スタートレックヴォイジャー in Gundam SEED
第20話「低軌道会戦・前編」
モニターには2つの遺伝子サンプルが表示されている。
一つは一般的地球人の、もう一つはコーディネイターと呼ばれるものだ。
その表示には特定の遺伝子をターゲットにした調整が確かに行われているが、それが大きく異なると言える程の変化を示しているとも言えない。
「しかし、このコーディネイターという人々の遺伝子はとても歪な配列をしている。
身体的な能力を上げることも出来ていることがあるが、大抵はその為に何かを犠牲にしている。
この程度の技術でよく進めようとしたものだ。少尉、ハイポスプレーを頼む」
ドクターの補助をしているのは、普段は機関室勤務のボーラック少尉だ。
彼は普段補助をしている筈のトム・パリスが艦長代理としてブリッジに勤務していることもあり、その代理としてここに赴任している。
彼の目前にあるのは一人の人間の死体だ。集中治療室に安置された死体は装置で覆われ、頭部を除いて露出している面は無い。
この死体はプローブを射出して、先日崩壊したヘリオポリスより転送で回収した幾つかの死体の中の一つだ。
ヴォイジャーでは死体を回収してドクターによる分析を行っていたのだ。
その主な目的はコーディネイターとナチュラルの分析にある。
そして、その為に運ばれて来たのが目前の少年兵の死体だ。いや、死体だったものだ。
ドクターはハイポスプレーを手にすると、それを検体の首に当て薬剤を浸透させた。
すると、その死体はびくりと動いた。
「………うはぁ!?!」
「おっと、落ち着きたまえ」
少年兵は意識を回復したが、死の直前の記憶に動悸を早くしていた。
だが、すぐに自分の見ている視界がコックピットではない事に気が付き沈黙する。
それ以前に座っていた筈が横になっているし、何故か体の自由も利かない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……あ、あぁ……」
「あー、君の名前は確か……ミゲルと言ったね。ミゲル、我々は宇宙空間を彷徨う君を回収したのだ。
だが、もう大丈夫だ。君の体は元通りに回復する。私が約束しよう」
「……ここは?」
「ここは医療室だ。一緒に回収したラスティ君も順調に回復している」
「……嘘だ。ラスティは死んだ」
彼はあの戦いでラスティが亡くなったのを知っていた。その弔いも込めて足付きへ挑んだのだ。
そして、ヅラ諸共あの世へ葬れる絶好のチャンスで……それ以降の記憶は無い。
「嘘ではない。君は数刻前まで死んでいた。だが、我々が君を蘇らせたのだ」
「蘇らせた!?」
「ボーラック少尉!患者が動揺する様な言葉は謹んでもらいたいな」
ドクターがボーラックの言葉を諌める。しかし、ミゲルの動揺が静まる筈は無い。
ボーラックの言葉が本当ならば、自分は確かに……死んでいたのだ。
「……俺は、本当に死んでいた……んだな。あ、うぅ、ぅ……」
ミゲルは自分でもどうして溢れるのか理解出来ないが、大量に込み上げる涙を止められずにいた。
そして、その流れる涙が、自分が生きているんだということを知らせてくれるのだ。
プラントコロニーマイウス4の某所では秘密の会合が行われていた。
そこはアマルフィ家の別荘の一つで、装飾的なものは控えめでシンプルな佇まいだ。
よく言えば近代的な建築だが、悪く言えば質素でどこにでもある様な邸宅だ。
そこにこのプラントの最大派閥が集まっていた。
「……シーゲル、我々は方針を改めるべき分岐に来ている様だ」
シーゲル・クラインの前に座るのはユーリ・アマルフィだ。
彼はパッドに映るとある報告を見ながら彼に話しかける。その表情はとても暗い。
話しかけられた方も内心頭を抱えたいくらいの気分であったが、そうしたところで何らの解決にも繋がらない現実にただ耐える他無いのだ。
「……うむ。パトリックの暴走具合は目に余るが、彼の見解は正しいということか。
だが、本当に可能性は無いのかね?」
彼の質問にユーリの右隣に座るアイリーン・カナーバが口を開く
「正直な話、私の方で密かに運用していた最新の量子コンピューターの計算次第では突破出来ると踏んでいたが、デュランダルはまだ掛かると言っている。
だが、仮に突破出来たとして、イーブンに持ち込めただけであって解決ではない」
彼女に続く様にユーリの左隣に座るアリー・カシムが続く。
「議長が指示されたプランBを実行する以上、ザラ派と組むのは不可避と考えます。
但し、彼らが我々と軌を一にするとは限りません。保険となるプランC及びDの平行運用とプランDともいえる新しい道も模索された方が良いかと」
彼の言葉を聞いて、シーゲルはテーブルの左側に座る人物の方を向いた。
彼こそは現在の戦場を作り出した張本人だ。
「……私が作り出した結果を、私に覆せと言うのかね」
「オーソン、何も君を責める為に呼んだわけじゃない。我々はむしろ君に感謝している。
君が尽力していなければ現在の我々は無い。
確かに大きな被害を出したが、そのお陰で我々は生き続けられている。それを忘れる事は無い。
だが、君の力を今一度我々は必要としている様だ」
シーゲルの言葉に幾分気を良くしたオーソン・ホワイトは、ゆっくりとした口調で話す。
「……パトリックに提供したものは試作に過ぎん。だが、連合は面白いものを開発した。
ミラージュコロイドは全ての兵器を一変させるだけのポテンシャルがある。
……それは私が研究しているアレにも応用が出来そうでな。
コロイドによるビーム反射を遮蔽に応用すれば、我々は何も分裂炉のみに頼ることはなくなる」
「ん!?……オーソン、まさか」
「あぁ、我々が目指すべきはもはや地球ではない」
「……むぅ」
シーゲルはオーソンの自信に満ちた目を見た。
彼は科学の為ならば誰の批判すらも耳を塞げる強い信念の持ち主だ。
だからこそ、ザラともクラインとも与せずに独自の路線を貫いてプラントを現在まで導いて来た。
その彼が再び新しい道を提示しようとしている。
「……プランDか。フフ、オーソン、君の案を聞こうか」
シーゲルは決断した。
これよりクライン派は新たなる路線へ突き進む事となる。
その頃、ZAFT軍ザラ隊旗艦ヴェサリウスでは、一人の少年兵が怒りにうち震えていた。
「……ストライクめ。この痛み、……必ず思い知らせてやる」
イザークは右目を覆う包帯に手を当て、その怒りを露にした。
隻眼というハンディキャップすら、彼の怒りの前にはものともしない。
新たに整備されたゲイツ・アサルトソード。シールドビームクローだけではない、対艦刀はストライクの装備を参考にヴェサリウスのチームが完成させた。
接近戦での不利を克服する為に開発されたこの装備をもって、彼は戦いに臨む。
「ザラ隊長、全軍出撃しました。我々も向かいましょう」
「アデス艦長、こちらの準備も整いました。ヴェサリウスは深入りしないでください」
「……健闘を祈る」
「……ツィーグラー、発進!」
アスランの乗るツィーグラーがゆっくりと動き出した。
連合艦隊は一時的にシャノン・オドンネルの指揮に入った。
これはハルバートンが彼女の提案を受け入れ、10分間を彼女の自由に任せたからだ。
しかし、彼も無条件に全てを与えたわけではない。
10分という時間の制約の他に、アークエンジェルの前進を認めなかった。
その代わり自軍の艦艇の指揮権を認めた。
「……来たわね。戦争が機動力のみで決まると思ったら大間違いよ。
戦争の本当の恐ろしさを……見せてあげるわ」
ジェインウェイは作戦室から矢継ぎ早に指示を出した。
連合艦隊にはアークエンジェルを中心にV字型の陣形を採り、艦隊火力ロスを出さない横一列の隊列にした。
そして、アークエンジェル後方にはシャトルアーチャーが待機し全軍の指揮命令の中継をさせる。
上方の空間にはフラガ大尉のメビウスを中心にフライを4機と艦隊のメビウスを全機回した。
下方の空間にはストライクとデュエルを配置。
あえて下層に空いた空間を作ったのは、重力空間への誘い込みを兼ねてのものだ。
「……何だよあの陣形は。あからさまに下へ来いって言ってるだろ」
MS部隊後方から支援砲撃ポイントで待機を始めたディアッカが思わず言った。
実際、誰がどう見ても「下へ来い」と言わんばかりの陣だ。
「……どうします?あれ、乗るかそるかで言えば……乗っちゃだめですが、イザーク行きましたよね」
「はぁ~、……ニコルは上へ行け。オロール達を引っ張ってくれ。俺はあいつの支援をする」
「了解、ディアッカ。あなたはイザーク思いですね」
「へん、笑ってくれ。腐れ縁は腐っても縁だってな」
「……死なないでください」
「お前もな」
ニコルはイージスを変形させ上方のジンの編隊の先頭へ出た。
メビウスからの攻撃が始まる。
一定の防衛ラインが突破されたのを合図とするかの様に、一斉に射撃が始まった。
それらは先頭を走るイージスを集中して狙う。
「そんな弾、いくら出しても意味有りません!」
スキュラを放つ。しかし、瞬時にメビウスはその射線上を避け、執拗にイージスへの攻撃を続けた。
それはまるで攻撃されるのが分かっていたかの様に、彼らの行動はこちらの攻撃の一歩手前で判断している様に感じられた。
「ストライク!!!!」
イザークは目標を認めた。
艦隊下層で陣取るストライクとデュエル。
二機はゲイツが向かってくるのを見て呼応する様に前進する。
丁度艦隊前衛周辺まで来た彼らは、先にデュエルが小型ミサイルを放って牽制する。
だが、イザークはものともせず対艦刀で迫り来るミサイルを切り裂いて突き進む。
それを後方からバスターが支援。
「イチェブさんはバスターを。僕はあのブルーをやります」
「わかった」
イチェブは同意するとすぐにバスターへ向けてバーニアを吹かす。
交代する様にシュベルトゲベールを構えたストライクがイザークへと対峙する。
それを見て舌舐めずりをしゲイツ・アサルトは突進した。
ソード同士が衝突する。金属同士の重い衝突が激しく火花を散らせ、ジリジリと互いを牽制し合う。
「ストライク!この痛み、晴らさせてもらうぞ!」
「……ぐぅ!新装備か」
メビウス・ゼロは敵側の攻撃部隊がまっすぐにこちらへ向かってくるのを認め、全メビウス隊に一斉射撃を命令する。
近接信管のミサイル群は敵MSとの交差面手前で爆発する様にセットされているが、敵側もそれに即座に対応して来ていた。
彼らは先頭のイージスを中心に縦列を組んでいる。
しかも、イージスのスキュラは対艦攻撃に使える程の出力があるため、おいそれとその正面に陣取る事が出来ない厄介な武装だ。
唯一の救いは、こちら側の管制が相手側より「一歩早い」ことだ。
「……こりゃすげーや。先読みしている。
いくら強くっても、当たらなけりゃ意味ないよね」
メビウス部隊はアークエンジェルCICより逐一敵側の攻撃情報が伝えられていた。
そして、その情報にオートで回避運動が出来るシステムが組み込まれていた。
システム管制を担当しているのはセブンだ。
「……空間グリッド51394の722α、スキュラ起動、射線軌道51393の722β修正、回避α1クリア。
艦隊主砲発射角868修正、発砲、敵ジン左腕部損傷、程度D支障無し……」
彼女は黙々と作戦室のジェインウェイのそばで処理していた。
メネラオス艦橋ではハルバートンが目視は勿論、モニター上の情報を見て驚いていた。
彼のこれまでの戦闘経験からすれば、下層のMSが互角に対応していることは納得しても、上部のメビウスでは物の数に入らないと思っていた。
しかしどういうことか、メビウス部隊は艦隊の火力を利用して善戦している。しかも現在まで損害ゼロである。
こんな戦いは一度も見た事が無い。
「……閣下、私は夢を見ているのでしょうか」
側近のホフマン大佐が、艦長席の隣で前方から視線を逸らさず直立不動のまま尋ねる。
「……夢だとすれば、随分良い夢じゃないか。出来れば覚めないで欲しいものだ」
「……全くです。しかし、オドンネル女史は……とんだ怪物ですな。
あ、これはオフレコですよ。彼女に知られたら食われそうだ」
「はっはっは、私もそれを思った。いやはや、我々は今まで一体何を考えていたのだ。
戦争のいろはは情報だ。Nジャマーがなんだ。
彼女は個人のビジネスで解決してみせたではないか。
我々がコーディネイターに劣るという幻想は終わる時が来た様だ」
「……そのようですな」
ハルバートンはしばし考えを巡らすと、彼女に前命令を取り消して暫くの間時間制限無く戦闘させてみる事にした。
アスランはツィーグラーをゆっくりとジンの後方から前進させていた。
艦砲での支援をしつつ全体を俯瞰する。
「……(下層の方は連携をしてくれている。問題は…馬鹿にしてくれる。
雑魚と思っていたメビウスに当てられないだと。よし)
ニコル、君は艦を叩け。ジンは各自散開しメビウスを多方面から攻撃。
突破が無理なら各個撃破だ」
アスランの命令後、ジン部隊が散開し隊列を解いた。
多方面に別れて攻撃を始めたジンに対し、メビウスも散開すると編隊を組んで、各機体をまるで役割分担が決まっているかの様に整然と攻撃し始める。
普段ならば敵ではないはずのメビウスが、機械的な程に精密に飛んでくるのだ。
ジンに乗るZAFTのパイロット達もこのようなメビウスの挙動は見た事が無い。
しかし、コーディネイターはその動きにも対応出来る柔軟さがある。
機体性能はこちらが上ならば冷静に動けば良い。
オロールを中心にジン同士も連携してメビウスを一機ずつ標的を絞り攻撃を始めた。
以前の彼らならばこのような無様な戦いは選択しなかっただろうが、さすがの彼らも学習した。
メビウスが撃墜され始める。
……とはいえ、ようやく損害を互いに出し始めたというのが正しい状況判断だろう。
その動きは作戦室に座るジェインウェイも認めていた。
「押してくるわね。強者は弱者の真似事はしないのかと思っていたけど、それほど愚かじゃないのね。
良いわ。そんなにデートがしたいなら、こちらが行ってあげるまでよ。全軍微速後退!」
艦隊がアークエンジェルを除いてゆっくりと後退を始めた。
それは逆V字を描く様に徐々にアークエンジェルが全面に立つ格好となっていく。
そして、それと同時に全軍の攻撃が後方支援射撃となり、アークエンジェルを中心に壁となった。
敵側の動きを見て、アスランはツィーグラーを全速力で噴かし、出せるだけの攻撃兵器を使って前進する。
MS部隊の攻防は膠着状態を続けていた。
ストライクとゲイツの戦闘は勿論、バスターとデュエルの戦闘も決着がつかない。
特にバスターは対艦刀を持って参戦していた。
本来なら長距離攻撃機であるバスターが接近戦に対応しているのである。
バスターが牽制射撃を放っても、デュエルは小型ミサイルで迎撃し迫る。
それを対艦刀で振り払うの連続である。
戦闘時間もこれまで経験していた時間を大幅に越えている。
手数も多い分さすがにエネルギーの限界の方が近い。
しかし、それは相手も同じはずだと考えていた。
だが、相手側は一向に手を抜く隙を見せない。
「……やばいな」
ディアッカはこのままでは勝てないことは想像出来た。
何より彼は「失ったOS」の効果がここに来て大きい事を悟っていた。
確かにOSのセキュリティは向上したが、それと同時に高度なエネルギー管理も失われたのだ。
彼らのOSはその操作性や堅牢なセキュリティに目が行きがちだが、戦場で最も重要なことは「制約無く戦える」ことである。
とても洗練されたエネルギー管理は、こちら側のOSより単純計算で4割程度は省エネルギーで動作していた。
エネルギー残量をより意識して行動したならば5割以上の省電力性能を実現しているだろう。
この5割という数字はそのまま行動力の差となって表れる。
こちら側が電力消費対策に対艦刀を用意したのに対し、彼らは普段通りの装備どころか、デュエルはより重武装になっている。
これを差と言わず何を差と呼べぶべきだろう。
しかし、アスランは撤退命令を出さず、ニコルもメビウスに振り回されている。
ここで冷静に判断出来るのは自分以外には居ないと思えた。だが、果たしてこのタイミングが正しいのかは判断しかねた。
ゲイツのエネルギーはバスターよりは持つが、イザークは冷静ではない。
しかも、気のせいでなければ、足付きは徐々に高度を下げている。
ほんの僅かずつで誤差の範囲の様に錯覚するが、数値上はゆっくりとだが確実に下げているのだ。
このままだと空間に押しつぶされかねない。
「艦長、敵ローラシア級が突っ込んできます。」
トノムラが焦って報告を入れる。
ラミアスは動じる事無く命令を出す。
「ローエングリン照準!敵、ローラシア級!」
「このままでは撃てても破片は……」
アークエンジェル艦橋では目視でツィーグラーが迫るのが見えていた。
最初は交差する軌道を描くと思われていたツィーグラーが、唐突に衝突軌道へ変更したのだ。
後退しながら射角を取るが、このまま照射に成功したとしても、全てを破壊し尽くす事は出来るかどうか。それは賭けに近かった。
「てぃっ!」
「……ここまでくれば、確実だ」
アスランがコックピットの中で不敵に笑った。
ローエングリンの光がツィーグラーを飲み込む。内部機関を貫通した陽電子砲はそのまま艦を貫いた。
程なくして大爆発が生じるが、爆散しつつも大きな破片がそのままアークエンジェルへの衝突コースを描いた。
その時、作戦室でジェインウェイが叫ぶ。
『フラガ少佐、今よ!リミッター解除!』
「ほい、来た!リミッター解除!」
ゼロのガンバレルのリミッターが解除されリニアガンが収納されると、新たな砲芯が現れ発砲する。
濃い橙色の光線が走り、4基のガンバレルが大型の破片に向けて次々に攻撃する。
するとそれらは粉々に破砕され、なんと跡形も無く消滅したのだ。
「ヒューーー!ビーム兵器ってのは良いねぇ。しっかし、おっそろしい破壊力だぁ。」
『大尉、ナイスタイミングよ』
ツィーグラーは消滅した。文字通り消えてなくなったのだ。
この事に作戦の失敗が濃厚となったZAFTは浮き足立ち、士気が乱れ始めた。
ヴォイジャーの医療室では、例の二人が回復して自由に歩ける程度になった。
まだ医療室を出る事は許されないが、彼らには新しい服が与えられ、普通に経口で食事をとる事が出来るまでに回復した。
「なぁ、ドクター、いい加減にここはどこか教えてくれないか」
「凄く進んでいる施設だってことは僕等にも理解出来ます。でも、連合にもZAFTにも見えない」
二人は回復してからというもの、この謎に興味津々と言った所だった。
ホログラムで形成されたドクターとの対話という状況をみれば、そりゃ興味も沸くというもの。
しかし、彼らにどう説明すべきか正直苦慮しているといったところだ。
「あぁ、まだ君等に説明すべき時期ではないんだ。
だが、君達についての事ならば、ある程度は話す事が許されている」
「僕等のこと?」
ラスティが首を傾げる。実際問題、自分の事は自分が一番分かっていると思っていた。
「俺達のことってどんなことだよ。まぁ、これまで黙りだったんだ。
折角だから教えてもらおうじゃないか」
ミゲルの態度に、ドクターは少々悪戯心をくすぐられた。
「そうか、ちょっと待っていたまえ。ドクターからパリス」
彼が呼びかけると、突如空間のどこからとも無く声がする。
天井を見回すもスピーカーが有る様には見えない。
『なんだい、ドクター』
「例の二人のためにホロデッキの使用をしたいと思うのだが、良いかね」
『……うーん、そういうことなら、俺のプログラムのカントリーを使うと良い』
「了解。通信終了。……さて、コンピューター、3名転送」
「え?」
「な!?」
二人が突然輝き出した自分の体に驚いているのも束の間、3人はコンピューターによって転送された。
ジンがメビウスに押され始めるのを見るに見かね、ディアッカが後退命令をだそうとしたその時、その声は発せられた。
「……全軍、後退だ!」
ゲイツステルスに乗ったアスランが遮蔽を解いて宙域に現れ後退命令を出した。
だが、メビウスは食らいついた様にジンを離さない。
ニコルを支援に回そうにも、彼もゼロとフライの連携に遭い動けそうになかった。
イザークは相変わらずストライクに執心している。
ディアッカの額から汗がこぼれた。
「アスラン!幾ら何でも一方的じゃねぇか!!!」
「そんなことは分かっている。お前も見ただろう!
あんなもの、あれに付いている兵器のレベルじゃない!」
「だけどよぉ!!これじゃ、あんまりじゃねぇか!!!
敵さんは今回は逃がす気ねぇぞ!どうするんだ!」
「逃げ道は俺が作る。ニコルを回すから、お前はイザークを何とかしろ」
アスランがそう言って通信を切った。しかし、彼にだって何ら目算等無い。
ツィーグラーを消滅させたあの光線を見ては、さすがの彼もゾッとしていた。
陽電子砲に破壊光線……次は何が出てくるのだろうか。足付きは不思議のデパートである。
そして、それが連合の新装備として全軍に行き渡った日には、……自分達に明日はあるのだろうか。まるで悪夢だった。
しかしその時、センサー範囲に未確認の機体が確認された。
セブンはその情報を分析するが、こちら側の予想データの標準値から大きく5倍以上の出力で迫っているため、CEの兵器群では対応出来るスピードではなかった。
「社長、通常出力の5倍のゲインを持つ機体が急速に宙域に接近している。
識別は分からないが、技術標準はZAFTのものの様だ」
「新型にしては速度が異常ね。どうなっているの」
「……制限付きのこちらのコンソールからでは難しい」
「分かったわ」
ジェインウェイは耳のコミュニケーターに触れた。
「ジェインウェイからトゥヴォック。
シャトルのコンピューターで見ているかしら。あれは何?」
「シャトルよりトゥヴォック。こちらでも捕捉しています。
確認出来た事は、出力がストライクの5倍はあります。
そして、Nジャマーが不自然な反発を見せているのが確認出来ます」
「反発?」
「はい。機体を中心に同心円範囲に球状の斥力フィールドを発生させた様な印象です」
「それって、まさか…」
艦隊前方ZAFT艦隊より更に深い後方から急速に何かが飛来した。
「フフフフフフ、お待ちどう様かな諸君。……私は帰って来たよ」
白銀に輝く謎の機体は友軍機へ識別信号を送った。
―つづく―