宿命_第04話

Last-modified: 2007-12-27 (木) 00:16:29

「うぅん・・・」
俺はベッドの上で目を覚ました。
記憶が混濁してはいるが、今度は喪失はしていない。
知らない部屋だ。
誰かに拾われたのだろうか。それより・・・
「帰って・・・きたのか?」
ベッドのある部屋を見回してみると、おかしな本を見つけた。
妙に目を奪われる、妖しく、どこか気品の漂う、一冊の本。
「っと、それどころじゃないな。誰か人を呼ばないと・・・」
流石に勝手に動き回るのは気が引けるし、と、思ったのだが・・・
「痛ッ」
体中が痛む。筋肉痛だ。
軍の訓練を受けてた身ではあるが、流石に引きこもりが長引き過ぎたようだ。
(もう暫く寝かせといてもらうか・・・)
こういう考え方は好きではないが、今日ばかりは勘弁してもらいたかった。
そのまま布団を引っ張った。
(いいにおいだな・・・って、)
「変体か、俺は!!」
ノリ突込みで跳ね起きるという芸当を成し遂げた。
「あれ、もう起きたん?」
その声に反応して家の人がやってきた。
なるほど、帰ってきただけあってそれは知った顔だった。

「って、はやて!?」
やってきたのは、見知った顔であった。
ただし、時空転移してからの知り合いだが・・・
「おはよう、シン。
 道端で倒れてから心配したんよ?」
「道端で?ああ、そうだったのか・・・」
どうやら庭園から飛ばされた『元の世界』にはシンが一個前にいた世界が選ばれたようだ。
はやてが電動車椅子を押してベッドに近づく。
「どうしたんだ、はやて?」
「よしよし」
頭を撫で始めた。
「・・・・・・って、何で?」
心地よすぎて突込みが遅れた。
「シン、さっき泣いてたから・・・
 まだないとってもええんよ?」
「泣いてた、俺が?」
はやてはその疑問を首で肯定した。
「辛い事、あった?」
辛い事・・・沢山あった。
家族が自分の目の前で死んで、憎むべき対象を求めた。
初めて護るべき対象の象徴とも思える少女と出会い、その少女と戦い、味方を裏切るような行動に出ても、護れなかった。
自分の信じたものが崩れ去った事もあった。
そして、ここに来てからはかけがえの無い存在を二つ、失った。
「あぁ、あった。
 でも、大丈夫だ」
「なんで?」
大丈夫さ、そんな顔で見なくても。だって、
「今回は護りたいものを護れた。それに、俺はもう泣いたんだろ?」
「そうやけど・・・」
「あぁ、それとさ。目が覚めてからはやての顔を見たから、なんか落ち着いた」
「そうなん?」
はやてに強く頷き返して、俺は立ち上がった。
まだ筋肉痛なんて似合わないものは残ってたけど、なんとなく気分は上々だ。
その証拠に腹が鳴った。
・・・腹減ってたのか、俺。

「はやては・・・飯はどうしてるんだ?」
「手作りやよ~。今日は腕によりをかけて作るで、ちょっと待っててな?」
そういうと、はやてはキッチンへ入っていった。
ちょうど夕食時だったらしい。
(さて、何か出来る事は・・・)
流石にただ飯食いのプータローは遠慮したいので、部屋を見回してみた。
(結構片付いてるけど・・・所々汚いな・・・)
それらを良く見ると、どうやら車輪の後のような物なのが分かる。
「はやて~。車椅子ってやっぱり一台しか持ってないよな?」
「もってへんけど・・・シン、足がわるいん?」
「へ?
 あぁ、そうじゃないよ」
どうも勘違いされたみたいだ。
確かに足は痛むが、マユのデバイスはシンにあらゆる何かをかけたらしい。
その中に治癒の力もあったのだろう、もう殆ど痛まない。
「その車椅子って、中と外で一緒なのかな、と思ってさ」
「あ、部屋汚かったな、ごめんね」
一応玄関に雑巾は用意してあるのだが、如何せん不自由な体では完璧とは行かないものなのだ。
「謝る必要は無いだろ?はやての家なんだからさ」
「そうやったね。なら、どないしたん?」
「拾ってくれたお礼に掃除ぐらいしてやろうかと思って
 それならはやてが寝てからでも車椅子を洗っておくよ」
「寝てからって、泊まっていくん?」
・・・あれ?

「・・・あ、そうだった!!」
ついつい自分の家でもない場所で寝る事に慣れていた・・・
「悪い、今のは忘れてくれっ」
「あ、別に泊まってってもええよ?
 いきなりやったからびっくりはしたけど、家に誰かおってくれるとわたしも心強いし・・・」
(どうする?男として泊まらないべきだ。が、俺には今行き先が無い・・・)
「悪い、就職先が見つかるまでここにいさせてくれ」
「・・・シン、図書館まで行ったら家の道わかる?」
「図書館?そんなところに行ってもそれの家は・・・あれ?・・・あ、わかる!!」
「おそいよぉ?
 シン、この辺に引っ越してきた、ってのは嘘やったんやね?」
(しまった、寝起きで腹が減ってたせいで嘘の設定なんて完全に忘れてた・・・)
「悪かった、はやて。それで、その・・・」
「ええよ、好きなだけ泊まって行って。
 その代わり、やって欲しい事があるんやけど・・・」
「あぁ、雑用でもなんでも。
 相応のことはやらせてもらう」
行き先が無い以上、この申し出を断って彷徨うのは得策とは思えなかった。
「ほんなら、今日から一緒に寝てくれる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「いやな、隣近所からわたしのことを二階に運ぶためだけに来てくれる人がいるねんけど、そろそろ悪い気がして・・・」
「あぁ、そういうことか」
いきなり一緒に寝て、は堪えた。
年代が年代だからはやてとしてはなんとも思ってないのかもしれないが、これは一歩間違えればいろいろな事を間違える結果になりかねないのだ。
「どうや?折角やから、一緒にくらさへん?」
「・・・・・・じゃあ、よろしくな、はやて」
即決だったが悩んだふりはしてみた。

「晩ご飯もう少しで出来るから、ちょっとまっててな?」
何だかんだでお世話になることになった。
ってことで、今の内に出来る事はやっておくか・・・
「あぁ。
 風呂場はどこだ?洗ってこようと思ったんだが・・・」
「廊下の突き当りを曲がって二つ目やよ。
 ありがとうな」
「礼を言うのはこっちだよ。
 じゃ、いってくる」

風呂を洗い終わって戻ると、丁度ご飯が出来上がっていた。
「そういえば俺ってどれくらい寝てたんだ?」
「三日間やったよ。なんかの病気かと思った」
「そうか・・・悪かったな、ベッドを占領しちまってて」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
はやては真っ赤になって壮大に無言になった。そして、
「ま、まぁ、折角作ったんやから、冷めんうちに食べよか?」
何事も無かったかのように取り繕っていた。
「へ?あ、あぁ」
(ま、後で聞く機会があったら聞いておくか・・・)

 

「う、うまい・・・」
「せやろ?そのムニエルはわたしの自信作や」
(ムニエルなんか俺でも作れるけど・・・)
もう一口食べてみる。
「マジでうまい・・・」

その後もいろいろな料理を堪能させていただいた。

「さて、お風呂はいろかな?」
「あぁ、俺はもちろん後でいいから、たっぷり入ってくるといいよ」
「う~ん・・・」
で、はやてはどうにもおかしなところで考え込むする癖があるみたいだ。
「やっぱりシンも一緒に入らん?」
「・・・なんでそうなる?」
「わたしおしりとか洗いにくいんよ。
 体拭くのも時間かかってまうし・・・
 せやから手伝ってくれへん?」
(いろんな意味で)やってやりたいが、これは流石に・・・
「悪い、それははやてのためにもやめておいたほうが・・・」
「そっかぁ、マユさんに悪いもんなぁ」
はやては悪戯っぽくそんな事を言った。
「マユ?」
はやてには言ってないはずだけど・・・
「寝言でいっとったよ。恋人やろ?」
なるほど、本人の意識化での話でないと情報は面白いほど歪むようだな。
「ちがう。マユは妹だ」
「へ?でも家族はもう・・・あ、ごめん」
情報を処理しきったようで、言葉をとめ、はやてはシンに謝った。
「いいよ。はやてだってありのままを話してくれているんだ。
 俺だけ隠すつもりは無い」
「せやけど、ごめん」
「いいって、はやてが優しい事は、俺もよく分かってるつもりだ」
はやてはもう一度謝罪の言葉を述べ、風呂場へ向かった。

「さっきのは悪かったなぁ」
はやては脱衣所で自分の考えの浅はかさを悔やんだ。
「嫌われんようにしていかんと・・・」
折角初めての『友達』になれるかもしれないのに、こんな事で出て行かれてしまうのは辛すぎる。
そんな事を考えながら、はやては衣類を脱ぎ終わった。
ここからが一番難しく、車椅子から一旦降りなければいけない。
「あっ!?」
一応慣れてきてはいたのだが、気の緩みか他ごとの考えすぎか、横転してしまいかけた。が、
「大丈夫か?」
シンが支えてくれた。
「シン・・・」
「大丈夫。恥ずかしがったりしないで、一緒に入ってやるから」
「せやなくて、シン・・・」
はやての恥ずかしそうな声に、シンは状況を良く見る。
「手・・・胸に当たってる・・・」
「ご、ごめんっ!!」

そんなこんなで一緒に風呂入った仲の良い二人だった。
「シン、もう少し優しく・・・」
「ご、ごめん・・・」
女性の肌はあまり強く擦るものじゃありません。妹で慣れているでしょうに・・・
(慣れてるわけ無いだろ!!)
あ、そうですか。

一応シンは見ないように努力したそうです。