勇敢_第22話

Last-modified: 2008-06-15 (日) 13:48:07

「悪かったな。だが、死ぬ事はなかったろ」

 

             嬉かった・・・・・あなたの声が聞けて

 

             嬉かった・・・・・貴方の顔が見られて

 

             嬉かった・・・・・私を守ってくれて

 

ゆりかごの砲撃から自分を守ってくれたカナードに、はやては目に涙を浮かべながらも、
あふれ出る感情に身を任せ、抱きつきたい衝動を必死に抑える。
本当なら、慰安直にでも抱きついて彼の胸で泣きたかった。怖かったと弱音を吐きたかった。
だが、今の自分意はそれは許されない。現場を統括する身として、機動六課の隊長として。
はやては一度俯き、バリアジャケットの袖で顔を数回擦り、あふれ出た涙を乱暴にふき取り、
続けて両頬を軽く叩き、自分に活を入れる。
再び顔をあげたはやての表情は、先程までの『家族の再会を喜ぶ少女』から、再び『現場の指揮官』としての顔へと戻っていた。
「・・・・・まったく・・・・強くなったな・・・・お前は・・・・・」
「主曰く、女性に凛々しいや強くなったというのは褒め言葉ではないらしいぞ」
自分でバインドを解除したのか、はやての後ろから、リインフォースが怪我をしている右腕を抑えながら近づいてきた。
その表情は痛みのためか、険しく顰めてはいるが、カナードの顔を見た途端、自然と表情が綻んでいた。
「全く・・・・・・ねぼすめ・・・・・だが・・・・よく来てくれた」
「悪かったな。色々と準備があって遅れた。だが、遅れた俺が言うのもなんだが・・・・ボロボロだなお前ら。その分、休んだ分は働かせてもらおう」
二人で体を支えあっている光景を半分呆れ、半分心配で二人を見せた後、カナードは再びゆりかごの方に体を向ける。
主砲のエネルギーが切れたのか、第4射目を撃ってくる気配は無く、その代わりなのか、ゆりかごの射出口からはガジェットが
次々と発射され、青空を覆いつくさんばかりに広がってゆく。
「・・・・・はやて、お前はリインフォースと一度下がれ。リインフォースは無論、お前も連戦で疲労が蓄積してるだろ」
「うん。そうさせてもらうわ。シャマルの所で疲労を取ったら直に戻ってくる・・・・・だから・・・・」
「ふっ、安心しろ。それまではここは抑える。仕事をしない傭兵は二流だ、そうなりたくは無いからな・・・・・ドレッドノート」
背中に背負っていた大砲を両腰へと展開、同時に突き出たトリガーを逆手で持ち、銃身をガジェットの群れへと向ける。
『Buster Mode ready』
電子音と共に、大砲の砲身に溜まって行く魔力。本来なら普通の砲撃として見る事が出来るが、はやてはあまりの光景に唖然としていた。
彼が放とうとしている攻撃の魔力量が半端ではないからだ。彼の魔力量は知っているし、常人に比べたらそれなりの高さがある。
だが、今放とうとしてる攻撃に割り当てられる魔力は彼の魔力許容量をゆうに超えている。
おそらくは彼自身の魔力許容量の5倍近い量を今放とうとしている攻撃に裂いている。
このような事態は決して珍しい事ではない。なのはのスターライトブレイカーの様に、カートリッジや空気中に浮遊する他者が使用した魔力の残滓を使用すれば、
自身の許容量をはるかに超えた魔力を攻撃に割り当てる事ができる。
だが、彼の場合は上記の条件が一つも当てはまらない。カートリッジをロードしている訳でもないし、周辺から魔力の残滓を集めている様にも思えない。
どう見ても、攻撃に割り当てる魔力をすべて自分で負担しているとしか見えなかった。

 

「(アカン!!こんなん撃ったら直に再起不能や!!)」
はやては直にでも止めようとカナードの肩を掴もうとする。だが、既に砲撃のチャージは終っており、
カナードははやての手より早く、攻撃を行なうため自分の手の引き金を引いた。
「消えろ」『Fire』
電子音と共に放たれた魔力砲。発射した瞬間に発生した強力な光が、はやての視界を一瞬奪う。
「くっ・・・・」
発射したカナードも、自身が想定した以上の発射時の衝撃に顔を顰めるが、体に力を入れ照準をずらさない様に体を固定する。
真っ直ぐにゆりかごに向かって伸びる砲撃は、周囲に展開していたガジェットを次々と破壊していきながらゆりかごに着弾。
今正に出撃しようとしてるガジェットを、射出口諸共吹き飛ばす。だが、それで終わりでは無かった。
「まとめて・・・・・頂く!!!」
砲撃を放っている状態から、カナードは左右の大砲をゆっくりと横に広げていく。大砲が動く事により、発射されている魔力砲も
同じく左右へと移動、最初の着弾店を中心とした左右の射出口と、魔力砲の移動位置にいるガジェットを次々と破壊していき、
カナードが大砲を腕と一緒に左右に広げきった時には、ゆりかごには目視で確認できるほどの大きな傷が出来ており、ガジェットの数も
目視で確認できるほどに減少していた。
「・・・・幾つかの射出口は潰した・・・・これで少しはガジェットの出現をおさえられるだろう」
呟きながらも、右の大砲を再び背中に戻す。その代わりにハイペリオンにもあった武装『ザスタバ・スティグマト』を持ち、
ガジェットの群れへと飛び込もうとするが、そんな彼をはやては慌てて呼び止めた。
「ちょいまち!!来て早々、こんなアホな攻撃して!!速攻魔力使い切ってどないする気や!!!」
あの砲撃からして、おそらく彼の魔力は底をついている筈、それこそ空を飛ぶ事すら出来るとは思えない。
そう結論付けたはやては怒鳴り散らしながらも慌ててカナードが自由落下しないように、彼の体を支えるため近づこうとするが、
「・・・・・ちっ、左が少し残っていたか・・・・威力が強すぎて照準が・・・・まぁいい。消えろ」
舌打ちをした後に、左腰に展開していたままの大砲を少し左にずらした後、単発で発射。数秒後、遠くで幾つもの爆発音が響いた。
今度こそ目標に当たった事を確認したカナードは、深く息を吐いた後、再びはやての方に顔を向ける。
「・・・・ああ、スマン。外の雑音でよく聞き取れなかった。何だって?」
「ああ・・・・その・・・・・魔力・・・大丈夫か?・・・・・スッカラカンやないのか?」
疲れ所か、顔色すら変えていないカナードに、はやては頭の彼方此方にはてなマークを浮かべながら尋ねる。
そして彼の魔力が全く減っていない事に気づいた途端、頭に漂うはてなマークがさらに増えた。
そんなはやての姿につい笑いを漏らしながらも、先程攻撃を行なった大砲をはやてに見せ付けるように掲げる。
「おそら魔力に関して不思議に思っているのだろ?種はこいつ『ドレッドノート』だ」
「ドレッドノートって・・・・・・プレア君の・・・・・・」
確かに、プレアのデバイス、『ドレッドノート』なら、辻褄が合う。
『ドレッドノート』には、装備者に魔力を無限に供給できるロストロギア顔負けの機能を持っている。
先程の砲撃も、ドレッドノートから魔力を供給して放ったのだろう。装備者であるカナード自身の魔力が変わらないのは、
砲撃に使用した魔力をドレッドノートから供給したため。だからこそ、あれほどの攻撃力を出す事ができたと考えれば納得がいく。
攻撃や魔力に関してなら納得がいった。だが、彼女の疑問はまだ晴れてはいなかった。
「あれ?でも、ドレッドノートって、背中にドラグーンちゅう武装がついとったんとちゃうか?あのサツマイモみたいなトンガリが・・・こう・・・バッテンに・・・」
「プレアが聞いていたら苦笑いしそうだな。ああ、お前の言う通りだ。そもそもドレッドノートは能力は魅力的だがプレアの様な
能力者でないとその力を発揮しないし、いくら魅力的な能力を保持していても、力を発揮出来なければ戦闘では使えない」
確かにドレッドノートを装備すれば魔力を気にする必要がない。だが、本来の持ち主であるプレアのような特殊能力が無い以上、
本来の力を発揮する事が出来ない。だからこそ、カナードは様々なアレンジを加えたハイペリオンを使い続けていた。
『使いこなせない物は力とはならない。使いこなす見込みがないのなら、今使いこなせる物に更なる磨きを掛ける』これがカナードの考えである。

 

「だが、ハイペリオンはあの戦闘で大破してしまった。だからマリーに頼んでハイペリオンのデータをドレッドノートに移してもらったんだ。
基礎データだけでも移植すれば、ロムテクニカやザスタバ・スティグマトなどの武装が使えるかもしれないと思ったが、結果は思った以上に上手くいったらしい。
その結果がこの『ηフォーム』。これは無限に供給される魔力をダイレクトに砲撃に転用できるシンプルな物では。
正直俺にぴったりな装備だ・・・・・少し反動がきついがな・・・さて、説明は終わり・・・・・ん?」
ガジェットの群れに突っ込もうと、再びゆりかごの方に体を向けたカナードが見たのは、上空で浮遊しているガジェットの半数が地上に降下していく光景だった。
「くっ、先に地上を片付けるつもりか」
「だが、そう易々とは・・・・・・ちっ!」
三度ドレッドノートの砲撃をお見舞いしようと、左の大砲を向ける。だが、その事を察知したガジェットが、真っ直ぐにカナード目掛けて突っ込んできた。
舌打ちをしながらも即座に発射。だが、正確に狙いをつけて発射しなかったため、突っ込んでくるガジェットの7割しか破壊する事が出来ず
残りは攻撃も何もせずに、ただ真っ直ぐにカナード目掛けて突撃する。
「(・・・・・・・チャージしながら弾幕を張り後方に退避、完了後に発射・・・・・が理想的だが、退避した途端にはやて達に狙いをつける可能性があるな。
疲弊しているうえ、大怪我を負っているリインフォースを支えている状態ではどうにもなるまい・・・・ここで迎撃が安全策か)」
頭の中でやるべき事を数秒で考えたカナードはザスタバ・スティグマトを構え、突っ込んでくるガジェットに向け発射。
ドレッドノートの効果なのか、以前より火力が増したザスタバ・スティグマトの魔力弾は、ガジェットに大口径の大穴をあけ、次々と破壊していく。
同時に、左腰に抱えたままの大砲を素早く左に広げ、
「消えろ」『Zamber Mode』
払うように横に一閃。数秒間を置いた後、こちらに突っ込んでくる筈だったガジェットを青空に輝く花火に変えた。だが
「ガジェットが・・・・」
はやてとリインフォースは目の前の危機を脱した事を喜ぶ事は出来なかった。向こうの思惑通り、ガジェットの半数が地上に降りたことに、悔しそうに顔を顰める。
「・・・・・・地上の戦力はどうなってる?」
「正直あまりよろしくない。空以上のガジェットの数にさっきの増援。それに対してこちらは数に劣る上にAMF戦に慣れてない武装局員。
戦闘機人の子達や六課メンバーが踏ん張ってくれてるけど、スバルとティアナはなのはちゃんを助けにゆりかごに、エリオは音信が不通になったフェイトちゃん
の所に行った。正直旗色が悪いわ・・・・・」
本局の増援も到着するのには数十分かかる。自分達の広域魔法も味方が密集している地上では撃つ事ができない。
正直絶望的である。だが、彼女は『諦める』という考えを全く持たなかった。
「せやけど・・・・・諦める気なんかまったくあらへん!!疲労を取ったら、また空で暴れたる!!」
「同感です、主。カナード、お前は主と空を頼む。私は地上の戦闘に参加する」
「・・・・・いや、地上に行く必要は無い・・・・・・増援が来たからな」

 

・地上

 

:第7防衛線

 

「市街地戦での防衛ラインはなんとか持ちこたえてるが、正直ギリギリだ・・・・そっちは大丈夫か?」
「はい、残念ですがアースラは後退させます。何時墜落するかわかりませんから・・・・」
武装局員がせわしなく走り回る中、ここの指揮官、ゲンヤ・ナカジマはアースラに現状を報告する。
近くでは局員の叫び声と爆発音がせわしなく鳴り響いているため、ゲンヤは失礼とは思いながらも、声を大きくし報告を続ける。
「まぁ、無理はするな。死んじまったらどうにもならねぇからな」
「・・・はい・・・・」
「悪いがさっきも言った通り、こっちもギリギリだ。そっちの赤毛が鍛えてくれたうちの連中と、航空隊の高町嬢ちゃんの教え子が踏ん張ってくれてるが、
それでも少しずつだが押されている。他にわませる余裕はねぇ」
報告をしながらも、ゲンヤは前線で戦う局員達に目を向ける。ジリジリとレーザーを放ちながら迫るガジェットに対し、
こちらはバリケードからの砲撃、どう見ても戦局は不利。四方に散っている戦闘機人の子に手助けを頼みたいが、
防衛人数が少ない所には、六課メンバーや戦闘機人が行ってくれているため、頼む事は出来ない。

 

何処の防衛ラインも今はこんな状況なのだ、維持でも踏ん張らねばならない。
「とにかく、こちらは持たせる、だか」
それ以上の事をゲンヤは言う事が出来なかった。いや、自分でも何が起きたのが理解が出来なかった。
「くっ・・・・・・なに・・が・・・・」
朦朧とした頭を荒っぽく左右に振り、意識を無理矢理はっきりさせる。痛む体に無知を撃って立ち上がり、前方を確認すると、
先ほどまで、自分の真横に泊まっていた車が火を噴いており、その付近では数名の局員がうつ伏せで倒れていた。
「くそ・・・・」
悪態をつきながらも、ゲンヤは応援を呼びながらも近くで倒れている局員を助け起こす。
自分の肩を貸し立ち上がらせ、後ろに下がろうとしたその時
「じょ・・・・上空から・・・・・ガジェット!!!」
上空から更なるガジェットの増援が降下、先程までいたガジェットの群れへと加わり進軍を開始した。
「・・・畜生・・・・・マジかよ・・・・・」
目の前の光景にゲンヤは無論、先程まで戦っていた局員にも諦めの表情が浮かんでくる。
中には杖を腕から落とし、力なくへたり込む者も出てきた。
無理もないと思う。度胸には自身がある自分でも、この状況では絶望を感じずにはいられない。
「・・・・・もう・・・・おしましだ・・・・・」
現に、今自分が助けおこした武装局員も、涙を流しながら諦めの言葉を呟く。
辺りに漂う敗北の空気・・・・それにゲンヤも身を任せそうになった・・・・・だが、

 

                「(貴方・・・諦めないで)」

 

聞こえる筈のない声が、耳に響く。ゲンヤは無意識に肩を貸している局員の方を向くが、相変らず『もうお終いだ』と泣きながら呟いているだけだった。
おそらくは自分にだけに聞こえたのだろう・・・・・・本来聞こえる筈のない声・・・いや、もう聞くことが出来ない声・・・・クイントの声・・・・
幽霊などを信じないゲンヤは本来なら気のせいとして無視したが、今回はなぜかその声に縋る様に耳を傾ける。
だが、それ以降聞こえる事はなかった、局員達の諦めの声が辺りに響き渡るだけ。十分気のせいとして処理できるが、ゲンヤは不思議と気のせいとは思えなかった。
「(・・・・・・まったく・・・・・あの世に行ってまで苦労をかけらぁ・・・・・・)全員聞けぇ!!!」
ゲンヤの怒鳴り声が辺りに響き渡る。あまりの覇気のある声に、絶望や諦めとう負の感情に支配されていた局員達も、一斉に顔を向けた。
「オメェらなぁ・・・情けねぇ事いっていんじゃねぇ!!!オメェらが諦めたら誰が市民を守る!!誰が仲間を守る!!答えろ!!」
ゲンヤの質問に、皆は沈黙で答える。だが、それでもゲンヤは言葉を続ける。
「俺にはお前らのように魔法は使えない・・・・魔力資質はゼロだからな・・・・・だから俺に出来るのは偉そうに現場を指揮する事だけだ。
正直な・・・お前らが羨ましい。俺にも魔力資質があればと何度思った事か・・・・だがな、ない物ねだりをしても仕方がねぇ。
だからこそ、俺は俺の出来る事で大切な家族を、仲間を守る!!おまえらもそうだろ!!自分の力で・・・自分が出来る事で大切な人を守るために此処に来たんんじゃねぇのか!!?」
相変らず周りの局員は無言で答えるが、彼らの表情からは絶望や諦めとう負の感情が徐々に消えていった。
周りからも「そうよ」「何やってるんだ俺は」などの呟きが聞こえてくる。
「確かになぁ、敵の数は多い・・・・だがな、そんなんどこも一緒だ!!それにな、こいつはある奴からの受け売りなんだが・・・・」
大きく息を吸った後、あらん限りの声で叫ぶ。
「俺も、お前達も生きている、戦える!!生きているうちは負けじゃぁねぇ!!違うか!!」
この一喝が局委員達の負の感情を吹き飛ばした。彼方此方から「まだ戦える」「ここでへこたれちゃあ他に申し訳ねぇ」
などの声が響き渡り、やがて声は大きな歓声となり響き渡る。

 

「総員、持ち場にもどれ!!負傷している者は下がって回復に専念しろ!!近くの車を拝借してバリケードに使え!!そこから狙い打って各個撃破だ」
返事をしながらも各自の仕事に取り掛かる局員達を満足げに笑いながら見つめるゲンヤは、肩を貸している局員を回復担当班のところへと連れていく。
「ナカジマ三佐・・・・良いんですか?善良な一般市民の車を無断使用して」
先程まで肩を貸していた局員が悪戯っぽく笑いながら尋ねるが
「何言ってるんだ!?俺達は善良な一般市民の車が邪魔だからどかして、そこに隠れるだけだ。壊すのは向こうの仕業・・・・・違うか?」
同じく悪戯っぽく笑いながら答えるゲンヤに、質問をした局員は隠す事無く大笑いをした後、ゆっくりとゲンヤから離れる。
「大丈夫・・・・・自分ひとりで行けます。三佐は指揮の方をお願いします」
敬礼をした後、ゆっくりとではあるが回復担当班の所へと向かう局員を途中まで見送ったゲンヤは、振り返り歩き出す。
「(俺もまだ死ぬわけにはいかねぇ・・・スバルとギンガの花嫁衣裳を見るまではな・・・・・だからクイント・・・・歯が浮くような台詞だが、
見守っていけくれ)総員、準備できたか!!」
前線まで歩いてきたゲンヤの叫びに、それぞれが力強く頷く。
新しく降りてきたがガジェットには飛び道具は無いのだろうか、レーザーなどを放たずに蜘蛛の様な六本足を動かしこちらに向かってくる。
その光景を獰猛な瞳で見つめたゲンヤは、攻撃を開始するように命令を出そうとした。その時
「ナカジマ三佐!!」
後ろから聞こえる焦りを含んだ声にゲンヤは自然と振り向く。すると、一台のワゴン車がこちらに近づいてきた。
本来なら通す筈は無いのだが、地上本部が使用しているワゴン車だったため、通行許可を出したのだろう。スピードを落としながらゆっくりと近づいてくる。
「(援軍か?)」
ゲンヤから数メートル先で止まった車からは、人数にして7人の局員が降りて来た。
「ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐ですね?こちら陸士203部隊。援軍として参りました!!」
7人の代表と思われる人物が、自分がここの隊長であることを述べた後、ゲンヤに向かって敬礼。直に残りの6人もそろって敬礼をする。
その光景をゲンヤは一瞬、呆然と見てしまった。陸士部隊はそれぞれ縄張り意識が極端に強い。それこそ互いの部隊委員同士での喧嘩も珍しくはない。
そんな彼らが強力し、自分達の部隊に加わろうとしている。
「(今の状況が・・・そうさせてるんだろうな・・・・・皮肉なもんだ)強力感謝する!!」
感謝の意味も込めた敬礼をするゲンヤに、周囲の部隊員達も、敬礼をする。
「早速ですがナカジマ三佐、少しでも負傷している者、疲労が蓄積している者がいらっしゃいましたら、一旦下がらせてください。
そちらと、こちらの回復班で治療を。それまでは我々にお任せを」
自信に満ち溢れた言葉に、ゲンヤはつい押し黙ってしまう。沈黙を了解を見た隊長は、回復範囲外の4人と共に前へと出る。
そして、バリケードより前に出た隊長を含めた5人は、自分達がバリケードになるように、真横に一列に並び始めた。
「・・・何するの・・・あの人たち・・・・・」
左腕を押さえながら後退する女性局員が、皆の思いを代表して呟く。

 

真横に一列に並び終えた5人は、一斉にポケットからある物を取り出す。
大きさからして、手に収まるほどの三角錐の物体、全員がそれを持った事を確認した隊長は叫ぶ、そのデバイスの名を

 

                      『ハイペリオンG!!』

 

                   「「「「「SET UP」」」」」

 

紫色の光に包まれる5人、眩しさについ瞳を閉じたゲンヤが目を開け見たのは、見た事もないバリアジャケットを装備している5人だった。
服装はここにいる武装局員の物と大差はない、だが、色は紫を主体としている。
右腕には杖ではなく、質量兵器であるマシンガンに酷似したものを持っており、何より特徴的なのは背中の装備である。
右側には大きな筒の様な物を装備し、左には大口径のカートリッジやマシンガンのマガジンなどが装着されていた。

 

「総員、アルミューレ・リュミエールを前方に展開!壁を作れ!!」
隊長の命令に従うように、全員が右背中に装着されている筒の様な物『フォルファントリー』を前方に展開、
270度回転したフォルファントリーは、装備者の右肩に乗っかる寸前で止まった後、先端に装着されている黄色い三角錐を分離させ、
自分達より前に移動させる。フォルファントリーから50cm程離れた時、三角錐は割れるように広がり正三角形となる。そして、それを中心として
緑色の魔力障壁が展開、使用者の前方を完全に覆った。
だがそれだけではなった。横に並んだ全員がそれを行った結果、彼らの前方、そしてガジェットの進路上には大きな光りの障壁が出来、
まさにそれは、ガジェットの進行を阻止する絶対障壁として、彼らと後方にいるゲンヤ達を守る盾として、煌びやかなエメラルドグリーンの光りを発していた。
「全員、構え!!」
号令と共に、全員が魔力カートリッジを使用するマシンガン『ザスタバ・スティグマト』を前方のガジェットの群れに向かって構える、そして
「放てぇ!!!」
5丁のザスタバ・スティグマトが一斉に火を噴く。アルミューレ・リュミエールの効果により、こちら側からの攻撃は素通りするため、彼らが放った多重弾核射撃弾は
ガジェットのAMFすらも素通りし、次々と攻撃対象をスクラップに変えていく。ガジェット、射程距離に近づいたⅠ型やⅢ型が、ミサイルやレーザーなどで
反撃をするも、アルミューレ・リュミエールの前にでは全く効果がなく、即座にスクラップとなっていく。
「総員、フォルファントリー発射準備!!」
隊長の声と共に、全員がそれぞれのフォルファントリーに搭載されているカートリッジをロード、先端の下の砲にある銃口に魔力が蓄積される。そして
「発射!!」
5つの強力な魔力砲は真っ直ぐにガジェットへと向かい着弾し爆発。目視で確認できるがジェットを全てスクラップへと変えていった。
「・・・・・全員で放つのは不味かったか?」
「そうですね、威力は凄いですが、こんな調子で撃っては我々がガジェット以上のデストロイヤーになってしまいますね」
「まぁ、今のはテストも兼ねての砲撃だ。パルスさんには後で報告をしておくからデータの収集を頼む」
「了解!さて、お仕事お仕事!!」
再びザスタバ・スティグマトの洗礼を浴びせながらも、それぞれカナードへの報告やハイペリオンGの機能性能に関して雑談する陸士203部隊員達。
そんな光景をゲンヤ達はただ呆然と見つめていた。
「・・・・・・形勢が・・・・・逆転しちまったな・・・・・」
正に形勢は逆転していた。追い詰められていた自分達が今度は追い詰める側になっている。
今は回復班の治療魔法に身を任せながらも、ゲンヤは現状が有利になった事に自然を笑みを漏らした。
「各員、アルミューレ・リュミエールを展開したまま前進、やつらに地上と空の維持をみせてやれ!!」
「「「「了解」」」」
隊員の返事を聞いた隊長は、軽くく笑みを漏らした後、今までの出来事を何気なく思い出す。

 

このデバイスのオリジナルを持っている人と出会ったのは、数ヶ月前の始発の電車の中だった。
あの電車で知り合って以来、傭兵をやっている彼には幾つかの仕事を頼んだ事もあった。
そして、彼と関わり合う内に、ハイペリオンの量産型『ハイペリオンG』の開発と量産に携わる事となった。
地上を守る新たな力、対ガジェット対策ともいえるデバイスの開発を聞いたときに、自分は自然と参加する事を申し出た。
自分の部隊員の他にも、彼が他の依頼で知り合った部隊の人も加わり、幾多の実験とテストを重ねた結果出来たデバイス。

 

当初は名前を『量産型ハイペリオン』にする筈だった。だが
「簡単すぎる。これは地上の正義を守るために作ったものだ・・・・・グラウンド・・・ハイペリオン・グラウンド・・・『ハイペリオンG』だな」
こうして出来た『ハイペリオンG』は、今正に地上の平和を脅かす敵を倒すためにその力を振るっている。
地上での戦局は、思わぬ増援により、形勢が逆転しつつあった。

 

「・・・どうやら実戦テストは上手くいっている様だな」
はやてが展開したモニターを覗き込みながら、カナードは満足げに呟く。
ハイペリオンGを装着した局員は各地に現われ、その性能を遺憾なく発揮、地上の劣勢を徐々に優勢へと変えていった。
「しっかし・・・・こないなもん何時の間に作ったんや?」
「・・・・以前にも言った筈だぞ?『他の依頼も受けている』と」
そういえばそないな事いっとったな~と思いながらも、地上の状況に安心したはやては、疲労の回復とリインフォースの治療のため、
真っ直ぐにシャマルの所へと向かう事にした。
「それじゃ、カナード・・・・・暫らくよろしくな。直戻ってくるから」
「しっかり疲労を取ってから来い。中途半端では役に立たんからな」
笑いながら答えるカナードに、「優しくないな~」と笑いながら呟いたはやては、今度こそシャマルの元へと向かう。
二人がゆっくりと降下を開始したことを確認したカナードは、再び両方の大砲で砲撃を行おうとする。その時、
「(カナード・・・・・いいか)」
突然のリインフォースの念話にカナードは砲撃を中断、降下してるはやて達の方に顔を向ける。
「(なんだ?)」
「(・・・・・一つ約束しろ・・・・・無理はするな・・・・・もう・・・・・悲しむのは・・・ごめんだ)」
言いたい事だけを言い、一方的に念話を斬ったリンフォースに、カナードはバツが悪そうな顔をした後、舌打ちをする。
「気付かれていたか・・・・・後でなのは辺りに頭を冷やされそうだ・・・・・」
まぁ、その時は甘んじて受けようと覚悟を決めたカナードは、リインフォースの念話で中断していた砲撃を開始した。

 

・ゆりかご内

 

「くっ・・この!!」
自分目掛けて突っ込んでくるガジェットにディエチはイノーメスカノンの砲撃をお見舞いする。
なのはとの戦いでの疲労と、砲撃をするための時間と距離が稼げない状態というハンデを背負いながらも、
ディエチはある程度連射が効く実弾による砲撃で、自分に襲い掛かってくるガジェットを次々と破壊していく。
「・・・・・なんで・・・・こんな・・・・」
ゆっくりと後退しながら砲撃を続けるディエチには、二つの疑問が渦巻いていた。
一つは自分達の味方である筈のガジェットが襲ってくる事。
これに関してはいまだに理由が分からない。連絡を取ろうにも通信が一切繋がらないため、事態を把握する所かクアットロの無事を確認する事も出来ない。
そして二つ目は、今自分が破壊しているガジェットについて。
自分に襲い掛かってくるガジェットは『ガジェットドローンIV型』と名づけられた機体だが、これは存在する筈がなかった。
これは自分は資料でしか見た事がなかった。そのため、興味本位からクアットロに聞いてみた所、8年前に試作として一体作ったのだが、
機能や攻撃方法などに色々と問題があったため量産は中止、試作として作った一機もトーレ姉の訓練用の相手として、その使命を全うしたと聞いていた。
だからこそおかしい、既に生産中止になっている機体が数十体も自分に襲い掛かってくる事が。

 

「・・・・・誰かが・・・作った・・・・・いや、今はそんな事はどうでも良い」
考える事はとにかく後。どうにかこの場を乗り切りクアットロと合流する事が先決。改めて自分がすべき事を確認したディエチは、
密集しながら迫り来るIV型に実弾による砲撃を連射、その数を減らしてく。
そして、どうにか近くにいたガジェットを破壊し、距離と時間を稼いだディエチは、なのはの時の様な直射砲をお見舞いするため、
腰を落とし、エネルギーチャージを行い、カウントを開始する。。
「・・・・・・5・・・・4・・・・3・・・2・・・・・・1・・・・・・」
チャージが完了したため、引き金に手を掛けようとしたその時、

 

                              ギシ

 

金属が軋む小さな音が、後ろから確かに聞こえた。本来なら澄ましても聞き取る事の出来ないほどの小さな音、だが、
戦闘機人である彼女の耳には、確かに聞こえた。
無意識に、音が聞こえた方に首を向けたディエチが見たのは、光学迷彩を解いたIV型が唯一の武器である鎌を自分目掛けて横なぎに振るう瞬間だった。
「なっ!!?」
正直避けられたのは偶然に近い、ガジェットが鎌を振るう瞬間、ディエチは前方へ飛びはね斬撃を回避する。だが
着地した瞬間、同じく光学迷彩を使い接近していたもう一体のIV型の斬撃が、ディエチに襲い掛かった。
IV型の鎌がディエチを横に真っ二つにせんと、襲いかかる。だが、それより速くディエチはチャージ途中のイノーメスカノンを発射、
自分を切り裂こうとしたIV型を吹き飛ばす。だが、胴体に風穴が空いても尚、目標を排除せんとばかりにIV型の鎌は振るわれる。その結果、
IV型の鎌はデイエチのスーツを切り裂き、爆散した。
「・・・・・くっ・・・・いやらしい真似を・・・・」
切り裂かれたスーツからは、彼女位の年齢の少女にふさわしい豊かな胸がガジェット達の前にさらけ出される。
相手が知能が無い機械と解っていても、恥ずかしさから空いている左腕で胸を隠し、後ろに退避しようとする。だが
「・・・そういえば・・・・後ろにもいたんだっけ・・・・・」
首だけを動かし、ディエチは後ろを確認。さっきは1体だったはずのガジェットが今では十数体にまで増えていた。
「・・・まずいな・・・・・かこまれた」
ガジェットはディエチが逃げない様に先ずは周りを囲む。そして、対象に恐怖感を与えるかの様に徐々に距離を詰めていく。
そのたびににディエチは一歩、また一歩と後ろに下がるが、背中が通路の壁に当たった途端、追い詰めらた事を体で感じ顔を歪ませた。
「なぜ・・・・人思いに襲ってこない・・・・・」
正に自分は追い詰められている。このまま一斉に襲い掛かれば、直にでも決着はつく。
だが、ガジェットはそのような事はせずに、ゆっくりと距離を縮めていく。獲物を甚振るかの様に、ディエチの恐怖に歪む顔を楽しむかの様に。
「・・・・・・楽しんでいるのか・・・・・」
正直そうとしか思えなかった。ゆっくりと近づきながら、必要も無く鎌を床に叩きつけ音を鳴り響かせる。
数十個にも及ぶカメラアイは、彼方此方がさけたスーツに身を包んだ左腕で露出した胸を隠す自分を必要以上に見つめている様な気がする。
そう思った途端、ディエチの中に言いようの無い恥ずかしさが渦巻いた。肌を見られる事を恥ずかしがる少女のように。
「・・・まったく・・・こんな時にでも恥ずかしいって感じるなんて・・・・・・」
自嘲気味に笑いながらも、ディエチはゆっくりと背中をこすりつけながら腰を落とす。
散々焦らしたガジェットも、自分の目の前まで近づいており、唯一の武器である鎌をゆっくりと振り上げる。
「・・・・・・ごめんね・・・・・皆・・・・・・クアットロ・・・・・・・ヴェイア・・・・・」
瞳を閉じ、覚悟を決める。そして

 

               「おらぁ!!!」『Schwalbefliegen』
                   「ガンバレル!!!」

 

遠くから聞こえる幼い子供の声、その直後、自分を串刺しにしようとした周囲のガジェットに鉄球がめり込み爆散。
残りの周囲のガジェットも小さなドラム缶の様な物から発射される魔力弾により次々と破壊されていった。
「えっ・・・・・・何・・・・・・」
死ぬと思った瞬間、自分を殺そうとしたガジェットが次々と破壊された事に、ディエチは何が起きたのか分からず唖然とする。
だが、そんな彼女を他所に、ガジェットを破壊した人物。プレアとヴィータはディエチの前に降り立った。

「・・・・こいつ・・・・・」
見た目からしてボロボロの戦闘機人を、ヴィータは救助者としてでなく、敵と看做して睨みつける。
「(こいつは・・・・シャマル達が乗ったストームレイダーを落とそうとした奴だな・・・・・)」
ヴィータはこの顔に見覚えがあった。ヴィヴィオを保護したあの事件でシャマル達が乗ったストームレイダーを落とそうとした奴。
なんで其方の駒であるガジェットに襲われていたのか、色々と疑問が残るが今はどうでもいい。
「(・・・・・・いい機会だ・・・・・一発・・かましてやるか・・・・・)」
グラーフアイゼンを握る力が自然と強まり、食いしばる歯が軋みをあげる。
だが、自分が行なうべきは復讐ではない。なのは達をを助ける事がアタシの仕事。
昔と違い、素直に割り切る事が得きるようになった自分を褒めてやりたいと思いながらも、グラーフアイゼンを握る力を弱める。
「(見た感じ・・・・・死ぬような怪我は負ってねぇ様だな・・・・なら尋問を先に・・って!)プレア!?」
内心でやるべき事を整理し手いる最中、隣に立っていたプレアはディエチに近づき腰を落とす。そして、
何の迷いも泣く、疲弊しているディエチにヒーリング系の回復魔法を掛け始めた。
「よかった・・・・たいした怪我じゃなくて・・・・・直に良くなる筈ですよ」
自分の負傷具合が軽い事を、我が身の様に喜ぶ少年にディエチは素直に疑問に思った。
なぜこの少年は何の疑いもなく、自分を助けるのだろう?
あの赤い魔道師の仲間なら、自分が敵だという事は知っている筈なのに・・・・・なぜこの子は・・・・・
「不思議ですか・・・・・貴方を助ける事が?」
よほど疑問に満ち溢れた顔をしていたのだろう。自分に回復魔法を施している少年は微笑みながら自分を見据え尋ねてきた。
「うん・・・・・どうして・・・・・敵だよ・・・・・私は・・・・」
「・・・・そうですね。ですけど、今は怪我人です。それに、助けるのに理由とかは必要ありません。
・・・・貴方のお姉さん・・・・ドゥーエさんも同じことを言っていましたし、僕も同じことを答えました」
「えっ、君、ドゥーエを知ってるの?」

 

「そうなんだ・・・・・・ありがとう。ドゥーエを助けてくれて」
ヒーリングを掛けながら、ドゥーエとの出会いを手短に説明するプレア。
正直『右腕を斬られていた』『ガジェットに教われていた』と聞いたときには頭が真っ白になったが、
彼によって無事に助けられた事を聞き、心から安殿溜息をつく。
「プレアに感謝しろよ。命が助かったとしても、プレアが掛け合ってくれなかったら今頃、手枷をつけられて冷たい牢獄だろうからな」
周囲を警戒していたヴィータが、相変らずディエチを睨みつけながらはき捨てるように呟く。

 

「うん・・・・・治療までしてもらって・・・本当に感謝している・・・・・」
「・・・・・ふん!」
そっぽを向き、再び周囲の警戒を始めようとしたヴィータ。だが、丁度ヒーリングも終ったらしく、ディエチを包んでいた緑色の光りがうっすらと消えていった。
「これで大丈夫な筈で・・・・・・す・・・・・・」
「うん・・・・・大分疲労が取れたよ。あり・・・・ん?どうしたの?」
立ち上がり、軽く体を動かした後、ディエチは身長差から見下ろす形になってしまったプレアに改めてお礼を言おうとしたが、
先程まで自分を見ていたプレアは、急に俯き、「あの・・・」「その・・・」などの歯切れの悪い言葉を呟きだした。
「おまえ・・・・・前隠せ・・・・・」
睨む事すら馬鹿らしくなったのか、今度は呆れた顔で呟くヴィータに、自分が左腕で隠していた胸をさらけ出している事に気が付いた。
そういえば体を動かす時に、さらけ出された胸を隠していた左腕を取り払っていた事をディエチは今になって思い出した。
おそらくプレアといったこの少年は自分の胸を見たため、恥ずかしさのあまり俯いてしまったのだろう。
あまりの素直な反応に、正直に可愛いと心から思う。
「あ・・・・え~と・・・・べつに・・・いいよ?仕方ないし・・・・私はこのまま(駄目です!!」
相手は命の恩人、それに男だとしてもまだ子供であるため、ディエチは特に気にする必要は無いと言おうとしたが、
真剣な瞳で自分を見据え、『駄目』と力強く言い張るるプレアに、言葉を詰まらせる。
「いいですか!?女性がむやみやたらに肌を見せてはいけません!!その・・こういうのは・・・・黙認した人だけというか・・・・
結婚を前提にした男の人の前でというか・・・・・その・・・・とにかく駄目です!!」
自分でも何を言っているのか分からなくなったプレアは、自分が身に着けているジャケットを乱暴に脱ぎ、それを
押し付けるようにディエチに差し出した。
「と・・・とりあえず、これを着てください。バリアジャケットの一種ですから・・・サイズは調整できる筈です!!どうぞ!!!」
丁寧に畳まれたジャケットを、ディエチは微笑みながら受け取り、早速袖を通す。
「・・・・ん・・・しょっと。ほんと、ぴったりだね。ありがとう。もう大丈夫だよ」
胸を隠した事を知らせたディエチに、プレアはやっと顔をあげ、安堵の溜息をついた。
「さて・・・・隠すもん隠したんだ・・・・・質問に答えてもらうぜ・・・・」
律義に待っていたヴィータがアイゼンを構えゆっくりと近づく。

 

プレアが何か言おうとするが、左手で制し、アイゼンをディエチに突きつける。
「・・・・・・本来なら、縛ってここに放置しとくんだが・・・どうやらおめぇもガジェットに狙われてるらしな・・・・・」
容赦のない強い口調に、ディエチは黙り、プレアは心配そうに互いを見つめる。
「だから身の安全も考えてお前もつれいく・・・・・文句は言わせねぇ・・・・・・」
「うん。わかったよ」
「あと、二つ質問がある。答えろ。否定も黙秘もゆるさねぇ・・・・・」
ヴィータは射殺すように睨みつけ、殺気を放ち始めた。歴戦の戦士が放つ本物の殺気に、ディエチは体を硬直させ、プレアは一瞬震え上がる。
「先ず一つ、なぜガジェットに襲われてた?」
「それは・・・・・本当に私にもわからない・・・・・クアットロ・・・中にいる姉妹にも連絡がつかないし・・・・」
「もう一つ、いまアタシらが壊したガジェット、作ったのはテメェらか・・・・・」
「・・・うん・・・でも、あんなに作った筈は無い」
ヴィータが放つ殺気に臆しながらも、ディエチはこのガジェットについての自分が知っている限りの情報を提供した。
ヴィータも、8年前という言葉に反応した以外、ディエチの言葉に素直にに耳を傾ける。
「・・・これが、私が知るこのガジェットの情報・・・・・満足かな?」
「ああ・・・・あんがとな・・・・」
深く溜息をついた後、アイゼンを下ろし、歩き出すヴィータ。だが、3歩歩いた後で立ち止まる。
「・・・お前・・・ここに詳しいだよな?聖王の間に行く近道教えろ」
「うん・・わかったよ」
ディエチとしても、このような事態になった以上、クアットロの身が心配であった。
正直、彼らがついてきてくれるのはありがたい。情けない話だが、自分一人ではこの先を進む事は難しいだろう。
「ならさっさといくぞ。飛べねぇんなら、アタシとプレアでかつぐから・・・・・いいよな?」
「うん、わかったよ。あっ、自己紹介がまだでしたね。僕はプレア・レヴェリーと言います。よろしく御願いします」
プレアはディエチを見据え、深々と頭を下げる。
「えっ・・・あ・・・・うん。私はディエチ。こちらこそよろしく」
礼儀正しく挨拶をするプレアに、ディエチも自然とぺこぺこと頭を下げる。
あまりの必死さに、プレアは悪いと思いながらもつい噴出してしまう。
ディエチもまた、「変だったかな・・・」と思いながらも、プレアにつられて笑い始める。
「・・・・・・・・・・・あ~も~!!なにいちゃついてんだ!!!いくぞ!!!」
こちらを向き、腰に手を当て顔を真っ赤にし怒るヴィータに、二人は無意識に震えがる。
ヴィータはその姿を一瞥した後、「ふん!」と鼻を鳴らし、
「・・・・ったく・・・プレアの野朗・・・・なに・・・・いちゃついて・・・・」
誰にも聞こえない愚痴をぼそぼそと呟きながら、先へと進む。
その姿に、二人は顔を見合わせ互いに小さく笑った後、小走りでヴィータの元へと向かった。