機動戦士ガンダムSEED True Destiny PHASE-47A

Last-modified: 2007-12-19 (水) 02:42:12

『……今私の中にも皆さんと同様の悲しみ、そして怒りが渦巻いています。何故こん

なことになってしまったのか。考えても既に意味のないことと知りながら私の心もまた、

それを探して彷徨います』





 その日、デュランダル議長の言葉が、地上圏の全チャンネルを支配した。





機動戦士ガンダムSEED True Destiny

 PHASE-47 『明日なんて見えない』





『考えても既に意味のないことと知りながら私の心もまた、それを探して彷徨います。

私達はつい先年にも大きな戦争を経験しました。そしてその時にも誓ったはずでした。

こんなことはもう二度と繰り返さないと。にも関わらずユニウスセブンは落ち、努力も

虚しくまたも戦端が開かれ、戦火は否応なく拡大して私達はまたも同じ悲しみ、苦しみ

を得ることとなってしまいました。本当にこれはどういうことなのでしょうか』





 アークエンジェルの艦橋で、ラクスの──既に本人はいないが──仲間たち、それ

にミーアが、モニターを凝視している。ただ、アスランは不安そうにミーアとモニターの

間を視線を往復させている。そして、キラの姿はなかった。





『一つには先にも申し上げたとおり、間違いなくロゴスの存在所以です。敵を創り上げ、

恐怖を煽り戦わせてそれを食い物としてきた者達。長い歴史の裏側に蔓延る彼等、

死の商人達です。だが我々はようやくそれを滅ぼすことが出来ました』





「おい、キラ、キラ! ……くそっ!」

 ネオがキラの個室の前で、その装甲ほどではないとはいえ、頑健に出来た軍艦のド

アを叩き続ける。だが、中からキラの反応は無い。





『だからこそ今敢えて私は申し上げたい。我々は今度こそ、もう一つの最大の敵と戦

っていかねばならないと』





「きたぞ」

 同様に放送に注視していたエターナルの艦橋で、バルトフェルドが表情を険しくす

る。





『地を離れて宇宙を駈け、その肉体の能力、様々な秘密までをも手に入れた今でも人

は未だに人を解らず、自分を知らず、明日が見えないその不安。同等に、いやより多

くより豊にと飽くなき欲望に限りなく伸ばされる手。それが今の私達です。争いの種、

問題は全てそこにある! だがそれももう終わりにする時が来ました。終わりに出来る

時が。我々は最早その全てを克服する方法を得たのです。全ての答えは皆が自信の

中に既に持っている! それによって人を知り、自分を知り、明日を知る。これこそが

繰り返される悲劇を止める唯一の方法です。私は人類存亡を賭けた最後の防衛策と

してデスティニー・プランの導入実行を、今ここに宣言いたします!』





「キラは駄目だ、そっちはどうなっている?」

「今、見ているところです」

 艦橋に上がってきたネオに、ノイマンが返答する。





『デスティニー・プランは、我々コーディネィターが培ってきた遺伝子工学のすべて、ま

た、現在最高水準の技術を持って施行する、究極の人類救済システムです』

 デュランダル本人に代わり、女性スポークスマンの声が、その内容についての解説

を始める。

『人はその資質のすべて、知能、才能、また重篤な疾病原因の有無の情報をも、本来

体内に持っています。まずそれを明確に知ることが重要です。──今の貴方は、不当

に扱われているかもしれない。誰も、貴方自身すら知らないまま、貴重な貴方の才能

が、開花せずにいるのかもしれない。それは人類全体にとっても、非常に大きな損失

なのです。私達は自分自身のすべてを、そしてそれによって出来ることを、まず知ると

ころから始めましょう。これは貴方のの幸福な明日への、輝かしい一歩です』





「どうだ、ミーア」

 背後のアスランの声。ミーアはモニターから目を離し、アスランを振り返る。

「これがデュランダル議長のやり方なんだ、自分の思うままの世界に、人を縛り付ける。

そこに自由なんか無い! 人は自由を奪われ、世界に縛られて生きることになるん

だ」

 アスランは熱っぽく、険しい口調でまくし立てた。

 ミーアは、艦長席のマリュー、そして、アスランの背後にいたネオやノイマンを見回

す。皆、それ見たことか、という目で、デュランダルの走狗だったミーアを見ている、よ

うな気がした。

 耐えられず視線を下げる。軽く震える。しかし、同時に、思考を振り絞っていた。

 ────ラクス様は、自分の歌を歌え、といっていた。でも、あたしの歌は何? デ

ュランダル議長を、支持していたというのは、まったくのウソ? 読まされた原稿は、あ

たしの意思と関係ないものだったの? 本当に?

 やがてミーアは、俯いたまま、しかし、意を決したように、言葉を紡ぐ。

「あたしは、それでも、議長を支持します」

 ええ? どよめきが、アークエンジェルの艦橋に起こった。

「ミーア、本気で言ってるのか!?」

 アスランが、怒気交じりの声で聞き返してくる。

 ミーアはそれに一瞬怯んだが、すぐに、意思を固めた表情で、頷く。

「あたしは、ラクス様と違って、バカだから、よくは考えられない。ただ…………自由が

奪われる。自由って、なんですか? 職業を、社会の為に出来ることを、自分で選ぶこ

と、それだけが、自由のすべてなんですか? あたしは、ほんの一部ですけど、見てき

ました。電気もろくになくて、ザフトの基地の雑用で細々と生活をつないでいる地上の

人達、前の戦争の影響で、食料品とか値上がりして、あくせく働いてようやく生活の成

り立っているプラントの人達、あの人たちは、本当に、自由で、幸福だって言えるんで

すか!?」

 ミーアの言葉に、ネオやマリュー、ノイマンたちは、唖然としている。

「ミーア、君は……!」

「それじゃアスラン、あなたには、今すぐあの人たちを救える方法があるって言うの!?」

 1人、怒気を孕んだ声で、ミーアを攻めようとしたアスランだが、ミーアはその声を遮

って、言い返す。

「違う、そうじゃない、人は自由であるべきなんだ。自由であればこそ、多くの可能性を

引き出せる。そして、未来が開かれていくんだ」

 ラクスの言葉を借りるかのように、反論するアスラン。だが、ミーアはそれに対して、

端的な言葉で答えた。

「それまでに何人死ぬの?」

「えっ?」

 アスランは、間の抜けた口調で聞き返してしまう。

「戦争が続いてる、地上じゃ飢えて凍えて死んでいく人たちが大勢居る。アスランたち

の言っている未来が来るまでに、一体何人が死ぬのよ!?」

「それは……」

 言葉に詰まり、俯くアスラン。

 僅かに沈黙。────それを、唐突にネオが破った。

「いかん!」

 アスランを押し退け、マリューに近付く。

「オーブに、カガリに、短慮な発表を行わないように連絡しろ!」

「あ、はい」

 オペレーター席のミリアリアが反応する。

 そして、ネオは驚いたような顔でミーアを見る。否、艦橋の全員が、目を円くしてミー

アの顔を見ていた。ただ1人、アスランを除いて。

「驚いたな……デュランダルにいいように使われているだけだと思っていたのに。そこ

まで考えることができるとはな……」

「そんなんじゃないです。ただ、あたしは、戦争を早く終わらせて……みんなが……そ

う、あたしのライブに来ているときのような、元気な顔を、いつでもしていられたら、っ

て思うだけです」

 ミーアは照れたように言い、手を頭の後ろに当てた。

「いや、アンタはラクスに負けない、立派な歌姫だよ」





「各国の反応はどうか?」

 ザフトの機動要塞・メサイア。まるで玉座のような執務室で、ギルバート・デュランダ

ルはデスティニー・プランに対する、地球上の国家の反応を訊ねた。

「現在のところ、正式に態度を明らかにしているのはスカンジナビア王国だけです。反

対の意思です」

「ほう」

 デュランダルは言い、意外そうに眉を動かした。

「大西洋連邦は、判断をしかねていると言うところです。ギルバート議長との会談を求

めています」

「コープランドも大変だな……もともと、決断力に欠けているにもかかわらず、その座

についてしまった。しかも、どのように行動すればいいのか支持してくれるロゴスももう

いない」

 デュランダルは、典型的な官僚出身型の大統領を、口元で嘲笑った。

「まあ良い。どの道大西洋連邦はブルーコスモス、ロゴスと同じく平和を脅かす連中の

影響下だ。時間を長く割くつもりは無い」

 デュランダルはそう言うと、席から立ち上がり、指示を下した。

「アルザッヘルを撃て」





 アークエンジェルは、コペルニクスを離れ、エターナルとの合流を目指していた。

 ミーアは1室を与えられていた。

『自分の歌を歌いなさい』

 ラクスの言葉がリフレインする。

 けれど、戦争は早く終わらせたい。そして、すべての人が幸福である未来が欲しい。

デュランダル議長がどうとかではない、自分の本音だった。

「こういう時、本物のラクス様なら、どうするんだろう……」

 いくら考えても、答えはなかなか浮かんでこなかった。

 その時だ。部屋のインターフォンが呼び出され、アスランの声が室内に響く。

『ミーア、早く、俺と一緒にブリッジへ!』

 切羽詰ったようなアスランの声に、ミーアは飛び起き、部屋から飛び出す。

「アスラン、何かあったの?」

「ああ、あったさ」

 苛立たしげなアスランの表情。それは事態の急を告げるとともに、ミーアへの怒りが

含まれているようだった。ミーアはそう感じた。

「アルザッヘルが撃たれた。デュランダルは、レクイエムを修復して、自分の物にして

いたんだ!」





 艦橋に2人が駆け込む。

「マリューさん、状況は?」

 アスランが訊ねる。

「アルザッヘルは完全に壊滅したようね。コープランド大統領の消息も不明のようよ」

 マリューは深くため息をつき、首を横に振った。

 レクイエム。連合の巨大破壊兵器。ヤヌアリウス・コロニーを薙ぎ払い、プラント市民

を殺戮した。そのことは、ミーアもコペルニクスのニュースで知っていた。

「ミーア!」

 アスランが声を荒げる。

「これでも君は、議長を支持するのか!? あいつは自分の意に反するものは、こうして

抹殺していく! それが本当に、君の言う平和なのか!?」

 自失状態のミーアは、それに直接答えはせず、ただ、呟くように言う。

「どうして──議長、人類を救うって言ったのに、どうしてこんなことを──」

 アルザッヘルは連合の軍事拠点だ。だが、同時に小規模ながら都市の機能も備え

ている。そのような場所に対して大量破壊兵器を使用すれば、どのような結果になる

かは、軍事に疎いミーアでも解る。

 第一、大西洋連邦はデスティニー・プランに対し、態度を決めかねていたはずだ。に

もかかわらず、先制攻撃を行う必要があったのか?

 ────議長は、正しかった、いつでも正しかったはずなのに──!!

 さまざまな思いが、ミーアの脳の中を錯綜する。

 そして最後によぎったのは、やはり、あの声だった。

『自分の歌を歌いなさい』

 はっ、と、ミーアの目が開かれる。

 そして、顔を上げた。

「マリューさん、それに、ネオさん……皆さん」

 意を決した表情で、艦橋を見渡す。

「!?」

 「ラクス?」ネオは、もう少しでそう呼んでしまうところだった。

 そして、ミーアは告げる。

「こんなこと、勝手だと思います。駄目なら駄目で、構いません。でも、できるなら…

…」

 息を軽く継ぐ。

「あたしに、もう少しの間だけ、“ラクス・クライン”をやらせてください」






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