スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
第1話「平行世界」
ヴォイジャーのクルー達は宿敵であったボーグのトランスワープ・ハブを通り、念願のアルファ宇宙域への帰還を果たした様に思っていた。
しかし、実際はクロノトンの影響によるものか定かではないが過去のアルファ宇宙域であり、奇妙な事にこの時代に既に活動しているはずのバルカンやクリンゴンの恒星間通信反応も存在しなかった。
そして、あの謎の通信である。
ヴォイジャーは太陽系内のアステロイドベルトに艦を進めてプローブを発射した。
それによると、この時代はコズミック・イラ71年で、西暦に直すと21世紀末頃の時代に当たる様だ。
歴史的経緯は20世紀頃までの進化は我々の宇宙とほぼ同一の歴史を共有していると言えるが、それ以降の歴史は……よく言えば穏便な進化をしたとも言えるが、悪く言えば旧時代の悪弊を引きずったまま進んでいるのかもしれない。
テクノロジーレベルは核融合炉にまだ手の届かない段階だが、核分裂反応を制御するニュートロン・ジャマーと呼ばれる抑制技術を有していることや、
モビルスーツと呼ばれるロボット兵器が登場している等、一部は我々の歴史には無い進化を見せている。
中でも前述のジャマーの影響によりバッテリーが急速な進化を見せており、電力の利用効率は上昇中の様だ。
現在の政治状況は地球連合と呼ばれる政府と、ZAFTと呼ばれるコロニーコミュニティが対立しており、ここでもジャマーが深刻な影響を見せており、地球内部の国家群はエネルギー不足による大量の餓死者を出す等、大きく劣勢に回っている様だ。
ジェインウェイは一人でホロデッキに来ていた。
「コンピューター、ジェインウェイ私的データベースα22のγ1を起動」
『α22のγ1を起動します』
天井のスピーカーから聴こえたコンピューターの声が消えると、中世ヨーロッパの図書館の様な本棚で埋め尽くされた部屋が周囲に現れた。
彼女はその場に立ったまま再び呼びかける。
「コンピューター、地球の歴史、21世紀までのシミュレーションデータを用意」
すると、彼女の呼びかけに合わせる様に空間に地球の3次元モデルが現れる。
そのモデルはゆっくりと回転し、周囲に幾つもの歴史情報を表示したウィンドウを空間に浮かべた。
薄暗い室内に様々な映像が地球の周りを回転しながら映っていた。
『用意しました』
「では、第三次世界大戦までの歴史のC.E.との相違点を提示して」
コンピューターは彼女の呼びかけに呼応し、地球の周りを回る映像の中から関連情報をピックアップし彼女の周りに浮かべた。
『コズミック・イラ、との違いを分析しました。
分岐の始まりは1992年より始まる優生戦争に始まります。
この当時のC.E.年代に同様の戦争は起こりませんでした。
宇宙連邦の歴史はその後2026年から始まる第三次世界大戦により、2053年の集結までに6億人の死者と20億人を越える先進居住可能領域を核物質による汚染で失い、事実上の無政府状態に至るまで続きました。
コズミック・イラとの共通性は20世紀末まで保たれ、21世紀以降の歴史は独自の歩みを進めています』
「その、我々とCEを分岐させた理由はわかるかしら」
『その命令は完了出来ません。
具体的な事例を元に比較することは出来ます』
「では、我々の第三次世界大戦と彼らの戦争では、何が違うのかしら」
『具体的にはどのような情報を指しますか』
「そうねぇ、彼らの目的やその結果……とかならどうかしら?
例えば、企図した勢力や勝者は誰か……とか」
『CEでは民族、宗教、資源、金融の4種の複合的影響を行使する政治勢力によりブロック体制が構築され、表向きのイデオロギーの裏で経済的な利益を模索した当初勢力が、最終的な勝利者として君臨しました。
この鉄の結束は18世紀に遡るナポレオン戦争の当時から続く一連の世界統一行動と一致し、C.E.年代の統一政府樹立に至るまで継続されています。
宇宙連邦の歴史でも同様の勢力が企図し、同様の世界戦略が行使された歴史がありますが、それらは戦時中に崩壊し、全ての権力者が消滅し、最終勝利者が存在しません』
「コンピューター、両年代の主だった人物を挙げて。
そうねぇ、象徴的人物で良いわ」
『宇宙連邦の歴史では、ゼフラム・コクレーンです。
CEの歴史では、ブルーノ・アズラエルです』
「ブルーノ・アズラエル?」
『世界経済を動かすロゴスの最高指導者です』
コンピューターが表示した映像には、見事な口ひげを蓄えた老紳士の詳細な情報が映し出されていた。
艦長日誌
……これまでのプローブ等の調査をまとめると、ここは地球であって地球ではない。
我々の歴史とはかなりズレた方向に進んだものであるということ。
そして、クロノトンの影響で約200年程の時間を遡っていること。
更に残念な知らせは、周囲に我々の宇宙歴に登場したはずの恒星文明の存在も見られない事が確認された。
いわば、我々はこの宇宙に真に独ぼっちとなってしまった様だ。
「……パラレルワールドと言うには、随分と違う世界ね」
溜息をつくジェインウェイ。
彼女は自室に入りソファに座ると、持っていたパッドをテーブルに置いてコーヒーカップを手にした。
一緒に入って来たセブンと副長が彼女に促されて隣に座った。
「その通りだ。違い過ぎる。
クロノトンの干渉が平行世界を生み出すなど、ボーグのデータベースには無い。
だが、平行世界そのものが存在しないわけではない。
時空連続帯は幾つもの可能性を束にした様な物だ。
我々が知る宇宙もその一つの可能性であると言える」
セブンは普段通り淡々と話している。いや、彼女に淡々といった自覚はない。
彼女の言葉に再び溜息が出るジェインウェイ。
「……ふぅ、泣く子も黙る時間規則。
一つ破ればこの結果……ということかしら」
「でも艦長、だとすればおかしいですよ。
もう来てもおかしくないはずの彼らが来ない」
「彼ら?」
「タイムパトロールです」
副長の指摘はもっともだ。
彼らは既に幾度か「彼ら」に会っている。
それはヴォイジャーが連邦の歴史上で重要な位置を占めているからなのだろうか。
だが、だとすると、ジェインウェイ提督のタイムスリップは「認められた歴史」という事になる。
時間規則は知り得た情報を利用してはならない、干渉してはならないといった様々な制約が有るはずだが、この判定の差は何であろうか。
そして、もし許されたというのであれば、このトリップも許されたのであろうか。
「……それではまるで、私達がここに来る事は予め決められていた事だとでも言いたいの?」
彼女の問いに、副長自身も自分の発言に苦笑を禁じ得なかった。
「……それは、わかりません。
ただ、彼らが動いてもおかしくないことは事実です」
「……そうね、チャコティ。でも、クルー達にはどう説明するの?
私達は帰ってきました。全く違う地球へ……と。
もう7年も時間を掛けたのに、今度は全く見通しが立っていない。
提督はまさか、こんな場所での滞在も入れて時間が掛かると思ったから、私がいうのもなんだけど……あの無茶な行動をとったとでも言うの?」
実際問題、こんな荒唐無稽な話を大真面目に話すこと自体がおかしな話だ。
勿論、これまでが常識で説明の付けられる事ばかりであったかと問われれば、そうではない。
だが、少なくともゴールは見えていたはずだ。
困惑する彼女をよそに、セブンは何ら表情を変える事無く語る。
「筋が通らない話でも無い。
提督がボーグを倒すことを考えていたのであれば、それは遅かれ早かれ行われたことだろう。
優先順位を考えれば、あの先のボーグとの戦闘による損害と比較すれば、ここの障害に問題にする程のものはない」
確かに正しい答えだが、頭では理解出来ていてもどうにもやり切れない話だ。
文字通りの命がけのミッションだったのだ。
なのに、その後にこのような結果が待っているのだと知っていたら、歴史を変える手段は他にもあったのではないだろうか。
事後に後悔しても仕方の無い話だが、身を犠牲にして得た結果へのショックは大きかった。
とはいえ、まだ評価を下すべき時ではない。
「……セブン。確かにここは地球ですものね。
でも…私達が生きて行く上では補給が必要になる。
幾つかの資源は艦を動かして調達しに行くとして、食料の調達も必要ね。
だけど、プローブの情報から見て……彼らの戦争状況は深刻なものよ。
このモビルスーツというロボット兵器を利用した戦争は、私達の歴史には登場しなかった考え方ね」
ジェインウェイはパッドに映る情報を読み見ながら、コーヒーを口にしていた。
彼女はいつも考え事や作業に集中するときは、決まって濃いめのブラックコーヒーを飲む。
カフェインが覚醒を促すこと勿論だが、彼女の必勝スタイルとでもいうべきだろうか、願掛け的意味合いもある。
セブンは自分のパッドを艦長の座るテーブルの上に置くと話し始めた。
そこにはシリンダー型のコロニーの映像が出ていた。
「艦長、その点については興味深い情報がある。
コーディネイターはMSの運用を始めて暫く経過するが、連合にはまだそうした兵器は無く、どうやら連合は我々の技術的進化に近い様だ。
その連合がヘリオポリスと呼ばれるコロニーでMSを作り始めた。
しかし、制御システム周りはあまり良い出来ではない。
そこで、我々は彼らと接触する事で協力し、補給を受けてはどうだ?」
「……セブン、それでは私達の存在を知られてしまう。
私達はイレギュラーな存在よ。
極力この世界の歴史への干渉は避けるべきだわ。
それに、彼らはまだワープ以前の文明よ。
ファーストコンタクトをするには艦隊の誓いに反するわ」
ジェインウェイの反対に対し、セブンは副長の方を見て目配せする。
彼は悪戯っぽく微笑しながら彼女に告げた。
「艦長、それではバレなければ良いわけですね」
「チャコティ?」
「私達は一つの革新的技術を持った会社だとします。
我々が商品を売る事で対価を得て、それで何を買うかは自由です。
見た所、技術革新スピードはZAFTの方が上の様ですが、我々が彼らが言うナチュラルとして連合に与すれば、
コーディネイターを上回る切っ掛けになり得ます。
……この先どの程度の時間をこの時間枠に滞在するか分かりません。
彼らに恩を売る事で居場所を作る事自体は視野に入れておくべきでしょう」
「……まったく。それだけ考えているのなら、もう準備を進めているのでしょう?
分かったわ。許可します。その代わり条件があります」
「艦長?」
「……私も参加させる事」
「はい、艦長。……いえ、社長」
副長はにっこり微笑んで了承した。
彼女もまた笑みを浮かべると、コーヒーの香りを楽しんだ。
物事は道が決まれば動き出すのは早い。
副長には予め構想されたプランを叩き台に進めさせる事を許可し、その為に地球との移動に必要なシャトルの製造はベラナを中心に動く指示を出した。
彼女は出産後すぐではあるが、我々の時代の医療技術は産後すぐの行動も可能だ。
何よりクリンゴンのハーフの彼女は元々体力もあれば回復力も強い。
動かない方がどうにかなりそうという彼女の意志を尊重する事にした。
-つづく-