リリカルクロスSEED_第10話

Last-modified: 2007-12-27 (木) 16:35:12

「キラ?」
フェイトはいきなり現れた青年の背中に話しかけた。
「え!?」
その言葉に驚くなのは、彼女が知っているキラは自分と同い年だったはずだ。
キラは振り返り、四人に笑いかける。
「ごめんね、なのはちゃんとフェイトちゃんには言ってなかったね」
知らない青年のはずなのに、その笑い方がキラのものであることをなのはは何となく理解できる。
フェイトはさっきの夢で一度会ったことがある、この青年がキラだと理解できる。
「キラ、それじゃあ元に戻れたのかい?」
事情を知っているアルフがキラに話しかける。
「はい。ですが、詳しい話はまた後で。皆は急いで先に行って!雑魚は僕が片付けるから!ストライク!」
『Yes, sir.』
するとキラはまた傀儡兵たちの中に飛んでいき、次々と落としていく。
「キラ(くん)!」
なのはとフェイトがキラを呼ぶ。
「気をつけて(ね)」
「皆もね」
二人の言葉にキラは笑顔で答えると傀儡兵の中へと消えていった。
 
「あそこのエレベーターから駆動炉へ向かえる」
「うん、ありがとう。フェイトちゃんはお母さんのところに?」
「うん」
なのははレイジングハートを置くと、フェイトの手を握る。
「私、その・・・・うまく言えないけど・・・・がんばって」
その手に戸惑いながらなのはを見るフェイトだったが、フェイトは目を閉じ、なのはの手を取り言った。
「ありがとう」
すると、ユーノが駆けてきた。
「今、クロノが一人で向かってる。急がないと間に合わないかも!」
「フェイト!」
その言葉にフェイトを見るアルフ。
「うん」
そして、なのはとユーノは駆動炉に突入し、フェイトとアルフは最下層へ向かった。
 
次元震が止まったことにプレシアは気付いた。
(プレシア・テスタロッサ。終わりですよ、次元震は私が抑えています)
リンディは魔方陣の中心で次元震を抑えながらプレシアに語りかける。
(駆動炉もじき封印、あなたの元には執務官が向かっています)
(忘れられし都、アルハザード。そして、そこに眠る秘術は存在するかどうかすら曖昧な只の伝説です。)
「違うわ、アルハザードへの道は次元の狭間にある」
「時間と空間が砕かれる時、その狭間に滑落していく輝き。道は確かにそこにある」
(随分と分の悪い賭けだわ。あなたはそこに行って一体何をするの?失った時間と、犯した過ちを取り戻すの?)
「そうよ、私は取り戻す。私とアリシアの過去と未来を!取り戻すの、こんなはずじゃなかった世界の全てを!」
その瞬間、プレシアのいる階層の壁と天井が魔力の矢によって貫かれる。
壁からクロノが、上からは床をアグニで撃ち貫いたキラが下りてくる。
「世界は・・・いつだって、こんなはずじゃないことばっかりだよ!ずっと昔からいつだって、誰だって、そうなんだ」
「それが当たり前の世界、その世界で僕たちは生けていかなくちゃいけない」
フェイトたちもキラとクロノに追いついた。
「こんなはずじゃない現実から逃げるか、それとも立ち向かうかは個人の自由です」
「だけど、自分の勝手な悲しみに無関係な人間まで巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない!」
キラとクロノが訴える中、フェイトは自分の母親を見つめる。それがとても弱く見えた。
「ゲホゲホッ、ゲホッ!」
プレシアは血を吐きながら咳をする。
「母さん」
フェイトはプレシアに走り寄ろうとするが、フェイトを睨む。
「何をしにきたの」
その言葉に止まるフェイト。
「消えなさい、もうあなたに用はないわ」
その言葉を受けてもフェイトはプレシアを見据えて答える。
「あなたに言いたいことがあって来ました」
それを全員が黙ってフェイトを見つめる。
「私は・・・・私はアリシア・テスタロッサじゃありません。あなたが作った只の人形なのかもしれません」
「だけど、私は。フェイト・テスタロッサはあなたに生み出してもらって育ててもらった、あなたの娘です!」
その言葉に笑い出すプレシアはフェイトに問う。
「だから、何?今更あなたを娘と思えというの?」
「あなたが・・・・・それを望むなら」
フェイトはプレシアを見据え、自分の気持ちをプレシアに伝える。
「それを望むなら、私は世界中の誰からも、どんな出来事からも、あなたを守る」
「私があなたの娘だからじゃない、あなたが私の母さんだから!」
そうしてフェイトは手をプレシアに差し出した。
 
「くだらないわ」
「え?」
プレシアは杖を床へと打ちつけ、魔方陣が現れる。
「マズイ!」
庭園が地響きを立てて崩れ始めていた
『艦長!ダメです、庭園が崩れます。戻ってください』
『この規模の崩壊なら次元断層は起こりませんから!』
エイミィはリンディたちに急いで通信を送る。
『クロノ君たちも脱出して!崩壊までもう時間がないの!』
「了解した、フェイト・テスタロッサ!・・・・フェイト!」
クロノはフェイトたちを呼ぶ。しかし、フェイトは動かなかった。
「私は向かう、アルハザードへ!そして、全てを取り戻す!過去も未来もたった一つの幸福も!」
そして、床が崩れプレシアとアリシアの亡骸は虚数空間へと落ちていく。
「母さん!」
「フェイト!」
プレシアの元へ飛び込もうとしたフェイトをアルフが抑えた。
落ちていく、その姿をフェイトは見つめ続けた。
 
『お願い、皆!脱出急いで!!』
床が割れ、フェイトとアルフが離されてしまう。
「フェイト!フェイトー!」
アルフが必死に手を伸ばすが届かない。
そこになのはが天井を打ち破って現れた。
「フェイトちゃん!飛んで!こっちに!」
なのはがフェイトに向かい手を伸ばす。
プレシアが落ちた場所を見つめたフェイトだったが、目を閉じて自分に決意をさせる。
目を開けたフェイトはなのはに向かい手を伸ばし・・・・飛んだ。
そして、それをなのははしっかりと捕まえた。
「これで全員転送できる」
キラがなのはたちのところへ向かおうとした時だ。
『My master.』
「ストライク?」
『It is possible to return to former world if remaining here.』
「本当?元の世界に戻れるの?でも・・・・どうやって」
『The power of the remaining jewel seed is used.』
「今しか・・・・ないの?」
『Yes.』
「・・・・・・・分かった、それじゃあ戻らないとね」
 
「キラ(くん)!」
動かないキラに気付いたなのはたちが手を伸ばしキラの元へ向かう。
しかし、キラはそれに首を振って答えた。
「管理局の人たち、急いで僕以外の人の転送を」
その言葉に全員が驚いていた。
「なんで!なんでなの!キラくん!」
「戻ろう、皆で」
なのはとフェイトの悲痛な叫びも虚しく、キラは首を振って涙を貯めて笑いかける。
(僕はこの世界の住人じゃないんだ。だから、戻らないといけないんだ)
キラは他の人に聞かれないように二人だけに念話を使い話しかけた。
なのはとフェイトはその言葉に驚くが、キラの涙を見ればそれが嘘じゃないのが分かる。
(どうやって・・・・?)
(ストライクがまだ残っているジュエルシードの力を使うらしい)
(もう・・・・・会えないの?)
(・・・・・・・・・うん、多分)
フェイトの質問にキラは正直に答える。
「嫌だ、そんなの嫌だよ!」
「そうだよ・・・・こんなのって・・・・・ないよ」
なのはとフェイトの涙は止まらなかった、二人とも手を伸ばし続ける。
『事情は分かりませんが、本当にいいんですね。キラさん』
別の方からリンディの声が聞こえてきた。
「僕はここに残らないといけないんです、残させてください。お願いします」
『・・・・・・分かりました。エイミィ』
『は・・・・はい』
なのはとフェイトはキラのところへ向かおうとするが崩れる天井が邪魔で思うようにキラの元へ向かえない。
(なのはちゃんとフェイトちゃんに出会えて本当に良かった)
そんな二人にキラは涙をためながら笑う。
(僕は元の世界に戻ったらまた戦いに出なくちゃいけないかもしれない)
(何で?何でそんな世界に帰らないといけないの?)
フェイトは泣きながらキラに聞く。
(守りたいんだ。そして、僕はそのために何と戦わなくちゃいけないのか分かった気がするから)
今にも手を伸ばして彼女たちの所に行きたい、だがもう心は決まっていた。
「君たちに教わったんだ」
キラの顔はもう泣いていなかった。笑ってすらいた。
「・・・・二人の想いと力・・・・受け取ったよ。ありがとう」
二人はもう少しの距離まで来ていた、あと少し手を伸ばせばキラに届く。
「そして、さよなら」
「「キラ(くん)!!」」
キラがそう言って笑った瞬間、なのはとフェイトはその場から強制転移していた。
「帰ろう、あるべき世界へ」
『Yes, sir.』
その瞬間、キラを真っ白な光が包んだ。
 
なのはたちは戦いが終わり、何もなく穏やかな日々を過ごしていた。
そして、フェイトがしばらくの間、裁判のため本局に移動になることとなった。
そのため、リンディの計らいによってフェイトと会うことが出来ることとなっていた。
キラ・ヤマトについては死亡ということになっている。
彼に対しての裁判も本人死亡という形でフェイトと共に行われるが、フェイトと同様に無罪の可能性が高い。
純粋に少女を守るために戦った者を罪にするほど・・・・・ともクロノは語っていた。
彼についての詳しいデータもないため本局も対応に困っていたのも事実だった。
ユーノやアルフは知っているが、アースラスタッフ以外に語ることはなかった。
そして、アースラスタッフもそれを口外することはなかった。
だが、フェイトもキラも無罪になるというのは変わらないだろう。
 
「フェイトちゃ~ん」
なのははフェイトたちに手を振って走ってくる、それを嬉しそうに見るフェイト。
「あんまり時間はないんだが、しばらく話すといい。僕たちは向こうにいるから」
「「ありがとう」」
クロノとアルフ、ユーノは少し離れたベンチで二人を見守ることにした。
「あははは、何だかいっぱい話したいことあったのに・・・変だね、フェイトちゃんの顔見たら、忘れちゃった」
「私は・・・・そうだね、私もうまく言葉に出来ない」
フェイトは言葉を続ける。
「だけど、嬉しかった」
「え?」
「まっすぐ向き合ってくれて、キラもそうだった」
今はいない少年の顔を二人は思い浮かべる。
「うん、キラくんみたいに友達になれたらいいなって思ったの。でも、今日はもうこれから出掛けちゃうんだよね」
「そうだね、少し長い旅になる」
二人は悲しそうな顔で俯いてしまうが、お互い顔を上げた。
「フェイトちゃんは・・・・また会えるんだよね?キラくんみたいにならないよね」
「うん、少し悲しいけどやっとほんとの自分を始められるから、絶対に戻ってくる」
そして、フェイトは一番言いたいことを話し始める。
「来てもらったのは返事をするため」
「え?」
「君が言ってくれた言葉、友達になりたいって」
「うん!うん!」
その言葉に嬉しそうに首を縦に振るなのは。
「私に出来るなら、私でいいならって。だけど私、どうしていいか分からない」
ずっと一人だった、友達なんて必要ないと思っていたから。
「だから教えて欲しいんだ。どうしたら友達になれるのか」
悲しそうなフェイトの横顔を見ながらなのはは答える。
「かんたんだよ。友達になるの、すごくかんたん。キラくんと一緒だよ」
「キラと?」
なのははフェイトに笑いながら教える。
 
「名前を呼んで。始めはそれだけでいいの、君とかあなたとかそういうのじゃなくて」
「ちゃんと相手の目を見て、はっきり相手の名前を呼ぶの。キラくんもそうだったしょ?」
「あ・・・・・・」
フェイトは今気付いた、キラと自分はもう友達と呼べる関係だったことを。
そして、なのははもう一度自己紹介をする。
「私、高町なのは。なのはだよ」
「な・・の・・は?」
「うん、そう!」
「なの・・・は」
「うん」
「なのは」
「うん!」
なのはは目に涙を浮かべフェイトの手を取る。
「ありがとう、なのは」
「うん」
なのはは堪えきれず涙が零れてしまう、そして涙をためたまま笑う
「君の手も暖かいね、なのは。キラと似ているよ」
彼の手も暖かかった、そして彼女の手も暖かく自分を包んでくれる。
どうしようもなく涙が流れる、フェイトはそれを拭ってやった。彼女の目にも涙があった。
「少し分かったことがある。友達が泣いてると同じように自分も悲しいんだ」
そういえばキラに教えてもらっていたな、とフェイトは思う。
「フェイトちゃん!」
そう言ってフェイトに抱きつき涙を流すなのは、そしてそれを抱きとめるフェイト。
「ありがとう、なのは。そして・・・・キラ」
感謝の言葉を述べながらフェイトは続ける。
「今は離れてしまうけどきっとまた会える。そうしたら、また君の名前を呼んでもいい?」
「うん!うん!」
フェイトの胸の中で泣きながらも答えるなのは。
「会いたくなったら、きっとまた名前を呼ぶ」
「うん、また会ったら・・・・その時はキラくんの名前も呼んであげよう」
「そうだね」
その言葉にフェイトは笑顔で答えた。
「キラ、自分の世界に帰れたかな?」
空を見上げ、フェイトはなのはに聞く。
「大丈夫、きっと帰れてるよ。キラくん強いもん」
なのは笑顔で同じように空を見上げる。
「そうだね。それにキラも、なのはと私の友達だからね」
「うん、そうだよ」
なのはとフェイトは別れ際に言えなかったことをこの空に言うことにした。
「「またね!」」
何故だか、彼に届いたような気がした。
 
「キラ?」
キラはラクスの声に振り返る。
「僕は、行くよ」
「どちらへ行かれますの?」
「地球へ、戻らなきゃ」
「何故?あなたが一人戻ったところで戦いは終わりませんわ」
そうかもしれない。
「でも、ここでただ見ていることももう出来ない」
いつかのなのはたちのお昼休みの自分のセリフを思い出す。
「何も出来ないって言って何もしなかったら、もっと何もできない・・・何も変わらない、何も終わらないから」
「またザフトと戦われるのですか?」
違うとキラは首を振る。
「では地球軍と?」
それも違うとキラは首を振り答える。
「僕たちは何と戦わなきゃならないのか。少し、分かった気がするから」
それを彼女たちに教わったから。
あの爆発から目が覚めて、元の世界に戻ってなのはたちと過ごしたあの日々が夢だったのかと思うこともあった。
でも、あれは夢じゃないと確信できる。
自分の気持ちがこんなに彼女たちのことを想っているのだから・・・・・・。
(あれは夢じゃなくて。僕に起こった、信じられないような大きな奇跡)
 
「想いだけでも力だけでも・・・・・」
あの子達は両方持っていたものだ・・・・そして、今の自分もしっかり持っている。
自由という「想い」と「力」の剣が。
「フリーダム!いきます!!」
もう彼女たちに会えないのは寂しかった。だけど、何故かまた会えると思ってしまう。
(だって、聞こえたんだ。二人の声が「「またね!」」って)
 
そして、青き星へと舞い降りる、強き想いをのせた剣が・・・・・。
 
彼、そして彼女たちは新しい道を進み始める。彼らの物語はまだまだ始まったばかり。

 

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