中身 氏_red eyes_第31話

Last-modified: 2010-03-14 (日) 02:18:34

キラとラクスの戦闘が再び動き出した頃、それとは正反対に動きを止めた戦闘があった。

 

「聞いただろ?アンタは、ラクスを満足させる為だけに生み出された人間なんだ!」

 

ラクスと戦っているキラが装備しているドラゴンキラーを通して、
二人の通信はシンと戦う四人目のキラにも筒抜けになっていた。
その衝撃的な内容に、先程からグラムフリーダムの動きは止まったままだ。
「もうそんな奴に従う理由なんて無いんじゃないか?俺達と一緒に・・・」

 

違う

 

訴えかけるシンの声は、キラの強い声に遮られた。

 

本物の、死んでしまった僕が彼女を悲しませて、間違った道を歩ませてしまったんなら・・・
グラムフリーダムが再び起動する。静止した状態から高速機動状態まで、全くのノ―モーション。
デュアルアイの残光が上に伸び、それだけがシンにグラムフリーダムが上に移動した事を知らせる。
「まだやる気なのか!?」
僕がラクスの傍にいて、彼女を正しい道に救いだせば良い!
丁度ウォルフガングの真上に移動したグラムフリーダムのカリドゥスが吠える。
それを弧を描く様に回避したウォルフガングが、お返しとばかりに二門の長距離砲を放った。

 

「本当に分かってるのか!?あの人は、自分の為だけにアンタを造ったんだぞ!!」
そんな事分かってるさ!でもラクスは僕に取って大切な人なんだ!だから、守ってみせる!』
キラの純粋過ぎる叫びに、シンは舌打ちした。
道を踏み外した人間を今まで数多く見てきた彼からすれば、ラクスはもう更生出来る段階にはいない。
少なくとも、国を背負って立つのはもう無理だ。
先程の通信を聞いても、目の前の男はそれを理解出来ていないらしい。
つくづく人を理解出来ない男である、とシンは思う。
しかも、それでいて自分が造られた存在だという事実も投げ出してラクスを守ろうとしているのだから、
二重の意味で馬鹿である。
「アンタのその我儘が、どれだけ人を巻き込むか知ってるのかよ!!」
なら、君達の起こした今回の戦いで、どれだけの人が死んだと思うんだ!?
二人の叫びは、光刃の鍔迫り合いの音に消える。
左手のパルマフィオキーナを叩きこもうとするウォルフガングに、空かさずドラグーンの射線が集中する。
それを紙一重で回避したウォルフガングが、ビームライフルを連射してドラグーンを追い払った。
互いが気持ちを譲らない様に、戦闘に置いても互いに一歩も譲らない。

 

その拮抗した局面に、外からの変化が生じる。
光の束がウォルフガングのいる位置とは違う方向からグラムフリーダムに襲いかかった。
それを難無く回避したグラムフリーダムが飛来した方向を睨みつける。
そこには、二機のゲルググイレイザーがいた。
『レッドアイズのシン・アスカだな』
「アンタ等、どうしてここに?」
『ジュール中佐が大佐を探して来いと命令を出した。我々は捜索隊という訳だ』
ブレイズウィザードを装備した隊長機らしい一機がウォルフガングに並ぶ。
捜索隊が出ているという事は、それだけ主戦場に余裕が出てきたという事だ。SOCOMの勝利は近い。
「キラ・・・大佐なら向こうにいる。今座標を送る」
『いや、後で良い。来るぞ!』
シンが、先程まで捉えていたドラゴンキラーの座標を送ろうとしたのも束の間、
七基のドラグーンが一斉に攻撃を仕掛けてきた。
三機はバラバラの方向に回避する事で光の雨をやり過ごそうとする。
「気を付けろ!あれには、例の計画で造られた大佐のクローンが乗ってる」
『成程、見た目だけかと思ったが、ドラグーンの操作も熟練している。面倒だな』
『隊長!ここはシン・アスカに任せて大佐を・・・』
『いや、奴を残しておいては後々厄介だ。ここで確実に仕留める』
ソードウィザードを装備した僚機がキラの捜索を優先するべきではと進言するが、
隊長は目の前の脅威を取り除く方を選んだ。
シンとしても、ドラグーンを確実に回避出来るだけの腕を持つ味方が増えるのは有り難い。
しかし本物のキラはもっと危ない敵と戦っているのだ。

 

「待て!アイツは俺が相手する。大佐は新型の大型MAを一人で相手してる。
 座標を送ったから、そっちの援護に行ってくれ」
『隊長、やはり』
『全くあの人らしい・・・情報は受け取った。ここは任せるぞ!』
ドラグーンを回避しながら、二機のゲルググイレイザーが離脱行動の動きを見せる。
しかし、グラムフリーダムのデュアルアイがそれを見逃す筈も無かった。
ラクスの所へ行く気!?やらせない!!
今までシンに攻撃していた三基も含めたドラグーンの全基が一斉にゲルググイレイザーに殺到した。
『このっ・・・!!』
咄嗟に反応した隊長機がミサイルを一斉射し、回避行動を取ったドラグーン二基を
ソードウィザードのゲルググイレイザーがビームブーメランで切り裂く。
見事な連携だったがしかし、それも撃ち止めだった。
残った五基が、迎撃した直後で動きが鈍った二機の四肢を貫いた。
「大丈夫か!?」
『我々に構うな。貴様はあのフリーダムを・・・!』
戦闘不能になったゲルググイレイザーが成すがまま真空を漂う。
それを見届けたシンは斬りかかって来たグラムフリーダムのビームサーベルをドラゴンキラーで受け止めた。
「まだあんな戦い方をして・・・。あれで助けたつもりか?
 あの二人は戦闘が終わるまであのまま漂うんだぞ!?」
だから何だっていうの?死ぬより、殺すよりずっと良い
「正式な訓練も経験も無いアンタには分からないかもしれないけどな。
 戦場であんな無防備でいるってのは、死ぬより怖い事なんだよ!」
キラのシレっとした返答が、シンの心を点火した。
自慢の出力でビームサーベルを押し返す。しかし、心に点火したのはキラも同じだった。
だからって全員殺すの!?そんなの・・・!!
「そうしたくなきゃ完璧にやれよ!中途半端にやるのはな、偽善って言うんだよ!!」
力任せにドラゴンキラーを振り切り、グラムフリーダムを後退させる。
バックステップしたグラムフリーダムは空かさずカリドゥスを放った。
それを紙一重で回避したウォルフガングがビームライフルを連射する。
物事には優先順位がある。それに、他のパイロットに僕と同じ事をやれっていうのは無理だよ
「じゃあ無防備に死んでく連中がいても仕方ないっていうのか?」
・・・・・・そう解釈されても仕方ないね。
 でも、僕が殺さなかった百人の内、一人しか助からなくても・・・一人でも助かるなら、
 僕はこの戦い方を止めない!どれだけの人に恨まれても!!

 

キラの決意は、メサイア戦没後、彼が悩み抜いて決めた事だった。
しかし結局の所シンの主張もキラの主張も無意味な物かもしれない。
戦場にあって、生殺与奪の権利は常に勝者が握っている。
つまり、百人勝者がいれば百通りの答えがあるのだ。
そんな問題をたった二人で争うのは端から無理な話だ。
「そんなの、アンタの中で勝手に決めた事だ!他人を巻き込んでおいて、偉そうに宣言なんてすんな!」
数が減った事で幾らか対応し易くなったドラグーンに向けて、長距離砲を放つ。
二本の凶暴な光が、一基のドラグーンを捉えた。
しかしシンはそれだけで満足しない。空かさず回避行動を取る他の四基の内
一基に狙いを付けてドラゴンキラーで斬りつける。
真っ二つになったドラグーンが小爆発を起こした。だが、残った三基がウォルフガングを取り囲む。
先程ゲルググイレイザーを葬った攻撃の再現である。
「やらせるかっ!!」
しかしその結末は再現とはならなかった。

 

一撃目を機体を仰け反らせる事で回避したウォルフガングは、
そのまま右肩に装備したビームブーメランを掴む。
投げる動作を利用して二撃目を回避。
放たれたビームブーメランは寸分違わず攻撃を行った二基のドラグーンを切り裂いた。
だが、残った一基の射撃への対応が遅れた。
三撃目が真上からウォルフガングの長距離砲の片割れと左足を貫く。
「うぁ!?」
足が爆発した事でよろめいたウォルフガングを、キラが見逃す筈は無かった。
君を倒して、僕がラクスを救うんだ!!
レールガンとビームライフルの雨がウォルフガングを襲う。
爆発の衝撃から立ち直れないウォルフガングは、それをもろに受けた。
左腕、残った長距離砲が破壊される。光の翼も片方が光を失った。
致命的な損傷。勝敗は決まったかの様に見えた。
しかし、当のシン・アスカはまだ諦めていなかった。

 

「まだだ、まだ・・・俺はっ・・・!!」
シンの脳裏に、見知った感覚が走る。何かが弾ける様な、力が解放される感覚。

 

主の変化に反応する様に、ウォルフガングにも変化が生じる。
機体全体が漆黒に彩られ、フェイスガードとハンドガードが展開された。
最後に、右手に握られたドラゴンキラーが大きく展開し、
MS一機分に匹敵する幅と長さの光刃が形成される。
シンに残された唯一の攻撃手段は、『BASTARD』モードを用いた特攻だった。
なんとも芸の無い、しかし自分らしい最終手段である。
ハイライトの消えた瞳で軽く笑うのを最後に、グラムフリーダムにドラゴンキラーの切っ先を向け、
生き残ったバーニア全てを総動員して真っ直ぐ突っ込む。
それを見たキラは、グラムフリーダムを全速力で後退させた。
しかし、損傷しているとはいえ前進する機体と後退する機体では、前者の方が速力で勝った。
だが両機の距離が狭まる間にも、グラムフリーダムの射撃がウォルフガングを削る。
ビームライフルで右足の膝から下が吹っ飛び、生き残ったドラグーンによって残ったVLが削ぎ取られる。
しかし、シンはそれを意に介さない。胴体と右腕一本が生き残ればそれで良い。
致命傷と思われる射撃のみを、右肩のバーニアを使って紙一重で回避する。更に両機の距離が縮まった。
後はドラゴンキラーがグラムフリーダムを貫けば終わる。

 

だが、一瞬の気の緩みが仇となった。
横から放たれたドラグーンの一撃が、ドラゴンキラーの柄を貫いたのだ。
もう少しという所で、巨大な光刃が消滅する。
今度こそ勝敗が決した。これが映画なら、途中でも立ち上がる者がいるかもしれない。
しかし当事者である二人にはそんな気持ちは微塵も無かった。
グラムフリーダムは右手のビームライフルをビームサーベルに切り替え、左腕でビームシールドを張り、
カリドゥスの砲門には紫電が走る。
ウォルフガングの攻撃はシールドで受け止め、こちらにはビームサーベルにカリドゥス、
一発分のエネルギーが残ったドラグーンがある。
正に盤石。しかし、そんな負けの見えた勝負にもシンは退かなかった。
本来、『BASTARD』モードではドラゴンキラー以外の武器が使用出来ない。
それは大剣の形成にエネルギーの殆どを持って行かれるからだ。
しかしその媒介になる筈のドラゴンキラーは既に存在しない。
シンは素早くキ―をタッチする。モニターが危険を訴えてくるが、知った事では無い。
大剣を失って無様に伸ばされていた掌から、凶暴な光が溢れ出した。
しかし、大き過ぎる火は自らも焼く。
パルマフィオキーナが、大剣を形成する為に使われる膨大なエネルギーの全てを受け取り、
本来想定されていない出力に自壊を始たのだ。
遂に両機が激突するという直前、グラムフリーダムのカリドゥスは後一歩の所で発射が間に合わなかった。
ドラグーンを操作する余裕も無い。代わりに、突き出していたビームサーベルが
ウォルフガングの頭部を貫く。
そして、己の右腕を破壊しながら放たれたパルマフィオキーナは障壁となるビームシールドを貫通、
その脇腹に深々と突き刺ささった。

 

狼の爪が、遂に天使を捉えたのだ。