リリカルクロスSEEDW_第07話

Last-modified: 2008-03-17 (月) 09:31:38

「ねぇ、これって・・・・・」
「うん、あの時と一緒」
アリサとすずかは塾が終わり、帰宅しようと出てきた時だった。周りの人間が1人もいなくなっていたのだ。
これは2年前にも同じ経験があった。結界というものらしい。
アリサとすずかはこの周りが危険なことを察知する。
「ともかく、なのはたちを探そう。多分いるはずだし!」
「う、うん」
アリサはすずかの手を引くと走り出した。すると、向こうの建物の角から誰かが現れた。
「よかった、人がいた」
そう思って、そちらに向かおうとしたがその人物を見て驚いた。全身甲冑で身を包んでいるのだ。
向こうがこちらに気付き、向かってきていた。2
人は走り出して逃げようとしたがいつの間にか回り込まれて捕まってしまう。
「嫌っ、放して!」
アリサはじたばたと暴れるが甲冑、リヴァイヴァーは気にせず喋りかけてきた。
「巻き込まれたのか?」
「「え?」」
甲冑の声は兜で男か女か判断が出来なかったが、こちらを心配している声音だった。
「おい、何をしてる?」
別の方向から男の声が聞こえてきた。そこには目つきが悪い男が立っていた。
2人の直感がこの人物は危険だと言っていた。
アッシュはリヴァイヴァーが抑えているアリサとすずかを見て顔をしかめる。
「何だ?このガキどもは」
「一般人だ。どうやら巻き込まれたらしい」
「殺していいか?」
アッシュは先ほどまでの顔が嘘のように楽しそうにアリサたちを見つめる。
アリサとすずかはその視線に足がすくんでしまう。しかし、その視線をリヴァイヴァーが塞いでいた。
「やめておけ、魔導に関係のないものだ」
「知らねぇな、俺は人を殺したいだけだ。魔導がどうとか関係ないんだよ」
「・・・・・・・」
その言葉にリヴァイヴァーはハルバードをアッシュへと向ける。
するとアッシュはニヤリと笑うと腰のハンドガンを取り出した。

 

「君たちは下がっていて、ここは危ない。管理局の局員が来たら逃がしてもらうといい」
その言葉にアリサは口を挟んだ。
「あんた、なのはやキラたちを知ってるの?」
その言葉にリヴァイヴァーは驚いたように振り返ってアリサを見る。
対照的にアッシュはその言葉を聞きますます愉快そうに笑う。
「どうやら魔導に関係あるみたいだな。これでお前が庇う必要もなくなったわけだ」
「・・・・・・・・」
「どけ、お前じゃ殺せないだろう?俺がやってやるよ、優しいだろう?」
アッシュの殺気に当てられ2人は動くことも呼吸することも出来なくなっていた。
ただ純粋な恐怖というものを2人は初めて知った。
逃げたくても逃げられなかった。
「さようならだ、ガキども。キラ・ヤマトと知り合ったことを恨むんだな」
そう言ってアッシュはハンドガンをアリサたちに向ける。
((助けて!!))
アリサとすずかは目を瞑り、心の中で強く叫んだ時だった。
大きな赤い魔力の一閃がアッシュを飲み込み、黄色の魔力の一閃がリヴァイヴァーを同じように飲み込んでいった。
2人は咄嗟に防御魔法を展開したため、直撃は受けないものの吹き飛ばされていた。
アリサたちが異変に気付き、目を開けたとき2人の前に蒼い翼を大きく広げた青年がいた。
「無事で良かった」
「キ・・・・ラ・・・?」
「うん、もう大丈夫だよ」
キラがそう言った瞬間、2人は気を失ってしまっていた。
あれだけの殺気を受けたのだ、精神的に大きな負担だったのだろう。
緊張の糸が切れたようだ。それをキラは優しく支えた。
「アリサちゃん!すずかちゃん!」
後ろからなのはとはやてが駆けてきた。結界に気付いた2人がすぐに応援に来たのだろう。
なのははアリサにはやてはすずかをキラから受け取り、支えた。
「なのはちゃん、はやてちゃん。2人をお願い、僕があの人たちを引き付けるから」
「そんな、私も戦うよ!」
「私も戦える!」
2人の申し出にキラは首を横に振って断った。
「なのはちゃんはまだ怪我は完治してないし、はやてちゃんも今のデバイスには不安要素がある」
2人は確かに強いが本調子じゃない状態で戦うことは危険すぎる。
それに今回の相手はキラたちと互角に渡り合う相手、命の保証がない。
「それに・・・・」とキラは言葉を続け気絶しているアリサたちを見る。
「アリサちゃんたちをこのままにしておくわけにもいかない。
 あのアッシュっていう男は2人を狙う可能性もある」
なのはもはやても万全の状態ではない。
そして気に掛けながら戦わないといけないという条件では勝てる見込みすらない。
一番、万全の状態で戦える自分が残ってなのはたちが逃げる時間稼ぎをすればいいのだ。
なのはとはやては最後まで渋っていたが、頷いてくれた。

 

「作戦は決まったか?」
「・・・・・・・・」
上空からアッシュはキラたちを見下ろしながら面白そうに笑っていた。
リヴァイヴァーは無言のままキラたちを見つめている。
キラは目を閉じ、深呼吸をするとゆっくりと目を開ける。
その瞬間、キラの中でSEEDが弾けた。
しかし、キラは頭がズキリと痛んだ。だが、今は自分が戦わなければいけないのだ。
「・・・・・・来い、2人とも相手にしてあげるよ」
痛む頭を表情には出さず、冷静にキラは2人に言い放った。
そして、蒼い光、血の色の光、青紫の光が空でぶつかり合った。

 

「痛っ!」
「なのはちゃん!」
なのはとはやてはデバイスを起動させ、飛びながら2人を担いでキラたちから離れていた。
しかし、なのははまだ傷が癒えていないため飛んでいる時に傷が痛み出したのだろう。
はやてのデバイスもまだまだ試作段階のためいつまで保つかという問題だった。
2人とも思うようにスピードが出せなかった。
もし、このまま戦っていたらどうなったかと思うとゾッとする。
「私たち・・・・・・キラくんの役に立ってるのかな」
なのはが悲しそうにはやてに聞いてきた。はやてもそのことを悩んでいた。
キラは強い、しかし弱い部分がある。それがなのはたちだ、キラはそれを守るために自分を犠牲にする。
それは自分たちがキラにとって同じ位置で戦っていないのではないだろうか?という疑問がなのはとはやてに渦巻いた。
「分からへん、でも私はキラ君を守りたい。私やリインたちを守ってくれたように」
「うん、私も同じだよ」
そのためには今は自分たちがやれることをするだけしかなかった。キラが戦いやすいようにと。

 

キラは絶対になのはたちが行った方向にアッシュたちを向かわせなかった。
アッシュはイライラし始めていた。
逃げたなのはたちを追おうとしてもキラがすぐに邪魔をしていき、距離を離されていった。
2人掛かりでもキラを倒すまでには至っていない。そのこともアッシュをイライラさせる原因でもあった。
「くそっ!何で落ちない!」
「落ちるわけにはいかないからだ!フリーダム!」
『Load Cartridge.』
フリーダムからカートリッジが1発消費される。頭の痛みは未だ続くが関係ない。
『Baraeina.Target lock.』
「当た・・・・っ!?」
キラはすぐに危険を感じ取り、砲撃をやめて遠距離からの魔力弾をギリギリで避けていた。
そちらを見るまでもなくキラはその相手がクルーゼだということを感じ取っていた。
3対1。キラは圧倒的不利な状況に追い込まれることとなった。

 

「なのは!はやて!」
フェイトを先頭にリインフォースたち、アルフ、ユーノたちがなのはたちの元へ飛んできた。
アルフがアリサをシャマルがすずかを受け取る。
なのはとはやてはやっと安心できたのか腰を下ろしてしまうが全員に叫んだ。
「キラくんを・・・・お願い!」
「わたしらを逃がすために1人で戦っとる」
『皆、急いで!クルーゼまで来てる、このままじゃキラ君が!』
その言葉に全員が飛び出していった。
シャマルとザフィーラはなのはたちの護衛のため残り、後はキラの下へと急いだ。

 

「ぐぁ!?」
また喰らってしまう。どうにかシールドで防げているが衝撃のダメージが残ってしまう。
先ほどまでは避けられた攻撃が避けられなくなっていた。
頭痛もひどくなる一方だ。
『Plasma Smasher.』
リヴァイヴァーの右手から放たれた雷がキラを狙う。
リヴァイヴァーは非殺傷設定で攻撃にも迷いが感じられる。
(避けられる)
キラはそう判断しようとするが、後ろからのプレッシャーに動きを止めてしまう。
「ぐぅっ!?」
逃げようとする場所にドラグーンの攻撃により逃げ道を塞がれ、そのままキラに雷が命中する。
バリアジャケットはもうボロボロだ。
キラの動きが止まり、それを次は大きなクロー・トリケロス改がキラを地面へと叩き落した。
「かっ・・・・・は・・・・」
キラは血を吐き出してしまう。
その様子をアッシュは楽しそうに見下ろしている。するとクルーゼがリヴァイヴァーに喋りかけた。
「トドメは君がするといい」
その言葉にリヴァイヴァーの兜の奥からも驚きの様子が見て取れた。
「取り戻したいものがあるのなら君はそれ相応の事をしなければファントムには認められない」
「それはいい、お前の甘さが俺は気に食わなかったところだ。さぁ、殺してしまえ」
クルーゼの言葉にアッシュも楽しそうにリヴァイヴァーを煽った。
「・・・・・・・」
『Ax Form.』
カートリッジが消費され、ハルバードは巨大な斧を作り出す。そして、それをゆっくりと持ち上げる。
その様子をキラはぼんやりとしか見れなかった。そして、小さく呟いた。
「ごめんね、皆・・・・」

 

『Haken Saber.』
『Blutiger Dolch.』
『Schwalbefliegen.』
『Sturmwellen.』
4つの光がアッシュ、クルーゼ、リヴァイヴァーを襲う。3人は分散してその攻撃をどうにか避けた。
「キラ!」
フェイトたちがキラの下に駆け寄る。キラは頭や口から血を流しながらもフェイトたちを見る。その傷は痛々しかった。
「はぁ・・・はぁ・・・なのは・・・ちゃん・・・たちは?」
こんな時でも自分のことよりも仲間のことを気にすることにフェイトはさすがにキレた。
「いい加減にして!私たちのために1人で守ろうとしないで!背負わないで!
 キラが皆が傷つくことが嫌なように私たちも・・・キラが・・・傷つくのは・・・嫌なんだよ」
途中からフェイトの声が途切れ途切れになる。目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
「キラ、私たちは弱いか?」
リインフォースの言葉にキラはゆっくりと首を横に振った。
「ならば私たちにもお前を守らせろ」
「そうだぜ、あたしたちにも守りたいものってのがあるんだからな」
シグナムとヴィータはレヴァンティンとグラーフアイゼンを構える。
キラはやっと気が付いたずっと自分1人でどうにかしようとしていたことをそれはフェイトたちを仲間と認めていないということになることを。
守るという想いが強すぎて周りが見えなかったのかもしれない。
キラの目からも涙が溢れてくる。
「ごめん、皆・・・・僕は・・・・」
「何言ってるんだ、仲間だろ?」
「うん・・・・ごめんね・・・・」
キラは泣きながらも頷いた。自分が今まで信用してなかったことに申し訳ない気持ちとそんな自分を守ってくれる温かさが嬉しかった。
「ユーノはキラの回復をアルフはその護衛をお願い、ヴィータとシグナムはクルーゼをリインフォースはアッシュ、私はリヴァイヴァーを」
その言葉に全員が頷いた。
「リインさんは大丈夫なんですか?」
キラはアッシュの相手をするリインフォースに話しかけた。彼女もプログラムであるのは間違いないはずなのだ。
その質問にリインフォースは優しく答えた。
「大丈夫だ、私はヴィータたちの元となるプログラムだぞ?ウイルス程度には負けないさ」
「そんじゃ、キラをこんなにした罰を受けてもらわねぇとな」
全員が頷き、それぞれのデバイスを構えて3人に向かい合う。
そして、多くの魔力の光が3方向へ飛び去っていった。
「妙なる響き、光となれ、癒しの円のその内に、鋼の守りを与えたまえ」
ユーノはラウンドガーダー・エクステンドを使い、キラの周りを緑の結界が包み込み、回復の光がキラを癒していく。
「全く、キラは怪我してばっかりだね」
アルフがキラに呆れたように話しかける。しかし、その言葉の中には優しさがあった。
「ごめん」
「少し寝ているといいよ。僕たちが責任を持ってキラを守るから」
「でも、結界が・・・・・・」
キラが寝てしまうとキラが張った結界が解けてしまう。
「大丈夫、もう局員たちによって強装結界がキラの結界の上に張られてるから」
「心配しないで眠りな」
アルフの言葉にキラは頷くことにした。どうやら疲れが溜まっていたようでキラはすぐに安らかな寝息を立て始めた。

 

「愚かなもの達だ、我の言葉を聞かず抵抗を続けるとは」
強装結界を遠くから見つめる黒いフードを被った男・ファントムがいた。
「魔法はそのまま進化を続ければやがて全てを滅ぼす。ならばそれを失くすしかない」
ファントムは右手をかざすと漆黒の魔力が集まっていく。狙いは結界を張っている魔導師たちだ。
「闇に消えよ、悪しき魔の力を持つものよ」
漆黒の魔力が分かれて、光の帯を作って局員たちに命中する。全員が一撃で殺されてしまう。
そして、結界が消えた。