デカルト漂流記 in Cosmic Era 71_6話

Last-modified: 2013-04-18 (木) 19:52:54
 

「いや~、本っ当に、愉快ってのはこのことだな!ハハハハ!」
「…飲み過ぎは体に毒だぞ、ハイネマン」
「んなこたぁねぇよ!ビール1リッター程度、屁でもねぇぜ!」
―3馬鹿をシミュレータから引きずり出してから1時間程後、デカルトとハイネマンは基地内部に店を出している高級料理店にて晩餐を楽しんでいた。
どうやらデカルトがシミュレータをやっている最中にアズラエルが部屋に入って来ていたようで、戦闘が終わるまでの間に晩飯を賭けた賭け事をしていたらしい。
ハイネマンはデカルトに、アズラエルは3馬鹿に賭けていたらしい。お陰でデカルトは『こちら』に来てから最高の食事を楽しむ事が出来た。一方、アズラエルは今も3馬鹿に長々と説教をしているらしい。
「…ところで、さっきのシミュレーションの事なんだが」
「…ンボ?」
料理を平らげていく片手間に、先程から気になっていた事を問う。
「何故『こちら』ではHEAT弾が存在しない?」
「…ングッ…ぷはぁ!…何だ、その事か。お前、PIBD信管は知ってるだろ?即席であんなもの設計するんだから知らねぇってのは無いだろうがさ。」
「弾頭点火弾底起爆信管、だったか。それがどうかしたのか?」
口に入っているものを飲み干して一休みといった風情で食器を置くと、ジェスチャー混じりで説明し始めた。
「要は起爆部に対するハードキルが産まれたんだよ、俺が産まれるずっと前にな」

 

「起爆部に対するハードキル?何だ、それは?」
「PIBD信管っつーのは、弾頭部が目標に接触すると弾底部の起爆薬に繋がる電線に電撃流して起爆させる。これはわかるな?」
PIBD信管はそうした経路を経て装薬を起爆する。装薬を後ろから起爆させねばならず、さらにある程度のスタンドオフを保たねば威力を発揮することが出来ないHEAT弾にとっては欠かすことの出来ない信管である。
「ああ、それはいい。だが、それをどうハードキルするんだ?」
「一種の手品みたいなもんさ。中を通る電線に強力な電磁波を当てて加熱してやるのさ。そして焼き切る。そしたら?」
「敏感起爆薬が誘爆するな。HEATも作動する」
「でも目標は有効範囲外。めでたしめでたし」
つまり、信管の特性を生かして誤作動を起こさせるというわけだ。ちなみにリニアガンを始めとする電磁投射砲の類も、強力な磁場が同様の現象を引き起こし腔発の原因となる為、両者の併用は不可能となっている。
「こいつが世を席巻しちまったせいでHEAT弾が使えなくなっちまったってこった。どうだい?納得頂けたか?」
「…ある程度はな。」

 

「そいつは良かった。だが、Nジャマーのせいでこの技術が使用不能になっちまったからな。これからまたHEAT弾が世に出始めるだろうよ。技術蓄積はゼロからのやり直しになるけどな」
「…理解できた、ありがとう。」
説明を聴き終え、晩餐を再び味わう。
こんな美味を他人のツケで味わえるのだ
、僥倖以外の何物っもない。
―しばらくして、不意にハイネマンがこちらに顔を向ける。
「…あ、技術部から一つお前に連絡あるんだった」
「技術部から?こっちに来たばかりの新人に何の用だ?」
「理事がお前の2つの乗機の件、話通しておいたみたいだ。1つはお前が乗ってたやつ、あれの見聞を3日後にやるから参加して欲しいってさ」
「…ガデラーザのことか。正直拒否したいが…」
「内部のメカニックの事じゃなく装甲の事らしい。あと2つ目、お前の新しい乗機の件だ。GAT-X-102デュエルを工面して貰えるらしい」
「デュエル?宇宙で相手方に強奪された奴か?」
「それの準同型だ。お前にあてがわれたのは、正解には各機能開発用テストベットの1号機。奪われたのは機能拡張試験の為に上げられてた2号機だ。PS装甲が無かったりとかの差違はあるが、基本性能は1号機のほうが安定してる。改造も技術部が対応してくれるそうだぞ?」
どうやら、理事殿はお膳立てはきっちりしてくれるようだ。弄り過ぎて悪影響を及ぼさないか気になっていたが、杞憂で済んだらしい。
「…そうか。了解した」
そう返し、食事に戻る。
大尉就任の祝いとも呼べる晩餐は、もう少し長く掛かりそうだ。

 
 

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