伊達と酔狂_第03話

Last-modified: 2007-12-26 (水) 23:53:51

キラとシンはデバイス作りと特訓と簡単な任務の日々を繰り返していた。
そんな中フェイトの直属の部下であったシャーリーが手伝いに、そしてエリオがそれを見学しに訪れた。
シャーリーはすぐに二人に打ち解け、エリオも二人に懐いた。

 

そんなある日なのはとフェイトはマリーに
「それでマリーさん、デバイスの方はどんな感じなんですか?」
「いや~、キラ君凄いね。基礎と応用を教えたらもう殆ど理解して私なんか彼のアイデアに驚くだけだよ。
しかも夜通しで作業しちゃうし…この調子なら数日で完成するよ」
フェイトはそれを聞いて驚いた。
「夜通しって…それで特訓もこなすって…キラって見かけによらずタフなんだね」
そこへシャーリーが現われた。
「マリーさん、キラさんが呼んでましたよ。少し見て欲しいところがあるとかで」
「あ、はいはい」
そういってマリーは走って開発ルームに向かった。

 
 

それから数日後デバイスは完成した。
二人のデバイスのお披露目に関係者が集まった。
「まずはキラ君のデバイスから紹介しますね。それじゃあキラ君」
マリーに言われてキラは蒼い翼の形をしたデバイスを握り名前を呼んだ。
「フリーダム、起動」
キラは自分のかつての愛機を模したデバイスを起動させた。バリアジャケットは騎士甲冑似ている感じで基に白と青を基調としたものである。
背中には大きな八枚の翼、腰には折りたたみ式レールガン、手には二挺のライフルを持っていた。
「キラ君は遠距離から近距離まで幅広く戦える殲滅型です。武装は他にカートリッジを消費してシュペールラケルタサーベルがあります。
背中の翼「ドラグーン」はなのはさんのブラスタービットと似たようなものだと思ってください。キラ君実際起動してみてどんな感じ?」
「少し違和感があるけど、良い感じです」
「お次はシン君」
「う…デスティニー」
少し恥ずかしそうにシンは紅い翼のデバイスを起動させた。
バリアジャケットはキラの色違いで主に深紅と黒を基調としていた。右手にはシンの身長を上回る長刀、背中には折りたたまれた大型ランチャー
そしてキラ同様に大きな紅い翼。
「シン君は主に高速での近距離戦闘に特化していて武器はアロンダイト。他にも武装はありますけど…一番の特徴は…シン君デスティニーに声をかけて」
シンは戸惑いつつ言われたとおりに
「おい、デスティニー」
『君が私に登録されているシン・アスカだな』
いきなりデスティニーが喋ったのでシンはビックリした。デバイスが言語機能を有しているのは知っていたがここまで完全に応答するとは思わなかった。
『魔力発揮地は高いようだがそれを上手くコントロールできていないようだが大丈夫なのか?』
「……マリーさん、なんかコイツ滅茶苦茶ムカつくんですけど?」
「まあまあそのうち慣れるから…多分」
そこへなのはが
「それじゃあ二人とも訓練室で少し軽くテストしてみようか」

 

場所を変えて訓練室
「ターゲットを射出するからそれを倒していってね。それじゃあスタート」
こうして自分達のデバイスによる始めての戦闘が始まった。

 

「俺が相手の懐に飛び込むんで適当に援護お願いします」
「うん、わかったよ」
「いくぞデスティニー」
『了解だ』
「頼むよフリーダム」
『…』
フリーダムはカシャカシャと無機質な機械音を鳴らすだけだった。
シンは背中の翼を広げて深紅の光の翼を展開し猛スピードで突っ込んでいった。
「速い…」
シンのスピードにフェイトは呟いた、がなのはは
「でもちょっと危なっかしい飛び方だね」

 

シンはそのままアロンダイトの魔力刃を展開、リーチの長さを生かして数体を一気に薙ぎ払った。
「フラッシュエッジ」
そのまま魔力で出来たブーメランを射出し難なくターゲットを倒していった。
「こんな動かないターゲット倒してもな…」
『無駄口を叩くな、次の目標を討て』
「…わかってるよ」

 

「うわ~、シンさん凄いです」
エリオはシンの姿を見てそう言った。フェイトは
「エリオも頑張ればすぐにああなれるよ」
「ホントですか!」
(ホントはあまりそうなって欲しくはないんだけどね…)
フェイトの心中は複雑だった。

 

一方キラの方は少し様子がおかしかった。動きにいつものキレがなく、フラフラと飛んで射撃も正確さを欠いた。
(何だ…これ?全然言うことを聞かない…)
それを見たヴィータは
「どうしたんだキラの奴?いつもならパパッと倒しちまうのに」
誰もが目を疑った。
そんなキラを見たシンは
「何やってんだよアンタ!しっかり撃てよ」

 
 

「あらかた倒したみたいだね、それじゃあこれはどうかな?」
次に現われたのは今まで任務で散々苦労させられたアンノウン、管理局はガジェットと名づけた機械兵器だった。
『あの兵器はAMFを展開している、気をつけろ』
デスティニーの呼びかけにシンは
「アレは嫌ってほど任務で体験したからな…でも」
シンはアロンダイトの魔力刃をカットして実剣でガジェットに向かって行った。
「言い忘れてたけど次からはターゲットも回避、防御、攻撃してくるから気をつけてね」
「なっ!」
シンに向かってガジェットは一斉放火を浴びせた。
『シン!』
デスティニーはオートガードであるプロテクションを発動してシンを守った。
『敵に無防備で突っ込んでいくほど君は馬鹿なのか?』
「う、うるさい。いきなりで驚いただけだ」
それからシンは向かって来る攻撃を危なげに全て回避し、一気に距離を詰めた。
「これなら!」
シンはそのままのスピードでガジェットに大振りの袈裟切り。そして切り返して逆袈裟切りで上空の敵を一閃した。
『今のは悪くなかった』
「そうかよ!」
そして倒したガジェットを蹴り、襲い掛かってくるガジェットの群れに突っ込んでいった。

 

「ほ~、やるな~シン。実剣ならAMFは関係あらへんしな」
「しかしあの得物を使うにはまだまだ未熟です」
「ほんならシグナムが稽古つけてあげんとな」
「そうですね」

 

それに比べキラはさっきよりも深刻だった。フリーダムとキラ自身がまったく合致しないのであった。そのため回避するのが精一杯だった。
「くっ、このままじゃ…クスィフィアス」
キラはカートリッジを消費して対フィールド用装備のクスィフィアスを展開した。
(クスィフィアスはヴァリアブルバレットと同じ原理の高速弾を発射する対フィールド魔法)

 

そしてガジェットに全速で接近して
「当れぇ!」
ほぼゼロ距離まで接近して複数のガジェットに叩き込みなんとか倒せた。
「はぁはぁはぁ…次」
キラはそのままフラフラと飛び去った

 

「マリーさん、キラ君…」
「いきなりは無理だったかな?あのデバイスは高度な状況判断が必要なんだけど…やっぱりそれ以上に経験が必要みたいね」
「あのキラ君がデバイスに振り回されてる…」
なのははキラならすぐにデバイスに慣れると思ったが中々難しそうだった。
「シンはなんかデスティニーと口喧嘩しながら戦ってるみたいだし…それぞれ課題が見えたって事が今回の収穫だね」

 
 

「二人ともおつかれさま」
そう言ってなのははキラとシンにドリンクを渡した。
「で、どうだった?」
それを聞いたシンは
「どうもこうも…大変だったよ、なんだよこのデバイス。グチグチ嫌味ばっかり言いやがって」
『それは君がまだまだ未熟だからだ。悔しかったらもっと強くなるんだな』
そのまま口論になったのでなのははキラに話を振った
「キラ君はどうだった?」
「いや…結構、と言うかこれかなり難しいよ」
「具体的にはどんな感じだった?」
「状況に合わせてフリーダムが色々設定を変えるんだよ。防御した方が良い時はシールドの強化、回避の時は防御力を犠牲にしてスピードを上げたり…
僕にはまだ状況判断が上手く出来ないみたいなんだ…だからドラグーンとか使う余裕なんてなかったしね。飛ぶことも難しく感じたよ」」
そこへ口喧嘩中だったシンが
「何だよさっきのは、いつもならアレくらい一掃出来るだろうが」
キラに食って掛かった。
「まあまあ、今回の場合キラ君に足りなかったのは経験。これは特訓するしかないからね、明日から私とマンツーマンね。シンは取り合えずデスティニーと
もっと意思の疎通をすること。戦闘中に喧嘩とか問題外だからね。あとは二人とも剣術はシグナムさんから教わってね。
フェイトちゃんはシンをお願いできる?
「うん、大丈夫だよ」」
そこへヴィータが現われて
「あたしも付き合うぞ。そ~だな、あたしは気分でどっちかに行くわ」
それを聞いたシンは
「アンタ等仕事の方は大丈夫なのかよ?」
「今はそれほど忙しくないし大丈夫だよ」
フェイトは笑顔で答えた。
「私も手伝いたいんやけどな、色々とあってな…」
「リインもですぅ~」
「はやてちゃんたちは仕方ないよ…今が一番忙しいんでしょ?人選とか隊舎の準備とか」
「ん~まあ大体目星は付いたし…あとは声をかけたりとかやね」
そこへキラが
「隊舎とか人選て一体何の話なのかな?」
「そういえばキラ君やシンにはまだ言ってなかったね。今度はやてちゃんが部隊長の新しい部隊が設立するんだ。
名称は古代遺物管理部機動六課。それで今は色々準備中ってわけなの」
「それでな、もし良かったらキラ君やシンも私達の部隊にどうやろな~って。あっ!もちろん強制はせえへんよ」
シンは
「アンタ等に助けてもらってここまでしてくれたんだ、手伝うよ」
キラも頷いた。
それを聞いたはやては嬉しそうに
「おーきにな二人とも」
「じゃあ二人ともそれまでにデバイスをちゃんと使えるようにならないとね。私もビシバシいくよ」
二人にはなのはの笑顔が始めて恐ろしく感じた瞬間であった。
「ハハ、お手柔らかに…」

 

それから毎日二人は内容の濃い特訓が始まった。それぞれなのはとフェイトがマンツーマンで模擬戦、その後シグナムやヴィータ、ザフィーラとも模擬戦といった
ハードな内容だった。キラはなのはとの模擬戦で少しずつフリーダムを使いこなせるようになってきた。
シンも少しずつではあるがデスティニーとの連携が出来るようになってきて、二人とも最初に比べると大きな進歩であった。

 

そして一ヵ月後

 
 

「それじゃあ今日も模擬戦始めるよ、キラ君」
デバイス完成から大分経ちキラも何とか戦闘が出来るレベルまでになったがまだまだだった。
(やっと戦えるようになったけど…まだ駄目だ)
「キラ君?どうしたの?」
気が付いたらなのはの顔が目の前にあった。
「あ、ううん。大丈夫だよ」
「そう?それじゃいこうか」
そして今日もまたいつもの模擬戦が始まった。

 
 

最初からキラは防戦一方になることが多かった。そして今回もキラはなのはのディバインシューターを回避しながら反撃の隙を
狙っていたが正直それどころではなかった。
(くっ!弾道が不規則で読みきれない)
キラもライフルでなのはを射撃したが狙いが定まらず全て避けられてしまった。
(なのは相手に今の僕が砲撃戦を挑んでもまず勝ち目が無い…なら!)
キラはカートリッジを消費してシュペールラケルタサーベルに持ち替えて一気になのはの懐に入ろうと考えた。
「良い判断だけどキラ君、まだ甘いよ」
『Restrict Lock』
キラの体はその場なのはのレストリクトロックで拘束された。
「しまった…」

 
 
 

「はい、キラ君」
「ん、ありがとう」
なのははキラにジュースを渡して隣に座った。キラは向こうではシンとフェイトの模擬戦を見ていた。
相変わらずデスティニーとの口喧嘩は絶えなかったが確実に進歩していた。
なのははそんなキラの様子を見て
「どうしたの?」
「僕はまだまだだな、ってね。このままじゃ何も守れない…」
そんなキラを見てなのはは
「キラ君は、フリーダムの事を信頼してる?」
「信頼?」
キラは首を傾げた。
「うん、キラ君はちょっとまだ自分の戦い方に迷いがある感じかな、もっと自分に自身を持って良いと思うよ。
そしてフリーダムを今よりも信じてあげればそれに応えてくれるんじゃないかな?デバイスだって一緒に戦ってるんだから」
キラはスタンバイモードのフリーダムを握り締めた。
「それじゃあ続きやろうか!」
「うん」

 

二人ともバリアジャケットを身に纏って空に上がった。
(信じる…か、僕も頑張るから君も頼むよ)
キラは目を瞑って深呼吸をして集中した。その瞬間SEEDが発動し、目を開けなのはに向かった。
その飛行は今までよりも力強く、そして速かった。
(少しは分かったのかな?ならコレで)
なのはは牽制でディバインシューターをキラに放った。今までのキラなら防御か回避かで迷っていたが、
今回は何の躊躇もせず自ら飛び込んで行き、複雑な軌道を全て読み切り回避した。
(やるね、今までとはちょっと違うって事みたいね。じゃあこっちも)
なのはも本格的に攻撃を繰り出してきた。16発のアクセルシューターを一気に放ってきたがそれを見たキラは、
瞬時に全部避けるのは難しいと判断して背中のドラグーンを射出した。自身は回避に専念しつつドラグーンでアクセルシューターを相殺していった。
そしてある程度まで減ってきたら二挺のライフルと腰のクスィフィアスでなのはを狙い撃った。それらをなのが回避していると、死角からドラグーンも攻撃してきた。
(アクセルシューターが全て相殺されたか…流石にアレ全部避けながらキラ君と戦うのは厄介だね。…でもキラ君何かいつもと違うみたい。目も虚ろだし…)
当のキラは
(少し辛いけどフリーダムが何を求めているかが何となく解る。なのはの動きも何となく読める。あとは信じるだけ!)
その様子を休憩中のシンとフェイトが見ていた。
「凄いねキラ、なのはといい勝負してる」
「そうか?あの人ならこれくらいのこと出来るさ」
「気になる?」
「全っ然!」
そう言ってシンはバリアジャケットを纏って空に上がった。
「さあ、模擬戦の続きだ」
『シン、休憩はもういいのか?まだ疲れているようだが?』
「うるさい、今度こそ一撃入れるんだ」」
それを見たフェイトは微笑みながら
(何だかんだ言って気になるんだね)
フェイトもバリアジャケットを纏った。結果的にキラとシンがお互いが意識し合う事による相乗効果によって成長していったのであった。

 

なのははドラグーンの攻撃をものともせずにショートバスターを放った。キラもカートリッジを消費してライフルを連結させ、ロングライフルにして対抗した、
がなのはの魔力に押されてキラは吹き飛ばされた。
(何て威力なんだ、今までとは桁違いだ。このままじゃ…)
その瞬間焦ったキラは集中力が切れてバランスを崩した。
「まだ詰めが甘いね」
『Divine Buster』
体勢を崩したキラになのはのディバインバスターが容赦なく襲い掛かった。
(防ぎ…きれない)
防御を抜かれ、ディバインバスターの直撃を喰らったキラだが、何とか地面に着地した。
「大丈夫?キラ君」
なのはがキラの所に降りて来た。
「何とかね…魔力ダメージが思ったより少なくて助かったよ」
模擬戦なのでなのはの魔法はある程度抑えて使用していた。(それでもディバインバスタークラスの威力は中々のものだが)
「あの状況でよく防御が間に合ったね」
「フリーダムのおかげだよ、僕の反応がちょっと遅れたからシールド抜かれたけどね」
その様子を見てなのはは
「でもその様子じゃ少しは分かったのかな?フリーダムのこと」
「少しは、ね」
笑いながらそう言った。

 

「じゃあ今日はこれまで。定期健診があるから後でシャマルさんの所に行ってね」
怪我が完治したからと言ってもたまに検診があるのだ。
「もう大丈夫なんだけどね…」
「一応ね」
そう言ってキラはシャマルのいる検査室に向かった。

 
 

「ちょっと疲れが溜まってるみたいね」
シャマルはカルテを見てキラに告げた。
「デバイス製作、なのはちゃんやシグナム、ヴィータちゃん、ザフィーラとの模擬戦、嘱託魔導師としての仕事、これだけ頑張ってるんだからたまには休まないと
駄目ですよ」
シャマルにそう言われキラは
「分かってはいるんですけどね…」
「分かっているなら少しは体の方を大事にしてくださいね、もう」
そう言われてキラは退室した。
それからシャマルはキラのカルテを見て
(神経が少し衰弱しているけど…これなら許容範囲かしらね?)
そう言ってカルテを仕舞った。

 

この段階でキラの変化にキラ自身も自覚してはいなかった…

 
 

次回予告
なのは「いよいよキラ君がフリーダムの性能をフルに発揮、そしてそこへ任務が」
フェイト「しかし敵の圧倒的物量に押され始めたキラとシンは…」
なのは&フェイト「次回『舞い散る翼、舞い上がる翼』お楽しみに」

 

キラ「……」
シン「どうかしたんですか?」
キラ「いや、何か死亡フラグ的なものが立ったような…」
シン「大丈夫ですよ」」
キラ「そ、そうだよね!
シン「後は俺がちゃんと主役をやりますから、何も心配はいりませんよ!」
キラ「……」