勇敢_第17話

Last-modified: 2008-05-12 (月) 22:33:32

・ゆりかご

 

:王座の間

 

自身を囲むように展開されているモニターを見ながら現状を確認するクアットロ。
その表情からは普段の明るさは消えており、真剣な眼差しは、こちらに向かってくるなのはを移してるモニターに向けられていた。
「ブラスターシステムなんてたいそうな名前がついてるから、どんな物かと思えば・・・・・・馬鹿らしい。
とんだ自虐技ね・・・・・・でも、ディエチを生かしてくれた事には感謝しないと」
同じく展開された別のモニターで、バインドで縛られたままのディエチの姿を確認し、安堵の溜息をつく。
「ディエチちゃ~ん~。だ~いじょ~ぶ~?」
「・・・・・・うん、声からして全然心配してくれている様には思えない呼びかけだね・・・・・・・一応ありがとう。生きてるよ」
器用に体を転がし、どうにか首を上空のモニターに傾けたディエチはジト目でクアットロを見つめながら答えた。
「失礼な、私は・・・・私は・・・・・ディエチちゃんを・・・こんな子に育てた憶えは・・・無いのに・・・
・・・・・・うううう・・・・・」
どこから取り出したのか、いつの間にか手にした白いハンカチで目頭を拭うクアットロ。
「私の教育を担当したの・・・・・・・クアットロだっけ?」
変わらずにジト目でこちらを見つめるディエチに、クアットロはわざと聞こえるように舌打をし、ハンカチを投げ捨てた。
「・・・・・まぁ、冗談はこれ位にして、そこまで喋れるのなら安心ね。待ってなさい、今解いてあげるから」
ピアノを弾く様な手さばきで周囲に展開されている端末を操作、すると、瞬く間にディエチとイノーメスカノンを拘束していたバインドが解除される。
自信を拘束していた縛めがなくなった事を確認したディエチは起き上がり、体調の確認を込めて軽く体を動かす。
「ありがとう。でも、負けちゃった。地の利はこちらにあったから自信はあったんだけどな」
呟きながら転がっているイノーメスカノンを拾い上げ、肩に担ぎあげる。
「命あってのものだねよ。本当は休んで欲しいけど、おそらく駆動炉に向かったチビ騎士以外にも局員が潜入している筈、ディエチちゃん」
「わかってる。ここで食い止めるから、あの魔道師の相手を御願い。でも・・・・・無理はしないでね」
通信を切ったディエチは、肩に担いでいたイノーメスカノンの状態を確認。
外部装甲にキズが付いている以外、正常に稼動できる事に、つい笑みがこぼれる。
「さすがドクターが作って、ヴェイアが調整した物だ・・・・・問題なく使える。」
顔を引き締め、イノーメスカノンを構える。来るであろう敵を迎え撃つために。姉の邪魔をさせないために。

 

・ゆりかご内

 

「こちらD班!ゆりかご内部に潜入。AMFが濃い以外、特に異常はありません!」
「こちらB班!D班同様異常なし。これより駆動炉に向かったヴィータ三等空尉の援護に向かう!」
「了解!D班も続く!A班とC班は高町一等空尉の援護を!」
なのは達がゆりかご内に潜入してから数十分後、突入隊のメンバーがようやく揃い、今正になのは達の
援護に向かおうとしていた。だが突如、A班とC班の隊長に通信が入る。
「突入部隊へ、こちらスターズ1・高町なのは一等空尉です。応答を願います」
突然のなのはの通信に驚きづつも、全員が映し出されたなのはの顔に注目する。
「高町一等空尉、遅くなりましたが突入部隊、到着しました。今すぐそちらに(結構です」
表情を変えずに断りを入れるなのは。呆気に取られている隊長達には目もくれずに報告を開始する。
「先ほど、主犯格の戦闘機人を捕らえました。保護対象である『聖王の器』も確保を完了。ですが、
最後の抵抗なのか、戦闘機人がゆりかごの自爆装置を作動させた様です。至急退避を、こちらも直に撤退を開始します」
一方的に話し、一方的に通信を切ったなのはに、突入隊員達は呆気に取られる。
すると、突然ヴィータの援護に向かう予定だったD班から連絡が入った。
その連絡を受けた隊員は二言三言話した後、通信を切り、隊長に報告をする。
「・・・・・・先ほどヴィータ三等空尉の援護に向かったD班から連絡が入りました。
『駆動炉の破壊に成功、総員退避されたし』だそうです。二班とも撤退を開始しています」
「そうか・・・・・さすがは精鋭揃いの機動六課と言った所か・・・・・よし、こちらも撤退する!」
内心でなのは達を感心しつつも、突入隊員達は迷う事無く撤退を開始した。

 

もし、この突入隊の中に、少しでもなのはの事を知っている人物がいたら不審感に気付いただろう。
なのはは決してヴィヴォのことを『聖王の器』と言わないのだから。

 

「・・・・・・任務完了」
ほの暗い部屋の中で、フォーティーン・ソキウスは突入隊員が撤退するの確認した後、通信端末を閉じる。
そして、自信のデバイス『NダガーN』を装着、
「・・・・最終任務・・・・・開始」
ミラージュコロイドを展開しながら部屋から出るために入り口に向かって歩き出した。
脇に、レリックが入ったケースを抱えながら。

 

・王座の間

 

「・・・・・そろそろ来る頃ね・・・・・迎えて差し上げないと・・・・あなたのママを」
眠っているヴィヴィオに語りかけた直後、閉じられている王座の間の扉が外から圧迫された様に大きく凹み、
直後、桃色の魔法光が扉を吹き飛ばした。
その光景に、クアットロは特に動じずに侵入者を迎える。
「いらっしゃ~い。お待ちしてました~。」
あっけらかんと自分に挨拶をするクアットロに、侵入者・高町なのはは睨みで答えた。
「こんな所までわざわざご苦労様。さて、各地で貴方のお仲間は大変な事になってますよ~」
上空に出現した映像、そこには六課のメンバーが戦っている姿が映し出されていた。
ノーヴェと空中戦を行なっているスバル。
二体の戦闘機人に苦戦するティアナ。
必死に外を守っている、はやてとリインフォース。
大量のガジェット二型に苦戦するヴィータ。
その光景を見たなのはは、特に臆する事無く、事務的にクアットロに話しかける。
「大規模騒乱罪と、誘拐の現行犯で、貴方を逮捕します。直に騒乱の停止と、武装の解除を」
普段のなのはを知っている物であれば、驚くほどの冷たい言葉にも、クアットロは動じずに、
相手を小馬鹿にしたような微笑でなのはを見つめる。

 

「(やはり、この程度では動じませんか)仲間の危機と、自分の子供のピンチにも、
表情一つ変えずにお仕事ですか~?良いですねえ~。そんなに手柄が欲しいのかしら~?」
クアットロの手がゆっくりとヴィヴィオの頬に触れようとした瞬間。
なのはは躊躇無くクアットロに向かって、ディバインバスターを放った。
「おやおや、そんな険しい顔をして」
だが、ディバインバスターはクアットロをすり抜け、壁に当たる。
そしてヴィヴィオの隣に立っていたクアットロはノイズ音の跡に消えてしまった。
「っ、ただの映像!?」
驚きづつも、レイジングハートを構えたまま周囲を警戒するなのは。
「まぁ、理由はどうあれ、貴方が必死なのはわかりました」
王座の間に響き渡るように、クアットロの声が木霊する。
「だって、あの子の隣にいた私が偽者だと気付かないで・・・・・・貴方の真後ろにいる私に気が付かないんですから!」
なのはは声が聞こえた方向、自分の後ろを反射的に振り向く。その直後
クアットロはレイジングハートの柄を持ち、取り上げる様に力任せに引き寄せた。
なのはも自分の愛杖を離すまいと力を加え、引っぱろうとするが、圧倒的な力の差に、逆に杖と一緒に引き寄せられてしまう。
「非戦闘型の私でも、一応は戦闘機人ですからねぇ・・・・・」
空いてる方の腕でなのはの首を掴み、そのまま締め付ける。
そして、徐々になのはの体を持ち上げると同時に、掴んでいたレイジングハートを取り上げ、無造作に投げ捨てた。
「くっ・・・・かっ・・・・・」
自信に魔力強化を施し、どうにか腕を解こうとするが、クアットロは締め付ける力を緩めずに、
なのはを自分の腕が腕が上がる限界まで持ち上げ、
「私のパワーリミッターを解除しました。非戦闘型ゆえ、短時間しか出来ませんが、パワーの程はご覧の通り・・・・・」
そのまま振り被りなのはを地面に叩き付けた。
なのはは人形のように一度大きくバウンドし、そのまま床を転がる。
「・・・・・リミッター作動。ふぅ、無理はいけないわね・・・・」
疲れた様に気を吐きながら、自身のパワーリミッターを作動させ、先ほど叩き付けたなのはの様子を伺う。すると
「・・・・くっ・・・・・・・まだ・・・・・・」
なのはは痛む体に活をいれ、ふらつきながらも立ち上がりクアットロを見つめた。
その光景をクアットロはわざとらしく拍手をし、感心した表情で見据える。
「いや~凄いですわね~。まさに『母は強し』。で~も~、仮に私を倒してこの子を保護しても、上の命令なら引渡すんでしょうね~」
「・・・・どういう・・・・こと・・・・・」
「あら~?知らないんですね~?良いでしょう。全てを教えて差し上げますわ。私達の目的と、この子が生まれたわけを」
人差し指でメガネのズレを直したクアットロは全てを話し出した。
スカリエッティの本当の目的、管理局の上層部が関わっていた事、自分達がこれから行なおうとする事。
クアットロから聞かされる真実に、なのははただ黙って耳を傾けていた。いや、耳を傾ける事しか出来なかった。
「この子、ヴィヴィオを生み出すのを命じたのも、最高評議会ですからねぇ~」
「・・・・・なんで・・すって・・・・・」
「やれやれ・・・・・知らないとは罪と言いますが・・・・・・お教えしましょう」
クアットロは自分の周囲に端末を出現させ操作し、ある映像を出現させる。
「何・・・・・これは・・・・・」

 

映し出された映像『カプセルに入った3つの脳』になのはは自然と疑問を口にする。
「『管理局最高評議会』ですわ。旧暦の時代に次元世界を平定し、時空管理局設立後、今の伝説の三提督に現場を任せ
一線を退いた3人の人物の成れの果てです。彼らは優れた指導者によって統べられる世界を作る事を目的とし、自分達がその指導者を選び、
その影で自分達が世界を導く事を当然と思っていました。そして彼らはその指導者に古代ベルカの聖王を選びました。
『永く続いた古代ベルカの戦乱の時代を終結に導いた偉人』正に打って付けだったのでしょう」
「だけど・・・・・既に亡くなっている人を選ぶなんて・・・・・」
「ええ・・・・・この時点で彼らは狂っている。ですが、さらに狂った事を彼らは行ないました。『生命操作』です。
彼らは『生命操作』を用いて、聖王の復活を目論見ました。そして、それを実行させるために生み出されたのが、私達の創造主『ジェイル・スカリエッティ』」
数秒間を置いた後、クアットロは再び端末を操作、次の画面には染みが付いたボロボロの布が映し出される。
「これは聖骸布、聖王の亡骸を包んでいた布ですわ。これにはごく僅かですが血液が含まれていましてねぇ、遺伝子情報もとり出されました。
彼らが復活を望む聖王の遺伝子データーがねぇ。あとは、言わなくても理解できるでしょう?」
「それを・・・・・使って・・・・・・生み出されたのが・・・・ヴィヴィオ・・・・」
「ご名答~。まぁ、この聖骸布を盗んだのは私の姉ですが、簡単な色仕掛けであっさりくれたらしいですわ。まったく、聖王教会も地に落ちましたね~」
『やれやれ』といいながら頭を軽く振り再び端末を操作、今度はゆりかごの全容が映し出される。
「『聖王のゆりかご』、管理局最高評議会が世界を統治するために掘り出した力です。ドクターに聖王を復活させた後、
復活させた聖王を使いゆりかごを機動、そしてその二つの力を使い世界を統治・・・・・・・・・自分達の思い通りにね。
おおかた、この子を蘇らせたら洗脳でもするつもりだったのでしょう。もしかしたら人格を破壊してただの操り人形にでも。
だからドクターはこの計画を失敗に終らせる気でした。ですが、予想外の事態が起きたんですよ」
「予想外の・・・・事態・・・・・」
なのはの呟きにクアットロは頷き端末を操作、次に映し出されたのは培養液に満たされたカプセルに入ったヴィヴィオだった。
「ドクターが実験体になった子達を助けるために、それらに関する研究を評議会の脳味噌達に一任させたのは先ほど話しましたよね。
ですが、それを不満に思っている人もいました。みっともなくドクターを罵倒する輩もいましたが、まぁ、パトロンからの命令ですからね。
素直に従いました。ですが、それでも独断で研究を行なう人は後を経ちませんでした。彼らにもプライドだけは一人前に持っていたのでしょう。
高町なのは、貴方にも似たような経験があるのでは?」
突然話を振られた事に困惑するなのは。逮捕するべき相手の筈だが、彼女の問いかけについ考え込んでしまう。
「貴方は生まれてから類まれなぬ才能を持ち、9歳の時点では本局にすら稀にいないAAAランクの実力を持ち合わせた。
貴方が管理局に入隊した時、貴方の才能を妬んだり、陰口を叩いた人はいませんでしたか?」
クアットロの言葉になのははハッとする。
確かに、当時自分に対して陰口を叩く人は確かにいた。『才能があるだけのただの子供の癖に』や『ここはお子様の遊び場所じゃないんだぞ』など
今にして思えば、取るに足らない悪口だが、当時の自分には堪えたことを思いだした。

 

「あら、話しがそれてしまいましたね。結果、複数で行なわれる筈だった聖王の復活計画はドクターに一任される事になりました。まぁ、正直ドクターの手に掛かれば
古代ベルカ時代に活躍した聖王を復活させる事など容易いことですし、そもそも聖王を復活させるためにドクターを生み出したのですから
当然といえば当然ですね。ドクターは当初はこの聖王の復活をわざと失敗させ、計画を無くす魂胆でした。
ドクターが失敗すれば、脳味噌の連中も諦めると思ったのでしょう。ですが、先ほども言いましたよね?プライドだけは一人前に持った馬鹿共がいた事を。
評議会の脳味噌連中は、彼らにも聖骸布から得たデータを与え、研究をやらせていたんです。そして成功してしまった。それが彼女」
ウィンドウを消し、眠っているヴィヴィオの方を向き、続きを語りだすクアットロ。
「その事を知った私達は即座に行動に出ました。あの脳味噌連中に渡ったら何をされるかわかったものじゃありませんからね。
この子と、この子に対応するレリックを載せたトラックが評議会の元に運ばれることを知り、事故に見せかけて救出する手はずでした。
丁度レリックも一緒に運ばれていましたので、レリックに反応するガジェットに襲わせる魂胆だったのですが、どういうわけか、
この子が輸送トラックとガジェットを破壊してしまい逃亡。下水道でさまよっているこの子を保護したのが、デート中の貴方の部下というわけです」
「救出って、貴方達はヴィヴィオが乗ったヘリを撃ち落そうとした!あの時カナードが防いでくれなかったら・・・・・・矛盾している!!」
「ご心配なく、あの時あの人が防がなくても、この子には傷一つ付きませんでした。古代ベルカ王族の固有スキル『聖王の鎧』によって。
一緒に乗っていたお仲間さんには申し訳なく思っています。脳味噌の息が掛かった連中かと思いましたので」
淡々と話し続けるクアットロになのははただ唖然とするばかりであった。そして、今のヴィヴィオの状態に疑問をぶつける。
「ヴィヴィオは・・・・・・ヴィヴィオはどうなったの!!?」
この部屋に来てからなのははヴィヴィオの事を観察しているが、眠ったいる様に全く反応しない事に、自然と嫌な予感が渦巻く。
「安心しなさい、ただ眠っているだけですわ」
その不安をクアットロはつまらなそうに言い放ち、解消させる。
「本来は、この子にレリックコアを移植して、聖王のゆりかごの起動キー『鍵の聖王』として用いるつもりだったのですが。
そんな事をさらさらする必要はありません。この子に中にある聖王の遺伝子データーを少し使っただけです。まぁ、採血をしたと思ってください。
本来なら聖骸布に残っている血液を用いるつもりだったのですが、より確実な方を選びました。
そして、全てが終ったら、この子はあの子に・・・・・ああ、ドクターが治して、今はある次元世界で普通に暮らしている子のことです。
その子に預ける予定です。幸い脳味噌連中は死んだ・・・いえ、『処分』されましたし、管理局が私達の申し出を断る様な馬鹿ではない限り、
今後、この子や彼女達の様は悲劇は生まれない。この子も普通の女の子として幸せに暮らせる筈です」
なのはは何一つ反論する事ができなかった。彼女は・・・彼女達の行なっている行為を貶す事など・・・・・誰にも出来ない・・・・・
「正直、この子が貴方達に連れ去られた時には、慌てました。ですが、今では感謝しています。この子を眠らせる時に、話をしましてね。
貴方達がこの子をどんなに大切にしていたか。貴方の事『なのはママ』のことを嬉しそうに話してくれましたよ」
なのはからは見えないが、クアットロは優しく微笑みながらヴィヴィオを見据える。そして
「一時はこの子を貴方に託そうと考えましたが・・・・・・・・・・・・・貴方では無理ですね」
クアットロはなのはの方を向き、先ほどの笑みとは正反対な冷酷な笑みではっきりと言い放った。

 

・駆動炉進行ルート

 

迫り来るガジェットを次々と破壊していき、とうとう駆動炉にたどり着いたヴィータ達。
駆動炉がある部屋に入った二人が見たのは、淡い光りを放つ大きなクリスタルだった。
「これが・・・・・・駆動炉・・・・・・大きい・・・・」
淡い光りを放つクリスタルを見上げながら、素直な感想を呟くプレア。
ヴィータも同じく見上げるが、直に顔を引き締め、アイゼンを構える。
「こいつをぶっ壊して・・・・・・この船を止めるんだ!プレアのおかげで十分休めたんだ。リミットブレイク、行くぞアイゼン!!」
『Ja wohl!!Zerstorungsform !!』
カートリッジをロードし、ヴィータはアイゼンを振り被る、するとアイゼンの左右のハンマーヘッドが消え、
変わりにギガントフォルムに似たハンマーヘッドが出現。だが、ただのハンマーヘッドではなく、
ドリルとブースターがついた、より攻撃的な形態へと変貌していた。
「どーだ、プレア?すげーだろ!?」
プレアに自慢するように、軽々とハンマーを掲げるヴィータ。
ギガントフォルム以上の凶器となったハンマーをマジマジと見つめたプレアは
「・・・・・うん、すごいね。ヴィータちゃんにぴったりだよ」
屈託のない笑みで感想を述べた。
「・・・・・・・アイゼン、アタシ、褒められてるんだよな?」『・・・・・・・』
「・・・・・・・間が空いた所がきになるんだけどよ?」『・・・・・・・・・・・』
プレアに聞こえないようにヴィータは小声で自身のデバイスに尋ねるが、アイゼンは無言。
自分の質問に答えないアイゼンに釈然としない気持ちになりながらも、気持ちを切り替え、ツェアシュテーレンフォルムに変形させたアイゼンを
軽々と持ち上げジャンプ、駆動炉より高く舞い上がった所で体を固定し、魔法陣を展開
アイゼンを大きく振り被ると同時にカートリッジをロード、ブースターが火を噴き、叩きつける威力を極限まで増す。そして
「メガツラストルッツゥ!!!!!!!!」
駆動炉に渾身の力を込め叩きつけ、それと同時にドリルを回転させる。
さらにカートリッジを二発使用、ドリルの回転数を急激に上げ貫通力を増し
「ハンマァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
止めと言わんばかりに勢いに任せて叩きつけた。その結果、接触部で魔力爆発が起き、、ヴィータは軽く吹き飛ばされる。
爆発で起きた煙に撒かれながらも、対象を破壊できたかを確認する。すると

 

                 『危険な魔力反応を感知しました』

 

警告音と共に、爆煙から無傷の駆動炉が姿を現し、同時にヴィータの周辺に無数のキューブ状の物体が現れた。

 

      『防衛モードに入ります。これより駆動炉に接近する物は、無条件で攻撃されます』

 

警告は済んだとばかりに、無数のキューブは一斉にヴィータに攻撃を開始。

 

「ヴィータちゃん!!!」
爆煙に包まれたヴィータに向かった叫びながらも、プレアは飛行を開始する。すると、
今度はプレアに目標を定めたのか、先ほどのヴィータ同様一斉に攻撃を開始した。
「くっ・・・・この・・・・」
四方八方から放たれる攻撃を巧みに避けながらのガンバレルを展開し、反撃に移る。
「ヴィータちゃん!返事をして!ヴィータちゃん!!」
攻撃を避けながらも、未だに爆煙に包まれているヴィータに向かって叫び続けるプレア。すると
「こんなモンでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
叫びながら爆煙から飛び出したヴィータは再びアイゼンを振るう。
叩きつけると同時に再びドリルを回転させ、今度こそ対象を破壊しようとするが、
「うあっ!!」
思った以上の駆動炉の硬さにより押し負け、吹き飛ばされてしまう。
だが、地面に叩きつけられる瞬間にプレアはヴィータをキャッチ、キューブから放たれる砲撃を避けながら
一旦駆動炉から離れ、通路まで退避する。
「ここなら、攻撃はされないみたい・・・・・・ヴィータちゃん大丈夫?」
回復魔法をかけながら自身の心配をするプレアに、ヴィータは安心させるように笑いながら答える。
「ああ・・・サンキュ。アタシはそんなにヤワじゃねぇよ」
「駄目だよ!無茶しちゃ。ヴィータちゃんは女の子なんだから」
「なっ、何いってんだよ!おめぇ!!・・・・まぁ・・・何だ・・・・あんがとよ」
ヴィータは自身の照れを隠すかのようにそっぽを向く。そして、首を向けることで目に付いた駆動炉を、獰猛な笑みで見つめる。
「・・・・・だけど、ここまで硬いなんてな・・・・おもしれぇ・・・・」
獰猛にニヤつきながらもカートリッジの補充を完了し、破壊すべき対象に立ち向かうために立ち上がる。
「プレア、お前はここからあの沢山ある砲台を潰してくれ。アタシは今度こそ駆動炉を砕く・・・・頼んだぞ!」
再び室内に入ったヴィータに降り注ぐ砲撃の嵐、それを物ともせずに駆け抜け飛び上がる。
駆動炉の高さまで上り詰めた瞬間にカートリッジをロード、ドリルを回転させたアイゼンを振り被り、力の限り叩きつけた。
それと同時にプレアも飛び出しガンバレルを展開、ヴィータと自分を狙う砲台を片っ端から撃ち落していく。
「なっ!?プレア!なんで出てくんだ!!?遠くからガンバレルで攻撃すればいいだろ!!?」
自分同様に身を危険にさらしながら戦うプレアに、ヴィータは攻撃を続行しながらも怒鳴り散らず。
「・・・・・ヴィータちゃんを狙っている砲台は沢山あるから・・・・・少しでも相手を惑わす対象が多い方が良いでしょ?
僕は大丈夫、だから破壊に専念して、ヴィータちゃんには絶対に攻撃させないから!」
自分に攻撃を向けるように動き回ると同時に、ヴィータを狙う砲台を正確に破壊していくプレア。
動けないヴィータより、邪魔をするプレアを先に始末しようと結果付けたのか、キューブ型の砲台は一斉にプレアに攻撃を仕掛けた。
上下左右、四方八方から放たれる砲撃を、プレアは先読みしているかの様に全てを避けきる。
同時に展開したガンバレルで次々とキューブ型の砲台を破壊していった。

 

「ああ・・・・・始めっから信用してるぜ!プレアのこと!」
安心するかのように微笑みながらヴィータは笑顔で言い放つ。

 

今の彼女に不安など何一つ無かった。彼が・・・プレアが自分を守ってくれている・・・・・・これほど心強い事はない。

 

「アイゼン・・・・・・いくぜぇ!気合いれろぉぉぉ!!!!!!!!」『Ja wohl!!!!』
ヴィータの気合に答えるように、ブースターの勢いがさらに増し、ドリルの回転数も急激にあがる。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
その結果、駆動炉の表面に小さなヒビが入った。
「・・・・・・確かに硬かったぜ・・・・・リミットブレイクしたアイゼンをここまで手こずらせるんだからよ」
そのヒビは徐々に広がり、駆動炉全体に広がっていく
「だけどな・・・・鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼンの前じゃなぁ・・・・・」
プレアが最後のキューブを破壊し、自分達を攻撃する物がすべて無くなった瞬間

 

           「砕けぬ物なんて・・・・・ねぇんだよぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

アイゼンのドリルは駆動炉の表面装甲を貫き、文字通り駆動炉を叩き割った。

 

・王座の間

 

「ん?この振動は・・・・・駆動炉?チビ騎士がやったの?」
なのはとの会話を一時中断し、確認するために駆動炉室の映像を映し出す。
「・・・・・・・無事ね。外の戦闘かしら?」
モニターには『異常が無い駆動炉室の映像』と『未だにガジェットに手こずっているヴィータの映像』が映し出されたため、
映像を閉じ、クアットロはなのはとの会話を再開した。
「・・・私には・・・・無理って・・・・どういうこと!?」
クアットロの放った言葉に、なのはは感情的になってしまう。
そんななのはを小馬鹿にするように見据えながら、クアットロはゆっくりとなのはに向かって歩き出す。
「本来なら・・・・貴方達がこの子を保護した段階で、管理局が引き取る手はずだったのですよ。
おかしいと思いませんでした?ロストロギアであるレリックを二つも抱えた不振な少女。
そんな怪しさ満点な子を一部隊でしかない貴方達に預けるなんて?」
その事に関してはなのはも疑問に思っていた。事件の被害者ならまだしも、ヴィヴィオの場合は保護されたのが特殊な状況だったからだ。
それに先ほどのクアットロの話しでは最高評議会はヴィヴィオを欲していた。正に自分達の手の内にあるのだ。ほっとく筈がない。

 

「ドクターが、評議会に取り合ったのですよ。『このままにしといてくれ、珍しいデーターが取れるかもしれないから』って。
よかったですわねぇ~。ドクターのおかげで少しでも『母親ヅラ』が出来たんですから~」
「違う!!私はそんな風にヴィヴォをみていな(嘘おっしゃい!!」
なのはが否定するように叫ぶが、間髪いれずにクアットロは否定をする。
「だって~、管理局内では有名で人気がある貴方でも、所詮は一局員。上の命令には素直に従うんじゃありませんかぁ~?
昔の貴方なら、感情に任せて行動できたでしょうか、今の貴方は戦技教導官というご立派な役職を持った武装隊員。
むしろ手柄のために喜んで差し出すような気がしますけどねぇ~?」
小馬鹿にするように言葉を投げかかるクアットロに、なのははただ沈黙するだけであった。
そして当時に考えた。もし彼女が言った様な状況が起きたら、自分はヴィヴィオを引き渡したのだろうか?
無論手柄など、そんなものに興味は無い。だが、評議会の実体を知らなかった以上、『時空管理局本局武装隊・高町なのは』
として、自分は何の迷いも無くヴィヴィオを引き渡していたかもしれない。
その結果、ヴィヴィオは彼女が言ったような処理を施され・・・・・・・・・・
考えただけで体が震え、無意識に自分自信を抱きしめるなのは。
そんななのはを無関心に見つめながら、クアットロは歩み続ける。
「それに、貴方なこの子の引き取り手を捜していた・・・・・・・・・・馬鹿ですか?貴方は?本当に見つかると思ったのですか?
この子が普通じゃ無い事は知っている筈ですのに。仮に真実を伏せたとしても、正体がわかった途端に気味悪がられて『ポイッ』。
貴方のお友達の部下、エリオ・モンディアルのようにね。彼も可哀想な子です。親のエゴによって生み出されたにもかかわらずに、
彼を生み出した親は自分達の被害を少なくするために、掌を返した様に局の捜査官にあっさりと引き渡したのですから」
なのはの目の前まで来たクアットロ。だが、なのはは俯き何の反応を示さない。
そんな姿に大きく溜息をついた後、なのはのあごに手を乗せ、無理矢理顔をあげさせ、こちらの顔を見させる。
「所詮、貴方も『母親ゴッコ』がしたかっただけ。飽きたらあっさりと引き渡す。素敵ですねぇ~。まさに『白い悪魔』ぴったりじゃないですか~」
「ち・・・・・違う・・・・私は・・・・・私は・・・・・・」
「何より、貴方自信がこの子の母親にならなかったのが何よりの証拠。この子も可哀想に~、
『母親と慕ってくれた女は、母親ゴッコを楽しんでいた悪~い悪~い悪魔でした~』なんて、あ~可哀想!!」
興味が失せたと言いたげに、なのはを一度見下したように睨みつけたあと、あごから手を離す。
支えを失ったなのはは、床にへたり込み、ただ「違う・・・違う・・・」と呟くだけであった。
「はぁ・・・とんだ期待外れでしたね。私の言葉の中に、図星な部分でもあったのかしか?」
バインドでなのはを縛り付けながら、クアットロは思っていたよりあっけない結末に心底詰まらそうに呟く。
「まぁ、安心してくださいな。貴方の命は取りませんし、この子もさきほどの子に保護させます。まぁ、その時には貴方達の記憶は消させてもらいますけどね」
後は、駆動炉を潰そうとしてるヴィータをどうしようかと考えていたその時、
突如クアットロの体がバインドにより拘束された。
「なっ!!?」
突然の事態にクアットロは滅多に見せない驚きの表情を表すと同時に、自分を拘束したであろうなのはに顔を向けるが、
当のなのはも、突然拘束されたクアットロの姿に驚いていた。
「(・・・・こいつじゃない?じゃあ・・・チビ騎士?馬鹿な、この部屋にいるのは私達3人だけ、チビ騎士も駆動炉の進路上にいるガジェットに苦戦・・・・)」
何かを感じ取ったのか、クアットロは先ほどまで展開していた映像を思い出す。
確かにあの映像ではチビ騎士はガジェットに苦戦していた・・・・・・だが、考えてみると明らかにおかしい。
魔力数値から彼女達がリミッターを解除している事は潜入している時に確認できた。なのになぜガジェットに手こずるのだろうか?
AMFが展開してるとはいえ、ここまでガジェット相手に時間を掛けるのは不自然極まりない。
そうなると、先ほど自分が見ていた映像は偽者?
「馬鹿な、誰がこんな事を?」
自問しながらも、クアットロはどうにかバインドを解こうともがく。その時

 

「対象の拘束完了・・・・・任務続行」
突然の声に驚きながらも、自然と声がする方に顔を向ける二人。すると
ヴィヴィオの目の前にフォーティーン・ソキウスが空間から溶け込む様に現れ、無表情に縛られている二人を見つめいてた。
「貴方は・・・・・アッシュ・グレイの・・・・・・」
確認するようにクアットロは問いかけるが、フォーティーン・ソキウスはそれを無視し、ヴィヴィオの方を向き
持っていたケースからレリックを取り出す。取り出されたレリックは眩い光りを放ちながら自然と浮き上がり、そして
ヴィヴィオの体の中へと吸い込まれるようにして収まった。
「なんて事を・・・・・この子を殺すつもり!?」
クアットロがフォーティーン・ソキウスに向かって怒鳴る。なのはもクアットロの声に反応し顔を上た。
王座の間を埋め尽くす虹色の光り『カイゼル・ファルベ』に飲まれながらも、必死にヴィヴィオの名前を呼ぶ。
「ヴィヴィオ・・・・ヴィヴィオ!!」
目を大きく見開き、苦しそうに体を動かすヴィヴィオになのははどうにか近づこうとするが、
王座の間を埋め尽くすカイゼル・ファルベによって軽々と吹き飛ばされてしまう。
「な・・・の・・は・・・・・・マ・・・・マ」
だが、なのはの声を聞いたヴィヴィオは、苦しみながらも目開け、なのはの名前を呼び、その姿を探す。
だが、縛られているなのはの姿を見つけた直後、なのは達の姿を隠すようにフォーティーン・ソキウスが立ちふさがり、
感情の無い瞳でヴィヴィオを見据えた。
「・・・・・・未だに理性を保つ事ができるとは・・・・・・計画変更」
機械的に呟いた後、ゆっくりと腰に差してあった刀を抜き取る。
「意識が正常な状態では・・・・・・生体兵器としての覚醒は不完全・・・・・・アッシュ様が求めるのは・・・・・狂った兵器」
フォーティーン・ソキウスは抜き取った刀をゆっくりと自分の首に持っていく。そして
「アッシュ様に栄光を・・・・・・任務完了」
なんの迷いも無く自身の首を切り裂いた。
噴水の様に吹き荒れる鮮血、全てがヴィヴィオに降りかかる。
服を赤に染め、金髪を赤く染め、顔を赤く染める。
「・・・・・・あ・・・・・・あ・・あああ・・・・・・・・」
血を撒き散らしながら自分に向かって倒れこむフォーティーン・ソキウスにヴィヴィオは顔を引きつらせ純粋に恐怖する。
そして恐怖で心が壊れる寸前のヴィヴィオが見たのは自信を心配してくれるなのはの顔ではなく

 

顔の半分上を自身の血で汚し、目を見開いたまま死んだフォーティーン・ソキウスの顔だった。

 

           「あ・・・・あ・・・・ああああああああああ・・・・・あ・ああああああああああああああああああ」

 

今のヴィヴィオに、目の前の恐怖を克服する事は

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

出来る筈が無かった。