サンタ 氏_未来の子供たちへ_第04話

Last-modified: 2010-02-15 (月) 03:47:13

第4話 ‐運命の子供たち‐

 

オーブ連合首長国。
先の大戦でラクス・クラインと共に戦ったこの国は戦後大きく発展し、
地球圏では大きな発言力を持つ国となっていた。
11月17日。
オーブの南方にあるオノゴロ島モルゲンレーテ社の社長室。
そこにオーブ代表首長カガリ・ユラ・アスハとオーブの剣と称されるアスラン・ザラに
プラント国防軍の軍服を着た軍人二人、そしてこの部屋の主であるシオン・ウナ・サハクの姿があった。

 

「もう一度お訊きいたします。このMSに見覚えはないのですね?」
「はい。我が社ではこのようなMSは製造しておりません」
淡い青色の髪を持った15、6歳の中性的な顔立ちのシオンが軍人の質問にきっぱりと答える。
シオンはオーブ五大氏族のひとつサハク家の人間だ。
あのロンド・ミナ・サハクのいとこにあたり、民営化したモルゲンレーテ社の社長を勤めている。

 

「……分かりました。ラクス様にはそう報告させていただきます。では、アスハ代表」
「ああ。じゃあな、シオン」
「ええ。お気をつけて」
カガリと軍人二人は社長室を退室する。
アスランは退室する寸前、疑いの眼差しでシオンを見たが、
シオンは気にせず最大限の笑顔で彼らを見送った。

 
 

一人になった部屋で、シオンはフーッと長いため息をつく。
そしておもむろにデスクの上にあるパソコンをいじる。
パソコンのスピーカーから流れるのはプラントやオーブでも人気のある歌姫の曲だ。
その曲を聴きながら、シオンは遠く離れた場所にいる友人にメールを送る。

 

 ‐so the Beautiful World
 世界中を駆けてみたい
 so the Beautiful World
 世界中を見てみたい
 so the Beautiful World
 時の流れに身を任せ
 私はいつまでも歩き続ける‐

 

ラクス・クラインに代わって現れた歌姫。
その暖かみのある歌声は、戦争で疲れきった人々の心を癒した。

 

「坊主ーいるかー?」
ノックと共に聞こえた声でシオンは現実に引き戻された。
「ええどうぞ」
「邪魔するぜ」
入ってきたのはオーブ軍第二宇宙艦隊所属のムウ・ラ・フラガ一佐だった。
シオンはパソコンの音量を調節する。
「お疲れ様です。どうでしたか?『タソガレ』は」
「上々だ。あれなら宇宙(あっち)でも使えるだろう」
タソガレとはモルゲンレーテ社が開発した新たなMSだ。
ムラサメの発展機だが、完成するのに三年かかった代物だった。
ムウはタソガレのテストパイロットとしてここに訪れていた。

 

「良かった。開発陣も喜んだでしょうね」
「ああ。今度はアメノミハシラでテストするとさ」
「分かりました。ミナ様には連絡しておきますね」
「助かる。それと……この曲は?」
ムウはパソコンから僅かな音量で曲が流れていることに気付いた。
「ああ、すいません。すぐ止めますね」
「いや、もっと音量上げてくれ」
「え?あ、はい」
ムウに言われ、シオンは音量を上げる。

 

 ‐so the Beautiful World
 母なる地球 大いなる宇宙(そら)
 so the Beautiful World
 美しいこの世界
 so the Beautiful World
 大切なあの人と出逢えた奇跡が
 私の世界を変えたの‐

 

歌詞はそこで終わり、なめらかなヴァイオリンの音で曲は終わった。
「いい曲だな」
「ええ。僕のお気に入りの曲です」

 

ムウはその歌声に聞き覚えがあった。
しかし、その声の持ち主―――ステラはベルリンで死んだ。

 

(偶然、だよな)
「フラガ一佐?」
「いや、なんでもないさ。それより、これを歌ってるのは誰なんだ?」
「スピカですよ。プラント、地球問わず活動している新しい歌姫です」
名前まで似てるなと、思わずムウは少し苦笑した。

 
 

* * *

 
 

同時刻。プラント、アプリリウス・ワン。

 

「いらっしゃ……おや、珍しいな」
褐色肌の店長が珍しく訪ねてきた客に少し驚いた声を上げた。
アンドリュー・バルトフェルド。
砂漠の虎と恐れられた彼は、戦後アプリリウス・ワンに自身の店を建てた。
コーヒー好きの客からは中々評判がいいらしい。
が、平日の昼過ぎだからか店にはバルトフェルド以外に人影は見えない。
「こんにちわ」
やって来たのはオーカー色の髪が特徴の少年だった。

 

彼の名はフランツ・ヤマト。
キラ・ヤマトの養子だ。

 

「いつものかい?」
「いや……今日はホットカフェオレがいい」
「了解」
フランツはカウンター席に腰をおろし、バルトフェルトはミルクを温め、カップを用意する。
「サービスだ」
「ありがとう」
バルトフェルトが出したのはティラミスケーキ。
礼を言って、フランツはそれを口に運ぶ。
「どうだ最近は?」
「学校のほうは変わらないよ」
「そうか。じゃあ別のことで何か良いことでもあったのかい?」
バルトフェルトは出来上がったホットカフェオレをフランツに渡す。
自身もまたコーヒーを飲み、フランツの言葉を待つ。
「まあね。この姓になって初めて友達が出来たんだ」
「ほう?どんな子なんだ?女の子か?」

 

フランツには友達がいないと聞いていた。
原因は彼のファミリーネームだ。
普段は誰もその名に恐れをなして近づかないのに、フランツが困った様子を見ると過剰に助けたがる。
それは教師も同じだと。
なので、友達が出来たと聞き、バルトフェルトは顔には出さないが少し驚いた。
「男だよ。しかも16歳で年上。友達ってよりは兄貴に近いけど」
「ほう……どうやって知り合ったんだ?」
「それは秘密だよ。あ!」
フランツは店内のBGMが変わったことに気付く。
「これってスピカの『カノン』だよね?」
「ああ。実にいい曲だ」
「優しい曲だよね。この曲を聴くと、なんとなく母さんの声を思い出すんだ……」
「フランツ……」

 

 ‐so the Beautiful World
 世界中を駆けてみたい
 so the Beautiful World
 世界中を見てみたい
 so the Beautiful World
 時の流れに身を任せ
 私はいつまでも歩き続ける‐

 

もう顔も憶えていないが、優しかった母親。

 

フランツ・グラディス。
それが彼の本当の名前だった。

 

To Be Continued.

 
 
 
 

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