勇敢_第18話

Last-modified: 2008-05-12 (月) 22:34:07

・廃ビルの屋上

 

沢山の廃ビルに囲まれるようにして立っている小さなビル。
その屋上でNo.8・オットーは多数のガジェットを配置しながら、ガジェットの配置や結界の維持などのサポートを行なっていた。
特に表情を変えずに黙々と端末を操作する彼女。だが、周囲に多数展開されている映像の一つに目が留まった。
「あのヘリ・・・・ガジェットを落としていてる・・・・・」
正確な射撃で、ガジェットを次々と落としていていくヘリに、
オットーは早速ガジェットドローンII型を送り込もうと、指示を送ろうとした。その時
突如オットーの足元が淡い光に包まれる。
「!?」
何事かと、彼女が反応した直後、地面から光りの針『鋼の軛』が生え、次々とガジェットを串刺しにしていった。
「っ!見つかった!」
吐き捨てるように呟いたオットーは直にその場を立ち去ろうとするが、『鋼の軛』によって空いた穴から、
ペンダルフォルムのクラールヴィントが飛び出し、オットーを絡め取る。
捕まったことに驚きづつも、爆煙の中から現れた人物を睨みつける。
「貴方が地上戦の司令塔で、各地の結界担当。上手く隠れてたけど、クラールヴィントのセンサーからは逃げられない」
クラールヴィントを見せ付けるようにして掲げながら、逮捕すべき相手を見つめるシャマル。
「大規模騒乱罪及び、先日の機動六課襲撃の容疑で」
ザフィーラが罪状を言い終える前に、オットーは力づくでクラールヴィントを引き千切り逃亡を図ろうとするが
「でおぁあああああああ!!!」
ザフィーラの叫びと共に生えた鋼の軛が、オットーを取り囲んでいく、さらに内部で抵抗できないようシャマルはバインドで縛り付ける。
オットーを完全に取り囲んだ事を確認したシャマルは、
「逮捕します」
内部のオットーにも聞こえるように、大声で言い放った。だが

 

           「それは、困るな」

 

否定の言葉と共に投げられたナイフが、オットーを取り囲んでいる鋼の軛とシャマル達の足元に突き刺さり爆発。
彼女を閉じ込めていた鋼の軛をすべて破壊し、シャマル達を隣のビルまで後退させた。
「くっ、もう一人いたか!」
苦々しく呟くザフィーラをよそに、No.5・チンクはオットーの戒めを切り裂き、無事を確認する。

 

「オットー、大丈夫か?」
「うん。大丈夫。でもチンク、なぜここへ?ギンガと一緒だったんじゃ?」
「ああ、彼女なら大丈夫だ。信頼できる管理局の査察官が助っ人がきたのでな。彼に任せた。だが、詳しい説明は後だ、一旦この場を離れるぞ」
オットーは頷き、煙に撒かれているシャマル達を一瞥した後、その場を去ろうとするが、

 

                          「雷!!」

 

突如上空から雷が降り注ぎ、二人の逃亡を防いだ。
突然の攻撃に驚きながらも、回避する二人。そして次の攻撃に備えると同時に、周囲を検索する。すると、
「あれは・・・・・・六課にいた狐・・・・・・」
自分達がいる廃ビルの隣、その屋上に放電する両腕を掲げなら、オットーは自分達を睨みつける久遠を発見した。
同時に、シャマル達を覆っていた爆煙も晴れ、攻撃態勢を取る。
「逃げるタイミングを逃したな・・・・・」
舌打ちをしながらも、両腕に投げナイフ『スティンガー』を構え、チンクは攻撃態勢を取る。
オットーも自身のISを放つため、右腕にエネルギー弾を形成。そして

 

「でおぁああああああああああああああ!!!!!!!」

 

ザフィーラの叫びと共に、戦闘が開始された。

 

・廃ビル内

 

「ちっ、ちょこまかと!」
ウェンディは展開されている端末を見ながら苦虫を噛み潰した様な表情で愚痴る。
ディードもまた声には出さないが険しい表情を隠す事無くさらけ出していた。

 

一度ティアナを取り逃がした後、ウェンディ達は直に逃げた場所を特定し、そこへ向かったが
彼女達の行動を先読みしているかのように、ティアナはそこにはいなかった。
そんなイタチゴッコが何回も続き、結果、二人は未だにティアナを捕まえる事が出来ないでいた。
そして、彼女達をイラつかせている原因はそれだけでななかった。

 

先ず一つがジャミングである。
おそらくは対戦闘機人用にティアナが用意した物であろうジャミング発生装置が、今自分達がいる廃ビルの彼方此方に仕掛けられていた。
この装置は念話など、魔力を使って行なう通信には全くと言って良いほど役に立たない。
無論、電波などを使った通信には絶大な効果を発揮するが、ティアナが撒いたジャミング発生装置を始め、
このような機器は質量兵器を廃止した今となっては見つける事が難しく、確実に入手するには一から作るしかない。
仮に作ったとしても魔力文化が発達している今となっては単なるガラクタである。
だが、それは魔力技術に限っての事であり、科学技術を使用している戦闘機人やその所有物には絶大とはいえないが効果を発揮することが出来る。
ちなみに、ティアナが逃げながら撒いているジャミング発生装置はマリーとシャーリーとカナード(某宇宙一のジャンク屋の知識拝借)
の英知を結集したトンデモな者であり、通常の機械なら直に通信障害もしくは機能不全を起こすほどの強力なものである。
だが、スカリエッティが生み出した彼女達にとっては『この程度』のジャミングなど全くと言って良いほど効果がなかった。
『彼女達』に関してだが。

 

「あ~も~!!しっかり写るッス!!!」
イライラしながら時より砂嵐により画像が乱れる映像に向かった叫ぶウェンディ。
彼女達が使用している端末にはその効果を発揮し、端末から出される映像を乱れさせていた。
そのため、彼女達は彼方此方逃げ回るティアナを正確に捉えることができないでいた。

 

そしてもう一つが
「まったくも・・ディード!ストップっス!!」
突然のウェンディの大声に、ディードは走るのを止め、こちらを振り向く。
「・・・・また?」
答えるより手っ取り早いと感じたウェンディは、彼方此方落ちているコンクリート片を掴み取り放り投げる。
中を舞うコンクリート片は立ち止まるディードを追い越し、彼女の数メートル先に落ちた。その時
数からして10個のスフィアが左右の壁を突き破り、コンクリート片に直撃した。

 

彼女達をイラつかせる原因のもう一つが、このトラップであった。
ティアナが通過したと思われる進路上にはこのようなトラップが幾つも仕掛けられていた。
「まったく・・・・・いつの間に仕込んだんスかねぇ~・・・こんな巧妙な物」
呆れと関心が入り混じった声で呟くウェンディ。
彼女の言う通り、ティアナが仕掛けたトラップは実に巧妙であり、肉眼は無論、
戦闘機人特有のセンサーでなければ早期発見が出来ないほどに巧妙であった。

 

「・・・・・もう無い?」
「待つっス・・・・・・・もう無いっスね。まったく、安全確認だけでも一苦労っスよ」
ウェンディは目の疲れを訴えるように目頭を抑えながら愚痴る。
「・・・・すみません。私の検索能力がもう少し上でしたら、ウェンディだけにやらせずに済んだのですが・・・・・」
そんなウェンディの姿を見たディードは俯き、申し訳なさそうに呟いた。
「そんなこと気にするなっス!適材適所って奴ッスよ」
ディードを心配させまいと、ヴェンディは普段の人懐っこい笑みでディードに近づき、
背中をバシバシと叩きながら呆気羅漢と答えた。

 

「・・・・痛いですよ」
「何、姉妹同士のスキンシップって奴っスよ!」
自分の抗議を無視して背中を叩き続けるウェンディに、ディードは自然と不快感を感じなかった。
むしろ、自前の明るさで気を落とす自分を励ましてくれる姉に
「・・・・・・・ありがとう・・・・・・」
彼女は自然と感謝の言葉を口にしていた。
「ん?なんかいったっスか?」
「・・・いえ。それより、知ってたんですね、『適材適所』という言葉を」
「失礼な!!乳揉むっスよ!!捏ね繰りまわすっスよ!!!」
「・・・・・斬りますよ・・・・・」
「ははははははは、冗談っス!それはヴェイアにやってもら(ヒュ!!」
全てを言い終わる前に、ディードのツインブレイズがウェンディの髪の毛を数本持っていく。
「・・・・・・次は耳でよろしいでしょうか?」
笑顔のまま固まるウェンディに、ディードはクアットロもビビる程の不自然な微笑みで、事務的に尋ねながらツインブレイズを振り被る。
「わかったっスわかったっスわかったっス!!!だからその物騒な物を降ろすっス!!!」
声を荒げ、両腕を振りながら必死に・・・そりゃあもう必死に手をバタつかせ説得を試みるウェンディ。
その時、天の助けなのか、ウェンディの端末からアラームが鳴り響く。
「助かったっス」と呟きながら画質が乱れる端末を器用に操作、そして今にも斬りかかろうとするディードに見せ付ける。
「ほら、ディード!!ティアナの場所がわかったっスよ!!いくっス!参るっス!!レッツゴーっス!!!!」
釈然としない顔をしながらも、ディードはウェンディの言葉をさらりと無視し、映し出されてた映像を見つめる。
「まってください・・・・・動かないようですね。まぁ、彼女も逃げ回りながらこれだけトラップを張ったんです。
魔力も体力もそろそろ底を着く筈。私達が場所を特定していると知って尚、動かないとなると・・・・・」
「降参する気なのか。罠をたんまり張って勝負に出る気か・・・・・多分」
「後者ですね。ウェンディはどう思います?」
ウェンディの意見を尋ねるために、ディードは顔を向ける。
そこには自分の意見に賛成するかの様に、ウェンディが屈託の無い笑みを浮かべていた。
「決まりですね、いきましょう!」
そう言い、走り始めるディードに
「こらこら~、走ると転ぶっすよ~!!」
緊張感の無い声で注意しながら、ウェンディはライディングボードを起動させ、後に続いた。

 

「ちなみに、先ほどの件は後ほどゆっくりと・・・・・」
「ははははは、根に持つっスね~。可愛かったっスよ~。顔を真っ赤にして。
記念として映像に残しとしたから安心していいっスよ~。クア姉なんかいろんな意味で喜びそうっスね~」
「・・・オットーにも手伝ってもらおう・・・・・・夜・・・・鍵のパスコードは簡単に解除できるから・・・・・バインドで縛って
・・・ジワジワと・・・・・・・そりゃあもうジワジワと・・・・・・・フフフフフ・・・・・」
「ごめんなさいごめんあさいごめんなさい消します今すぐ消します速攻消します忘れます直に忘れますだから命だけは勘弁してくださいっス」

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・・」
息を荒げながらも最後となるトラップを張るため、ティアナは疲れる体に鞭打ってスフィアを形成する。
「よし・・・・これで・・・・・準備完了」
どうにか完成した『12個』のスフィアを所定の位置に配置、一息つこうかと深呼吸をしようとしたその時

 

         『発見されました。2方向から真っ直ぐ向かってきます』

 

クロスミラージュからの警告を聞いたティアナは、深呼吸の変わりに舌打ちを一回、休ませようとした体を無理矢理動かす。
「正確な方向を教えて」
『前後から真っ直ぐに、挟み込む形で迫ってきます』
「よし!手間が省けた。仕掛けたスフィアの制御OK。あとは作戦が上手くいくことを祈るだけ。ここで迎え撃つ」
『了解』
クロスミラージュの返事を聞いたティアナは展開していた魔法陣を解除、ポケットから最後のカートリッジを取り出し補充する。
「使えるクロスミラージュは一丁、右足も潰されて魔力も限界。仕掛けたトラップにも上手く引っかかってくれるかどうか・・・・・」
考えれば考えるほど分が悪い状況に、ティアナの表情も自然と曇る。
この戦いは明らかに分が悪い。相手は二人で疲れ知らず。それに比べてこちらは一人で体力・魔力共に限界。
合図として送ったファントムブレイザーも気付くかどうか。
「なのはさん達にシゴかれてなきゃ、とっくの昔に気絶してただろうな・・・・私・・・・・・」
『それは同意です。ですが、カナード・パルスの訓練は少々やりすぎかと思いますが』
「ははっ、やっぱり?後であいつにシャツ代請求しなきゃね」
『水増し請求をされては?』
「ナイスアイデアよ。ご褒美に余計に請求した分でワックス買ってかげるわ」
このような些細な会話でも、緊張と不安で押しつぶされそうな今のティアナにはとても心地のいいものであった。
短いとはいえ、会話に付き合ってくれたクロスミラージュにお礼を言った後、沈黙するティアナ。
クロスミラージュも自身から話し掛けようとはせずにティアナの言葉を待つ。

 

「・・・・本当はさ・・・随分前から気付いていたんだ。私はどんなに頑張っても、万能無敵の超一流になんかなれない。
悔しくて・・・情けなくて・・・認めたくなくてね・・・・・・・・。だけどそれは昔の話。実はね、この話をするのはクロスミラージュで二回目。
訓練が終った時にね。カナードにも同じ事を話したんだ。そうしたらあいつ、なんて言ったと思う?」
『・・・・・・分かりません』
「『当然だ。なれるわけ無い』って言われたわ。しかも即答」
『・・・・・・・・・・・』
「だけどね、続けてこうも言ったわ。『お前だろうが、高町だろうが、『万能無敵の超一流』などにはなれない。
それ以前に『万能無敵の超一流』なんて物は存在しない』って。」

 

コンクリートの壁に背を預け、今度こそ深呼吸をしながら天井を見つめ、ふと、あいつと過ごした時間を思い出す。
いつもの訓練の終わり、芝生に座りながら飲む最高に美味しいスポーツドリンクの味を。
あのスポーツドリンクは自販機で買った物なのに、なぜかとても美味しかった。
それを飲みながら夜風にあたり、アイツと訓練結果や課題点、何気ない雑談などをしている時間が楽しかった。
あいつのおかげで自分の強さを認める事ができた。自分自身を納得させる事ができた。
「(ほんと・・・・なんでこんな時に・・あいつの・・・・・カナードの顔を思い出すんだろ・・・・・)」

 

          「(惚れたの・・・・かな・・・・・)」

 

「なッ・・・何言ってるの!!?私ったら!!?」
自分で呟いた言葉に顔を真っ赤にしながら全力で否定する。
『マスター?どうされました?』
だが、クロスミラージュの冷静(そんな感じに聞こえた)な声に、ティアナは落ち着きを取り戻し咳払いを一回し、その場を収めた。
そして先ほどの続きを話しはじめる。

 

「最初は納得いかなかったわ。自惚れでも、なのはさん達の強さは良く知っているつもりだから。
だけどカナードは私の表情から納得がいかないと気付いたんでしょうね。だからこう言ったわ。
『高町がシグナムとテスタロッタ、この二人と同時に戦ったら勝てるか?』って。
さすがに私も何もいえなくなっちゃってね。押し黙った。その時のあいつの『そら見ろ』って言いたげな顔を思い出すわ。あ~蹴り飛ばしたい」
その代わりなのか、足元に落ちている小石を蹴り飛ばす。
「だけど、考えてみたら答えは簡単だった。確かになのはさん達隊長組は強い。だけど、無敵じゃない。
攻撃を喰らえばダメージを負うし、疲れる事だってある。魔術師としては超一流でも、決して『万能無敵』なんかじゃない。馬鹿な勘違いだった。
それでも、なのはさん達は周囲に『万能無敵の超一流』と言わせている。何故だと思う?
先ほどから黙って自分の話を聞いてくれているクロスミラージュに問いかける。
『やはり・・・・高町隊長のこれまでの活躍が原因かと思います。』
「私も今クロスミラージュが言った事と同じ事を言ったわ。答えは『単に努力しているだけだ』だって」
『随分と簡単な答えですね』

 

「ええ。だけどホントに私達、考える事も同じね。さっき同様、私もクロスミラージュと同じことを言ったわ。そしたらね、あいつはこう言った。
『いくら才能があろうと、それを磨く努力をしなければ役には立たない。高町達が今の実力を手に入れてるのも、
今のお前達の様に、泥まみれになりながらへたばって、傷やあざを沢山作った結果だ』って。確かにその通りだと思う。
なのはさん達には確かに才能があった。だけど、その才能を今の自分の力に出来たのは、今の私達の様に沢山頑張ったから。
洒落た例えだけど、宝石と同じね。どんなに貴重で美しい宝石でも、最初は不純物やキズが付いた三流品。それを丁寧に磨いてこそ、人が魅了される姿に変身する。
まさになのはさん達が美術館で飾られている宝石なら、私達はまだまだキズがついた三流品って所ね。だけどね、クロスミラージュ」
背を預けていたコンクリートの壁から体を離し、静かに目を閉じる。
今いる廃ビルには結界が張られており、外で展開されているであろう雑音は一切聞こえない。
聞こえるのは自分の息遣いと。微かであるが、自分に向かってくるであろう戦闘機人の飛行音。
「・・・・・・私は、必ずなって見せるわ!!なのはさん以上の輝きを持つ宝石に。だからクロスミラージュ、私に力を貸して。これからも・・・ずっと!」
『当然ですマスター。私も、これからも貴方の力となりたい。貴方と共に歩みたい・・・・・・よろしいですか?』
電子音とはいえ、力強い思いが篭っているクロスミラージュの思いを聞いたティアナの目には、自然と涙があふれる。
同時に心から思った。『貴方が相棒でよかった』と。
本当は感情に任せて泣きたかったが、そうも言っていられない。腕で涙を乱暴に拭き、両手で頬を数回叩く。
「当然よ!だから、さっさと!」
『片付けましょう!』
顔を引き締め、戦闘態勢に入るティアナとクロスミラージュ。それと同時にウェンディとディードがティアナを前後から挟み込むようにして現れた。

 

ティアナから見て前方には、ランディングボードに乗ったウェンディが距離にして数メートル間を空け、止まる。
同時に、ティアナから見て後方には、ディードがウェンディ同様、数メートル間を空け、立ち止まった。
「あら?見つかっちゃった?年貢の納め時かしら?」
挑発の意味も込めて、ティアナは目の前にいるウェンディに話しかける。だが、ウェンディは沈黙で答えた直後
重さを感じさせないほどの素早い動きでライディングボードを構え直射弾を放つ。
放たれた直射弾は前方のティアナを通り過ぎそのままディードへ。
だが、ディードへ向かって迫る直射弾は左右の壁を突き破って現れた『6つ』スフィアにより相殺されてしまった。
「ふっふ~ん。残念だったっすね~。最後の罠が破られて。もう打つ手無しっスか~?」
勝ち誇った様にニヤつきながらウェンディは言い放ち、ティアナは悔しそうに顔を顰める。
「(・・・・・これはまた、悔しそうな顔をして。まぁ、起死回生の手段が無くなったんっスから、しょうがねぇっスけどね。
ディード、念には念を。同時攻撃、一気に畳み掛けるっスよ。)」
「(わかった)」
頷きながら答えたディードはツインブレイズを構えなおし、一気に走り出す。
ウェンディもトドメの砲撃を放つためにチャージを開始する。
二人は油断も手加減もする気は無かった。全力で確実に目の前の敵を倒す。今はただ、それだけの事を考えていた。

 

体力、魔力共に限界、最後のトラップも見破られたティアナは、正に絶体絶命の状況であった・・・・・かに見えた。
「(作戦第三段階まで成功!!さて、仕掛けるわよ!!)」
ティアナは表情では焦りを表していたが、内心では作戦通り進んでいる事にほくそ笑みたくなる衝動を抑えるに必死だった。
彼女はある作戦を考えていた。それは三段階あり、それら全てが成功しなければ意味がなった。
先ず一つが二人の戦闘機人の位置である。これは接近戦主体のディードが、トラップのある位置(ティアナから見て後方)に現れる事だった。
これは一種の賭けであった。クロスミラージュから前後に挟み込むようにして接近してくるとは聞いていたが、もし、後ろから来たのがウェンディだった場合、
この作戦はほぼ失敗したと言っても良い。
だが、運よくディードはトラップのある自分の後ろに現れてくれた。第一段階成功。
二つ目が、自身が仕掛けたトラップを『見破ってくれる』事だった。彼女達も、ここまで来るのに自分が仕掛けたトラップには
気をつけていた筈。ならば、『この周囲』にもトラップが張ってあると考えている筈だから、即座に解除にかかる筈。
これは問題なく成功すると踏んでいた。現に、自分の前に現れたウェンディは間髪いれずにトラップを排除してくれた。第二段階成功。
最後の一つが、二人が攻撃を仕掛けてくるタイミングだった。これは第二段階が成功してからそれ程間を置かないほうが望ましかった。
もし、再び投降を呼びかけたり、ウェンディの無駄話などで時間を食っては、この作戦は失敗に終ってしまう。
だが、向こうも最初の投降勧告で懲りたのか、特に話もせずにトラップを解除した途端、自分目掛けて攻撃を仕掛けてきた。
第三段階成功。

 

すべては上手くいった。後は行動あるのみ。

 

ティアナは先ず、正面で魔力砲のチャージをしてるウェンディにクロスミラージュの弾丸を放つ。
だが、放たれた弾丸は真っ直ぐにウェンディではなく、収束砲としてチャージしてるエネルギー球に向かう。
「・・っ!!」
直撃による有爆を恐れたウェンディは砲撃のチャージを無理矢理止め、迫り来る弾丸をライディングボードで防ぐ。
案の定、盾の役割もあるライディングボードにより、あっさりと防がれる魔力弾。だが、
「今!!」
ウェンディが固有武装を攻撃から防御に切り替えた途端、ティアナは全速力でウェンディに向かって走り出した。
難なく自分目掛けて放たれた魔力弾を防ぎながらも、ライディングボードの隙間からティアナの行動を見ていたウェンディは素直に驚きを表す。
当初、ウェンディは、ティアナは得意の中距離射撃で挑んでくるだろうと思っていた。無論接近戦などの他の手段も考慮に入れていたが、
長距離に関しては砲撃を放つほどの魔力は残っていないだろうし、近距離に関してはディードに分がある。
ならば残るはこちらが唯一劣っている中距離射撃での勝負。だが、ティアナは己のデバイスを変形もさせずに迫ってきた。
「(破れかぶれになったっスかね・・・・・)接近戦っスか!?でも、私に近づく前に、ディードか後ろからバッサリっスよ!!!」
ウェンデイの言葉を代弁するかのように、ディードは既にティアナの直近くまで来ていた。
おそらくティアナ自身も自分の所に来るより早く、ディードの攻撃を受けるほうが速いと気づいている筈。
だが、ウェンディは勿論、ディードの思惑も破り、ティアナは何かしらの防御手段を取る所かディードの事を全く無視、そのまま走り続けた。
「これで・・・・・・終わりです!!!」
案の定、ウェンディの元へたどり着くより早くティアナを射程に捕らえたディードは、完全に昏倒させるために、ティアナの頭目掛けてツインブレイズを振り被る。
その光景を見たウェンディは内心でほっとしていた。『これで決着が付いた』と。

 

予想外に手こずったが、勝ちは勝ち。これで外の姉妹達の援護に向かう事ができる。
ティアナの砲撃で空いた結界の穴は未だに修復されていない。そうなると、オットーに何かあったに違いない。
先ずはオットーを助けなければ、次にノーヴェ・・・・・・仕事が山ほどあるな~と、ウェンディはこれからの事を考えていた。
彼女は安心感に浸っていた。勝利を確信していた。だが、何気なく見たティアナの表情でその安心感は綺麗に吹き飛んだ。

 

                 彼女は笑っていたのだ。力強く。己の勝利を確信した笑みで。

 

最初、ディードは自身に何が起きたか理解できなかった。
ウェンディに向かって走るティアナに追いつき、そのまま自身の武器を叩きつける。それで終る筈だった。
だが、いざ攻撃を行なおうとした時、
彼女が聞いたのは、左右の壁が破壊される音。
彼女が見たのは破壊され、砂煙と瓦礫を撒き散らす壁と、そこから現れた黄色い魔力弾。
彼女が感じたのは、その魔力弾が自身に当たったために感じた激痛。
「そ・・・・ん・・・・・」
無念の言葉を言いきる前に、ディードはその意識を失った。

 

ディードを倒した6つのスフィア。これはティアナが最後に仕掛けた本当のトラップだった。
ティアナはウェンディ達が自分の仕掛けたトラップに気付くであろうと考えていたため、トラップを二重に仕掛けていた。
先ずは自分の周囲に六つのスフィアを配置。これは彼方此方に配置した物と同じく、移動する物が接近した時に発動するいたってシンプルな物であった。
次に仕掛けたトラップは今までの物と同じだが、配置場所をギリギリまで遠ざけ、発動条件を『一つ目のトラップが発動した直後』に設定した。
こうする事により、最初のトラップを解除した二人は安心し、無防備にこちらに攻撃を仕掛けてくるであろうと考えていた。
案の定、ウェンディ達は最初のトラップを解除した途端攻撃をはじめ、その結果、自分に攻撃を仕掛けたウェンディは二つ目のトラップに見事引っかかることとなった。
彼女達がこのような行動に出たのには油断も無論あったが、この戦い、ウェンディ達にとってはそれ程時間を掛けられない戦いであった。
そのため、彼女は今までの経緯から、『トラップは一つだけ』と思い込み、直に目に付いた『周囲の検索に引っかかったトラップ』だけを破壊し、直に行動に出てしまった。
この自分達でも知らずに出た『焦りが』結果として、ティアナの作戦を成功させる事となった。

 

「(くっ・・・・ディード!!)」
ライディングボード越しに、ディードがやられる瞬間を見たウェンディは飛び出したくなる衝動を必死に抑える。
その反面、爆発音とウェンディの表情から、作戦が成功した事に、ティアナは今まで我慢していた笑みをさらけ出した。
「(っ・・・・こいつ!!)」
今すぐ怒りに任せて突撃したいが、二人の距離はあと数メートルと言う所まで迫っていた。
ここからでは砲撃は勿論、通常の射撃弾でも隙が大きすぎる。元々ウェンディは射撃での援護を得意としており、接近戦はあまり得意ではない。
たとえ戦闘機人特有のパワーを持ってしても、接近戦主体のディードに見事喰らい付いたティアナには勝てる自信が無かった。
「(もう魔力がほとんど無いとはいえ、あんだけ姑息な事をする奴っス。先ずは私に仕掛けてくる筈の攻撃を防いで、それから距離を開ける)」
瞬時に取るべき行動を考えたウェンディは正面から来るであろう攻撃に備えて防御体制をとる。
「(このライディングボードは、ドクターが作って、ヴェイアが調整してくれた物。防御は完璧っス!!)」
絶対の信頼を寄せいている二人が作った物。突破される筈がない。ウェンディは信じて疑わなかった。

 

だが、彼女は忘れていた。

 

          『僕からしてみれば『絶対無敵』や『絶対大丈夫』という事はあるとは思えないんだ』

ヴェイアのこの言葉を。

 

「(予想通り!やっぱり防御に出たわね)」
地上本部と、ここでの戦いから、ティアナはウェンディは接近戦を得意としていないと考えていた。
そして、迫り来る自分に対して防御体制を取る姿を見た瞬間、ティアナはクロスミラージュを持つ手に力を入れる。そして
「クロスミラージュ!モードチェンジ!『ロムテクニカ!』」「YES!!」
カートリッジをロードし、クロスミラージュから魔力刃を出現させる。
その形は、本来のダガーモードの様な銃口とグリップをつなぐ様にして伸びた魔力刃では無く、
銃口からナイフサイズの刃が伸びただけの実に簡素な物だった。
正にその形はあの模擬戦の時、なのはを斬り付けようとしたあの刃。だが、その色は自身の魔力光のオレンジではなく
カナードの武器『ロムテクニカ』と同じ、エメラルドグリーンに輝いていた。
「いくわよ!!!」
ロムテクニカモードに変形させたクロスミラージュを逆手に持ち飛び上がる。そして

 

                  ザクッ!!

 

小細工無しの力任せで、ライディングボードに突き刺した。
「なっ!?ここまでやっといて最後は力ずくっスか!!?」
今までの小細工とは違い、あまりのシンプルな攻撃方法に、ウェンディは思わず突っ込みをいれてしまう。
「・・・・悪い!!もう色々考えすぎて頭パンク状態なのよ!!」
「うわ!?逆切れっスか!!?でも、刺さった位じゃ、どうしようもねぇっスよ~」
ウェンディの言うとおり、ロムテクニカモードに変形させたクロスミラージュはライディングボードに『刺さった』だけであった。
だが、それがティアナの狙いであった。
「ご心配なく、『刺さった』だけで十分だから!!」
瞬時にクロスミラージュを持ち直し、トリガーに指を掛ける。そして
「カートリッジ・ロード!!」『Burst』
トリガーボイスと共に引き金を引いた直後、ライディングボードに刺さっていた魔力刃は大爆発を起こした。
その衝撃により、ウェンディは耐え切れずライディングボードを手放してしまう。

 

本来、スカリエッティが開発したライディングボードには独自に開発したショックアブソーバーが備わっている。
その有能性は、ノーヴェの『ぶち壊す勢いで蹴った』蹴りを真正面から受けても、衝撃を感じさせない程の優秀さを備えていた。
だが、この『クロスミラージュ・ロムテクニカモード』はオリジナルのロムテクニカ同様、対象に刺した後に内装カートリッジをロードすることにより、
一度きりだが、なのはやザフィーラの防御を破壊出来るほどの威力を出す事ができた。
それだけの威力を受けても尚、ライディングボードが壊れずに持ち主から吹き飛んだだけで済んだのは、
決してティアナの実力のせいではなく、ただ単にスカリエッティの技術力が優れていただけの事であった。

 

「くっ!!しまった!!」
突如襲ってきた凄まじい衝撃に、耐え切れずライデングボードを手放してしまったウェンディ。
彼女は直に魔力刃での斬撃攻撃が来ると予想すると同時に、今の自分に防御手段が無い事に慌てふためく。
だが、立ち込める爆煙の中で彼女は偶然目にした。自身の固有武装と一緒に宙を舞うティアナの武器を。

 

ティアナ自身も『クロスミラージュ・ロムテクニカモード』を使用するのは初めてであった。
カナードとシャーリーの説明から、カートリッジロード時の衝撃の凄さは聞いてはいたが、自分が予想していた以上の衝撃だったため、
堪らずクロスミラージュを手放してしまった。
「(何よこれ!!?クロスミラージュは大丈夫なの!!?)」
表面では冷静さを装ってるつもりだったが、内心では相手の武装と一緒に吹き飛んだ相棒の心配と、この次の攻撃手段をどうするべきか、
オーバーヒート気味の頭をフル回転させていた。
本来の予定では相手の武装を破壊、もしくは手放させ、その好きに斬りつける予定だった。
だが、今自分は手ぶら。攻撃手段が無い。今からスフィアを作る事など出来ない。

 

            いや・・・・・攻撃手段ならある

 

「(・・・・・もう、これしかないわね)」
腹を括ったティアナは拳を握り締める。そして

 

                 ドゴッ!!

 

ウェンディの顔面目掛けてストレートを放った。
「ッ!!」
顔面パンチをもろに食らったウェンディは、堪らず後ろへのけぞる。
だがティアナは逃がすまいと懐へ踏み込み、尽かさずボディブローを放つ。
一発「ドゴ!」
二発「ドゴ!!」
三発「ドゴ!!!」
そして、右足でたたらを踏んだ後、下から突き上げるように拳を上げ
「これで!ラスト!!」
トドメと言わんばかりに、スバル直伝の強烈なアッパーカットをぶちかました。
何の防御もしない状態で喰らったウェンディは甲を描くように吹き飛ぶ。
ティアナはアッパーカットを放った格好のまま停止し、
「シューティングアーツ・・・・役に立ったわよ、スバル」
今は外でたたかっているであろうスバルに感謝をした。
そして、高々に上げている腕の掌を開き、落ちてくるクロスミラージュをキャッチすると同時に体を180度回転、
ボロボロになりながらも自分を攻撃しようとするディードの眉間に突きつけた。
ディードもまた、ツインブレイズの切っ先をティアナの喉元に突きつける。
互いに沈黙でにらみ合い、互いの言葉を待つ。

 

「・・・・・貴方の負けです」
先に喋りだしたのはディードだった。
「あら?なぜ?」
「この状況では、私のツインブレイズの方が速い。仮に同士討ちになったとしても、ウェンディがいます。覚悟(まつっス」
全てを話し終える前に、仰向けで伸びているウェンッディが口をはさんだ。
「ウェンディ!?な(いいから!!ツインブレイズを降ろすッス!!」
普段のウェンディからは想像も出来ない強い口調にディードは驚き、自然とツインブレイズを降ろす。
そして、釈然としない瞳でウェンディを見据えた。
首だけを上げてディードの姿を確認したウェンディは心から安心したように微笑み、
「降参っス」
自分達の負けを素直に認めた。そして
「だから妹を撃たないでほしいっス。外から狙っている狙撃主さんにもそう伝えといてくれっス」
その言葉にハッとするディード。そしてゆっくりと瞳だけを動かし、自分の体を見つめる。
すると、胸の辺りに赤い点があった。彼女はそれがレーザーポインターの光りだと直に気が付いた。
「いったい・・・・・・どこから・・・・・?」
もう抵抗をしないと周囲に現すために、両手をあげながらゆっくりと体を動かし、レーザーポインターの光が発せられている場所を探す、
「そんな・・・・・・馬鹿な・・・・・・」
光りは直に見つかった。そして、彼女は驚くしかなかった。
外から自分を狙っているでああろうレーザーポインターの光は、あの時ティアナが砲撃で開けた壁の穴を利用し、外から真っ直ぐに自分を狙っていたからだ。
「まさか・・・・・あなたは・・・・・ここまで計算を・・・・」
驚いたままの表情でディードはティアナに尋ねる。
そんなディードの表情を見たティアナは微笑みながら
「ええ。カナードからウチには優秀な狙撃手がいるって聞いていたからね。その人ならこの壁の穴から貴方達を狙う事位、
わけないだろうと思ったから勝負の場所をここに選んだわけ。まぁ、いろんな偶然もあったけどね」
自慢するように得意げに答えた。

 

「・・・まったく・・・・・たいしたもんだぜ」
別の廃ビルの屋上から、ヴァイス・グランセニックは狙いを付けながらも、心底関心していた。