宿命_第03話

Last-modified: 2007-12-27 (木) 00:16:00

「さて、もう終わりだなぁ」
本当はリンカーコアを喪って、先ほどから渦巻く魔力への抵抗が一切なくなったのが原因だったが、それは言わない事にした。
「全然余裕そうだな、お前」
「おにいちゃんも結構大丈夫になってきたんじゃない?」
(いや、堪えているだけだ。兄として・・・)
ふと、マユは真面目な顔つきになった。
「ん、どうした?」
「ん~っと、あのね。
 わたしがさっきの話をしたのは、真実を知って欲しかったからなんだ」
「あぁ、わかってるぞ?」
まさか嘘が含まれているなどと疑ってはいない。
「うん、それでね。
 決して敵を討って欲しいとかは思ってないよ?
 わたしは少しだけ長生きして、おにいちゃんと話してて楽しかったから」
敵討ち・・・それは今よりも、元の世界にいた頃の記憶を締め付けていた。
「あぁ、わかってるよ。
 でもさ、フェイトを助けてやるのは、駄目かな?」
さっきの話を聞き、俺がこっちに来てから手にした知識を鑑みるに、フェイトがいくら頑張っても得られる結果は好ましいものにはならないのだ。
「好きにするべきだと思うよ?」
「あぁ、ありがとう・・・!?」
次の瞬間マユはその場から消え去った。
シンの右手に、ピンク色の携帯電話と、
「プレシアさん、本当は優しい人だから・・・
 本当に出来たらでいいから、止めて、あげてね?」
という、たったひとつの、本音を残して・・・

 
 

暫く泣いていた。
そして、雨が降り始めた。
夜だったのも幸いしてか、人は誰も来なかった。
来ないと、思っていた。

「だぁれ?そこに居るの」
幼い、声が聞こえた。
シンは顔を上げた。
勢いがあまって上がりすぎて、天を見上げる。
(結界が・・・まだ残ってる?)
「あなたも、魔法使いなの?」
もう一度声のする方を見直した。
そこには白いローブの・・・まだ幼い少女が一人、心配そうな顔をして立っていた。

 
 
 

少女に連れられやってきたここは、『アースラ』。
時空管理局という、今まで敵対していた機関の戦艦だ。
そして、ブリッジらしき場所へ案内された。
「高町なのは、今現場の捜索から戻ってきました」
随分仰々しいな・・・でも、少女に軍人気質はやはりなさそうに見えた。
「お帰りなさい。あら、その方は?」
女の声がした。
「あ、この人は、現場で寝てたんです」
なのは、と呼ばれた少女は軽いウソをついた。
(泣いてた事、知ってるだろうに・・・)
「シン・アスカです」
「シンくん、ね?
 いったいなぜあそこにいたの?」
俺も嘘をつくべきなのだろうか?だが、今はそんな事さえわずらわしかった。
「戦ってたんですよ、あんたたちとね」
少女をはじめとして、艦橋内が静まった。
そして、以外にも少女が一番初めに口を開いた。
「リンディさん、ちょっと二人きりで話しできませんか?」
「私と?」
「いえ、シンくんと」
そんな会話に、俺は噴出してしまう。
そして、マユの死に結構堪えてない自分に驚いた。
一度目の死のときは、あんなにも何かを恨んだのに・・・
二度目だから、ではなく、あれが妹でないと自分で気づいていたのかもしれない。
それでも妹以外の誰かとして死ぬ事もなく、複雑になった俺の気持ちは、超然したのかもしれない。
「お前、何がおかしい!?」
「あぁ、すまない。あんたは?」
「ボクはクロノ・ハラオウンだ」
クロノと名乗ったのは、まだなのはより少し年上と言ったところの、少年だった。
「クロノか。悪いけど、俺の話を聞いてくれるか?」
何かが吹き飛んだ気がした。
そして、とたんにフェイトのために何かをしたくなった。
因みに暗に『二人っきり』を回避したのだが、なのはは別にどうといって変化は無い。
「いいでしょう。私はリンディ・ハラオウン。この艦の艦長です」
艦長、か・・・ここの軍人気質の低さにはもう慣れてきていた。

 

「最初に聞きたいんだけど、フェイトと戦ってたのは誰だ?」
「あ、それはわたしです」
おずおずとなのはが手を上げた。
「なんで、戦ってるんだ?」
「えっと、わたしは・・・友達になりたいから、かな?」
艦内が一気に静かになった。
俺も目が点になっていたが、
「まぁ、いいや。
 なら、好都合だ」
と、全てを語った。
マユと俺のことは除いて・・・

 

「それで、これからフェイトを助けに行きたいんだ。
 力を貸すか、邪魔をしない約束をしてくれないか?」
「その前に、場所はわかるのかい?」
横槍を入れたのはクロノ。
「あぁ、大丈夫だ。俺が覚えている」
そうか、とクロノは頷き、
「ならなのは。
 あの女の子については君に一任することにしたんだけど、シンを信じるかい?」
なのはにたずねた。
「えっ!?えっと・・・はい」
「そうか・・・なら艦長、ボクも賛成する事にします」
クロノはため息を吐いた後に、進言した。
「私もそれでいいわ。さっきの攻撃も何処からかわからなかった以上、これしかないもの」
非常にあっさりと決まった。
この艦は馬鹿ぞろいなのか大物ぞろいなのか、シンは真面目に悩んでいた。

 

2時間くらいかかるわね。アースラの修理もしながらだから・・・
とは、先ほど艦長に聞いた言葉だ。
シンは重要参考人で、牢にでも入れられるべきなのだろうが、魔力のないことと時空転送事故の被害者と言う事で、なのはと一緒ならば艦内を自由に歩ける事になった。
「ごめんな、つき合わせちまって」
それ故に俺の隣を歩いている少女に謝罪をしておいた。
なのはは、シンと監視者の空気が重くならないようにか、わざわざ立候補してくれたのだ。
「いえいえ、進む道が無いわたしたちに道を示してくれたのは、シンくんだから」
大げさな言い方を至極真面目になのはは言った。
「フェイトのやつ、想われてるなぁ」
「想ってる・・・ことになるんでしょうか?」
「ああ。俺は多分あっちでもここから降りれないだろうからさ、フェイトのこと、よろしく頼むよ」
二重の理由で、降りれなさそうだった。
まず第一に、元敵である。
第二に、魔力の無いことになっているし、コアを取り戻したからと言ってすぐに魔法が使えるわけではない。
要するに、危険なのだ。
「わっかりました、任せてください」
シンはこの少女なら出来ると思った。
シンの見てきた魔法使いが強い理由、マユ達には当てはまらないとしても、それは意志の強さだ。
その点で、フェイトは強い。しかし、歪められている。
対して、なのははさらに強い。そう思うのは、穢れのない、知らないこの少女の瞳の力だろうか・・・

ついでに言うと、穢れてしまっている自分では、フェイトは助けられないかもしれない。
そのことだけは、辛かった。

 

「到着まで後もう少しです。シンさんは部屋にいてくれませんか?」
艦橋にいた女性、たしかエイミィと言ったか、がシンを見つけてそういった。
因みに逆らう理由も力も無いので、シンは大人しく与えられた部屋へ向かった。
そこからも見えた、こんな形で戻って来たくは無かった、『時の庭園』。
(ついに、最後の戦いなのかもな)
終始祈る事のみが戦闘中のシンの役目になっている気がするが、なに、気にする事は無い。

 

「なのはは出来るだけ戦わないで。
 あの女の子を『助ける』気があるのは、悪いけど君とユーノだけだからね」
クロノは半々な気持ちをなのはに述べた。
本当は、説得とかを手伝いたいんだけど・・・
「うん、ありがとう、クロノくん」
それでも、なのはは文句など決していわなかった。
「それじゃあ、作戦開始だ」
本来クロノがいうべき言葉でもない気がするが、こういった場面でのクロノへの信頼と言うのはとても高く、全員が応答した。
そして、作戦が始まる。

 

作戦は、なのはとユーノ、クロノ、その他大勢A、その他大勢Bに分かれて、それぞれの目的を達成する、と言うものだった。
(なのはは純戦闘員じゃない以上、個人的に動くのは僕だけだ)
クロノは一気に攻め入って、ジュエルシードの回収と『庭園』の機能停止が役目だった。
詳しい地図をシンが提供していたため、作戦は思った以上に楽に進んでいた。
クロノも例にもれず、どんどん進んでいた。

 

一方なのはたちは、目的が何処なのかがわからなかった。
が、アースラの存在は知られているのであろう、捨駒的存在が先ほどから幾度か見えていた。
フェイトが戦うためにいるのなら、もうすぐ出会えると言う確信があった。

そして、全ての人が、乗り越えるべき敵と出会う。

 
 
 

クロノは先ほどまでの傀儡と違い、魔道士が出てきた事に少なからず驚いていた。
が、それくらいで判断を誤る人間ではない。
それに、シンにそれとなく存在は聞いていた。又聞きだが・・・
「手加減は出来ないからね」
する必要も無い。
これも、プレシア・テスタロッサの狂気のひとつなのだから・・・
「うっせえよ、『カラミティ』」
カラミティ、それが、長身の男のデバイスの名前で、前形体は文庫本。
その能力は、3個の砲門を持っているものだった。
確実に強いの範疇である能力だろう。が、
(なのはにもいえる事だけど、遠距離タイプのくせにでしゃばりすぎだ・・・)
それに、このタイプの弱点はわかり易すぎる。
「おらおらおらぁ!!」
光の収束し始めたタイミングの早いものから優先的に避ければいいだけなのだ。
クロノは無言で男の隣まで行き、手に持つ杖で一つの砲門を破壊、魔術で一門破壊、残ったのはバインドをしておいた。
そして、少々躊躇いはしたが、その魂を開放してやる。
「最後に聞こうか・・・お前の名前は?」
「オルガだ・・・」
オルガは、とても清々しい気分だった。
「覚えておこう。せめて魂は自分の世界に戻る事を祈るよ」
クロノがいうとオルガは憑き物が落ちたように血色をよくし、微笑んで消えて行った。

 
 

ところ変わって、戦艦アースラ。
シンの元に、大きな犬が現れた。
「あ、アルフ?」
今は敵対している、フェイトの使い魔。
「シン」
しかし、声のするほうへ向かっても、攻撃どころか悪態ひとつ飛んでこなかった。
「どうしたんです?」
「フェイトを、逃がしたいんだよ・・・
 もうあんなところに居ちゃいけない・・・」
アルフはそういうとその場にへたり込んだ。
言葉は足らなくても、マユに聞いた事を付け足せば意味は痛いほどに分かった。
(俺の魔力を感知したのか・・・)
それでも、プレシアに対するシンの態度を見ていたアルフがシンの所に来るとは思えなかった。
(いや、こいつもやっぱり、フェイトのためを思ってたんだろうな・・・)
だから、少しでも可能性のあるシンを、敵艦であると言う危険を顧みずに頼りに来たのだろう。
どこか安心したような寝息を立てるアルフに「行ってくるよ」といって、シンは艦橋へ向かった。

 
 

「なんだ、こいつは!?」
その他大勢、もとい潜入班Aは、オレンジの髪の不気味な少年に行く手を阻まれた。
「おりゃあ!滅殺!!」
彼が先ほど取り出したデバイス、名は「レイダー」。前形体は、ゲーム機だった。
形状は、背中に羽をつけ右手に棘の突いた痛そうな球を一球持っている、どちらかと言うと個性的でシンプルなものだ。
潜入班の局員のデバイス、杖では大体二度の攻撃で折れてしまう。
「魔法を使おう、強力なものを」
誰かが言った。
「バインドを」
また、誰かが言った。
このような状況では普通、一人のリーダーがいるべきなのだが、クロノの不在に際してそれを決め忘れていた。
が、しかし隊列は乱れることなく、バインドを放ち、他方では杖を犠牲に進行をとどめ、また他方では魔術の詠唱をしていた。
それは運が良かったのか、彼らの力なのか、個人個人が巧くその場に適応していた。
そして、何度もの攻防の果てに、8度目の魔術でついに少年は倒れた。
悪態をつきながら、それでもどこか幸せそうに、少年は消えていった。
終わってみれば死者は結局0人で、補給は必要だったが、先に向かえたのであった。

 
 

同じく潜入班のもう一般は、思わぬ敵に苦戦していた。
その少年には、遠距離の魔法がまるで利かなかったのである。
「うざい」
脱力した声を出しているが、その手に持った鎌の力は折り紙つきだった。
今にもその凶鎌が振り下ろされようと言うところに、赤い光が邪魔立てした。
「なんだ、お前?」
光の球の発射地点に脱力した目を向け、声を億劫そうに発した。
「覚えてないのかよ、俺のこと?」
そこに居たのは、赤い髪、赤い目の少年。
ほんの数時間前に名前以下を思い出した、シン・アスカであった。

 

邂逅を果たすと同時に、シンは両手にナイフを出現させた。
それを見ると、最後の一人に当たる少年、シャニは歪んだ笑みを浮かべた。
「何だよ、お前。敵討ちってやつ?」
(仇討か・・・見ようによってはそうなるのかもな・・・でも)
「そんなんじゃない」
「へぇ?なら、何だよ?」
何だ、そういわれて、シンは軍人になった頃の決意と、今の状況が似ている事を思い出した。
あの頃も今も、シンはマユと同じ境遇の人間を救いたいだけなのだ。
(ま、前は失敗しちまったけどな・・・)
それは、シンの記憶が語った事実。
「何だ、とかいわれたらわからないけどさ。今度は、絶対に間違えない」
「あぁ?なに言ってんだ、お前?」
喋りながら、大鎌をシンに振り下ろす。
それを手にしたナイフで防ぐが、あまり効果は得られない。
「くッ!」
ナイフは破損しはしなかったものの、シンは軽く吹き飛ばされる。
「はぁああぁ」
そこへ、追撃が来る。が、シンはナイフを地面に捨てた。
(このナイフじゃあいつは多分倒せない)
だから、シンは無手で凶刃を向かえた。
その手で、鎌を掴むために・・・

そして、シンは鎌を掴み、それを奪い取る。
「なっ!?」
「これで終わりだ!!」
シンは鎌で、出来るだけ痛みのなさそうなところを、斬った。
(これで、十分だからな・・・)
「消える・・・!?」
「あぁ、お前がマユにしたことだ。
 礼を言うべきことだけどな」
怪訝な瞳を向けられ、シンは付け足す。
「大丈夫だ。きっと、なるべき姿になるだけ」
言って、シンは気がついた。
それは、自分に『マユは辛くないんだ』と、言い聞かせているのだ、と。

そんな心境を悟られたくなくて、シンは駆け出した。
こっちに来てはじめて、元の世界にいた自分と同じような嘘を、自分についたような気がした。
やはり戦えば人は歪むのかもしれない。
歪まなかったなのはたちを羨ましく思いつつ、フェイトを探すシンであった。
「大丈夫ですよ。あなたはまだ取り戻せます」
声は、ポケットから聞こえた。
主はマユの携帯、これがマユのデバイスだったのだ。
「サンキュ。でも、俺は・・・」
「わかってくれますよ。
 今のあなたは、聞きたくないことに耳を背けはしないでしょう?」
なぜだろうか、シンは、全く違う口調と声なのに、マユを彼女の中にイメージしてしまう。そして、安心できる。
「そう、だな」
シンが自分の主でもないのに励ましてくれるデバイスに感謝を述べた瞬間、探し人を、ついに見つけた。

 
 

「フェイトちゃん!!」
なのはは叫ぶ。
今戦っている、闇に輝く、綺麗な少女の名を・・・
「やめようよ、こんな事!!」
「なら帰って。母さんが五月蝿いって・・・」
フェイトは、親を護っているだけ。
そんな事実が、シンにはとても辛かった。
「シン!!」
アルフの声に、シンは振り返った。
「もういいんですか?」
「ああ、あたしばっかりのんびりしてられないからね」
もう大丈夫と、腕を振り回し、
「実は助けてもらったんだよ、あの後見つかっちゃってさ」
などと言った。
「それで、フェイトは?」
本当に心配そうなアルフの声。
「大丈夫です。今、なのはと一緒に乗り越えるべき壁を乗り越えようとしているところですから」
そう、乗り越えるべきものなのだ。
母の呪縛と、決して存在しない嘘の記憶を・・・

 

「どんな事をしても、死んだ人間は元に戻ったりしません。
 どんな魔法を使っても・・・過去を取り戻す事なんて、出来るもんかぁ!!」
「いいえ、アリシアは戻ってくるわ、わたしの元に。アルハザードに行けば!!」
「そんなわけ無いだろう!そんなの、あなたも良くわかっているはずだ!!」
クロノには許せなかった。才気に溢れた人が、狂気に落ちたと言う事実が・・・
「五月蝿い子供ね・・・親の顔が見て見たいわ」
「なにをっ!!」
クロノはデバイスを構え、光球を発する。が、
「なっ・・・」
それは何事も無くかき消されてしまう。
「弱いわね・・・」
研究者と言えど流石、この歳になると、それまでの訓練なども相まって魔力も相当なものになるらしい。
彼女の発した魔法に、クロノは弾き飛ばされてしまった。

 

「フェイトちゃん!!」
叫び続ける。それしか多分、自分を正しく伝える方法を人は持っていないのだ。
レイジングハートとバルディッシュは、全てを彼女等に託している。
どんな立場に彼女らがいようと、間違えないと、彼女らを信じて・・・
「フェイト!」
シンも名を呼ぶ。
言うべきことが何かはわからないけど、何かはわからないけど、言いたいことがあった。
「シン!?」
フェイトはそんな彼の姿を見て、驚いていた。
「やめるんだ、フェイト!!」
昔、自分はこんなシチュエーションで、同じく金髪の女の子を救えなかった。
でも、今は違う。
あの時はシンの仲間も皆彼女の敵だったけど、今は皆、シンと心を同じくするものなのだから。

 

吹き飛ばされたクロノは、そこにあった傀儡と戦っていた。
能力的には明らかに自分よりは下でも、問題なのは圧倒的な数。まさに圧殺地獄である。
(ボクがここにいればこいつらはボクをねらう、か・・・)
それもいいかもしれない。
少なくとも、なのはの目的が達成するまでは、ひきつけていてやるのも悪くは無い。それに・・・
(彼も、戦えたんだね・・・)
あの赤い瞳の少年を、クロノは信じてみる事にした。

 

フェイトのバルディッシュから発せられる光になるべく当たらないように、なのはは戦う。
(と、言うより逃げてるだけだな・・・)
このままじゃ駄目だ。
この状況はシンにも経験があったから、今はなのはが何を言っても意味が無いのが良く分かった。
「なのは、戦え!」
だから、フェイトにたたきつけられ急降下してきたなのはにそういった。
「へ?」
「お前だってわかっているだろ?だから、あの時お前たちは戦っていたはずだ!!」
勝たなきゃ、決して語弊なく言葉が通じるはずが無い。
ましてや友達になりたいんなら・・・
「うん、やってみる」
上を見上げ、急上昇していった。
その顔は、どこか安心させてくれるような、凛々しい顔だった。

「戦うよ、フェイトちゃん。
 二度目になっちゃうけど、わたしが勝ったら、今度こそ話を聞いてもらうから」
無言で、しかし頷くフェイト。
「バルディッシュ」
「Yes,sir」
「レイジングハート」
「Yes,my master Shooting mode」
互いにデバイスを呼び、互いがその返事をする。
シンのデバイスは厳密には彼のものではないから、それが妙にすごい事に見えて、少しだけ羨ましかった。

(フェイトちゃんに勝つには・・・)
なのはの技は確実に遠距離形と呼べるもので、動き回る相手への命中精度にかけている。
「貫け、轟雷」
「Thunder Smasher」
そんな事を考えていると、フェイトが先制をした。
「レイジングハート!!」
「Frier Fin Acceleration」
その攻撃を避け、なのははそのまま『一つの魔法』を発生させ、そのままレイジングハートを構えた。
「Shooting mode」
そのレイジングハートの声にフェイトははっとして逃げようとするが、
「さっきの魔法!・・・」
その行動はなのはのひらめきによるバインドで無意味となった。
「これがわたしの、『全力前回』ッ!!!!!!!!!!
 ディバイン・・・」
「Buster」
これが、なのはの最高の技、なのだろうか。
「フェイト!!」
アルフが叫ぶ。
「大丈夫、なのはだってしっかり考えてるよ」
ユーノがそれを宥めるとおり、建物まで光が届いてない。
これなら大丈夫だろう、!マークがありえないほどついてたけど、多分。
フェイトは地面にたたきつけられそうになったが、それをなのはが支えてやった。
そして、しばらくシンが気絶したフェイトを膝枕で寝かせていた。
クロノが心配だから・・・皆にそういって、先に行ってもらった。

「大丈夫か、フェイト?」
「・・・・・・シン・・・無事だったんだ・・・」
さっきからずっとシンの姿も捕らえていただろうに、フェイトはやはりシンを心配していた。
「フェイト・・・ごめんな、俺・・・」
「母さんを・・・止めに行くんだね?」
フェイトの問いに、シンは臆せずに答えた。
「ああ・・・悪いけど、邪魔はさせない」
あの人には、いろいろと因縁があるから、と
「わたしもいくよ、シン」
「え?」
「母さんに聞いたんだ。
 わたしは、普通の子じゃないんだって・・・」
それは、入れ違いで聞いていないアルフ以外、ここにいる誰もが知っている事だった。でも・・・
「知ってたならなんで、なんでまだお前が戦ってるんだよ!」
「それでもやっぱり・・・認めて欲しかったから・・・」
親に認めて欲しい・・・それが、小学生程度の歳の少女の考えるべき事なんだろうか?
「でも・・・違ったんだね・・・」
「へ?」
「シンは、なのはは、アルフは、こんなわたしを、認めてくれていた・・・」
それは違う。
「認める、なんていうなよ、フェイト。 
 俺たちは『仲間』で『友達』だろう?」 
「仲間・・・友達?」
「ああ、そうだ。
 なのはやユーノが違ったとしても、これから何とでもなる。
 未来がある。俺たちの作る、明日がある」
この決意こそが、シンがあの失うことばかりの戦争の後、唯一手に入れた、大切なもの
「だから・・・一緒に帰ろうぜ?
 何があっても、俺たちは生きるんだ」
命を大切に・・・軍人にそんなこという資格は無いかも知れないけど、して欲しかった。

 

「クロノくん、大丈夫!?」
「やあ、なのは・・・こっちは大丈夫
 キミも、大丈夫みたいだね」
なのはの顔を見て、クロノは成功を確信した。
「じゃあ、行こうか。数が数だから、手伝ってもらうよ。いいね?なのは、ユーノ」
「はいっ!」 
「うんっ!それに、アルフさんも」
「わかってるよ」
とりあえずアルフは、数に入れてもらえてうれしいと感じた事を、胸にしまっておく事にした。

 
 

「また来たの、あなた?」
もう喋る事も億劫そうに、プレシアはクロノを睨んだ。
「もう何人か来る予定はあるけどね、
 降参するなら、今のうちだよ」
「冗談じゃないわ。そんな事で、あきらめられるわけが無いじゃない」
クロノの挑発に、プレシアは答えた。
前振り無しで光る球が発せられるが、先ほど見ていたクロノは何とか反応し、防いだ。
「なのははジュエルシードを!
 あれをこっちに持ってくれば、あっちはおしまいだから」
ユーノはバインドをプレシアに迫らせながらなのはに言う。が、
「させないわ」
そのバインドを払い、ユーノに魔法を当てる。
「ユーノくんっ!!」
つい気を取られたなのはは、二はつ目の魔法が自分に迫っている事に気づけずに、直撃してしまう。
「なのはっ!」
クロノは防御しながら彼女の元へ駆け寄る。
「大丈夫・・・ちょっと痛かっただけだから・・・」
魔法を直撃してちょっとと言ってられることは流石だが、しかしこれではきついかもしれない。
そこへプレシアが追撃をしようとする。が、
「バインド!?なぜ?」
その手にはバインドが巻きつけてあり、魔法は不発に終わる。
その鎖の元には・・・
「あたしを数に入れない癖は、治らないものかねぇ」
隠れていたくせにそんな口をたたく、アルフの姿があった。
「なのはっ!!今だよ!!」
「はい!ジュエルシード、封印!!」
青く光るロストロギアは全て、なのはのレイジングハートの元へ収束した。
「よしっ、これで・・・」
絶対優先の条件の一つをクリアした。

 

そこへ、魔法使いの隊が到着した。
その魔法使いたちが、部屋を捜索しだす。
そして、一つの扉を開くと共に、ジュエルシードの封印によって放心していたプレシアが、反応した。
「私のアリシアに、近寄らないで!!」
そこへシンとフェイトが到着していた事に、誰も気づきはしなかった。

「それが・・・あなたの本当の娘ですか?」
クロノが問い詰める。
『それ』とは、大きな水槽のようなものに入ったフェイトに瓜二つの少女。
「あれが・・・そうなの?」
なのはは悲痛そうな顔をする。
ユーノやアルフも、それと変わらない。
「その子を生き返らせるなんて・・・そんな事、出来るわけが無いのに」
「出来るわ。言ったでしょう?アルハザードへ行くって!!」
クロノの言葉も、最早届かぬほどに乱心していた。
「あなたは・・・フェイトちゃんのことをどう思ってたんですか?」
なのはの言葉。それは、親から子への愛情のほどを聞くという、いわば異常なものだった。
「大嫌いだったわ・・・
 あんなお人形みたいな子、作り出したときから、ずっと!!
 そうよ、大嫌いだったのよ、フェイト!!」
が、それ以上に異常な返答を、フェイトに向けて言い放った。
その言葉で、皆がフェイトとシンに気づいた。

 

「フェイト・・・」
シンが、隣に居るフェイトを気にかけていた。
「大丈夫・・・」
全然そうは見えないんだが、フェイトは前進しだした。
そして、プレシアの前までやってくる。
「母さん、もうやめよう?
 こんなことしても、意味、無いよ・・・
 それに、わたしもいるから・・・」
ここへきてもやはり、彼女は母を信じたいのだ。
「フェイト・・・」
駆け寄ろうとするアルフを、シンが止める。
それは、フェイトがしたい事を優先させたかったから、と言うよりも、最後の決別のときをやろうという思いのほうが強かったかもしれない。
「やめれないわ。
 あなたじゃ意味が無いもの」
でも、そんなフェイトの気持ちを、プレシアは汲んではくれなかった。
「フェイト・・・」
シンは、フェイトの元へ行った。
そして、ただ頭を撫でてやった。
「あら、あなたも来ていたのね?」
プレシアは今までシンのみたことのない表情をしていた。
「はい。あなたを、止めにきました」
本当はこんな事をしたくなかったけど・・・
「止めてくれっていっても、止めてはくれないんですよね?」
元の記憶によればあまり好んでなかった敬語で、精一杯の、敬意を込めて・・・
「なら俺は、俺のするべきことは・・・」
頷くプレシアを、ただ、
「あんたを止める!」
マユの携帯電話が、二本のナイフに変わる。

「フェイトちゃん・・・」
なのはが、心配そうにフェイトによっていく。
「大丈夫だよ。一緒に、母さんを止めよう?」
その心配は、確実にフェイトを暖かく包み込み、決心を固めさせる。
「一緒に・・・うん♪」
なのはは、かつて誓った約束と、ちょっと前に誓った約束を果たすため、そして、フェイトのために。
フェイトは、母の、いつも心配してくれたアルフのため、『仲間』と『友達』を知るため、そして、ちょっとだけ、なのはのために。
それらの『ため』は、全て一つの目標へ・・・
(あの人の言った、『運命ではない、未来』、それを、手に入れるために・・・)

「付き合ってられないわね・・・」
圧倒的戦力を前にそう吐き捨て、プレシアは立ち去ろうとしていた。
「まって、母さん!」
「だめだ、フェイト!!」
シンはそれを追おうとするフェイトを止めようとするが、手が届かない。
「こうなったら、アルハザードは私の魔力で!!」
アリシアに近づき、魔法の詠唱を始める。が、
「何ッ!?」
突然、プレシアのいる場所の床が抜けた。
「魔力が暴走したんだ。
 個人の力で名前しか知らない場所にたどり着くなんて、出来たとしても体が持つはずが無い」
クロノが言うには、それはたとえジュエルシードがあっても同じことらしい。
「ああぁぁぁぁっぁあああ!!!」
「母さん!!」
フェイトは、プレシアのいる今にも沈もうとしている床に飛び乗った。
「待て、フェイト!」
シンもそれに続き、なのはたちも行きかけたが、
「いっちゃだめだよ、なのは」
「君も待つんだ、アルフ」
冷静な男が二人、それを止めた。

「母さん!!」
「待てよ、フェイト」
追いつき、フェイトの腕を掴んだ。
「放して、母さんがっ!!」
「あの人を救って、どうするんだ!!」
「え?」
シンにもフェイトの気持ちは痛いほどわかった。けど・・・
「もう駄目だよ、あの人は。
 捕まって、牢屋に入って、死ぬだけだ・・・」
「でもっ」
(生きていたほうがいい。そんなのはわかってる!!だけど!!)
「行かせてやれよ。もう次元振なんてのは起きはしないし、アルハザードにいってもあの人は犯罪を犯したりしない」
それが論点で無いことだって、わかっている。
「それでも、わたしはっ」
地は、今も引き裂かれ続ける。
「くそっ!!フェイト!!」
シンは手を出した。
「俺はお前に生きて欲しい。生きて帰ろう、な?」
もう、嘘の混じった気持ちを口にするのはやめた。
ただただ、自分の願いだけを、告げていた。
「・・・・・・うん」

「クロノ、アルフ。フェイトを引っ張ってくれ」
地が割かれたせいで、地面に高低が出来ていた。
「シン、キミも早く!!」
フェイトを引き上げた後、ユーノがシンをせかした。
「虚数空間が侵食してきている。もう時間が無いんだ」
クロノも心配そうに言っている。だが・・・
「悪いな、携帯落としてきちまったんだ。
 先に行っててくれ」
それはデバイス。大事なもの。それはわかっていた。が、
「何言ってるの?シンくんもいそいで!!」
「お前こそ何言ってるんだよ。
 もしレイジングハートだったら、お前だって行ってただろ?」
「そうだけど・・・でも!!」
「早く行けよ、お前ら。
 俺もすぐに戻るから」
シンは来た道を戻っていった。
そして、非虚数空間で念話を使った。
(クロノ、急げよ?)
(わかっている。君も早く来い!!)
いい男だ。
優しさを隠す事が出来るし表にも出せる人間なんて、以外と稀だからな・・・
(悪かった)
何か文句が聞こえてきた気がするが、もう、それもいい。
(ユーノ、あんたとももっと話したかったな・・・)
(何言ってるんですか?)
こいつは余計なほどに責任を感じていたらしいな。でも・・・
(なのはに伝えておいてやってくれ・・・フェイトはいい奴だから、頼むって)
それだけに、こういうことも任せれる。
(なっ!!)
シンは携帯を拾い、崩れ行く床の上に立ち止まった。
先ほど鎌を奪ったとき、勢いを殺しきれずに斬った足が痛んだ。
(それから二人に・・・ごめんとありがとうを・・・)
そして、念話をやめた。
ユーノもクロノも男だ。きっと、立ち止まりはしない。
(わかってくれとは、言えないけどな・・・)
足の怪我を引きずってたら、魔法の使えないあいつらの足手まといになる・・・
一度は、いや、もう何度も捨てた命のために、子供らを危険にさらすのはごめんだ。

「なぁ、お前は何だ?」
デバイスに話しかける。
「はい?」
「最後に聞いておきたかったんだ。名前は?」
「名前は・・・無いです」
思いもよらない返答だった。
「なんでだ?」
「マスターを見て、私は恐くなってしまったのです。
 大切な人に、忘れられる事が・・・」
シンが、マユを忘れたように・・・
「でも、それは違うだろ?忘れてたって、思い出せるさ。
 名前があれば思い出しやすいかもしれないし・・・」
「その通りでした。まるっきり、私の早とちり、と言うか・・・」
一旦言いにくそうにした後、
「マスターの兄を嘗めていたのかもしれません」
「全くだ。なら、俺が名前をつけてやるよ・・・」
死ぬときに名無しのデバイスじゃあ、辛すぎるもんな、なんて事を思ってると、ついに足場が落ちた。
「すみません。あなたにつけてもらう名前は、聞けそうにありません」
足場など気にせずに名前を探していたが、その思考はさえぎられる。
「どういうことだ?」
「これからあなたをどこか異世界に転送します」
「な、そんな事が出来るのか?」
「はい。とはいえ、私は全ての能力を使い果たす事になって、長く眠りにつく事になりますけどね・・・」
それが何を意味するのかは、容易に想像できた。
「だめだ、そんなの。やらせてたまるか!!」
それでは、ここまで来た意味が無い。
「いいえ、これはマスターとの最後の盟約です。あなたがなんと言おうと変える事は出来ません」
デバイスが輝き始める。
「これでも私は心残りは無いのですよ?
 主の後見人に仕える事の出来るデバイスなんて、そう多くはありませんから」
今まで見た事の無い、魔法陣。
「何処に飛ぶのかはわかりません。が、きっとあなたのもといた世界に返れるでしょう」
世界には重力に似た見えぬ糸がある。
その糸はその人間が永くあり続ければあり続けるほど強くなると言う。
「元の・・・世界・・・」
「ああ、唯に一つの心残りは、あなたに名前をつけてもらえなかった事か・・・
 時が、後少しでもあるならば・・・」
魔方陣はおおきく発光し、シンを包み、そのままシンは気を失った。
(次に目が覚めるのは・・・俺の居た・・・世界・・・か・・・)
気を失ったのに、シンの目からは涙が溢れ始めた。

シンの、今までずっと戦い続けてきた男の降り立った世界は、暗い世界だった。
しかし、シンにとっては十分すぎる光があった。
偽者の優しさに触れたシンは、それが偽者だと気づけなかった。
それ以上に、マユの本当のやさしさが強すぎたから。

そしてシンは、出会って、出会って、別れて、出会った・・・
それは老若男女さまざまだったが、それぞれがそれぞれのやさしさを持っていた。

 

そして、もう一度、シンは『今までいた』世界に、降り立った。

 

「恐い夢でもみてるんかなぁ?」
そこにあったのは、始まりの前の、休暇のような、日常だった。