勇敢_第16話

Last-modified: 2008-05-12 (月) 22:32:59

・廃都市上空

 

上空に展開される光りの道、二つの違う光りの道が、空に落書きをするかの様に展開される。
消えては展開される光りの道を、二人の少女が翔る。
「うおおおおおおお!!!!」
自身の光りの道『ウィングロード』を展開しながら、数十回目となる攻撃を行なおうとするスバル。
「このやろぉおおお!!!」
ノーヴェも正面から対抗するために自身の光りの道『エアライナー』を展開、突撃を開始する。
二つの光りは上空で幾重にも交差し、そのたびに、互いの拳と脚がぶつかりあう。
だが、互いの技量と性能、戦闘スタイルが似ているためなのか、未だに二人とも、決定打を与えるまでには至らなかった。
「おりゃあああああ!!!」「このおおおおおお!!!」
互いの攻撃を力ずくで受け止めた後、一度距離をあけ、様子を伺う二人。
それと同時に辺りは静かになり、遠くで展開されている戦闘の音と、風の音だけしか聞こえなくなる。
「(やっぱり・・・強い・・・・・・。パワー、スピードはほぼ互角、牽制で使われる右腕のエネルギー弾が厄介だな。
今の所はどうにか渡り合えてるけど、こんなんじゃ、いつまでたっても決着がつかない・・・・・・)」
内心で呟きながらも油断なくノーヴェを見るスバル。カートリッジをロードし、再び攻撃をするかのように、腰を軽く落とす。
「(ティア達の事も心配だけど・・・・・・余計な事を考えてたら・・・負ける・・・・・)」
拳を握り締め、スピナーを回転させる。その行動にノーヴェも両足のスピナーを回転させ、攻撃態勢に入る。
「(振動破砕・・・・・・・これしか・・・・・ない・・・・・)」

 

思い出すのは、肉を、骨を砕く感触、そして掠れ掠れの少年の言葉。

 

その思いを頭からかき消す様に数回頭を振り、スバルは自身の機能を戦闘機人モードに変更した。

 
 

「(あの鉢巻・・・・・・つええな・・・・・・畜生、甘く見てた・・・・)」
正直、手こずりはしても、それ程時間を置かずに決着が付くと思っていた自身の考えの甘さを内心で恥じる。
「(パワーとスピードはほぼ互角、飛び道具はウェンディの時に使った『リボルバーシュート』って奴しかしかなさそうだな。
あれは砲撃っぽいから、連射は出来ない筈。だけど、ぶつかる度にスピードが速くなってるし、攻撃も重くなっている。
まったく・・・・プロトタイプが最強ってのは、アニメの中だけにして欲しいぜ・・・・・)」
以前チンクと見たアニメを思い出しながらも、腰を軽く落とし、攻撃態勢に入る。
「(このままじゃジリ貧だな。あいつがISを使うその時が・・・・・・・・勝負だ)」

 

・数日前

 

:ヴェイアの部屋

 

「ヴェイア・・・・・大丈夫か?」
地上本部襲撃で重症を負ったヴェイア。だが、二日後には目が覚め、三日経った今では普通に会話できるほにまで回復していた。
今は病院服に身を包み、自身の部屋のベッドで回復に専念していた。
「大丈夫。ドクターのおかげだよ」
ノーヴェに心配を掛けないように、笑顔で答えるヴェイア。
「ほんと・・・よかった。あの時は・・・マジで・・・・・心配したんだからな・・・・。だけどよかった。
そんでさ・・・ありがとな。チンク姉を守ってくれて」
笑顔でヴェイアにお礼を言うノーヴェ。だが、直に俯き、力強く拳を握り締める。
「だけどさ・・・・・・許せねぇよ・・・・・あの鉢巻・・・・・・今度あったら・・・・(ノーヴェ」
名前を呼ばれたため、顔を上げたノーヴェは自然とヴェイアの顔を見る。その顔は悲しそうな顔をしていた。
「・・・・・・・・お願いがあるんだけど・・・いいかな?」
「何だ?敵討ちならまかせ(それをやめて欲しいんだ」
ヴェイアの発言に絶句するノーヴェ、直に感情を露にし言い返す。
「何言ってんだよ!!あいつが何したか分かってるだろ!?お前を意識不明にした奴だぞ!!そりゃ・・・お前は・・・
御人好しだから・・・・・許すかも知んないし、ギンガの事もあるけど・・・・・でもな、アタシらは許せないんだよ!!!!」
「・・・・・・・ノーヴェ、聞いてくれるかな?」
感情に任せて叫ぶノーヴェを宥める様に、ヴェイアは優しく語り掛ける。
「ノーヴェの気持ちは・・・・とても嬉しいよ。だけどね、怒りや憎しみで自分を動かすのは絶対にやめて。
そんな気持ちで戦ったら・・・・・絶対にロクな事にはならないから」
「っ!・・・・・・だったら・・・・・どんな気持ちであいつらと戦えばいいんだよ!!?『仇を取る。復讐する』って
目的しか・・・・・アタシには無い!!」
俯きながら言葉を吐き捨てる。
「ノーヴェ、大事な事を忘れてるよ」
「何だよ・・・・・大事な事って・・・・」
ヴェイアは何も悪くないと内心で分かってはいるが、つい辛く当たってしまう自分に内心で自己嫌悪する。
だが、ヴェイアはそんなノーヴェに優しく語り掛ける。
「皆を守るって事だよ。ドクターや姉妹の皆達・・・・・・大切な物を守るために戦う。そんな気持ちで戦って欲しい。もし、
スバルっていう人と戦う事になっても、その気持ちを忘れないで」

 
 

「(ああ・・・・ヴェイア、分かってるよ。あいつは復讐する相手でも何でもねぇ・・・・・目の前に立ちはだかる強敵だ。
だから倒す・・・・・・・・皆を守るためにな!!)」
内心で決意を新たにするノーヴェ。それと同時に、スバルの変化に気が付く。
「(瞳の色が変わった?・・・・・・使ってくるな・・・・ISを・・・・・・)」
直撃をすれば、破壊は免れないスバルのISにノーヴェは恐れよりも嬉しさを露にしする。そして
「(この勝負・・・・・・・勝った)」
内心で勝利を確信した直後、スバルが突撃を開始した。

 

「うおおおおおおおお!!!!!!」
ノーヴェに必殺の一撃を与えるため、真っ直ぐに突っ込んでくるスバル。
だがノーヴェは動こうとはせずに障壁を展開、攻撃に備える。
「さぁ!きやがれぇ!!!」
にやつきながら防御態勢に入るノーヴェの姿に、スバルは不審感を抱いたいた。
スバルは当初は避けるだろうと考えていた。自分の力を過信するわけではないが、このIS『振動破砕』の破壊力には自信がある。
修理の時にもマリーさんから『単純な破壊力ならAAA+だし、戦闘機人や機械相手にならSSクラスの破壊力を出せる』と聞いたからだ。
あの戦闘機人が展開してる障壁は、分析した所ではAAランクレベルの強度があることが分かった。一般的にしてみれば
それなりの強度を誇っている物だが、振動破砕の前では役に立たないといっても言い。
だが、スバルには考えてる時間は無かった。倒すべき相手は既に目の前にいるからだ。
「うおりゃあああああああ!!!!!」
せめて急所は外そうと、ノーヴェの肩目掛けて拳を叩きつける。衝突時に起こった衝撃波が辺りに吹き荒れ、空気が震える。
「こっのおおおお!!」
その猛撃をただじっと耐えるノーヴェ。

 

彼女はチャンスを待っていた。スバルが振動破砕を使う瞬間を。そしてそれは直に訪れた。

 

拳と障壁の接触部、激しく火花が散るそこを中心に蒼色の戦闘機人特有の魔法陣が展開される。
「今だ!!」
その直後、ノーヴェは展開していた障壁を解除した。その自殺行動とも思える行為に、スバルは目を見開き、驚きを露にする。
だが、スバルの驚きはそれだけに留まらなかった。
力づくで障壁に拳を叩きつけていたたため、障壁がなくなった途端バランスを崩し、ノーヴェに向かって自然と倒れこんでしまう。
それに加え、急所を外そうと肩を狙っていた結果、スバルの拳はノーヴェの肩を掠める程度に終ってしまった。
「とった!!」
自分目掛けて倒れこんでくるスバルの胸ぐらを掴み、力任せに引き寄せる。そしてその勢いを利用し

 

               ドゴッ!!!

 

スバルの額に強烈な頭突きを叩き込んだ。
「あぐ・・・・・あ・・・・」
何の防御も無いままに叩き込まれた頭突きにより、脳震盪を起こすスバル。だが、ノーヴェの攻撃はまだ続く。
頭突きの直撃により、後ろへ倒れこむスバルをまた引き寄せる。それと同時に突き出していた右腕も掴み、自身の体を180度回転させ、左足でたたらを踏む。

#brp
その衝撃でエアライナーにひびが入るが、そんなことには目もくれずに、
「これで・・・・・・・寝てろぉ!!!!!!」
スバルを背負い投げのように投げ、渾身の力を込め、エアライナーに叩き付けた。
その衝撃でエアライナーは破壊され、スバルはそのままの勢いで真下の廃ビルの屋上に叩き付けられた。

 
 

「あいつのISの弱点?」
「うん。これを見てくれる?」
ヴェイアはベッドから置き上がり、自分の机に向かう。
備え付けられた端末を操作し、地上本部襲撃時の映像を写しだした。
その映像には、スバルの攻撃に耐えるチンクの映像がノイズ交じりで映し出されており、
その光景にノーヴェは顔を顰める。
「ごめんね・・・・辛い物を見せて・・・・・・ここ、この状態をよく見て」
ヴェイアに指摘されたシーンを目を凝らして見る。それはチンクに振動破砕を仕掛けるシーンだった。
技の発動する瞬間にヴェイアの邪魔が入り、結果的には未発動に終っているが、ノーヴェはある不審感に襲われた。
「・・・・・・ん?あいつの技・・・・・確かに強力だけど・・・・・・時間が掛かりすぎる」
「うん。正解」
ヴェイアは微笑みながら頷き、そして端末を再び操作する。
「彼女のISは確かに強力だよ。正に一撃必殺という言葉がふさわしいね。だけど、発動するのにタイムラグがある。
相手に拳を叩きつけて、それでから発動をしている。発動を開始してから放つまでの時間は約3.2秒、その間は正に無防備だね。
防御も何も・・・・もしかしたら動く事も出来ないのかも」
「確かに・・・・・・アタシが喰らった時も、直には発動しなかったな・・・・・・だけど、それが分かってもどうしようもないぜ。
結局は防御に徹しなきゃいけないし・・・・・あいつの攻撃を防御している3.2秒の間に誰かが攻撃を加えないと・・・・・・
ああ~だめだ、あいつら常にチームで行動してるからな、あのオレンジ頭が邪魔に入る!」
ノーヴェは頭を掻き毟りながら地団太を踏み、悔しさをあらわす。
「・・・・でも、方法はあるんだ。試してみる?」
そう言い、ヴェイアはノーヴェの前に立ち、障壁を展開する。
「今僕が張った障壁を力ずくで破ってみて。多分4秒位で破れると思うけど」
「って、何やってるんだよ!!病み上がりだぞ!!」
「だから、手加減して御願い」
そうは言うものの、病み上がりのヴェイアに攻撃をすることに釈然としないノーヴェ。
だが、深々と溜息をついた後、顔を引き締め、拳を構える。そして
「おりゃああ!!!」
障壁を叩き割るため、力任せの一撃を放った。強度からしてすぐに割れると思っていた。
だが、ヴェイアは衝突した瞬間、突如障壁を消すと同時に左へ軽くステップ。
「なっ!?」
自身の力を抑えていた壁が消えたため、自然と前に倒れてしまうノーヴェ。
だが、済んででヴェイアが体を受け止め、倒れるのを防いだ。
「こんな感じかな。おそらく相手も同じ様に攻めてくる。こんな風にして隙を作れば、勝機はあるよ」

 

「なるほどな~・・・・・・ありがとな。あと・・・・・手・・・・・離して・・・・くんない・・・・か・・・・・・」
顔を赤らめ、掠れ掠れに呟くノーヴェ。様子が変な事に不思議に思うが、右手の柔らかい感触で、直に答えに行き着いた。
「わわっ!ごめん!ごめん!!ごめん!!!」
慌ててウェンディから離れるヴェイア、その姿にノーヴェは自然と笑みがこぼれる。
「まっ、攻略方法を教えてくれた礼だと思って大目に見てやるよ。だけど、それでも足んねぇ~な~・・・・」
相手の弱みをチラつかせながら楽しむ悪党のような笑顔で、ヴェイアを見るノーヴェ。(あながち間違いではない)
行き詰ったヴェイアは観念した様に深々と溜息をついた後
「はい、仰せのままに。ノーヴェ様」
主に仕える執事の様に恭しく頭を下げた。その光景に、ノーヴェは両腕を腰にあて、満足げに胸を張る。
「よろしい。それじゃあ、今度アタシを遊びに連れて行くこと。勿論お前が完治したらな。楽しみにしてるぞ!」

 
 

「・・・・・・まさか・・・こうも上手くいくとはな・・・・」
多少呆気なさを感じづつも、スバルを投げ落とした廃ビルを見下ろす。
そこには、気絶しているのか、額から血を流したまま仰向けでスバルが眠っていた。
その光景を、詰まらなそうに見つめるノーヴェ。
「・・・・・・念には・・・・念を・・・入れとくか」
顔を引き締め、ジェットエッジのスピナーを回転させる。
廃ビルの屋上からでも十分聞こえる騒音にも、スバルは目を覚まそうとはしなかった。
「腕・・・・・いや、足だな。当分邪魔できねぇ様に・・・・・・・片方折っとくか。
恨んでくれてもかまわねぇぜ・・・・・だけどな・・・・・」
ジャンプし、エアライナーから飛び降りる。それと同時に膝を曲げ、ジェットエッジのロケットを噴射、落下速度を一気に上げる
目指すはスバルの右足。この速度で膝を叩きつければ、右足は使えなくなる。
「てめぇの能力は一番危険だ、だからここで潰す!!」
徐々に近づく二人の距離・・・・・・・・そして

 

・廃ビル内

 

「くっ・・・・この!!」
ディードの正確無比な斬撃を受け流し続けるティアナ。
今の所、直撃は避けてはいるが、受け流す事に精一杯のため反撃に転じる事が出来なかった。
無論、攻撃を行なっているディードも同じだが、
「観念するっス!!」
もう一人の戦闘機人『ウェンディ』が、構えたライディングボードから直射弾を連続して放つ。
それと同時にディードはジャンプし、その場を退避。ティアナもその攻撃を横にステップして交わすと同時に
左腕のクロスミラージュでウェンィディを狙い撃ち、右腕のクロスミラージュから魔力アンカーを出し、上空へ退避する。
上空へ退避しながらも、ダメージを期待してウェンディの方を見るが、内心で予想していた通り、盾で防がれていたため、軽く舌打ちをする。
「やっぱり・・・・・不利だ・・・・持ちこたえる事が精一杯・・・・・せめて連絡が取れれば・・・・っ!」
ふと気配を感じ、上空を見る。するとツインブレイズを構えたディードがティアナ目掛けて急降下してきた。
考えるより早くティアナは魔力アンカーを解除、それと同時に左腕のクロスミラージュから魔力アンカーを壁目掛けて発射し、無理矢理機動を横に修正する。
どうにかディードの斬撃を回避したと思った直後、今度はウェンディが放ったエネルギー弾が襲ってきた。
「次から次とまったく!!!」
床に着地して直に、先ほどと同じ様に横にステップし回避。だが、エネルギー弾は機動を変え、ティアナに迫ってきた。
「しまった!!誘導弾!!」
弾の正体に気づいた時には、5つのエネルギー弾がティアナに直撃した後だった。

 

「・・・・・・仕留めた?」
上空に留まったまま、誘導弾が直撃した方を見ながらウェンディに尋ねるディード。
「直撃はした筈っス。参ったかどうかは分からねぇっスけど・・・・・・」
「そう」
短く答えた後、攻撃を再開するためにツインブレイズを構える。その直後、
「ファントム・ブレイザァァァァァ!!!!!」
今だ舞う爆煙の中から、ティアナの声と共に、狙撃砲『ファントムブレイザー』が放たれた。
あの模擬戦の時に、哀れを忘れて使おうとした魔法。
正直あまり良い思いではないが、この危機を脱出するためには必要な魔法だった。
だが、直前で高エネルギー反応を確認したディードは易々と回避。その結果、
ファントム・ブレイザーの砲撃は廃ビルの外壁と外を覆う結界を突き破りその隣の廃ビルに着弾する結果に終った。
「残念でしたね」
砲撃を放った直後のティアナ目掛けて接近するディード。ティアナも直にクロスミラージュをダガーモードに変形させる
「ですが、エネルギー反応・空気の振動・チャージ音、これだけのファクターがあれば、何をしてるかも予想がつきますし・・・・」
喋りながらディードはツインブレイズを振り下ろす、その斬撃をティアナはどうにか受け止めるが
「回避する事も容易です!!」
そのまま力ずくでティアナを押し飛ばした。
「きゃあああ!!!」
力の限り押し飛ばされたティアナは叩き付けられた壁を貫通し、隣の部屋まで吹き飛ばされた。
壁に手をつき、どうにか起き上がろうとするが、既に目の前にはディードがおり、ツインブレイズを突きつけていた。

 

「・・・・・・で、私に選べる選択肢は何?」
「一つ、大人しく投降を。そうすれば貴方をバインドで縛り付けてここに放置するだけで済みます。
もう一つ、このまま攻撃を受けて昏倒、どちらがより良い選択かは説明の必要はありませんよね?」
淡々と話しながら、いつでも二つ目の選択肢を実行出来るようにツインブレイズを振り被る。
その光景に、観念したかのようにティアナは俯いた・・・・・ディードが見た限りでは
「一つ・・・・・・・抜けてるわよ・・・・・」
小さく呟いた後、顔を上げるティアナ、その顔は『敗北した・観念した』という表情ではなく、『まだ戦える』という
闘士に満ちた表情であった。
その表情に、ディードは言い知れない危機感を感じ、直に二つ目の選択肢を実行しようとするが
「『徹底的に抗う!!!』って選択肢がね!!!」
ツインブレイズが振り下ろされる寸前にティアナは床に向かってクロスミラージュを放つ。着弾した魔力弾は激しい光と音を放ち、
ディードの視力と聴覚を一時的に奪う。
「くっ!閃光弾!!?」
目や耳の機能が他の人間より強化されている戦闘機人といえど、ティアナが放った閃光弾には怯んでしまう。
それでも反撃に備えて防御態勢を取りながら壁に背をつけ、死角を少なくする。
数回の射撃音の後、光が晴れたため、目を開けるディード。するとそこには、ティアナの姿は無く、
床には人一人が通れるほどの穴が空いていた。
「ディード!大丈夫っスか?」
ディードが入った部屋から激しい光と音が聞こえたため、心配になって駆けつけてきたウェンディ。
「大丈夫・・・・・でも、逃げられた」
悔しそうにティアナが逃げた穴を見つめるディード。ウェンディも同じく見つめた後、端末を操作、
ティアナの居場所を探す。
「・・・・・いたっス。それ程はなれてはいないっスね」
「わかった・・・・・・今度こそ(待つっス!」
今にも飛び出そうとするディードをウェンディが止める。
「おかしいと思わねぇっスか・・・・・あのティアナの行動・・・・あの時、ディード目掛けて放った砲撃、どうも引っかかるんスよね?」
「なぜ?あの砲撃は強力だった。直撃を受ければ大ダメージは確実、不自然な所は無い筈。確かに結界に穴が開いたけど、
直にオットーが修復してくれる筈だし、彼女の目的は私達の足止めの筈、逃げる事は考えられない」
「・・・・・・もし・・・仲間を呼ぶ合図だったらどうっスか?」
「どういう・・・こと?」
「あの幻術使い、ティアナは戦ってみて分かったっスけど、常に先を読んで行動してるッス。それに魔力の無駄遣いもしていない。
こちらの攻撃は極力避けてるし、幻術も効かないと分かった途端に使用してこなくなった。そこまで考えてる相手が、
あんな無謀な攻撃をする筈がないっス」
ウェンディの言葉に、ディードは焦る気持ちを抑え考える。
あの時自分を狙った砲撃、確かにティアナの戦闘データからすると無謀とも思える行動である。
抜き打ちで撃つのならまだしも、煙で姿が見えなかったとはいえ、エネルギー反応・空気の振動・チャージ音、
これだけのファクターが揃えば、避けるのは容易。それは向こうも承知している筈である。
現に砲撃は自分には当たらず、壁と結界を貫通して・・・・・・
「そうか、あの砲撃は外の味方に自分の居場所を知らせる合図・・・・」
その呟きに、ウェンディは賛成するように頷く。
「向こうさんは自分が不利なことは百も承知の筈っス。いくら頭を使っても一人で戦うのには限界があるっスからね。
あの砲撃は一種の信号弾の代わり、まったく・・・・やってくれたっスね」
歯を食いしばり、悔しさを露にするウェンディ。
「おそらく、援軍が来る時間は20分弱、それまでに仕留めるっスよ、ディード!」
「わかった」
互いに頷いた後、二人の戦闘機人はティアナの所へ向かった。

 

「はあっ・・・・・はあっ・・・・・」
壁にもたれ掛りながら腰を下ろし、クロスミラージュのカートリッジを交換。
そして、先ほどから痛む足を手で押さえる。
「くっ・・・・・あの時の誘導弾ね・・・・・・・全力で走るのは・・・・厳しいか・・・・・」
自分を落ち着かせるように、深く息を吐いた後、改めて現状を考える。
「幻術は直に見破られたから使用しても無駄。こっちは足を負傷しているのに対して、向こうはほぼ無傷。
あの合図も、気付いてくれるかどうか・・・・・・・」
現状の悪さに、絶望感がティアナを支配する。圧倒的に不利な状況、期待できない味方の増援
「無理・・・・かな・・・・・」
相手に強がりを見せたものの、現状を考えると膝を抱え、『もうどうしようもない』と思う・・・・・・

 

            『どうした?それまでか?』

 

ふと、聞こえる筈のない声が聞こえたため、顔をあげ、辺りを見回す。

 

     『実戦では諦めた奴が負けだ。もしそんな気持ちを持ったなら、真っ先に捨てろ』

 

ティアナは思い出す。訓練の時に、常にあいつに言われた事を。
「全く・・・・・なんでこんな時にあいつとの訓練を・・・・あいつの顔を思い出すんだろ」
自嘲気味に笑いながら、ゆっくりと顔を上げる。そして

 

       『立て!お前はまだ動ける、戦える筈だ!生きているうちは』

 

            「『負けじゃない!!』」

 

顔を上げたティアナの表情には、一切の絶望感が無くなっていた。

 
 

・スカリエッティのアジト

 

スカリエッティから全ての真実を聞かされたフェイトとシャッハ。
暫らく沈黙が続いた後、フェイトが最後の質問を口にするために話し出した。
「最後に聞かせてください。あなたは、ゆりかごを使って、何をするつもりなんですか?」
フェイトの質問にスカリエッティは数秒沈黙した後、パネルを操作、外の戦闘を映し出す。
「このゆりかごはね、軌道上に到達してこそ、本領を発揮する。軌道上、二つの月の魔力を受けられる位置を取ることで、
極めて高い防御性能の発揮と、地上への精密射撃や魔力爆撃、次元跳躍攻撃や次元空間での戦闘も可能になる。
私はね、この力を使って、管理局に『最終通告』をするつもりだ」
「最終・・・通告・・・・・」
最終通告の内容、フェイト達には考えるまでも無かった。おそらくは管理局に今回の違法実験を大々的に公表させる事。
それこそがスカリエッティの最終目的だと、二人は考え付いた。

 

「地上本部の襲撃・・・・・これも警告の一つだったんだけどね・・・・・事実を知っているお偉いさんには堪えた筈だよ。
だから一週間待った。だけど、何も事を起こさなかった様だね。だから今回の事を起こした、軌道上に上がったら、最終通告を行なう」
「もし・・・・・忠告を聞かなかったら・・・・・・」
恐る恐る尋ねるシャッハに
「攻撃を行なう。正真正銘、人を殺める行為を行なうつもりだ」
スカリエッティは何の迷いも無く答えた。
おそらく、スカリエッティにとって、この作戦こそが、彼女達を救える最後の手段なのだろうとフェイトは思った。
『管理局最高評議会』が関わっている以上、『違法研究者』として世間で知られているスカリエッティが何を言っても
『犯罪者の戯言』として片付けられてしまう筈である。ならば、相手に認めさせる他に方法はない筈である。
「私達が告発します・・・・・それでは・・・駄目なんですか?」
「ああ・・・・他にも手は打ったが、止まる事は出来ないよ」
スカリエッティの決意を聞いたフェイトは静かに立ち上がる。そして
「バルデッシュ・・・・・・オーバードライブ・・・・・新・・・・・・ソニックフォーム」『Sonic drive』
黄金色の魔力が辺りに吹き荒れ、フェイトの体を包み込む。
その光景を見たトーレとセッテは戦闘態勢に入り、スカリエッティも椅子から立ち上がる。
「私は・・・・・貴方を・・・・・止めます・・・・」『Riot Zamber』
バルデッシュをライオットザンバーに変形させ、両腕に持ち、静かに構える。
魔力光が晴れたそこには、新ソニックフォームに身を包んだフェイトが、静かに立っていた。
「所詮・・・貴方も、局の犬でしたか・・・・・・」
トーレが吐き捨てるように呟きながら、インパルスブレードを出現させる。
セッテもフェイト達を軽蔑の眼差しで見据えながらブーメランブレードを取り出した。
「いえ・・・・ゆりかごを・・・・・貴方を止めて、告発します。真実を」
「相手は君の所属している上層部だ?もみ消されると思うが?」
多少挑発の意を込めながらスカリエッティは尋ねるが
「それでも・・・・諦めません。相手が、誰であろうと・・・・・何であろうと・・・・
だから、ジェイル・スカリエッティ・・・・・・貴方を止めます!」
ライオットザンバーを構え、攻撃態勢に入るフェイト、シャッハもヴィンデルシャフトを構え攻撃に備える。そして
「貴方を・・・・・本当の犯罪者にさせないために!!!」

 

・廃都市

 

キャロは迷っていた。
目の前には巨大な召喚獣。正に危機的な状況にもかかわらず、彼女の心は恐れや恐怖よりも
『迷い』で埋め尽くされていた。
ルーテシアが語った真実、そして思い、どれも嘘とは思えない。
果たして自分達の行為は正しいのか?間違っているのではないか?そんな考えが頭の中に渦巻いていたその時
「キャロ!!!」
エリオの一喝で我に返ったキャロ。顔を上げるとそこには、普段見せない厳しい顔をしたエリオの姿があった。
「迷っちゃ駄目だよ・・・・・キャロ」
「エリオ君!でも・・・・・でも!!」
目に涙を浮かべながら、駄々をこねるように頭を左右に振る。
「・・・・・キャロ・・・・」
そんなキャロにエリオは近づき、そっと両肩に手を置く。そして真っ直ぐに瞳を見据えながらゆっくりと話し出す。
「・・・・多分・・・・僕も・・・・ルーテシアと同じ境遇だったら・・・・同じ事をしていると思う。
僕も、六課の皆や、フェイトさん・・・・キャロの事が大好きだから・・・・・」
「私もそうだよ!だから・・・・私・・・・戦えないよ!!」
「うん。僕もキャロと同じ気持ちだよ。だけど、このままじゃスカリエッティ達やルーテシアは本当の犯罪者になってしまう。
『言葉を伝えるのに戦って勝つことが必要なら、それなら、きっと迷わずに戦かえる気がする』依然フェイトさんが教えてくれたんだ。
だから僕は止める。彼女達を本当の犯罪者にしないためにも」
キャロの肩からそっと手を離し、ルーテシアの方を向く。そしてストラーダのカートリッジをロードし、構えた。
「『言葉を伝えるのに戦って勝つことが必要なら、それなら、きっと迷わずに戦かえる気がする』・・・・・・・・」
先ほど聞いた言葉を呟きながら、キャロは考えたる。
ルーテシアは皆のために戦っている。だが、それと引き換えに、自分が大きな罪を犯そうとしている。

 

         ・・・・・・・・止めたい・・・・・・・彼女を・・・・・・・・

 

           助けたい・・・・・・彼女と・・・・・彼女の家族を

 

キャロの思いは決まった。
ケリュケイオンを胸元で交差させ、静かに呪文を口ずさむ。それと同時に足元に召喚魔法陣が展開される。
「天地貫く業火の咆哮・・・・遥けき大地の永久の守り手・・・・・我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者」
その光景を黙って見つめるルーテシア。白天王の前方に大型の召喚魔法陣が出現し、そこから炎が吹き荒れる
「竜騎招来・・・・・・天地轟鳴・・・・・・来よ、ヴォルテール!!!!」
巫女の召喚に応じ、今『大地の守護者』にして『黒き火竜』ヴォルテールが召喚された。
「私は・・・私達は・・・・貴方を・・・貴方の家族を助けたい!!!」
「だから止める!!過ちを犯そうとする君達を!!」
「ライトニング03・エリオ・モンディアルと!」
「ライトニング04・キャロ・ル・ルシエとフリードリヒとヴォルテールが!」

 

           「「思いを・・・・言葉を伝えるために・・・・・貴方(君)と戦う!!!」」

 
 

二人の決意に賛同するようにヴォルテールが戦い開始の咆哮をあげた。