機動戦士ガンダム00 C.E.71_第10話

Last-modified: 2011-04-12 (火) 00:33:19

「遅くなりました!」
「おおっ、坊主こっちだ!」

 

キラがパイロットスーツを身に着けハンガーに到着すると、そこは既に戦場の様な忙しさだった。
無秩序に整備士達が忙しなく動き回っている。
その中で、唯一立ち止まって話し込んでいる一団が目に留まった。
その中のムウが手を振ってキラを呼ぶ。隣には刹那が、前にはマリューがいて、
どうやら機体説明を受けている様だ。
「フラガ大尉、真面目に聞いて下さい。メビウス0はまだ・・・」
「ガンバレルが2基しかないんだろ?大丈夫さ。それとも、俺が心配?」
「分かりました。マジリフさん、」
「・・・・・・」
扱いに慣れたのか、マリューは自信満々に答えるムウを華麗にスルー。
刹那の方を向き、ジンの説明に入った。
「修理は終わっていて、装備も整っています。ご注文だった、敵機との識別用塗装もバッチリです。
 ただ、前回の戦闘で特に被害が大きかった左腕のフレームが心配です。無理はさせないで下さい」
「了解した」
ジンのパーツは、装甲こそ換えに余裕があるものの、フレームに関してはその限りではない。
補給に頼れない現状では、無茶が出来る状態ではなかった。
「僕のストライクには、何かありますか?」
「ああキラ君。ストライクは準備万端よ。元々その為の艦だもの」
「有難う御座います」
いつの間にか傍にいたキラは、その報告を聞くとそのまま走ってストライクの下に向かっていってしまった。
「ヒュー、どうしたんだ坊主の奴。やる気満々だな」
「フラガ大尉も見習って、早くメビウス0に乗り込んで下さい」
「なぁに言ってんだよ。それを言うならMr.色黒だって・・・ああっ!?」
ムウが振り向くと、さっきまで隣にいた刹那はそこに居らず、既に乗機であるジンに乗り込もうとしていた。
「あの野郎ぉ・・・」
「ほら、まだ敵機が出撃していないといっても油断出来ないんですから!」
恨みがましく刹那を見るも、マリューに押されて仕方無く愛機の下に走って行くムウ。
やっと全員が乗機に収まると、マリューがブリッジにMS発進準備完了の通信を送った。

 

ストライクに乗り込むのはこれで3度目である。流石に起動の手順も手馴れてきた。
スムーズにコクピットに乗り込むと、シートベルトを装着、計器を起動させて行く。
整備士のマードックに「Good Lucky!」と言われたのを最後にハッチが閉じた。
すると、ハンガーの反対側に直立している刹那のジンがモニターに現れる。
ジンは全身を蒼く塗装され、所々に蛍光緑のラインが入っている。
キラが瞬時に判断出来る様にと、刹那がマリューに頼んだ物だった。
実際、ヘリオポリス跡で彷徨っている最中に刹那のジンと出くわした時は、
思わずイーゲルシュテルンで攻撃してしまった。この色なら、焦っていても見分けが付くだろう。
『MS、MA各機は出撃準備。
 順番は1番ハッチからメビウス0、2番ハッチからジン、最後に1番ハッチからストライクです』
早速オペレーターを任されたミリアリアの声がヘルメット内に響く。
初めてだからか、かなり強張った固い声だ。
『嬢ちゃん可愛い声してるなぁ。おっさん頑張っちゃうぜ』
『おっお世辞なんて要りません』
彼女の緊張を敏感に感じとったのか、ムウがフォローを入れた。恥ずかしがるミリアリアが初々しい。
メビウス0とジンがカタパルト前に移動を始める。
『キラ』
「はい」
『今回、ストライクの装備は自分で決めろ。各装備のデータは分かっている筈だ』
「了解しました」
刹那に言われるまでも無く、キラは最初からそのつもりだった。
自分で戦うと決めたのだ。使う武器ぐらい、自分で決められなくてどうするのか。
『メビウス0及びジン、カタパルト固定完了。システムオールグリーンです』
『了解だ!ムウ・ラ・フラガ、出る!』
『ジン、発進する』
オレンジと蒼の機体が勢い良く暗い宇宙に弾き出されていく。
直ぐにストライクのカタパルト接続が始まった。
『キラ、装備はどうする?』
「相手は新型なんだ。エールパックを」
『了解、ストライクはエールパックを装備します』
新型相手では、機動力が物を言う。キラには格闘戦を熟せる自信は無かったし、
実弾装備も効果が無いとすると、素のエールパックが最善の装備だとキラは判断した。
ミリアリアの言葉と同時にカタパルトの側面、上部から各装備がせり出し、ストライクに装着される。
『ストライク、カタパルト固定完了、システムオールグリーン。キラ、気を付けてね』
「うん。ストライク、キラ・ヤマト、行きます!」
フレミング左手の法則で弾き出されたストライクが、宇宙へ飛び出す。
エールパックの大型バーニアに装備された羽が開くと、
アークエンジェル後方へ先に着いていた2機にあっという間に追い付いた。
『すげぇ推力だな。扱えるか?』
「大丈夫です。シミュレーターでムウさん相手に慣れましたから」
『頼りになるねぇ』
『キラ、お前はもう戦士だ。戦力として数えるぞ』
「はい」
ムウと刹那に強張った声で答え正面を見つめる。大きく深呼吸して、操縦桿を握り直した。

 
 

「脚付き、MS、MA射出を確認」
「ムウ・ラ・フラガが出るか・・・」
「何か?」
アデスの問いに何でも無いと答える。メビウス0は先の戦闘で中破させた筈だ。
この時点で出てくるのは予想より早かった。どうやら敵には腕の良い整備士がいる様だ。
「よし、デュエル、バスター、ブリッツを出せ。その後本艦は対艦砲撃に移る」
「了解。聞こえたな。データはある程度取り終えたとはいえ、壊すなよ」
『へっ言われなくとも』
モニターに映るディアッカ・エルスマンがヘルメットを被りながら答える。
MSの扱いはザフトの方が1枚も2枚も上手だ。
開発した連合より、自分達の方が新型を上手く扱えるという自負が、彼らにはあった。
『デュエル、イザーク・ジュール、出るぞ!』
『ディアッカ・エルスマン、バスター、発進する』
『ニコル・アマルフィ、ブリッツ、行きます!』
三又のヴェサリウスから、3機の新型が次々と射出されていく。
宇宙空間に飛び出したそれらは、元の灰色から各々の色へと装甲を変化させた。
そして、ジンとは比べ物にならない速度で前方を行くアークエンジェルへと進路を取った。

 
 

『敵ナスカ級、MS3機を射出!機種は・・・デュエル、バスター、ブリッツです!』
「了解」
『こっちでも確認した!やっぱりお出でになったか』
ミリアリアから通信が入る前に、アークエンジェル後方に
位置していた3人がヴェサリウスから射出される3つの光を確認していた。
『イージスは・・・いない?』
「ああ、2隻いた敵艦も、被弾していた1隻が確認出来ない。
油断は出来ないが、そちらに搭載されている可能性もある」
『何にせよ、数が互角なのは有難いね・・・避けろ!』
纏まって真っ直ぐ向かって来ていた3機の新型が、突然3方向に散った。
直後に眩い光柱が宇宙を切り裂く。新型達の後ろに隠れていたヴェサリウスからの艦砲射撃だ。
『ちっ、射線を隠すとは、味なマネしやがる。キラ、無事か!』
『何とか』
ムウが叫んだ事で、キラもギリギリの所で回避に成功する。
実戦経験の少ない部隊であったら、今の攻撃だけで2、3機は撃墜されていただろう。
「来るぞ。後ろにはアークエンジェルがいる。絶対に通すな」
『了解です!』
『当然!』
3機の新型は散開した機動から、そのままデュエルはストライクへ、
バスターはメビウス0へ、ブリッツはジンへと突撃してくる。分断して、各個撃破するつもりだろう。
数は互角でも、メビウス0とジンは機体性能で他と大きく引き離されている。それを考えれば有効な戦術だ。
「キラ、デュエルを任せる。踏ん張れ」
『はい!』

 

初めに銃火を交えたのは互いに長射程装備を有するメビウス0とバスターだ。
機体が小さいメビウス0に対して、バスターは両手に保持したライフルを連結、対装甲散弾砲で面射撃を行う。
『こなクソ!』
ビームの出力を上乗せされた鉄の雨が、メビウス0に降り注いだ。
ムウはそれに対し機体を思い切り方向転換させ、自慢の直線加速で一気に豪雨の外に出て難を逃れる。
続けて2基のガンバレルを射出した。射出されてガンバレルがバスターを挟み込む形で軌道を描き、
対応が遅れたバスターに容赦無く砲火を浴びせる。それを振り払う様にバスターが肩のミサイルを放つが、
さっさとガンバレルを回収、離れて行くメビウス0の加速にミサイルは通用しない。
PS装甲でダメージこそ与えられ無いものの、
初めて目にする兵器に面食らうパイロットの顔がムウの目に浮かんだ。

 

『速いっ・・・!』
その後方、執拗に格闘戦を挑んでくるデュエルから
必死に距離を取ろうとするストライクがビームライフルを乱射する。
キラはシミュレーターである程度格闘戦のシミュレーションもしていたのだが、
如何せん実戦経験が足りない。
それに引き換え相手は新型、加えて非常に戦い慣れていた。
エールパックを装備したストライクの方が上で、
ビームライフルで牽制しているにも関わらず、一向に距離は離れない。
何度もビームサーベルを防いだシールドもそろそろ限界だった。
『くそっくそっ!』
ストライクのビームライフルが光を放つ度、
サブモニターに表示されたバッテリー残量がみるみる減って行く。
しかし、狙撃用のスコープに集中するキラがそれに気付く事は無かった。

 

一方派手さの全く無いのがジンとブリッツだ。
先程からブリッツが距離を保ちつつビームライフルを撃っているのだが、
ジンに数度掠るだけに終わっている。
ブリッツのビームライフルは他の新型と違ってレーザーを撃ち出す物で、
貫通力がある分ストッピングパワー、つまり敵機を行動不能にする能力は低い。
掠ったとしても損傷を与える所までは行っていなかった。
かと言って、格闘戦武装しか持っておらず、ブリッツに接近する機動力も無い
ジンは只々飛来する光柱を躱す事しか出来ない。しかしその均衡も直ぐに崩れた。
「来るか」
膠着した状況を打開する為にブリッツが動く。
ジンに向かって真っすぐ突撃し、ビームライフルを3連射、
そのままビームサーベルを発振させてジンに斬りかかって来たのだ。
まずビームライフルを機体を振って回避したジンは、追撃の斬撃をシュベルトゲベールで受け止める。
しかし相手は新型である。あっさりと力負けしたジンのシュベルトゲベールを打ち払い、
ブリッツがコクピット目掛けてビームサーベルで突く。
「させるかっ!」
しかし、刹那がそれを許さなかった。
AMBACを利用して上半身を逸らす事でビームサーベルを回避したジンが、
そのまま腹を中心に後ろに一回転、持ち上げられた足が蹴りとなり、ブリッツの下顎に当たる部分を捉えた。
PS装甲があろうと衝撃は発生する。突き上げる衝撃に、ブリッツは堪らず距離を取った。
その隙に、腰に差していたアーマーシュナイダーを投擲する。
ブリッツが咄嗟に身構えるが、それはブリッツに向けての物では無かった。
投擲されたアーマーシュナイダーは真空の闇を一直線に切り裂き、
今正にストライクに斬りかかろうとしていたデュエル目掛けて飛ぶ。
しかし、アーマーシュナイダーの様な質量の低い、ましてや実体剣では、
PS装甲を起動したデュエルの行動を阻害する事など出来よう筈が無い。
遂にデュエルがサーベル振り下ろす。
『うぐっ・・・!』
ストライクはシールドを構える暇も無かった。キラが思わず目を瞑る。

 

『・・・・・・・、?』

 

しかし予想していた衝撃は何時までも来ない。
目を開けると、サーベルを振り下ろした状態で停止するデュエルが映る。
機能に障害をきたした訳では無い。
茫然としている、それがデュエルを見たキラの印象だった。

 
 

『馬鹿な・・・』
キラの印象通り、デュエルのパイロットであるイザークは茫然としていた。
デュエルが振るった必殺の斬撃が、ストライクに届く直前に消失したのだ。
その信じられない事象を、遠く離れたブリッツのコクピットでニコルははっきりと確認していた。
投擲されたアーマーシュナイダーは、本来ビームライフルで狙う距離を疾風の様に奔り、
デュエルが振り被ったビームサーベルに吸い込まれる様に突き刺さったのだ。
デュエルの手の中に残るったのは、ビーム刃の発振機を失ったビームサーベルの柄だけである。
恐らく、当事者であるイザークは何が起こったかも理解出来ていないだろう。
「イザーク下がって!」
ニコルが気付き、茫然とするイザークに警告を送る。
しかしそれは一拍遅く、ストライクの膝がデュエルの腹に突き刺さっていた。
同時に、動きが止まっていたブリッツに蒼いジンが斬りかかってくる。
シュベルトゲベールによる突きである。
ブリッツは咄嗟に機体を屈ませ、シュベルトゲベールを紙一重で回避する。
しかし次の瞬間モニターが巨大な拳で埋まった。
突きの勢いをそのままに、シュベルトゲベールの柄から離した手による左ストレートが
ブリッツの顔面を捉える。
「このっ!」
衝撃に負けじと、直ぐ様ビームサーベルを発振させ横薙ぎに振るう。
しかしそれは屈んだジンの頭上を空振った。
ジンがお返しとばかりに右手で抜いた重斬刀でブリッツの腹を殴る。
そう、それは「斬撃」では無く「殴打」であった。
ジンは容赦せず、重斬刀の先で、腹で、柄で、コクピット周りを何度も殴打する。
「うあああああっ!」
『ニコルっ!』
あまりの衝撃に悲鳴を上げるニコルに、メビウス0を相手にしていたバスターから
ビームライフルによる援護射撃が入った。
完全に虚を突いた正確な射撃であったが、ジンがそれを確認する素振りは一切見られない。
しかし、ジンは予期していたかの様にあっさりと回避した。
その鮮やかな回避に、ディアッカの背に冷たい物が走った。
模擬戦でクルーゼと戦っている時も、同じ様な感覚を味わった事が何度かある。
ニコルの言う通り、コイツは危険である。そうディアッカは判断した。
しかし、肝心のニコルが乗るブリッツがピクリとも動かない。

 

「ニコル、おいっ!」
『うっうう・・・』
応答しない代わりに微かな呻き声が返ってくる。どうやら生きてはいる様だ。
噂に聞くオールレンジ攻撃で煩く弾幕を張ってくるメビウス0を、散弾による弾幕で退ける。
『どうしたディアッカ!?』
「ニコルが応答しない。多分、気絶させられた」
『何だと!?』
寄ってきたデュエルが、それを聞くや否や一直線にブリッツに向かってバーニアを吹かした。
「どうする気だ!?」
『ニコルを助ける!援護しろ!』
悪友の判断の速さに、ディアッカは感心する。
本人は否定するだろうが、イザークは何かを守ろうとする時に最も力を発揮する男だ。
こういう時には1番頼りなるし、彼の判断は正しい。
ディアッカに背中を任せ、イザークはペダルを踏み込んでニコルを救助に向かう。
一直線に迫るデュエルを迎撃せんと、刹那はジンにシュベルトゲベールを構えさせる。
残ったビームサーベルを抜いたデュエルが猛然とジンに斬りかかった。
『邪魔だっ!!』
「ぐうっ!」
速度を落とさず、激突してきたデュエルの斬撃を受け止めるジン。
しかしデュエルは左手に保持したシールドでジンの側頭部を殴打、
打突用に出来たその先端に、モノアイが砕け体勢を崩される。
続けてコクピットを思い切り蹴飛ばされ、ジンは九の字となった体勢のまま大きく吹き飛ばされる。
モニターが消えたコクピットの中、刹那は追撃を覚悟したが、しかしそれ以上の攻撃は無かった。
サブカメラに切り換えた時には、ブリッツの肩を掴んだデュエルがそのまま離脱して行くのが見えた。
メビウス0、ストライクに弾幕を張っていたバスターも、それに合わせて引き揚げていく。

 

「あのパイロット・・・」
デュエルと剣を交えた際に開いた接触回線。そこから聞こえた声と共に、
仲間を助けようとする若者の意思が、脳量子波を通して刹那に響いたのだ。
それに気を取られた結果、シールドによる2撃目に対応出来ず、
奪回出来る筈だったブリッツも逃がしてしまった。全て自分が甘いせいでなってしまった事だ。
『カマルさん、大丈夫ですか!?』
『こっ酷くやられたなぁ』
「ああ、メインカメラがやられたが、何とか生きている」
駆け付けたメビウス0とストライクから通信が入る。
刹那は彼らに無事を伝えると、アークエンジェルに通信を入れた。
「アークエンジェル、敵艦の動きは?」
『敵艦、MS収容。射程距離外へ離れて行きます』
ミリアリアの台詞に、パイロット3人は一先ず胸を撫で下ろした。敵艦が後退した。
それは、今回の戦闘の終結を意味していた。

 
 

【前】 【戻る】 【次】