォビドゥンのパイロットは何が起きたか分からなかった。
気が付いた時には愛機の手足が破壊され、戦闘不能となっていた。
「そうだよな。MAYUと俺なら出来ないことなんてないよな!」
『そうだよ。まずはラクス様の邪魔をする悪者をやっつけちゃおうよ!』
不思議な声に導かれ、シンの気分は高揚していた。
そして今度は目標を敵の母艦ではなく、資源衛星フューチャーに近付くMS隊に狙いを定める。
その時、先程のフォビドゥンとはカラーリングの違う機体がフェイトの前に出てきた。
「邪魔をするな!」
改アロンダイトを振りかざすが、黒のフォビドゥンは両手に持っていたふたつの大鎌でそれを受け止めた。
「なっ!?」
『止めろシン!』
対艦刀である改アロンダイトを受け止められ、シンは驚愕する。
いや、それよりも接触回線で自分の名を呼ばれたことに驚いた。
「なんで俺の名を!?」
『憶えていないのか?俺だ』
いったん間合いを取り、シンはオープンチャンネルを開く。
そこにはシンの見知らぬパイロットの姿があった。
「誰だよアンタは!」
『本当に憶えていないのか、シン。俺だ。レイ・ザ・バレルだ!』
「レイ・ザ・バレル?知らないね!そんなやつ!!」
フェイトはもう一度アロンダイトで突っ込むが、レイのユビラーテフォビドゥンは機体を傾けそれを避ける。
「甘い!」
『ぐっ……!』
しかし、避けられたのと同時にフェイトはパルマフィオキーナを発動し、
ユビラーテフォビドゥンは右足を失った。
「平和を望むラクス様の邪魔なんて……させるもんか!!!」
『……変わったな、シン。いや、無理矢理変わらせられたのか?』
「ごちゃごちゃと……うるさい!」
シンがビームブーメランを構えた時だった。
『こちらはリベラ・メ所属艦アマデウスです。
資源衛星フューチャー、並びにデスティニーのパイロットに告げます。
我々は資源衛星フューチャーの無血開城を希望します。速やかに武装解除してください』
「なっ……!?」
リベラ・メ所属大型戦闘艦アマデウスの艦長、フロウ・アーガイルが通信で勧告を出す。
『我々の目的は被験者である子供たち、及び研究者の解放です。
また、研究所内部にいる人間、すべての命を保証します』
『こちら資源衛星フューチャーです』
呼び掛けに答えるように、アマデウスの通信モニターにフューチャーの所長が映し出された。
『こちらに敵対の意思はありません。アスカ少佐、お願いです。戦いを……』
「何なんだよ……!」
『アスカ少佐?』
フェイトのコックピットの中で、シンは拳を握りしめる。
「何で!何でみんなラクス様を裏切るんだ!?
ラクス様は、ラクス様は!平和な世界を望んでるのにぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
『シン!お前は知らないんだ!この4年間、ラクス・クラインが裏で何をやってきたかを!
ラクス・クラインは……』
「黙れぇぇぇぇっ!!!!」
レイの言葉にも耳を貸さないシンは即座にフェイトの背中に装備された高エネルギー長射程ビーム砲を展開し
その砲口をフューチャーに向けた。
「ラクス様を……ラクス様を裏切る奴らは……!」
『駄目!』
シンが高エネルギー長射程ビーム砲を撃とうとしたその時だった。
四足獣形態のMSがフューチャーの前に出て、庇っている。
「あれは……ガイア?」
ビシッ―――
頭の中の神経がひとつ切れたような音がした。
『ステラ!』
珍しくレイの慌てた声。
「ステ、ラ?」
ビシッ―――
また頭の中の神経が切れたような音。
『ここにいる人たちには"家族"がいる!家で帰りを待ってる人たちがいる!
殺すのは……いけないこと!!』
「か、ぞく……?」
パキンッ―――
銃で頭の中を破壊されるような恐怖がシンを襲った。
「―――っああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!」
家族、マユ、オーブ、フリーダム。海、ステラ、ベルリン。
記憶の欠片が次々と頭の中に浮かんできた。
『シン!シン!どうした!?何が……』
「あ、ああああ……」
シンはヘルメットの中で涙を流しながら、気を失った。
そして高エネルギー長射程ビーム砲を撃たれることなく、フェイトはその動きを止めたのだった。
To Be Continued.