久遠281 氏_MARCHOCIAS_第16話

Last-modified: 2014-08-23 (土) 23:55:09

――MARCHOCIAS――

 第十六話 心情

 
 

"ブリュンヒルデ"の展望デッキで、コニールは周りを飛び回る岩の隙間から、瞬く星を眺めていた。
いや、はたから見たら、その視線は"見ている"と言うより"睨んでいる"としか見えないほど鋭いものだった。

「……何で、宇宙空間睨んでんだよ」
呆れたような声に、コニールは声がした方に顔を向けた。
そこではシンが、怪訝そうな顔でこちらを見ていた。

「だって、このガラスの向こう側は、もう宇宙なんだろ!?空気も酸素も無いんだろ!?」
「……空気と酸素は、ほぼ同じだろ。そもそもこれはガラスじゃなくて巨大スクリーンだし、スクリーンの向こう側には装甲あるぞ」
「どっちにしろ、破られたらお終いなのはかわりないだろ!?」
「まあ……、そうなんだけど……」
何故かやたらとテンパっているコニールに、シンは気圧されたように言葉を濁した。
コニールとしては、自分が宇宙に来るなんて、今まで考えた事無かったのだ。
それが今、自分が宇宙にいると思うと、やたらとその危険性を考えてしまう。

「……一応言っとくけど、戦闘にでもならない限り、艦に穴が開くなんて事無いからな」
「分かってるよ!」
苛立ったコニールの声に、シンはため息を吐いた。
シンの立場から見れば、八つ当たりされたとしか思えない状況なのだから仕方がない。
仕方がないとは思うが、それでもコニールは腹が立った。
思わずシンの方から勢いよく、顔をそらす。
それを見て、シンはもう一度吐息を吐き出した。

「……それよりも、そろそろブリッジにもどるぞ」
「え!?」
シンのうんざりしたような声に、コニールは驚きの声を上げて、先ほど逸らしたばかりの視線を戻した。
「『え!?』って、どうせこの後しばらく、宇宙空間しか見える景色はないんだ。嫌でも飽きるまで見る事になるぞ」
「いや、そういう訳じゃなくてさ。……また、通路通るんだろ?」
コニールの言葉に、シンは一瞬驚いたように目を見開いた後、何やら納得した様な表情をした。

今居る展望デッキは人工重力があるが、通路にはその重力はない。
"少しくらいは、宇宙の環境に慣れておいてもらわないと困る"とのイザークの指示で、コニールはこの展望デッキまで、無重力の通路を歩かされたのだ。
無重力の通路は歩き辛く、少し強く床を蹴るとたちまち体が浮き上がってしまい、しかも一度浮き上がってしまうと何かに当たるまで方向を変える事さえ出来ない。
コニールが、お目付役であるシンと共にこの展望デッキに着いた頃には、はっきり言って"宇宙になんて来るんじゃなかった"と言う思いがコニールの頭の中を支配していた。
ここに来るまでの間に、コニールはその思いを散々怒鳴り散らしたため、シンもそれを分かっている。

 

だからこそ、眉を寄せて困ったような顔をしたのだろう。

「気持ちは分からなくもないけどさ、そろそろ一度ブリッジに戻って、状況を確かめておきたいんだ」
「それは分かるんだけどさ……」
コニールの声は、後半になるにつれて音量が小さくなる。
その様子にシンが、またしても吐息を吐き出す。
自分がわがままを言っている自覚のあるコニールは、思わずうつむいてシンと視線が合わないようにした。

「……ほら」
うつむいたコニールの視界に映ったのは、こちらに差し出されたシンの手だった。
シンの意図が分からず、コニールは思わず視界を上げ、首をかしげる。

「……手!」
「え……?あ、……はいっ!」
そんなコニールに焦れたのか、シンが苛立った声を上げる。
それに慌てて答えたコニールは、意味が分からないままその手を握った。
コニールの手を握ったシンは、そのままコニールを引きずるように歩き出し、展望デッキから無重力の廊下に出た。
そしてそのまま廊下を蹴って、無重力空間を飛ぶ。
コニールはそのシンに引っ張られるようにして、無重力空間を進んだ。

コニールとは違い、シンはバランスを崩す事無く無重力空間をコニールを引っ張って進む。
そんな状況の中、コニールは手持無沙汰になり、なんとなくシンの後ろ姿を見つめた。
身長的には16歳の時とあまり変わらないシンと、自分の間に大きな差はない。
だが、やはり男性だからか、少しシンの方が肩幅が広い気がする。

そう言えば、シンの見た目がこんなだから忘れていたが、シンの方が少し年上だったはずだ。
さらに良く考えれば、自分は今、異性と手をつないでいるのか?
いや、良く考えなくてもそうだろう。

そう思うと、コニールは顔に血が集まるのを感じた。
幸運なのは、シンは前を見ていてこちらに気が付いていない事だろう。

――ここで手を振り払うのも不自然だ。
  だから、このまましばらく手を繋いでいた方がいいはずだ。
  うん、いいはずなんだ。

なぜかコニールは、必死にそう自分に言い聞かせながら、そのままシンに引っ張られて廊下を進んだ。
だが、それも長い時間は続かなかった。

『コンディションレッド発令!パイロットは搭乗機にて待機せよ!』

突然艦内に響いた放送に、前を進んでいたシンが急に立ち止まり、コニールの方を振り返った。
「コニール、一人でブリッジまで戻れるか!?」

 

「え?あ……、う、うん!多分平気!」
コニールは、顔が赤い事を悟られたのではないかと言う不安から、少し上ずった声でそう答えた。
「ごめん!コニールはブリッジに戻っててくれ!」
そう言うと、シンはコニールが何か答えるよりも早く、繋いでいた手を放して廊下を蹴った。
そしてそのまま、角を曲がって姿を消す。
コニールはシンの姿が見えなくなっても顔の熱が消えず、しばらくその場に立ち尽くした。

 
 

****

 
 

シンはパイロット用の更衣室に飛び込むと、あらかじめ教えられていたロッカーを開いた。
ロッカー中には、紅いザフトのパイロットスーツとヘルメットが入れられていた。
シンはスーツを取り出すと、急いで袖を通す。
過去に何度も着た物だ。
体が覚えていたらしく、手間取る事無くすんなりと着こむことが出来た。

シンはヘルメットを掴むと、格納庫に続くエレベーターに乗り込む。
そして格納庫に着くと、他のパイロット達は大体出撃準備が終わった後だったらしい。
カタパルトに続く通路に、MSが運ばれていくのが見えた。

格納庫にいた整備士達には、すでに自分の事が知らされていたのだろう。
直ぐに一人の整備士が、自分に向かって手を振っているのが見えた。
その整備士は、近くに置いてあった水色のグフイグナイテッドを指差す。
どうやら、"これに乗れ"という事らしい。

シンは急いでタラップに上がると、そのグフイグナイテッドに乗り込んだ。
そしてハッチを閉じると、起動ボタンを押す。

『シン・アスカ!』
途端に聞こえて来た声に、シンはちらりと視線を通信機に向けた。
そこに映っていたのはイザークだ。
しかしシンはすぐにイザークから視線を外し、メインモニターに機体のマニュアルを呼び出す。

『敵はすでにMSを展開している。今現在確認されただけでも、数はこちらの倍だ』
「なんでそんなに接近されるまで、気が付かなかったんだよ!?」
『ニュートロンジャマーの影響で、センサーが捉えるまで時間がかかった!それに、貨物船に偽装していた!』
苛立ったイザークの声を聴きながら、シンはモニターに現れた文字を読む。
大量生産機だけあって、操作自体はさほど難しくは無さそうだ。
しかし遠距離攻撃が全くないのは、少しつらいかもしれない。
なにせ、エネルギービームライフルさえ無いのだ。

 

集落を襲ったグフイグナイテッドが持っていたことを考えると、使えない事も無いのだろうが、基本装備には無いものらしい。

『こちらのMS隊のほとんどが、実戦らしい実戦を経験するのは初めての奴等ばかりだ。向こうも似たようなものだろうが、数からしてこちらの不利だ。……貴様には、期待させてもらうぞ』
「りょーかい」

――"期待している"ではなく、"期待せざるを得ない"って状況だろ。

そう思い、シンが肩をすくめながら答えると、イザークは眉を潜めて舌打ちをした。
直後に、乱暴に通信が切れる。
その途端、機体がカタパルトに向かって動き出したようだった。
シンはその間にもOSのチェックをする。
設定が宇宙空間での戦闘に最適化されている事や、他にいくつかの項目を確かめ頃には、機体はカタパルトにセットされていた。

『グフイグナイテッド、シン・アスカ機、発進どうぞ!』
スピーカーからオペレーターの声が聞こえてくる。
シンはコントロール・スティックを握ると、正面モニターを睨む。
正面モニターには、カタパルトの先に広がる漆黒の宇宙が映し出されていた。

「……シン・アスカ、グフイグナイテッド、行きます!」
気合を入れた声を合図に、グフイグナイテッドの機体が宇宙空間に投げ出される。
(……宇宙戦の感覚、忘れてなければいいけど)
こればかりは、実際にやってみなければ分からない。
シンは腹をくくって、ペダルを踏み込み機体を加速させる。

宇宙空間を飛びながら、シンは敵機の姿をレーダーで探した。
探している姿は、意外とすぐに見つかった。
味方機を示すマーカーのすぐ近くに、その味方機を示すマーカーよりもはるかに多くの敵機を示すマーカーが付いている。
それを見た瞬間、シンは思わず舌打ちをする。
取り敢えず、シンは敵機が居る方向に向かって、グフイグナイテッドを飛ばした。
そして戦場を見た途端、シンは思わず眉を寄せた。
そこでは敵機と味方機が入り乱れ、混戦状態になっていたのだ。
しかも敵も味方も同じ型とカラーリングの機体ばかりで、目視で敵味方を判断する事が難しい。
これはどちらもザフトの機体であるため、仕方が無いと言えば仕方がない事ではあるのだが。

『貴様ら、固まり過ぎだ!もっと散れ!』
通信機からイザークの怒声が響く。
しかし味方機は敵の猛攻に気を取られてか、なかなか散る事が出来ない。

『こりゃ、思ってたよりも、やばいかもな』
内容に比べて軽い言い方の声が響くと同時に、横からビームが発射された。
そのビームは的確に、敵機を貫き火達磨に変える。
シンがビームの飛んできた方を見ると、高エネルギー長距離ビーム砲を持ったグフイグナイテッドがそこにはいた。
どうやら、グフイグナイテッドを長距離用にカスタマイズした機体のようだ。

 

乗っているのは、ディアッカだろう。

『シミュレーターではいい成績の奴等なんだけど、実力の均衡した相手と実際に戦うのは初めての奴等ばかりだからなぁ』
ディアッカがそういう間にも、一機一機に細かな指示を出すイザークの声が、通信機から聞こえてくる。
しかし、いくらいい指示を上が出したとしても、それを戦場にいる者がこなせなければ意味はない。
数に差がある事もあり、戦前にいるパイロット達はパニック寸前だ。
そんな奴等に指示を出しても、ろくに反応は出来ないだろう。

と、不意に、コックビット内に警告音が鳴り響いた。
驚いたシンが視線を周りに向けると、大きな岩がこちらに向かって飛んできていた。

宇宙空間では重力が無いため、一度スピードが付くと自然に減速したり、止まったりする事はない。
しかも大気が無い事と対比物が無い事で、目標との距離を目視で図る事は難しい。
遠いと思っていたものがすぐ近くにあったり、逆に近いと思っていたものが遠くにあるなんて事は珍しくない。
その為、地上で戦っている時よりもセンサーを意識しなければならないのだが、そのセンサーに先ほどまでこちらに向かってくる岩は記されていなかったはずだ。
シンが不審に思いながらもグフイグナイテッドを加速させると、岩はそのままシンのグフイグナイテッドの横を通り過ぎ、他の岩に衝突した。
衝突した岩はその衝撃で、今まで向かっていた方向とは別の方向に進路を変える。
それを繰り返して、気が付くとセンサーには、あちらこちらで岩が勢いよく飛び回っている事が映し出されていた。

何でこんな事になったのか、シンがそう思考を巡らした瞬間、少し離れたところを閃光が飛んで行った。
ディアッカの長距離ビーム砲のものではない。
ましてや、敵MSの撃ったものでもない。
シンが閃光の飛んできた方向に目をやると、そこには大型の宇宙船があった。
その外観は、まるで普通の貨物船のようだった。
しかしその外層がはがれた所から、高エネルギー収束火線砲等の火器と、別の装甲がのぞいている。
どうやら戦闘母艦に、貨物船に見えるように偽装された装甲を取り付けたもののようだ。

その戦闘母艦が、こちらに向かって砲を立て続けに撃ち込んできた。 
戦闘母艦が放った攻撃が、周りに浮かぶ岩に当たる。
比較的小さい岩は、その攻撃でさらに細かく砕かれ、大きい岩はそのまま衝撃で動き出す。
どうやら突然岩が激しく動き出したのは、この戦闘母艦の攻撃が原因らしい。

その戦闘母艦は、高速でブリュンヒルデに向かっていた。
シンは戦闘母艦の行動に驚いて、その姿を唖然としながら見つめた。
通常、母艦を戦場真っ只中に突っ込ませるなんて事、行わない。
確かに大型の戦闘母艦なら、MSに比べて高い攻撃力を持つ兵器を搭載している事も多いが、それを差し引いてもデメリットの方が大きいからだ。

MSが損傷しても、母艦が無事ならばその母艦に帰還し、パイロットが生還できる可能性がある。
しかし母艦が落とされれば、いくらMSが無事でもパイロットの生存確率は一気に減る。
MSなんて放って置けば酸素もバッテリーも無くなり、ただの金と手間のかかった棺桶にしかならない。
宇宙空間であれば、なおさらだ。
だからこそ、絶対に母艦は落ちてはならないのだ。

 

そして、落ちてはいけないからこそ、戦場では被弾の少ない後方に位置していなくてはならない。

だが、今目の前にいる戦闘母艦は、そんな常識をまるで無視した行動を取っている。
激しく動き回る岩の中、敵戦闘母艦は真っ直ぐにブリュンヒルデに向かって進んでいる。
まだ、搭載しているMSが足りず、手数が足りないと言うなら分かるが、MSの数は向こうの方がずっと多い。
それなのに、戦艦対戦艦に臨もうとする理由が分からない。
もっともその敵MS達も、飛び回る岩を避けなければならなくなった為、先ほどよりも勢いがなくなっているようだったが。

まあ、相手にどんな意図があるにせよ、敵戦闘母艦をブリュンヒルデに近づけていい理由にはならない。
MSと戦艦なら、小回りが利く分MSの方が有利だろう。

「ディアッカ、フォロー頼む!」
シンはそう言うと、ディアッカが何か答える前に、ペダルを踏み込んでグフイグナイテッドを加速させた。
ここからの位置だと、最短距離は敵MSの群れを突っ切るような形になるが、シンは迷わずそのルートを選んだ。
グフイグナイテッドの盾からテンペストを引き抜くと、MSの群れに向かって機体を加速させる。
そしてレーダーを確認して、一番近くにいた敵のグフイグナイテッドに狙いをつけた。
そのグフイグナイテッドのパイロットは、飛んで来る岩に気を取られていたのだろう。
ほとんど反応出来ないまま、シンのテンペストによって上半身と下半身に分断された。

シンはそのままの勢いで、すぐ近くにいた敵MSに向かってドラウプニル4連装ビームガンを打ち込んだ。
しかしそのMSのパイロットは、前に集落を襲ったグフイグナイテッドのパイロットよりも、数段腕が良かったらしい。
盾を使って、こちらの攻撃を防ぐ。

それを見たシンは、直ぐさまテンペストをしまうとスレイヤーウイップに切り替え、敵MSに向かって振り下ろす。
スレイヤーウイップは敵MSの盾に当たり、その衝撃に相手はバランスを崩した。
その隙に、もう一度スレイヤーウイップを振り上げる。
スレイヤーウイップは敵MSの胴体に当たり、鞭から発生した高周波の所為か、その動きが一瞬止まった。
シンは確実に止めを刺すため、ペダルを踏み込むと同時に、もう一度テンペストを引き抜いた。
そして一気に近づくと、テンペストで敵MSを真っ二つにする。

しかしその間に、他の敵MSに接近を許してしまった。
背後を敵MSに取られた事を知らせるアラームに、シンは舌打ちをする。

敵グフイグナイテッドが、背後でテンペストを振り上げる。
と、次の瞬間、突然その敵グフイグナイテッドが閃光を受けて爆発四散した。
驚いたシンをよそに、他の敵MSも閃光に貫かれて爆発四散する。
その正確な射撃が、ディアッカの援護である事に、シンは直ぐに気が付いた。
どうやら、自分の頼みを律儀に聞き入れてくれたらしい。

礼を言おうと思ったが、飛び回る岩の所為か通信が安定してつながらないようなので、礼を言うのは帰ってからにすることにした。
そう決めると、シンは再びペダルを踏み込む。

『シン・アスカ!なるべく殺すな!奴等とて、プラントの民だ!!』
不意に聞こえて来たノイズ交じりのイザークの声に、シンは思わず眉を寄せた。

 

「そんな余裕は無い!」
シンはそう答えるながら、こちらに向かって飛んできた閃光をかわす。
通信機の向こうで、イザークが舌打ちをしたのが聞こえた。

プラントを救いたいイザークとしては、あまりザフトそのものが弱体化する事は好ましくないのだろう。
しかし"絶対に"と命令するには、向こうとこちらに戦力差があり過ぎる。
無理に殺さずを貫けば、無用な犠牲が出かねない。
そのジレンマが、先ほど舌打ちという形で出たのだろう。
それが分かっているからこそ、シンは特に気にする事無く戦闘に集中する。

ディアッカの援護を受けて、敵MSの群れを強引に突破すると、今度は敵戦闘母艦からの攻撃が激しくなる。
しかし、戦艦に固定された砲では、死角が大き過ぎる。
シンはその死角を突いて、一気に戦闘母艦に近づいた。
狙うはブリッジ。
そこならば動力部からも遠く、攻撃しても誘爆はしないだろう。

シンはそう思い、テンペストを振りかぶる。
センサーが後ろから敵MSが追ってきている事を知らせていたが、シンはそれを無視した。
そして、雄叫びと共にテンペストをブリッジがあると思わしき部分に振り下ろす。

テンペストが戦闘母艦の装甲を切り裂き、破片が宇宙空間に散る。
火器の制御もブリッジで行われていたのだろう。
シンがブリッジを破壊した途端、戦闘母艦から絶えず発射されていたビームとCIWSが止まった。
それを確認すると、シンは機体を動かして戦闘母艦から離れる。

破壊されたのはブリッジだけだ。
他の部分は生きているのだから、緊急処置をすればしばらくの間、中の生き残った人達も生きることが出来るだろう。
生命維持機関がどのくらい生きているかは分からないが、いつまでも帰還しなければ、その内ザフトから捜索隊が出るはずだ。
最悪、救命ポットもあるのだ。
ブリッジにいた者以外は、生き残る道がまだいくつも残されている。
動力部を破壊され、デブリと変わらぬ状態で宇宙をさ迷うより、いくらかはマシだろう。

もっとも、シンは彼らが絶対に助かる状態にしようと思ったわけではない。
これで助からなかったとしても責任は取れないし、取る気も無い。
そもそも少し違えば、自分が彼らに殺されていたかもしれないのだ。
そんな相手を心配するほど優しくも無ければ、馬鹿でも無い。

敵MS部隊は、指揮をしていた者が居なくなって、混乱したようだった。
ついさっきまでこちらに向かっていた敵MSも、呆然と宇宙空間に佇んでいる。
『この間に離脱する!全MSは、すぐさま帰還しろ!!』
イザークの声を聴き、シンはブリュンヒルデに向かって機体を飛ばした。
一度だけ振り返って見たが、どうやらそれ以上の追撃は無いようだった。

 
 

】【】【?