リリカルクロスSEEDW_第10話

Last-modified: 2008-03-17 (月) 09:52:35

「え!?」
その言葉にフェイトは驚いてしまう。
しかし、アリシアは弱々しくフェイトを見上げる。その目はとても悲しそうだった。
「今やってることは辛くて仕方ないんだ。でも、フェイトがいてくれれば・・・・」
実質7歳の子供に人殺しの手伝いをしろというほうが無理な話なのだ。
しかし、大好きだった母親のためにアリシアは手伝った。
まるで昔の自分のようだ。
今のアリシアは本当にボロボロのように見えた。誰かが助けないとアリシアが壊れてしまいそうだった。
「フェイト、夢の時みたいに母さまと一緒に暮らそう?」
「っ!?」
フェイトが一番欲しかった時間が手に入るかもしれないのだ。
もしかしたら夢の時のようにプレシアも自分に優しくなってくれるかもしれない。
しかし、フェイトは首を横に振った。
「アリシア、私は・・・・・」
はっきり言ってまだ迷っていた。しかし、1つだけ分かっていることがある。
ファントムたちがやっているのはいけないことなのだ。
そして、キラは自分を助けるために重傷まで負ってしまった。
フェイトはアリシアやプレシアを助けたくないわけない、今すぐにでもアリシアの手を取ってやりたい。
でも、それは出来なかった。
闇の書に取り込まれたときのことをフェイトは思い出していた。自分はあの時どう思ったのかを。
「うん、やっぱり夢の中で会えたのはフェイトだったんだ」
「え?」
「分かってたよ、フェイトが断ることくらい」
「アリシア」
「だって、私はフェイトのお姉さんだもん」
フェイトは何も言わずアリシアに抱きついた。アリシアはそれを優しく抱き返す。
まるで夢のときと同じようだ。
このままアリシアがあの時みたいに消えてしまいそうに見えたフェイトは強くアリシアを抱きしめる。
「助けるから」
「え?」
フェイトの呟きにアリシアは少し驚いてしまう。
「私がアリシアも母さんも助けてみせるから!」
「フェイト」
アリシアはフェイトを見上げるその目には強い決意が見て取れた。アリシアはフェイトに笑って頷いた。
「うん、待ってるよ」
その言葉にフェイトが答えようとした時だった。

 

「良い姉妹愛だね~」
「「!?」」
その言葉にフェイトとアリシアは驚いて咄嗟にデバイスを構えようとするが、血色のバインドに2人とも捕まってしまう。
2人の視線の先には愉快そうに笑うアッシュ・グレイの姿があった。
2人ともアッシュが近づいてきているのに気付かなかった。
「・・・・・アッシュ・グレイ」
フェイトはバインドを解こうとするが、かなり強力なバインドのようだ。アリシアも抜け出せないようだった。
「どういうこと?」
アリシアはアッシュを睨みながらハルバードをどうにか取ろうとしている。
「クルーゼがお前が怪しい動きを見せたから付いていけと言ったんだよ。そしたらこんな場面を拝むことが出来たわけだ」
アッシュは面白そうにデバイスを起動させる。
「お前の行動をファントムに言っちまえばどうなるかな」
「!?やめて!!」
そうなればプレシアの命が危なくなる。アリシアは悲痛な叫びでアッシュを見る。
「だったらお前の妹を殺すんだな」
そう言うとアッシュはアリシアのバインドを解く。アリシアは驚いた表情でアッシュを見る。
「そんなこと・・・・・」
「お前の母親がどうなってもいいのか?どうせこいつはお前の模造品なんだろ?だったら問題ないだろ」
「・・・・・・・」
アリシアは母と妹を天秤にかけられたことを悔しそうに顔を歪める。
アッシュはそれを面白そうに見るだけだった。
「どうせそんな妹がいなくてもいいだろ。殺しちまえ」
それでもアリシアは動くことが出来なかった。それを見ていたアッシュは面白くなさそうな顔をする。
「だったら、俺がこいつを殺す。そうすればお前も変な気は起きないだろう」
「!?」
その言葉を聞き、アリシアはハッと顔を上げる。
アッシュは片手に魔力刃のサーベルを取り出すとフェイトに向かっていく。

 

「フェイトに・・・・・手を出すな!!」
アリシアはハルバードを取り出し、バリアジャケットの鎧に身を包むとアッシュに向かって突進する。
しかし、アッシュはそれを容易く避けるとトリケロス改のクローでアリシアを挟む。
「うぅっ!?」
「アリシア!」
フェイトはもがくがバインドが解けない。
「つまらん、2人とも殺すとするか」
そうしてアッシュはクローの力を強めていく。兜が外れアリシアが苦痛の表情をするのをフェイトは見ていることしか出来ない。
「姉妹仲良くあの世で一緒になるんだな」
バリアジャケットの鎧が火花を上げ始める。このままでは本当にアリシアが死んでしまう。
「助けて・・・・誰かアリシアを助けて!!」
フェイトの悲痛な叫び声が空に響き渡った。
その時だった。漆黒の一閃が一瞬、フェイトの目に映った。
「ぐああぁぁぁぁぁっ!!」
アッシュの悲鳴が聞こえ、フェイトはアッシュのほうを見るとアリシアを掴んでいたクローが落ちていた。
アリシアはゴホゴホと膝を付いて咳をしている。どうやら無事のようだった。
しかし、フェイトの目に飛び込んだのはクローやアリシアだけではなかった。
クローを操作していた右腕も落ちていたのだ。
「・・・・・だ・・・れ?」
そして、フェイトはアッシュの腕を斬り落とした人物を見て目を見張った。
赤褐色の魔力刃のサーベルを持ち、黒いバリアジャケットに身を包み、漆黒の背中の翼。
それは彼とは似合わない色をしていた。
「キ・・・・ラ・・?」
フェイトの言葉に反応したのか分からないがキラは少し顔を後ろに向けただけだった。
「っ!?」
その目に光はなくフェイトの体が強張るほどの恐怖を感じさせる目をしていた。
これは自分の知っているキラではなかった。しかし、違うところがあるもののそれは間違いなくキラであった。
バインドが解けているにも関わらずフェイトはその場に座り込んでしまう。キラの目に足が動かなくなってしまっていた。
「そ・・・れが・・・・・お前の本当の・・・・スーパーコーディネーターの姿か・・・・面白い」
アッシュは右腕から血が流れることもお構いなしに面白そうに笑うと左腕を出すと落ちていたクローが左腕に装着される。
キラはそんなアッシュを何の構えもせずに目だけをアッシュへと向ける。
それだけでアッシュでさえ体が震えるほどの殺気を感じ背筋が震え上がった。
「最高だ!・・・・・さすがは・・・・スーパーコーディネーターだな!」
アッシュは楽しそうに笑いながらキラへとクローを構えながら突進していく。
キラはそれを見ながらゆっくりとサーベルを持ち上げる。あの状態からではアッシュのほうがキラよりも早く攻撃が届いてしまう。
「キラ!」
フェイトはどうにかキラの名を叫ぶだけしかできなかった。フェイトは見ていられずに目を瞑ってしまった。

 

ズバッ!!

 

肉を切り裂く音がフェイトの耳に届いた。どちらかが倒れる音がして、フェイトが目を開いた。
そこにはフェイトにとってもっと信じられないことが目の前にあった。
それは胸を魔力刃で袈裟斬りにされ、絶命しているアッシュの姿だった。
「う・・・・そ・・・・」
キラが魔力刃で斬ったとなれば殺傷設定に変えたはずである。
しかし、キラの魔法は殺傷設定にしないようにキラ自身がさらに難しいパスで厳重に使わないようにしていたのだ。
それにあのキラが人を躊躇いなく斬ることなど出来ないはずなのだ。
「・・・・・・・・」
死んでいるアッシュの傍らに顔やバリアジャケット、デバイスに血を被っているキラが感情のない目でアッシュを見下ろしていた。
それはもうフェイトが知っているキラの姿ではなかった。

 

「「フェイトちゃん!」」
フェイトの後ろからなのはとはやてが走ってきていた。どうやらアッシュの反応を管理局が見つけたのだろう。
そして、なのはとはやても死んでいるアッシュを見つける。
「えっ!?」
「死んでるん?この人・・・・」
アッシュを見た後、彼の傍らに立っている人物をそのままなのはとはやてはゆっくりと目線を上に移す。
2人の顔がさらに驚きの表情へと変わってしまう。
「そん・・・な・・・・」
「どうして・・・・なんで・・・」
キラは管理局の集中治療室で絶対安静の状態だった。大怪我をして意識不明で動けるわけがないのだ。
しかし、なのはたちの目の前にいるのは色の違うバリアジャケットと翼を広げたキラだった。
なのはたちは別人かと思った。違うと信じたかった。
キラは人が死んでしまうことを嫌っていた。人を殺した罪を苦しみながら背負っていた。
そんなキラが人を殺すはずがないのだ。
だが、なのはたちはそれがキラだということを分かってしまう。一緒にいたからこそ彼が本物だと分かってしまう。
光もなく感情のない目がなのはとはやてを見る。
「「!?」」
なのはもはやてもその目に恐怖を感じた。あのとても優しそうな目ではなくなっていた。
そのままキラはなのはたちのところに向かって歩いてくる。
しかし、なのはとはやてはキラの感情のない目に後ろに下がってしまう。

 

「嫌だよ・・・・・キラくんはそんな目じゃないよ」
「私らの知ってるキラ君はとっても優しい目をしとる。だから、戻って」
「元のキラに戻って!お願いだから!!」
3人は涙を流しながらキラに叫ぶ。キラの動きがだんだんゆっくりとなってくる。
「キラ!」
「キラくん!」
「キラ君!」
そんなキラを見たくなかった3人はキラの名前を大声で叫んだ、目を覚ましてもらうために。元のキラに戻ってもらうために。
「!?」
キラの動きが止まった。サーベルを持っていない手で頭を押さえ片膝を付いてしまう。キラの顔が苦悶に歪む。
「キラ!」
フェイトたちがすぐにキラの傍へと走った。
キラが顔を上げると目に光が戻り、いつもの優しい目になっていた。
バリアジャケットも翼も本来の色に戻っていた。
どうやら本当にキラが元に戻ったようだった。
「フェイトちゃん?なのはちゃんにはやてちゃんまで・・・・一体・・・どうしたの?」
その瞬間、キラは手にヌルリという感触を覚えた。それを辿って見てみると手に血が付いていた。
全身が痛んできたため自分の血かと思ったが、片方の手に持っているものをキラは見てしまう。魔力刃のサーベルだった。
それに微かに血が付いているのにキラは目を見張る。何故血が付いているのかと。
なのはたちが何か言っているが聞いていなかった。今はこの血が誰の血で何が起こったのかが知りたかった。
そして、自分の体を見ると白いバリアジャケットが真っ赤に染まっている。
だが、どこも自分がやられた後がない。
確かめてみても体は包帯に巻かれていて治療されていた。少し血が滲んできているがバリアジャケットを染め上げるくらいではない。
ふとキラの視界の端に何かが映っていた。それは人の足だった。血が流れているのも見えた。
「!・・・・キラ見ちゃダメ!!」
フェイトが視線を塞ごうとしたが遅かった。キラは見てしまった。
「あ・・・・ああ・・・・」
キラの視線の先にはまるで何か鋭利な刃物でバッサリと斬られ絶命しているアッシュの姿があった。
血に染まった自分、片手の魔力刃、傍らで何かに斬られ死んでいるアッシュ、ここにいる記憶が無い自分。
それがキラの中で簡単に繋がった。
「キラくん!キラくん!」
「うそだ・・・・そんな・・・ばかな・・・そんな・・・そんな・・・・」
「キラ君、落ち着くんや!キラ君!」
なのはたちの声はもうキラには届いていなかった。キラはアッシュを見たまま固まってしまっている。
体が震え、目を大きく見開いていた。
「僕が・・・・・殺した・・・・殺し・・・・う・・・うわあぁぁぁぁぁぁ!!・・・ぁ」
キラはそのまま大きく空に悲鳴を上げた。
そして、そのまま糸が切れた人形のようにバタリと倒れてしまった。目から光がなくなり、その目から涙が流れていた。
まるでキラの心がどこかに行ってしまったように見えた。
「キラ!キラ!」
フェイトが体を揺するが、何の反応もない。呼吸はしているがまるで死んでいるようだった。
なのはたちのキラを呼ぶ声は後から駆けつけたリインフォースたちが到着するまで続いた。
それでもキラが目を覚ますことはなかった。