中身 氏_red eyes_第16話

Last-modified: 2009-11-03 (火) 22:34:23

レッドアイズを含む陽動艦隊が、ザフトパトロール艦隊と交戦している頃、
ヤキン・ドゥーエⅢに静かに接近を成功させていた艦隊があった。
ミラージュコロイドを展開したSOCOM本隊である。

 

ヤキン・ドゥーエⅢの周辺宙域には、2度に渡る大規模な戦闘のせいもあってMSや戦艦の残骸、
元は先代、先々代のヤキン・ドゥーエであった大小の石ころが大量に漂っていた。
残骸は熱を発する物もある為粗方回収されたが、依然として2つ分の要塞だった石ころ達は健在である。
その航行が困難な宙域を、二手に分かれていた彼らは
ヤキン・ドゥーエⅢ前方に展開している防衛艦隊目掛けて進んでいた。
「敵本隊に動きは?」
「ありません。新造艦も姿を見せていませんが・・・」
「距離が大分離れているからな。パトロール艦隊は諦めたか」
「若しくは、陽動だと気付いているのかも・・・」
オペレーターの答えにイザークとキラは各々の予想を口にする。陽動艦隊は上手くやってくれている。
しかし、モニター上の艦隊は1隻も動かずにそれを静観していた。
何かある。2人共それには気付いているが、それが何か分からない。
モニターに拡大して映る敵本隊は、事前に数えた通り配備された数と一致する。
こちらのミラージュコロイドによる隠密も完璧だ。今の所懸念材料は無いといって良い。
「だが、アイレスのゲルググは敵も捕捉している。
 さっさと仕掛けないと、プラントから応援が来る可能性もある」
「・・・・・・分かった。僕が合図したら、全艦ミラージュコロイドを解除、
 敵本隊に対して一斉攻撃、その後MS隊を発進させる。
 その後の艦隊指揮はイザークに任せる。第2艦隊にも伝達」
「了解」
賽は投げられたのだ。もう前にしか道は無い。
指示を出して、イザークに見送られる形でブリッジを出る。
自分達の乗るプライスがいる第1艦隊とは別ルートを取る第2艦隊にも、アスランと黒い三連星がいる。
心配は無い筈である。
ここで一気にヤキン・ドゥーエⅢを攻略して、最小の被害でプラントでの決戦に持ち込みたかった。

 

「出撃ですか、大佐」
「うん、忙しくなるよ」
パイロットスーツを着込み、宇宙戦仕様の装備をしたフリーダムに乗り込む。
次々とコクピットのスイッチを入れながら、ブリッジに通信を繋げて合図を送った。
「中佐、攻撃を開始して」
『了解した。全艦、攻撃開始!!』
イザークの命令を合図に、防衛艦隊を挟む形で左右に展開していたSOCOM艦隊が
ミラージュコロイドを解除、搭載された火器の全てが火を噴いた。
数多のビームとミサイル、レールガンが、防衛艦隊に殺到し、宇宙に巨大な火球を作りだす。
『全艦、撃ち方止め!!』
始まった時同様、イザークの命令を合図に攻撃が止む。
一斉攻撃による爆炎が消え、たっぷりと攻撃を叩きこまれた防衛艦隊が姿を現す。
その姿は見るも無残な物だった。艦の数は攻撃する前の4割にも満たない。
密集隊形をとっていた事が幸いして中心に近い部分にいる艦は無事だが、
その盾となった艦は跡形も無かった。
ブリッジクル―や、パイロット達の中にはガッツポーズを取る者もいる。
しかし、その光景をコクピットの中から見たキラはある違和感を覚えた。

 

「・・・残骸が少なすぎる」

 

戦艦とはMSとは比べ物にならない程巨大な建造物である。
勿論、その中にいる人員やMSも含めると、爆発した時に発生する残骸もMSの比では無い。
しかし目の前のモニターに映る防衛艦隊は、6割以上の艦が撃沈していながら然程残骸が見られない。
「イザーク、防衛艦隊は囮だ!早くMS隊を発進させてっ!僕も!!」
師の意図に気付いたキラは、急いでブリッジに通信を繋ぐ。
プライスの右隣りに位置していたナスカⅡ級が、被弾の炎を上げたのはその時だった。
『どこからの攻撃だ!』
『艦隊左舷からです!』
『そっちには石ころしか無い筈だ。・・・まんまと嵌められたというのか!?』
第1艦隊が攻撃を受けたと同時刻に、防衛艦隊を挟んで反対側にいる第2艦隊も攻撃を受けていた。
艦隊の左舷に位置する艦には、既に被弾して深手を負っている物も出ている。

 

「艦長、私を出して下さい。奇襲し返されたとなれば、一刻も早く手を打たねば手遅れになります」
既にナイトジャスティスに待機していたアスランが、ある懸念を確かめようと、
正に戦場と化しているブリッジに通信を送る。
『君なら何とか出来ると?』
「分かりません。しかし、先ずは状況を見ない事には何も始まりません」
『・・・分かった。但し、黒い三連星を僚機に付けるぞ』
「了解、感謝します」
既に変装はバレて、SOCOM全体が彼をアスラン・ザラとして認識していた。
この事は一切口外しないと約束が交わされ、その事については安堵の表情を浮かべたアスランだったが、
残念ながら彼はSOCOMから信用されていないらしい。当然と言えば当然である。
過去の大戦で幾度と無く陣営を裏切り、クーデターまで画策した男を信用する者などいない。
黒い三連星を付けるというのは、自分を何時でも背中から撃てるという脅し兼保険なのだろう。
だが、それでもアスランは嬉しかった。自ら動く事も出来ずに死んでいく事だけは避けられたのだから。
アスランに限らず、シンの称する4馬鹿は誰しも自分で動かないと気が済まない者達だ。
良くも悪くも、その行動力こそが彼らが彼ら足らん由縁である。
「アスラン・ザラ、ナイトジャスティス、出るぞ!」
射出口から見える風景を懐かしむ心は一先ず置いて、赤い竜を宇宙へと奔らせる。
「これはっ・・・!!」
状況が分かる様に艦隊から高く飛び上がったアスランは絶句する。
受けている被害にではない。
奇襲してきた物の、その姿にだ。

 

奇襲してきたのは、石ころだった。正確には、石ころに偽装していた戦艦であった。
それが次々と偽装を解きながら、第2艦隊を攻撃してきているのだ。
『いたいた。あんたのお守を任されてるんだ。急に飛び出して貰っちゃ困るよ』
ナイトジャスティスの周りに黒に紫のラインを引いたゲルググイレイザーが3機接近してきた。
黒い三連星だ。
「拙いぞ、これは・・・」
『えっ?』
それにはお構い無しに、アスランは戦況の事を口にした。
マーズもその言葉に釣られて見渡してみると、石ころの偽装を解いて奇襲してきた艦隊が
左舷から徐々に横に広がっていく。
防衛艦隊も今までの密集隊形では無く、横に広がり始めている。
『まさか・・・!』
「このままじゃ、囲まれる・・・」
アスランの懸念が現実の物となっていた。彼らの位置からは窺い知る事は出来ないが、
もう少し離れた場所から戦場全体を俯瞰すれば、第1、第2艦隊を丸ごと取り囲む
巨大な包囲網が出来上がろうとしていたのである。

 

『で、どうする?私等はアンタの下に付けって言われたんだ。アンタの命令に従う』
それは半分本当で半分嘘であった。確かに彼を隊長に臨時のMS隊という形を取る様に言われているが、
おかしな動きが見られたら何時でも彼を撃てという命令も受けている。
「一点突破だ」
『というと?』
「広がりつつある敵艦隊の端の部分、ヤキン・ドゥーエⅢの反対方向だ。
 そこを撃破すれば、陽動艦隊とも合流出来る筈だ。
 ここからでも、ナイトジャスティスなら包囲網が完成する前に割り込める」
そう言うと、ヒルダ機の方に意味深に目配せするナイトジャスティス。
『なんだ?』
「付いてこれるか?」
『・・・良い度胸だ』
アスランの言葉を侮辱と受け取ったのか、3機は一斉に飛び出した。
「おっおい!?」
一拍遅れてナイトジャスティスを奔らせ始めたアスラン。
アスランの言う端に一直線に向かう黒い三連星。
宇宙で目標地点に一直線に向かっていく事は、実は難しい。
この速度で敵艦隊の端に寸分違わず向かえるのは、相当な腕の証である。
前方を奔る機体を見ながら感心していた彼だったが、自分の機体との距離の縮まらなさに違和感を覚える。
キラに言ってゲルググイレイザーのスペックは目を通したが、
無理矢理追加バーニアで過多な推進力を生みだすナイトジャスティスには速度で劣っていた。
しかし目の前の機体はナイトジャスティスと距離を保ち続けている。そこで彼は気付いた。
黒い三連星のゲルググイレイザーが、通常では装備していない装備を身に着けている。
それはバーニアであった。
通常、速度が十分あるゲルググイレイザーは、各ハードポイントにキャノンや対艦刀、
特殊兵装を装備している。
しかし、黒い三連星だけは例外であった。彼らはその全てに追加バーニアを装備しているのである。
その加速力は通常の1.5倍を誇り、黒い三連星はSOCOMでもエースの名を不動の物としていた。
心強い味方を得たと微笑みながら、アスランはナイトジャスティスの加速度を上げた。

 
 

『これでっ!!』
最後のドムトルーパーを撃破したシンは、
そのままの勢いで16番艦のブリッジをドラゴンキラーで突き刺した。
同時にルナマリアがバレットドラグーンで艦体全体を攻撃する。
2機のガンダムの攻撃を受けた16番艦は、炎に包まれ、爆発した。
『状況はクリア。アーサー艦長、本隊が包囲された状態に置かれている。急がねば』
「ああ、損傷した機体は一旦戻って補給を受けてくれ。我々は敵包囲網の一番薄い部分を食い破る。
 ギャズ、バデスの艦載機は先行。アイレスの艦載機は当艦隊の護衛だ。艦隊最大戦速!」
『了解、俺達は先行する!』
冷静な声を発するアイレスの艦長に応え、陽動艦隊の指揮を取っていたアーサーが指示を出す。
それにシンが答えると、ギャズ、バデスの艦載機が一斉にバーニアを吹かしながら戦場へと消えていった。

 

「・・・・・・」
通り過ぎる16番艦の残骸を捉え、アーサーは周りが気付かないくらい小さく敬礼をする。
彼らは逃げなかった。
16番艦の艦長は、陽動艦隊を少しでも足止めする為に攻撃を続けたのだろう。
普通なら降伏している筈だ。
援軍が来る事などあり得ない状況でそれを成した彼に、アーサーは敬礼したのだった。

 
 
 

ヤキン・ドゥーエⅢ司令室、そこはつい半刻前にはいなかったオペレーターや作業員が
忙しく行きかう戦場と化していた。
いくつもの大型モニターが照らす室内の中央に司令席の、その横に立つ人物が口を開く。
「上手くいきましたな。こんな手に引っ掛かってくれるとは」
「こんなと言ってくれるな。こう見えてもワシは工作が好きなんだ」
「メカニック達が良い仕事をしてくれたお陰ですな」
長い事共に戦場にいる参謀が、司令官に話しかける。
プラントから送られてくる資源に限界があっても、宙域に漂う戦艦やMSの残骸はいくらでもある。
防衛艦隊に偽装させていた艦は、その全てが残骸の寄せ集めで
外見だけそれらしくみせた張りぼてであった。
中に熱源を発する物を入れておくだけで、遠目には立派な艦に見えるという寸法である。
「しかし、デブリに隠してあった艦隊を発見されなかったのは僥倖でした。
 てっきり直ぐバレると思いましたが」
「・・・お前は本当にワシの案を馬鹿にするのが好きだな」
「趣味ですから」
真顔でそんな事を言う部下に溜息を吐きながら、モニターに目をやる。
確かにデブリの偽装がバレなかったのは意外だった。
この偽装は、先手を取れれば良い程度の物で、それ以上の効果は期待していなかった。
普通なら接触するなりなんなりして分かるものであるが、
これはSOCOMの操舵手の腕が良過ぎた為と言える。
彼らはミラージュコロイドを用いた侵入が発覚するのを防ぐ為に、デブリに1つも触れていない。
デブリの多いこの宙域でそれが出来るのは相当な腕である事の証だが、
今回ばかりはそれが自分の首を絞める事になっていた。
『お呼びですか、司令官』
司令席から端末を操作すると、直ぐに端正な顔の好青年、歌姫の騎士団団長の顔がモニターに映る。
「ああ、我々は敵を囲う包囲網を完成させたいんだが、
 もう直ぐ口が締まるって所で頑強にこちらの足を止めてくる部隊がいてな。それの排除を頼む」
大型モニターに映った戦略図には、丁度SOCOM本隊を袋に包む様に防衛艦隊が布陣している。
しかし、ただ1点だけSOCOMの部隊が袋の皮に食い込んで閉じてしまうのを防いでいた。
アップで写されたのは、赤のゴツい機体が1機に、ゲルググイレイザーのカスタム機が3機。
数としては大した事は無いのだが、MSが数字だけで測れないのは司令官自身良く知っている。
だが、それに対する攻略方も、彼は知っていた。
数を覆す敵には、それを上回る質の味方をぶつければ良い。
『了解しました。歌姫の騎士団の力、期待して下さい』
青いパイロットスーツに身を包んだ団長は、最後に敬礼をしてモニターから消えた

 

「もう騎士団を出しますか。・・・例の新造艦はどうします?」
「あれはザフト全体の旗艦となるラクス殿の艦だ。軽々しく出して傷物にする訳にもいかんだろう」
「成程」

 

このまま焦らずゆるりと攻めていれば、新造艦を出さずとも勝負は付く。
SOCOMという玩具を得て慢心した男の反乱も、ここで終わるのだ。