勇敢_第08話

Last-modified: 2007-11-19 (月) 13:39:49

『ほう・・これがメンデルで作られた実験体ですか』

 

『しかしどうやって生き延びたのか』

 

自分を囲む白衣の人間達、誰もが物を見るような目で自分を見ている・・・・・・・いつ見ても忌々しい

 

『破棄される筈だったのですか、助手の一人が情けを掛けて逃がしたそうです』

 

『ふん、面白い事をする者もいるのもだ。まぁ、そのおかげで我々もスーパーコーディネーターの研究が出来る』

 

『確かに、その助手には感謝しなくては』

 

そいつがなぜ俺を逃がしたのか・・・・それは結局分からなかった。「気まぐれ?」「同情心?」今となってはどうでもいい・・・
これから行われる『科学の進歩』という名目で行われる『人体実験』の前では・・・・・

 

『ダメだこんな失敗作ではヒントにもならない!』

 

『本物のサンプルさえあれば・・・この・・出来そこないがぁ!!』

 

研究員がスイッチを押すたびに、体に猛烈な電流が流される。俺があいつらを睨んだ時、満足なデーターが取れなかった時
ただの気まぐれ、ウサ晴らしに・・・・・・・
普通の子供ならショック死し、コーディネーターの子供でも唯ではすまないその電流を、何度も何度も浴びせられた・・・・・・
正直、楽になりたかった・・・・死にたかった・・・・だが、おれの体がそうさせなかった・・・・

 

『生きているだけでもありがたく思え』

 

             ウルサイ

 

『まったく、痛い目に遭わせないと理解できないとは・・・正に動物だな』

 

             ダマレ

 

『このモルモットが!!』
     
          ダマレェェェェェェェェェェ!!!!!!!

 
 

八神家

 

:カナードの部屋

 

「ッ!」
ベッドから飛び起きるカナード、 ハァハァと荒い息遣いが八神家の自分の部屋に響く。
「夢・・・か・・・・・」
時計を確認すると、深夜の2時を少し過ぎた頃、荒れる呼吸を落ち着かせたカナードは腕で額の汗を拭う。
同時に周りを確認すると、体は汗で濡れており、体から出た汗で布団は水を掛けたかのように濡れていた。
その状況に舌打ちをしつつも、シャワーを浴びるためにタンスから着替えを取り出す。
「まさか・・・・今更あんな夢を見るとはな・・・・はやり・・あいつの言葉か・・・・」
数日前の戦闘で、ヴェイアが自分に対して発した言葉を思い出す。

 

『スーパーコーディネーターの失敗作の分際でぇ!!』

 

「・・・フッ・・・まだ吹っ切れていないとは・・・・・な・・・・・」
自己嫌悪しつつも、同時にあの時の事も思い出す。

 
 

数日前

 

「どうした、くお・・・・・ん・・・・」
後ろを向いていたので、久遠の方を向くカナード。すると、そこには・・・・・・
「プ・・・・レ・・・・ア・・」
目の前に現れた少年『プレア・レヴェリー』の姿にに目を見開き驚くカナード。
信じられる筈が無かった。プレアは確かに死んだ、カナードは彼の死を見取った。
だが、現にプレアは自分達の目の前にいる。幻でも見ているのかと思ったが、
久遠も見えているのか、じっとプレアを見据えていた。
『急いでください』
突然、カナード達に言葉を発するプレア
『皆が・・・・戦っています・・・・カナードさんの力が・・・・必要です・・・』
「まて、どういうことだ!?それにお前はプレアなのか?答えろ!!?」
プレアが発した言葉を気にしつつも、目の前の光景に理解が追いつかないカナード
そんなカナードをプレアは微笑みながら見据え
『お願・・します・・・』
そう言い、プレアは蜃気楼のように消えてしまった。
蜃気楼のように消えてしまったプレアを気にしつつも、カナードはすぐに行動を開始した。

 

「結界的には・・・・・皆を助ける事が出来た・・・・だが・・・あれは一体・・・」
考える事は色々あるが、今は汗を流そうと思い、バスルームに向った。

 
 

翌日

 

「すみません、シグナムさん。車出してもらっちゃって」
自分の腿の上で、大人しくしている久遠を撫でながらシグナムにお礼を言うなのは。
「なに、車はテスタロッサからの借り物だし、向こうにはシスターシャッハがいらっしゃる、私が仲介した方がいいだろう。
久遠も行きたがってたからな」
微笑みながらも、しっかりと前を見て運転するシグナム。

 

先日の事件で保護した少女に会う為、聖王医療院に向うなのは達。
二人が向おうとした時、
「あの子の所?・・・・久遠も・・いく・・・・」
久遠が同行を求めた。
あの時、ストームレイダーに残された久遠は、仮ベッドに寝かされていた少女が気になっていた。
その少女に会うと聞いた久遠は自分も一緒に行きたいと、なのは達にお願いをする。
久遠のお願をなのは達は快く了承、カナードも「行って来い」と言い、久遠を見送った。

 

先ほどまで微笑んでいたシグナムが急に真面目な顔になる。
「しかし・・・検査が済んで、何かしらの白黒がついたとして、あの子はどうなるのだろうな・・・・」
保護した子のその後を案じるシグナム。
なのはは、当面は六課か協会に預けること、受け入れ先を探すにしても安全確認がしっかりと取れないと無理なことなど
現状での処置を不安げな顔で話す。その時、シスターシャッハから通信が入った。
検査の合間に女の子が姿を消してしまったことを話すシャッハ。
聖王医療院についたなのは達はさらに詳しい現状を聞く。
特別病棟とその周辺の封鎖と避難は済んでいること、今のところ飛行や転移、侵入者の反応は見つかっていない事、
ここまですれば外には出られない筈と考えたなのはは、手分けをして女の子を探す事となった。

 

人が誰もいない医療院を探すなのは達。その時、中庭を探していたなのはの前に、ウサギのぬいぐるみを抱きしめた女の子が現れた。
「ああ・・・こんな所にいたの」
微笑みながら優しく話しかけるなのは、だが少女は怯えと不安が入り混じった表情をしている。
丁度その頃、シグナムと一緒に医療院を探していたシャッハは窓からその光景を目撃し
「逆巻け!ヴィンデルシャフト!」
バリアジャケットを装備したシャッハが一瞬でなのはの前に現れ、ヴィンデルシャフトを構える。
「あ・・・ああ・・・」
武器を持ち、自分を睨みつけるシャッハに恐怖を隠しきれない少女、その時
草むらから久遠が現れ少女の姿に変身、女の子を庇うようにシャッハの前に立ちはだかる。

 

突然の久遠の登場に戸惑いつつも、ヴィンデルシャフトを構えることを止めないシャッハ
そんなシャッハを睨みつける久遠
「この子・・怯えてる・・・いじめるの・・・・ダメ!!」
そう言い、両腕に雷球を出現させる。一時は一触即発は空気が流れたが、
「シスターシャッハ、ちょっとよろしいでしょうか、くーちゃんも」
今にも戦闘を開始しそうな二人を止めるなのは。
その後、少女の名前は『ヴィヴィオ』という事がわかり、六課につれて帰る事となった。

 
 

機動六課

 

:部隊長オフィス

 

部隊長オフィスで臨時査察が行われる事をフェイトとカナードに話すはやて
「臨時査察?機動六課に?」
地上本部の査察はかなり厳しいと聞いているため、不安げに尋ねるフェイト
「うう・・・うちは唯でさえ突っ込み所満載の部隊やしな~」
はやてはため息をつき、うなだれる。
「まぁ、乗り切るしかあるまい、今位置やシフトの変更命令は致命的だ。ここは八神部隊長の腕の見せ所だな」
はやてを見据え、小さく微笑むカナード
「う~ん・・・なんとか乗り気らなぁ・・・」
うなだれながらも覚悟を決めるはやて。その後、特に会話が無いのか、しばらく続く沈黙
「ねぇ、これ、査察対策にも関係してくるんだけど、六課設立の本当の理由、そろそろ聞いてもいいかな?」
沈黙を破り、フェイトがはやてを真っ直ぐ見据え、尋ねた。
「俺もテスタロッサと同じ事を聞こうとした、無理にとは言わないが・・・・・・ダメか?」
カナードもはやてを真っ直ぐに見据える
「そやね・・・まぁええタイミングかな今日、これから聖王協会の本部、カリムの所に報告にいくんよ、クロノ君も来る」
「クロノも?」
「なのはちゃんと一緒について来てくれるかな?そこで、まとめて話すから」
はやての言葉に満足げに頷くフェイト
「だが、聞いといてなんだが、俺も同行してもいいのか?俺は一応は部外者だか?」
「勿論や。ここに来てすぐにカナードはこの機動六課に疑問をもっとったし、いつかは教えるって約束したからなぁ」
カナードの疑問に答えるはやて
「そうか・・・それでは、早速行くか」
その後、聖王協会に行く事となり、当然なのはも同行する事となったが、なのはに懐いたヴィヴィオは大泣きしてしまう。
フォワード組やなのはは困り果てたが、フェイトの達人的なあやしと、
「久遠は・・一緒に・・いる」
ヴィヴィオの頭を撫でながら、微笑む久遠に納得し、無事、聖王協会に行く事となった。

 
 

聖王教会本部

 

「失礼いたします、高町なのは一等空尉であります」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官です」
敬礼をする二人を笑顔で迎えるカリム。
「はじめまして、聖王教会・教会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します。どうぞ、こちらへ」
そう言い、なのは達を窓側のテーブルに案内する。
それぞれ断りを入れて椅子に座るなのは達、そんな中、カナードは既に椅子に座っていた男性を見る
「(・・・・・どこかで・・・・・あったか・・・?)」
そんなカナードの疑問は
「クロノ提督、少しお久しぶりです」
フェイトの発言で解消される
「ああ・・・フェイト執務官、カナードも本当に久しぶりだな・・・・・どうした?」
疑うような目で自分を見るカナードを疑問に思うクロノ
「いや・・・・・人間、10年で身長が2倍近くも伸びるものだな・・・魔法の力か?」
真顔で尋ねるカナードにクロノは顔を引きつらせる
「・・・・・・普通に成長しただけだ・・・失礼な・・・・」
そんなクロノの態度に笑いがこみ上げるなのは達、その後カリムの好意によりなのは達も普段通りに話す事となった。
「カナード・パルスさん、お話しははやてから何時も聞いております。一度お会いしたいと思っていました」
微笑みながらカナードを見据えるカリム、その言葉にカナードはどんな事なのか内容を尋ねようとするが、
「はやてが?あいつは一体どんな(ゴホン!!さて、昨日の動きやその他諸々!はなそうか!!」
突如、わざとらしく言葉を遮るはやて、そんなはやてをジト目で見るカナード。そんな二人の反応に
「ふふっ、内容は、直接聞いてください」
カリムは微笑みながら答えた。

 

軽く雑談した後、部屋のカーテンが閉まり、『機動六課設立の裏表についてと、今後の話』についての話が始まった。
「六課設立の『表向き』の理由は、ロストロギア『レリック』の対策と、独立性の高い、少数部隊の実験例だ」
「やはり別の理由があったか、レリックの対策に関しては以前はやてには話したが、対応する戦力が大きすぎるし、
それ程危険なら本局が本腰を入れるはず。後者も、別に高町達のような上級魔道師ばかりを集めて行わなくてもいい。
まぁ、レリックは未だに『謎の』ロストロギアだ。それに高町達は何気に人気があるからな、あいつらが揃えば局としては良いプロパガンダ
にもなる。建前としては十分だ」
一気にまくしたてるカナード。
「さすがだな、カナード。皆は知っての通り六課の後継人は僕と騎士カリム、僕とフェイトの母親で上官のリンディ・ハラオウンだ」
クロノはさらにパネルを捜査する
「それに加え、非公式ではあるが三提督も設立を認め、協力の約束をしてくれている」
三提督の映像が映し出された瞬間、カナードだけではなく、なのはとフェイトも驚きの表情を見せる。
「その理由は、私の能力と関係があります」
皆の前に出たカリムは、手に持った古紙としか見えない束の紐を解く。

 

「私の能力『プロフェーティン・シュリフテン』これは最短で半年、最長で数年先の未来、それを詩文形式で書き出した預言書の作成を行うことができます。
二つの月の魔力がうまく揃わないと発動できませんから、ページの作成は年に一度しかできません」
紙の束は一枚一枚光を発し、カリムの周りを囲むようにして回りだす。その内の3枚がなのは・フェイト・カナードのもとに送られる。
「預言の中身は古代ベルカ語で、しかも解釈によって意味が変わることもある難解な文章。
世界に起こる事件や事柄をランダムに書き出すだけで、解釈ミスも含めれば的中率や実用性は割とよく当たる占い程度、つまりはあまり便利な能力ではないのですが」
『この文字・・・・・わかるか?』
カナードが念話で二人に話しかけるが
『にゃはは・・・全然』
『ゴメン・・・私も』
二人は苦笑いをしながら念話で答える。
「だが、いくらかデメリットはあるとはいえ、無視できる物ではあるまい。根拠の無い占いと違って『割とよく当たる』のだからな」
カナードはクロノを見据え尋ねる。
「その通りだ。聖王教会は勿論、次元航行部隊のトップも有識者の予想情報の1つとして預言内容は目に通す。信用するかどうかは別としてな」
「ちなみに地上部隊はこの予言がお嫌いや。事実上のトップ『レジアス・ゲイズ中将』が、この手のレアスキルがお嫌いやからな」
ため息をつきながら答えるはやて。
「そんな騎士カリムの予言能力に、数年前から少しづつ、ある事件が書き出されている」
カリムの方を見るクロノ、カリムは頷き、予言を読む。
「それって」
「まさか」
予言の内容に、すぐに反応するなのは達。
「ロストロギアをきっかけに始まる管理局地上本部の壊滅と・・・・・そして、管理局システムの崩壊」
カリムの言葉に、しばらく部屋に沈黙が走る。
「・・・・・いいか?」
その沈黙をカナードが破った
「これから話すのは俺の考えだ、別に聞き流してくれても構わん」
そう断りを入れて、話し始めた。
「失礼だが、騎士カリムの予言は完璧ではない、不確定だ。それに管理局そのものが崩壊、異世界人の俺から・・・俺だからか?にしても考えられん」
カナードの言葉に耳を傾ける一同
「仮に地上本部が攻撃され、それがきっかけで本局まで崩壊というのはどうかと思うのだが?」
「まぁ、本局でも警戒強化はしているんだがな、問題は(レジアス・ゲイズ中将だろ」
クロノの言葉に割り込むカナード
「さっきの話から、ゲイズという男は予言を信用していないのだろう。対策などは全く取っていない筈だ、違うか?」
カナードの発言に驚きつつも頷くクロノ
「本局と地上本部の仲が悪いとは、ある奴から聞いた。まぁ、異なる組織同士が協力する事は難しい、俺の世界でもそうだったがな。
そんな仲だ、ハラオウン達本局が協力を申し出ても、強制介入ということになりかねない。結局は無用の軋轢を生んでしまう。
だからこそ、地上で自由に行動ができ、尚且つ本局が直接指示が出来る部隊が必要となった。それが機動六課」
カナードは出された紅茶を飲み、一息入れ、さらに話し出す。
「今回の事件も予言が外れて、レリック絡みだけで事が終わればそれでいいが、そこから更なる非常事態、
地上本部の壊滅に関わる事に発展した場合は、最前線で事態の推移を見守ることや、地上本部が本腰を入れて事態に当たるか、
本局の本格的な介入があるまで時間を稼ぐ、この考えならリミッターをかけてまで高町達を集めた理由にも納得がいく、
高町達なら、リミッターを解除すれば十分な時間稼ぎ、もしくは事態の収拾が出来るからな。俺の考えはこれで終わりだ」

 

カナードの話しが終わり、沈黙が支配する。
「ふぅ・・・・・」
その沈黙を、今度はクロノが破った
「まったく・・・・僕達が話す事が無くなってしまったよ」
同じ意見なのか、カリムとはやても小さく微笑む
「しかし・・・今なら母さんの気持ちが分かるよ、どうだい?うち(本局)に来な(ダメや!」
クロノを誘いを真っ先に否定するはやて
「カナードは今は六課がやとっとるんや、クロノ君の頼みでもそれはできへんなぁ~」
街角のチンピラのようにクロノを睨むはやて、そんなはやてに
「それは残念だ」
わざとらしく肩をすくめて残念がるクロノ。
そんな二人のやり取りを微笑ましく見ていたカリム、だが急に真面目な顔になる
「それと、予言なのですが、この他にも、気になるものがあるんです」
そう言い、プロフェーティン・シュリフテンの一枚を目の前に掲げ、読み始める

 

『高い天を行く者・・・・再生と、神と人との誓約を身にまといし悪に破れ・・・・・その翼を折られるであろう・・・・・』

 

その予言に反応するなのは達
「『高い天を行く者』って・・・・・・たしか・・・・・」
なのはは確認を取るようにカナードの方を向く
「ああ、ハイペリオンだ。ギリシア神話の神、「ヒュペリオン」に由来し、「高い天を行く者」の意を持つ」
そう言い、懐から待機状態のハイペリオンを取り出す。
「これって・・・カナードが負けるって風にしか解釈できへんなぁ・・・・・・」
深刻な顔で考え込むはやて
「だが、これは一個人を予言している。そんなことはあるのですか?」
クロノはカリムを見据え尋ねる、カリムも考え込み
「本来、このプロフェーティン・シュリフテンで一個人の予言が出た事は今までありません。
ですか、先ほどの予言の解読を優先したため、この予言は今だ解読中でして、どうつながるかは・・・・」
途中から申し訳なさそうに話し出すカリム
「・・・すまないが、他に分かっている部分があったら、教えてくれないか?」
カナードがカリムを見据え尋ねる。
「はい、今分かっている事は、先ほどの部分と、『勇敢な者』『運命の子』という言葉しか」
カリムが発した言葉に目を見開き驚くカナード、なのは達も心当たりがあるのか、驚きの表情をする
「『勇敢な者』って、確か・・・・プレア君の」
なのはが10年前に行動を共にした少年の顔を思い出しながら、フェイトに尋ねる。
「うん、勇敢な者『ドレッドノート』プレアのデバイスの名前だよ。だけど、『運命の子』の意味が(プレアだ」
フェイトの発言をカナードが途中で遮る
「『運命の子』・・・・あいつが・・プレアが俺がいた世界でそう呼ばれていた。ある人物にだがな」
「だが、どうしてプレアが・・・彼はもう・・・・」
クロノの発言に沈黙する全員
「・・・・お前達には・・話してなかったな・・・」
沈黙を破り、カナードは数日前の墓地での出来事を話し始めた。カリム以外はカナードの話しの内容に驚きの表情を見せる。
「・・・俺も正直信じられん。だが、プレアの助言が無ければストームレイダーは落ちていたし、ヴィータ達も危なかった。騎士カリム、この予言の翻訳を頼みたい」
「わかりました。お任せください」

 

その後、機動六課隊舎に戻ったなのは達、はやてはなのは達と別れ、一人明かりのついていない部隊長オフィスに入る。
無言でデスクの椅子に座り、引き出しからアルバムを取り出す。アルバムをめくり、昔の写真を見ながら微笑むはやて。
次のページをめくり、グレアムの写真が出た時、はやての表情は曇る
「グレアム叔父さん・・・・私の命は、グレアム叔父さんが育ててくれて、うちの子達が守ってくれて、なのはちゃん達に救ってもらった命や」
アルバムを仕舞い、外の夜景を見るはやて
「あんな悲しみとか後悔なんて・・・・この世界の誰にも・・あったらあかん。私の命は・・・」
その時、訪問を告げるチャイムが鳴る。
「入るぞ・・・・・灯りぐらいつけろ」
入室し、部隊長オフィスの明かりをつけるカナード
「カナード?どうしたん?」
突然のカナードの訪問を疑問に思うはやて、だがカナードは、そんなはやてを見据え
「やはりな・・・・・そんな顔をしていたか」
そう言い、軽くため息をつく
「えっ?『そんな顔』って?」
「覚悟を決めた・・・・・新たに決心した顔・・・か?」
カナードの答えに、黙り込むはやて
「はぁ、俺は向こうに帰る時に言った筈だ『自分の幸せも考えろ』と」
「なにいってるんや。相変わらず元気な家族、頼れる友達、期待できるフォワード組、カナードも無事に帰って来て、うちは十分幸せや」
はやては微笑みながら答える。だが、カナードは表情を変えずにはやてを見据え、自分の考えを話す。
「俺には、自分の幸せを削ってでも・・・・自分の命を削ってでも、他人の幸せを守ろうとしているように見えるが」
その言葉にハッとするはやて、だがすぐに顔を引き締め、カナードを見据え
「そうや、うちの命は、そのために使うんや」
はっきりと、自分の考えを述べた。
はやての考えを聞いたカナードは急にはやてを睨みつける。そして
「この・・・・馬鹿者が!!」
容赦なく怒鳴り散らす。
「自己犠牲も大概にしろ!!そんなことをしても誰も喜ばん!!いいか、以前行った事をもう一度言う。
お前がシグナム達の幸せを望んでいるように、シグナム達もお目の幸せを心から望んでいる無論俺もだ。
そんな、他者の幸せのために自分の命を削るような考えは捨ててしまえ!!」
一気に捲し立てる。
「・・・・・カナード・・・・」
カナードの怒りを含んだ発言に、はやては俯いてしまう。カナードも、感情に任せた発言に反省をする。
「スマンな・・熱くなった・・・だが、シグナム達が幸せなのはお前がいるからこそだ・・それを忘れないでくれ」
先ほどとは違い、優しく諭すように話すカナード。
「・・・・・うん・・・」
はやては俯きながらも頷く。
「だが・・・どうしても、自分の命を削ってでも、他人の幸せを守ろうというのなら・・・・その考えを捨てきれないのなら・・・俺の命も使え」
その発言に驚き顔をあげるはやて
「二人分だ、死ぬ事はあるまい」
カナードははやてを見据え、微笑みながら答えた。

 

「・・・・ほんま、カナードには・・・・助けられっぱなしやな・・・今はうちが年上なのに、これじゃあ・・・格好・・・つかへん・・・」
はやては声を震わせながら話し、涙で濡れた瞳をこする。
「そんなことは気にするな・・・邪魔したな」
そう言い、出て行こうとするカナード、だが、急に後ろからはやてが抱きつき、カナードの動きを止める
「ありがとうな・・・・せやけど、カナードも自分の命を削るような無茶はせんといてな」
カナードは背中から伝わってくるはやての言葉を黙って聴く。
「カリムとはそれなりに、つきあい長いんよ・・・・せやから予言のことも良くしっとる、カリムはああ言っとったけど、
うちが出会ってからは勿論、カリムがあの能力を使用してから、予言が外れた事なんてほとんど無い、外れたとしても、それに近い事が起きとる」
「・・・・そうか」
「せやから・・・心配でしゃあない・・・もう・・・カナードがいなくなるんは・・ゴメンや・・・・絶対に・・・・」
はやてが話し終わった後、部隊長オフィスに沈黙が流れる
「・・・・・安心しろ。いざとなれば、お前達に遠慮なく助けを求める。それに、あの予言は一個人を予言した事は無いと言っていた。
たまたま言語が重なっただけかもしれん。だが、もしもの時はよろしく頼むぞ」
「うん、任せとき!」
カナードから離れるはやて、先ほどの行動を思い出したのか顔を赤くする。
「そんなら、色々とすっきりした所で、飲みにいこうか!」
先ほどまでとは打って変って笑顔で話すはやて
「地球では年齢的に飲酒は禁止の筈だが・・・まぁ、ここはミッドチルダだから関係ないか、今更だがな」
肩をすくめながらも、同行することにするカナード。

 

翌日、さわやかな笑顔で仕事をこなすはやてと、顔色を悪くしながらも必死にキーボードを叩くカナードが六課で目撃された。