中身 氏_red eyes_第25話

Last-modified: 2010-01-25 (月) 01:49:58

『キラ、何も最初からお前が出る必要は無い!』

「最初だからだよ中佐。奇襲に必要なのは先手の強烈さだからね。
 一発目がジャブじゃ奇襲の意味が無いんだ。後、作戦中は大佐」
『ぐっ、どうしてもというなら俺が出る!大佐は艦の指揮を・・・』
「プライスの事を一番知ってるのは中佐でしょ?艦隊の指揮も、君の方が長けてるからね」
『だが・・・!!』
尚も食い付こうとするイザークからの通信を、フリーダムのコクピットから一方的に切る。
様々ある専用の武装をありったけ積んだフリーダムは、MSの固定器具に収まりきらず
ハンガーの真ん中に直立している。
そのコクピットで出撃準備を進めるキラは、自分がどれだけ愚かな行為をしているか十分に理解していた。

奇襲とはいえ、敵艦隊のど真ん中に飛び込む先鋒である。
その決死隊とも言える役は、本来なら司令官が担うべき物では無い。
キラが死ねば、精神的支柱を失ったSOCOMは簡単に崩れ、瞬く間に殲滅されるだろう。
しかし、この役は他には譲れない。
何時も戦場の最前線を駆けてきた聖剣、それが今使われずに何時使われるというのか。

 

『良かったのか、これで』
「うん。ケジメぐらい自分で付けたいから。それに、アスランもいるからね」
『俺はこの戦いが終わるまで、お前を守る。勝手に死ぬなよ』
プライスに二つある別のハンガーから、アスランが通信を入れてきた。
彼もまた決死隊に志願した者の一人だ。
カガリもいるというのに、相も変わらず向こう見ずな親友である。

 

『敵艦隊までの距離1000、未だ動き無し』
カウント代わりである敵艦隊との距離が、オペレーターの口から告げられる。
カタパルトに移動するフリーダムは、重武装を纏った体を重そうに揺らしながら脚部を固定した。
初めから連結されたロングビームライフル二丁を両手に保持し、
クスィフィアスは片方上下二門の連装型の物を装備。
バラエーナとドラグーンの両方を内蔵した、普段の倍の大きさを誇る巨大な翼を器用に折り畳んで、
体勢を低くするフリーダム。
『敵艦隊との距離500、更に接近します!』
オペレーターの悲鳴の様な声が聞こえてくる。敵艦とここまで接近する事など殆ど無い。
ブリッジクル―達もさぞ肝が冷えてる事だろう。そろそろ敵艦も気付く。キラは操縦桿を握り締めた。
「行こうフリーダム。これが、最後の出撃だ」
『敵艦隊との距離100、フリーダムどうぞ!』
「了解。キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!!」
リニアによる火花と共に、フリーダムが敵意渦巻く宇宙に飛び出して言った。

 
 

プラント防衛隊旗艦スレイプニルのブリッジに、けたたましい警告音が響く。
突然レーダーに出現した光点に、オペレーターが悲鳴を上げた。
「敵艦捕捉っ!!12時の方向、距離100!?」
「言われなくとも此方からでも見えている!」
「艦長、この距離では本艦も危険です!」
「後退は出来ん!これ以上退がっては、国民に不安を与える事になる。
 艦隊は定位置にて迎撃!乱戦になる、味方の弾に当たるなよ!」
肉眼でも艦一隻一隻を見分けられる距離に現れた艦隊は、間違い無く逆賊であるSOCOMの物であった。
副長の中佐がスレイプニルの後退を進言したが、旗艦であるスレイプニルが退いては
国民を不安にさせる所か、下手をすれば艦隊の士気を著しく落とす可能性もある。
「ラクス殿、宜しいですね?」
「はい。此処は戦場、元より覚悟の上です」
後ろに座るラクスに確認を取る。しかし、何度も戦場を駆けてきた彼女には愚問であった。
「騎士団に連絡して下さい。ラクス・クラインから出撃命令が出たと」
「了解!」
騎士団への命令は基本的に議長であるラクス・クラインにしか出せない。
彼女の命令を、オペレ―タ―が騎士団に伝える。
「艦内待機中のMSも準備が完了し次第随時発進!敵をプラントに近寄らせるな!」
C.E史上最も交戦距離の近い艦隊戦が、今始まった。

 
 

艦隊の最前列に位置するゴースト、そのハンガーでも出撃準備が進んでいた。
しかし、開戦目前に関わらずトラブルに見舞われる。
「フルアーマーシステムの調整で少し時間を食うって!?」
『そんなに怒鳴らないでくれよ。時間って言ってもほんの少しだ。直ぐ出撃出来る』
「少しって言っても、敵艦との距離は1000を切ってるんだぞ!」
今回ウォルフガングに装備される事になったゲルググイレイザー用アサルトシュラウドの改修版である
フルアーマーシステムに、出撃直前のチェックで重量調整の見落としが発見されたのだ。
『分かってる!今調整中だ!』
二人の男が怒鳴り合っている間に、アビーからの通信が入る。
『どちらにせよ、ウォルフガングは開戦にはギリギリ間に合いません。
 ルナマリアに先行して出撃してもらいます』
「そんなっ・・・!!」
OSを弄りながらも、シンの顔が蒼白になる。
ルナマリアを単独で出撃させるという事態は、彼にとって最も憂慮すべき問題だからだ。
「なら、俺がレイヴンに乗って!」
『これ以上我儘言わないの!』
冷静さを失っているシンに、ルナマリアの言葉による張り手が飛ぶ。
「でも・・・」
『昔からレディファーストって言うでしょ。今回はシンよりスコア稼がせて貰うから。
 活躍の機会盗らないでよ?』
「・・・分かった、気を付けて」
ワザと明るめな声色でシンを安心させるルナマリアの手腕に、ヴィーノはホッと胸を撫で下ろす。
伊達に何年もこの男の恋人をやってはいない。
ヴィーノが急ピッチで調整を続ける横で、ルナマリアがリニアカタパルトに機体を移動させる。
『ルナマリア、本艦は艦隊の最前列に位置しています。
 ですから、艦を防衛していれば自ずとプラントへの道が開けると考えられます。
 あまりゴーストから離れ過ぎない様に』
『了解!シミュレ―タ―で鍛えたドラグーン捌き見せてあげるわ。
 ルナマリア・ホーク、インパルスレイヴン、出るわよ!!』
通常よりも出力を抑えたリニアカタパルトが火を吹き、レイヴンを戦場に送りだした。

 

「ルナ・・・。ヴィーノ、調整に後どれ位かかる?」
『1分、って言いたい所だけど、30秒で終わらせる』
「すまない」
シンの通信に、手を止めずに答えるヴィーノ。
『シン、状況は先程ルナマリアに話した通りです。出撃後はゴーストの防衛について下さい。
 この艦は前進以外能がありませんから』
「了解」
ルナマリアにしたのと同じ様にシンに説明するアビー。
シンはパイロットとして当然な認識に、その時初めて気付く。
アビーやヴィーノ、それにアーサー。
自分はみんなにサポートされて、初めてこの戦闘能力は発揮出来るのだ。
ルナマリアも同じサポートを受けているなら、彼女も大丈夫な筈だ。
シンにはこの時言葉が思い浮かばなかったが、それは人が≪信頼≫と呼ぶ物だった。

 

『・・・・・・よし、出来た!シン、出撃OKだ!』
「サンキュ!後でコーヒーでも奢るよ」
『却下、俺は紅茶の方が好き』
「分かったよ。紅茶だな」
軽口を叩きながらも、シンの視線はカタパルトから広がる宇宙空間に釘付けであった。
丸いフォルムになったウォルフガングをリニアカタパルトに固定させる。
黒い追加装甲で頭以外をスッポリと包み、全身にミサイルを積んだウォルフガングが、
主に呼応する様に宇宙を睨む。
機体の姿勢を低くさせて一拍置いた後、カタパルト上部に取り付けられた秒読み用のランプが
赤から青に変わる。
「シン・アスカ、デスティニーウォルフガング、行きます!!」
守る為に自分を犠牲にしてきた黒い狼が、光芒閃く暗闇に駆けた。

 
 
 

至近距離で開戦した大戦は、MSによる射撃戦で幕を開けた。
ガナーウィザードを装備した両陣営のMSのミサイルが、高出力ビーム砲が、
MSを引き裂き、宙域を光で染め上げる。
「A中隊、B中隊は僕と正面を突破!H中隊J中隊は艦を!!」
開戦して10分と経っていないにも関わらず、最前線は残骸で溢れてかえっていた。
そのキルゾーン内を機械仕掛けの天使が舞う。
重武装を施された機体はしかし、追加されたバーニアによって機動性に些かの陰りも見せない。
味方に指示を飛ばしながらも、行く手を阻むドムトルーパーの一団にドラグーンとバラエーナ、
クスィフィアスとロングビームライフルやカリドゥスによる暴雨を降らせる。
しかし、破壊された味方の残骸を踏み越えた敵機が次から次に迫ってくる。
戦場でフリーダムは目立つ上に、司令官が乗っているのだから当然であった。
当のキラもそれを狙っての出撃だったが、彼の考えていたよりも敵の抵抗が激しい。
末端の兵である彼らに、ラクスの作戦は伝わっていない。
ラクスの思惑通り、文字通り祖国を背負った兵達の気迫は凄まじく、
それが今回の攻撃の主犯であるキラを襲っていた。

 

「くっ!」
段々とビームシールドを張る回数が増えて行く。遂にミサイルが脚部に直撃した。
PS装甲の為被害は無いものの、衝撃が機体を襲う。
「まだっ!」
瞬時に体勢を立て直し、ミサイルを放ったドムトルーパーの四肢をバラエーナで吹き飛ばした。
しかしフリーダムへの攻撃は終わらない。複数のオストロス改の銃口が紫電を帯びる。
『させるかっ!!』
フリーダムをロックしていたドムトルーパーの一団は、真下から迫る深紅の竜に気付くのが一瞬遅れた。
その一瞬で、二機のドムトルーパーが高出力ビームの餌食になる。
他の機体が咄嗟に銃口を向けるものの、既に遅い。
抜刀したトツカノツルギが、交差際に残りのドムトルーパーを切り裂いた。
「アスランッ!?」
爆炎を背負うナイトジャスティスを認め、パイロットの名を呼ぶ。
『こんな所で死ぬ気か!お前は、これから成すべき事の方が多いんだろう?』
「ごめん」
『謝るのは後だ。来るぞ!』
赤と白の機体が並び立つその光景は、戦場に出た者ならば誰もが知っている畏怖の象徴である。
その恐ろしさからか、二機目掛けて大量の敵機が殺到した。

 
 

出撃早々目の前に躍り出たスラッシュウィザード装備のドムトルーパーを
パルマフォルキーナで貫いたシンは、辺りにレイヴンの機影を探した。
こう敵味方が入り乱れては、僚機を探すのも一苦労である。
「いた!」
ゴーストの底部で、バレットドラグーンを展開して敵機ゴーストへの攻撃を防ぐレイヴンを見つける。
ビームハンドガンで応戦しているが明らかに射程が足りていない。
「このっ!」
駆け付けたい衝動を抑え、長距離砲を展開、レイヴンに集中している敵機を狙撃する。
宇宙空間ではその咆哮は聞こえないものの、十分な威力を持って敵機を貫いた。
「ルナ、大丈夫か!?」
『なんとか。敵はやっぱりガナーウィザードが多いわね』
「みたいだな。虱潰しにしないとあっという間にゴーストが沈められそうだ」
ゴーストの前方への攻撃能力は凄まじい物があるが、
他の方向への攻撃能力は殆ど無いと言わざるを得ない。
防衛する側からして見ればこの上無い程守り難い艦であった。
「アビー、出来るだけで良い。ガナー装備のMSを発見次第、優先的に知らせてくれ」
『了解。最前列で砲列を組んでいるローラシアⅡ級を排除し次第、後衛の艦から主力部隊が出撃します。
 そちらはキラ大佐のA中隊、B中隊が担当しますので、それまで持ち堪えて下さい』
「あの人は、大将の癖に何してんだ!ルナ、俺は上に付く。ルナはここにいてくれ」
『持ち場分担って所ね。分かったわ』
艦載機が二機しかいない以上、レッドアイズから攻撃に回せる機体は今の所無い。
しかし、ゴーストにはナスカⅡ級二隻分の火力がある。
プラントが盾にされて主砲は使えないが、それでも大火力には変わりなかった。
その為、主力部隊が出撃すれば、三機のゲルググイレイザーが
ゴーストの護衛役を引き継ぐ手筈になっている。
ヤキン・ドゥーエⅢ戦で活躍したウォルフガングとレイヴンが戦闘単位として期待されている証拠であった。

 
 

激しく戦火を交えるSOCOM軍の後方に位置した、未だMSを出撃させていない艦隊があった。
MSを容量ギリギリまで積載した主力艦隊である。
戦況はまだ前哨戦と呼べる物であり、主力を投入するのは戦況が次の段階に移行してからである。
その合図はプライスの艦長であるイザーク・ジュール中佐から出される予定であった。
『あー、まだですかね出撃は』
「先鋒の連中が敵艦をある程度黙らせるまでの辛抱だ。お前は自分の体の心配でもしてな!」
『まぁしかし、もし敵艦を黙らせられなくて先鋒組が全滅でもしたら、
 俺達の出番はどうなるんだろうな。撤退戦でもするのか?』
「はっ、ウチは天下のSOCOMだよ?どんな悪条件でも作戦を成功させるのが私等の仕事さ」
主力艦隊の左翼に位置するナスカⅡ級『シェパード』。
ヤキン・ドゥーエⅢ戦の際、第二艦隊の旗艦を務めていた艦である。
そのハンガーで、主力部隊に割り当てられた黒い三連星が暇を持て余していた。
事前の作戦では彼らも先鋒を務める予定だったが、マーズの負傷でメンバーから外されたのだ。
幸い、マーズの怪我はMSの操縦に支障は無いものの、痛み止めを打って体を誤魔化している状態だった。
『アレン撃沈!!ゲーリー航行不能!!』
通信チャンネルをオールオープンにしている為、先程から戦況に関する情報が耳に入ってくる。
普通ならその情報一つで一喜一憂する物だが、戦場慣れしている彼らには無縁な話であった。
どんな事態になろうと、己の仕事をこなすだけである。
しかし、次のオペレーターの報告には流石に思わず腰を浮かせた。
『大佐率いるA、B中隊が敵前線で砲列を組むローラシアⅡ級に食いつきました!二隻目を撃沈!!』
『やりやがったなアイツ等!!』
「だから言ったろ?大佐殿が付いてて失敗なんてありえないよ」
『じゃあ出撃準備だな。派手に行こうぜ!』
キラが上げたドデカい花火に、艦隊全体から歓声が上がる。
後方に控えていたシェパードとプライス、他五隻の艦の口が、一斉に開いた。
その中から顔を覗かせるのは、単眼を赤く光らせる重騎兵達。

 

『全機出撃!ラクス・クラインを倒すぞ!!』

 

単純明快な命令がイザークから発せられる。
全機核動力という史上最強の部隊が、数の差を覆すべく総攻撃を開始した。