勇敢_第23話

Last-modified: 2008-06-22 (日) 13:28:18

・スカリエッティのアジト

 

映し出されたモニターから外での現状を知ったスカリエッティ達は、即座に外で暴れているガジェットを緊急停止させるため、
外で戦っている仲間に連絡を取るため、皆がそれぞれ作業に取り掛かる。
トーレとセッテは、アジト内にいるウーノ達との連絡を取るために通信を行い、
スカリエッティは外で暴走しているガジェットを止めるために周囲に幾つものウィンドウを出現させ、
それらに囲まれながら、ピアノの鍵盤に酷似したキーボードをリズミカルを通り越した凄まじい速さで打ち続ける。
「・・・・・・これなら・・・どうかな?」
声は弾んではいるが、顔は真剣そのもののスカリエッティが、内心で数秒願いながら、エンターキーの役割を担うキーを押す。だが、

 

           『ERROR―――――――ERROR―――――――ERROR』

 

キーを押した途端、周囲に展開していたモニターが一斉に真っ赤に染まり、
『ERROR』という文字が大きく映し出された。
「このパターンでも駄目か・・・・・」
隠す事無く、舌打ちをしたスカリエッティは、隣で同じ作業を行っているフェイトの方に顔を向ける、だが、
「・・・・こちらも駄目です。申し訳ありません・・・・・」
同じく真っ赤に染まり、『ERROR』という文字が写し出されたモニターに囲まれたフェイトが、
残念そうに頭を振る。
「やはり、メインシステムを取り戻さないと駄目ですね」
「正直短時間でそれをするのは難しいだろう。だけどやってくれたよ、ここのメインシステムを
乗っ取るなんて。まあ、いきなり自爆装置が作動したりしなかっただけでも救われた気分だよ」
「そんな物がついているんですか・・・・ここには・・・・・」
「何、秘密結社のアジトにはつき物の装備だろ?こう『私だけが・・死ぬ筈がない・・・貴様らも道連れだぁ~!!ポチッと』てな具合に」
ジト目で睨むフェイトに臆する事無く、スカリエッティはにこやかに、自慢するように呟く。
『こりゃ駄目だ』と内心で思いながらも、近くで別の作業をしているトーレ達に意見を求める意味で目線を送る。すると
トーレは申し訳無さそうな表情でフェイトを見据え頭を垂れ、セッテはトーレの動作を横で見た後、真似するように頭を垂れた。
「彼女達も苦労してるんだな~」とフェイトは本気で、心から、強く、同情した。
「・・・ゴホン。ですが、ここのセキュリティは正直六課以上・・・・・いえ、管理局本局のメインシステムに匹敵します・・・それが短時間で乗っ取られるなんて・・・・・」
フェイトは現状を見ても尚、未だに信じられない様に呟く。
本局と同等、もしくはそれ以上のセキュリティがハッキングされている事も驚くべき事だが、スカリエッティの話しから
ハッキングされたのはほんの数分前、その数分間の間に潜入し、セキュリティをすべて突破するウィルスなど考えら得ない。
「そんな事って・・・・・・ありえない。ロストロギアでもない限り・・・・・」
軽く頭を左右に振り、目の前の現実を疑問に思いながらも、フェイトは再び作業に取り掛かる。

 

フェイトが作業を再開したのを確認したスカリエッティも、別のパターンを試すために指を動かす。
「(アッシュ・グレイ・・・・・・・やってくれたね・・・・・)」

 

彼との『アッシュ・グレイ』との出会いは今から数年前に遡る。
最高評議会の使いとしてやってきた彼との初対面は正直な所、最悪だった。
『悪戯』と称し、自身が所有するウィルスを使って、このアジトのメインシステムを滅茶苦茶にし、ウーノ達を『愛玩人形』と言い放った彼。
それ以来、スカリエッティは評議会の連中と同様、彼の事を好ましく思わなかった。
評議会にも、『研究の邪魔をするので来させないでいただきたい』と事前に通告したため、初対面以降、会うことは無かったのだが

 

「(あの時に何か細工を・・・・・ありえないな)」
変わらずキーボードを凄まじい速さで叩きながらも、数日前、個々に来た時になにか細工をしたのではないかと考えたが直に否定する。
彼が去った後、ウーノとクアットロと共に、このアジトのメインシステムから、個人の端末まで全てを調べたが、怪しい所は全く無かった。
それ以前に、彼が再びウィルスを撒いた時の為にと、このアジトの全てのコンピューターにはアンチウィルスソフトを既に仕込んである。
仮にウィルスが侵食し、削除に間に合わないまでも、感染した瞬間に警告が出るようになっている。
だが今回は、仕込んだアンチウィルスソフトが役目を果す前に、メインシステムが侵食されてしまった。

 

「(ウィルスが進化したのか?・・・・・こんな事なら評議会から彼の素性をもっと詳しく聞いておくべきだったな)」

 

『勘』や『予感』などは信じたくは無いが、初対面の時から『アッシュ・グレイ』は危険だと、自分の中の何かが警告をしていた。
評議会の言う事を聞いてはいたので、手綱がついている分放置していた自分を悔やみながらも、スカリエッティは作業を続行した。

 

二人がメインシステムを奪回すべく作業に追われている頃、トーレとセッテはアジト内にいるウーノ達と連絡を取るため、必至に呼びかけていた。
各自が所有する端末、同じ戦闘機人には非常特殊回線での通信など、様々な試みで連絡を取ろうとするが、結果は
「・・・・・トーレ・・・駄目です・・・・・」
セッテはいつもの無表情で結果のみを報告する。
だが、訓練などで人一倍彼女との付き合いが長いトーレには直に分かった。彼女がとても不安がっている事に。
こんな時に不謹慎だとは思いながらも、トーレは彼女の表情の変化を心から嬉しく思った。

 

起動した当時の彼女は、正に機械という言葉がふさわしかった。喜怒哀楽を表さず、命令に従い実行する正に脳が詰まっているだけの機械。
評議会が求めている『戦闘機人』なら、満足のいく結果となったのだろうが、スカリエッティやヴェイアはそれを良しとはしなかった。
それから、彼女に感情を与えるため、皆が総出となって様々な努力をした。
正直自分は普段行なう訓練以上に疲れたが、彼女が自分と同じ子猫好きだと知った時は、蓄積していた疲れが吹き飛ぶほどに驚いた。
セインやウェンディが筆頭となってレクリエーションなどを行い頑張ってはいたが、自分が思うに頑張ったのはヴェイアだと思う。
彼女の基礎教育は無論、普段の日常生活でも、彼は親身になって彼女に様々な事を教えていた。
だからだろう、セッテはヴェイアには自分達以上に様々な表情をさらけ出し、彼のことを『先生』と呼び慕うようになった。

 

「・・・・・・もう一度・・・いえ、繋がるまで何度でもやります・・・」
本来なら、直にでも彼らの元へと駆けつけたいのだが、通信が繋がらない上、ここのメインシステムが掌握されているため、
彼らの居場所を特定する事ができない。
フェイトお嬢様を信用しないわけではないが、このような事態がである以上、作業に集中しているドクターを置いて、しかも居場所が特定出来ない状態で
彼らを探しにいく事など出来ない、ミイラ取りがミイラになる可能性もあるからだ。
ならば、どうにか連絡を取り各自の無事の確認後、ここに来るか、部屋に留まり待機しているかなどの指示を出した方が良い。
自分の考えを遠慮無しにズバズバ言うセッテも、自分の提案に乗っている以上、同じ考えだったのだろう。
だが、今の彼女の表情からは『直にでも助けに行きたい』という考えが丸見えだった。
「・・・・セッテ・・・・・」
トーレは一時連絡作業を中断し、セッテの元へと近く。そして、彼女の頭に優しく掌を置いた。
「っ、トーレ!?」
「・・・・冷たい言い方かもしれないが、今は作業に集中しろ。お前だって、この方法が確実だと思ったからこそ、意見を言わずにやっているのだろ?」
セッテは俯き、ゆっくりと頷く。
「なら、集中しろ。そしてヴェイアと連絡がついたら、今抑えている感情をさらけ出せば良い。笑顔で良かったと、無事でよかったと、伝えれば良い」
「トーレ・・・・・はい!」
「・・・・・・ふっ、それでいい」
彼女の返事に満足したトーレは、多少乱暴にセッテの頭を撫でる。彼女の不安を打ち消すかの様に、妹を愛おしむ様に。
「(ヴェイアよ・・・・私は・・・・彼女達の姉らしく振舞えているだろうか・・・・・)」

 

自分が行っている行為を抵抗せずに受け入れているセッテを、トーレは微笑みながら見つめると同時に、
『もっと皆さんとコミュニケーションを取りましょう』としきりにアドバイスをしてきた少年の事をふと思い出す。
確かに自分は訓練や作戦の時位しかまともに姉妹と話をした事など無かった。『無駄話をする余裕があったら、その分体を鍛える』という自分独自の考えと、
『どう接していいのか』という迷いが、彼女の行動を自然と抑えていた。
おそらく、ヴェイアはそんな自分の考えに気づいていたのだろう。だからこそ、自分にその様な事を言ったり、お茶の時間などに自分を強引に誘ったり、
自分の趣味をわざと皆の前でばらしたりなど、妹達と接する機会を、自分に代わり、幾つも作ってくれた。
今こうして、何の迷いも恥ずかしさも無くセッテの頭を、いとおしく撫でることが出来るのも、全ては彼のおかげといっても良い。
正直、未だに自分のこの行動が『姉らしい行動』かは分からない。ただ、そうしたいと思ってやっているだけ。
だからこそ彼に聞こうと思う。チンクに聞くのはどうも恥ずかしい。だからヴェイアに聞こうと思う。

 
                                 『自分は、姉らしく振舞えたか』と
 

「はぁ・・・・これも駄目か・・・・・時間が無い以上、もうメインシステムを初期化するしか無さそうだね・・・・・
まぁ、さすがにこれ以上時間を掛けるわけにもいかないだろう・・・・・ここは景気よくすぱっと初期化してしまおう」
もう数十回目となる『ERROR』表示に、スカリエッティは心底嫌気が差したのか、メインシステムの初期化を提案する。
「初期化ですか・・・・・あの、ポットの中で眠っている子達は大丈夫なのでしょうか?」
隣で作業をしていたフェイトも其の提案には賛成しようとするが、
ポットって眠る少女達には害は無いのか、彼を信用していないわけではないが一応尋ねてみる。
「安心したまえ、彼女達にはそれぞれ独立した駆動システムが備わっている。仮にメインシステムを初期化しても、生命維持システムが止まると言う事は無いよ」
どういうわけか、彼女達をガードしていた対衝撃シャッターが今は戻されており、数時間前と同様に通路にさらけ出されている彼女達を見据えながら、
スカリエッティはフェイトを安心させる様に呟く。
「ありがとうございます。初期化の作業に取り掛かりましょう」
「いや、私一人で十分だよ。簡単な操作と・・・・・・・」
今までのようなピアノを弾く様なタッチタイピングとは違い、人差し指で数回キーボードを叩く。
「合言葉を言えばOKさ。これもいざという時のための独立システムでね。ウィルスの被害を心配する必要も無い」

 

                   『認証パスワードをどうぞ』

 

デバイスが発する電子音に酷似した音声アナウンスが響く。スカリエッティは一度大きく息を吸った後、
認証パスワードを・・・・・初恋の少女の名をつぶやこうとする。だが、彼が口をあけた瞬間

 

                一筋の光りが、スカリエッティの体を貫いた。

 

「えっ・・・・」
隣で認証パスワードを言おうとしたスカリエッティが、突然口から血を吐き出し、ゆっくりと倒れて行く様を、
フェイトはただ呆然と見ていた。正直頭が目の前の現実に追い付かなかった。
だが、彼女が呆然としている暇など無く
『サー!!高エネルギー体接近!!至急回避を!!!』
バルテッシュの叫びと共に、数にして7つのエネルギー弾が、彼女とスカリエッティ目掛けて迫ってきた。
フェイトは直にソニックフォームのスピードを駆使し、倒れているスカリエッティを担ぎその場を後にしようとするが、突然の立ち眩みが彼女を襲った。
「(な・・・・こんな時に・・・・疲労が・・・・・)」
魔法を発動しようとした瞬間、トーレ達との戦闘で蓄積した疲労が、彼女に襲い掛かる。

 

彼女自身も、リミットブレイク状態で長時間戦闘を行っていたため、ある程度の疲労は覚悟していた。
だが、その後は座りながら(スカリエッティの行為により、椅子を出してもらい)キーボードを叩く作業が続いていたため、
ある程度の疲労は取れているものだと思っていた。だが、結果は違っていた。

 

「(情けない・・・自分の体調も・・・管理できないなんて・・・・・)」
ふらついた体を、どうにか戻すために軽くたたらを踏み、無理矢理安定させるが、
彼女が体の安定を取り戻した時には、7つのエネルギー弾は防御魔法を展開する暇も無い程に迫っていた。
もし体調が万全な彼女だったら、この様なコンディションでもラウドシールドを張る事が出来ただろう。
だが、今の彼女は違う。仮に張れたとしても、満足な強度を出すことも出来ずに直に破られる。
防ぐ手立てを全て失ったフェイトに出来る事は、ただ迫り来る攻撃を睨み付ける事だけ。だが、それは『フェイトに出来る事』だけであり。
「セッテ!!」
彼女達には、フェイト達に迫り来る攻撃を防ぐことが出来た。
凛としたトーレの叫びと共に、セッテがフェイトを守る壁となるため、彼女の前に立ち防御フィールドを展開。フェイトに代わり攻撃を防ぐ。だが、
彼女が張ったフィールドに当たったのは7つのエネルギー砲の内の僅か1つ。残りは
「一つだけ・・・・・っ、ドクター!!トーレ!!」
倒れているスカリエッティの防御に回ったトーレに降りかかった。
当然、トーレも防御フィールドを張り攻撃には備えてはいたが、何分急な対応だったために満足にフィールドが形勢出来なかった事と、
半分はあちら側に行くと思っていた攻撃が殆ど自分達の方に降りかかって来たため、
「ぐっ・・・・・・あああああ!!」
3発は防いだものの、それ以降の攻撃全てがスカリエッティに覆いかぶさったトーレに振りかかった。
彼女の背中に1発、両足の脹脛に一発づつ降り注ぎ、ナンバーズ特有のボディースーツを引き裂き、皮を焼き、肉を引き裂く。

 

「ト・・・・・トーレ!!(来るな!!」
爆煙が晴れた後にセッテとフェイトが見たトーレの姿は、目を覆いたくなるほど酷い物だった。
トーレが体を張って庇ったためスカリエッティは最初の攻撃による傷のみで済んだが、トーレに関してはジャケットの彼方此方が裂けており、
背中は焼き祟れ、両足に関しては筋肉組織と機械部分が露出するほどの大きなダメージを受けていた。
その姿を見た瞬間、セッテは迷わずにトーレの下へと向かおうとするが、彼女の怒りを含んだ声に足を止めてしまう。
「周囲警戒を怠るな!!次の攻撃に備えると同時に状況を確認!!訓練を忘れたか!!」
普段と変わらずに指示を出すトーレに、セッテは一瞬迷いながらもブーメランブレイズを形勢する。
「そうだ・・・・それでいい・・・・・私なら大丈夫だ・・・・・後は・・・・頼むぞ・・・・」
トーレを見据え、しっかりと頷いたセッテは、砲撃が来た方向に体を向け、砲撃が発射されたと思われる前方にカメライアを向ける。
「フェイトお嬢様もお願いします。こちらは大丈夫ですから」
自分の事を『大丈夫』とは行ってはいるが、フェイトから見ればとても『大丈夫』とは言える状態ではなかった。
だからこそ、せめて生身の部分には効く筈であろう回復魔法を掛けようと近づこうとするが、近づこうとする彼女を、トーレはゆっくりと右腕を上げ征する。
「私はごらんの通り動けません。ですが痛覚が生きてる上、急所には当たっていませんから、動けない以外では問題ありません。
ドクターも急所は外れています。応急手当でしたら今の私にも出来ますから、フェイトお嬢様は・・・・セッテを」
「・・・・・わかりました。そちらはお願いします、バルディッシュ!!」『Riot Zamber Stinger』
フェイトはトーレを安心させるかの様にしっかりと頷いた後、ライオットザンバーを出現させ、セッテ同様襲撃者に備える。すると
彼女達が準備を終えるのを待っていたかのように、足音がゆっくりと近づいてくる。
「・・・・・バルディッシュ・・・・」『申し訳ありません、ジャミングの一種が散布されているらしく、姿を確認する事ができません』
バルティッシュのせいではないとは解ってはいるものの、
自然と顔を顰めたフェイトは隣に立つセッテに視線を送る。
「・・・・申し訳ありません。こちらも無理です。目視で確認するしか」
依然前方を見ながらも、冷静に答えたセッテは、何時でも自らの武装を投げられるように腰を落とす。
足音は大きくなり、そのたびに足音を出す人物の姿がゆっくりと現われる。そして
「・・・・・目標の排除に失敗。再続行を行う」
トーレに重症を負わせた砲撃を放った人物、『テン・ソキウス』はフェイト達の前にその姿を現した。
距離にして15メートルの感覚をあけた後立ち止まり、再び彼女たちに向かって質量兵器である『超高インパルス長射程狙撃ライフル』を向ける。
「(フェイトお嬢様・・・・・私が牽制をします・・・・ですから、その隙に懐に・・・・・)」
「(わかりました・・・・・・・お願いします)」
小声で互いにやるべき事を確認した二人は、テン・ソキウスが攻撃を開始するよりも早く、行動を開始。
「はぁ!!」
牽制目的のため、先ずはセッテがテン・ソキウスに向かってブーメランブレードを投げようとした、その時
突然、テン・ソキウスの隣に転送魔法陣が出現。セッテは警戒の意味も込め攻撃を取りやめる。
すると、その魔法陣からは、『テン・ソキウス』に瓜二つな人物『フィフティーン・ソキウス』が『ある者』を掴んで現われた。
「・・・・・・こちらの任務は完了」
そう言い、任務完了を表すために、ある者の髪を掴んでテン・ソキウスの前に差し出す。
それは人だった。気絶しているのか、体からは力が抜けているため、フィフティーン・ソキウスがその人の髪の毛を掴み持ち上げ、テン・ソキウスに見せ付けていた。
体中の彼方此方が血で染まり、切れた皮膚からは未だに血がとめどなく流れている。
右腕と左足に関しては、折れているのだろう、本来なら曲がる筈のない方向へと曲がっていた。
「(・・・・・酷い・・・・・)」
髪に隠れているため、顔を伺う事は出来ないが、フェイトは自然と顔を顰める。
「・・・・・了解、任務継続確認」
そんなこちらの態度を無視し最小限の言葉で会話をする二人のソキウスに、フェイトは攻撃のチャンスとばかりに踏み込もうとするが、

 

                           ガリ

 

彼女の近くで、何か固いものが強くこすれる音が聞こえる。フェイトは自然とその音がした方向
「・・・・セッテ?」
セッテの方を向いた瞬間、
「き・・・・・さ・・・・・ま・・・・・・・らぁ!!!!!」
彼女は叫びながら、二人のソキウスへと、突撃した。

 

「ヴェ・・・・・・イ・・・・・・ア・・・・・」
トーレは直に分かった。フィフティーン・ソキウスが掴んでいる者の正体が。だからこそ、叫んだ
「セッテ!!!よせ!!!!」と

 

「あ・・・あああ・・・・・・」
セッテはフィフティーン・ソキウスが掴んでいる者の正体が直にわかった。

 

           「ほらセッテ、笑って笑って!」

 

嘘であって欲しかった。アイセンサーの故障であって欲しかった。

 

        「セッテはね、もっとみんなに迷惑をかけて良いと思うんだ」

 

だが、センサーは正常、見間違えることなど・・・出来る筈がなかった。

 

「ヴェイア・・・・・・・ヴェイア・・・・・・あ・・・あああああ・・・・・・」
自分の中に渦巻く『怒り』という感情を素直に受け入れる。
砕けるのではないかというほどの力で奥歯をかみ締める。上下の歯が強く圧迫され、軋んだ音がフェイトにまで聞こえる。
トーレが自分の名を呼んでいるが、今はどうでも良かった。
「き・・・・・さ・・・・・ま・・・・・・・らぁ!!!!!」
『怒り』という感情を爆発させたセッテは、ヴェイアを掴んでいるフィフティーン・ソキウスへと真っ直ぐに突撃する。
「・・・・・なんの防御策も確認出来ず・・・・・・攻撃再開」
馬鹿正直に迫り来るセッテに、テン・ソキウスは先程の狙撃とは違い、砲撃を行うためにランチャーを構える。だが、
「IS・スローターアームズ!!」
テン・ソキウスがランチャーのチャージをするより早く、セッテはISを発動、左上に持っているブーメランブレイズを投げ放った。
迫り来る凶器を目にしても、冷静に目標を迫り来るブーメランブレイズに変更、チャージ時間を短縮し多少威力を落とした状態で発射する。だが、
セッテのISにより、ブーメランブレイズは意思を持ったかのようにテン・ソキウスが放った攻撃を回避、彼の唯一の武器であろうランチャーを
叩き伏せる。
「お前は・・・後回しだ!!!」
テン・ソキウスの横を通り過ぎる瞬間に、彼のわき腹に手加減無しの蹴りを放ち、壁に叩きつける。
「其の手を・・・・・離せ!!」
そのままテン・ソキウスの横を素通りしたセッテは、右手のブーメランブレイズをフィフティーン・ソキウス目掛けて投げはなった。
目標はフィフティーン・ソキウスの首。生かすことを考えてない、相手を殺すための行為。
だが、罪悪感は恐ろしいほど感じることは無かった。戦闘機人特有の性能からか、ただ怒りで頭が回らないのか・・・・今はどうでも良い。
「報いを受けろ、偽者が!!!」
おそらく、この距離では避ける事は出来ない筈。仮に避けたり迎撃を行ったとしても、自分のISを駆使すればどうとでもなる。
防御に関しても、このブーメランブレイズは高質量、盾などの物理的な防御にも強いしバリアブレイク機能もある、魔法関係の防御なら破壊する事が可能。
何時もの冷静さを装っている彼女でも、この攻撃を防ぐ事は出来ないと確信していた。
「・・・・・特殊防御・・・・・使用・・・・」
だが、フィフティーン・ソキウスは無表情に迫りくるブーメランブレイズを見据えた後、
ゆっくりと盾を構えた。『グゥド・ヴェイア』という盾を。
「なっ!?」
自らを守る盾の様にヴェイアを目の前に掲げてきたフィフティーン・ソキウスに、セッテはブーメランブレイズの機動を変更、
急な変更のため、コントロールが効かずに大きく右にずれ壁に突き刺さる。そして
「・・・・・『これ』諸共、自分を切り裂くことも出来た筈・・・・・あのプロジェクトFATEの少年同様、理解できない」
掴み上げているヴェイアを物を見るように見つめながら呟いたソキウスは、右肩に固定装備された質量兵器であるレールガン『シヴァ』をセッテに向け発射した。
発射されたレールガンの弾は真っ直ぐにセッテの額に直撃、ヘッドギアの破片を撒き散らしながら吹き飛び床に叩きつけられる。
「っ!!!」
床を転がり壁に叩き付けれた後、2~3度痙攣し、彼女は動かなくなった。
「セッテ!」
急ぎ安否を確認するために動かなくなったセッテの元へと駆け寄るフェイト。
その光景を一瞥した後、フィフティーン・ソキウスは壁に手をつき、ゆっくりと起き上がるテン・ソキウスの方に体を向ける。
「・・・・・僕は『親』を届けるために先にアッシュ様の所へ帰る。この後の始末は任せる」
「了解・・・・指示通りに」
短く会話をした後、フィフティーン・ソキウスは足元に転送魔法陣を展開、この場から撤退をした。
彼らが会話をしている内に、フェイトはセッテのバイタルを確認し、症状を確認する。
「・・・・よかった・・・脳震盪を起こして気絶しているだけ・・・・・」
余程彼女の装備していたヘッドギアが固かったのか、被害はヘッドギアだけで、彼女の命には別状が無かった事に安堵する。
だが、衝撃で脳を強く揺らされたためか脳震盪を起し気絶しているため、フェイトは彼女を再び床に寝かせた後、ゆっくりと立ち上がり、
「障害及び、殺人未遂で、貴方を・・・逮捕します!!」
残ったテン・ソキウスの方に顔を向け、ライオットザンバーを構えた。

 

「攻撃対象確認・・・・フェイト・テスタロッサ・ハラオウン・・・・・・」
テン・ソキウスは攻撃を行なう対象の名を呟きながら超高インパルス長射程狙撃ライフルを構える。だが、彼にはこの攻撃が間に合わない事は既にわかっていた。
彼女のスピードは正に電光石火、主であるアッシュ・グレイすら凌駕する。自分が引き金を引く頃には、目標は高確率で自分の懐に潜り込んでいる。
接近戦という手段もあるが、自分の武装では接近戦は殆ど出来ないのに対し、向こうはそれを主体としているため、仮に行っても即敗北に繋がる。
「・・・・状況確認・・・・・迎撃プランQを実行・・・・」
だからこそ、テン・ソキウスは実行に移した。主であるアッシュ・グレイが提案してくれた『迎撃プランQ』を
「はぁ!!」
フェイトはソニックフォームのスピードを生かし、一気に距離を詰める。金色の閃光となった彼女は
テン・ソキウスが砲撃を放つより早く彼の懐に飛び込み、彼にライオットの洗礼を受けさせる。
一部始終を見ていたトーレや、フェイト自身もそれを疑わなかった。

 

      だが、テン・ソキウスの行動により、彼女達の考えは一気に崩れ去る事となる。

 

「・・・・・・作戦実行・・・・・」
誰に聞こえる事も無く呟いたテン・ソキウスは、攻撃の標準を迫り来るフェイトから
「・・・・・攻撃開始・・・・・」
壁上部に備え付けられたポットの中で眠る少女達へと変え、
「・・・・発射・・・・・」
砲撃を放った。
「っ!!いけない!!!」
砲身の目標が自分からポットの少女達へと変わった瞬間、フェイトは即座に砲撃を行おうとするソキウスとポットの少女達との間に割り込んだ。
「(防御が間に合わない!!ライオットで!!)」
その直後発射された砲撃を、フェイトはライオットザンバーをクロスさせ咄嗟に防ぐ。激しい衝撃がフェイトを襲い、
ライオットザンバーの魔力刃やバルディッシュ本体に徐々にヒビが入る。

 

彼女の失敗は二つあった。一つは本来ライオットザンバーは『斬る』ことに特化した武器であり、防御に関しては全くと言って良いほど効力が無い事。
そのため、ソキウスが放った砲撃を防ぎきる事が出来ず、ライオットザンバーの黄金色の刃とバルディッシュ本体は砕け散り、
相殺し切れなかったエネルギーはダイレクトにフェイトに直撃する事となった。
もう一つの失敗は、彼女のバリアジャケットがソニックフォームという事。
ソニックフォームはスピードに関しては圧倒的な性能を誇るが、防御に関しては戦闘時にトーレが言った様に『当たればおちる』と言われる程低い。
そのため、ライオットザンバーを犠牲にし威力を軽減した砲撃も、ソニックフォーム状態のフェイトにとっては致命的なダメージを与える攻撃となり襲い掛かった。
直撃を受けたフェイトは、体中に激痛を感じながら吹き飛ばされ床に叩きつけられる。
「くっ・・・・ああ・・・・・・」
体の痛みを声で表しながら、中枢機関と柄のみになったバルディッシュを無意識に握り、痛む体にムチを撃ってどうにか立ち上がろうとする。だが
「・・・・・まだ起き上がれるか・・・・・防御に関してはデータ以上か・・・・・」
テン・ソキウスは、フェイトの行動を冷静に観察しながらゆっくりと近づく。そして

 

                        ドゴッ!!

 

彼女のわき腹の部分に容赦なく蹴りを放った。
「かは・・ぁ」
蹴りの勢いで軽く吹き飛ばされたフェイトは、壁に叩きつけられ、肺からありったけの空気を吐き出す。
「・・・・・バリアジャケットの防御機能は皆無と見て良いだろう・・・・・・」
そんな痛々しい光景にも、テン・ソキウスは何の感情も見せず、再びフェイトの所へと歩み始めた。

 

「げほっ・・・・げほっ・・・」
砲撃の直撃に加え、先程の蹴りのダメージから立つ事さえ困難となったフェイト。だが、彼女は諦めるつもりなど微塵も無かった。
外では皆が苦しい中戦っている。ライトニングの隊長であり、なのは達の友達であり、エリオ達の保護者である自分がここで諦めるわけには行かない。
「この・・・・・・位・・・・・っ!?」
改めて自分に活を入れたフェイトは、ふと今の服装を見て、顔を赤くしてしまう。
唯でさえ、露出が大きいソニックフォームが、先程の攻撃により、より一層露出が大きくなっていた。あちらこちらが破けており、
特に、右胸の部分は完璧に吹き飛び、彼女の自慢とも言える(はやて談)豊かな胸がさらけ出されてしまっていた。
「(・・・・・やだな・・・・)」
フェイトはこんな時でも、恥ずかしさを感じる事が出来る自分に何とも言えない気持ちになりながらも、自然と右腕でさらけ出された胸を隠そうとする。だが、
彼女が腕で隠そうとした胸を、近くまで来たテン・ソキウスが靴で彼女の胸を踏みつける事により隠し、そのまま床に彼女の体を縛り付ける。
容赦なく胸を圧迫されたフェイトは隠す事無く苦悶の表情を浮かべるが、
テン・ソキウスはそんな彼女の表情を無視し、
分離させたランチャーの一つ『高エネルギー収束火線ライフル』を彼女の額へと向ける。そして
「・・・・・・任務完了・・・・・・」
殺傷能力のあるエネルギー弾を、彼女の額目掛けて放とうとした。その時

 

                 『Sonic Move』

 

突如響き渡る電子音、テン・ソキウスはフェイトへの攻撃を止め、即座に電子音がした方向へと体を向ける。
すると、フェイと同じ黄金色に輝く魔法光が真っ直ぐにこちらに迫ってきた。
「この電子音に魔力反応・・・・・・・エリオ!!だ・・・・・ぐっ・・・」
電子音からストラーダであることを確証したフェイトは、ソキウスが狙っている事を大声で伝えようとする、だが、
テン・ソキウスは彼女のアバラを踏み砕く勢いで更に力を加え踏みつけ、無理矢理黙らせる。
「喋って良いと許可は出していません・・・・・対象確認・・・データからエリオ・モンディアルと確認。迎撃確立・・・・98%」
分離させたランチャーを合体させ、超高インパルス長射程狙撃ライフルのチャージを行う。
徐々に見えてくる黄金色の光り。だが、今度はテン・ソキウスの方が早かった。
「・・・排除・・・・・開始・・・・」
チャージが完了し、発射した其の瞬間
「ストラーダ!!Sonic Move緊急解除!!」
エリオは『Sonic Move』を強制解除、その結果スピードは突然落ち、Sonic Moveの効果により浮いていた体も
自然と地面に落ちる事となった。だが、それこそがエリオの目的だった。

 

本来砲撃というのは威力はあるが、誘導攻撃の様に撃ってからの方向転換という芸当は出来ない。
(その問題をある意味で解決したのが、カナードの世界で使われた兵器『ゲシュマイディッヒ・パンツァー』である)
そのため本来砲撃魔法というのは、避けれる心配が無い大型の敵や、数が多い敵、バインドなどで動きを封じられた相手に撃つなど使用方法は
限られてくる。其の他にも、チャージ時間や撃った後に出来る隙、消費魔力量などからもメインで砲撃魔法を使う魔道師は正直な所殆どいない。
(その点、なのはは上記であげたデメリットをすべて克服し、自身のメイン魔法として確立している)
そのことを、エリオはなのはとの訓練で学び、痛いほど思い知らされた。そして同時に打開策も学んだ。
先ず相手が砲撃のチャージをした瞬間、発射ギリギリまで軸戦場に留まる、もし接近戦を仕掛けるのなら馬鹿正直に真っ直ぐに突っ込む。
砲撃をする術者は、この時点でチャージをすると同時に目標に狙いをつけている。
だからこそ、相手に狙いが付けやすいように留まるか、真っ直ぐに突っ込むという行為を行う。
そして、相手が発射した瞬間、一気に方向を変える。そうする事により、発射された砲撃は発射直前まで照準していた方へと向かい、すんでで避けたターゲットにはあたる事はない。
目標を『攻撃相手』に設定する誘導弾などとは違い、
『攻撃場所』を設定する砲撃魔法だからこそ出来る芸当。
エリオはその技をいち早くマスターし、自分の物としていた。

 

ちなみに、この技をなのはとの模擬戦で行おうとしたが、結果は失敗に終る。原因は模擬戦後のエリオの言葉から予想していただきたい。

 

    「・・・・壁だ・・・・あれは砲じゃない・・・・壁が迫って・・・ああああ!!!!」

 

靴底で地面を削りながら着地し、直にしゃがみこむ。その瞬間、彼の頭上にエネルギー砲が彼の髪の毛を数本持っていきながら通過し、遠くで着弾した時の爆発音が響き渡る。その瞬間
「ストラーダ!!」『Sonic Move』
再び、黄金色の魔力光となったエリオは地面を蹴り、自分の大切な人を踏みつけている相手へと向かう。思いっきり殴るために。
「・・・・・再攻撃不可能。弾幕を張り権勢・・・・・」
冷静に打開策を呟いたテン・ソキウスは、即座に結合ランチャーを分離させ、散弾が撃てるガンランチャーをエリオに向ける。だが、
「そうはさせない!!」
彼が引き金を引きより早く、エリオはストラーダを投げ放つ。
飛行状態による無茶な投擲だが、Sonic Moveの効力と後方のブースターによる急激な魔力噴射により、一種の光りの弾丸となったストラーダは、
ソキウスが発射しようとするより早く、ガンランチャーの銃口へと突き刺さり彼の武装を破壊、
使用不能にする。
それでも尚、ソキウスは慌てずに打開策を考える。頭の中に蓄積されている数百の戦闘パターンから対応策を瞬時に考え出す。
「・・・一時格闘戦に持ち込み・・・・・距離をあけ・・・・・・そこから砲撃」
打開策を考えるまで僅か数秒。だが、その数秒間は、機動六課陣を・・・・・エリオを相手にするには十分すぎるほどの隙だった。
彼が腰に装着されているサーベルの柄を握ろうとした時には、既にエリオは彼の懐へと入っており
「・・・・その足を・・・・・どけろ!!!!!」
シグナムから伝授された技を
「・・・・紫電・・・・・・」
テン・ソキウスの鳩尾目掛けて
「一閃!!!!!」
叩き付けた。
高密度に圧縮された電撃を右腕に纏わせたエリオの必殺の一撃、直撃した瞬間、肉を叩きつける激しい音と
「ぐはっ!!!!」
テン・ソキウスの絞り出された声が辺りに響く。
エリオの上着の右袖は電撃に耐えれずに吹き飛び、拳を受けたテン・ソキウスは口から胃液と空気を吐き出しながら吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「・・・・ごめんなさい・・・・・でも・・・・自業自得ですよ・・・・・」
壁の破片を撒き散らしながらゆっくりとずり落ち、
ぐったりしたまま動かなくなったテン・ソキウスを一瞥した後、
先程の険しい表情が嘘のような、歳相応の少年にふさわしい明るい笑顔でフェイトを見据える。
「・・・エ・・リ・・・オ・・・」
自分を助けてくれたエリオを、呆気に取られた表情で見つめるフェイトに。
「はい、助けに来まし・・・・た・・・・」
エリオは満面の笑みで答えるが、直に顔を伏せてしまう。
急に顔を伏せてしまったエリオに、フェイトはゆっくりと立ち上がりどうした物かと本気で考えこむ。
だが、エリオが自分の上着を脱ぎ、俯きながら差し出した事により、
彼が自分を見ずに俯いた理由がやっと理解できた。
「ふふっ、ありがとう」
彼の素直な反応に、可愛いと思いながらも感謝の言葉を述べた後、ジャケットを手に取り早速羽織る。その時、
「・・・・・任務・・・・・さいじっ・・・こう・・・・・」
少し離れた所から聞こえるかすれた声に、フェイトとエリオは咄嗟に振り向き、身構えた。

 

「・・・・こうげ・・・・・・き・・・・・かい・・・・」
ふらつきながらも、テン・ソキウスは残った高エネルギー収束火線ライフルをエリオ達に構えようとするが、
立つ事がやっとなのだろうか、直に膝をついてしまう。
「・・・・・フェイトさんはここにいてください。僕が行きます」
顔を引き締めながら、自分が行く事を申し出たエリオは、ストラーダを構えゆっくりと近づく。
「殺人未遂及び傷害容疑で貴方を逮捕します・・・・・抵抗をやめてください」
歩きながらも、相手を拘束するため、いつでもバインドを施せるように準備をしながらを呼びかけるが、テン・ソキウスは彼の警告を無視し再び立ち上がろうとする。
「・・・・・投降を聞き入れないと判断しました。貴方を昏倒させます・・・・ストラーダ」
抗う意思がある以上、ただ拘束をしても意味が無いと判断したエリオはバインドでの拘束をやめ、攻撃による昏倒を選択。
正直弱っている相手を攻撃するのは気が引けるが、そうも言っていられない。自身を納得させたエリオはストラーダのカートリッジをロードそして

 

                  パン!!

 

攻撃をしようとした瞬間、テン・ソキウスの首が突然爆せた。
近くにいたエリオに鮮血を撒き散らしながら、ゆっくりと倒れこむ。
「えっ・・な・・・なんで・・・・」
逮捕しようとした人物の首が突然爆せ、自分に鮮血を振り撒きながらゆっくりと倒れこむ姿に、エリオは隠す事無く顔を引きつらせ、自然と数歩後ろへと下がる。
自らが作った血だまりに倒れこみ、ピクリとも動かなくなったテン・ソキウスに、エリオはいまだに残る恐怖と戦いながらもゆっくりと近づく。
胃からこみ上げて来るものを必至に押さえ、目を見開いたまま血だまりに沈むテン・ソキウスを見据える・・・・・・生きてるとは思えなかった。
「ストラーダ・・・・・彼は・・・」『生命反応・・・完全に消えました』
確認のため、ストラーダに生命反応を尋ねてみるが、結果は予測した通りだった。
「何で・・・・何が・・・・・起こったの・・・・」『彼が死ぬ寸前、彼の首から高熱が感知されました。おそらくは爆弾の一種かと』
「爆弾って・・・・なんで・・・・・だれが・・・・・」
混乱する頭で、自問を繰り返すエリオ。その時
『マスター!転移魔法確認!!警戒を!!』
混乱するエリオに活を入れる意味も込め、ストラーダは叫ぶように警告をする。
その声に、エリオはビックリしたように体を一度震わせた後、
頬を3度ほど叩き顔を引き締め、ストラーダを構える。其の時
テン・ソキウスの亡骸の横に転移魔法陣が出現、
そこから先程転移したフィフティーン・ソキウスが現われた。
「・・・・エリオ・モンディアルか・・・・・・あの襲撃ではナンバーズの邪魔が
入って始末が出来なかった・・・・・・・」
彼の呟きが、エリオにあの時の、燃え盛る機動六課での戦闘を・・・・・・・・光景を思い出させる。
「・・・あの時の・・・・フリードを・・・・・キャロを撃った・・・・・」
エリオは自然と射殺さんばかりに睨みつけるが、フィフティーン・ソキウスはその目線を難なく受け止めた後、足元で死んでいるテン・ソキウスを見つめる。
その瞳からは、悲しみや哀れみなどの感情は全く無く、ただ壊れた『物』を見つめるような冷たい目線。
「追加任務の手伝いに来たのだが・・・・・・・任務を失敗したようだな・・・・処分されて当然か・・・・・」
「貴方は・・・・・彼が・・・・仲間が・・・死んだというのに・・・・・どうしてそんなに冷静なんですか!!!!悲しくないんですか!!!!」
エリオは叫ばずにはいられなかった。仲間が・・・・・もしかしたら兄弟かもしれない人物が死んでいるのにも拘らず、
何の感情も見せずに、ただ見ているだけの彼に。
「・・・・私達はアッシュ様の理想を叶えるための存在・・・・アッシュ様の人形・・・それ以上でもそれ以下でもない。
そもそも、僕達にはそんな余分な感情は備わっていない・・・・・邪魔になるだけ・・・・・」
「自分の事を・・・人形って・・・・・余分な感情って・・・・・何を・・・・いっているんですか・・・・貴方は・・・」
「君と同じさ・・・エリオ・モンディアル・・・・・命令を喜んで受ける人形・・・・主人に尻尾を振る犬・・・・フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの人形
であり、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの愛玩犬である君と・・・・・変わらない」
フィフティーン・ソキウスは突然ゆっくりと右腕を上げる。
ストラーダを構え警戒するエリオを無視し、肩までの高さまで右腕を上げた直後、何かを握りつぶすように手を握る。すると、
突如フェイトの足元から赤い糸のような物が幾つも伸び、彼女の体に絡みついた。
「これは・・・・ここのトラップを!!!」
一部始終を見ていたトーレにはこの赤い糸の正体は直にわかった。当然である。自分たちのアジトに備え付けられているトラップなのだから。
「・・・ここのトラップを使用させてもらいました・・・・・感謝します」
感謝の言葉を棒読みで述べた後、フィフティーン・ソキウスは縛られたフェイトの姿を
確認するように見つめる。
「ぐっ・・・・」
ギリギリと体を締め付ける赤い糸にフェイトは苦悶の表情を浮かべる。その姿を無表情で見つめた後、再びエリオの方に顔を向けた。
無表情でこちらを再び見つめるフィフティーン・ソキウスを、エリオは殺気を含んだ視線で睨みつける。

 

正直、エリオは今すぐにでも拘束されているフェイトを助けたかった。
だが、目の前の相手がそれを大人しくさせてくれる筈が無い。下手に助けにいったら・・・相手に隙を見せたら・・・・その場で殺られる。
なら方法は一つ、目の前の相手を倒し、それからフェイトの縛めを解く。それしかない。

 

「・・・・・第一任務である、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの捕獲は完了・・・・・次は・・・・貴方です」
話は終わりといわんばかりに、エリオ目掛けてライフルとレールガンを発射、その攻撃を横に飛び避けたエリオは、着地した瞬間に地面を蹴り飛び上がる、
「ワケの解らない事をいわないでください!!!ストラーダ!!」『Unwetterform』
天上ギリギリまで飛び上がったエリオは、ストラーダをウンヴェッターフォルムに変形させる。
スピーアフォルムの噴射口と石突から金色の突起物が出現したこのモードは、エリオの特異体質である『電気変換資質』を最大限に強化する。
空中で振り被ると同時に、ストラーダの尖端部に電流を発生させる。そして
「サンダァァァァァァァァ!!!!!!!」
そのままフィフティーン・ソキウスの頭上目掛けて降下、
フィフティーン・ソキウスもレールガンで迎撃を行うが、
「レイジ!!!」
迫り来る攻撃を、エリオは振り下ろされたウンヴェッターフォルムの
ストラーダで叩き付け無理矢理かき消す。
そしてそのままの勢いでフィフティーン・ソキウス目掛けて振り下ろした。
「・・・迎撃失敗・・・・防御・・・」
迎撃が失敗したことを冷静に確認したフィフティーン・ソキウスは、左手装備されている実体盾をすぐさま頭上に掲げる。
それを確認しても尚、エリオはストラーダを振り下ろす事を止めずに、そのまま盾ごと対象を叩き伏せる勢いで振り下ろした。
ストラーダが実体盾に当たった瞬間、激しい金属音が響き、盾で防御をしていたフィフティーン・ソキウスの体が、周囲の床を陥没させながら床に軽くめり込む。
それでも彼が持つ実体盾は、砕ける所がキズ一つ付かずにエリオのストラーダを完全に防ぐ。
「(なんて硬いんだ・・・・・・だけど!!)」
盾で防がれる事は読んでいた。そして、盾を破壊できないことも読んでいた。
目的は盾の破壊ではない。盾の所有者に強力な電撃を流し込む事。正直今の状態の自分に正確な威力調整は出来ない、それはストラーダにやってもらう、だがら
「ああああああああああああ!!!!!」
自分はただ、我武者羅に・・・・相手を感電死させる勢いで電流を流し込んだ。
エリオが自身の魔力で作った電流は、ストラーダを通し、フィフティーン・ソキウスへと容赦なく流れ込む。
相手もバリアジャケットや甲冑を着ている以上、多少の耐電機能は備わっているを計算したストラーダは、
エリオがら流れてくる電流を『バリアジャケットを来た一般局員が感電死するギリギリ』の
レベルに抑え流しこむ。
黄金色の光りがフィフティーン・ソキウスを包み込み、電流が隅々まで行き渡っている事を証明させる。だが
「(・・・・・そんな・・・・・なんで・・・・)」
確かに自分が放出した電気は、目の前の相手に流れている筈。だが、彼が見たのは電流を流し込まれ、苦悶の表情を浮かべるフィフティーン・ソキウスではなく
黄金色の光りに包まれんがらも、表情を一切変えないフィフティーン・ソキウスの姿だった。
「ストラーダ!」『・・・・・間違いなく通っています・・・・耐電装備を施していると計算しても、涼しい顔など出来る筈は』
ストラーダの報告が終るより早く、フィフティーン・ソキウスは盾を横に払い、ストラーダごとエリオを吹き飛ばした。
「(・・・効いてない・・・・・なら!!)」
吹き飛ばされながらも、エリオは空中で体を回転させ無理矢理バランスを取り、叩きつけられそうになった壁に両足を突き膝を曲げる、そして
「直接攻撃!!!」
壁を蹴り、フィフティーン・ソキウスへと再び突撃をする。今度は槍であるストラーダの特性をシンプルに生かした突き。
真っ直ぐに突撃しながらも、エリオはフェイト直伝のフォトンランサーを威力は度外視し速さを優先した状態で3つ形成、
フィフティーン・ソキウスの顔面目掛けて放った。
その攻撃をフィフティーン・ソキウスは先程同様、実体盾で防ぐ。だが、このフォトンランサーは彼に盾を遣わさせるための攻撃。
本命はストラーダの突きによる右腕肘関節への直接攻撃。いくら全身を甲冑で守っていても、駆動する間接部分の防御は甘い筈。だが、
「っ!?弾かれた!!?」
エリオの渾身の突きは、フィフティーン・ソキウスの肘関節に接触する瞬間、見えない壁のような物に阻まれ弾かれてしまった。
「フィールド!?」『その様です、部分的に何重にも展開されている模様です』
弾かれた瞬間、エリオは迎撃を諦めバックステップで距離を取る。だが、
「・・・近距離戦闘・・・開始」
フィフティーン・ソキウスは、右手に持っていたライフルを腰に仕舞、
防御手段であるシールドを投げ捨てる。
そして両腰に備えつ得られたサーベルの柄を両手で握った瞬間地面を蹴り、エリオへと突進した。
エリオとの距離を一瞬で縮めたフィフティーン・ソキウスは、サーベルの柄を両腰から取り、そこから魔力刃を発生させる。そして
「・・・・任務開始・・・」
驚くエリオの表情を見つめながら、彼の頭上目掛けて一気にサーベルを振り下ろした。
避けられないと直に判断したエリオは、両足に力を入れ踏ん張り、ストラーダの柄で斬撃を防ぐ。鍔競り合いとなり、互いにに力比べに持ち込むが、
「パワーではこちらが有利、攻撃続行・・・・」
フィフティーン・ソキウスはストラーダを叩き斬る勢いでサーベルを振り下ろす手に力を込める。
ソキウスが力を込めるたびに、エリオの膝が少しづつ曲がり、彼の顔に脂汗がにじみ出る。だが、彼も黙っている筈が無く。
「ストラーダ!もう一度行くよ!!!」『All right buddy!!』
エリオはもう一度体内に蓄積されている魔力を電気に変換、再びソキウスに流し込んだ。
ストラーダも先程の教訓から、抑えるレベルを更に低くし、ほぼダイレクトにソキウスに流し込む。だが、
「な・・んで・・・・」
自然と疑問を呟くエリオが見たのは、以前表情を変えないフィフティーン・ソキウスの顔だった。
「・・・・僕達『ソキウス』は普通の人間とは違う・・・・・遺伝子を操作され作られた、普通の人間以上の身体能力を持つコーディーネーター、
そのコーディーネーターの中でも、戦闘用に遺伝子を調整し更に身体能力をアップさせ、無駄な感情や痛覚を取り除いた『戦闘用コーディネーター』それが僕達。
主人の命令に忠実で、主人の為に命を投げ出す・・・・君とさほど変わらない・・・」
フィフティーン・ソキウスの言葉に、エリオは心の中に封印していたあの時の記憶を無意識に思い出す。

 

                    自分を庇ってくれなかった両親

 

                  自分が作り物と楽しそうに話した研究員

 

             夜空所か朝か夜かも分からず、ただ痛く、苦しいだけの実験

 

感傷に浸っているエリオに、フィフティーン・ソキウスは右肩に装備されているレールガンを動かし、エリオの右太股に照準を合わせる。そして
「エリオ・モンディアル・・・・・・・君をいたぶり殺し、
フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの心を壊します」
レールガンが放たれ、エリオの右太股に直撃する。
バリアジャケットで出来た半ズボンを、皮膚を、筋肉を引き裂き、骨を砕き、再び筋肉と皮膚と半ズボンを引き裂いた後床に着弾する。
「あぐぁ・・・・あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
痛みを抑えきれないエリオは叫び、自然と膝を着こうとするが、それより早くフィフティーン・ソキウスの前蹴りがエリオの鳩尾に直撃、
彼を数メートル先まで吹き飛ばした。エリオは自分の腿から出る鮮血を撒き散らしながら吹き飛び、床に叩きつけられる。
「あぐあぁぁああああ!!!」
今まで経験した事の無い痛みに襲われた彼は、再びストラーダを構え立つ様なことはせずに、
ただ苦悶の表情を浮かべ、痛みをごまかす様に断末魔をあげながら貫通した太股を両腕で押さえ、床をのた打ち回る。

 

「外道が!!!」
一部始終を見ていたトーレは、フィフティーン・ソキウスに向かって悪態をつく。
彼女は情けなかった、自分より実力も経験も浅い少年が頑張って戦っているのに、痛みにのた打ち回っているのに、何も出来ない自分に。

 

「・・・・・・・この調子で痛がって下さい・・・・・・任務がスムーズに進みます」
間髪いれずに、フィフティーン・ソキウスは腰に仕舞ったライフルを再び取り出し、ギリギリ非殺傷設定にして連射、当たるたびにエリオの悲痛がアジトに木霊する。
「・・・もう・・・・もうやめて!!!私が目的なら大人しくついていく!!何でも言う事を聞く!!だから、もう・・・・エリオには・・・・」
愛用のデバイスが大破、自分自身も縛られて身動きが出来ないため、ただ黙ってエリオがリンチされる光景を見る事しかできないフェイトは
自身の情けなさを悔やむように涙を流し、フィフティーン・ソキウスについていく事を申し出た。
「私はどうなっても良い。だから、もうこれ以上エリオを傷つけないで・・・・御願い・・・・・します・・・・」
余程もがいたのだろう。縛られている箇所からは血が出ており、彼女の足元に滴り落ちる。
フェイトの叫びを聞いたフィフティーン・ソキウスは、一度ライフルによる射撃を中止、フェイトの方に顔を向ける。そして
「だめです。貴方の心は壊れていない・・・・・今の貴方を連れてきてもアッシュ様の命令を完遂した事にはならない・・・・」
淡々と否定の言葉を呟いたフィフティーン・ソキウスは、ふと何かを考える様に一瞬黙り込む。
そして、『このような状況に陥った場合に話すようにとアッシュに言われた言葉』を、淡々と放し始めた。
「そもそも・・・・なぜ、エリオ・モンディアルはこうも苦しむ必要があるのでしょうか?答えは簡単です。ご主人様である貴方を助けるため」
「『ご主人様』って・・・・何を・・・・」
「エリオ・モンディアルやキャロ・ル・ルシエは貴方が自分の駒として使いたいから引き取ったのでは?」
「違う!!そんな事は」
「違くはないでしょう?現に二人は引き取られた後も貴方の駒として生きる事を選んだ。迷いもせずにそれを貴方は受け入れた。都合の良い道具として彼らを使うために。
彼らも逆らう事はしないでしょう。子供とは単純です。恩人であり、劣悪な環境から助けてくれた貴方に恩を返そうと考えていた筈」
フェイトは否定を示すようにソキウスを睨みつけるが、ソキウスはその目線を正面から受け止める。そして、追い討ちを掛けるように言葉を続ける。
「なら、なぜ貴方はこの二人を機動六課に誘ったのですか?いえ、それ以前に、なぜ彼らを局員などにしたのですか?
彼らにも一般人として、戦闘に参加しない自然保護官として、ただの学生として生きる道は沢山あった、それを妨害したのは貴方だ。貴方という存在だ。
エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエは窮地から救ってくれた貴方に恩返しをしたいため、貴方の助けになりたいためにこの道を選んだ。
ほら、結果的には貴方がこの道に誘い込んだような物でしょう?貴方が強い口調で入隊を拒否すれば
良かった。今後、会わずに信頼できる人『リンディ・ハラオウン』に預ければよかった。この世界に入れないための選択肢は沢山あっただが、貴方はそれを行わなかった・・」

 

           そうだ・・・・なんで私は・・・あの子達をこの道に入れたのだろう

 

           彼の言う通り、もっと強く入隊をやめるように言えばよかった

 

         母さんの所に預けて、カレルとリエラと一緒に普通の生活をさせる事も出来た

 

「違う・・・私は・・・・・あの子達の意思を・・・・・尊重させたくて・・・・・」
「『彼らの意思を尊重したい』自分の考えを悟らせないための良い逃げ文句です。一見、彼らは自分の意思でこの世界に入ったように見える。
だが、本当は違う。貴方に従うためにこの世界に入った。自分達でも気が付かないうちに貴方が仕組んだ」

 

        エリオは自分の仕事に興味を持ちはじめ、訓練校を見学したいと言い出した。

 

           キャロは進んで管理局の自然保護官のアシスタントになった。

 

                 そんな彼らは口を揃えてこう言っていた

 

               「僕も(私も)フェイトさんの様になりたい」

 

「・・・・あとは簡単です。甘い言葉で二人を誘い、自分の思うように作り変える・・・・・その成果が今の彼です。
彼は貴方を連れ去ろうとする僕と戦い酷い重傷を負った・・・我ながら見事な仕込みです。その点はアッシュ様も高く評価しています」
「違う・・・違う・・・・・」
「『違う?』自覚が無い?なら貴方はプレシア・テスタロッサ以上の外道ですね。彼女は子供の頃の貴方を便利な道具として扱った。貴方がこの子達を扱うように。
だが、彼女は自分の行いを自覚していた、貴方を道具としていた事をはっきりと認めた。それに比べて貴方はそれを認めない。違うと言い張る。救いが無いですね」
フェイトはもう言葉を発しなかった・・・・ただ、黙った俯く。
「結局貴方も彼らを、周りの人間を道具としてしか思っていない・・・・・それを自分で自覚すら出来ない・・・・哀れな欠陥品・・・・・(・・まれ」
耳を澄まさなければ聞こえないほどの小さな声、だが、強い意志が感じらえる声。そして

 

                   「黙れぇ!!!!!」

 

エリオの叫びが、木霊した。

 

・数週間前

 

:訓練場

 

「フェイトさんが・・・・弱い?」

 

カナードとの個別練習の後、火照った体を冷ますため、二人は芝生に座りながらスポーツドリンクを飲んでいた。
火照った体に掛かる風の気持ちよさに酔いしれながら、二人は訓練の結果や、何気ない話しで盛り上がる。
「ですけど・・・・・僕はまだまだです。早くフェイトさんの様に強くならないと・・・・・」
少しでも早く、自分が目指す憧れの人と肩を並べたいと、青空を見上げながら改めて誓うエリオ。だが、
「テスタロッサの事か?・・・・・・あいつは弱い」
カナードの放った言葉に、エリオは一瞬呆気に取られた後、素直に怒りを表す。
「フェイトさんは弱くありません!!!」
ムキになりカナードに食って掛かるが、カナードはスポーツドリンクに口を付けた後、
エリオを見据え再び言い放つ。
「いや、テスタロッサは弱い・・・・・誰よりもな・・・・」
カナードの目からして、冗談で言っているのではない事はすぐにわかった。だからこそ理由が聞きたかった。
なぜそんな事を言うのか。なぜ『フェイトさんが弱いのか』と。
自分達の部隊長であるフェイトさんが弱い筈がない、それは自信を持って言える。
確かに機動六課にはなのはさん達もいるが、決してフェイトさんが弱い事なんて無い筈。
エリオの納得しない表情から、彼が理由を求めている事に気が付いたカナードは、
エリオを見据え理由を話し出す。
「確かに、テスタロッサは戦闘に関してなら強い。これは誰もが認める事だ。だが、あいつは精神的にはとても弱い・・・・いや、脆いか」
「・・・どういう・・・意味ですか・・・・・」
「それは自分で考えろ・・・・・だが、一つアドバイスだ。おそらく、テスタロッサはいつかその心の弱さ、脆さを漬け込まれる。
もしそうなったら、あいつは真っ先に戦闘不能に陥るだろう・・・・・だからだ、そんな時はお前や、ルシエが助けてやれ」
カナードは空き缶を持ち立ち上がる。そして今度は見下ろす形となって、エリオを見据えた。

 

                 
    「エリオ・モンディアル。テスタロッサを守ってやれ。騎士として・・・一人の男として」

 

腹の底から叫んだエリオは、ストラーダを杖変わりしゆっくりと立ち上がり、
フィフティーン・ソキウスを睨みつける。
「・・・・おかしい・・・出血の量からして・・・・立てる筈は・・・」
確認するために、フィフティーン・ソキウスはエリオの右腿を見据える。
確かに出血は収まっていた。だが、出血していた場所は、何かで焼かれたかの様に酷く祟れていた。
「・・・・自身の電気で右腿の傷を焼いて止血するとは・・・まだ・・・・うごけま(黙れと言った!!!」
出血が止まったとは言え、未だに残る激痛に絶えながら、エリオはふらつく足でしっかりと地面を踏みしめ
喋ろうとするソキウスを一喝、黙らせる。そして、俯くフェイトの方へと顔を向ける。
そして叫んだ、力の限り、自分の思いを。
「僕は・・・僕達は・・・・この道を自分で選びました!!確かにフェイトさんの役に立ちたいという気持ちもあります。ですがフェイトさんだけじゃありません!!なのはさんやスバルさん、困っている人や助けを求めている人、みんなの役に立ちたいから、この道を選びました!!・・くっ」
痛みから意識が飛びそうになるが、唇を強くかみ締め、無理矢理意識を覚醒させる。唇から血を流しながらも、倒れそうになる体をどうにか立たせ、再び自分の思いを叫ぶ。
「フェイトさんは行き場の無かった僕やキャロに、暖かい居場所を見つけてくれました。心が空っぽだった僕達の心を暖かい優しさで埋めてくれました。
そして、フェイトさんやキャロや皆を守れる力を・・・・幸せを教えてくれました!!」
今度は目線をソキウスの方へと向け、睨みつける。
「貴方は・・・・間違っている。僕やキャロはフェイトさんの操り人形に・・・愛玩犬になった覚えなんか無い。フェイトさんは『ご主人様』なんかじゃない
僕達にとってフェイトさんは・・・憧れの人・・・家族・・・・そして・・・・超えるべき目標だ!!!」
静かに瞳を閉じた後、自分を落ち着かせるために深く深呼吸をしながら、ゆっくりとストラーダを構える。
「フェイトさんは何も間違っていません・・・・・もし不安なら・・・頼りないかもしれませんが僕がついています。ピンチの時は誰よりも早く駆けつけます。
もし、道を間違えたら、グーで殴って目を冷まさせます。ちゃんと皆の所へ連れ戻します」
エリオの叫びは、フェイトの心を侵食していた負の感情を削り落としていく。そして自然と彼女の目には涙が浮かんでいた。
「僕は・・・フェイトさんが好きです。だから守りたい・・・どんなにボロボロになっても・・・・・貴方の笑顔が守られるなら・・・・・僕は戦います。
だからフェイトさんも、迷わないでください!!自分の行動に自身と誇りを持ってください!!そして」

 

         「戦ってください!!勝ってください!!!自分の弱い心に!!!!!」

 

「ストラーダ!!!」『Speerangriff』
残りのカートリッジをロードし、ストラーダの槍の穂から魔力を噴射。黄金色に輝く一筋の矢となったエリオは、なんの迷いも小細工も無く
フィフティーン・ソキウスに突撃をする。
「・・・迎撃・・・」
フィフティーン・ソキウスも即座にライフルとレールガンで迎撃をするが、全身をありったけの魔力と雷で包み込んだエリオには効果が無く、次々にかき消されていく。
「・・・・『フォルテストラ』への魔力供給最大、衝撃に備える」
この魔力量からして、この攻撃が最後の一撃と予測したフィフティーン・ソキウスは、
正面から受けきる事にした。
魔力供給を最大にしたフォルテストラの防御力はSランクに匹敵する。このまま直撃しても、100%の確立でストラーダの方が砕ける。
その時が彼の最後、至近距離からのレールガンで彼の頭を吹き飛ばせば、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンの心も壊れるだろう。
全ては万全、この戦いは自分の勝利で終る。彼は確信していた・・・・・だが・・・・・

 

                           ザシュ

 

彼の予想とは違い、ストラーダの切っ先は、激しい金属音の後、彼の体を見事貫いた。

 

「ばか・・な・・・・・」
信じられる筈がなかった、計算からしてストラーダの槍がフォルテストラを貫く事はありえない。
だが、ストラーダの切っ先は、見事にフォルテストラを貫き、彼の体に浅いとは言え刺さっていた。
いまだに現状を信じられる事ができないフィフティーン・ソキウスは首を俯け、ストラーダの槍が刺さった胸のフォルテストラを見据える。
確かにストラーダは刺さっていた。
「フォルテストラの・・・・・装甲の隙間を・・・狙って・・・・・・」
「・・・・・カナードさんが教えてくれました。『もし、どうしても敗れない物理的な防御があったら、隙間を狙って刺し込め』と
どんなに硬い装甲でも互いを接合する隙間は脆い・・・・・貴方のこの甲冑はパージ機能があり、
何処がどのようにパージされるかは六課襲撃の時に知る事ができました。パージするという事は、甲冑同士を接合している、つまり隙間がある・・・・」
エリオは三度体内の魔力を電気に変換、ストラーダに流し込む。
「先程と違って・・・・浅いですがストラーダは貴方に刺さっている・・・・直接体内に電流を流し込まれたら貴方だって無事ではすまない筈、
痛覚を取り除いたと言いましたよね?ですが体が受けるダメージをなくした訳じゃない!!!」
「・・・・・フォルテストラ、パージ・・・・・」
フィフティーン・ソキウスは即座に装甲をパージ、ストラーダの切っ先から咄嗟に退避する。
至近距離でパージしたため、フォルテストラはエリオの体に容赦なく当たる、足に、肩に、胸に、頭に。
バリアジャケットやフィールド越しからでも無視できない痛みに、エリオは歯を食いしばって耐える。
その時にフォルテストラの破片がストラーダ叩きつけられたため、彼の愛槍は床を滑りながら転がっていき、
頭に当たった時に額を切ったのか、額から流れ出た血がエリオの左目に入り、左目の視力を奪う。だが彼は全身を痛めつけられながも左目と愛槍を失いながらも、
退避などせずにその場に留まり、詠唱を始めた。
「砲撃・・・・・・だが、今の君の魔力量では撃つ事は不可能・・・・・それに
今の僕のフォームではよけることな・・・・・・」
一時距離を開けようと後ろへ下がろうとするが、突如フィフティーン・ソキウスの体にバインドが巻きつき、動きを封じる。
「・・・・詠唱終了・・・・これは先程死んだ貴方の兄弟に掛ける筈だったバインドです。術式は既に完了していたので、直に発動する事が出来ました」
「・・・・・・だが・・・・・・君の魔力では満足な攻撃はもう出来ない・・・・・」
「そうですね・・・・・ですから、補充します!!」
エリオはボロボロになった半ズボンのポケットからストラーダのカートリッジ2つを取り出し、口の中に入れる。そして奥歯で一気に噛み砕いた。
圧縮された魔力が体中に駆け巡り、砲撃を撃つだけの魔力を手に入れる。そして
「抵抗の兆しがあるため、昏倒させ、貴方を逮捕します!!」
足元に展開される黄金色のミッド式魔法陣。そして彼の目の前に二重の黄金色の円が出現する。

 

「この技は・・・・・」
フェイトはこの技を知っていた。自分の愛用する砲撃魔法の一つ。
教えた筈はない・・・・なのはも術式までは知らない筈だから教える事は出来ない筈
「(・・・・・まさか・・・・独学で・・・・)」

 

「一閃必中!!」
エリオの右腕に黄金色の腕輪が出現、彼の掌には高圧縮した雷の固まりが出現する。
「プラズマァァァァァァァ」
彼は放つ、愛する人から盗み出し、今では自分が唯一使える砲撃魔法を
「スマッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
彼の手から放たれた黄金色の砲撃魔法、『プラズマ・スマッシャー』は
「・・・・・防御・・・・・・退避・・・・・・不可能・・・・・・」
バインドで動けないフィフティーン・ソキウスを容赦なく飲み込んだ。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・・やった・・・・」
黄金色の閃光が晴れた後、エリオが見たのは一直線に抉られた通路と、その彼方で仰向けになって倒れているフィフティーン・ソキウスの姿。
「ストラーダ・・・」『・・・・・バイタル確認、気絶しています。お見事でした』
「フェイトさんへの拘束は」『解除確認、大丈夫です』
初めて相棒に褒めら得た事と、フェイトへの拘束が解除された事に、
エリオは素直に嬉しさを関した。そして、
「そう・・・・か・・・・・よか・・・・」
全てを出し切ったエリオは、ゆっくりと体を揺らし、地面に倒れこんだ。
「エリオ!!!」
やっと拘束が解除されたフェイトは駆け足でエリオの所まで急ぎ、
彼の体を壊れ物を扱うかの様に抱きあげる。
「馬鹿・・・・・こんなにボロボロになるまで・・・無茶して・・・・・・」
彼女の流した涙が、エリオの顔にぽろぽろと落ち、彼の顔を優しく濡らす。
そして、フェイトはエリオを優しく抱きしめた。彼のぬくもりを感じるために、彼という存在をもう話さないために。
「・・・・嬉しかったよ・・・・・好きって言ってくれて・・・・ありがとうね・・・・・弱気な私を・・・・・叱ってくれて・・・・・・」

 

「(・・・・・・恥ずかしいな・・・・・)」
エリオは朦朧とする意識の中、フェイトが掛けてくれているであろう回復魔法と、
顔に当たる彼女の胸の感触に身を任せていた。
いつもなら恥ずかしいからと直に退くのだが、もう疲れて体を動かす事が出来ない。
だから身を任せることにした。
「(・・・・・・・暖かい・・・・・・・)」
回復魔法と、彼女の体温の暖かさを感じながら、エリオはゆっくりと意識を手放した。

 

                  「フェイトお嬢様!!!!!!!」

 

余程疲れたのだろう、トーレの叫びを聞いて尚、エリオは目覚める事は無かった。だが、フェイトは直に反応し後ろを向く。
其処には、エリオの渾身の一撃を受けて尚、任務を全うしようとするフィフティーン・ソキウスが、右腕に魔力刃で形勢されたサーベルを持ち突撃、
フェイト達の方へと迫ってきた。
「非常時による任務の変更・・・・・・全員の抹殺・・・・・」
フォルテストラの下に来ていたボディースーツを模したバリアジャケットは彼方此方が裂け、左腕は折れているのか力なく垂れ下がっている。
もし、常人なら痛みの為に起き上がることは出来ないだろう。だが彼らはソキウス、そんな事は関係ない。
彼らはただ行動する。任務を全うするために。

 

「(間に合わない・・・なら・・・)」
フェイトが気づいた時にはフィフティーン・ソキウスはサーベルを振り被り、正に振り下ろそうとしている瞬間だった。
正直防御は間に合わない、だからフェイトは、ソキウスに背を向け、エリオを強く抱きしめた。
「(今度は私が大切な人を守る番、私の命に代えても、エリオだけは守る!!)」
おそらく振り下ろされるサーベルの直撃を受ければ、自分は間違いなく死んでしまうだろう。
だが悔いは無い。
自分の弱さを叱ってくれたエリオを・・・・好きと言ってくれたエリオを助けれるのなら。
「(結局・・・最後まで自己満足かな・・・・・エリオ・・・怒るかな・・・・)」
エリオが助けてくれたのに、自分はその行為を最悪の形で崩そうとしている。だが、フェイトはエリオを見殺しになど出来る筈が無かった。
「(ごめんね・・・・エリオ・・・・・・ありがとうね・・・・・)」
目を強く閉じ、衝撃に備える。そして

 

                       ガキッ

 

聞こえたのは肉を裂く生々しい音ではなく、金属がぶつかる音。
一向に痛みが来ない事を疑問に感じたフェイトはゆっくりと目を開け、後ろを見る。そこには
「ふっふ~ん・・・・ナイスタイミングとは・・・正にこのこと!!!」
シャッハのデバイスであるヴィンデルシャフトの片方を持ったNO.6セインが、フェイトに振り下ろされようとした斬撃を受け止めていた。
「床から・・・・・ディープダイバーか・・・・・」
「ご名答!!まったく・・・・・ヴェイアのそっくりさん・・・・・・よくもやってくれたね・・・・・」
セインは殺気を含んだ視線でソキウスを睨みつけた後、力任せにヴィンデルシャフトを横薙ぎに払う。
フィフティーン・ソキウスは後方へと飛び上がり着地、
再び攻撃を仕掛けるためにサーベルを逆手に持ち、構える。
「あっちゃ~・・・・シャッハお姉さんにも言ったけど、私、戦闘は苦手なんだよね~・・・・」
「・・・迎撃・・・開始・・・・」
目標をセインに定めたソキウスは床を蹴り、一気に距離を詰める。
「だからさぁ~・・・・・お姉さん、御願い!!!」
セインの声を待っていたかのように、壁から一つの光りが飛び出し、真っ直ぐにフィフティーン・ソキウスに向かう。そして
「烈風一陣!!」
自身の魔力光に包まれたシャッハは、こちらを無表情に見つめるフィフティーン・ソキウスにヴィンデルシャフトを容赦なく叩きつけた。

 

「申し訳ありません・・・遅れてしまって・・・」
「頭を上げてくださいシスター・シャッハ、こちらこそ助けていただき、ありがとうございます」
フェイトの前で、シャッハは深々と頭を下げ、遅れた事への謝罪をする。

 

彼女とセインは互いに追いかけっこをしていたのだが、突如アジトのトラップが反応、
彼女達に襲いかかった。
ガジェットやトラップバインド、はては古典的な落とし穴などの罠や襲撃者をどうにか掻い潜りここへと戻ってきたのだが、
予想以上に時間がかかってしまった事に、シャッハは申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

一方、セインは途中で合流し、一時的に下の階に非難させていたウーノを連れ、
スカリエッティの元へと向かった。
「ドクターは大丈夫だ、傷は塞がっている。セッテも、ただ気絶しているだけ・・・問題ない」
「問題大有りだよ馬鹿!!トーレ姉ズタボロじゃんか・・・・こんなに!!」
冷静に報告するトーレとは違い、セインは涙を浮かべながらトーレに詰め寄る。
自分の事を心から心配してくれる妹に、トーレは微笑みながら、
しゃがんで自分に言い寄るセインの頭を撫でる。
「(妹に心配されるとは・・・・・こうも嬉しく・・そして、こうも心が締め付けられる物なんだな・・・・・)すまなかった。本当に私は大丈夫だ・・・・・だが・・・・ヴェイアは・・・・・・」
ヴェイアの名前が出た途端、セインは黙り込み、顔を俯ける。トーレは内心で『しまった』と思った。
セインはヴェイアとは姉妹の中で一番仲が良い。もしかしたら特別な感情を持っていたのかもしれない。
そんな彼が連れ去られたのだ。彼女の心境は考えなくてもわかる。
俯くセインにトーレはどう声をかけて良いのか迷ってしまう。その時
「セイン・・・ヴェイアなら大丈夫よ・・・・」
トーレとドクターとセッテ、そしてエリオを入れる為のポッドを用意していたウーノが、キーボードを動かす手を止め、セインの方へと顔を向ける。
セインは何かを言いたそうにウーノを見つめるが、彼女は笑顔でその視線を受け止める。
「トーレ、ヴェイアは大怪我をしていたけど、死んでいたわけじゃないんでしょ?」
「あっ・・・ああ・・・あの時、バイタルを確認したから間違いない」
「なら、助けるチャンスは必ずあるわ。楽観的と罵ってくれても構わない・・・だけど、悲観的に考えるよりは良いと思うの」
セインを安心させようとはしているものの、ウーノもヴェイアの事が心配だった。あの時、自分を部屋に押し込めた後の言葉
あれはどう見ても別れの言葉だった。その言葉が、否が応にもウーノにネガティブな考えをもたらす。
だが、連れ去られたといっても、彼は生きてる。もし殺す目的があったのなら、生きた彼を連れて行くことはありえない、
ここで始末をする筈。それをしなかったのは、彼そのもに目的があったからと考えて良い。
「(そう・・・・生きているのなら、助けるチャンスは必ずある筈)だからセイン、そんな顔をしないで、
貴方はウェンディと一緒で私達に明るさを与えてくれるムードメーカーなのだから」
ウーノはセインに近づくと、彼女を優しく抱きしめた。彼女を安心させるために、自分の不安を隠すために・・・・・その時

 

                「WARNING―――――WARNING―――――WARNING」

 

セインがウーノにお礼を言おうとした瞬間、突如アジトに警報が鳴り響いた。
「これは・・・・自爆警報!?」
ウーノはセインを離し、急いで元の場所に戻り端末を操作、
案の定自爆コードが起動している事を確信した彼女は直に解除に取りかかる。

 

警告が鳴り響いた瞬間、フェイトはエリオを床に優しく横たえた後、拘束されているフィフティーン・ソキウスへと顔を向けた。
「・・・・・貴方ですか・・・・・」
「・・・ここのシステムは未だ私の管轄化にあります・・・・任務遂行の為に自爆コードを作動させました・・・・」
「今すぐ止めなさい・・・・・貴方も巻き込まれる!!」
フェイトは強い口調で言い放ち、シャッハは言う事を聞かなければ実力行使に出ると言わんばかりにヴィンデルシャフトを構える。
「・・・・これで・・・解除が出来る私が死ねば、任務は全うできる・・・・・アッシュ様のお役に立てる」
フィフティーン・ソキウスは天上を向き、大きく息を吸う。そして

 

                  「アッシュ・グレイ様に・・・・・栄光を」

 

                           パンッ!!

 

肉が弾ける音と共に、フィフティーン・ソキウスの喉が爆せ、彼の生命活動を停止させた。
「・・・・・・なぜ・・・・・・こうも・・・・・・」
目を見開いた状態で死んでるフィフティーン・ソキウスに、フェイトは歯を食いしばり、顔を顰める。
勿論、彼に自爆を解除させられなかった事への悔しさもある。だがそれ以上に簡単に自分の命を投げ出す彼への怒りが、彼女の中に渦巻いていた。
フェイトが拳を握り締め俯いている隣で、シャッハは一度目を閉じた後、ヴィンデルシャフトを仕舞ソキウスの死体へと近づく。
「・・・・・・貴方も・・・・・平穏な暮らしが出来た筈なのに・・・・・・」
彼の死体の前でしゃがみ、見開いたままの瞳を顔を撫でるようにゆっくりと閉じてあげる。そして、両手を合わせ目を閉じ、祈りを捧げる。

 

                「貴方の魂に・・・・永遠の静けさと安らぎを・・・・・」

 

「ウーノ姉!どう!?」
「・・・・・・ええ、削除されそうになった解除コードはどうにか拾う事が出来た・・・・だけど・・・」
スカリエッティ以上のキーボード捌きで、削除されかけた解除コードを修復したウーノは、続けてそれを使い自爆コードを解除しようとするが

 

                     『認証パスワードをどうぞ』

 

彼女はここで行き詰ってしまった。
正直、自爆システムに関してはウーノも存在は知ってはいたが、『認識パスワード』に関しては正直な所、知らなかった。
『認証パスワード』という文字を表示しているウィンドウには、自爆までのカウントが表示され、残り5分を切っていた。
「っ!ごめんなさい・・・・・あの時、聞いとけばよかったわ・・・・」
「あ~も~!!何で聞かなかったの!!?聞くだけならタダじゃん!!」
最もな意見を言い放つセインに、ウーノは一度溜息をついた後、顔を向け
「・・・・地上本部襲撃の忙しい時に、これ見よがしに自慢してくれば・・・・・言葉より拳の方を選択すると思わない?」
目が笑っていない笑顔で諭すように言うウーノに、セインは純粋に恐怖を感じ、首を激しく左右に振る。
「うん!!ウーノ姉の言う通りだ!!ウーノ姉が正しい!!私も焦らすように自慢してきたドクターをシカトしたし・・・・・あっ!!」
何かを思い出したのだろう。セインは突然大声を出し、閃いた事を回りにアピールするかの様に手を『ポン』と叩く。
「そういえばドクター、私がシカトしても尚、色々と自爆システムの事を一人自慢していた・・・・・・」
余程聞いて欲しかったのだろう、同時に、誰も聞いてくれなかったのだろう、自分の周りをウロチョロしなが
自爆システムの説明をしていた時の記憶を頭の中から引きづり出す。
「たしか・・・・・・・認証パスワードは・・・・・・初恋の人の名前・・・・・って・・・・・うん!!
言ってたよ!!」
『初恋の人の名前』ウーノには心当たりがあった。
依然ドクターが『気まぐれ』といい、話してくれた初恋の相手。忘れる筈が無い、あの時のドクターは心からの嬉しさと心からの懐かしさ、そして
心からの悲しさをさらけ出していたのだから。
結局『初恋の相手』の名前を聞くことは無かった。だが、彼が話している時は常に首に掛けているロケットを握り締めていた事を思い出した。
思い出した瞬間、ウーノは端末から離れ、スカリエッティの元へと駆け寄る。
「・・・失礼します」
断りを入れた後、ウーノはスカリエッティの首に掛かっているロケットを優しく取り、一度深呼吸をした後、中に入っている写真を見た。
「・・・・・・・馬鹿な・・・・・・」
否定の言葉を視線と呟くウーノに、セインは何事かと近づき、
彼女の後ろから覗き込むようにロケットを見る。
「・・・・・嘘・・・・・・」
彼女もウーノ同様に否定の言葉を呟く。
ロケットの中に入っていた写真に写っていたのは、ヴィヴィオと同じ歳の時のスカリエッティ、そして

 

         「「・・・・・・・・フェイト・・・・お嬢様・・・・・・・?」」

 

両腕に山猫を大事に抱え、無邪気に笑う幼いフェイト・テスタロッサ・ハラオウンの姿だった。

 

「ウーノ姉・・・・これ・・・・」
「ごめんなさい・・・私にも・・・でも、姿からしてフェイトお嬢様に間違いない・・・・・」
写真の人物は間違いなく幼い頃のフェイト。だが、年齢が合わない。
モニターの自爆カウントは残り一分を切り、予兆を表すようにアジトが激しく揺れる。
「・・・・・・どうしました!?」
先程まで作業をしていた二人が、突然呆然と立っている事に、フェイトは何事かと駆け寄る。
近づいてくるフェイトに、二人は体を向けようとするが、その時、
アジトが激しく揺れ、3人の足をもつれさせた。
セインは尻餅をつき、ウーノとフェイトは咄嗟に踏ん張る。
だがその時、ウーノは手からロケットを離してしまう。
ウーノの手からか離れたロケットはゆっくりと転がり、フェイトの足元で止まる。
「・・・・・・これは・・・・・」
ウーノの持ち物かと思ったフェイトは拾い上げ、塵を払うように2~3度軽く手で払う。その時、偶然ロケットの蓋が開き、
中に入っている写真が、フェイトの瞳にさらけ出された。
写っている幼いスカリエッティと幼い自分。だが、フェイトには写っている人物が自分自身で無い事、そして何者なのか、瞬時に理解でした。
自爆まで30秒を切り、アジトは更に激しく揺れ、天上からは塵が雨の様に落ちる。

 

ウーノと、セインは、自爆を引き伸ばすために必至にキーボードを叩き

 

シャッハはエリオを落ちてくる塵から守る為に覆いかぶさり

 

フェイトは写真に写っている自分と瓜二つの少女の名前を呟いた

 

           「・・・・・・・アリ・・・・・シア・・・・・・・・・」

 

          『認証パスワード確認・・・・・自爆システムの停止を確認』

 

アジト自爆まで残り7秒、激しかった揺れが嘘の様に静まり返った。