リリカルクロスSEEDW_第09話

Last-modified: 2008-03-17 (月) 09:45:23

「・・・・・・はやてちゃん」
「うん」
今まで大人しくしていたなのはとはやてはお互いの顔を見ると頷いた。
そして、お互いがデバイスを取り出す。
「はやてちゃん、なのはちゃん!ダメですよ!」
それに気付いたシャマルが2人を止めようとするが遅かった。
「「セーットアーップ!」」
ピンクと白の光が輝き、シャマルとザフィーラは目を瞑ってしまう。
「ごめんな。シャマル、ザフィーラ」
「でも、もう我慢できないの。それに嫌な予感がするから」
そう言うと2人は皆が戦っている方向へと飛んでいってしまった。
「主となのはを追う、シャマルは2人を頼むぞ」
「分かったわ、はやてちゃんたちをお願い」
ザフィーラはなのはたちの後を追った。

 

「どこに隠れやがった」
リインフォースは建物の影に隠れながら、息を潜めていた。
いつの間にか押していたはずの戦況が押され始めていた。一時、態勢を立て直すため隠れていた。
(あの男、強くなっているのか?)
アッシュはリインフォースと戦うことを楽しみ、殺したいという衝動にかられ、面白いように体が動いていた。
そんなアッシュの気迫にリインフォースはいつの間にか飲み込まれていた。
「見つけたぜ」
「っ!?」
考えているうちにいつの間にか後ろに回りこまれてしまう。繰り出されるクローを防御魔法でどうにか防ぐものの吹き飛ばされる。
「これなら・・・・アクセルシューター」
なのはの魔法であるアクセルシューターがアッシュを襲う。
しかし、アッシュはクローを広げながら突っ込んでくる。
そして、アクセルシューターが当たり連続で爆発する。

 

「全弾命中・・・・・!何だとっ!?・・・・がっ!!」
爆煙の中から巨大なクローが飛び出し、リインフォースを捕まえていた。
「捕まえた」
「ぐっ!」
そのままクローの挟む力が強くなる。
「中々楽しめたが、終わりのようだな」
そう言いながらアッシュは苦しむリインフォースを楽しそうに見ながら、そのまま地面へと叩きつけようとした。
「ストラグルバインド!」
地面に叩きつけられる直前にクローに緑色の鎖が巻き付き、止めていた。鎖の先ではユーノが魔方陣を作り出していた。
「はあぁぁぁぁぁぁっ!」
「何っ!?」
アッシュはユーノに気を取られていたためか、直ぐ横に迫っている影に気付かなかった。
アルフが突き出した拳がアッシュの顔面を捉えた。
「ぐはっ!?」
そのままアッシュは吹き飛んでいき建物へと突っ込んでいった。
その間にクローからリインフォースが放される。
それをアルフがどうにかキャッチすることが出来た。
「す、すまない」
「いや、気にしないでいいって」
リインフォースはアルフに支えられながら起き上がり、体を確かめる。痛みはあるが戦えないわけではない。
しかし、そこでふとリインフォースはアルフたちがここにいるのを疑問に思った。
「キラはどうした?」
「急に起きて飛び出していったんだよ。怪我がまだ治ってないってのに」
アルフは溜め息を付きながら先ほどのことをリインフォースに説明した。
「つまりキラは新手がいるのを感じ取ってそっちに向かったと?」
「多分ね」
リインフォースの質問に対してアルフは頷く。
「だからさっさとあいつ倒してキラのとこ行くよ!」
確かに3人でならすぐに倒せるかもしれない。そして、それが一番の選択だろう。
そう判断したリインフォースはしっかりと頷いた。

 

「そんな・・・・どうして」
フェイトが見た後姿には見覚えがあった。綺麗な金髪が風になびいている。
「アリ・・・シ・・・ア?」
フェイトの言葉にリヴァイヴァー・・・・アリシアはゆっくり振り向いた。
そこにはフェイトにそっくりな顔があった。
「見られちゃったね」
アリシアは苦笑いをしながらもフェイトを見つめた。

 

「いた!・・・・・って・・・・え?」
キラはフェイトとアリシアが向かい合っているのを空から見つける。
アリシアの事をキラも知っているため、驚いてしまう。
彼女は死んでいるはずなのだ。プレシアと共に消えてしまったはずだった。
そうしているとキラが視界の端に何かを見つけた。
フェイトたちから少し離れたところで黒い魔方陣を展開しているフードを被った男。
その男がフェイトに向けて左手を差し出している。
「!?」
それが強力な攻撃魔法だとすぐに気付いたキラはフェイトの下へと急降下した。
フェイトはアリシアから目が離せず、驚いたまま固まっている。男の魔法陣にも気付いていない。
SEEDを発動させスピードを上げた、フェイトの近くまで一気に下りる。
その瞬間キラは先ほど以上の頭が焼けるような痛みが襲ってくる。
「うっ・・・・ぐぅっ・・・・フェイト・・・ちゃん!!」
「・・・・・え?」
フェイトはキラの言葉でやっと我に返った。
しかし、もう目の前まで黒い魔力の塊が轟音を立ててフェイトに向かっていた。
一瞬、フェイトの体に衝撃が走り吹き飛ばされる。
しかし、それは魔法が当たったわけではなくキラが突き飛ばしたものだった。
フェイトにはキラが魔力の塊に飲み込まれていくのがスローモーションのように見えていた。
「キラーーーーッ!」
フェイトが叫んだ瞬間、キラは黒い魔力に飲み込まれていった。
そして、その黒い魔力の塊はキラを飲み込んだまま幾つもの建物を突き抜けていった。
「キラ!」
フェイトはキラの下へと向かって飛ぶ。
「ファントム!」
後ろでアリシアが叫んだ声が聞こえたが無視する。
アリシアに聞きたいことがたくさんあるが今はそれどころではなかった。
そこには壁にめりこみ、ピクリともしない血だらけのキラの姿があった。

 

「キラくん、フェイトちゃん!」
なのはとはやてがフェイトのところへやってきた。そして、2人はキラの姿に絶句してしまう。
「キ・・・ラ・・・君?」
「うそ・・・だよね?」
キラはピクリとも動かなかった。流れ出る血が止まることはない。傷は深かった。
しかし、微かに胸が動いている、呼吸をしていた。
(シャマル、シャマル!こっち来て!早く!)
(はやてちゃん、どうしたんですか?)
(いいから早く!このままじゃキラ君が死んでしまう!)
はやては念話でシャマルを呼ぶが、全員にそれが聞こえる。
(リンディさん!エイミィさん!)
(こちらも医療班を準備させるわ。エイミィ、転送の用意をしておいて!)
(は、はい!)
フェイトはファントムたちのほうを見るが、誰もいなくなっていた。
そして、リインフォースたちのほうも先ほどのファントムの攻撃に気を取られた瞬間に逃げられたらしかった。

 

全員が暗い表情で治療室の前で座っていた。
「ごめんなさい・・・・・私の所為で・・・・・」
「違うよ!フェイトちゃんは悪くないよ!私だって・・・・・」
フェイトの言葉になのはは首を振って答えるが、フェイトは暗い顔をしたままだった。
自分が気を取られなければキラはあぁはならなかったと思っているのだろう。
「しかし、なのはの言葉は最もだ。リヴァイヴァーがアリシアだったなんて誰でも驚くさ」
クロノがなのはの言葉をフォローする。
あの状況で固まらない人間はいないだろう。はやてたちだってフェイトとそっくりなら驚いて固まってしまう。
そして、それを知っている人物なら尚更だ。
しかもフェイトは全員が驚く以上に驚いてしまっていただろう。誰もフェイトを責めることはない。
やがて医療班が治療室から出てくる。
「現場での治療が良かったため命に別状はありません」
その言葉に全員が安堵した。

 

だが、キラは意識は回復していないらしい。
キラの怪我はひどいもののコーディネーターの頑丈さやフリーダムが守ってくれたおかげで致命傷は避けていたらしい。
「普通ならあの殺傷設定の魔法は受ければ死んでもおかしくなかったですね」
病室で医師による説明を受けながらなのはたちはベッドで眠るキラを見ていた。
至るところに包帯が巻かれ痛々しい姿だった。
「キラはいつ頃目を覚ますんだ?」
ヴィータの質問に医師は首を横に振った。
「分かりません、今は待つしか」
「ともかく、私たちは任務に戻るぞ」
シグナムはキッパリとそう言った。
「だけど・・・・・」
渋るなのはたちにシグナムは言葉を続ける。
「今、私たちがやつらを止めなければキラが起きた時、こいつはまた同じことをしてしまいかねん」
その言葉に全員、キラの顔を見る。この少年は例え重傷を負っていても自分たちを助けようと思うだろう。
なのはたちが守ると言っても無茶をするのなら自分たちが先に終わらせるしかない。
「キラくんが目が覚めるときには終わらせるからね」
「私たちがキラにもう無茶させないから」
「だから、それまでに元気になってな」
なのは、フェイト、はやてはそう言うと全員と病室から出ていった。

 

「あれ?」
フェイトがマンションに戻ると手紙が入っていた。
フェイト宛の手紙だったが、誰が書いたものか名前が書いていなかった。
その手紙を開くとそこにはこう書かれてあった。

 

「何があったのか詳しい話を2人きりでしたいんだ。次の日曜日15時に桜台林道で待ってるね」

 

そんな短い文章だったが、それを誰が出したかフェイトにはすぐに分かった。
多分、アリシアだろう。
フェイトは手紙を持つと思いに馳せた。思い出すのは闇の書に取り込まれた時の記憶だった。
しかし、フェイトは疑問に思っていた。
アリシアは自分のことを知らないはずである。自分は死んだアリシアの代わりとして生まれた存在だった。
自分が誕生していた時、アリシアは死んでいて自分のことを知ることは出来ないのだ。
じゃあ、誰かが教えたのだろうか?
その疑問の答えに浮かぶのは母親であるプレシアであった。
しかし、彼女が自分のことをアリシアに話すとは到底思えない。
しかし、アリシアがいるということはプレシアもいるはずである。
罠の可能性の方が高いだろう。本来ならこれをリンディたちに連絡するはずだったが、フェイトは手紙をポケットの中へと入れた。

 

そして、約束の日曜日となった。
ファントムやクルーゼたちの動きはなく局地的に傀儡兵によるテロ活動が行われていた。
「クロノ、キラの様子は?」
『通信で聞いてみたが、変わり無しらしい。怪我も少しは回復したが意識も戻っていない』
「そっか・・・・」
『フェイトちゃん、どうしたの?』
「え?」
なのはの言葉にフェイトは少し驚いた。
『何だかいつもと雰囲気が違うというか、ソワソワしてるように見えるんだけど』
その言葉にフェイトはなのはがよく見ていることに驚いた。
意識してはいないものの表情などに出ていたようだ。
「ううん、何でもないよ」
フェイトは苦笑いをしながらなのはに答えた。
『そっか。それじゃあ、フェイトちゃんは今日はゆっくり休んでね』
「うん、ありがとう。なのは」
そうしてアースラとの通信を切るとフェイトはバルディッシュとスピードローダーを持つと外に飛び出していった。

 

その頃、管理局の病室では重傷患者が1名いなくなっていることにまだ気付くものはいなかった。

 

フェイトが約束の場所に着くとアリシアは普段着でフェイトを待っていた。
「あ、来たね。フェイト」
「・・・・アリシア」
「どうしたの?フェイト」
「本当に・・・・アリシアなの?」
「うん、そうだよ。フェイト」
「でも、アリシアは私のこと知らないはず・・・・」
その言葉にアリシアは頷きながらも答えた。
「うん、そのはずなんだけど・・・・・私ね、夢・・・なのかな?フェイトと一緒にいた夢を見たの?」
「え?」
「そこにはね、お母さんもいてリニスもアルフもいて仲良く皆で暮らす夢だったんだ」
その夢の内容をフェイトは知っていた。闇の書に取り込まれたときに自分が願っていた日々と同じものだろう。
その瞬間フェイトは駆け出し、アリシアに抱きついた。

 

「アリシア!」
「フェイト」
そのまま2人は抱き合ったままだったが、やがてフェイトはアリシアから離れると真剣な顔でアリシアを見た。
「教えて、何があったの?」
死んだはずのアリシアが生きているのはおかしい。しかし、考えられることは出来た。
「2年前、私と母さんはアルハザードに着くことができたの」
「!?」
虚数空間に落ちた時、プレシアもアリシアも助からないと思っていた。
しかし、彼女たちは自分たちが求めた場所に行くことができたのだ。
「そこで私たちはファントムに出会ったの。そして、ファントムから秘術を母さまが教えてもらって私は生き返った」
やはりアルハザードには死者蘇生の秘術があったようだ。
そうでなければ目の前のアリシアの説明が付かないわけだが。
「でも・・・・」とアリシアは言葉を続ける。
「でも、その秘術を使って母さまは力を使い切り倒れたって言ったの」
「ファントムが?」
フェイトの言葉にアリシアは頷きながら続ける。
「私は母さまを助けるためにファントムに協力してるの」
「そんな!」
「体が壊れていた母さまを助けるためにはアルハザードの力が必要なの!だから!」
アリシアは目に涙を浮かべながらフェイトに告げる。
「だから私はあの人たちに協力するしかないの」
「アリシア」
その顔を見てフェイトはアリシアを抱きしめる。掛ける言葉が見つからなかった。
「フェイト」
「何?」
「フェイトもこっちに来て」
その言葉にフェイトの心が大きく揺れた。