宿命_第09話

Last-modified: 2007-12-27 (木) 00:19:52

シンはしばらくニコルと話した。
そうしているうちに、元の場所に戻るだけの魔力を確保できた事に気づいた。
そのことをニコルに言うと、
「そうですか」
とだけ、返した。
「俺は、あそこへ戻る」
いろいろと懸案事項が絶えない世界ではあるが、はやてが待っているかも知れない。
「はい。お気をつけて・・・」
ニコルはただ、快くシンを送り出す気しかないのだろう。
だが、シンは違った。
「ここに、ずっといるつもりなのか?
 俺の魔力なら、何とか二人で行く事だって・・・」
願わくば共に行きたい、そんな考えを持っていた。が、
「それは・・・うれしいですけど、ごめんなさい」
「何でだよ!?」
「すみません。でも、僕はそれを望んでいないんです」
それは、はっきりとした拒絶の言葉だった。
「ここにいたってアンタは何をするわけでも無いんだろう?だったら・・・」
シンの言葉を、ニコルは首を振って止めた。
「僕はもう、関わりたくないんです。
 今この状況で、十分満足してますから」
その言葉の全てが真実ではない事は、シンにも分かった。
それと同じく、これ以上は何を言っても無駄だと言う事も、良く分かった。
「僕はもうここから出ることはありません。
 それが、ここに来てまだ生きる事を決めた僕の運命ですから」
運命・・・その言葉が、どんなに便利かを、人は知っている。
「なら、もう何も言うつもりはないけど・・・
 でも、運命なんてのは壊していかなきゃいけないんじゃないか?」
そういって、シンは元の公園へ戻った。

「戻って、来たのか・・・」
既に日が落ちた公園の、陰に当たる部分にシンは降り立った。
どんなにピンポイントに転送できても、相も変わらずこの感覚には慣れることが出来ない。
そして、ポケットを確認する。
「よし、戻るか・・・」
結局あの人はあそこから出ようとはついに思ってはくれなかったようだが、それはもうあきらめるしかないのだろう。
魔力の安定が採れた今、望まなければあそこにはいけない。
そして、望んだところで何処にあるのかは分からないのだ。
「行こう、はやての家へ・・・」
また一つ魔法は謎を呼び込んだ以上、今は目先の解決できそうな事を解決するしかない。

「病院?」
行ってみると出迎えたのは、先ほどクラールヴィントというデバイスでシンに行く方向を教えた女性。
「はい。
 わたし達が驚かせちゃったみたいで、まだ起きてないみたいなんです・・・」
(この人たちにはいろいろ聞こうと思ってたけど・・・)
どうやら後回しになりそうだ。
「分かったあんた達はここにいてくれ」
他に中に居るのは長身のおかしな耳を持つ男とピンクっぽい色の髪の女性。
どうやらもう一人は病院に居るようだ。
「分かりました。それで、そのぉ」
「あ?」
「なんか感じが変わりましたね。
 さっき初めてあったときは破裂しそうな物を抱えていたのに、今は落ち着いた感じです」
どうやらこの人も感覚面に優れているらしい。
引き合いに出そうとしたムウが居ない事に気づき、
「そうか?」
「そうです。何か有ったんですか?」
「えっと・・・そのことはまた後で・・・」
どうせ病院に居るだろうと思い、確かに有った事には敢えて触れずにはやての元へ向かった。
取り敢えず先ほどの女性から敵意や悪意を感じなかった事に、シンは安堵した。

「ん、うぅん・・・」
はやては体のだるさから、余程長い時間眠っていたのだろうかと思った。
「時計が・・・壊れとるん?」
「壊れてないわよ、失礼ね」
声のした方向へ目を向けると、専属医の石田先生がいた。
「あ、おはよぉ」
「はぁ、取り敢えず、待ってる人を呼んでくるわね?」
寝覚めでどうもマイペースなはやてに呆れたようなため息をついて、出て行った。
「あ、よろしくお願いします」
そう言い石田先生の背中を見送り、自分の頭をいじくってみた。
(長い事寝てた割には、あんま髪崩れとらんなぁ)
それに、目脂なども気になるほどは出てないようだ。
そんなこんなを考えているうちに、ドアが開いた。
「よぉ、お目覚めだってな」
そこから現れたのは、ムウというはやて家の居候だった。
「あ、ムウさん、心配かけてごめんな?」
「構いやしねぇよ。
 シンだったら、もう少しで来ると思うぜ?」
ムウははやてがどうもキョロキョロしていたので教えておいた。
自分の感覚では、シンは先ほどこっちへ戻ってきている。
「そっ、そうなん・・・」
はやては考えが見透かされたからか、あるいはムウに失礼だと思ったのか、赤くなって顔を伏せた。

「やっと着いた・・・」
病院には何度か着ているので、道は把握しているのだが如何せん町が帰宅ラッシュなのか混んでいた為、全力疾走とはいかなかった。
「ん?あれは・・・」
入ろうとしたところ、入り口の右側で座り込んでいる少女を見つけた。
「確か・・・」
それははやての部屋に現れた中で、先ほど八神家に居なかった少女だった。
その姿は、はやての家に居たときとなんら変わりは無かった。
「寒そうな格好でまぁ・・・」
近づいてみるとどうやら寝ているようなので、起こすついでに上着をかけてやった。
「ウ・・・ん?」
「起きたか?」
「うぅん・・・何だお前?」
シンは、いきなり失礼な奴だ・・・とも思ったが、流石に子供相手に馬鹿をするつもりは無かった。
「俺は・・・」
「あぁ、主のところに居たひ弱そうな奴」
「んだと!!?このチビ女!!」
うん、『つもり』は無かった。

「それで、お前は何者なんだ?」
はやての病室は3階、折角だからエレベーターを待っていた。
本当は今すぐにでも駆けつけたいのだけれど、こちらも聞いておきたいことであることに変わりはない。
「あたし達は闇の書の防衛プログラム兼蒐集プログラムだ」
「あぁ、悪いけどさっぱりだ」
,2秒置かずに切り返した所為でムッとされたが、少女は続けてくれた。
「要するに主とその主の大切なもの、それから闇の書を護るための存在ってわけだ」
「闇の書ってのは、あの光ってた本の事だよな?
 もう少しマシなネーミングは出来なかったのか?」
「ネーミングって、その辺は関与できねぇだろ」
(なるほどな、こいつの性格がこうも敵を作りやすそうで、だけど意外と話せるってのも仕様なのか・・・)
「わからねぇな・・・」
つい、シンの口からため息のように出てしまう。
「なにがだ?」
「いや、なんでもない」
流石にプログラム云々の話を『目の前で人間のように考えを持っているように見える』少女には聞けなかった。

「っと、この部屋か・・・」
あまり回数来ては居ないので通り過ぎかけてしまう。
「なにやってんだよ・・・」
ぼそっと少女に小言を言われたが、それは無視しておく。
「入るぞ~」
そして、少女はそのまま入っていこうとした。
「?なにやってんだ?」
「いや、病室にノックなしで異性が入るってのは・・・」
「家族なんだろ?変な奴だな」
「病院の前で寝ていた奴に言われたくない」
「な、あれは・・・椅子で寝たらばあちゃん達が座れないかも知れねぇと思ったから・・・」
恥かしそうに言うヴィータを、シンは思わず見つめていた。
「な、なんだよ」
「いや、人は見かけによらねぇもんだと思って」
この少女は相当いい子の様だ。
「なっ!?」
「ついでに言うと、俺も強いぞ?見かけによらず、な」
根に持っていたシンである。

そんなこんなしているうちにドアが開いて、
「お前ら、何やってんだ?」
中から出てきたムウに怪訝そうな顔をされた。

「シン!!」
「はやて。ごめんな、遅くなって」
倒れた後軽く半日は経っている。
「ううん、わたしも今まで寝ちゃってたみたいで・・・」
「そうなのか・・・
 疲れでも溜まってたんじゃないか?最近居候が増えたし・・・」
折角心配して言ったのに、
「もっと増えるかもしれないしなぁ」
ムウに見事に茶化された。
「ううん、別に疲れたからやないよ。
 ただなんでやろ、どうしても起きられんかったんよ」
「疲れなんて知らねぇうちに溜まるもんだ。
 今日はゆっくり休むといいさ、俺とこいつはあの家に戻ってるからよ」
適当に早口で言って、ムウは少女を連れて出て行った。
「何だ、あの人・・・」
「さぁ?でも、家にもまだ人おるって言ってたから、見にいったんやないかな?」
そうなのだろうか?
今まで家に放置してきた人間が考えたとも思えない。
「それは兎も角、あいつらの事、どうするつもりだ?」
シンの個人的な印象だが、少なくとも悪人ではなさそうだった。
「う~ん、行き場所もあらへんやろから、家におってもえぇんやけど・・・」
珍しく即決ではないのは、これで七人にもなるからだろうか?
「そうだよな・・・流石に多すぎる・・・」
「え?あぁ、人数は別にええんやけど、やっぱりご近所には・・・」
はやて一人だったのが七人になれば、誰でも何か思うことがあるだろう。
「シン、なんかいい案ない?」
頼られているからには何か答えを出したいものだ。
「そうだな・・・皆親戚、ってのはどうだ?
 そんでもって俺とムウさんも働いてれば、働き手も有るように見えるしさ」
誰でも思いつきそうだが、これが一番無難だと思えた。
ついでに小学生一人とニート六人というのは世間体もよろしくはない。
「やっぱり、シンは働いたほうがええと思ってるん?」
はやては少し寂しそうな顔をする。

「ってか、俺は少しだけど働いてたからな、バイトみたいな感じで」
この際だからと思ってシンが言うと、はやては本当に驚いていた。
それもそのはず、そのバイト先というのがとてつもなく自由奔放な出勤でいいのだ。
「知らんかった・・・」
ばれない様にシフトを入れることも可能だった。
「けど何で?
 欲しいものがあるんやったら、言ってくれればええのに・・・」
それは不可能な相談だった。なぜなら・・・
「こういうのは、自分で働いて買わないと意味がないだろ?」
そういってシンは、前もって選んでおいたプレゼントを渡した。
「え、あ、えっと・・・」
唐突過ぎてはやては状況を図りかねているようで、言葉が巧く回っていない。
「誕生日おめでとう、はやて」
「えっ、あ、ありがとう・・・」
もう一度驚いたはやてを見て、シンはありえないと思ったが聞いてみた。
「自分の誕生日、忘れてないよな?」
因みに間違えたかとも思ったが、カレンダーには他に誕生日を示唆するものは無かったので除外した。
「・・・・・・いろいろあったやろ?」
忘れていたらしい。
「ま、まぁ、空けてみてくれよ。
 俺なりに似合いそうなのを選んだからさ」
センスには自信なくもない、といったところで、喜んでくれるかどうかは分からなかったが、
「あ、うん」
既にうれしそうに包装を解くはやてを見ていると、少し緊張してきた。
そして、はやてが箱のふたを開けた。
「どうかな?」
中から出てきたのは、金色のクロスチョーカー。
はやてにはサイズ的に少しだけ大きいだろうと思えたが、シンはあえてそれを選んだ。
「キレイ・・・これ高かったんやないの?」
「値段なんて気にしなくていいさ。
 世話になってるのは俺なんだから、これはささやかな恩返しでもあるんだ」
この程度で返しきれる恩ではないが、はやては喜んでくれたようだった。
「つけてやるよ、折角だからな」
自分ではつけ難いわけではないが、かけてあげると喜ばれると買ったときに店員に聞いたのだ。
シンがはやての後ろに手を回し、それをつけた。
丁度胸の上辺りにクロスは下げられた。
「どう?」
はやてが自分の胸部を見、上目遣いでシンに聞いた。
「俺は似合ってると思う」
予想通り、いや、予想以上に似合っていた。
「ありがとう」
先ほどまで少々恥ずかしそうにしていたはやてだが、それが解け、最高の笑顔でシンに礼を言った。