リリカルクロスSEEDW_第06話

Last-modified: 2008-03-17 (月) 09:25:49

通信が終わり、キラたちが戦い始めようとしたその時だった。
『『Caution!』』
フリーダムとバルディッシュから警告が発せられる。
空を暗雲が覆って、辺りが暗くなる。
「次元魔法?キラ!!」
「うん!」
その瞬間、この街にいくつもの黒い魔力の雷が落ちてくる。
キラとフェイトはスピードと反射神経を頼りに全てを避ける。狙われて撃たれているわけではないため避けるのが難しい。
「こんな次元魔法をしかも無差別でやるなんて!」
建物が崩れていくのを見ながらキラは唇を噛む。しかし、今は避ける他ない。
そして、雷が止むとそこにアッシュ・グレイの姿はなかった。
同様にはやてたちやシグナムたちも逃げられたようだった。

 

アースラに全員が帰還するとなのはが待っていた。
「みんな、大丈夫?」
転送装置前でずっと待っていたようだ。転送されるとすぐに飛び出してきたのだ。それだけ心配だったのだろう。
キラたちはなのはに笑いかけながら、全員が無事だということを伝える。キラは少し負傷していたが気にするほどでもなかった。
『皆さん、お疲れ様。早速で悪いんだけど会議室に集合して。あの人たちの主の声明が先ほどあったの』
それを聞いてキラたちはすぐに会議室へと向かった。
一体何のためにこんなことをしたのかを知りたかった。それは戦った自分たちが一番に思っていることだった。
会議室に着き、全員が椅子に座ると目の前のモニターにフードを被り顔が見えない人物が映し出された。
『我が名はファントム。忘れられし都アルハザードの魔導師である』
「え?」
その言葉にプレシア事件に関わった全員が絶句する。アルハザードは実在したということなのだ。
しかし、そのアルハザードの魔導師がなぜこんなことをしたのかの理由は分からない。
『我がアルハザードは魔導を極め発展していった。
 しかし、発展しすぎたものはやがて破滅へと繋がっていく。
 我が住んでいた都市も魔導が発展したものにより滅んでしまった。
 我は悟った、魔導により世界が崩壊することを。
 故に我は魔導を駆逐しなければならぬ。
 我らが故郷と同じ道を辿らせぬ為に』

 

「馬鹿な!」
クロノが声を荒げた。
「確かに魔導は危ないものだけど。使い方を間違わなければ人を助けられるものだもん」
なのははファントムの考えを否定する、ここにいるほとんどは同意見だろう。
ただ一人キラはその言葉に頷かず、自分の世界のことを思い出していた。
技術革新による遺伝子操作、コーディネーターの誕生、そしてコーディネーターとナチュラルの戦い。
核やジェネシスなどを使ってまでの悲惨な戦争。
どうしてあんなところまで行ってしまったのか考えることもあった。
『我は魔導のない世界を・・・・・・』
未だに声明が流れているがキラの耳には入ってこなかった。
このファントムという人物も自分と同じ経験をしてこういう答えに至ったのだろう。
しかし・・・・・・。
「間違ってる」
キラはそう小さく呟いた。
アルハザードはそういう終わりを迎えてしまっただろうが、この世界はまだ間違っていない、終わっていない。
それを止める術を見つけ出せるはずだ。
キラは目の前のモニターを見る、そこには未だにフードの男が喋っている。
「止めなくちゃ・・・・・・僕は彼の言いたいことが少し分かるから」
そう呟き、キラは決心を固めた。
「だけど、実際に魔導の駆逐なんて無理じゃんか」
ヴィータの答えは至極当然だった。
いくら駆逐するといっても範囲が広すぎる。いくら傀儡兵を多く持っていようといくら強いだろうと無理なのだ。
それに管理局がいる。そう言った犯罪者たちを捕まえるために自分たちがいるのだ。
すると、モニターに映る場面が切り替わりラウ・ル・クルーゼが現れた。
『君たちは魔導を駆逐は無理だと考えている。しかし、そんなこと簡単なのだよ。
 私たち魔導師が今の行為を続ければ、さてどうなる?』
なのはたちは全員がその答えを考えるが、答えと質問が繋がらないように感じた。
しかし、キラはそこでハッとするとテーブルを両手で強く叩き立ち上がる。
「あなたは!僕の世界と同じようなことをさせる気なのか!」
キラはクルーゼを睨むが、これはただの映像。答える通りはなかった。
「どういうこと?」
キラになのはが質問をする、キラがそれに答えようか迷っている間にクルーゼは語り出していた。
それはキラが良く知っている物語だった。

 

『ある世界に人工的に優秀な人間を作れる国があった。その人間は普通の人間よりも強く賢く容姿さえも勝ることが出来た』
その言葉になのはたちはハッとなり、キラを見つめる。
この違いによって社会競争上不利を強いられかねないナチュラルはコーディネーターを脅威視せざるを得なかった。
『普通の人間たちはそれを化け物だと言い、攻撃を加え始めた。作られた優秀な人間は自分たちを守るために戦った』
ここまで来るとほとんどのメンバーがファントムたちの狙いに気付いた。
『しかし、いつしか普通の人間を恨み両者の溝は大きくなり戦いは激化していった』
血のバレンタイン、ガンダム、核、ジェネシス、ヤキン・ドゥーエ戦役。
お互いの溝によって作られてきた悲しい歴史の産物をキラは思い出していた。
そして、キラはクルーゼが喋る中、辛そうに話を始める。
「一般人にとって僕たち魔導師はただの人間じゃない。ふとしたきっかけで自分たちに危害を加える凶器になる。
 しかも、一般人にとってはそれに対抗する手段がない。犯罪をする魔導師がいてもそれを倒す魔導師がいる。
 そうやって魔導師が一般人にとって危険じゃないと認識させないといけない。それが管理局が存在する理由のひとつかもしれない。
 もし魔導師が危険なものだ、と判断されてしまったら・・・・・・・」
その後の言葉は全員容易に考え付いた。魔導師に対して暴動が起こり、最悪の場合は戦争となってしまうだろう。
「僕の世界と同じようなことを・・・・・・この人たちはしようとしている。あの悲しみをもう一度起こそうといている」
キラは握り拳を作り、クルーゼを睨んだ。
「そんな事、絶対させない!」
なのはが力強く叫んだ。フェイトたちも強く頷いていた。

 

会議が終わり、時間が遅かったため全員アースラに泊まることとなった。
全員、止めると決意したもののキラの言葉が胸に強く残り暗くなっていた。
しかし、最も暗かったのはキラ自身だった。自分はただの人間だと言っても周りから見られれば魔導師であり、コーディネーターである。
しかも、キラはそのコーディネーターの最高傑作スーパーコーディネーターなのだ。
自分の首を絞めるようなことを喋っていたのだ、仕方ないのかもしれない。
そして、自分の世界と同じようなことが起こってしまうかもしれないという不安もあるかもしれない。
「キラくん、大丈夫かな?」
今、キラは部屋に篭ってしまっていた。中の様子は分からない。
「大丈夫や、なのはちゃん。キラ君がこんなことで負けるはずないやん」
心配するなのはをはやてが笑って励ました。
「そうだよ、なのは。キラを信じよう」
フェイトもはやての意見に賛同した。2人とも心配なのは当たり前なのだが、それ以上にキラを信頼しているのだ。
「うん!そうだよね、キラくん信じてあげないとね」
なのはは笑って2人に答えていた。
3人の知っているキラはとても強くどんなことにも負けない心を持っているのだ。
なのはたちはキラを信じていた。

 

「僕は・・・・・・ただの人間だよね」
キラは誰もいない部屋でベッドに仰向けになりながら呟いた。答えてくれる人はいない。
さっきの言葉が自分に重くのしかかってきていた。
コーディネーターとして色々な目で見られた。一番最初に会ったときのマリューたちの顔、アルテミスでの要塞司令官ガルシアの言葉。
親友や同じコーディネーターたちとの戦い、プレシア事件での魔導師としての自分、戦争を止めるためフリーダムに乗り戦った自分。
その強さは周りから見れば、ナチュラルやコーディネーター以上であり化け物だ。
そう考えてしまいそうになるのを必死に首を振って否定する。
「僕は・・・・・・」
キラが弱気になりかけた時だった、扉の向こうから声が微かに聞こえてきていた。
「キラくん、大丈夫かな?」
「大丈夫や、なのはちゃん。キラ君がこんなことで負けるはずないやん」
「そうだよ、なのは。キラを信じよう」
「うん!そうだよね、キラくん信じてあげないとね」
なのはたちの会話だった。
それを聞いた時、キラは今の自分を恥じた。
「何を心配させてるんだ、僕は」
自分はただの人間だ、なのはちゃんたちと一緒なんだ。それでいいじゃないか。
力があってもそれをうまく使えばいい、守るために使いこなせばいい。強い想いと心を持っていれば大丈夫なのだ。
そう思うとキラはベッドから起き上がるとドアを開けた。
そこにはいつも自分を心配してくれる人たちの笑顔があった。

 

「今回の首謀者ファントム、そしてラウ・ル・クルーゼ、アッシュ・グレイ、リヴァイヴァーを捕まえる任務をアースラが担当することになりました」
クルーゼやアッシュ、リヴァイヴァーとの戦闘経験があり、魔導師レベルも高いメンバーがいるのが大きい要因だ。
専用の特殊部隊を作るよりも連携が最初からうまく出来た方がいいという判断でもある。
もしかするとキラのことを考えてリンディが根回しをしたのかもしれないが。
「現在、頻発的にテロ行為が行われ、人員は避けない状態です。応援がくるというのは難しい状況でしょう」
各管理世界に魔導師たちが派遣され、傀儡兵の対処に向かっているのだ。
しかし、一般人にとっては不安が続いているらしい。一部では管理局に抗議する団体も現れた。
「私たちはファントムたちが現れるまでは実質は待機です。力を温存さておかないといけません」
キラたちは対ファントムやクルーゼたち専用の部隊となっているようだ。
「ですから、あなたたちはその戦いだけを気にしていてください。他の世界のことはなるべく考えないで」
「相手は傀儡兵だけの場合魔導師がいればどうにかなるから君たちは心配しなくていい」
クロノがリンディの後を引き継いだ。
「ともかくキラさんたちは自分の世界でいつも通り過ごしてね。動きがあったら連絡をしますから」
その言葉にキラたちは頷いた。そして、自分たちが一番重要なことをまかされたのだという気持ちになった。

 

各管理世界では傀儡兵によるテロ行為が続いているが、クルーゼたちが出てくることはなかった。
そんな状態が3日も続いた日だった。
キラたちは学校に通い、いつも通りの生活を送っていた。
「それじゃあ、あたしたちは塾に行ってくるね」
「うん。アリサちゃん、すずかちゃんもまたね」
「今日はフェイトちゃんとシグナムさんたちが任務なんだっけ?」
「うん、だからメールとかの返信はできないかも」
アリサとすずかはキラたちが今任務中だということを知っていた。しかし、任務内容までは教えてはいない。
フェイトは申し訳なさそうにアリサとすずかに答える。
「キラたちは残るんだっけ?」
「うん、なのはちゃんもはやてちゃんも本気で戦えないから。僕はちょっと体がだるいから待機にさせてもらってるんだ」
キラはそのことが少し疑問だった。あの戦いから疲れが取れにくくなっていた。
そのことを話すとキラが働きすぎだという意見が出たため今日は待機となった。
キラたちはアリサたちと別れると家に戻っていった。

 

「それじゃあ、キラ行ってくるね」
「うん、フェイトちゃんも気をつけて。何かあったら直ぐ行くから」
「大丈夫だよ、キラあの戦いから学校終わったらすぐにアースラで待機してたから疲れがあるはずだよ?ゆっくり休んで」
フェイトは心配そうなキラに笑ってみせた。本当はフェイトやなのはたちはキラのことが心配だった。
キラは自分の身を削ってでも自分たちを助けようとする。それが全員心配だった。
何かを守るときのキラはとても強いが、逆に守るものを心配するあまり自分を犠牲にしかねないのだ。
「・・・・・分かった。でも、本当に何かあったら呼んでね?」
しかし、この性格を直させるのは至難の業ではないかとフェイトは思ってしまっていた。

 

フェイトたちがアースラで巡航任務に出て2時間位した頃だろうか。キラのマンションにアラートが鳴り始めた。
「敵!?」
キラはすぐにモニター室に行き、状況を確認する。
「場所は・・・・この世界?しかも、海鳴市ってここじゃないか!」
敵はアッシュ・グレイ、リヴァイヴァーのようだ。クルーゼがいない。
「何でこんな管理外世界を?魔法と深く関わってないじゃないか」
アースラは管理世界を巡航中のはずだ。ここの到着にはかなりの時間が必要だった。
キラはすぐにデバイスとカートリッジ、マガジンを取り出す。
「フリーダム、セットアップ!」
『System all green. Drive ignition.』
「場所は近いな、何かされる前に結界を張らないと」
キラの足元に魔方陣が広がっていく。キラはアルフやユーノからサポートの魔法も習っていた。
サポート出来るのが大いに越したことはないが、キラ自身は皆を巻き込まないためにも一人で戦おうとも考えていた、という理由もある。
「封時結界!」
その瞬間、蒼白い光が周りを包んでいった。