勇敢_第03話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 13:36:36

部隊長オフィス

 

カナードがシグナムを殴り返した直後、一時は一触即発な空気が流れたが
「フ・タ・リ・ト・モ・ヤ・メ・ナ」
はやての目が笑ってない微笑での制止により、沈静化した。
そして今現在は
「主の淹れてくれたコーヒーは最高です」
「本当、インスタントとは思えないわ」
四人で仲よくコーヒータイムとなっていた。
コーヒーを二口ほど飲んだシグナムは、カナードを見据え
「すまん・・・・・いきな殴ってしまって・・・」
素直に謝罪をした。
「全くだ、馬鹿者め。だが、心配させたのは事実だ、すまなかったな、二人とも」
カナードも二人に謝罪をした。
「全くだ、お前が約束を守ってくれたのは確かだが、こちらでは十年も経過していたのだ。まぁ、無事だからよかったが」
シグナムが微笑みながら答えた。
シャマルもカナードを見据え
「本当に心配したんだから!シグナムなんて毎夜毎夜『カナード~さびしいよ~』って枕を抱きしめながら床をゴロゴロ(ゴン!)ひゃ!!」
シャマルが言い終わる前に、シグナムの拳がシャマルの脳天に直撃した。
「シャマル・・・・・・・デタラメを言うな・・・・・次はどこがいい・・・・・・」
シグナムは拳を震わせ攻撃態勢に入る。
シャマルはそれどころではないらしく、頭を抑えうずくまっていた。
その光景を見たはやては
「シグナム、少しは手加減せえへんと」
やんわりとシグナムを注意(?)し
「はい、申し訳ありません」
わざとらしく敬礼をするシグナム。
「二人とも・・・・酷い・・・・・カナードもそう思わない?」
シャマルはカナードに尋ねるが、
「ふふっ・・・」
カナードはその光景を見て笑っていた。そして
「全く・・・・十年経っても、変わらんな、うちの『家族』は」
笑顔で答えた。

 

「そういえばリインフォースとザフィーラは?」
今だ会っていない二人の場所を尋ねるカナード
「二人とも今は特別任務中なんよ」
ニヤニヤしながら答えるはやて。
「ん、何だ?」
不審に思い尋ねるカナードに
「まぁ、近いうちにわかる、そう焦るな」
同じくニヤニヤしながらシグナムが答えた。

 

四人のコーヒーが空になる頃、訪問を知らせるブザーが鳴り
「失礼しまーす」
ヴィータが入ってきた。
「おっ、シグナムとシャマルも来てたか。カナード、準備できたぞ。テスタロッサが車を回してくれるって」
ヴィータの報告を聞いたカナードは
「コーヒー美味かったぞ、少し出かけてくる」
そう言い、立ち上がった。
「何や?帰ってきて早々お出かけか?」
はやてがヴィータに尋ねる。
「うん。あの時、カナードと約束したことだから」
ヴィータの言葉に心当たりがあり、納得するはやて達。
「そうか、きいつけてな」
「ああ、じゃあ、あいつに・・・プレアに報告しに行って来る」

 

駐車場には、黒塗りのスポーツカーに寄りかかるフェイト・テスタロッサ・ハラオウンがいた。
カナードの姿を確認したフェイトは
「カナード!!」
走ってカナードに近づく。
「本当に・・・・・・無事でよかった、心配したんだよ」
そう言いながらカナードの頬に触れ
「ほんと、私のほうが年上になっちゃったね」
微笑みながら答えた。
「心配かけたな・・・・だが・・・・恥ずかしいから辞めてくれ」
フェイトの手を軽く払うカナード
「ふふっ・・・ごめん。懐かしくって、つい」
フェイトは悪びれる事無く、答えた。
「お~い、バカップル~いくぞ~」
ヴィータはそんな光景を呆れながら見詰めていた。

 
 

ミッドチルダ

 

:墓地群

 

「遅くなったが、帰ったぞ・・・プレア」
プレアが眠る墓に花を沿え、話しかけるカナード。
「Nジャマーのデータは確かにマルキオに渡してきた。しかし驚いたぞ、マルキオがこちら側の人間だったとは・・・」

 

カナードが驚かされたのは、マルキオ導師がこちら側(ミッドチルダ)の人間だったという事実だった。
カナードは当初、デバイス化した首飾りをどう渡そうか考えたが、データだけを抜き取って首飾りは貰ってしまおうと思いついた。
仮に怪しまれてもC・Eの技術ではデバイス云々の解析など出来まいと思ったが
「これは・・・・デバイスですね・・・・」
マルキオ導師の発言にその考えはもろくも崩れ去った。
デバイスを知っている人間に隠しても仕方が無いと思ったカナードは、向こうで起こった事実をマルキオ導師に話した。
話が終ると、マルキオは深々と頭を下げ
「ありがとうございました」
カナードにお礼を言った。
「だが・・プレアは・・・・」
カナードがなにか言おうとした時
「それ以上はいいのです」
マルキオがカナードの発言を遮った。
「私にはわかります。プレアは幸せだった筈です。そして、プレアの死は無駄ではなかった」
マルキオは首飾りを優しく握り締め
「プレアの思いは、貴方に受け継がれている」
「プレアの思いが・・・・俺に・・・・・」
確認するように呟くカナード。
「プレアは貴方と共にある。それを忘れないでください」

 

その後、カナードはマルキオ導師についての事を聞いた。
彼は試作の小型戦闘機の訓練飛行中に事故に合い、こちらの世界に飛ばされ、この海岸に打ち上げられていたそうだ。
彼を発見した民間人により救助されたが、事故の怪我で両目の視力を失い、リンカーコアも消失。
魔力を失った彼に、ミットチルダへ帰る術は無かった。

 

「そして、今の私がいます。もうだいぶ昔の話です」
マルキオ導師は昔を懐かしむかのように語った。
「俺には魔力がある。ミッドチルダの座標も把握している。つれて帰ることは出来るが」
カナードの提案に、マルキオ導師頭は頭を振り答える。
「ありがとうございます。ですが、もういいのです。元々私には家族がいませんでしたし、向こうの世界に未練はありません。それに・・」
マルキオ導師は後ろを振り向く、カナードが釣られて見てみると、いつの間にかドアの隙間から子供達が様子を伺っていた。
「今の私には家族がいる。この世界が、今私がいるべき場所なのです」
「そうか・・・・」
納得し、頷くカナード。

 

「ですから、貴方もお帰りなさい。貴方の家族が待ってる場所へ」
マルキオの言葉に
「もちろん、そのつもりだ」
カナードは微笑み、答えた。

 

その後、帰るカナードを見送るマルキオは

 

「高い天を行く者よ、たとえその翼が折れようと、羽ばたくことをあきらめてはなりません」

 

カナードの後姿を見ながら、そんなことを呟いた。

 

その後、カナードはもう一つの目的を遂行した。
ジャンク屋や情報屋ケナフ・ルキーニ、傭兵サーペントテール、各マスコミに協力してもらい
施設の破壊、情報公開など、様々なことを行った。
サーペントテールとの行動中、風花に関しては、嘘を突き通すことが出来なかったため
マルキオ立会いの下、彼女だけには真実を話した。
メリオル達に関しても、施設を襲った時に手に入れた上層部の弱みをガルシアにちらつかせ
脱走罪と反逆罪を帳消しにしてもらった。
魔法に関しても、行動中に合間を縫って結界を張り、魔法のトレーニングも怠らなかった。
こうして、全てが終る頃には四ヶ月が過ぎていた。

 

向こうでの出来事を思い出し、小さく笑うカナード。
「俺達がこの世界で過ごしていた間、向こうでは数日しか経っていなかったらしい。
お前の行動は今頃向こう側の人間を多く救っているだろう」
カナードは懐から首飾りを取り出す。
「データの転送が終ったので、これは貰ってきた。お前の依頼を達成した報酬だ、俺が貰っておくぞ」
そういい、墓を後にする。
「カナード、終った?」
カナードの後ろには花を抱え待っているフェイトとヴィータがいた。
「ああ・・・二人とも、ありがとう。プレアのために」
お礼を言うカナードに
「プレアは私の家族だから、当然だよ」
微笑みながら答えるフェイト。
「友達の墓参りをするのはとーぜんじゃんかよ」
ヴィータも微笑みながら答えた。

 

その後、墓参りが終った3人はフェイトの車に乗り、機動六課隊舎に向っていた。
「カナード、聞きたいことがあるの」
運転をしながらフェイトはカナードに尋ねた。
「・・・機動六課のことか?」
カナードの言葉に頷くフェイト。

 

「正直、カナードには機動六課に入隊してもらいたいんだ。なのはやはやても同じ考えだと思う」
信号が赤になり、車が止まる。フェイトは助手席のカナードを見据え
「カナードの実力は私達が良く知ってる。どうだろ?」
信号が赤になり、走り出す車。
「あっ、でも、カナードが何か別のことをやりたいんだったら強制はしないよ、協力するから」
フェイトの言葉に沈黙するカナードそして
「そのことなら、答えは出ている」
はっきりと言うカナードに
「当然入隊するよな!?」
ヴィータが前のシートの間から顔を覗かせ尋ねた。
「まぁ待て。それより先に」
カナードは窓の外を眺め
「あいつとの約束を果たさんとな」
そう呟いた。

 
 

翌日

 

「は~い、午前の訓練終了」
なのはが笑顔で訓練の終了を告げる
「「「「あ・・・・ありがとうございました~」」」」
へとへとになりながらも返事をするフォワード組
「フェイト隊長は忙しいから訓練に付き合うのは難しいけど、アタシは当分お前らにつきあってやるからな~」
ヴィータがニヤニヤしながら言い放った。
「あ・・・・ありがとう・・・ございます・・・・」
スバルが引きつった笑みで答える。
「それから、ライトニングの二人は特にだけど、スターズの二人も、まだまだ体が成長している最中なんだから、くれぐれも無茶はしないように」
「「「「はい!!!!」」」」
「それじゃあ、お昼にしようか。残りの訓練は夜からだから、しっかり食べて、しっかり休んでね」
そう言い、なのははパネルを捜査した。
お昼ご飯を食べに向うフォワード組のなかで
「あれ?結界が・・強化されてる?」
キャロがいち早く気がついた。
「ああ、午後からシグナム副隊長が模擬戦をするんだよ。結界を強化しないと、ここが壊れちゃうからね」
フェイトが笑顔で答えた。

 

隊長クラス同士の訓練や、模擬戦ではリミッターは簡単に解除できる。
リミッターがかかった状態(互いが手加減した状態)で訓練をしても、
実力が上がる訳が無いから当然といえば当然である。

 

「まぁ、なのは隊長は結界で強化された訓練室を幾度と無くこわしたツワモノだけどな~」
ヴィータはニヤニヤしながらなのはを見て言った。
「「「「へぇ~」」」」
関心(?)するフォワード組

 

「ヴィータ副隊長!スバル達もそんな目で見ないの!」
怒りながらもパネルを捜査するなのは
「それで、シグナム副隊長の相手は誰なんですか?」
ティアナがなのはに尋ねた。
「ヴィータ副隊長だよ、名前はね」

 
 

数時間後

 

陸専用空間シュミレーターにより、廃墟の町にセットされた空間で
「そういえば・・・お前と戦うのは初めてだな」
騎士服を装備したシグナムがカナードに尋ねた。
「ああ、正直楽しみだ。お前もそうだろ?」
同じくバリアジャケットを装備したカナードが答えた。

 

今回の模擬戦は名目上「シグナムVSヴィータ」となっている。
カナードがヴィータの名前を借りたのはシグナムに限定解除をさせるためであった。
(ただの一般市民であるカナードに対し、限定解除は出来ないため)

 

「さて、約束は約束だ、手加減はしないぞ。全力でいく!」
そう言い、レヴァンティンを構えるシグナム
「向こうの世界でも訓練は欠かさなかった、ブランクは無い。ただで済むとは思わないことだな!」
そう言い、ザスタバ・スティグマトを構えるカナード
「「・・・・・フッ」」
数秒間見つめあった二人は互いに笑い、そして
「いざ!!」
「いくぞ!!」
二人の戦いが始まった。

 

カナードは接近するシグナムに向け、ザスタバ・スティグマトを放つ。
だがシグナムはカートリッジをロード、パンツァーガイストを展開し、時にはかわし、時には防ぎながら接近し
「はぁぁ!!」
カナードに斬りかかった。
それらをかわし、距離をあけようとするが、
「距離などあけさせん!!」
カナードに喰らいつき、連続してレヴァンティンを振るう。
「ちっ」
舌打ちしながらも左手でロムテクニカを持ち、斬撃を捌いていくカナード。だが、
「(剣術の差もあるが、ナイフと剣ではリーチの差が・・・・まずいな・・・)」
シグナムがカナードを追い込んでいた。
「(ザスタバ・スティグマトに搭載されてるロムテクニカを使えばリーチは稼げるが・・刃部分の短さは変わらん。
ザスタバ・スティグマトが破壊されるだけだ・・・だがな・・・)」

 

振り下ろされたレヴァンティンをロムテクニカで受け止め
「いつまでも優勢であると思うな!!」
レヴァンティンを振り払い、至近距離からザスタバ・スティグマトを放った。
それを紙一重で避け、距離をあけるシグナム。
だがカナードはザスタバ・スティグマトを撃たずにしまい、ロムテクニカを逆手に持ち、構えた。
その光景に満足し、レヴァンティンを構えるシグナム。そして
「はぁああ!!」
「おおおお!!」
二つの光が激突した。

 

「すごい・・・・・」
激しく交差する二つの光を見ながら素直な感想を述べるスバル。
「あいつ・・・・なんなの・・・」
ティアナが拳を握り締め呟いた。
お昼を済ませたスバル達は、なのは達と模擬戦を見学していた。
「二人とも、楽しそうだね」
皆と一緒に二人の戦闘を見ているなのはが呟く
「まぁ、シグナムもカナードも、フェイト隊長と同じバトルマニアだからな~」
「私・・そんなバトルマニアかな・・・・?」
ヴィータの発言に苦笑いしなら呟くフェイト、
「ですけど、今のところカナードさんが不利なような気がします。接近戦ではシグナムに分がありそうですし」
接近戦でのシグナムの強さをよく知るリインフォースⅡは呟く。
「『今のところ』はね。だけど勝負はまだ始まったばかりだから、わからないよ」
リインフォースⅡに呟きになのはが答え
「それに、カナードの場合、接近戦での不利を身体能力で補ってるからな、ホントにわからねぇぞ」
ヴィータもなのはの意見に賛同し、答えた。

 

二つの光が数十回目の激突をした時、
「はぁ!!」
シグナムの力をこめた一撃が、カナードからロムテクニカを払い落とした、そして
「あの時の、カウンターの返しだ!!」
カナードの腹目掛けて鋭い蹴りを放った。
「がはっ!!」
シグナムの蹴りで吹き飛ぶカナード、その隙を見逃すシグナムではなかった。
「レヴァンティン・カートリッジロード!!」『EXPLOSION』
接近しながらカートリッジをロードし
「紫電!!」
カナード目掛け
「一閃!!」
炎の魔剣を振り下ろした。だが

 

「アルミューレ・リュミエール展開!」
カナードはアルミューレ・リュミエールを展開、シグナムの奥義を防いだ。
「おおおおおお!!!」
シグナムは振り下ろしている炎の魔剣に力をこめ、アルミューレ・リュミエール共々斬ろうとするが
「なめるなぁ!!!」
カナードは燃え上がるレヴァンティンを力任せに横に払った、そして
「蹴りを返すぞ!!」
無防備なシグナムの腹目掛けて容赦なく蹴りを放った。
「ぐっ!!」
容赦ない蹴りに吹き飛ぶシグナム、
「こいつも持ってげ!!」
続けてザスタバ・スティグマトを放つ。
「くっ!やって・・・くれる・・・・・何!?」
ジグナムがどうにか体制を立て直した瞬間、今度はザスタバ・スティグマトの魔力弾がシグナムを襲い、
着弾時に起こる爆煙がシグナムを包んだ。

 

「すごいね・・・シグナム副隊長もカナードさんも」
「うん・・・・」
キャロの感想を生返事で答えるエリオ。そんなエリオの態度に
「エリオ君・・・調子悪いの?」
キャロは心配そうにエリオの顔を覗き込んだ。
「う・・ううん!大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから」
「そうなんだ、よかった」
心から安心した表情を見せ、また二人の戦いを見るキャロ。
「ほんとうに・・・・すごいな・・・・・」
エリオは呟きながら今朝の出来事を思い出した。

 
 

数時間前

 

エリオが早朝訓練のため早起きをし、洗面台で歯を磨いている時、
あくびをしながらカナードが現れた。
昨日、フェイトにカナードのことを紹介され、六課の寮で泊まっている事を思いだしたエリオは
「カナードさん、おはようございます!!」
元気よく挨拶をした。
「ああ・・・おはよう」
カナードも挨拶をし、顔を洗い始める。
「モンディアルは早朝訓練か?」
「はい!カナードさんはどうしたんですか?こんな朝早くに?」
もしかしたら、カナードも早朝訓練に参加するのではないかと思い、尋ねるエリオ。
「俺も似たようなものだ。だがお前達とは別でやる」

 

タオルで顔を拭きながら答えるカナード。
しばらく沈黙が続き、エリオはカナードにあることを尋ねた。
「あの・・・・カナードさんは機動六課には入隊されないんですか?」
質問の後、数秒沈黙が続き
「ふっ・・・・お前もテスタロッサと同じ事を言うな」
カナードはエリオを見据え答えた。
「はい!カナードさんが入隊していただけると、とても心強いです!」
素直な感想を言うエリオ
「買い被るな。だが、俺の中では答えは決まっている。本当は今日の夜にでも高町達に話そうと思ったのだが」
顔を拭いたフェイスタオルをカゴに放り投げ
「まぁ、少ない男同士だ。教えてやる」
はっきりとこう言った。

 

            「俺は、機動六課には入隊しない」