ルナマリア◆yb4dHGjFao 03

Last-modified: 2017-02-22 (水) 02:43:16

ルナマリア爆走記_第3話
 
 
薄暗い部屋の中、黒猫を抱いた人影が、もう一人の人物に話しかける。

「この世界は間違っていると思わないか?」
「・・・」

仮面で顔の上半分を覆った男は答えない。

「共に世界を変えないか?」
「・・・」

仮面男の肩が小刻みに震えている。

「ルナねーちゃん!!これはどー言う事だよ!?つーかこの部屋はなんなんだよ!?」
「ただの雰囲気作りよ」

黒猫のぬいぐるみを机に置いてルナマリアが立ち上がり、照明を点ける。
キッドもダンボール製の仮面を床に叩きつけつつ、小型コンテナから飛び降りる。

「雰囲気作りって・・・ここは格納庫だよな?」
「ええ。付け加えるなら昨日までDXを修理してた一番奥のスペースを装甲板で仕切ってあるの」
「なんだってここまで・・・」

机やソファーセット、奥に扉が見えるが・・・まさかベッドルームか?

「最近格納庫にいる時間が長いじゃない?一々居住区に帰るのが面倒で・・・」
(住み着く気かよ・・・あんたは貧乏神か?)

最近この人に振り回されっぱなしだ。ここらで自分の立場をはっきりさせなくては・・・

「ねー・・・」
「とりあえず協力しなさい」
「は?何に?」
「ミネルバクルーの中から私の恋人探し」
「そんなのやる前から無理ってわかって・・・すみません」

一睨みで黙らされた・・・勝てないのを本能で感じたのだろう。

「戦闘員1号2号、資料を持ってきて」
「「ははっ」」

戦闘員1号2号?悪の秘密結社じゃあるまいし・・・どこの馬鹿だ?

「って・・・ロココにナイン!?お前ら何やってんだ!!」
「ああ、チーフ。尊敬するチーフのおそばにいられるように戦闘員になりました!」

二人の脳内ではキッドとルナマリアはセットらしい。実際はジュースとおまけのボトルキャップ位の関係なのだが。
資料とやらを受け取る。身長体重血液型から趣味嗜好までカバーされている・・・

「どうやって調べたんだ・・・?これ?」
「ミネルバには我々の協力者がいますから」

ますます秘密結社じみてきた。キッドは加速度的に増してくる頭痛を堪えるので精一杯だった。

「まずは副長のアーサー・トラインですが・・・」
「パス。趣味がエロゲなんて嫌。そもそも情けない顔が嫌」
(初っ端からバッサリかよ・・・)

「アーサーは×・・・次はジュール隊のディアッカ・エルスマンです」
「うーん・・・緑服じゃ生活苦しそうだし・・・前大戦で裏切ったのよね?これは保留で」
(微妙な扱いだな・・・裏切り者らしい扱いなのかねぇ?)

「続いてジュール隊隊長のイザーク・ジュールです」
「白服ね・・・高ポイントよ・・・って特記事項重度のマザコン!?却下ね。シホさんにプレゼントよ」
(高ポイントって・・・金か!?金なのか!?)

「整備班のヨウランとヴィーノですが・・・」
「却下。これならここのガキンチョの方がマシよ」
(誰がガキンチョだよ!)

「最後になりますが・・・フェイスのハイネ・ヴェステンフルスです」
「これだわ!ちょっと生え際が気になるけど、フェイスだし!」
(アンタほんとに望みが高いね・・・)

「あ〜でも最近オペレーターのアビー・ウィンザーといい感じらしいですよ?」
「たかがオペ子の一人や二人、踏み潰してくれるわ!全戦闘員に召集をかけなさい!」
(他にもいるのかよ!)

召集からわずか5分、キッドの目の前には演台とたくさんの漢達がいた。
(なんだろう・・・前にも見たような・・・)

演台のルナマリアが話し始める。

「諸君!これは聖戦である!真実の愛を見つける為、幸せを見つける為に立ち上がる時が来たのだ!」
(ねーちゃん・・・あんた何処へ行く気だよ・・・)

「美しき、清浄なる恋の為に!」
「「「「「美しき、清浄なる恋の為に!」」」」」
(遂にブルーコスモス化・・・このまま放って置いていいんだろうか?)

しかし、キッドの疑問に答えてくれそうな人物は存在しなかった・・・

ルナマリア率いるラブ・コスモス(仮)総勢100名がミネルバに雪崩れ込む。

「リーダー!ターゲットは自室で待機中だそうです!」
(リーダーと言うよりこれはもう教祖だろ・・・)

重い荷物を背負いながらこっそりため息をつくキッドにルナマリアの檄が飛ぶ。

「こら参謀長!気合が足りないわよ!」

知らぬ間に参謀長になっていたようだ・・・

「なあ、ね「リーダーと呼ぶ!」リーダー、ハイネを捕まえてどうするんだ?」
「そんなもの決まってるじゃない!持ち帰る→説得→それでも駄目なら洗脳よ!」

ついに言動だけでなく行動までもがラクス化して来た・・・

「当然洗脳装置はあんたが作るんだから・・・っと、ここね!」

悪事に加担する事が確定している己の不幸を呪っている内にハイネの部屋の前まで来ていたようだ。

「相手はフェイスよ!油断せずに行きなさい!1班、突撃開始!」
「「「「「オーー!!」」」」」

100名の信者・・・ではなく戦闘員は10名ずつの10班に分かれているらしい。10名の漢が扉を破って突入していく。

「「「「「うわー!!」」」」」

直後、1班の悲鳴が響き渡った。

「何が起こったの!?」
「トラップが仕掛けられていました!目標は確認できません!」

1班と室内にいたらしい銀髪男(囮か?)が応急修理用トリモチに絡め取られて哀れな姿になっている。

「なんですって!?まさか情報が漏れている?いったい何処へ行ったの・・・?」
「リーダー!目標は5分前にブリッジに移動したとの情報が!」
「くっ!ブリッジへ向かうわよ・・・って!?」

後方の隔壁が閉まっている。後続の8班、9班、10班と分断されたようだ。

「ちぃ!ブリッジ方面へ走りなさい!急いで!」

走っている間にも隔壁はゆっくりと閉まって行き、体力不足の戦闘員から順に脱落していく。

(なぜ一気に閉じないんだ?)

ブリッジまでは非常階段を上って2ブロック、数分で着くはずだがなぜか胸騒ぎがする・・・

階段にたどり着いた先発部隊がトリモチまみれになって倒れ伏した。

「上からの攻撃!?いったい誰「グゥレイト!!」・・・わかったわ」

階段の上で緑の服を着た男が両脇に持ったランチャーからトリモチを発射している。

「高所からの狙撃は戦術の基本・・・うかつに飛び出せないわね」
「「リーダー!」」
「何?」
「「我々が盾になります!」」

(うん、定番のかっこいいセリフだね。でも目的が拉致じゃ寒いだけだね)

ルナマリアの前を走る戦闘員が次々と倒れていく。だが集団の足は止まらない。
彼女達を駆り立てる物は一体なんなのか・・・

「数だけは・・・多すぎるっつーの!ぐえ」

遂に階段上にたどり着いたルナマリアのボディへのヘッドバットで炒飯男は沈黙した。
しかしこの時点で戦闘員は20名たらず。とっくに撤退していなければならないほどの壊滅状態だ。

「突撃続行!」
『まだ懲りないのですか?』

近くのスピーカーから女性の声が聞こえた。

「何者!?」
『たかが一人のオペ子です。流石にやりすぎだとは思いませんか?』
「真実の愛を追究する事の何がいけないの!?」
『・・・仕方ないですね。ザラ艦長から指示されていたおしおきを実行、そのエリアの酸素濃度を下げます』
「艦長!?まさかメイリンが・・・」
『メイリンさんから伝言です【アスランさんの髪が抜けたのはお姉ちゃんのせい!反省して!】だそうです』
「くっ!ここにはあんたの仲間の炒飯男がいるのよ!」
『ハイネに逆らってミネルバに武器を向けた男など知りません。では良い悪夢を・・・』
「まだよ!まだ終わらんよ!キッド!それよこしなさい!」

そう言いつつキッドが背負った荷物を奪い取り、取り出した携帯用オルトロスを構えて隔壁目掛けて撃つ。
キッドに作らせたそれは轟音と共に隔壁を突き破った。
(普通の人間があんなもん撃ったら反動で吹っ飛ぶよな・・・ねーちゃんはホントに人間なのか?)

「どーよ!愛の力は無限なのよ!」
『凄いです。でもこのエリアの隔壁はもう一枚あるんですよね』

無常にも隔壁が閉まる。

「汚いわよ!キッド!もう一発撃てないの!?」
「エネルギー切れ。無理だね。ゲームオーバー。チェックメイト」
「くう!私がこんな・・・ところ・・・で・・・」

『任務完了。ハイネに近づく害虫は駆除されました』
・・・意識を失う直前、とんでもない言葉を聞いたような気がする。

ノーマルスーツを着て宇宙空間に出る。隣のルナマリアが何か言っているようだが、通信を切っている為聞こえない。

回収され、意識を取り戻した後、最初に見たのは憤怒の表情の艦長だった。
3時間に及ぶ説教の際、髪が徐々にズレて行ったのはなんだったんだろう?
今回のペナルティーはミネルバの隔壁の修理、艦内掃除と甲板掃除3週間、
更に格納庫の部屋の撤去、秘密結社の解散だった。
ロココとナインに隔壁修理を、その他戦闘員に掃除をまかせた。
残った二人で甲板掃除をしているのだが・・・

(あの様子じゃ諦めてないな・・・)

走り出したら止まらない、恋に恋する、とっても迂闊で残念な暴走少女。

(でもまあ、そこがいいとこなのかもしれない)

元の世界に戻っても、彼女の事、振り回された日々は忘れる事がないだろう。
いつか家族が出来たら話してやろう。真実の愛を求めて暴走した愛すべきおバカの事を。