リリカルクロスSEEDAs_第09話

Last-modified: 2007-12-28 (金) 10:34:00

なのはたちはお見舞いのために花束やケーキを買っていくことにした。
キラも何かしたかったが思いつくものがない。
「どうしよう」
「どうしたの?キラ」
フェイトが悩んでいるキラに声を掛けてくる。
「僕も何かはやてちゃんを喜ばせてあげられないかなって思ってさ」
「お見舞いに来てくれるだけで十分嬉しいと思うよ?」
「そうなんだけど・・・・・そうだ!」
「どうしたの?」
キラがポンと手を打つとマンションのほうに向かう。
「キラ?」
「トリィ、連れてくるよ!動物はダメでもトリィは大丈夫だよ」
「「トリィ?」」
アリサとすずかが何のことか分からないといった顔をする。
「うん、分かった。それじゃあ、先に行ってるね」
なのははキラの言葉に頷くと手を振った。
「ねぇ、なのは。トリィって何?」
「それはね~、キラくんが病院着いてからのお楽しみだよ~」
「ビックリすると思うよ」
なのはとフェイトは笑いながらアリサに答えた。

 

キラはトリィを肩に乗せてはやての病室に向かう。
すると病室の前でコートとサングラスをしたシャマルが病室の前で張り付いていた。
『トリィ』
トリィはキラの肩から飛び立つとシャマルの肩に乗る。
「ひぁっ!?」
ビックリしたシャマルが声を上げるが、中には聞こえていないようだ。
「何をしてるんですか?」
「キラ・・・・・君?お、驚かさないでください!」
「あ、その・・・・すいません。トリィ」
トリィはキラに呼ばれるとシャマルの肩からキラの肩へと飛ぶ。
「ちょうど良かった。出来ればお話をしたいんです、いいですか?」
そんなキラにシャマルは迷ったものの頷いた。
キラは少し待ってくださいと言うと病室の中に入っていった。

 

「失礼します」
その声の後、キラが病室の中に入ってくる。
「あ、キラ君や」
「こんにちは、はやてちゃん」
『トリィ』
キラの肩に乗っていたトリィが今度ははやての肩に止まる。
「わわっ、なんや?」
はやてはビックリしながらもトリィを見る。
「うわ~、小鳥さんだ」
「でもこれって機械じゃない?」
「え?でも飛んだよ?」
アリサとすずかも興味津々といった感じにトリィを見ている。
トリィははやての肩に乗ったまま首を動かしたりする。
「かわいいな~、これキラ君のなん?」
「うん、友達が作ってくれたんだ」
「凄いな~、ビックリやわ」
トリィが病室をくるくると飛ぶ。
「うわ~、凄い凄い」
アリサやすずかも嬉しそうだ。
「ちょっと僕、席外すから皆はトリィと遊んでいてね」
「「「「「は~い」」」」」
五人はそう答えるとトリィを手のひらに乗せたりしていた。

 

「すいません、待たせましたか?」
キラは病室から出るとシャマルに謝った。
「いえ、別に・・・・・」
「場所を移しましょう」
キラとシャマルは休憩室のベンチに座ると話を始めた。
「もしアレが完成したらあなたたちは、はやてちゃんはどうなるんですか?」
いきなりキラは聞きたい事を直球で聞くことにした。
「それは・・・・・・」
「僕が知る限りアレは完成すれば、はやてちゃんは・・・・」
「分かっています!それは・・・・。私たちは闇の書の一部です。それは分かっているんです」
「じゃあ、何で!」
キラの声に少し非難の色が窺える。
「私たちははやてちゃんに元気になって欲しいんです!」
「だったら何で他の方法を探さないんですか!」
「はやてちゃんが苦しむのを止める方法が私たちにはコレしかないんです!」
「そうやって決め付けていたら何も見えない何も終わらない!何も始められない!」
シャマルの目に涙が浮かぶ、キラは興奮したのか顔が赤くなっていた。

 

「本当は何が正しいかなんて、僕達にはまだ全然分からない。でも、あきらめちゃったらだめでしょう?」
キラはシャマルの手を取りながら優しく言った。
「きっとはやてちゃんが元気になる方法があるはずです」
「何で・・・・何であなたはそんな難しい選択をするんですか?私たちとあなたは敵でもあるのに・・・・」
その質問にキラは少し考えた後、優しく言った。
「行きたいところに行くために」
「え?」
キラの言葉が理解できないのかシャマルは聞き返してしまう。
「みんな同じなんです。選ぶ道を間違えたら、行きたいところへは行けないんだ」
キラの言葉にシャマルは顔を俯かせてしまう。
しかし、シャマルはそれでも・・・と言葉を続けた。
「でも・・・・それでも私たちは闇の書を完成させます」
「分かりました」
シャマルの言葉にキラも頷いた。これ以上話しても彼女たちの心は変わらないだろう。
しかし、闇の書は悪意を持った者より改変されてしまった、闇の書が完成すればはやてが危なくなるだろう。
「それなら・・・・・」
「え?」
「僕はあの書からはやてちゃんを救ってみせる、そしてあなたたちも」
そんなキラの言葉にシャマルはキラの目を見た、その目の奥には強い意思があった。
シャマルはこの前シグナムが言った言葉を思い出していた。
この子なら・・・・・もしかしたら・・・・と。
「もう誰かを失うことも、失って誰かが悲しむ姿も見たくないですから」
キラはにっこりとシャマルに笑いかけていた。

 

キラはその日から毎日はやてのお見舞いに行くことにした。
自分も最初この世界に来たとき病院に入院していたから分かるのだ。やはり病室に一人でいることはとても寂しいのだ。
「はやてちゃん、また来たよ」
「あ、キラ君」
ドアを開けたときはやてが胸を掴んで苦しそうにしていたのをキラは見ていた。
今は笑顔でキラを出迎えているが多分苦しいのだろう。
「キラ君、毎日来るけど他にやることとかあるんやないの?」
「特にはないかな」
キラはそれを見ていなかったかのように振舞うことにした。
「えぇ~、キラ君かっこええからお誘い受けとるんやないの~」
「そ、そんなことないよ」
はやては楽しそうにキラと喋っている。シグナムたちとはこの頃会っていない、多分蒐集に集中しているのだろう。
シャマルとは時々会うし、話をするようになった。もうこの前のような会話ではなく世間話などをだ。
「なぁ、キラ君」
「どうしたの、はやてちゃん」
「こんなことシグナムたちに話せんのやけど・・・・・話していい?」
「うん、もちろん」
キラははやての不安そうな顔を見て迷わず答えた。
「実はな・・・・・私、怖いねん。時々、胸が苦しゅうなってとても辛いんや、それが・・・・どうしようもなく怖いねん」
はやては胸の辺りを掴み、泣きそうに言った。どうやらはやての心も段々弱ってきているようだ。
「大丈夫だよ、はやてちゃん。だから負けないで、そして逃げないで」
キラははやての手を取って笑ってあげるしか今は出来ない。
「うん、そうやね。負けたらあかんよね、逃げたらあかんよね」
キラの言葉にはやては頷きながら答える。
「キラ君の手、あったかいな」
「はやてちゃんもだよ」
キラははやての手の温もりを感じながら思う。この小さな温もりを絶対に守ってみせると。
「スー、スー」
いつの間にかはやては安心して眠ってしまったようだ。
もしかしたら夜も眠れないくらい苦しい時もあったのだろう。今はとても安らかに眠っている。
「おやすみ、はやてちゃん」
キラがそう言って手を離そうとするが、はやての手が離れなかった。
「・・・・・・・」
寝ているはやてを起こすわけにもいかず、キラは途方に暮れた。
まるでバインドをかけられたようなくらいとても強く握られていたのだ。
その後、お見舞いに来たシャマルにその光景を見られて微笑まれると助けもせずにニコニコとそれを見つめ出ていった。
次に来たシグナムもフッと唇の端を持ち上げ優しそうに寝ているはやての頭を撫でるとこれまた助けずに出ていった。
最後に来たヴィータにははやてが目を覚ますまで延々と睨まれ続けたのだった。
そして、キラが帰ることになったのは看護婦が夕食が来てはやてが起こされた時だった。
その時のはやては物凄く顔を真っ赤にしていた。

 

「それじゃあ、キラくん。よろしくね」
「あ、うん」
クリスマス・イブの日。
今日もなのはたちははやてのお見舞いに行くために準備していた。
なのはたちはプレゼントを買いに、キラは翠屋のケーキを買いに行くのだ。
「お店混んでると思うんだ」
「それだったら僕は遅れていくよ、皆は先に行っていてね」
キラは内心不安でいた。
今まで鉢合わせすることがなかったのはちゃんと連絡を入れていたからだ。
今回は連絡せずに突然行って驚かせようという計画だ。
確かにそのほうがインパクトもあり、嬉しいからキラとしては文句が言えないのだ。
しかし、抗議でもすれば怪しまれてしまうだろう。
「鉢合わせしなければいいけど・・・・」
そう考えながらキラは翠屋に向かった。

 

「はい、キラ君。落とさないようにね」
「ありがとうございます」
キラは桃子からケーキを受け取りながら言った。
店を出ると辺りが暗くなっている、ケーキの焼き上がりを待っていたらこんな時間になってしまったのだ。
「早く行かないと・・・・っと、その前になのはちゃんたちに連絡しよう」
携帯でも良かったが、念話を使うことにした。しかし、繋がらない。
「・・・・・・おかしいな」
キラの念話に反応をしないのではなく念話自体が繋がらないのだ。
「・・・・・・妨害されてる?」
そう感じた瞬間キラの中の何かが訴えていた。
嫌な予感がする、それもとてつもなく嫌な予感が・・・・・。
キラは病院に向かい走り出す、走るのでは遅いと思いキラは路地裏に入る。
誰もいないことを確認し、病院に転移しようと思ったが転移できない。
「な!?転移まで妨害されてる?」
キラの不安は増すばかりだ。
「仕方ない・・・・・フリーダム!」
『System all green. Drive ignition.』
キラは蒼い光に包まれ、光が晴れると蒼い翼を開き空に飛び立っていった。
一度、キラはマンションに戻りコツコツと貯めていたカートリッジを全部持ち出す。
それくらいの嫌な予感だった。
ついでにケーキも冷蔵庫にしまうとすぐにベランダから飛び立った。
「なのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん・・・・・無事でいて」
『Load Cartridge. High MAT mode. Set up.』
キラは翼から蒼い魔力が噴出し、スピードを上げた。

 

「なのはちゃん!フェイトちゃん!」
クリスタルケージの中で四重のバインドに捕まっているなのはとフェイトを見つけた。
キラはすぐにサーベルでケージとバインドを斬りさる。
「はやてちゃんが!」
「え?」
なのはが見ている方向を見るとそこにはなのはとフェイト、ヴィータとザフィーラそしてはやての姿だった。
「何が・・・・どうなってるの?」
「仮面の男は二人いたの!私たちは隙を付かれて捕まっちゃって」
「あの男たちが私たちに変身してる」
変身した仮面の男たちがはやての目の前でヴィータに手をかけようとしている。
「だめ・・・・やめて・・・・やめてーーーー!!」
はやての悲鳴も虚しく響いていた。
「やめろーーー!!」
キラはすぐにそちらに向かおうとしたが次の瞬間、白い光に包まれヴィータが消えた。
「うあ゙ぁぁっ」
はやてが苦しそうに呻く。
「はやてちゃん!はやてちゃん!」
キラはすぐにはやての正面に下りると両肩を揺する。
するとはやての下に白い光の魔方陣が現れる。
「はやて・・・・ちゃん?」
キラの声ははやてには届いていなかった。
『Guten Morgen, Meister.』
「!?・・・・・・夜天の書!?」
その瞬間、白の魔方陣が怪しく黒く色に染まっていく。
「はやてちゃん、ダメだ!」
「はやてちゃん!」
「はやて!」
「うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
はやての絶叫が響き渡り、闇の書の魔力が溢れ出す。
「くっ!?」
キラは堪らずシールドで防御し、後ずさる。
そして、その黒い魔力の中心ではやてが浮かび上がる。

 

「我は闇の書の主なり、この手に・・・・力を」
はやての手に闇の書が現れる。
「封印、解放」
『Freilassung.』
解放された魔力によりはやての姿が変わる。
体が大人の大きさになり、髪が伸び白く染まる。服装もバリアジャケットのようなものになる。
キラ、なのは、フェイトはその光景を唖然と見つめるしかなかった。
「また・・・・全てが終わってしまった。一体幾度こんな悲しみを繰り返せば」
「はやてちゃん!」
「はやて」
なのはとフェイトがはやての名を呼ぶ。
「はやて・・・ちゃん」
はやてが、闇の書が泣いている。キラは一歩ずつはやて・・・・闇の書に近づいていく。
「我は闇の書、我が力全ては・・・・・」
闇の書は手を高々と挙げるとそこに魔力が集まっていく。
『Diabolic emission.』
巨大な魔力の塊が出来上がる。
「主の願いを・・・・・そのままに」
闇の書の目からは絶え間なく涙が溢れていた。