久遠281 氏_MARCHOCIAS_第3話

Last-modified: 2014-06-23 (月) 20:19:08
 

 第三話 偽りの唄

 
 

漆黒を切り裂き閃光が走る。
それは自分に向けられた殺意。
自分はその閃光をかわしながら、自らの乗る機体を走らす。
それは青い八枚の翼を持った白いMS。
その姿は宇宙空間の漆黒の中、まるで新星の様に白く輝いていた。

 

自分はそのMSを操りながら、漆黒を切り裂くように飛来する閃光の元を探す。
やがて見つかった"それ"は円盤状の背負い物をした黒いMS。
その周りを八機の"ドラグーン"が飛び回る。
先ほどから飛来していた閃光はこのドラグーンから発せられたものだろう。
その姿を確認すると、自機に搭載されている"スーパードラグーン"を切り離し、
黒いMSとドラグーン全機をロックオンする。
相手もこちらをロックオンするが、もはや遅い。
スーパードラグーンと高エネルギービームライフルから発せられた閃光が、
黒いMSのメインカメラ、手足、そして周りを飛ぶ八機のドラグーン全てを破壊する。

 

その直後に鳴り響いた警報は、新たな敵機が近づいている事を知らせるものだった。
しかし自分は不思議なくらい落ち着いていた。
回避行動を取りながら相手位置をセンサーで確認する。
直後、一瞬前に自機がいた空間を巨大な対艦刀が切り裂いた。
宇宙の漆黒を切り裂いたその対艦刀を持つのは、
悪魔を思い起こされる赤い隈取りと鳥に似た紅い翼を持つMS。
その姿に一瞬心に痛みを感じたが、すぐさま頭を切り替える。
だがその一瞬の間に相手はこちらとの距離を縮め、もう一度対艦刀を振り下ろしてきた。
その攻撃をかわすと、巨大な対艦刀を振り下ろした後の隙を突いて距離をとる。
そして先ほどと同じように、メインカメラと手足をロックオンして引き金を引いた。
直後に前面モニターに現れたのは、"ミッション終了"の大きな文字。
それを見た瞬間、緊張が解れて思わず大きく息を吐き出す。

 

『キラ』

 

息を吐き出して項垂れていた自分を呼ぶ声がして、キラは顔を上げた。
いつの間にかにモニターには漆黒の宇宙空間は消えており、代わりに広いMSの格納庫が広がっていた。
格納庫の中には白衣を着た研究者達があちこちで動き回っている。
その様子を写すモニターの中心に位置するタラップの上には、ピンク色の髪をした女性が立っていた。
「ラクス!」
その姿を見た瞬間、キラはうれしくなって急いでコックピットハッチを開いてMSから飛び降りた。
「すみません、キラ……。辛い事をさせて……」
ラクスに駆け寄った途端、辛そうにそういわれてキラは一瞬何の事か分からなかった。
「……もしかして、さっきの相手機体の事?」
そういうと、ラクスは無言でうなずいた。

 

先ほど自分が戦った黒い機体の名は"レジェンド"
 ――辛く、短命の運命を背負った少年が乗っていた機体。
もう一方の隈取りを持った機体の名は"デスティニー"
 ――戦いの運命を背負い、結局自分達が助ける事が出来なかった少年が駆っていた機体。

 

「……"戦う"って言ったのは僕だよ。だから君が気にする事は何も無い。
 それに今あるデータの中で∞ジャスティスとストライクフリーダムを抜けば、あの二機が一番性能が高い」
今回のシュミレーションの目的は、"なるべく強い機体"と戦闘する"キラの乗ったMS"のデータ収集だ。
新型MSの製作が禁止されている今、使える機体データは過去に作られたものだけだ。
そこで今回使われたデータが先ほどの二機だった。
しかしこの二機はキラに辛い事を思い起こさせるものだと言う事を、ラクスは知っていた。
だからこそ、キラに対して謝っているのだ。

 

「そんな悲しそうな顔しないで。そんな顔していると、みんなも心配するよ。」
「キラ……」
キラはラクスを元気付けようと、なるべくやさしい声で語りかける。
キラの声を聞いて、ラクスは顔を上げて真っ直ぐにキラを見た。
昔はキラとラクス身長差は十センチ程しかなかったが、今ではキラの背は随分伸びた。
一方ラクスの方は、昔なら化粧などほとんどしていなかったのに、今では厚めの化粧で彩られている。
しかしそれは仕方ないとキラは思う。
政治の世界は何かとストレスと過労が溜まるし、それを顔に出すわけにはいかないのだから。
「……ありがとうございます。キラも、もうお疲れでしょう?少しお休みになってください」
「うん、そうさせてもらうよ。ラクスは?」
「わたくしはもう少しここで作業を見させていただきますわ」
「……無理はしないでね」
「これくらい、大丈夫ですわ」
どこか心配そうにそう言ったキラに、ラクスは笑って答えた。
その様子に、キラは困ったように微笑んだ。
だがそれ以上は何も言わず、格納庫を後にする。
キラが出て行くと、格納庫にはラクスと研究者だけが残された。

 

「……キラの戦闘データはどれくらい取れましたか?」

 

それは先ほどキラと話していた時とは比べ物にならないほど低く、冷たい声だった。
その声に、近くにいた研究者がパネルを操作しながら答える。
「はい、量としては申し分ないです。ただ、このデータをそのまま使うと、
 コックピットを外す戦い方になるかと」
「そうですか……。
 では、データを変更して必要な時は敵コックピットを狙うように設定し直してください。
 準備出来しだい、テストとして出撃させます」
「わかりました。あと、新型機については……」
「それについては後で伺いますわ」
ラクスの指示に研究者は敬礼で了解の意思を示すと、作業に戻っていった。
一人残されたラクスは、先ほどまでキラの乗っていたMSに近づく。
そしてその装甲に両手で触れ、目を閉じて頬を寄せた。
「……これが完成すれば、戦いは終わる……。もうキラを辛い戦場に出す必要も無くなる……」
その声は広い格納庫の中、誰にも届く事は無かった。

 

ラクスが触れたMSの名は"ストライクフリーダム"。
そして、その機体とまったく同じ形の機体が全部で十機、格納庫の中に無言で佇んでいた。

 
 

****

 
 

鍋を叩く音が響いてきて、シンは座った状態のMSをコンテナ内に鎖で固定する作業を中断した。
「皆、昼ご飯ですよ~」
開け放たれたコンテナのドアの前を、整備士が鍋を叩きながら通り過ぎる。
その声に作業していた傭兵団の仲間達が、作業を中断してコンテナ外へと出て行った。
(最終チェックは食べてからするか……)
固定作業は大体終わり、後は細かなチェックをするだけだが、出発予定は明朝だ。
別に急ぐ必要はあるまい。
シンはそう判断して、コンテナ内を後にする。
窓が無いため熱がこもってしまっているコンテナ内とは裏腹に、外は青空が広がり心地よい風が吹いていた。
そんな青空の下、整備士が鍋をかき回していた。
コンテナを改造して作った居住空間に台所などという上等なものは無いので、料理は外で行う。
ただ食べる所は特に指定は無く、自室に持っていって食べてもその場で立ち食いするのも自由だ。

 

「今日のメニューは?」
料理は基本当番制になっており、今日の当番は整備士の彼だったらしい。
その事に軽く安堵しながら、シンは彼に聞いた。
安堵した理由は、この傭兵団には料理音痴が居るからだ。
「スープと鹿肉の塩焼きです」
「鹿肉?」
「ええ、隊長が今朝獲ったやつです」
整備士の説明に、シンは思わず周囲を見回して隊長の姿を探した。
探していた姿は、意外とあっさり見つかった。
ちょうどこちらに来る所だった隊長はシンの視線に気が付いたらしく、軽く手を上げて合図した。
――どうも朝から姿が見えないなと思ったら、そんなことしていたのかこの人は。
シンはそう思ったが、口には出さない。

 

食料補給は確かに大事だ。
もっとも、何かあった時すぐ連絡が取れるところに居なくてどうするのか、とも思うが。
「いや、意外と大きな鹿が取れた。本当なら、肉は数日寝かしておいた方が熟成して美味くなるらしいがな」
「……昔、それで熟成し過ぎて、腹壊した奴が何人も出ましたね」
あれはシンがこの傭兵団に拾われた直後だったから、確か三年ほど前の話しだ。
なにやら妙な酸味がして、酸っぱい物が嫌いなシンはその肉を残した。
それが良かったのかそれとも頑丈すぎる体のせいか、皆が腹を壊した中でシンは平気だった。
その時初めて、シンは自分の酸っぱい物嫌いに感謝したものだ。
他にもこの隊長は鶏肉を生で出したり――牛が生で食べれるのだから平気だと思った、との事――
その辺の雑草を大量に料理に混ぜたり――食費節約の為の水増しだったらしい――
頼むからレシピ通りに作ってくれと頼み込みたくなる物を作る事がある。
もっとも本人に悪気は無く、いたって真面目だ。
だからこそ、たちが悪いとも言うが。
思わず今まで隊長が作ったよく分からない料理――中には料理とはとても認めたくない物もあったが――を
思い出してしまい食欲を無くしたシンは、不意に後ろからの視線を感じて振り返った。

 

シンの視線の先、そこに座って居たのは、一頭の灰褐色の毛並みを持つ犬だった。
体は大きく耳は三角で真っ直ぐ立ち、首は長くて尻尾の先は丸くなっているその犬は、
ただ真っ直ぐとシンの方を見ていた。
シンは少し考えた後、持っていた鹿肉をその犬の方に投げる。
塩が付いているが、この位なら大丈夫だろう。
犬はその鹿肉をうまくキャッチすると、そのまま咥えてどこかに立ち去ってしまった。
「シン、あの犬を餌付けするのやめてください。」
不機嫌を隠すことなくそう言ったのは整備士だ。
実はあの犬にシンが食べ物をやるのはこれが初めてではない。
気が付けば少し離れた所からじっとこちらを見つめている犬に、シンは自分の食事の一部を与えている。
もっとも、今日のようにおかず一品丸ごと与えることなど今までなかったが。
「あの犬、倉庫に巣作ってるみたいで、よく出入りしていて迷惑なんです」
「倉庫?どっちかって言ったらガラクタ置き場の間違い……、いや、なんでもない」
整備士が言った"倉庫"とは、MS整備に使う備品などを置いているコンテナの事だ。
しかしそれを知らない者が見れば、何に使うか分からない鉄板やらボロキレやら
鉄の棒が散乱しているそのさまは、ガラクタ置き場にしか見えないだろう。
それを言おうとしたシンだったが、すごい形相でにらみ付けられ慌てて目線を逸らした。
どうやらまたしても地雷を踏んでしまったらしい事に気が付いたが、もはや後の祭りだ。
「だいたい、体力の必要なパイロットが食事抜いてどうするんですか!」
「……スープは飲んでるぞ」
「それで足りるわけ無いでしょ!」
整備士の怒りを和らげようと抵抗を試みたシンだったが、どうやら火に油を注いだだけだったようだ。
こうなったら周りの奴等も面白がって止めようとはしないので、黙って整備士の怒声を聞くしかない。
せめてなるべく早く終わる事を祈るとしよう。
ちょうどシンがそんな事を思ったタイミングだった。

 

「三時方向にMS反応!識別コードは……ザフトのものです!」

 

食事中もセンサーで辺りを警戒していた仲間の声に、シンは持っていたスープの入った器を
近くに居た仲間に押し付けた。
なにやら大声を発している整備士を無視して全速力で走り、自分のMSが置かれているコンテナに駆け込む。
そしてMSを固定していた鎖を手早く外すとコックピットに飛び込み、起動ボタンを押す。
「いいか、出るのは相手がこちらに攻撃の意思を見せてからだ。
 たまたま他の目的地に行くため、ここを通りかかっただけである事を祈れ!」
「了解!」
緊張した隊長の声に、シンは自分のMS"ウィンダム"の設定を確認しながら答えた。
いつでも出られる準備が終わったところで、シンはコンテナの外に設置された監視カメラにアクセスする。
正面モニターが切り替わり、コンテナ内部から青い空に映像が変わる。
青い空の映像の中に白い点を見つけて、シンはその部分を拡大した。
そして驚愕に目を見開いた。
「何で……、何でこいつが!?」

 

モニターに映ったもの、それは八枚の青い翼を持つMS、"ストライクフリーダム"
それがシンの知る、そのMSの名だった。

 
 

】【】【

 
 
 

 
 おまけ(?)
 最終話 偽りの最終話

 
 

キラ「皆間違ってるよ!ラクスは老けたんじゃない!
   ただ少し疲労が溜まって肌のつやが無くなり、皺が出来たりしてるから、
   厚めに化粧してるだけだ!」
シン「……はいはい、惚れた弱み乙」
キラ「……(#゚Д゚)」
アスラン「大体それを"老けた"って言うんじゃないか?キラ」

 
 

ラクス「……皆さん、少しそこでじっとしててください」←レクイエム発射ボタン押しながら

 
 
 
 

主要キャラが蒸発してしまったので、MARCHOCIASはこれにて終了です。
今まで読んでくださり、ありがとうございました。

 
 
 
 
 

……嘘です。まだ続きます。