勇敢_第04話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 13:37:05

「俺は、機動六課には入隊しない」
「あの・・それじゃあ、他の部隊に入隊するんですか?」
エリオの問いに
「いや、どこにも入隊はしないぞ。やりたい事があるのでな」
そう言い残し、カナードは出て行った。
エリオは残念で仕方が無かった。
フェイトさんや八神部隊長達もがっかりするのではないかと思った。

 

「(残念だけど・・・カナードさんにも何かやりたいことがあるんだから・・・しょうがないかな・・・)」
エリオは自分を納得させ、改めて二人の戦闘を見詰め続けた。

 

「全弾命中。さて・・・・どう来る・・・」
ザスタバ・スティグマトのマガジンを交換し、爆煙を見据えるカナード。その時
『シュランゲバイゼン』
電子音と共にシュランゲフォルムに変形したレヴァンティンがカナードに襲い掛かった。
「そう来たか、だがな!」
カナードはアルミューレ・リュミエールを展開し、防ごうとしたが
シュランゲフォルムの蛇腹剣はアルミューレ・リュミエールを避け、カナードの右足に巻きついた。
「くっ・・・展開していない部分を!!」
カナードは忌々しげに爆煙の方を向くと、
「やってくれたな・・・・だが、捕まえたぞ・・・・・」
所々破けた騎士服をまとったシグナムが、邪悪に微笑みながら言い放った。
カナードはザスタバ・スティグマトに搭載されたロムテクニカで、シュランゲフォルムのワイヤー部分を切ろうとしたが。
「やらせん!貴様は・・・・」
シグナムはカナードが絡みついたレヴァンティンを力の限り振り上げ
「寝てろ!!」
身近なビルに思い切りたたきつけた。
衝撃のあまり叩き付けられたビルは倒壊し、生埋めになるカナード。
「・・・・これで・・・終るとは思えんが・・・・」
呟き、レヴァンティンをシュベルトフォルムに戻すシグナム。

 

シグナムはこの時に、カナードと一緒に瓦礫に埋もれていた部分のシュランゲフォルムを、よく見ておくべきであった。

 

                      そうすれば

 

シュランゲフォルムのワイヤーに挟まったザスタバ・スティグマトのマガジンを見つけることが出来たからだ。

 

ワイヤーに挟まったマガジンの存在にシグナムが気がついた時には、
マガジンがシュランゲフォルムの刃と刃に挟まれる瞬間であった。そして

 

                      ドカーン!!!

 

刃と刃に挟まれたマガジンは圧縮され、魔力爆発を引き起こし、一時的に機動不能になるレヴァンティン。
そして、その隙を見逃すカナードではなかった。
瓦礫から飛び出し、ロムテクニカを片手に猛スピードでシグナムに突進するカナード、そして
「とったぞ!!」
シグナム目掛けてロムテクニカを振り下ろした。
レヴァンティンが使えないため、シグナムはその攻撃を咄嗟に腕をクロスしガード、だがロムテクニカの刃は手甲に突き刺さった。
「カートリッジロード!!」『Burst』
手甲に突き刺さったロムテクニカの刃は爆発、両腕の手甲を粉々に吹き飛ばす。
「この衝撃では、しばらくは腕が痺れて使えまい!!」
そう言いながら左手に持ったロムテクニカで、もう一撃喰らわせようと刺しにかかるカナード。だが
「この・・・程度ぉ!!」
シグナムはロムテクニカの刃を左腕でで掴み、防いだ。
「・・・・ロムテクニカが刺さる瞬間、両腕だけにパンツァーガイストを集中展開させた。
手甲が吹き飛んだだけでどうにかなったが・・・・ギリギリだった・・・・・。」
カナードの驚いた顔を満足げに見詰めながら、種明かしをするシグナム。そして
「それに・・・レヴァンティンも言っているぞ・・・・お前を・・・・叩きのめしたいとな!!!」
右手を振りかぶるシグナム、そこにはシュベルトフォルムに変形が完了したレヴァンティンが炎をまとっていた。
「くっ!アルミューレ(させん!!!」
カナードがアルミューレリュミエールを展開するより早く、シグナムはレヴァンティンを力任せに叩き付けた。
「が・・・は・・・・」
レヴァンティンの直撃を受け、地面に叩きつけられるカナード、さらに
「バインド・・だと?」
バインドがカナードの右腕だけを地面に張付けるように拘束した
「確実に張付けにするためだ。右腕に集中的にバインドを施した。まぁ、お前なら抜け出すのに一分も必要ないだろうが・・・・」
シグナムは喋りながらカートリッジを補充し直にロード、レヴァンティンをボーゲンフォルムにする。
「その一分が・・・・命取りだ!!」
そして矢を形成、カートリッジをダブルロードし
「片腕だけのアルミューレ・リュミエールでは防げまい」
カナードに狙いを定める。
シグナムが自分に狙いを定めている時、カナードは打開策を考えていた。
「(まずいな・・・あれを喰らえば敗北は必至、奴の言う通り片腕だけのアルミューレリュミエールでは防げまい。
フォルファントリーは・・・ダメだ。引っかかってて展開できん。何より展開できたとしてもその前に向こうの矢が・・・・・矢?)」
その時、カナードは一つの打開策を思いついた。
「(動体視力には自身がある・・・・やってみる価値は・・・・あるな)」
カナードが空いている左手に魔力を集中した時
「私の勝ちだ・・・・駆けよ!隼!!」『シュツルムファルケン』
音速超過の矢は、一直線にカナード目掛けて放たれた。
この瞬間、誰もがカナードの敗北、シグナムの勝利を確信した・・・・・カナードがあんな行動に出るまでは。

 

音速超過で飛んでくる矢を、カナードは

 

      バシッ!!

 

フィールドで包んだ左手で掴み取った。
「ぐっ・・・・」
左手に走る激痛に耐えるカナード
「・・・・・・・」
呆然とするなのは達
「なんて・・・インチキ・・・・」
呟くティアナ
だがシグナムは瞬時にレヴァンティンをボーゲンフォルムからシュベルトフォルムに変形させ突撃、
「おおおおおおおお!!!!」
カナード目掛けて振りかぶった
「アルミューレ・リュミエール展開!」
だがカナードも矢を投げ捨てアルミューレリュミエールを展開し、レヴァンティンの斬撃に備える。
二人の盾と矛がぶつかった瞬間、発生した衝撃波が周りの瓦礫を吹き飛ばす。
「ぐっ・・・・・おのれぇ・・・・」
先ほどの行動が原因なのか、腕に力が入らず徐々に押されていくカナード
だが、シグナムも限界であった。
「(この機を逃したら・・・・マズイ・・・・ここで・・・決める!!)」
シグナムはレヴァンティンを握る手に力を込める。
「レヴァンティンよ!我が魔力を糧に今一度、燃え上がれぇぇぇ!!!!」『Ja wohl!!!!!』
シグナムの思いに答え、燃え上がるレヴァンティン、そして
「紫電一閃!!!!」
大爆発が二人を包み込んだ。

 

なのは達が見守る中、爆煙が晴れる。そこには
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
騎士服が先ほどより所々破け、息を切らせながらも、刃の部分にヒビが入ったレヴァンティンを向けるシグナムと
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
バリアジャケットが所々破損し、地面に腰を突きシグナムを見上げるカナードがいた。
「私の・・・はぁ・・・・はぁ・・・勝ち・・・・だな・・・・」
息を切らせながら尋ねるシグナムに
「ああ・・・癪だが・・・・・・俺の・・・負けだ・・・・」
カナードは素直に負けを認めた。
その後仲よく二人は倒れ、医務室に運ばれることとなった。

 
 

数時間後

 

:部隊長オフィス

 

「結論から言う、俺は機動六課には入隊しない。やりたい事があるのでな」

 

模擬戦の後、目覚めたカナードは入隊について話があると言いはやて達を呼び、
そして今現在、夜の部隊長オフィスには、はやてと各隊の隊長、副隊長が集まっていた。
カナードの言葉に黙って耳を傾けるはやて達、その時
「何でだよ!どうし(ヴィータ!!」
カナードに詰め寄ろうとするヴィータを遮るシグナム。
「ヴィータ、カナードにもやりたいことがあるよ。無理言ったらあかん」
ヴィータをたしなめるはやて、だがその顔はとても残念そうであった。
しばらく沈黙が続いた後
「あの・・・カナードのやりたいことって何?昨日も言ったけど、協力するよ。」
カナードに尋ねるフェイト
「俺は傭兵をしようと思う」
「傭兵?」
「ああ、向こうの世界の知り合いがやっていてな、しばらく一緒に行動して思ったんだが、俺向きの仕事だと思った。
実力に関してはシグナムとの模擬戦で再確認できたからな」
確かに、カナードほどの実力者なら傭兵としてもやっていけるだろうと思うフェイト達。
「はぁ・・・・だが・・・・困ったことがある・・・・」
急にわざとらしく溜息をし、困った素振りをするカナード
「なんだよ・・・困ったことって?」
カナードを睨みながら尋ねるヴィータ。
「新米の傭兵というのは、仕事が全くといっていいほど来ないと聞いた。そのため、普通は自分から実力を売り込んだりするのだが
俺はそういうことは苦手だ」
カナードははやてを見据え、
「そこでだ、どこかに俺のような新米傭兵の実力を理解したうえで、長期にわたって雇ってくれる所はないだろうか?」
カナードの言葉の意味を瞬時に理解するはやて達
「八神部隊長、どうでしょうか?彼の実力なら雇うに値すると思いますが?」
シグナムが微笑みながらはやてに尋ね
「わたしもシグナム副隊長に賛成です。良い人材は確保しとくべきかと思います」
なのはもシグナムの意見に賛同し、微笑みながら尋ねた。
「そうやな。そんなら、機動六課部隊長、八神はやてが貴方を雇います。よろしいでしょうか?」
はやては笑顔で尋ね
「雇っていただき、感謝する」
カナードは笑顔で引き受けた。

 

「ったく、まどろっこしいな~、素直に入隊すればいいのによ~」
先ほどまでの不機嫌が嘘のように笑顔で尋ねるヴィータ。
そんなヴィータに、カナードは理由を話し始めた。
「入隊しない理由については『リミッター』が関係している」

 

「どういうこと?」
ヴィータに引き続き、なのはが尋ねる
「機動六課は一般的な部隊と比較すると、本来一部隊としてはありえないほど充実した戦力を保有している。
だが、それを実現するためにお前達は自らリミッターをかけているそうじゃないか」

 

カナードの言う通り、機動六課は隊長格三名が全員オーバーSランクで副隊長もそれぞれS-とAAA+、
他にもAランククラスが二人と、本来ならありえない戦力である。
それを可能にするために能力限定という裏技を施している。

 

「俺のランクは分からんし、自分の力を過信するわけではないが、おそらくは入隊した場合、俺にもリミッターが掛けられるのではないのか?」
「うん、そういうことになるかな」
カナードの質問に答えるなのは。
「だが、それは『入隊』した場合だ、『雇った』傭兵にまで、そんな措置をする必要はあるのか?」
カナードの言葉に、はっとする全員
「そういうことだ、お前達とは違って、俺は常に本調子で活動できる。新人達や本調子でないお前達を援護したり、
お前達の限定解除までの時間も稼ぐことが出来るだろう。いざとなれば単独行動も出来る。」
「確かに、能力限定が掛かっているうちらと違って、カナードは常に本調子で活動可能。これほど心強いことはあらへん」
納得し、カナードを見据え
「ありがとうな・・・・いろいろと考えてくれて」
素直な気持ちを言うはやて
「まぁ、こういう組織に入り込むのが苦手というのもある。そして何より・・・・」
カナードはヴィータを見据え
「お前が俺の上司になるのはゴメンだ・・・・プライド総崩れだ」
笑いながら言い放った。
「何だとテメェ!!!!」
カナードに食って掛かるヴィータ
「少しは冷静になれ、馬鹿者」
カナードがニヤつきながら注意するが
「テメェは別だぁ!!!」
ヴィータの叫びが部隊長オフィスにこだました。

 

こうして、機動六課に1人の傭兵が雇われることになった。

 
 

一時間後

 

:八神家

 

「それではこれより、『カナード帰ってくるのがおそいんや!せやけど無事で何より!と、いうわけで今夜は飲めや歌えや大騒ぎや!!』
を、始めるでぇ~!!!!」
はやては長いパーティ名?を言いながらグラスを掲げ
「それでは、かんぱ~い!!!」
こうして、『カナード帰ってくるのがおそいんや!せやけど無事で何より!と、いうわけで今夜は飲めや歌えや大騒ぎや!!』が始まった。
「なるほど、昨日執拗に寮に止まれと言ったのはこのためだったのか」
オレンジジュースを片手に近くにいたリインフォースに尋ねるカナード
「そうだ、主はやても言っていただろう、私達は『特別任務中』と」
悪戯が成功したかのように微笑むリインフォース。

 

「二人だけじゃ、準備が色々大変でしたから途中からリインも手伝ったんですよ~。ねぇ、お姉ちゃん」
「ああ、助かったよ」
そう言い、ツヴァイの頭を撫でるリインフォース
「へへへ~、えっへん!」
その行為に嬉しそうに身を任せるツヴァイ。
「お前も主の料理は久しぶりだろう、存分に堪能するがいい」
骨付き肉を食べながら料理を勧めるザフィーラに
「そうだな、いただこうか」
そう言い、カナードは料理に手を伸ばした。

 
 

数時間後

 

「くっ・・・・だから・・・・酒など・・・・」
呻きながらベランダに出て、夜風にあたるカナード。
「まぁ・・・・料理は美味かったし、こんなパーティーを開いてくれたはやて達には感謝するが・・・・」
先ほどまでいた部屋を覗くと、部屋の中にははやて達の死屍累々な光景が広がっていた。
「あいつら・・・明日大丈夫か?」
心配しながらも、ベランダに備え付けてあるイスに座るカナード。その時
「ほら、水だ」
唯一正常なリインフォースが水を差し出した。
「すまない・・・いただく・・・」
そう言い、水を一気に飲み干す。
その後、しばらく夜風にあたる二人、すると突然
「楽しかったな」
リインフォースが呟いた。
「・・・ああ・・・そう・・・だ・・な・・」
「もし・・・もし十年前のあの時、お前とプレア達が止めてくれなかったら、私はこのような思いは出来なかった」
リインフォースは部屋の中でヴィータの頭に乗っかり、寝息を立てているツヴァイを微笑ましく見つめる。
「ツヴァイとも、会うことは無かっただろう」
そして、今度はカナードの方を向き
「お前はあの時言ったな、『はやての騎士として、一人の女として生きろ』と。だからわたしは・・・ん?」
俯いたまま動かないカナードを見据えるリインフォース、すると
「・・・・・・スー・・・スー・・・・・」
カナードは眠っていた。
その姿に微笑み、部屋から毛布を持ってきてカナードにかける。
「そういえば・・・・言ってなかったな」
リンフォースは眠っているカナードに顔を寄せ
「無事でよかった・・・お帰りなさい」
頬に口付けをし
「無事に帰ってきた・・・・褒美だ」
笑顔で呟いた。

 
 
 

おまけ

 

「カナードがどんな人か?」
なのはとフェイトは、偶然居合わせたリインフォースと一緒に遅めの昼食を取っていた。
食後のコーヒーを堪能している時、飲み物を取りに来たエリオを覗いた新人組がそんなことを尋ねてきた。
「はい、カナードとは軽く自己紹介した程度でしたから、お願いします」
ティアナが代表してお願いするが
「それなら、本人に聞けば良いのではないか?」
リインフォースがもっともな事を言う。
「あの、皆さんから見たカナードさんのイメージを知りたいと思いまして・・・だめでしょうか」
なのは達にお願いをするキャロ
「あっ、それでしたら、初めて会った時に印象に残ったこととかは?」
スバルが改めて尋ねる。
「そうだね・・・・」

 

なのはの場合
「私の場合、初めて二人きりになったときなんだけど」
「「「はい」」」
興味津々なスバル達
「思いっきりローキックを喰らったかな」
「「「はい!?」」」

 

フェイトの場合
「私の場合は・・・・」
「「「なんですか」」」
興味津々なスバル達
「右手を掴まれて」
「「「右手を掴まれて」」」
「思いっきりビルに叩きつけられたかな」
「「「・・・・・・」」」

 

リインフォースの場合
「私の場合は」
やな予感がするスバル達
「服(騎士服)を裂かれたな」
「「「な、なんだってぇ!!!」」」
「その後、ザスタバ・スティグマトで撃たれて吹き飛んだな」
「「「(・・・・敵じゃないよね、カナード(さん)って)」」」
その後、なのは達がきっちり説明したので要らぬ誤解は無かったそうだ。

 
 

さらにおまけ

 

「シグナムがどんな奴か?」
カナードが通路を歩いている時、偶然出会ったエリオがそんなことを尋ねてきた。
「はい、一緒に行動することがあまり無いので、知っておきたいんです」
六課に入隊してから、まだそんなに日は経っていないが、
エリオがシグナムとまともに話したのは、初対面でのあの時だけであった。
「本人かテスタロッサから聞けばいいではないか?」
カナードがもっとな事を言う。
「フェイトさんにも聞こうと思うのですが、以前一緒に住んでいたカナードさんから見た、
シグナム副隊長のイメージが知りたいと思いまして、ダメでしょうか?」
「いや、構わんが」
そう言い、少し考え込むカナード、そして
「あいつは・・・・・」
「はい」

 

      「男であろうと人が入浴している時に乱入してくる奴だ」

 

その後、カナードはきっちり説明などせず、その場を去った。そのため、エリオは
「シグナム副隊長って・・・・・・」
シグナムに対して間違った(?)印象をしばらく持つことになった。