機動戦士ΞガンダムSEEDDestiny166氏_第12話後編

Last-modified: 2009-03-23 (月) 19:14:34

『ポイントFを通過!間もなく〝出現〟するっ!』
MA形態で先頭を飛ぶセイバーガンダムからのアスランの声に、イラムが応じて命ずる。
『よし!6ギャルセン、上昇だ!』

 

「了解!」
頷いた機長のハミルトンが操縦桿を引き上げ、低空を這う様にして編隊を組みながら飛んで来た僚機たちの間から飛び出して上昇する6ギャルセゾンが、地球軍の索敵機器の目の前にと最初にその姿を〝現し〟た。

 

その機上にMSを載せていない身軽さを存分に発揮し、矢の様な勢いで一気に上空まで駆け上がると、
そのまま迫り行くガルナハンの街の付近に展開する地球軍の後方守備部隊の敵MS各機の配置を鳥瞰的に把握する。

 

それに続いて、地球軍の警戒機器の目を攪乱し欺瞞する為に適宜散布しながら飛んで来た、ミノフスキー粒子のベールのその内側から、散布を止め、その姿を〝現しに〟それらの眼前へと一気に飛び出して行く奇襲部隊の各機。

 
 

「ばっ、馬鹿な!? いったいどこから現れたっ!」
地球軍の中で最初にそれに気付く事になった、ガルナハンの街と地熱発電プラントを守備している後方部隊の者達は、等しくその驚愕に襲われていた。

 

地球軍の側にはそれは、まるでワープでもして来たのか?とでも言う様な、文字通り〝忽然と出現した〟としか見えなかっただろう。
こんな処に敵(正確には、現時点ではまだ所属不明機〈アンノウン〉であるが)が現れる筈が無いのだ。
彼らの持つ〝常識〟からすれば。

 

バッテリー駆動のこの世界のMSに可能な作戦行動半径は当然として、母艦である陸上艦ごと迂回を図ったとしても絶対に見逃さず、その遙か手前で発見出来るだけの余裕を持たせた警戒態勢を敷いていた筈だった。

 

その上でなお後方に戦力を回す方策があるとすれば、軌道上からの直接降下だけが唯一の手であり、無論の事それに対しての監視は怠りなくやっていた――そして、この地域上空の軌道上にはザフト艦の影も見えない状態であったのだ。

 

それなのに、何故?
いったいどこからどうやって、ここまでやって来られたと言うのか?
そして、何故こんな至近距離に近付かれるまでその接近を察知できなかったのか?

 

余りにも信じ難い現実に衝撃を受け、何かの間違いではないのか?と言う未だに半信半疑の状態のまま、とっさに対応が何も出来ない地球軍の後方部隊。

 

マフティー側が自分達ならば現実に可能だと、そう具体的な根拠に基づいたプランを示すまではザフト側も納得しなかったのだから、そういう〝常識〟が目の前で覆されている彼らのそんな様子も無理からぬものではあっただろう。

 

しかし現実に奇襲部隊は存在していて、そうしている間にも恐ろしい程の高速で接近して来る――しかも、その姿を現した地点もまた感覚的には〝至近〟の距離であり、態勢を立て直して対応出来る様な余裕などは到底与えられようも無いものだった。

 

そうして地球軍の防衛部隊が右往左往の状態でいる間に、奇襲部隊は易々と彼らのその頭上にと達していた。

 

ガルナハンの街と発電プラントの直衛にと当たっている地球軍の後方部隊の展開は、その双方の中間地点の平地にと主力が集まり、
おそらくはそこから交代で配置されているのだろう、発電プラントの前に立ちはだかる様に立つのと、街中の外縁部に近い比較的動きやすいエリアに散開している、各一個中隊規模の直衛MSが存在する。

 

真っ先に上空へと高度を取った6ギャルセゾンが先駆けて確認したそれらの敵情を受けた奇襲部隊の各機は、街の手前で適宜散開し、一斉に地球軍MS隊の制圧にかかった。

 
 

見るからに分かる程のあわてふためき具合を露呈させながら、防衛部隊主力集団の中からジェットストライカーを増着している3機のダガーLが慌ただしく飛び立つと、ガルナハンの街の上空をフライパスしながら迎撃に上昇してくる。

 

「ッ!? あいつら!」
シンはその敵機の動きにハッとさせられる。

 

それを狙ったと言う様なことでは――少なくとも意図的にそれをしようとする様な精神的な余裕は――なさそうではあるが、敵機はその後背にガルナハンの街を背負った格好にとなっており、
それ故に誤射や、逆に威力がありすぎて撃破後も残ったエネルギーが更にその後方へと向かってしまう事を懸念すると、火器の使用を躊躇わさせられる状況にとなっていた。

 

つい先頃までの彼ならば、敵機を見つけたならば何の躊躇もなく――言い換えればその様な状況もろくに考えもせずに、即攻撃に移っていた事だろう。
それが、誰かがそう判断して上げた声を聞いて、なのではなく、自身で普通にそれが見える様にとなっていたのは、紛れもないシン自身の成長の証だった。

 

『俺が行く!』
そしてシンが思わず口に出して呟いていたそれに、もちろん同様に認識していたアスランが「任せておけ!」と言う風に応えると、MA形態のままのセイバーガンダムを一気にそいつらへと向けて突っ込ませて行く。

 

大慌てで迎撃にと舞い上がって来たダガーL小隊だったが、上昇して行くその動きは芳しいものでは無かった。
そこに前方上空から赤い敵のMAが、重力も味方にして凄まじい勢いで降下突入してくる。

 

どういうわけだか一発も撃ちかけて来ようとはせずに、ただ矢の様な勢いで突っ込んで来るその赤い敵MAの動きに、
(まさかっ!体当たりを仕掛けて来るつもりかっ!?)
そう感じ、慄然としたダガーL隊は、それを防ごうとしての過剰反応的な猛射を開始した。

 

「そんなもので!」
手持ちのビームカービンからのビームに、ジェットストライカー翼下のウェポンラックに懸架されていたミサイルやロケット弾が次々に向かってくるが、
アスランはセイバーガンダムにバレルロールを打たせてそれらをあっさりとかいくぐり、更に突入を続ける。

 

そして中央のダガーLの直前――あと一瞬でも遅れれば、本当に衝突するギリギリのタイミング――まで急接近するや、そこで機体をMS形態へと戻し、それでもってエアブレーキを掛けながら、
セイバーガンダムはビームライフルをグリップした右のマニピュレータを、ぐいと前方へと突き出した。

 

射撃をする――わけではない。
そのビームライフルのバレルの真下にはそれと同軸に沿う格好で、両肩のラックに装備されている物と同じ、ヴァジュラ・ビームサーベルが追加で装備される様にとなっており、
そこからバヨネットビームサーベルの格好で伸びている光刃が、そのまま真ん中のダガーLのコクピットを貫いていた。

 

「なっ!?」
そして両脇のダガーLのパイロット達がそう驚きの叫びを上げた時にはもう、
真ん中のダガーLを斬って捨てたセイバーガンダムが機体をその左手へと流して、自機から向かって左側のダガーLへと肉迫していた。

 

「うおっ!」
そのまま斬りに来るビームの銃剣を左手のシールドを構えて受け止めようとするダガーLだったが、しかしその動きはすかされる。
アスランは防御の構えを取るダガーLのシールドにバヨネットビームサーベルがぶつかるその前に、機体の動きを変えて引き戻していた。

 

そしてすかされてまんまと隙を見せたダガーLの機体に、セイバーガンダムは左足の蹴りを叩き込む――その爪先に伸びた板状の突起からやや短めなビームの刃が発生し、
ビームクロウによる〝蹴りの斬撃〟を食らったダガーLの胴体は見事に真っ二つに両断され、墜落して行きながら二つの爆発となって四散した。

 

「きっ、きさまぁ!よくもッ!」
眼前で瞬く間に仲間を殺られて、それで頭に血が上った残る最後の1機が腰のビームサーベルを抜き放って、自機に背中を見せている格好のセイバーガンダムへと斬りかかって来る。

 

アスランは冷静に機体を素早く左に半回転だけさせると、今度は空力防盾を構えた左腕の方をそのダガーLへと向けて突き出した。
突き出されたシールドの先端が斬りかかってくるダガーLの正面を襲い、盾のその長さに邪魔されてダガーLのマニピュレータは満足にビームサーベルを振るう間合いを奪われ、封じられてしまう。

 

「ちいっ!」
慌てて後退をかけようとするダガーLのパイロットはしかし、それすらもさせては貰えなかった。
突き込まれて動きを押さえられていたセイバーガンダムのシールドの先端から、ダガーLが後退し始めて僅かに開いたその隙間を追いかけてビーム刃が伸び、
それに機体を貫かれたそのダガーLも、結局は僚機と同様の運命を辿って終わったのだった。

 

「すっ、凄い!」
瞬く間に敵の小隊一つを一蹴してしまったアスランの早業に、異口同音に驚きと感嘆の声を上げるザフトの面々。

 

無論のこと技量や機体の差もあっての事だとは言え、瞬時の状況判断から本当に射撃を封印して挑んでの格闘戦のみで完勝してしまった。
(あんな戦い方もあるのか……)
驚きと共に、改めてそう言う事実を認識させられるシンだった。

 

「見事だ、アスラン」
その戦いぶりを見たハサウェイらマフティーの面々もまた、それぞれの機体の中で呟いていた。

 

改修後の初実戦となったセイバーガンダムだったが、彼らが指摘し、また改設計のプランニングへの助言も出したり、実際の製作にも協力を行っていた、
近接戦に特に優れた技量を発揮するアスランのパイロット特性にマッチする方向へとセイバーガンダムガンダムのコンセプトを拡張すると言う、改修の要点は見事に成立している様だった。

 

その機体デザインからは一見すると窺えないが(と言うのは苦笑するしかない点であるかも知れないけれども)、基本的にMSとしてのセイバーガンダムは、
前大戦の伝説となった核動力機フリーダムのデュートリオン化モデルとも言える、高い火力と機動性を持った長~中距離戦用の機体と言うそのコンセプトを継承する機体であった。

 

更にそこに航空機型のMA形態への変形能力をも加える事で、かつてのアスラン自身の愛機でもあったジャスティスとは異なるアプローチ法での、高速展開で自機に優位な間合いを取る事を可能としている。

 

その火力と可変機構の組み合わせにより、セイバーガンダムは長距離から侵攻し、その火力でもって強襲の一撃を加えて素早く離脱すると言う、ヒット・アンド・アウェイの戦法に適した機体となっていた。

 

アスランは全般的に卓越した技量の持ち主である為、その機体コンセプト通りに運用する戦い方も無論充分にこなせていたわけではあったが、
残念ながらセイバーガンダムと言うMSのそのコンセプトでは、彼自身に最も適正のある近接格闘戦への対応と言う点ではやはり、かなりの不満を覚えざるを得ないものでもあったのだ。

 

カーペンタリアで重ねていた合同訓練の中で、その辺りの齟齬に気付いて指摘し、改修を勧めていたマフティー側だったが、
それの準備中の段階で起きたインド洋での地球軍の大部隊との遭遇戦では、はからずもその指摘の正しさも証明される事ともなっていた。

 

たらればの話ではあるが、もしあの時点で改修によって追加されている現在の近接戦用兵装類の用意が一部でも間に合っていたならば、ネオ率いる地球軍部隊が採ってきた、機数を頼んだ緩包囲戦術の壁を文字通りに自力で斬り破る事が出来たであろう。

 

そのセイバーガンダムに、本来の機体コンセプトを崩す、あるいは干渉させる事なしでと言う条件の下、進められた現地改修とは、
一言で言えば多彩なビームサーベル類装備による、変則的かつスピーディーな近接格闘戦移行能力の付加、と言うものであった。

 

――具体的にはビームライフルと空力防盾の先端へのビームサーベルと、両足の爪先の部分へのビーム刃発振器の、それぞれ追加装備と言う事になる。

 

ビームライフルの銃身の下にビームサーベルを増着したのは、銃口から発振するロングビームサーベルとしての運用も可能なマフティーMSの持つビームライフルを目にしての発想であったのだが、
U.C.式MSの物の様にビーム砲をサーベルと兼用させる事は技術的にまだ難しい(現状では対艦刀クラスのサイズになってようやく可能になるくらいだ)なC.E.のMSとしては、
その代わりに銃身のバレルに同軸でビームサーベルのデバイスを銃剣として装備させる事で、同様の使い方を再現させていた。

 

また、空力防盾の方にも先端にビームサーベルを装備する複合防盾化改造を行うと共に、両脚部の爪先にはMA形態時には補助垂直尾翼の様にも見える(整流効果にも若干は寄与してもいる様だ)ビームクロウの発振器を追加している。

 

両手の手持ち装備に付属のサーベルと、両足爪先のクロー、四肢それぞれでビーム刃を操るその様は、アスランのかつての愛機のイージスガンダムを再現したかの如き格好であり(実際、マフティー側はそれを意識していた)、
抜剣モーション無しでダイレクトに格闘戦に移行する事ができる能力を付加された事により、今やって見せた様に「セイバーガンダムの特性を活かしての〝ヒット・アンド・アウェイの格闘攻撃〟と言う戦法」も可能になっていたのである。

 

無論、この改修によって得た新たな戦術的特性は従来の基本コンセプトと干渉する事もなく併存出来るものであった為、純粋にセイバーガンダムの能力が拡張したと言ってよいだろう。

 

ちなみに、それら改修用の追加装備の出元は?と言えば、実に簡単な話で、
本来はミネルバに搭載される予定だった3機のセカンドステージシリーズのガンダムたち、また奪われたその3機に初陣であっさりと撃墜されてしまった2機のゲイツR用にと用意されたまま、
無為に埃を被っているしかなくなっていたそれらの各機の整備用予備パーツ類を流用していたのだ。

 

ヴァジュラ・ビームサーベルはアビスガンダムを除いたセカンドステージシリーズ機全て(インパルスガンダムはフォースシルエット)に標準装備された武装であり、その分在庫も豊富であったし、
空力防盾に追加されたビームサーベルはゲイツRの複合防盾用の物をフェイズシフト対応化させ、また両足のビームクローはカオスガンダムが装備しているそれであった。

 

言葉は悪いが、ただの無用在庫と化していただけのものを再利用して有効活用できてしまうと言う事でもあった為、艦内ハンガーの設備レベルでも充分に改修も運用も可能だったと言うわけだ。

 

余談ながらその辺りの発想の〝柔軟さ〟こそは、テロ組織であるが故に常に台所事情の苦しかったマフティーの面目躍如(?)だったかもしれないが、
むしろそういった部分こそが、エイブス整備主任らベテランのコーディネーター達には特により大きな感銘を与えていた様でもあった。

 

本作戦にあたっては、作戦立案や現地潜入と言った立場故の事情で合同訓練には余り時間が割けなくなってしまっていたアスランではあったが、
ハサウェイのΞガンダムを相手に一対一での短時間ながら高密度の訓練を行い、新たな可能性を得た愛機の拡張されたポテンシャルを十二分に引き出せる様にとなっていたのは流石と言うべきだろう。

 

アスランのその鮮やかな手並みは味方の士気を高めるのはもちろんの事、敵を驚愕させて怯ませ、あるいは気を呑まれての隙を作り出す効果さえも生じさせていた。
そして地球軍の側がそうなっている間にも、攻撃側のマフティー・ザフト合同部隊の方は動きを止めずに各々の攻撃目標へと向かって襲いかかって行く。

 

侵攻方向の手前側にあたるガルナハンの街中に散開するダガーLやストライクダガーに対しては、その立つ場所が場所だけに文字通りの〝制圧〟をせねばならない。
故に1機1殺の体制で、レイのザクとインパルスガンダムを加えたメッサー4機が取りかかると言う態勢決定も一瞬の内、もはや阿吽の呼吸だ。

 

街の手前で左右に分かれたギャルセゾン隊と両ザフトガンダムは、上空から見下ろせばX字を描く様に互いに交差しながら街の上空を駆け抜け、その間にギャルセゾン隊からは計5機のMSが離脱し、街中への降下にと移って行く。

 

残るメッサー2機とルナマリアのザクはギャルセゾンに載ったまま、編隊はそれぞれ街の上空をフライパスすると、
そこで線対称形に互いに変針し、再度X字を描く進路にと共に直進、その軸線上にいる地球軍守備隊の主力へと突撃。

 

そして発電プラント直衛に就いている一個中隊に対しては、Ξガンダムが単機で向かう。

 

以上の三派の態勢に分かれて、同時に襲撃に入る奇襲部隊。
地球軍守備隊の側から見れば、何が起きたのかを理解しきるより先に全ては決していた様なものだった。

 
 

「うおおおおっ!」
インターセプターに向かってきた小隊をアスランが瞬殺して開いた道を、猛然と突き進むインパルスガンダム。

 

自機が受け持った標的のダガーLの斜め頭上から、一気に急角度のダイブをかける。
狙われたダガーLの方もビームカービンを上へと向けて盲撃ちに撃ちかけてくるが、フォースインパルスガンダムの機動性には到底追従できる様なものではない。

 

シンは一気にガンダムをそのダガーLの眼前の地表スレスレにまで肉迫させると、足裏で路面を蹴って強引に、そして一気に機動を変えてその懐へと飛び込ませる。

 

機体の左肩をダガーLの右の脇下からぶち当てて、肩のフレームを歪めさせて腕ごとビームカービンを封じ、
続けざまにその跳ね上げた右腕をきめる様にしながら足を払って、ダガーLの機体を腹這いに路上にと組み敷いた。
そのまま馬乗りになって、両腰から飛び出したフォールディングレイザー対装甲ナイフを両手に構えるや、ダガーLの後頭部と左脚にとその刃を突き立てて破壊し、物理的に可動不能の状態へと追いやった。

 

「はっ、当たるものかよっ!」
そう叫ぶガウマンらメッサー隊の方もまた、レイのザクファントムも交えてインパルスガンダムと同時に頭上からそれぞれの分担するダガーLやストライクダガーへと仕掛けていた。

 

これまた同様に、それらのダガーLやストライクダガーも必死にビームの火箭を打ち上げては来るが、やはり奇襲部隊の面々にとってはそれらは全て的外れか、簡単にかわせてしまう程度のものだった。

 

全天周モニターではないC.E.世界のMSたちには、頭上は対応の死角に近くなると言う点を突き、メッサー隊とザクファントムはほとんど直上に近い大仰角から一気に降下をかけていた
――敵機の反撃も受けにくくなると言うのと同時に、そうする事で向けて来られる迎撃の火箭も全て上空にのみ向かうので、
ダガーLやストライクダガーの周囲の街並みに流れ弾が向かうと言うのを防ぐ事にもなる、その両方の狙いがあるわけだ。

 

エメラルダのメッサーは標的としたストライクダガーの頭上からその機体の真後ろにと降り立つや、
ストライクダガーが慌てて機体を反転させてくるその途上でもう、抜き放ったビームソードアックス(ビームピック状態で発振)を交叉法でその頭部にと叩き込んで粉砕し、
やはりそのまま敵機へと自機をぴたりと密着させて押さえながら片足を取って、うっちゃる様にその機体を路上にと押し倒すと、その機体各部を付属のヒートナイフで無力化する。

 

他のメッサーやザクファントムもほぼ同様のやり方で、それぞれの担当したダガーLやストライクダガー。を制圧して行った。

 

街中にと立つ事で、ある意味住人や街の建物を盾に取った様な格好でいる敵機である為に、爆散させない様に撃破せねばならないのは当然として、
また無力化した機体が建物へと倒れ込む事の無い様に、何もない道路上へと倒れ込ませる――無論、圧倒的な性能と技量の差があっての事だが、そんな芸当が普通にこなせるのもまた、彼らくらいのものだった。

 

『アスラン!こっちも全機、射点確保だ!』
反対側の編隊をリードする1ギャルセゾンのレイモンドからの声に、アスランも間髪入れずに返した。
『了解!全機、攻撃開始!』

 

命令一過、二編隊に分かれて左右斜め前方から同時に迫る各機から、一斉にアウトレンジの猛火が飛び出した。

 

互いに斜め前方から突撃している為、敵部隊の後方に発電プラントの施設を背負わせる格好になるのは外しており、今度は遠慮なく撃てる。

 

セイバーガンダムにガナーザクウォーリア、モーリーとロッドの2機のメッサーと、各2門のメガ粒子砲を持つギャルセゾンが全部で4機。
これらによる十字砲火の交点に地球軍守備隊主力を捉える位置を押さえるのを確認しあってからの射撃開始。

 

狙われた地球軍の側こそ災難だった。
ドッペルホルン連装無反動砲のストライカーパックを増着した砲戦仕様のダガーL2機は、ある意味当然ながら真っ先に狙われ、
セイバーガンダムのアムフォルタスと、ガナーザクのオルトロスの初撃で隣の機体も巻き込んで撃破される。

 

『敵に時間は与えられない!一気に制圧するんだ!』
レイモンドとアスランが異口同音に叫び、魔弾の射手達が放つ破壊の矢が迅速に繰り出され、それに見合った結果を立て続けに現出させて行く。

 

奇襲を受けた事に慌てふためいたまま、悪夢の様な迅速さで繰り出されて来る奇襲部隊の戦闘スピードの奔流の中にと呑み込まれ、そのまま為す術なく彼らはただ壊滅していった……。

 
 

「一気に決めてやるッ!」
地熱発電プラントを背にして展開する、直衛の地球軍MS一個中隊へと正面から仕掛けるハサウェイ。

 

こちらもまた、あえて真っ正面から挑む事で敵機の攻撃を誘引し、同時にその巨体での超音速の進行速度による心理的圧倒で、敵パイロット達に発電プラントを盾に取ろうなどと思いつく様な余裕をも奪うと言う狙いだった。

 

全身に光輝をまとって、通常より二周りほども大きいMSが低空を超音速でまっしぐらに自分達の方へと突っ込んで来る。
対するダガーLおよびストライクダガーから成る中隊は、目に見える程に明らかな動揺の渦中にいた。

 

恐怖感にと襲われながら、そこから逃れようとする反射的な反撃の猛火が浴びせられてはくるが、もとより浮き足だった攻撃である上に、
Ξガンダムの速度が余りにも早過ぎて(そもそもからして「超音速で地表スレスレを飛んで来るMS」など、彼らの常識の範疇外であった)照準も定まらない盲撃ちでは、Ξガンダムの影すら踏めない。

 

一気に敵中隊へと肉迫したハサウェイは、急減速をかけながらガンダムの右腕に背面のビームサーベルを抜き放たせた。
実はこの世界へと導かれてから後、Ξガンダムがマニピュレータにサーベルを構えて使うのは実戦では初めての事だった――戦い方に余裕があったと言う事の証明でもあるが、
今回はハサウェイも近接戦で一気に片を付けてしまうつもりでいたと言う事だ。

 

そして、Ξガンダムの方も自機からの攻撃を開始する。
その初撃は敵機まではまだ届かない段階で、サーベルを握った右腕から放たれた重機関砲による実弾射撃だった。

 

基本設計のルーツであるνガンダム(Hi-νガンダムとも呼ばれる、アムロ・レイ最後の戦いとなったアクシズ攻防戦のその最終局面で完成が間に合い、乗り換えた「本当のνガンダム(RX-93-ν-2)」)
の設計を継承して右の前腕部のフレームに同軸で装備されている重機関砲で、向かって右側にいるダガーLを狙う。

 

ドドッ!と言う発射音も一瞬しか続かない、僅か一連射。
だがそれだけで狙われたそのダガーLは腰から下の両脚部を爆砕され、残った上半身が真正面から大地にと勢いよく倒れて落ちる。

 

頭部バルカン砲よりも大口径で、威力も射程も大きい重機関砲――ヘビーマシンガン、あるいはメガガトリング砲と呼ばれる近~準中距離用の火器の、〝本来の有効射程距離のその手前〟からハサウェイはそれを発射していた。

 

装甲の水準で遙かに劣っているC.E.世界の一般型MSに対しては、U.C.世界では標的にダメージを与えられるだけの威力を無くす上限距離を越えて後でもなお撃破できるだけの威力があるのと、
低伸性に優れているとは言え、その弾道は既に物理法則に従って地面へと落下して行く曲線を描いているが故に、機関砲弾は敵機の下半身部分にのみ集弾し、それより後方へ流れ弾になる事は無い。
その絶妙な〝距離〟を見定めて、ハサウェイは初撃にこの武器を選択していたのだ。

 

更にもう一度、重機関砲からの火箭が伸びて、右側に展開していたストライクダガーが同様にその上体を地面へと叩き付けられる。
足を止めていなければまともに命中を期待できる射撃も行えず、その上肝心のその射撃の方もただ盲撃ちにする事しか出来ないMSなど、ハサウェイとΞガンダムの前ではただの標的も同然だった。

 

恐るべき早業であっと言う間に戦力を1/3減させたΞガンダムが、そして近接格闘攻撃を仕掛けられる間合いにと残りの敵機を捉える。

 

『うっ、うわあああッ!』
地球軍パイロット達がそれぞれにそんな絶叫を上げる時にはもう、Ξガンダムが構えたビームサーベルの蒼い光刃に自らの機体の頭部を、続けて脚部を薙ぎ払われている。

 

オートリミッターの働きで、斬撃動作に入ってからそのビームの刀身を発生させる省エネ型の基本仕様は、同時にその光刃の長さを隠す働きもしている――言わば、ビームサーベル版の居合術とでも言えようか。

 

こちらもかつてのνガンダム系MSが採用していた設計思想を引き継ぐものである両肩のメイン・ビームサーベルは、通常のビームサーベルを上回る出力を持つハイパービームサーベルだが、
柄尻の側からも同時に(こちらは通常のビームサーベルと同等の形状、威力となる)裏側のビーム刃を形成する事も可能であり、
ザフト製ガンダムの多くに装備される、柄尻で結合して1本のナギナタ型〈アンビテクストラス・ハルバード〉を取るビーム刀剣類と同様の使い方を、単体で実現する事ができる。

 

その状態でサーベルを振るう右腕を素早く切り返して、センサー・カメラ類の集中する頭部と、MSを佇立させる脚部をほとんど同時に薙ぎ払い、爆散させる事なしに無力化して行くハサウェイ。

 

殺さずに~などと言う気取りや、お子さまの単なる不覚悟の具現化でしかない〝不殺〟などとは全く次元の異なる、
「巻き添えを絶対に出さない事」と言う命題を背負って、戦闘目的達成の為の「手段であり、またその結果としての〝不殺〟」だと言う事にそれは過ぎないわけだが。

 

とは言え、マフティー側が行動を共にするミネルバのザフトパイロット達にも徹底させ、そしてその彼、彼女らも見事にそれに応えて見せていたそんな戦い方は、
期せずして後に対峙する事となる〝大いなる思い違い〟をしている者達の歪なそれとの根本的な差異と言うものを、実戦の中において自ら学び取らせると言う結果にも繋がっていたと言うのは、やはり運命の神の差し金と言える様なものであったかも知れない。

 
 

「よおし、行くぜっ!」
「おおっ!!」
三派に分かれた奇襲部隊が、それぞれの担当した敵群を制圧完了したのを示す信号弾を打ち上げる――それが3つを数えるのを確認するやいなや、その瞬間を待ちわびていたレジスタンスのメンバー達も行動を起こした。

 

ガルナハンの街中の幾つもの家屋にと少人数ずつのグループに分かれて潜伏していた者達が、一斉に蜂起する。
地球軍のMSが〝上空から降ってきた〟MSにと攻撃され、無様に路上へと倒される――しかもその助っ人のMSたちときたら、
街の家屋には被害が出ない様にと大して広くもない道路上へと、きっちり倒すなどと言う離れ業をやってのけるのを見せ付けられては、彼らのボルテージも一気に上がるのも当然だった。

 

その中にあって、リーダー的な役目を担わされている者達は興奮の中にありながらも気付いていたが、助っ人に来てくれたそのMSたちは同時にそうやって倒した地球軍MSの機体を、言わば即席の壁に仕立ててくれてもいたのだ。

 

街中にいる地球軍歩兵達にとっては動きの妨げとなるだろうが、幾らでも抜け道を知っている自分達の方はそれでより有利になる戦い方が出来る。
気付いたその事実を皆にと教えながら、街中で蜂起したレジスタンス達はそれぞれ地球軍が歩哨所等に接収して居座る各所に向けて一斉に攻撃を開始する。

 

「返って来る、やっと返って来る!取り戻すぞ、発電所を!俺達の暮らしをっ!」
同時にガルナハンの街の外の方でも、口々にそんな叫びを上げながら発電プラントへとひた走るバギーやバイクに乗った一団がいた。

 

直衛に就いていた地球軍のMSが撃破された事で、地熱発電プラントを制圧して取り戻す為にと編成されていたこちらの一団も勇んで車を走らせる。

 

彼らは眼前に背中を向けて仁王立ちしているΞガンダムの勇姿に向かって口々に歓声を上げ、拳を突き上げながら銃を手に手に発電プラントの敷地内へと次々と駆け込んで行く。

 

しかし、幸いな事に発電プラントの施設内での銃撃戦が~と言う事にはならなかった。

 

眼前で守備隊の味方MS隊が一蹴され、しかもそれを為してのけた巨大なMSは、威嚇する様にビームライフルを手にして自分達の方を睨みつけるかの如く立っている。
Ξガンダムのそんな姿にと圧倒されていた拳銃程度の武装しか持たない地球軍の工兵・軍属らは、
『降伏せよ!〝我々、マフティー・ザフト同盟軍は〟降伏した諸君の生命の安全は保証する』
とのガンダムの機外スピーカーからのハサウェイの呼びかけに、あっさりと両手を上げていたのだった。

 

――巧妙だったと言えるのは、自分達にさっさと降伏するならば捕虜としての正式な待遇を約束するが、拒むのならばこの地域の住民達の組織したレジスタンスを相手にそれを要求してみるか?
と言う、単純明快な事実をにおわせての脅し……もとい、〝説得〟をしていた点だった。

 

そういうわけで、勢い込んで駆け込んで来たレジスタンス達は拍子抜けをさせられる事になったわけだが、
その彼らの中に同行していた、ガルナハンへと隠密裏に入り込んでの諜報活動や今日のこの日の為の連絡、武器の手配等に従事していたラドル隊派遣の工作員らが心得たもので、
早速レジスタンス達が感情のままにそれら地球軍兵士、関係者達に手を出す事のない様にと制し、拘束して捕虜にする手順を進めて行く。

 

かくして、強制徴用されて発電プラントで憎むべき侵略者地球連合軍の為にと働かされていた、元からの技師達とレジスタンスの面々が手を取り合って解放を喜び合う中、
なんとそこにおいては一人も死者を出す事も無しに、発電プラントは無傷でガルナハンのレジスタンス達の手にと奪還されたのだった。

 

ザフトのエージェント連とレジスタンス達のリーダーに以後の処置は任せると、ハサウェイはΞガンダムをローエングリンゲート方面にと回すべくΞガンダムを再び飛び立たせる。

 

奇襲の成功によって戦闘目的の半分は達成したが、もう一つ、ローエングリンゲート要塞と言う障害物が残っており、それはこの地域の為にはならない排除しておくべき存在だった。

 
 

『すっ、凄すぎる!奴らは化け……うわあああッ!』
そんな絶叫を最後に、後方守備部隊との最後の通信も途絶した。

 

無論、それまでに同種の魂消える様な悲鳴や、絶叫する様に至急の来援を請う声の数々が、短時間にローエングリンゲート要塞の司令室に木霊しては次々と消えて行っている――後方部隊の陥っているであろう状況は、誰の耳にも明らかだった。

 

そんなまさかの状況に、要塞司令室内は大混乱の坩堝と化していた。
後方部隊と同様に、どこからどうやって現れたのか?と言う、〝常識〟から考えれば当然の疑問に驚愕しているその間にも、
状況表示スクリーン上には恐ろしい速度で後方部隊を示すシグナルが途絶して行く様が刻々と映し出されている。

 

何かの間違いではないのか?
初めはそんな願望混じりの(ある意味自然なものではあるかもしれないが)意識でいた彼らは、遅れてそれが意味する事実に気が付き、愕然とする。

 

「ッ!? は、発電プラントがっ!」
敵によって破壊される。
と、それ以外の可能性を考えられぬと言う辺りにこそ、この地域をその力でもって制圧している彼ら地球連合軍の他ならぬ〝本質〟が端的に現れていたとも言えるだろう。

 

そんな彼ら地球連合とは違う対し方をもって臨むと言う今現在のザフト側の姿勢は、当然ながら政治的な意味合いも考えての事ではあるが、この地域の人々をその圧制から解放すると言う「大義」を掲げて戦っているわけで、
それをただのお題目では無い実践として行うと言う事は即ち、事後(戦後)の復興やその為の援助と言った体制作りの事までも含めたビジョンを定めて、それに基づいての戦闘の方策も定めている――
その辺りの再確認と、より深化させての構築。そして意識の徹底に大きく関与していたのが、戦争は政治の一形態であると言う事を良く理解しているマフティーの者達だったわけだが。

 

それまでの歴史的な経緯を考えれば無理からぬ事ではあるかも知れないが、2年前の大戦の頃には欠落も同然だったものを、
だからこそ今次の戦争においては自戒の意味合いからも重視しようと言うドクトリンでもってやっている現在のザフト側が、後先考えずに純粋な軍事目的のみ(敵勢の覆滅のみを目的として)でただ単に破壊などするわけが無いのである。

 

つまり、そんなザフト・マフティーの側はもう、
未だに2年前と何も変わらない、「殲滅の為の(手段としての)戦争」――その先にあるのは、果てしなく続く「戦争のための戦争」しかなくなるわけだが――と言う感覚でもって未だに戦っている地球軍とは、
全く違う次元の意識でもって戦争を行うと言う方向へと、確実に舵を切っているのであった。

 

この世界に濃厚に漂っている、末期的な精神病理と言うべきそれをこそ打破すべきものであると言う認識において一致できたからこそ、
マフティーの側はこの異世界に関わる上で、デュランダル議長率いるザフト――プラントとの同盟を選べたのだとも言えよう。

 

そんな「新しい道」へと向かう為の戦い、と言うスタンスでの戦争を選んでいるマフティーに加勢された現在のザフトはもはや、
新たな時代をもたらす「歴史の見えざる流れ」に乗ろうとし始めている者達なのだった。

 

神の視座でと歴史を見た時に、勝利者の立場がその天の時を得ていない者へと与えられる事は決してあり得ない。
それを想像すらも出来ないと言うのが、地球連合のその限界と言うものを端的に示していたと言ってよい。

 

即ち、この地域に生きる住人達の事など、地球連合の頭の中にはこれっぽちも無い――即ち、過去のプラントに対する理事国の態度と同様、その義務を果たさぬ(果たせぬ)統治者などに、その権利や正当性を主張する資格は無い――と言う事であったし、
更に本質的に踏み込んでみるならば、それは自分達が〝そう〟であるからこそ、相手も同じくそうであるのに違いないと勝手に決め付ける――
彼らの様な〝末端〟はおろか、故ムルタ・アズラエルやロード・ジブリールと言った自分達の独善的な〝正義〟を振りかざし、その実現の為の戦争を望み、煽っている者達の多くがそうであるわけだが
――と言う、この世界そのものに以上に強く漂っている「悪しき集合無意識」の現れであったろう。

 

なんの事はない、そんな彼らが真に怯えているのは〝そんな己自身の心の鏡に写った鏡像〟に対してであるのに過ぎないのだが……。

 
 

ともかく、その様な事情も内包している事もあって地球軍の側は司令部以下、純粋な軍事的見地以外の部分も併せての再びの大混乱にと見舞われていた。
ローエングリンを筆頭にする、要塞の大需要を賄っていた地熱発電プラントが破壊されてしまえば、いかに友軍が防衛に奮戦しようと、この要塞の命脈は尽きる。

 

どんな手品を使って奇襲をかけて来たのか?などを考えるのは後回しにして、とにもかくにも直ちに後方へ増援兵力を送り、敵を追い払わねばならない!

 

そう考えて司令部が一部戦力への後方転進命令を出す事で、当然ながら正面攻撃の敵主力との攻防戦の真っ最中の友軍に大混乱を生じさせると言う悪循環に陥る地球軍だった。

 

『後方にも敵!? ええい、何をやっているかッ!』
まさかの急報と、それに対して右往左往している友軍司令部の姿の両方に、舌打ちする様に叫ぶユークリッドの機長。

 

敵がこちらの都合で動いてくれるわけがないのだから、どうであれ対応する方策を考えておくと言うのが司令部の仕事である筈だと言うのに。

 

混乱の原因は、その要塞司令部がこちらの戦線は維持させたまま、兵力を引き抜いて後方へと差し向ける部隊を用意しようなどと、安直に考えるからそうなっているのだ。

 

本来は戦術予備でもある筈の、要塞の至近でその直掩の格好になっている部隊を動かそうとはしないのは、要塞の上の連中の無自覚な我が身かわいさの意識の現れだろう。
現状では遊兵となっているそちらだけを動かしていれば、こんな混乱に陥る様な事はない筈だ。それを……。

 

愚劣な味方(特に上層部)は、敵よりも遙かにタチが悪い。
その事実に舌打ちはしながらも、前線で戦う友軍の将兵達の為にと自らもそこに立ち続けながら的確に指揮を続けているユークリッドの機長だった。

 

『ゲルズゲーはこちらの戦線に固定!姿さえあれば敵を釘付けに出来る。MS隊は攻勢よりもゲルズゲーを守りつつ防げ!敵の足が止まるまで持ちこたえればいい!後方部隊は転進に備え!』
そう、矢継ぎ早に指示を下して行く。

 

本来ならば、ガルナハン駐留部隊の所属ではない彼が(司令部が健在の状況下であるにも関わらず)指揮を下すのは完璧な越権行為ではあるのだが、
前線に身を晒して戦っている将兵達からすれば、自身もそこに立つ前線のその空気から、戦いの流れを肌で感じ取りながら的確な判断が下せる才能を持った者は、
後方から好き勝手に的外れな命令ばかりを乱発して足を引っ張ってくれるだけの無能な上層部よりも、余程頼もしい存在であった。

 

そうしてユークリッドはデグチャレフ・ビームキャノンを三連射して迫る敵軍を牽制するや(その内の一射でバグリイの前部主砲を見事に吹き飛ばしていた)、自ら後方へと向かうべくその機体を反転させて、後背側へと転進を始める。

 

驚いた事に、声をかけられずとも独自の判断で、要塞司令部の許可も求めずにユークリッドにと従って転進して行く直掩部隊も複数あった。
それらの者達も無能な司令部の、余りにも遅過ぎる命令など待っていられなくなったと言う事だった。

 
 

――そう言った小さな事実の一つ一つは、彼ら地球連合軍の中にも前線に立つレベルではそれぞれに優秀な者達はちゃんといたと言う事の証明だったであろう。

 

惜しむらくは、彼らのそんな奮戦もマフティーの前においては状況を覆すには至らないと言う点だった。
彼らはその状況下で充分以上に迅速に対応をしていた――ただ、その奇襲を掛けて来る方が〝尋常でなかった〟だけなのだから。

 

距離は短いものの、要塞の後方から更にしばらく――ガルナハンの街や地熱発電プラントの置かれた平地に出るまで――続く峡谷を、そちらの方向へと急ぐ彼らの側面を衝くように、
機数はごく少数ながら、第三の敵部隊が戦線にと新たに姿を現した。

 

後方部隊の主力を得意の長距離射撃で一気に壊滅させた、セイバーガンダムとガナーザク及び2機のメッサーを載せた1、3ギャルセゾンから成る奇襲部隊ブラボーグループの3機編隊が、
戦術統制機の任に就いているとは言え、要塞への攻撃にと移行したこの段階においては上空からの支援攻撃程度は行う様にもなる6ギャルセゾンを加えた戦力で、真っ先に要塞攻防戦の渦中へと加勢に到着したのだった。