ザ・グレイトバトルDESTINY_Inter rude2

Last-modified: 2008-05-27 (火) 21:20:37

ザ・グレイトバトルDESTINY
Inter rude2
孤狼と堕天使の出会い

 

オーブ首長国連合―――
大西洋連合によって制圧された平和の国は今―――

 
 

「新型MSの実戦テストぉ?」

 

オーブの宰相であるウナト=エマ=セイランの息子であるユウナ=ロマ=セイランはトダカに向かって声を上げた。

 

「はい。すでに骨組みは完成しておりますし、テストパイロットの選出も終わりました」
「とはいうけどねぇ………」

 

一方のユウナはあまり乗り気ではなかった。何しろ新型MSの提案者はアスハ派なのだ。
アスハ派は理想が現実より先走って(どのくらいかと言うと、走るのが苦手な人と現役陸上選手ぐらい)おり、提案されたMSを最近知り合った連合軍の中尉が見たところ『普通のMSの方が強い』とまでいわれる代物なのだ。
欠陥だらけで、正直言って『安全性? そんなもの飾りですよ』といわんばかりの代物だった。それだけならまだしも、どいつもこいつも『理念を守る為のMSに欠陥など無い!!』と言い張る始末。
さらにテストパイロットは反アスハ派―――『理念? そんなもん知ったこっちゃねえよ』というような連中だったのだ。
最悪の場合、自分たちの手駒が減る事だってある。

 

「で、誰を出すの?」

 

ユウナの問いに対して、トダカは小さく息をついて答えた。

 

「―――曹長です。キョウスケ=ナンブ曹長を使います」

 
 

「………以上だ。お前には、この機体のテストをしてもらう」

 

オーブ軍にて、一人の嫌味そうな男がオーブ軍の服を着た男に向かって声を上げる。彼は根っからのアスハ派であり、今回の新型MSも『理念を守る新たなMSが出来た』と喜んでいた。
しかし、一方でテストパイロットに任命された男は手元の書類を見て声を上げた。

 

「二佐、質問が」
「なんだね?」
「資料を見ました。この機体………ムラサメは、可変時の安定精度が極めて低い………とても実戦テストができる代物だとは思えません」

 

そう言うと、二佐と呼ばれた男は不愉快そうに表情を歪めた。

 

「実戦テスト? 馬鹿なことを言うな。標的の戦車にはペイント弾しか装填されておらん。せいぜい機体が汚れるぐらいだ。貴様が掃除すればよかろう? それにオーブの理念を裏切ったサハクが造ったものならばともかく、オーブの理念を今もなお守り続けているアスハ派が造ったものだぞ? 欠陥などあるわけがない」
「………実弾でなければいいというわけではありません。それに安定精度と理念はまったく関係ありません」
「貴様、オーブの理念を馬鹿にするのか? キョウスケ=ナンブ曹長」
「いえ。………やれと言われればやります。そこに命を賭けることに異論はありません。ただ、被弾するにせよ回避するにせよ、危険はつきまとうことになります。今の不完全な状態では、戦闘データも満足に取れません。にも関わらず、貴重な新型MSのテストを強行する意味があるのかと………そう疑問に思っているだけです」
「オーブの理念を守ろうとしない臆病者の日和見が生意気な口を利くな。とにかくオーブの理念を守るために造られた新型MSのテストだ。いいな?」
「………了解、失礼します」

 

取り付く島もない。仕方なく男・キョウスケはしぶしぶと敬礼を返し、この場を後にした。

 

(ふん。セイラン派の小僧が………理念を守るために作られたMSに欠陥などあるわけがないわ)

 
 

そしてテストの最中―――
ペイント弾や飛行試験など、特に問題がないように思えた。

 

「イルム、今回は問題ないねぇ………」

 

トダカと一緒に来ていたユウナは暢気そうな声を上げる。しかし一方で傍らにいた連合軍中尉―――イルムガルド=カザハラ中尉(通称・イルム)は胡散臭げに目つきを鋭くしていた。

 

「ああ………今回はまだ問題はない。何しろ欠陥は変形機構にあるんだからな」
「何を言う!! オーブの理念を守るために作られたMSに欠陥などありませんよ!!」
「僕にしてみたら装甲が薄い奴なんかよりイルムのグルンガストのように生半可な攻撃じゃびくともしない奴の方がいいけどねぇ………」

 

三人がそう言う中、もう一人の二佐が通信をキョウスケに繋げた。

 

「キョウスケ曹長、なかなかの腕前だな。次は………緊急時変形テストをしてもらおうか」
「何だって!? あんた、あのMSの欠陥に全然気づいてないのかよ!!」
「オーブの民を傷つけた大西洋連合の言うことなど聞けんわ!! それにアスハ派のMSに欠陥などない!!」

 

オーブの理念を守るためのMSは完璧だという二佐に対してこの場にいた誰もが唖然となる。

 

「やめろキョウスケ!! 戻って来い!!」
「ナンブ曹長、訓練は中止だ!!」
「イルムガルド中尉、トダカ二佐、越権行為だぞ!!」

 

キョウスケを説得しようとするイルムとトダカだったが二佐は声を荒げて二人をにらみつけた。
一方、キョウスケはキョウスケで―――

 

(どうやら………はめられたらしいな。ちっ、運を天に任せるしかないということか)

 

そう言って変形させようとした瞬間―――
MSとMAの中間あたりで変形がとまり―――

 
 

「変形………しきらない………ッ! ぐ、うおおっ!」

 
 

その声を最後に爆発が生じ、試作型ムラサメは粉微塵になった。

 

「キョウスケっ!!」
「ナンブ曹長!!」

 

イルムとトダカが叫び声を上げ、ユウナがやっぱり問題起こったよ、と言いたげな表情をした。

 

「緊急事態発生! 試作型ムラサメが海中に!! 曹長! キョウスケ曹長っ!」
「おいあんた!! あんた、欠陥は無いって自信満々に言ってたよな!? どういうこったあれは!!」

 

イルムが二佐につかみ掛かると、一方の彼は鼻で笑った。

 

「ああ、欠陥は無かった。となればキョウスケ曹長に問題があったのだろうな?」
「なんだと!?」
「キョウスケ曹長はオーブの理念に否定的だったからな。今は亡きウズミ様が天誅でも加えたのだろうよ」
「んだとぉ………!!」

 

ついにイルムが彼を殴ろうとした矢先―――

 

「二佐!! パイロットの生存を確認しました!!」

 

オペレーターの返事が再び場を凍らせた。

 

「何だと………!? あの爆発でか!?」
「キョウスケ! 応答しろ、キョウスケ!!」
「………二佐、後で話がある」

 

トダカが怒りを押し殺した声でそう言う。そして二佐は膝を屈し、手を地面に押し付けた。

 
 

「くっ………」

 

キョウスケは瓦礫を押しのけ、バイザーの割れたヘルメットを地面に投げ、空を見上げた。

 

「どうやら………無事………らしい。う……アバラは何本か…持っていかれてるか………また………生き残ったらしい………やれやれ」

 
 

一週間後―――

 

「トダカ二佐、失礼します」
「うむ」

 

そう言ってキョウスケが入ると、トダカは声を上げて言った。

 

「単刀直入に言う。今日から大西洋連合に向かう様に」
「大西洋、連合………ですか?」
「うむ。そこで開発された試作型MSのテストを行う。それと本日付でキョウスケ=ナンブ“少尉”は大西洋連合試作MS運用部隊・ATXチームに配属される」

 

それを聞き、今度こそキョウスケは呆然となった。一方でトダカは声を上げる。

 

「既にセイラン代表代行と決めた事だ。それに少尉にとってオーブは狭すぎる。アスハの信奉者に支配された軍や政府などより大西洋連合の方がいい刺激を与えてくれるだろう」
「俺がブルーコスモスの思想に染まる、と言う事も考えられますが?」
「君はそう言うやわな精神の持ち主ではない。もしそうだったらとっくの昔に君はアスハの信奉者になっているよ。それにブルーコスモス全てが敵と言うわけでもない」

 

トダカはそう言って笑う。何を隠そう、今回のような派遣は初めてではない。
それに連合の兵士はオーブ国民の失業対策にも躍起になっていたし、テロばかり起こす過激よりのアスハ派の残党兵の摘発も徹底的に行っていた。
故にアスハ派以外のオーブ国民の中では『連合=悪』と言う定義は無い。
やはりオーブにもブルーコスモスにも穏健的な考えがあるという以上、キョウスケが過激派の思想に染まらないと言う核心があったのだろう。
このトダカもまた、キョウスケに影響されたのか伸るか反るかのギャンブルに乗るようになっていた。

 

「………了解しました」
「また会おう。キョウスケ=ナンブ少尉」

 

そう言ってトダカとキョウスケは分かれる。

 

彼らが再び出会うのは、この戦争が終わってから二年後になる。
大西洋連合・ラングレー基地―――

 

キョウスケの目の前には壮年の男と金髪の人を小ばかにしたような男がいた。

 

「私はウィリアム=サザーランド。階級は大佐だ。君の話はトダカから聞いているよ………災難だったな、キョウスケ=ナンブ少尉」
「………いえ。機体を大破させてしまったのはパイロットである自分の責任です」
「そうですか? 僕にして見たらあんな欠陥機に乗せるほうが問題だと思いますけどね?」

 

そう言ったのは金髪の人を小ばかにしたような男だった。彼の名はムルタ=アズラエル。ブルーコスモスの盟主にして連合製“MS”のオブサーバーでもある。

 

「ま、家のラドム博士も似たような人ですがね………」
(ラドム博士?)

 

キョウスケが首をかしげた瞬間、アズラエルは小さく手を振るった。

 

「それと君の配属先ですが………」
「へぇ~~~」

 

そう言ってきたのは金髪の美女だった。だが、どこか子供っぽい仕草をする。

 

「なるほどねぇ」
「………?」

 

キョウスケが怪訝そうにするが、一方の美女は飽きもせずに眺めている。

 

「あー、エクセレン君? 入る時はノックをしてもらいませんか?」
「あらやだ。忘れてましたわ」

 

そう言って彼女はドアを叩く。

 

「んではムーちゃん。コレ、いただいて行きまーす♪」

 

アズラエルをムーちゃんと呼んだその女、エクセレンは自分の腕を掴み、部屋を出ようとする。

 

「………程ほどにするように。前々回の様に泣いて帰らせる様な事はするなと奴に伝えておいてくれ」
「一応伝えてはおきま~す♪」

 

サザーランドの言葉を笑って流し、彼女はドアを閉めた。

 

「………待ってくれ。どうもまだ話が………」
「ん? 私はエクセレン=ブロウニング。一応あなたと同じ少尉よん。で、今日からあなたのチームメイトになる“予定”」
「………どこかで会った事があるか? エクセレン少尉」
「それはどうかしらねー? ま、それはそれとして………連合製の機体に興味あるかしらん?」

 

するとエクセレンは笑いながら答えをはぐらかした。
だが、気になる部分があった。

 

「連合製の機体だと? それはダガーの事か?」
「それはハルバートン提督が主導となって造ったGAT計画の量産型よん。で、うちのはムーちゃんが主導で造ったMS………ムーちゃんは『“MS”だなんて完全なザフトの猿真似はゴメンです』と言ってMSとは呼ばないんだけどね」
「では、なんと呼んでるんだ?」

 

キョウスケがそう言うと、エクセレンはココからが本番だとばかりに声を大きく上げた。

 

「パーソナルトルーパー、通称PTよん♪ そう呼んでるのはムーちゃんやムーちゃんの派閥だけだけどねん」

 
 

エクセレンの案内を受けたキョウスケは演習場にいた。
シュミレーションルームを使えばいいと思うのだが、彼女の上官はシュミレーションを使った訓練はあまりしない主義らしい。
キョウスケが乗ったのは青を基調としたダガーと似たようなゴーグルアイと見方によっては(特に口が悪い奴)ウサ耳とも取れるアンテナが特徴的なMS………もといPTだった。
左腕には三本の棒状の何かがくっつけられているように見える。

 

『キョウスケが乗ってるのは初期型のPT………ゲシュペンストの発展系にしてカラミティちゃん達と同じ時期に開発されたゲシュペンストMk-Ⅱの量産型よん。装甲はダガーちゃんと殆ど同じだけど、操作性の問題や動力の関係でコストが高いから数は少ないけど連合製の手持ち武器なら何でも使えるわん』
「………手持ちの武器はM950マシンガン、固定武装はスプリットミサイルに左腕のジェットマグナムのみか………成る程」

 

ちなみに神話の名前がついていないのはATXチームの扱うPTの開発主任であるマリオン=ラドム博士の一言が原因である。

 

『どうかしたの?』
「………いきなり戦闘演習とはな。エクセレン少尉」
『いやん。階級で呼び合うなんて野暮は止さない?』

 

そんな甘ったるい声に対してキョウスケはため息を吐いて彼女の望む答えを出した。

 

「………了解したエクセレン。これでいいか?」
『わお♪ 案外………』

 

『準備は良いようだな、新人』

 

エクセレンのものではない、明らかに厳つい男の声が響いた。

 

『あッ! ちょっと待ってボス、まだ説明が………』
「ボス?」

 

キョウスケの疑問符を持った声に対しても“ボス”と呼ばれた男は待ったをかけない。

 

『状況開始!!』

 

その声を合図に戦車や戦闘機が次々と上空を飛び交う。恐らく基地で操作されている無人機なのだろう。
戦車の攻撃が放たれ、地面に爆発と粉塵が舞い上がる。コレは明らかにペイント弾ではない。

 

『あのねキョウスケ。この人がゼンガー=ゾンボルト少佐で………』
『標的には実弾が装備されてある。死にたくなければ全機破壊しろ』

 

あからさまな実力重視。次々と弾丸が飛び交う中、キョウスケは装甲が紙の様に脆いM1を操ってきた経験を活かし、弾丸を避け続ける。
『うわぁ、ごめんキョウスケ。今の………』
「構わん。理解した」

 

自分がそう言うとエクセレンの間の抜けた声が聞こえる。

 

「こう言うのは嫌いじゃない。ゲシュペンストも、ああいう男もな」

 

そう言うとキョウスケはマシンガンを前に向け、牽制代わりの射撃を行った。
そして敵車両の反撃。キョウスケはMk-Ⅱを操作して敵の攻撃をかわす。
敵機の射程と戦車ゆえのサイズ差、そして建物などの障害物を考慮してキョウスケは思考をめぐらせる。

 

(圧倒的に分が悪い………その上コレだけ前方投影面積に差のある戦車と正面から撃ち合うのは、ただの馬鹿か)

 

その馬鹿が某島国では腐るほどいるのはご愛嬌。
戦車が次々と弾を放ち、キョウスケはそれを避ける。

 

「標的は61式戦車がベースか。レンジ内に2台、接近中も含めて8台………」

 

キョウスケは即座に倉庫が連立されてある場所へ向かう。当然戦車も追ってくる。
実弾が再び迫る頃には、キョウスケと戦車の群れは倉庫一つ挟む形となった。

 

「………」

 

キョウスケはその隙にバーニアスラスターを吹かし、倉庫の上に飛び乗る。移動するたびに倉庫の屋根に穴が開く音が響くが気にする事は無い。
反対側にたどり着くと同時に屋根から飛び降り、真上からマシンガンの弾を浴びせさせる。当然直撃を受けた戦車は大破だ。
そしてもう一台、戦車が向かってくる。銃口が向けられた瞬間、大破した戦車を蹴り上げて盾代わりにした。
一気に間合いをつめ――――

 

「この間合い、とったぞ!!」

 

そう言うと左腕にあったジェットマグナムを帯電させ、戦車を穿ちぬいた。
エクセレンは次々と上がる爆音を見て手にした双眼鏡を覗きながら冷や汗を流した。

 

「………あー………アレ、誰が片付けるんだろ」

 

呆れ半分、別の意味での恐怖半分。キョウスケの戦い方は戦闘のセオリーから外れきった接近戦を好むと言う、元オーブ軍人に相応しいものだった。
双眼鏡で覗いたゲシュペンストMk-Ⅱは、接近戦をやっている事もあるのかかなり生き生きとしているように思える。
まあ、一つだけ言える事は………

 

「………まあ、ボスと気が合いそうで良かったわ」

 

それだけだった。その後ろに当のボス………ゼンガー=ゾンボルト少佐がいたことには驚いたが。

 
 

そして全ての標的を落としたキョウスケはコクピットから降り、エクセレンの前に立った男に向かって敬礼をする。

 

「………良かろう、合格だ。キョウスケ=ナンブ少尉」

 

男は自分に対して腕を組み、不動の体勢で声を上げる。トダカとは違う、オーブの佐官の殆どが持っていなかった厳しさを彼は持っていた。

 

「貴様は本日よりATXチームに配属される。改めて歓迎しよう」
「了解しましたゼンガー少佐………ボスと呼んだほうが?」
「いやん。折角だからニホンやオーブ風に“親分”とかいうのはどう?」

 

キョウスケの問いに対してエクセレンがボケながら相槌を打ったが………

 

「悪くないな」
(………この男、本気か………?)

 

当のゼンガーはそんな事を言ったのだった。

 
 

―――二週間後―――

 

「どうキョウスケ? そろそろ二週間経つけど慣れた?」

 

キョウスケが自分が扱うゲシュペンストMk-Ⅱのレポートを読んでいた時、エクセレンに声をかけられた。

 

「ココのスタッフには良くしてもらっている。整備も行き届いているし、環境に言う事は無いな今のところ」
「ブリット君も早く帰ってくればいいんだけど―――」
「チームメンバーか?」

 

キョウスケが聞きなれない名前を聞くと、エクセレンは頷く。

 

「そ。キョウスケが来る前に配属された新人君よ。もう一ヶ月くらい経つから研修もそろそろ終わりね」
「………ATX計画自体はあくまでブルーコスモス主導の計画だと聞いたが?」
「んー。別に私も『青き清浄なる世界の為に~~~』なんて言う趣味はないし、ボスはボスであの性格でしょ? それにムーちゃんは商売人だから、あんまり思想がかったことに興味ないのよね」

 

エクセレンが言うとおりゼンガーはナチュラルでありながらあの戦闘能力であるし、何よりナチュラルもコーディネーターも関係ない実力主義者。
アズラエルも昔はコーディネーターに憎悪を抱いていたが、ゼンガーのおかげで改善された。噂ではジブリールも同じ傾向らしい。
現にオーブ戦で投入されたカラミティやフォビドゥン、レイダーのパイロットやその指揮官を勤めた女性は自己分析できるほどの判断力を持っていた。
尤も、縦横無尽に暴れまわるフリーダム相手に暴走してしまったようだが。

 

「んまあ、向こうも向こうでストライクの発展型とか造ってるしね。今作っている新型バッテリーが出来ればゲシュちゃんも良いところまではいくわよ」
「今の所、ゲシュペンストによる模擬戦とモーション・サンプリング中心のメニューが組まれているのは、ATX計画の目的である“強襲人型機動兵器”と言うのはゲシュペンスト系の発展機になる目算が高いと言う事か?」

 

キョウスケの問いに対して、何故かエクセレンはやる気なさげに答えた。

 

「まあ、そこの所はあの人の胸先三寸って所じゃない?」
「キョウスケ少尉!!」

 

その時、自分を呼ぶ声が下の方から響く。上から覗くとそこには白衣を着た赤毛の女性が声を上げていた。
彼女の名はマリオン=ラドム。彼女こそがゲシュペンストの開発者の一人であり、ATX計画が開発しているPTの開発主任を勤めている人間であった。

 

「はっ、何か? ラドム博士」
「あなたの機体は損耗度が高すぎますわ!! 接近戦闘は控えめにして頂けませんこと!? そもそも量産型のMk-Ⅱは試作型のタイプRがベース。幾ら格闘戦用の武器を装填していると言っても限度があります!!」

 

格闘戦用の装備と言えばジェットマグナムの事だ。キョウスケはそれを愛用し、射撃武器は牽制程度としか思っていない。

 

「話はまだあります!! 後で私の所へ来なさい!!」
「………了解しました」
「わお!! 何呼び出し!? ドクターと二人っきりの個人授業!?」

 

エクセレンの声は無視しておく。それがキョウスケがこの地で学んだ事の一つだった。

 
 

(キョウスケ少尉の期待の損耗度の原因………コレは彼の操縦技術が未熟な所為でなく、機体の方が追従しきれてないせいだわ)

 

マリオンはデータを見比べると、直ぐに笑う。それは気に入った玩具が手に入った様な子供のような笑みだった。

 

(本当に面白いパイロットが来たものね。彼ならば、コーディネーターやブーステッドマンですら扱いこなせなかったMK-Ⅲを乗りこなせるかもしれないわ………)

 

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